※この作品はR-18です。

「大和の愛から逃げ続けたらどうなるのか?」   作:なおちー

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瑞鶴の幽霊

翔鶴ねえ……翔鶴ねえ……提督さん……提督さん……お姉ちゃん……お姉ちゃん……。

 

 

(聞き覚えのある、幼い声。ああ……)

 

 

提督が思い出したのは瑞鶴だ。五航戦の片割れでよく加賀と喧嘩をしていた。

 

 

(瑞鶴……。おまえは……姉に殺されて死んだんだ……)

 

 

真夜中に提督は目が覚めた。

それぞれの手を榛名と鹿島につながれており自由はない。

脱走を防ぐために足カセもはめられている。

これでは寝返りさえ自由にうてない。

 

 

時計の針の音だけが響く暗闇の静寂の中で、

提督は光り輝く蝶のような物体が浮遊しているのを見た。

 

そいつの正体が、瑞鶴の霊なんだと、なんとなく分かった。

 

 

「そこにいると、殺されるよ。そこにいちゃダメだよ」

 

 

提督はイヤホンでもつけているのかと錯覚した。

彼の脳内に直接語り掛けてくるのだ。

少し舌足らずの、あの幼い瑞鶴の声で。

 

「そこは提督さんの居るべき場所じゃない。

 そんなところに居続けたら、すごく後悔することになるよ」

 

なんとも、不安を煽る言い回しだった。

提督は霊と話をしようと口を開こうとするが、

その前に榛名が目覚めてしまった。

 

「ん~~~。眠い。ていとく~~~? 

 どうしたんですかぁ。トイレに行きたいんですかぁ?」

 

「……いや。少し寝付けなかったんだよ」

 

「あんなに~~。たくさん、出してくれたのに~~。

 まだ足りませんかぁ……? 榛名は眠いんですぅ……」

 

「起こしちゃってごめんな。もう寝なさい。榛名」

 

「はいぃ……寝ますぅ……おやすみぃ……なさいませぇ……」

 

榛名は提督の頬に熱いキスをしてから寝息を立てた。

眠りが深いことから今度は目が覚めることはなさそうだ。

 

提督は、寝室の隅にまだ赤く光る蝶がいることに気づいた。

瑞鶴は待ってくれていたのだ。少しうれしくなって、

すぐにもでも話がしたいところだが、あいにく物理的に束縛されている。

提督はさすがに苛立った。

少しでも声を出してしまえば、また榛名が起きてしまうだろう。

 

鹿島はまだ寝ているからいいが、

彼女まで起きてしまったら最悪なことになる。

霊になった瑞鶴は大切なことを提督に伝えようとしているのに。

こんな状態で寝れるわけがない。

 

 

「翔鶴ねえを、守ってあげて。提督さんはお姉ちゃんの夫なんでしょ。

 夫なのに、そんな女たちと一緒に寝てるの、変だよ。おかしいよ」

 

 

また、テレパシーが来た。

そんなことをは言われなくても分かっている。

逃げ出すことができるなら、今すぐに逃げ出したい。

だが、できないのだ。

 

 

「お姉ちゃんが、悲しんでいる。

 お姉ちゃんが、哀しんでいる。

 提督さんのせいなんだよ。提督さんの、せいなんだよ」

 

 

この娘は、死んでからも自分の姉のことを心配しているのだ。

鹿島は翔鶴が入院していると言っていたが、提督が目で

見て確認したわけではない。そもそも自分をここに平気で

監禁するような奴らが翔鶴を生かしている保証などない。

 

だが冷静に考えて死んでないだろう。

もし妻が死んでいたら、蝶になった瑞鶴のように

提督の前に現れているはずだからだ。

翔鶴がもし死んだのなら、その怨念はすさまじいだろう。

きっと榛名と鹿島を一晩で呪い殺すに決まっている。

 

 

(だが俺には、何もできないんだよ瑞鶴。

 入院しているなら、せめてお見舞いに行きたいさ。

 でも行かせてくれないんだ。こいつらが邪魔してな)

 

頭痛もまだ完治していない。

こうして夜間に無理に起きようとすると、頭が締め付けられる。

痛みは、人の心を病む、強いストレスを産む。

 

提督は、今すぐ赤い蝶に話しかけられない苦痛から、

腹の奥から怒りの感情がこみあげてきて

自分でも制御ができなくなってしまった。

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」

 

 

提督は、暴れた。

 

ゴリラのように手錠された手足を一生懸命に振り回し始めたので

榛名と鹿島も一緒に踊るように飛び起きてしまった。

 

 

「ど、どうされたのですか提督様!?」

 

「どうして急に騒いでるんですか、ていとく!?」

 

 

提督は力の限り吠え続けており、

その迫力に部屋中の壁にヒビが入りそうなほどだった。

 

 

「落ち着いてください!! 身体が痛むのですか?

