「ううっ。そんなにひどいことがあったんですねっ」
「ああ、俺は、加賀にまで束縛されそうになったんだ」
第一話で描いていた、鹿島のアパートのシーンに戻る。
鹿島は、提督がお弁当にがっついていたので消化に悪いだろうと
いうことで、食後のお茶を淹れることにした。急須を洗い流し、
新しい茶葉を入れながら、小声でこうつぶやいた。
「あとであの女も殺さないと」
「えっ」
提督は地獄耳だった。
鹿島を刺激しないように、そっと彼女の後ろに立ってこう聞いた。
「あのさ、鹿島でも他の女に嫉妬したりするのか?」
「それはもう。女の子でしたら当然の感情です。
提督さんが他の艦娘に奪われそうになったら、全力で阻止しちゃいます」
「全力で止めるって、つまり君も俺のことが」
「はい♪ 私も提督さんの事が大好きです」
ぽわーんと、鹿島の周りにたくさんのお花が咲いた気がした。
あまりの愛らしさに提督は頭がくらくらした。
「お、おれもさ」
「はい?」
「鹿島のことが好きだ」
ふたりは情熱的に抱き合い、情熱的な口づけを交わした。
その日はお風呂も一緒に入ることにした。アパートの狭い
風呂場なので、余計に体が密着して興奮した。
鹿島は提督の背中を洗いながら、怒気を込めた声でこう言った。
「鹿島も馬鹿じゃありませんから、提督さんが軽い気持ちで
女の子を口説いちゃうことを知っています。加賀さんの件だって
本当は全然納得してないんですからね。でも今は提督さんと
二人だけの生活ですから我慢してあげます。もし、もしですよ?」
――提督が他の女をいやらしい目で見ることがあったとしたら。
「その時はその女を排除します」
提督の勃起したアソコが一瞬で萎える。
「でもここは鎮守府じゃないですから、きっと大丈夫ですね。
沼田市はご老人ばかりで若い方はあまりいませんから。
それにロックハート城はシーズンオフで人通りも
ほとんどありません」
ここは沼田市の山岳部だった。
地上に降りるには、普通の人なら車を使う。
車でも30分はかかる。
車が使えない人は登山道を歩いてここまで昇ることもできるが、
慣れている人でも2時間はかかるだろう。
よって、ここにまで提督を追って艦娘が
やってくる可能性は、ほぼゼロだといえる。
(その確証は本当にあるのだろうか)提督は不安であった。
大和はともかく、加賀が空母艦載機を使って捜索を始めたら、
見つかるのは時間の問題だと思っていた。
風呂から出て、タオルで髪の毛をゴシゴシしてから
ドライヤーで一気に乾かす。鹿島は髪の毛のボリュームが
すごくて乾かすのに相当な時間をかけていた。
かわいそうになってきたので、提督が手伝ってあげる。
鹿島の髪はナチュラルにくせがついていて、すごく色っぽかった。
毛先がすごく細くて、溶けてしまいそうに柔らかかった。
うなじを中心に女の色気がムンムン。
提督のアソコが戦艦の主砲のようにオッキする。
「ちょっと聞きたいことがあるんだが」
「なんですか?」
「いや、やっぱいいや」
「もう。最後まで言ってください」
「お金の事なんだが」
「ああ、生活のことを心配されているのですか。
それなら問題ありませんよ。私の貯金口座を見ますか?」
現金が176万円も入っていた。
今までコツコツとコンビニバイトで貯めたのだと言う。
なるほど。これだけあるなら、当分の間はお金の心配はしなくていい。
田舎ゆえに買い物には苦労するのかと思いきや、
鹿島の勤務するローソンの前にはバス停がある。
バスに15分も揺られたら、町に出られる。
生活雑貨はそこでそろう。
たまには美味しいご飯が食べたくなったら、
トマトラーメンで有名なラーメン屋さんもある。
それに地方のコンビニは雑貨類の品ぞろえが豊富で、
わざわざホームセンターに行かずとも、
生活に必要な消耗品はだいたいそろってしまう。
「私は料理が得意ですよ」
「実は俺も得意なんだ」
「へえ意外ですね」
「ああ。よく言われる。家の家事は分担……するほどの
広さじゃないな。俺も居候の身だから外で働かないとな」
「提督さんは家にいてくれてもいいんですよ?」
「そういうわけにもいかないさ。
君と同じコンビニで良ければ働きたいんだが」
「私は全然問題ありませんよ!!
