※この作品はR-18です。

「大和の愛から逃げ続けたらどうなるのか?」   作:なおちー

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提督らは観光開始。加賀は空母機動艦隊をベンガル湾に展開した。

日付が変わり、寒空の中の快晴。

今では朝六時のアラビア語の説教にも慣れてきた。

ラジオ体操のアラビア版だと考えれば問題ない。

 

「朝ご飯を食べた後は、さっそくバスに乗りますよ」

 

提督と鹿島は、初めて歩く外国の街並みに圧倒された。

後進国とは聞いていたが、さすがに首都はビルもあるし

整備された道路もある。生えている木が日本とは全然違う。

 

街の遠景には小高い丘がいくつもあり、あの先には砂漠や荒野が

広がっていると言う。アフガンの国土は日本国の1、7倍である。

 

市内の観光バスに乗り、シャー(王)のモスクを目指す。

 

英 Shah Du Shamshira Mosque と呼ばれるモスク(教会)。

 

シャー(シャア)とはガンダムで有名だが、ペルシア語で王を指す言葉だ。

モスクはキリスト教圏では教会、聖堂と訳す。

 

カーブル川沿いの道を進むと、やがてシャムシャラ橋に差し掛かる。

橋の付近にこのモスクがある。

 

 

「立派な建物だな。中東って言うよりロシアっぽいデザインだ。

 それにモスクっていうよりかは宮殿じゃないのか?」

 

「実際は宮殿ですね。建造が1920年。歴史的建造物にとしては

 新しい分類です。イタリアン・バロックの影響を受けているとか」

 

榛名が英文の案内を読みながら説明していた。

 

「なるほど。レモンイエローの色彩が、

 ヴィネチアっぽい感じがするんですね」

 

鹿島も多少は英文が読めるようだ。

 

 

モスクはさほど大きくないが、派手なため人目を引く。

車で現地まで乗り付けている人もいる。提督らはハトが多いことが目を引いた。

中東は意外と鳥が多く、東アジアでは生息していないタカが見られるらしい。

 

提督らの他にも、現地人を中心とした客がいる。男の人はシマシマ模様の

ターバンを巻き、女の人は黒いフード(ヒシャブ)を身にまとっている。

 

モコモコのアウターにジーパンをはいているのは、決まって西洋人の女だ。

派手な化粧に口紅を塗ったりして、現地の男性陣からは

アッラーを恐れもしない愚か者として嫌悪されている。

男性の前で女性が派手に着飾るのはムスリムでは推奨されていない。

 

女はつつましくあるべきだという日本古来の考えと

ムスリムには謎の共通点があるのかもしれない。

 

鹿島がハトに餌を巻いているおじいさんをじーっと見ていた。

 

濃いひげと、深いシワを顔に刻んだ精悍な顔立ちのおじいさんは、

 

「よう わんと ていく でぃす?」

 

と聞き取りやすい英語で、パンの切れ端を鹿島に渡した。

鹿島がパンを石畳の上に放ると、ハトが群れを成してやってくる。

愚かにも生足を出した鹿島の足元に。

 

「ほぉ とりっぷ ひあ?」(観光かい?)

 

「い、いえーす。さぁ」

 

そのあとも英語で何事か質問されたが、鹿島はあまり

外来語に堪能ではないので、適当に返事をして愛想笑いをしていた。

 

「ていくけあ。あいほーぷざ ごっど うぃずゆー」

 

(じゃあの。アッラーは常にあなた共にある)

 

「て、てんきゅー!! あんど ぐっばい」

 

提督は、そんな鹿島の様子を少しだけ嫉妬しながら見ていた。

どう見ても老人が鹿島に鼻の下を伸ばしていたからだ。

提督は鹿島を自分の妻だと思っており、

他所の男に声をかけられてとムッとしていたのだ。

 

鹿島の恰好は沼田市にいた時と変わらない。

可愛らしく幼さの残る、日本風の目立たない色彩の服だ。

 

日本人の特異さは、たとえ成人している女性でも

欧州の基準で言えば学生が着るような服を好むことだ。

 

大人の魅力を押し出すよりも幼さを強調することを男性が

好むためだと言われている。これは外国から日本人男性が

ロリコン好きだと誤解される原因となっている。

 

 

鹿島も提督も、日本にいた時の服のまま現地に来ているのだ。

変えの服も、榛名が適当に彼らのアパートから持ち出したものだ。

 

ちなみに提督は白い提督服なので明らかに異端である。

これでは加賀に見つけてくれと言っているようなものだ。

だが彼は提督として勤務してこれ以外の服を着たことがなかった。

 

朝の10時を過ぎると日差しが強くなり、上着のボタンを外したくなる。

標高が高いゆえに太陽が日本よりも近く感じられた。

つーんと空気が張り詰めているようで、やはり外国に来たんだなと感じさせた。

今日の最高気温は11度と例年よりは高めだ。そのため人がたくさんいる。

 

 

「鹿島の発音ってさ」

 

「はい?」

 

「テンキューって変じゃないのか?

