※この作品はR-18です。

「大和の愛から逃げ続けたらどうなるのか?」   作:なおちー

4 / 32
榛名はカーブル空港へ旅立った。提督たちと共に

カーブル空港は、外国人にとってアフガニスタンへの入り口である。

関西国際空港からインドのデリーを経由し、カーブル空港へと到着した榛名。

 

彼女は空港でのチェックインを済ませる時に、手荷物に大きな楽器ケースを

二つも抱えていた。表向きにはコントラバスとチェロということになっていた。

カルロス・ゴーン事件が記憶に新しい中東地域では、当然怪しまれる。

 

「レミぃシーザッ」(それ、見せてみな)

「ひあゆーあ」   (どうぞ)

 

アフガン訛りの英語に、日本語訛りの英語。

だが榛名の発音は悪くない。

榛名が女性の係員に楽器ケースの中身を見せる。

ガムテープでぐるぐる巻きにされた、提督と鹿島が詰め込まれていた。

 

「おk。ヨウカンゴウ」(行ってヨシ)

「せんきゅー」 (どうも)

 

榛名がなぜあっさり通過できたのかというと、

係員の女性の手を怪力で握りしめ、

許可しないと貴様の首を絞め殺すと表情だけで脅したからだ。

 

そんな心温まるようなチェックインを済ませて、

榛名は異国の大地に降り立った。

 

身動きのできない提督と鹿島。口元に巻かれた猿轡のため言葉すら

発することができない。そもそもここはどこだ?

一体自分たちはどうなるのかと、ポロポロと涙を流していた。

 

榛名は迷いのない足取りでホテルへと向かった。

 

ル・グラン・ホテルという名の豪華なホテルだった。

宿代は馬鹿にならないが、異国の地に慣れるためにも

初日はここで泊まることにしていた。

 

榛名は広々としたベッドルームで、提督と鹿島をケースの中から

解放してあげた。二人はすっかり榛名に脅え切り、

自由の身になるや土下座して命乞いを始めた。

 

「榛名は二人を殺すつもりはありません」

 

「じゃあ、なんで外国に? つーかここはどこなんだ?」

 

「アフガニスタンの首都カブールですよ」

 

提督は泡を吹いて気絶した。鹿島も頭を抑えながら床にへたり込んだ。

 

榛名は寝られたら困るので提督にカンチョーをした。

 

「提督、起きてください」

 

「アッーーー!!(´Д⊂ヽ」

 

「説明を続けますが、私達三人はしばらくの間、アフガニスタンで

 生活をします。知っての通りここはイスラム教の国。中央アジアの大地。

 日本とは何もかもが違います。違いすぎると言ってもいいくらいです。

 私がこの国での生活を望んだ理由は、以下の通りです」

 

 

・ここは横須賀鎮守府から距離が離れている。

・よって追手がやってくる心配はない

・ムスリムでは重婚が合法化されている

・イスラム教は洗練された宗教であり、学ぶことが多い。

・日本で生活するのにも飽きたので、外国で暮らしてみたかった。

 

 

提督はまた泡を吹いて気絶した。

 

 

鹿島は問うた。

 

なぜ自分もアフガンに連れてきたのかと。

 

自分は榛名の主砲を食らったまでは覚えているが、

その先の記憶がない。何処かへ吹き飛ばされた自分をわざわざ

拾ってまで、異国の地に連れ出すメリットがあったのか。

 

「残念なことに提督は鹿島さんのことを女性として愛しているようでしたから

 仕方なく、ですよ。ハルナの慈悲の心によって、鹿島さんが提督の妻の

 一人となることを許してあげます。あっ、言っておきますけど、正妻は私です。

 鹿島さんは2番目の妻だってことを忘れないでくださいね」

 

以上のセリフを、35.6cm 45口径連装砲 4基を向けながら言うものだから、

鹿島は赤い立派なじゅうたんの上に、おしっこを漏らしてしまった。

 

それなりに臭い。

 

提督は鹿島のアンモニアの匂いで目が覚めてしまった。

 

「榛名。俺はアフガンについて何も知らないんだ。

 無知な俺のために教えてくれないか」

 

「分かりました」

 

                       

アフガニスタンは、

 