 この手錠のせいですか? でしたら今すぐ外してあげます」

 

鹿島が手錠をほどいた。自由になった左手を使い、

提督は榛名の髪をつかんだ。

 

「いやあああ!! い、痛いですよ!! そんなに引っ張ると抜けちゃいます!!」

 

「うわあああぁああああああああ……!! 

 ああああぁぁあっぁああああああぁぁぁぁぁああああああああああああああ」

 

これは只事ではないとして、鹿島が彼の自由な手を押さえつけた。

軽巡洋艦とはいえ腕力は人間の非にはならない。

それに提督は頭痛で力が通常の半分も出ない。

 

鹿島の力には叶わないことを悟ったのか、

提督がようやくおとなしくなった。

ポロポロと瞳から涙がこぼれ落ちて布団を濡らした。

 

「だ、大丈夫ですか……」

 

鹿島が彼の背中にそっと手を当てる。

榛名も乱れた髪のことなど気にもせず、彼の涙を指で拭っている。

ふたりとも少しばかり提督が暴れたからといって、苛立つことはない。

 

 

その時だった。

 

提督の目の前に瑞鶴が現れた。

 

髪を下ろし、日の丸のハチマキをした瑞鶴だった。

 

史実では1944年のエンガノ岬沖海戦で瑞鶴は沈んだ。

今この世に現れた彼女は、最終決戦に臨む時の恰好をしていた。

厳めしい武将を思わせる軍服に、艤装迷彩、各種レーダー、

対空墳進砲も搭載した完全武装の姿だ。

 

瑞鶴の足の先は透けていた。幽霊なのだ。

 

 

「ひ、ひぃぃぃ!! あなたは、瑞鶴さんなのですか!?」

 

「ど、どうしてここにいるんですか!?」

 

 

榛名達にも見えている。提督の目の錯覚などではなかった。

 

瑞鶴の眼光は鋭く、榛名と鹿島を見下ろしていた。

霊は話すことはできない。だが彼女の殺意の込められた視線が

全てを物語っていた。提督さんから離れろ。

お前たちは彼にはふさわしくないと。

 

 

太平洋戦争を通じて最も長い期間活躍した大型空母。

最殊勲艦との誉れが高い彼女が、

明らかに生者に対し圧力をかけているのだ。

 

「お前ら、よく見て見ろ。あれは瑞鶴の霊だ」

 

「れ、れい!? 霊って幽霊のことですか……?」

 

「ひぃいい!! な、なんで現れたんですか!!

 榛名達に何をするつもりなんですか!!」

 

 

瑞鶴の霊は消えた。

 

本当に何事もなかったかのように、静寂が戻る。

 

瑞鶴の目は、明らかに敵意に満ちていた。

 

榛名は直感で次に彼女が現れたら殺されると思った。

鹿島は逆に幽霊如きが私達に何を……と強気だった。

提督は今すぐ翔鶴の安否を確認したかった。

 

三者がそれぞれ自分の意見を言い始めると大げんかに発展してしまう。

ここを出て行くと主張する榛名と、逆に留まりたい鹿島、

そして翔鶴の入院先を教えろと言う提督とで意見が割れた。

 

朝の四時まで口論した結果、鹿島の案が採用された。

朝になればまた艦載機が飛び交うのだ。幽霊におびえて

外に出てしまったら、現実の艦娘に捕まって拷問されるのは確実。

 

死んだ人よりも生きた人間の方が怖いと鹿島が大げさな

ジェスチャアをつけて言うものだから説得力があった。

提督には翔鶴の入院先の病院の住所を口頭で教えてあげた。

しかし絶対に連れて行くことはないと断言されてしまい、提督は憤慨した。

 

 

憤慨、などと言うレベルではなかった。

妻の妹の瑞鶴にあそこまで言われてしまった以上、

もう提督はまともではいられなかった。

 