 普通はセンキューとかサンキューだろ?」

 

「そうなんですか?」

 

ふたりは榛名に解説を求めた。

 

「実はテンキューの方が英国英語に近い発音なんですよ」

 

「えっ、そうなのか!!」

 

「あ、ちなみにちゃんと発音できない日本人には、って意味ですよ?

 正しい発音は最初にアクセントをつけてセンキューです。

 でも話すのが苦手な人はテンキューでも普通に通じますから」

 

サンキューは英語音痴の日本人の典型的な勘違い発音らしい。

 

英語の発音は奥が深い。世界の共通語であるため、

世界各国で訛りが異なるから、発音がどうこうよりも

意思疎通ができるかに重点を置くべきなのだ。

 

ちなみに中東地域は長らく英国の植民地であったため、

英国英語の文化が根強く、米国英語風の発音をすると嫌われる。

 

 

そのあとは、国立博物館を訪れた。レストランで

ご飯を食べた後は、カーブル川沿いをお散歩して、

貴金属店やガラス店に入ってみた。

 

鹿島が目を輝かせたのは、美しいガラス細工のコップ、

職人の手作業でアラベスクが刻まれた金や銀の皿だった。

 

鹿島が買ってほしそうな瞳で榛名をチラチラと見た。

 

 

「せっかくだから買ってみたいですね」

 

「だが榛名。俺達はまだホテル暮らしだからな」

 

「では住む場所が決まったら買いましょうか」

 

 

提督もお皿の美しさに圧倒されていた。

中東美術はもっぱら絵画よりも建築の壁画や工芸品に使われる。

アラベスクとは、植物模様の事である。

 

空白や地味さを好む日本人の美意識と違い、

中東では画面いっぱいに絵を敷き詰める。

アラベスク模様は雑多な植物を複雑に絡める。

 

透き通る空の青、あざやかな黄色など、

昔の日本人が描きたがらない色が多い。

 

アッラーの教えにより偶像崇拝が禁止されているので、

基本的に人や生き物は描かない。

 

実はこれらの品物は手作業で作られている。

男性の職人だけでなく女性の職人もたくさんいる。

 

代表的なものがペルシアじゅうたんで、

立派なものだと軽く100万円を超える。

 

じゅうたんには当然アラベスクが描かれている。

さりげなく絵の中にアラビア語も書いてあり、

それには神の言葉が書かれている。

アラビア書道は絵画としての価値もあるのだ。

 

書道の文化があるのは不思議と日本と同様。

左から右へ書くのも、戦前の日本と同様であり

提督らにとっては身近なものである。

 

 

巨大なじゅうたんを手作業で縫い込む作業が

どれだけ複雑で根気のいる作業なのかは

読者諸兄らに想像していただきたい。

 

アジア人の女性は手先が器用で、

地味な作業を根気強く続けるのが得意である。

 

日本人は極東アジア人。アフガン人は西(中央)アジア人である。

日本人女性も手先の器用さには世界で定評がある。

 

かつては裁縫や作物で発揮された腕が、現代では

もっぱら工業製品の検査や検品などのパート作業において発揮されている。

 

(日本国は輸出で外貨を稼ぐことに関して世界でトップ3に入る

 工業大国であるが、メイド・イン・ジャパンの品質が、

 実はパート労働者に支えられていることを多くの人は知らない)

 

東と西の違いがあれど、アジア人の女性には不思議な共通点があった。

 

カーブル市内は、日が落ち始めると急激に冷え込む。

3時過ぎには切り上げようと言うことで、提督らはタクシーに乗る。

あえてバスに乗らない理由は、なんとなく危険な香りがしたからだ。

 

朝はともかく夕方の時間帯はテロに会いやすい時間である。

 

もしアフガンに旅行がしたくなった場合は、観光中に

テロリストによってロケットランチャーや戦車による襲撃を

受けたといても適切に対処して観光を継続する必要がある。

 

もしくは頑丈な建物に避難して、身の安全を確保する必要がある。

あるいは適切にコーランの一節を詠唱して神に祈るのも良い。

 

以上はNHK(日本公共放送)でよく使われる表現を皮肉ったものだが、

例えば『夏場はエアコンを適切に使用して』『頑丈な建物に避難』とは

冷静に考えても意味不明な表現である。

 