中央アジアに位置する山岳地帯の内陸国である。

首都は人口最大の都市のカブールである。

人口は約3,900万人で、そのほとんどがパシュトゥン人、

タジク人、ハザラ人、ウズベク人などの民族である。

 

かつてはシルクロードの通過点にあり、文明の交差点と呼ばれた。

標高5000メートルを超えるパミール山脈が存在する。                       

 

(余談になるが、筆者の住んでいる地域にケバブの

 テイクオフ専門店がある。名をパミールマートと言う)

 

 

「アフガンは紛争地帯だと聞いたぞ。治安は大丈夫なのか?」

 

「もちろん大丈夫じゃありません。双眼鏡で窓の外を見てください。

 攻撃用のヘリコプターが5キロ先を飛んでいるのが見えるでしょう?」

 

榛名が指さしたのは、カーブル郊外の砂漠地帯だ。

確かに、ヘリが三機ほど上空を旋回している。

そのうちの一機が、地上からのロケット弾を食らい、プロペラの一部が折れた。

機体のバランスを失い、くるくる回って地上へ落ちていく。

 

 

「なにあれ。戦争してんの? 俺らも巻き込まれるんじゃないのか」

 

「たぶん大丈夫です」

 

「いや。おかしいだろ。俺達は戦いのプロだが、相手が深海棲艦の場合はだぞ。

 どこに潜んでるかもわからないテロリスト相手にどうやって立ち向かうんだよ」

 

「大丈夫です」

 

「おい。お前の言う大丈夫ってのは信用できないんだよ。

 つーかそれ、ただの口癖だろ。

 横須賀で深海棲艦と戦ってる方がましな気がしてきたぞ」

 

「深海棲艦より比叡お姉さまや金剛お姉さまの方が危険だと思いますよ。

 提督はご存じないと思いますけど、提督が鹿島さんと駆け落ちしてから

 提督対策委員会が発足しまして、次に提督を捕まえたら二度と脱走でき

 ないように、両足の太ももから先の部分は切り落としてしまうことで決定しました」

 

「な……足を切り落とすだって!?」

 

「まだ手が自由なんだからいいじゃないですか」

 

「正気じゃない。狂ってる!!」

 

「それと比叡お姉さまのカレーを毎日食べてもらうことで

 胃と腸を鍛えてもらうとか」

 

「鍛えるどころか、死んじまうよ!!」

 

鹿島は黄ばんだパンツ(もともとはピンク色でリボンがついている)を

脱いで洗面所で洗おうとしたが、蛇口をひねっても水が出ないことに絶望した。

 

「たまに水が出ないこともありますから」

 

と榛名は涼しい顔で言う。

 

治安が悪い場所では電気ガス水道が頻繁に止まる。

インフラ設備の整った日本を誇らしく思うのは、主にこういう瞬間だ。

 

「うぅ……私のパンツ臭いし、汚いですね。

 仕方ないので捨てちゃいましょうか」

 

提督は鹿島のパンツを食べてしまいたい衝動にかられたが、

榛名に怒られる可能性が高いため断念した。

 

榛名は涼しい顔で言う。

 

「鹿島さんの体(下半身)汚いですね。

 本当は砂漠の砂で洗うこともできるんですけどね」

 

「砂で洗う?」

 

「砂漠の民は、水資源に乏しいので日に焼けた手触りの良い砂を

 使って洗うんですよ。体に砂を振りかけて汗を流すのです」

 

「へ、へえ。風呂が好きな俺たち日本人には到底たどり着けない発想だな」

 

提督は心から日本に帰りたいと思った。

榛名が受付の人に電話して聞いたら、水の復旧まであと1時間程度はかかるらしい。

まだ停電してないだけ今の状況はマシであり、ルームサービスとして

ウエットティッシュを大量によこしてくれてた。

 

鹿島は股と太ももをウエットティッシュで念入りに拭いた。

そしていっそ榛名を刺し殺してから日本行きのチケットを買おうかとさえ思った。

 

鹿島からしたら、こんな後進国での生活など冗談ではなかった。

このホテルはフランス外資系らしいので清潔な作りだが、

榛名の計画ではここに止まるのは初日だけ。

 

