※この作品はR-18です。

「大和の愛から逃げ続けたらどうなるのか?」   作:なおちー

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提督がまだ見つからず、加賀がいら立ちを見せる

あれから7日はすぐに過ぎた。

 

インド政府が軍と警察を総動員して国内を捜索したたが、

ついに提督たちは発見できなかった。

そもそも彼らがインドにいないのだから見つかるわけがない。

だが、加賀からしたら提督が世界のどこにいようと関係なかった。

 

「赤城さん。インド政府から回答は来ましたか?」

 

「はい。我々に屈する姿勢を見せています。

 提督を発見できなかった不手際を認め、賠償金20兆円を

 支払うので艦砲射撃を止めてもらいたいとのことです」

 

「そう。20兆円ね……」

 

加賀がお腹をさする。

彼女は提督の子供を身ごもっていた。

 

養育費のことを考えると、お金はいくらあっても困ることはない。

それにしても20兆円とは。艦娘全員で山分けするにしても過剰だ。

 

「今回はお金の問題じゃありませんよね?」

 

と蒼龍が言う。隣にいる飛龍も鬼の顔をしている。

 

二航戦は、直ちにインド本国を火の海にして、

自分たちの本気度を世界に示すべきだと主張する。

ただ単にストレス解消に暴れたいのかもしれない。

 

「あなた達は……どう思うの。五航戦?」

 

大きな胸の下で腕を組んだ加賀が、瑞鶴と翔鶴を横目に見る。

 

「わ、わたし!?」

 

瑞鶴のツインテールがはねる。

 

「私は別に。提督のことを恨んでもいないし、お金もいらないよ。

 今回の作戦だって加賀さんがどうしてもって言うから

 付き合ってるだけだよ。私より翔鶴ねえに聞いてよ」

 

「なら翔鶴。あなたはどう思うの?」

 

「うふふふ。決まってるじゃないですか」

 

翔鶴は、提督を調教すると言った。

 

まず提督の両足を切り落としてから薬品を投与する。

長時間にわたる洗脳によって思考能力を奪い、

最終的には母親に甘える赤ん坊の状態までに戻し、

翔鶴なしでは生きていけない状態にする。

 

そして翔鶴の邪魔をするであろう、

あらゆる艦娘、さらには深海棲艦も含めて解体すると宣言した。

 

「私は」

 

翔鶴がニヤついた口元を手で隠しながら言う。

 

「特に加賀さんと大和さんをぶち殺してやりたいですねぇ。

 大和さんは提督さんの元妻。加賀さんはどういうわけか

 提督の子を身ごもっている。うふふふ。万死に値しますよね」

 

光沢を失った漆黒の瞳が、三日月をかたどる。

 

翔鶴から発せられる殺気により、

この円卓に集まった全ての空母の髪の毛に静電気が走る。

しまいには、テーブルの足がぽきりと折れてしまう。

 

「翔鶴、やめなさい」

 

「なぜ止めるんですか赤城さん? 

 その権利があなたにあるんですか?

 そもそも……一航戦の先輩方は言いましたよね?

 提督を必ず発見するって。その結果が、これですかぁ?

 インド中をくまなく探しても提督はどこにもいな~~い。

 誰ですか。提督がインドにいるって最初に言ったおバカさんは」

 

「確か大鳳ね」

 

「え……?」

 

赤城に指を刺された大鳳は、実は無実なのに翔鶴の怒りを買う。

 

助走をつけた膝蹴りをまともに食らい、およそ160キロ先まで吹き飛んだ。

 

ちなみに彼女らが現在話している場所は、適当に上陸した無人島だ。

この無人島に補給物資を集結させて臨時の司令部としている。

 

「あと榛名も絞め殺してやりたいよねー」

 

と言ったのは飛龍だ。

 

「うんうん。榛名は特に苦しめてから殺してやりたーい」

 

蒼龍も元気に賛同する。彼女らはすでに榛名に

実施する予定の拷問方法を27種類も準備していた。

 

「そ……そういうのは、かわいそうじゃないかな」

 