こういったいかにも(責任逃れがしたい)極東人が好むような、

あいまいで退屈な表現を聞くたびに筆者はイライラする。

 

なぜなら、現に真夏の夜間にエアコンを使用せずに熱中症で亡くなる老人もいる

上に、実際の大地震や竜巻に耐えられる建物など、核シェルターや塹壕くらいしか

思い浮かばず、そのような施設を一般市民が使用できる可能性はゼロである。

 

日本の公共放送局は「自分たちはリスナーの命を守るために

必死でやっている」が主張するが、まったく納得できない。

 

 

 

「もし襲われても榛名は大丈夫ですよ?」

 

 

金剛型戦艦 三番艦 榛名

 

もとは巡洋戦艦として開発されたが戦艦に改造された。

 

彼女の主な武装は、

 

35.6cm 45口径連装砲 4基

15.2cm 50口径単装砲 8基

12.7cm 連装高角砲 6基

25mm 三連装機銃 24基

25mm 連装機銃 2基

25mm 単装機銃 23基

 

であり、その気になればカーブル市内を

火の海にすることも可能な大火力を有する。

 

現地人の平和を好む皆さんは、まさか極東の民族衣装

(巫女服)にモンベルのアウターを羽織った榛名が、

これほどの火力を有するとは想像もつかないことだろう。

 

兵提督は元提督としての立場から、つっこんだ。

 

「敵を倒したとしても、補給はどうするんだ」

 

「そんなのもはありません」

 

つまり、今ある弾を打ち尽くしたらあとは終わりだ。

ここは鎮守府でないから、

敵弾で損傷した場合の艤装の修理もできない。

 

 

「ああーーーーーっ!!」

 

 

鹿島が、吠えた。

 

何事かと榛名が顔をしかめる。

 

「た、大変ですよ!! このニュースを見てください!!」

 

鹿島はスマホでBBCを見ていた。

 

※ブリテッシュ・ブロード・キャスティング。

 おそらく世界で最も歴史のある報道番組。

 

英語の勉強も兼ねて見ていたのだ。

それにはこう書かれていた。

 

『翼に日の丸を描いた飛行機軍が、インド東部の二つの港を大規模空襲。

 ヴィシャカ・バトナム(国営の港)クリシュカ・バトナム(コンテナ港)

 大量のコンテナ船が炎上し、タンカーから油が漏れる。

 港町は甚大な被害を受けた。東インドにある対空施設は、

 わずか一時間で壊滅したため一方的な空襲を受けることになった』

 

提督たちは今タクシーに乗っている。

提督たちが不思議なリズムの言葉で話しているものだから、

タクシーの運転手は驚いて道を誤りそうになった。

 

「加賀が来たのか……」

 

「いいえ。加賀さんだけじゃ、これほどの損害は」

 

榛名が頭の中で英作文をし、流暢な発音で

運転手にニュースのことを質問した。

 

「Excuse me.」

 

「what?」

 

「Did you hear the break news?

there was an airstrike at a harbour in india? 」

 

「nnnhh? no.no.I don't know that. what about?」

 

褐色の肌で濃いあごひげの運転手は知らないと言った。

運転手が試しにラジオを付けてみると、

今まさにアフガン国内で速報で流れていた。

鹿島が手に入れた情報は、おそらく世界最速のニュースだったのだ。

 

運転手は路肩に車を止めてしまい、ラジオに耳を傾けた。

提督たちも鹿島のスマホに映し出されている動画を真剣に見た。

しかし女性アナウンサーの発音の音程が高すぎて、ほとんど聞き取れない。

 

提督がNHKを聞こうと言い、サイトにアクセスる。

久しぶりにメディアで日本語の音声を聞くことになった。

(艦これの世界観ではNHKは存在しなさそうだが、気にしないことにする)

 

「ニュースデスクに入った情報では、艦載機が2千機……ですか」

 

「はい。現地からの報道ではそうなっています。実際はもっと多いかと」

 

「では軍事の専門家の三宅さんに訊いてみましょう。三宅さん?」

 

「はい。撃墜された彗星からして、艦娘の艦載機による攻撃である

 ことは間違いないとされています」

 

提督と鹿島はパニックになった。

 

インドの港が襲撃されたのはなぜか。

提督たちがインドにいると思ったからなのか。

 

アフガンからインドはかなりの距離があるからまだ安心だが、

それにしても2千機を超える艦載機で空爆したのだろうか。

翔鶴と瑞鶴を加えた第一航空戦隊の戦力でも、せいぜい360機程度のはずだが。

 