店長に確認してみましょうか」
鹿島が電話すると、二つ返事で許可してくれた。
彼との関係性を問われたので、夫婦だと答えておいた。
そして勤務当日。
「俺の名前がこれか」
ローソンの定員の制服に身を包んだ提督。
名札には「兵提督」と書かかれている。
すなわち姓が「兵(ヘイ)」名が「提督」である。
妻である鹿島は「兵鹿島」となった。奇怪である。
提督の教育係は鹿島となった。
まずは基本的な外のゴミ出しの仕方、店内のモップ掛け、
飲料水を中心とした補充の仕方を教わる。
レジの打ち方は意外と複雑で、普通の会計以外にも
公共料金などの料金収納、金券の処理、宅急便の処理もある。
たばこは種類をある程度覚えてないと、
顧客の注文に即座に応じることができない。
コンビニはお店こそ小さいが、多様な商品を扱っているため、
実はスーパーに比べて覚える仕事は多い。
提督は書類仕事に慣れているためか、シフト終了前の
料金精算だけは得意だった。普通は多くの人が嫌がるものだが。
「兵さんは凄味があるって言うか、貫禄がある人なんですね。
ここに来る前は、どんなお仕事をされてたんですか?」
コンビニのアルバイトの同僚さんたちからは、必ずこの質問が来る。
まさか横須賀鎮守府の提督だったとは言えないので(名札には書いてあるが)
物流倉庫で派遣をやってましたと答えておく。
鹿島とは毎日ではないにしても同じ時間帯のシフトを入れてある。
行く時も帰る時も一緒だ。店長に気を使ってご飯はコンビニで
買って帰るから、実は料理の腕を発揮する時はあまりない。
新鮮な卵や、買い置きできるハンバーグやシュウマイなど、
最近のコンビニは品ぞろえが豊富だ。
他にも豆腐、魚の缶詰、カット野菜など、
スーパーに品ぞろえで負けてない。
カップ麺をある程度買い置きしておけば、
万が一ご飯が炊けてない時にも便利だ。
夜の生活は当然、誰の邪魔も入らないわけで。
「あっ、いやぁっ。あーんっ……」
「どうした鹿島。気持ちいのか?」
「あはんっ……そんなにツネったらだめぇ……」
提督は鹿島を後ろから抱きしめ、ピンと張った乳首を指でもてあそんでいた。
つまんだり、指ではじいたり、ぐりぐりと上から押さえつけたり。
大きな胸を下から持ち上げるようにして、揉みしだき、ぎゅっと握りしめると、
手のひらの中で自在に形を変える。
この弾力、揉み心地、そしてふわりとした
ピンク色の髪の毛が、提督の鼻先に振れる。
「こっちも濡れてるぞ?」
「あああっ……」
~~~書いてる途中で筆者が賢者タイムになってしまったため、中略。
気が向いたら続きを書くことにする(;´∀`)
鹿島との生活は楽しかった。
ふたりきりで楽しくおしゃべりしても、
鎮守府と違って邪魔が入らない。
例えば、鎮守府内の廊下で特定の艦娘と10分も立ち話をしようものなら、
すぐに悪いうわさが広がった。
提督は既婚者(カリ)なのに、若い娘(駆逐艦)と浮気している。
あの人は女なら誰でもいい。
逆に艦娘の方から提督へ色目を使っている。
提督は本当は嫌がっているのに、あの女は調子に乗っている。
何よりめんどくさいのが、全員を平等に扱わないといけないことだ。
彼女らは少しでも自分以外の艦娘が提督に特別扱いされていると
感じたらすぐに腹を立てて陰口を叩き、人間関係を悪化させる。
しかも若い娘が多い職場のため、提督には悟られぬよう、
陰で艦娘同士のいじめも発生していた。無視や私物を隠すなどの
いやがらせはもちろん、夜に集団暴行されている艦娘もいた。
提督は、家に帰ると大和に束縛される。
鎮守府にいる時と似たようなものだった。
トイレの個室にこもり、スマホで娘が生まれたばかりの時の
写真を見る時が、唯一の癒しの時間なのであった。
女ばかりの職場はどこも地獄だとされるが、この横須賀鎮守府は