中途半端な睡眠をとり、朝ご飯の時間になる。

榛名はまだ寝ていたいと言ったが、鹿島は不規則な生活は

提督様の病気のためにもよくないと言うので6時ちょうどには起床した。

 

榛名が家中の掃除をしている間に、鹿島が炊事をする。

ご飯が6時半ごろにできるまでは、提督は布団に横になっている

脱走防止用に木製の足かせが付けられている。

 

ただでさえ片頭痛で朝はかなり痛むのに、足の自由が封じられているのは

ストレスだった。鎮守府にいた時もこうだったから、いつものこと

と割り切るべきだった。だが、今日という今日は許せなくなった。

 

提督は椅子に縛り付けられ、朝ご飯を食べさせられる。

ホカホカの炊き立てのご飯も、サバの味噌身もお豆腐も、

まったく食べる気がしない。もう艦娘にあーんしてもらうことは、

ただただ苦痛でしかなかった。たまに榛名が調子に乗って

口移しで食べさせてくれるが、だ液交じりで苦い。美味しいわけがない。

 

 

「どうしたんですか? ほら。あーんですよ?」

 

「俺はもうたくさんなんだよ。こうしてお前らとママゴトするのが」

 

「榛名は提督と一緒に生活ができて楽しいですよ」

 

「おまえはそうだろうよ。だが俺はな……!!」

 

鹿島が提督の顔をぎゅっと抱きしめ、それ以上の言葉を封じてしまう。

 

「提督様。ごめんなさい。私達だって好きでこんなこと

 してるわけじゃないんです。前も言いましたけど、私達は

 提督様が一緒にいてくれないと不安でおかしくなってしまうのです。

 提督様の自由を奪っていることは申し訳ないと思っているのですが、

 私達は提督様のお世話を一生するためにこのような措置を……」

 

「ふがふが……!!」

 

提督が吠えるが、鹿島の大きな胸の中ではくぐもった声しか出せない。

 

「提督様。お願いします。どうか気持ちを静めてください。

 私も榛名さんも、提督様を心から愛してます。提督様が

 私達を恨むのならそれでもいい。でもいつかきっと、

 私達の愛があなたに届く日が来ると信じてこれからも

 お世話を続けさせていただきますわ。ね、提督様?」

 

「ふーふー!!」

 

不思議と怒りが収まっていく。たぶん匂いのせいだろうと提督は思った。

鹿島のフォロモンたっぷりの、甘ったるい匂いが、提督の鼻を

くすぐると、まるで母に抱かれているように安らぐのだ。

榛名も提督の頭を丁寧に撫でてくれる。くすぐったい感触だった。

 

提督のよだれで、鹿島の上着の胸の部分がびっしょり濡れている。

鹿島は気にもせずに、提督の顔を離してからすぐにキスをしてくれた。

 

「ちゅ……ん……ちゅ……」

 

長いピンク色の髪が肩から垂れている。鹿島は

この家で住むようになってから、めんどくさくなって

髪をまとめなくなった。その方がずっと大人っぽくて

結果的には提督好みだった。

 

また若い女の体の魅力に負けてしまった。

提督は手が自由だったら今すぐ鹿島のスカートの中を

自由にまさぐりたいと思ってしまった。

 

鹿島が長いキスを終えると、今度は反対側から榛名の唇が迫って来た。

鹿島とはまた違う髪の香りがして、提督をさらに興奮させた。

 

憎んでいても、二人とも極上の美人だ。

ふたりとも自分が提督好みの美人の自覚があるから、

困ったときは色仕掛けでなんとかしようとする。

ワンパターンだが、今の提督にはこの方法がぴったりなのだ。

 

 

「や、やりたい」

 

「え? どうしたんですか?」

 

「お前らと……やりたいんだ」

 

「うふふ。提督ったらまた榛名達に興奮しちゃったんですか?