明日からはカーブル市内で手ごろなアパートに住み始めるそうだ。

道先案内人はすでに用意してあり、その人のアドバイスを受けながら

不慣れな中東地域での衣食住をゆっくり学んでいく。そういうプランだ。

 

 

その日の夕食はごく普通の西洋バイキングだった。

ル・グラン・ホテルの利用客の大半は白人である。

 

提督と鹿島はとんでもない中東料理で舌を焼かれることを覚悟していただけに、

まともな食事にありつけたことに感謝した。といっても、これから始まる

アフガニスタンでの生活のことを考えると、食が進まない。

 

鹿島は野菜スープを飲み、バターロールをちぎっては、口に運び、涙を流した。

提督はそんな鹿島を横目に見ながら、無性に彼女を抱きしめたくなる

衝動にかられた。ソースがたっぷりついたハンバーグをナイフで切り分けてから、

大きな口を開けて食べる。本当に食べてしまいたいのは鹿島のお尻とおっぱいだった。

 

そういえば、と提督は思う。鹿島は今ノーパンだった。

スカートの中に何も履いていないのだ。

榛名に拉致されたので着替えを準備する暇などなかった。

 

だが榛名なら旅行の支度は万全なのだろう。

 

「なあ榛名。おまえの下着を鹿島に貸してあげればどうだ?」

 

「嫌です」

 

提督は、ぶっ殺すぞこの野郎と言いたいのをなんとか堪えた。

 

「あっそういえば、ホテルのロビーの人に頼めば下着が買えるはずですよ」

 

 

実は提督からのガチの殺気を感じたので少しだけビビっていた。

 

彼女は強気な態度を示す一方で、提督から本気で愛想を

つかされることには恐怖する、純情可憐な乙女(艦娘)だった。

 

食事後、鹿島がパンツを買って部屋に戻ると、提督と榛名が接吻していた。

 

「あの……」

 

「いま良いところだから、邪魔しないでください」

 

鹿島は扉を閉めた。

 

色々と言いたいことはあったが、榛名の目つきが尋常では

なかったから諦める。いっそ外の空気でも吸おうかと思い、

一階のロビーから外の景色を見て絶望する。

 

今までどうして気が付かなかったのか。

ホテルの庭には雪が積もっていた。

まるで日本の東北地方や北陸地方のようだ。

 

アフガンと聞くと、すぐに連想するのは灼熱の砂漠だ。

 

実際は内陸国のため湿度が低く、日中と夜の寒暖の差が激しい。

ここカーブル州のカーブル市においては、標高が1900メートルほどあり

実に寒い。そして日本に比べたら空気が薄い。

 

12月から3月の冬の時期にかけて雨量が集中するという、6月に

蒸し暑い梅雨のある日本の気候とは真逆といって過言ではない。

 

鹿島がアフガンの平均気温をスマホで調べてみると、なんと

この時期(3月)の気温は零下10度まで下がるとのこと。

 

鹿島は寒いのが苦手なうえに、まさか自分が標高1900メートルの

場所にいることに絶望した。できれば今すぐ日本に帰りたい。

いっそ提督を置いて行ってもいい。

 

鹿島は艦娘のため、インド洋まで出れば航行して帰ることも可能だ。

だがアフガンは内陸であり、少なくとも南のパキスタンやインドを

超えないと海に出れない。海までの距離は、上の二国分の国土の広さを

考えると日本国が丸ごと10個以上は入る。

 

また鹿島は艦娘とはいえ、見た目は美少女。

治安の悪いアフガンを超え、無事にで港までたどり着けるゼロ。

 

例えばインドでは海外旅行中(女子一人旅☆)に拉致され強姦殺人される

邦人女性が後を絶たず、日本の外務省は毎年真剣に警報を鳴らしている。

 

そもそも鹿島は所持金がない。空港を使うことは論外。

 

そもそも現地語は当然として

アラビア語(中東の共通言語)も英語(世界の公用語)

も話せないため、チェックインすらできない。

 

(ちなみにアラビア語が世界で4番目に多く

 話されている言語であることを多くの人は知らない。

 実はスペイン語が世界で1位。それに英語とフランスが続く)

 