その典型例だ。提督が無駄に艦娘たちにモテるがゆえに問題を悪化させている。
大和と結婚すれば、みんなの気持ちも覚めるかと思いきや、
執念深い艦娘たちはヤンデレと化してしまい、状況をさらに深刻なものにした。
こんなギスギスした関係が続くのならば、いっそ深海棲艦が
襲ってくればいい。また戦いの日々が続けば、みんなの
連帯意識が高まって、それどころではなくなる。提督は毎日そう思っていた。
「提督さん」
「なんだ鹿島?」
「今日はシフトがお休みですね」
「そうだな。たまには街に出かけるか?」
「街でショッピングするのもいいですけど、
今日は観光がしたい気分です。
近場でロックハート城はいかがですか?」
「いいね。近場なだけに一度も行ってなかなったな」
「不思議と近所の観光地ほど行かないものなんですよね」
提督は白い軍服しか持ってないので今日もこの服装。
鹿島はフェミニンな白のコートに身を包む。
ふわりとしたボリューム感のあるピンク色の髪の毛が、
歩くたびに、ぴょこぴょこ揺れた。
鹿島は片方の手の手袋を外して、提督と手を繋いでいる。
コツコツコツ、と鹿島の黒いブーツが音を立てる。
今日は冬晴れだった。めずらしく無風のため観光にはぴったりだ。
澄み切った青空のもと石造りの古城が姿を現す。
ロックハート城は10万坪を超える面積の中に、
石造りの教会、お店、お城が建てられている。
欧州の城下町をイメージして作られており、
一歩中に入った瞬間に別世界となる。
田舎の山岳部にこのような施設があることに驚愕だ。
ここはカップルの結婚式にも使われると同時に
イベントの撮影会場にもなっている。
「私達もここで結婚式を挙げたいですね」
「か、かしまっ。それって」
「うふふ」
「そんなこと言ったら誰かに聞かれちゃうよ」
「何を言っているんですか。ここには誰もいませんよ」
鹿島は、提督の手を引いてテディーベア・コレクションの館に入った。
ここは文字通り、ぬいぐるみが売られている場所だ。
「わあ、かわいい」
新郎と新婦の衣装を着たクマのカップルが、中央のテーブルに飾られている。
ウエディングでドレスアップした女のクマの方を、鹿島はキラキラした瞳で
見つめていた。提督は少しだけ胸の奥がちくんと痛んだ。
そういえば、自分の娘もクマのぬいぐるみが好きで、三歳の誕生日に
8千円くらいのぬいぐるみを買って帰ったことがあった。
小奇麗に着飾った店内。営業スマイルの若い女の店員。
あまり美人ではない。豪華なシャンデリアが室内を照らす。
その明かりが、熱の質量を持ったかのように提督の頭に降り注ぐ。
客はおらず、貸し切りだ。
店内は、右を見ても左を見てもクマ。
提督は、クマに囲まれているのが、まるで艦娘に囲まれて過ごしていた
昔のことを思い出してしまうかのようで、動悸がして頭がクラクラした。
「どうしましたか提督さん?」
「いや、なんでもないよ」
「大丈夫なようには見せませんよ。
冬なのにこんなに汗をかいて。
ちょっとお熱を測りましょうか」
店から外に出て、ベンチに座る。鹿島が自分の手のひらを提督の
おでこに当てる。平熱だったのでまずは一安心。
鹿島は依然として体調不良を疑ったが、提督はなんでもないの
一点張り。鹿島は少しも納得してなかった。
「もしかして、さっきのセリフを気にしているんですか?」
「さっきのセリフって?」
「私が結婚式を挙げたいなって、言ったじゃないですか」
「ああそのことか。それは関係ないよ。
俺は……鎮守府の悪夢からまだ完全に目が覚めてないんだ。
今俺は君とこうして観光ができて心から幸せなはずなのに、
どうしても昔のことを思い出してしまう。
俺らのことを、陰で誰かが見張っているんじゃないかって」
「それは考えすぎじゃないですか?