「また新しい情報が入りました。

 インド近郊のベンガル湾に展開した日の丸の艦隊は、

 全部で200隻。うち空母だけでも軽空母を含めて36隻」

 

提督は血の気を失った。

 

まさかの大艦隊。しかも空母36隻とは。

日本にそれほどの空母は存在しない。

 

艦載機が2000機を超えるというのも、いったいどんな魔法を使ったのか。

現在までにインドの戦闘可能な艦艇は、

艦娘の戦艦部隊と激戦を続けて大損害を追っているらしい。

 

神出鬼没な潜水艦部隊が魚雷攻撃でインドの貨物船を沈めまくっているとか。

 

「て、提督……これはまさか……」

 

榛名が、映像を指さして震えた。

あの榛名が動揺するとは。提督と鹿島も目を疑った。

 

日本の艦隊には、明らかに空母ヌ級や空母ヲ級が含まれていた。

本来なら深海棲艦であるはずの彼女らの飛行甲板には、

わざとらしく大きな日の丸が描かれている。

さらに搭載された艦載機の翼にも日の丸が。

 

つまりこういうことだろう。

彼女らは艦娘の捕虜となり、日本風の艦船に改造され、

今は攻撃用の戦力として使役されているのだ。

怒りに燃える加賀や蒼龍達は、きっと深海棲艦の根拠地を壊滅させ、

生き残った敵を洗脳した。すべては提督を見つけ出すために。

 

世界最強の戦艦である元妻(提督は元だと思っている)大和もまた

この作戦に参加しいてる可能性が高い。というか絶対に参加しているだろう。

 

「ま。まさか空母36隻で攻めてくるなんて……。あわわわわ。

 これはまずいです……。榛名は大丈夫じゃありません。

 どどど、どうしましょう。提督。榛名はぜんぜん冷静じゃありません」

 

ついに榛名までパニックを起こしてしまった。

 

今頃はインド国内をくまなく偵察機と爆撃機が飛び交い、

提督の居場所を探していることだろう。

 

奥さんから逃げて愛の逃避行が、

もはや国際問題へと発展してしまった。

 

「こ、これは……!!」

 

鹿島がショックのあまり鼻血を出してしまった。

 

インド国内に対し爆撃機が英語のビラをばらまいており、

現地のメディアがそれを報じているのだ。

 

『(*^▽^*)←この顔を見たら、即通報してください。

 捕まえた人には、現金10億円(米ドルで)プレゼント!!

 今なら人種国籍問わず、地球人類なら誰でも参加可能!! 

 冬限定!! このキャンペーンに乗り遅れるな!!』

 

この顔とは、残念ながら提督ら三名の事であった。

 

ちなみに艦娘側は、インド政府に対しても上の三人の身柄引き渡し

要求をしており、もし七日以内に要求に従わない場合、

インド本土に対して戦艦大和と武蔵による艦砲射撃を実施すると

脅しをかけ、インド政府が転覆するほどの事態となった。

 

提督達は、なんと国際指名手配されてしまった。

 

ラジオをじっと聞いてるタクシーの運転手はまだ知らないようだ。

だが彼もこの情報を知ってしまうのは時間の問題。

 

そこで提督はまず運転手の後頭部を殴って気絶させた。

このタクシーを奪って郊外へと逃走するのだ。

 

鹿島が問う。

 

「でもどこへ逃げるんですか?

 アフガンの人が指名手配の件を知ってしまったら

 どこへ逃げても同じじゃないんですか?」

 

「まず都市を離れる。

 遊牧民に紛れて逃亡すれば、なんとかなるかもしれん。

 遊牧民の奴らは自ら好んで原始的な生活をしてるんだから

 ニュースなんて見てねえだろ」

 

鹿島は念のためと言い、運転手を砲撃しておいた。

運転手はまともに砲撃を食らったため、

ゴビ・アルタイ山脈(蒙古西部)まで吹き飛んだが、知ったことではない。

 

「とにかく逃げるぞ!!

 おい榛名!! しっかりせい!! しっかりせんか!!」

 

「はるなはぁ……らいしょーぶ  じゃ ありまっせえーん」

 

美しかった榛名はシマウマのような顔をしていた。

口をあけっぱなしでよだれを胸元にまで垂らしている。

提督が頬をはたき、胸まで揉んでも正気に戻らない。

 

試しにパンツを足首までずりおろしても同じ結果だった。

 

仕方ないので車の後部座席に寝かせる。

助手席には鹿島に乗ってもらい、提督がアクセルを踏む。

 

 

あんな馬鹿どもに捕まってたまるか。

 

絶対に三人で逃げ切ってやると胸に誓いながら。

 

日本から遠く離れた、アフガニスタンの大地をタクシーが走る。

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