 いいですよ。ただし、ちゃんと朝ご飯を食べてからですけどね」

 

「く……じらすなよ」

 

「わがまま言ったらだめですよ。

 普通朝からする人なんていないんですから。

 まずは規則正しい生活をって鹿島さんが……」

 

榛名が言い終わる前に、鹿島が提督のイスの前に忍び込んだ。

 

 

「お、おい。まさか!?」

 

鹿島は提督のズボンとパンツを途中まで脱がしてから、

すでにイキり立っている男性器を握ってゆっくりと上下に動かした。

 

 

「あ……あぁ……か、かしまぁ……」

 

鹿島は無言のまま乳房で優しくペニスを挟み込み、

さらに先端を舌でぺろぺろといやらしく舐めてしまう。

すると2分も我慢できずに提督が欲望の塊を発射してしまう。

 

鹿島は「満足しましたか?」と言い、床に飛び散った精液を綺麗に

掃除した。彼女の顔にかかった部分は、洗顔して綺麗にしてきた。

 

提督は怒りの感情がスーッと消えて、嘘みたいに楽になった。

気が付いたら頭痛もかなり消えていた。

 

榛名が何事もなかったかのように、

白米を乗せたスプーンを提督の口元へ運ぶ。

 

「はい、あーん」

 

「あーん」

 

「はい、あーん」

 

「あーん……」

 

「今度はお魚も食べましょうか? はい、あーんして」

 

「あーん……」

 

榛名は少しペースが速くて、提督が完全に咀嚼し終わる前に

スプーンを運んでしまうから、飲み込むタイミングに苦労した。

朝ごはんも確かに美味しいが、提督が食べたいのは榛名の

おっぱいだった。提督に乱暴され、乱れた髪の毛をそのままで

彼女はお世話をしてくれる。なんとも奇妙な格好だと提督は思った。

 

しかし、こんな生活がいつまでも続くわけがない。

この娘達にとっても、たった一人の男にここまで依存して、

今後の人生を台無しにして良いわけがないと提督は

心の底から思っていた。

 

 

何か彼女達の興味が別の男の方に向く魔法でもあれば。

しかしもう、どうにもならないと諦めたらそこで終わりだ。

最悪依存されたままでもいい。愛する翔鶴の安否をこの目で確かめたい。

 

 

翔鶴……。翔鶴……。翔鶴……。

 

 

提督はこの娘達に限界まで束縛されて、今自分が心から愛しているのが

翔鶴だと気づかされた。そのきっかけをくれたのは妹の瑞鶴だったの

かもしれない。あれから6日が経つが、瑞鶴の霊は現れなくなった。

 

榛名は霊の再来に本気でおびえて家中に塩を用意していたが、

あれほど強力な霊の前では無意味だろうと提督は思った。

鹿島もそう思っていた。

 

鹿島は提督がさすがにかわいそうになって来て、

翔鶴の病院に提督を連れて行くべきだと提案したが、

そんなことをすると一時間以上も榛名と口論になってしまう。

 

鹿島よりも、榛名の翔鶴に対する嫉妬の方が強かった。

 

 

(嫉妬……。女の嫉妬か……)

 

事後。提督が裸の鹿島に膝枕をされていた。

布団の上は誰だって安心する。

ムチムチの太ももの感触が気持ちいい。

鹿島は提督を安心させるために頭をなでてくれた。

 

 

「なあ鹿島。お前もいつかは死ぬんだよ」

 

「いきなり何のお話ですか?」

 

「人間も艦娘もなぁ、死ぬんだよ。いつかは死ぬんだよ」

 

「ええ。生物には死の定めがございますね。でも今ではありません」

 

「今じゃなくてもな、おまえも必ず死ぬ時が来る」

 

「……どうしてそのようなお話をされるのですか?」

 

「いつか死ぬときにな、誰だってこう思うはずだ。

 自分の人生は正しかったのかと。

 人として正しい人生を送ってこれたのかを」

 

「走馬灯みたいなものでしょうか」

 

「そんなもんだ」

 

「……正しい人生って何ですか?」

 

鹿島の声のトーンが下がった。

 

「正しいかどうかなんて、自分じゃなくて周りの人が決めて

 くれるものなんじゃないですか? 死んだ後にあの人は 

 死ぬには惜しい人だって、皆が泣いてくれるような人が

 素晴らしい人なんだと思いますよ」

 

「そうじゃない。俺が言いたいのはそうじゃない。

 たぶんお前と榛名は、死んだら地獄行きだって言いたいんだよ」

 

「地獄なんてあるんですか?」

 

「さあな。見たことないから分からない」

 

「私も見たことありません。なら空想の世界ですね」

 

「だが、きっとあるよ」

 

「そうですか。提督様は信仰心がありますからね」

 

鹿島はそれからさっさと寝間着を着て、眠りについてしまう。

提督の腕にしっかりと手錠をはめた状態で。

 

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