タクシーに乗ることさえ難儀する。さらに、カーブル市内は

武装テロ組織、タリバーンを中心とした各種勢力の巣窟と化している。

 

いかに鹿島が艦娘とはいえ、武装した無数のテロリスト相手に

地の利もなく戦い続けるのは、どう考えても不可能だろう。

 

下手にカーブル州の郊外に行くともっとやばい。

砂漠地帯は実質司法の適用範囲外であり、無法地帯だ。

例えば他部族の井戸と知らずに水を飲んでしまうと、普通に撃ち殺される。

 

 

 

「へーいがーる」

 

嗚咽する鹿島に声をかける外国人がいた。

 

「わお、わっざぷろぶれむ、うぃずよー?

 てみわっはっぷん!! あよあろーん?」

 

「??? え? なんですか?」

 

中東人のチャラ男である。

ちなみに彼の正体はネパール人の遊び人である。

伸長は実に185センチもある巨漢であるが、細身である。

 

いかにも中東訛りの、母音の伸びの足りない下手くそな英語である。

ちなみにカーブル市内で話されている言語はアラビア語ではなく、

バシュトー語、ダリー語である。公共の言語として英語も使われる。

 

「おけい。いっふゆにーど、えにへるっぷ。

 あいかんへっぷゆ。かむひあ。まぃう(る)ーむ。

 まぃうーむいず、おうらい」

 

「ちょ、ちょっと腕を引っ張らないでください。

 そもそも誰なんですかあなたは」

 

「かもん かもん。ようびおけい!!」

 

「なんですか!! まさかナンパしてるつもりなんですか!!

 本当に迷惑だから辞めてくださいよ!!

 私の体は提督さんのモノなんですから、

 汚い手で触らないでください!!」

 

「おう!?」

 

チャラ男は、腰を抜かした。

 

ホテルの従業員やお客たちも目を丸くした。

 

機関銃のように一斉に音が放たれたかのようで、それでいて

ピアノの音のようにメロディアスな言語が響いたからである。

 

この中央ロビーにいる人間の中で、まともに日本語(標準語アクセント)

を耳にしたことのあるのは、たままたソファに腰かけていた英国人

(実際はスコットランド人)の老夫婦だけだった。

 

他の人達は、鹿島の怒鳴り声がまりにも威圧的で、良く響く声で

聞こえたものだから完全に委縮し、同時に鹿島に注目した。

 

チャラ男は振り返らず立ち去った。

 

鹿島は何が起きたのか分からなかったが、部屋に戻ることにした。

 

 

提督は全裸だった。榛名に膝枕されて幸せそうな顔をしている。

よく見ると提督はおしゃぶりを口にしていて、頭をなでられている。

 

なにをしているんですか。

そう聞いたら、

母乳赤ちゃんプレイだと答えた。

 

「海外では日本語で怒鳴るのは有効ですよ」

 

榛名が自分の長い前髪をもてあそびながら言う。

 

「日本語って、私たちは普段意識してませんし、

 英語や中国語の方がうるさく聞こえるかもしれませんけど、

 実際は全く逆で、日本語ってすべての音に力強い母音が

 付属して、しかも高低アクセントで音色を変えるものだから、

 すごくやかましく聞こえるんなんですよ。聞きなれない人はびっくりしますよ」

 

例えばフランス人に言わせると、中国語(北京語)は音楽的で綺麗だが、

日本語は機関銃の連射のようで、すごく早口でうるさいそうだ。

 

日本人は普段から日本語を小声で話すのが特徴だが、

それは日本語の音が力強いので、そもそも大声を出さずとも

相手に聞こえるからだ。中国語の声がでかいのはこの逆のパターン。

 

 

「初耳だな。まあ確かに、アフガン人で日本語を

 聞いたことがある奴なんていないだろうしな」

 

提督はおしゃぶりを外した。

 

「ところで榛名はどうしてそんなに外国に詳しいんだ?

 君は日本で生まれて日本で暮らしていたはずだが」

 

「実は深海棲艦と戦うなかで、外国の人って実際は

 どんな感じなんだろうとずっと考えていたんです。

 私、深海棲艦を倒していつか平和な世界が戻ったら

 海外旅行をしてみたいと思っていたんです。普通の女の子として。

 それで暇な時間に本とかネットを使って勉強を」

 

「だからって、どうしてアフガンに?