私たちがいるのは群馬県の沼田市なんですよ」
「そうだよな……。ごめん。変なこと言っちまった」
「いいえっ。そんなっ。提督さんが謝ることなんてないですよ!!」
提督は鹿島を木の陰へ連れ出して、熱いキスをした。
「ん……」
鹿島は最初は驚いたものの、つま先立ちをして提督の唇を受け止めている。
息が苦しくなったら、一瞬だけ唇を外して、また再開する。
これを1分ほどして提督は鹿島を解放した。鹿島は、少し乱れてしまった
スカートのすそを直しながら、また提督と腕組みをして歩き出す。
その時だった。
「あれ……?」
レストラン街に、少し目立つ容姿の女性がいた。
目元を隠すほどの長い前髪に、腰にまで達する長髪。
ツヤの良い黒い髪の毛だ。
青いジーンズをはいて上着は地味な紺色のカットシャツを着ている。
その若い女性は、提督たちのことを一瞬だけ見た後、
西洋レストランの中に消えていった。
(係員の人だろうか?)
特に気にするべきことでもなかった。
だが提督はカンが良いので、あの女の正体が
まさか艦娘なのではないかと思うが、いやいやまさか
そんなことはないだろうと頭を横に振る。
「提督さん。もうお昼時ですね。お腹がすきました」
「俺もお腹がペコペコだよ。
バイキングのお店があるから、寄ってみようか?」
「はいっ!!」
西洋バイキングを名乗る店だったが、品揃えはずいぶんと極端だった。
どうやら中東料理を扱っているお店のようだ。
三角形に切られた分厚いナン。
ピラフのように、お米を玉ねぎやトマトと炒めた料理。
野菜の酢漬け。カットレタスとトマトの盛り合わせ。
このサラダには見たこともない薬草が入っている。
見るからに辛そうな、真っ赤でドロドロしたスープの中に入った麺。
薄く切って焼いた小麦粉の中にじゃがいもが入っている料理もある。
あとは日本でもポピュラーな料理でケバブがある。
ゴツゴツした鶏肉にソースがたっぷり入っていて、こちらも激辛だった。
決して不味くはないが、味付けがくどくて激辛な料理ばかりなので
鹿島は目元に涙を浮かべながら食べた。提督もあまりの辛さに舌が
焼けるかと思ったが、食べていくうちに不思議なうま味が
含まれていることが分かって来た。熱々の料理をチャイで流し込む。
鹿島は焦げ目のついたプレーンのナンと少し硬いヨーグルトを
中心に食べて満足した。酸味の強いラッシーを飲んで満腹。
提督はほぼすべての種類の料理に手を出し、
盛った分の皿は全部食べ終えた。
赤城に負けぬほどの大食漢として定評のあった提督でも、
さすがに激辛料理は胃腸にこたえる。
さっさとお会計を済ませてトイレでも借りようかと席を立つ時。
いきなり隣の席にいた若い女性が声をかけてきた。
「もし。これからお会計をされるのですか?」
「そうですけど、なにか?」
「実はお会計はあっちじゃなくて、お店の反対側にあるんですよ。
よろしければ私がご案内しましょうか?」
「……いいえ。結構ですよ。お店の反対側に回ればいいんでしょう?
だったら自分で回りますよ。ご親切にどうもありがとうございました」
提督が鹿島を連れて席を立つ。いきなりことだったので、
鹿島はコートを羽織る時間がなく、腕にかけていた。
「お待ちください。そんなに急がれているんですか?」
女の人は、なぜか食い下がる。
「あなたは、僕の知り合いですか?」
「そうですけど。私の顔を見てもまだ思い出せませんか?」
「……悪いが時間が惜しい。話はこれで終わりだ。先に失礼するよ」
提督は、目の前にいる女の正体が戦艦榛名であることに気づいていた。
気づいていながら、あえて無視することにしたのだ。
「待ってください。止まらないと撃ちます」
「勝手にしろよ」
「はい。勝手にします」
榛名は、自分の胸に向けて主砲を発射した。
店中の天井が、左右に揺れた。
轟音のためガラス窓に亀裂が走る。
うつ伏せに倒れた榛名。お腹には大きな空洞ができており、
彼女の周囲に血だまりがスーッと広がっていく。
「提督さん。観光を続けましょう。次はお城ですね」
恐ろしいことに笑顔。鹿島は言外に関るなと言っているのだ。
「だが」
「お城に行きましょう」
「ちょ」
「お城に行きましょう」
「まっt…」
「お城に行きましょうって、言ってるじゃないですか!!」
鹿島の本気の怒声に提督は腰が抜けそうになる。
鹿島は目を見開き、榛名の死体を指さす。
「そこのそいつがどうかしましたか? 私には何も見えませんでしたよ。
だって私達はカップルとしてロックハート城に来ているんですから。
仮に提督さんの知り合いの方がいたとしても、ここでは赤の他人ですよね?