 普通は欧米に憧れるんじゃないのか?」

 

「メジャーな国は、ネットで検索すればたくさんヒットするじゃないですか。

 ビデオとかでもたくさん見れるし、そこまで興味は惹かれませんでした」

 

「それでアフガンってか? 納得できないな。

 アフガンはタリバーンの根拠地。米国とは20年以上も紛争を

 繰り返してきた国だ。こんな国に来て何の意味があるんだ」

 

「アフガニスタンは、生活するのが難しい国であることは確かです。

 ですけど提督、こう考えてみてください。ここカーブル市内は、

 かつてシルクロードの中央地点にありました。文明の交差点と

 呼ばれ、古くから文明が栄えていました。私は思うんです。

 アフガニスタンという国には、人類の歴史の全てがつまっている」

 

榛名は哲学的なことも言い始めた。

 

人類の起源、人類最古の文明を誇る中東地域を

訪れたことのない奴に、世界を旅行したとは言わせない。

 

コーランを呼んだことのない奴に、経典の書(旧約、新約聖書)を

読んだとは言わせない。(コーランは聖書の続編)

 

最果ての地(砂漠)を知らずに、大地を知ったとは言わせない。

コブラクダに乗ったことのない奴に、動物を知ったとは言わせない。

チャイを飲んだことのない奴に、お茶の味を知ったとは言わせない。

焼きたてのナンを知らない奴に、小麦粉の味を知ったとは言わせない。

 

 

ここで鹿島が突っ込みを入れた。

 

 

「ちょっと待ってもらってもいいでしょうか?

 榛名さんが中東ラブなのは十分に伝わりましたけど、

 中東が本当に優れた地域だとしたら、どうして今も

 発展途上国のままなんですか? さっきネットで調べたら

 ほとんどの国民は遊牧民で未だに中世の暮らしをしているそうですけど」

 

「はいはい。鹿島さんは本当にバカですね。

 さすが頭の中身がピーマンみたいに空っぽなだけあります。

 そういうのを愚問っていうんですよ」

 

鹿島は、もしここに鈍器のようなものが

あれば榛名の頭を勝ち割りたくなった。

 

「コーランは、一言でいうと最強の本です。

 ただの聖典ではなく、政治の在り方、法律の作り方、結婚について

 まで書いてあります。コーランに従って生きていれば、中世のままの

 文明で人類は幸せに生きていけることが明らかになっています。

 だから、進化しなかった。いえ、進化する必要がなかった」

 

「それって停滞しているだけじゃないですか?

 水資源に乏しいのに、上下水道もなく、病気になったらいつ死ぬか

 分からない暮らしをしているのって、全然賢くないと思いますけど」

 

「病気ですって? 馬鹿らしい。人間、死ぬときは死ぬんですよ。

 だってそれが神が定めた寿命ですから。鹿島さんはこうは考えないんですか?

 無理な延命治療を施して永遠と介護されて生き続ける老人。

 脳は死んでるのに体だけは元気で、20年間もボケたまま

 生き続ける老人。日本にはたくさんいますよね?」

 

「寿命を超えて生きてるから愚かだって言いたいんですか?

 でも本人たちが生きているんだから仕方ないことでしょ。

 それに西洋医学の進歩で、日本は乳幼児の死亡率が

 戦前と比べて飛躍的に減った。早期発見ならガンも殺せる」

 

「私には不自然な努力をしているように感じますけどね。 

 人間は自然のままに生き、自然のままに死ぬのが一番楽なんですよ」

 

 

賢者・榛名は現実世界の日本の財政を批判した。

 

先進各国に共通するのは老人の長寿化による

税支出の増加による財政の悪化である。

 

医療の進化が、結局は若い人の税負担を増やして

生活を困窮させ自殺者まで出してしまう。

榛名は高齢者の延命治療は悪だと断定する。

このような医療は本末転倒だと批判した。

 

 

根本的な原因は、アッラーによって授けられた寿命に

逆らい、永遠と生き続けること。これによって最後は

国の宝である子供の生きる権利を奪い、国家を破綻させると警告した。

 