提督さんは、もう鎮守府の人じゃないんですよ。
いつまで昔の人間関係を引きずっているんですか?」
問題はそこじゃなかった。
提督は以前から榛名を好ましく思っていた。
榛名はおしとやかで優しく胸が大きい、日本男児の欲望を
体現したかのような娘であり、提督の中のパイズリしてほしい
艦娘ランキングでナンバーワンだった。
先ほどは死体と描写したが、榛名が死んだのかは定かではない。
確かに榛名の胴体には直径20センチほどの穴が開いてしまっているが、
百戦錬磨の榛名なら、自動で修復する可能性もゼロではない。
現に提督だって大和の46センチ主砲を顔面に食らっても
三日間昏睡するくらいのケガで済んだのだ。
提督は、まさか榛名が自殺をするとは思ってなかった。
せめて自分に一度でいいから
フェラチオをしてから死んでほしいと願っていた。
「は、榛名。さっきは冷たくしてごめんな?
俺は鹿島とデートしてるからあんな言い方しかできなかったんだ。
ど、どうして死んじゃったんだよおおお!!」
提督はハルナの美しい死に顔を腕に抱きながら、犬のように吠えた。
榛名の薄く開いた唇から血が流れ続けている。
「提督さんっ!! なにしてるの!!
そんな奴に触ったら血がついちゃって汚いですよ!!
提督さんは今鹿島とデートしてるんですから、
そんな奴はどうでもいいでしょ!!」
鹿島はついに提督の背中をゲシゲシと蹴り始めるが、
それでも提督は榛名の頭を大事そうに抱えたまま動かない。
まさに鉄の意志だった。
鹿島はいっそ榛名の首から下を切り落としてしまうかとさえ
考えてしまうが、鹿島があんまりにも騒ぐので
警備員が駆け寄ってきてしまった。
お店の従業員は殺人事件が起きたと警察に通報している。
提督にとって致命的な状況になりつつあった。
仮に彼らが逮捕されたとして、
この事件が世間に公表されたら提督の居場所が露呈してしまう。
鹿島との共同生活は破綻し、また横須賀に連れ戻されて監禁生活が始める。
妻の大和がどれだけ怒っているかなど想像もしたくない。
「榛名は大丈夫です」
「!?」
なんというか、榛名は普通に生きていた。
「今のは死んだふりをしていただけです」
どうやらフランスのオペラを見て演技の勉強をしていたらしい。
「実は死んだふりをして提督の私への愛を確認していたんです。
作戦は成功ですね。さて。お邪魔虫の鹿島さん。
私はあなたのことが好きじゃありません。これでも食らってください」
鹿島は避ける暇などなかった。
榛名が鹿島のお腹に向けて発射したのは、
『35.6cm 45口径連装砲 4基』
である。
鹿島は練習巡洋艦であり、当然戦艦ほどの装甲は持ち合わせてない。
さらに現在は提督とデート中であり、艤装を外してある。
その鹿島が、全くの不意打ちで戦艦榛名の主砲を食らってしまった。
鹿島の体は、群馬にそびえ立つ山々をはるかに超え、
栃木県の方角に向かって飛び立ってしまった。
普通に考えて死んだと考えるのが妥当だが、まだ判断するのは早い。
「ふぐぅっ!?」
提督のお腹に、榛名のヒザがめり込んでいた。
みぞおちに鈍痛が走り、提督の肺の中の空気が一瞬で抜けた。
どれだけ息を吸おうとしても、全く呼吸ができず汗がにじむ。
同時に気を失う。
時間してたった3秒間の苦痛だった。