江戸時代までの男達は、みな50を過ぎた頃には死んだ。

老後のお金の心配をすることもない。それで良かった。

 

今の日本では将来の養育費を懸念して結婚を避ける若者が多い。

さらに晩婚化が進む。高齢出産で障碍者の出産率の急上昇。

女性の社会進出に伴い離婚率も高くなった。

 

江戸時代までの日本は、女は20を過ぎたら行き遅れだった。

10代の末までには何人もの子供を産んだ。それが普通だった。

 

日本の文明は何も進化してない。

賢者ムハンマドがアッラーの教えをアラビア半島に広げて以来、

人類は確かな英知を手に入れていた。

 

日本も200年も前は自然と共に生き、

自然と共に子孫を残し、やがては運命に従い死んだ。

 

今の日本は西洋文明を受け入れた結果、確かに退化した。

なぜなら、多くの日本人がこう思っているからだ。

 

生きているのが苦しい……と。

 

 

「榛名さんは日本の歴史と文明を全否定するんですか。

 日本が明治維新を起こしたから、日清日露戦争で勝つことができたし、

 私たちの元となった艦隊を作ることもできたのに。それって日本だけじゃなくて

 艦娘の歴史すら否定しているようにすら聞こえちゃいますよ」

 

「別にそこまでは言っていませんよ。

 明治維新は歴史的な快挙だし素晴らしいことだと思います。

 私はただ、深海棲艦との戦いが終わった後のことをずっと考えていたんです」

 

「戦後の世界……。艦娘としてでなく、一人の女として生きていく。

 そのために実社会の勉強をしたの? 

 それで提督さんの良き妻となるべく、イスラム教の勉強を?」

 

「はい」

 

「はぁ……榛名さんと話していると頭が痛くなります。

 普段からそんなことを考えて生活してたんですか?」

 

「はい。私は割と物事を真剣に考える癖があるので」

 

 

榛名は、再びおしゃぶりを付けた提督を指さして言った。

 

 

「提督が今ここにいるのは」

 

水の入ったコップを自分の口元に持っていく。

 

「大和さんと結ばれたことが運命の過ちだったからですよ。

 私は彼が正しい運命に導かれるようにお手伝いをしているだけです。

 アッラーの御心に従って。

 提督は私より10歳も歳が上ですけど、コーランを知りません。

 私にとっては生まれたての赤ん坊のようなものです」

 

「だから彼におしゃぶりを?」

 

「いいえ。おしゃぶりは特に意味はありません」

 

榛名は、鹿島にも水をすすめたが、鹿島は首を横に振った。

 

「本音を言うと私も海外で生活をしてみたいのも

 ありましたけどね。鹿島さんも本当なら邪魔ですし、今すぐ私の

 主砲を直撃させてひき肉にしてあげたいと思っているんですよ?

 でも我慢しているのは、提督があなたに気があるからです。

 気があると言っても、性的な意味であって、断じてあなたに

 心から気を許してるわけじゃないでしょうけど」

 

「はいはい。好きなだけ言ってろブス」

 

「あれ? おかしいですね。ブスにブスって言われちゃいましたぁ」

 

「あんたには死んでも言われたくない。

 私のファンが全国にどれだけいるか知ってる?

 これでもローソンキャンペーンで全国回ってるんですけど」

 

「そうですね。コンビニ定員の服着て、お客さんに

 胸やパンツ見せたりするのが得意なんですよね」

 

「は? 意味わかんないし。私がいつそんなことした?」

 

「え? いつもやってるんじゃないんですか?

 だって鹿島さんは男性に媚を売るのが

 大好きなビッチだって噂になってますよ」

 

「もう黙れよ」

 

「あんたこそ黙れよ。先に喧嘩を売って来たのそっちのくせに

 なに切れてるの? これからは口の利き方に気を付けてねクズ」

 

「クズですって……? このぉ……ドブス戦艦!!」

 

本気で殺し合いに発展しそうだったので、

提督は高速でハルナの胸をもんだ後、鹿島のお尻にタッチするなどして

場の空気を和ませることに成功した。彼だからこそできる手品のようなものである。

 

こんなムードだったので、この日はセックスすることもなしに初日を終えた。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。