瑞鶴だけはまともだ。

 

「榛名もちょっとした出来心だったんだよ。

 私にも提督を独り占めしたいって思う気持ちは分かる。

 だからって暴力でかいけt…」

 

「瑞鶴ったら。あなたはいったい何を言ってるのかしら」

 

と翔鶴が後ろから瑞鶴の肩をつかむ。骨がきしむ。

 

「いいですか。提督を慕っているのは鎮守府にいる艦娘全員が同じです。

 私たちは提督を発見するという目的で結託はしましたが、

 しょせんは一時的な同盟にすぎません。提督を発見した後は、

 直ちに彼を奪い合う敵へと変わります。まさかとは思うけど……

 その敵に、あなたが含まれてないとでも思ったのかしら?」

 

「……はぁ。そんなに争いたいなら好きにしなよ」

 

瑞鶴は、席を外した。濁った瞳をした姉に何を言っても無駄だと判断したのだ。

 

この会合に参加しているのは、以上の6隻の空母艦隊である。

先輩格である鳳翔さんは、意外にもこの攻撃に参加してない。

 

ここへ無謀にも1隻の軽空母がやって来てしまう。

 

 

「あ、あの。加賀さん。報告があります」

 

「なにかしら瑞鳳」

 

卵焼き食べりゅー教で有名な彼女だ。

震える手をぎゅっと握りながら発言する。

 

「瑞鳳の偵察機が、提督を発見しました」

 

「なんですって!! どこにいたの!!」

 

「イラン西部の平野部でコブラクダに乗っているところを

 発見しました。白いターバンをしてあごひげを

 生やしていましたけど、間違いなく提督だと思われます。

 隣には榛名さんたちと思われる若い女が二人もいました」

 

加賀は、直ちに自らの長距離爆撃機を発艦させた。

搭乗者である妖精から、航空写真を受け取る。

さすがに画が鮮明ではないが、提督への愛の強さから

写真が間違いなく本人であると断定した。

 

 

「私の旦那様が発見された以上、

 仲間ごっこは終わりですね。

 さっそくですけど死んでください」

 

加賀は、後ろから翔鶴に撃たれてしまった。

 

飛行機を飛ばすための弓を、そのまま彼女の背中に放ったのだ。

加賀の体には三本もの弓が貫通している。

瞬きする間もない一瞬の出来事だった。

 

「きさま!!」

 

赤城が拳銃で翔鶴の胸を撃つ。翔鶴は倒れた。

 

「次はあなたの番だよ」

 

蒼龍が赤城に襲い掛かり、首を全力で絞めた。赤城は意識を失った。

 

 

「あ、あわわわわわ。翔鶴ねえが死んじゃった」

 

「ひぃいい。先輩たち、なにしてるんですかぁ……」

 

 

瑞鶴と瑞鳳。同じ「瑞」の字を冠している二人は、

まともな反応を示している。

字と本人の性格に関連性があるのだろうか。

 

この時点で戦闘不能となったのは

赤城、加賀、翔鶴の大型空母三隻である。

第一航空艦隊は同士討ちによって三隻を失ってしまったのだ。

 

 

「さーて。それじゃあ、一緒に頑張ろうね飛龍」

 

「うん。久しぶりに本気出しちゃうぞ」

 

 

二航戦は弓を空高く構えた。

 

この二人が艦載機を飛ばせば、提督は造作もなく捕まる。

彼が鎮守府に連れ戻されたら、拷問されて人ではなくなる。

榛名や鹿島はもっとひどい目に合わせられる。

 

大切な仲間を……。かけがえのない仲間を失う。

 

だからだろうか。

 

迷いなく二航戦のふたりを後ろから撃ってしまったのは。

 

やったのは瑞鳳だ。

 

背中に無数の機関銃弾が貫通し、血だらけで倒れる二航戦。

まだ死に切れない飛龍の目つきがすごい。

あとで必ず殺してやると瞳だけで訴えていた。

 

 

「瑞鶴さん。いったん艦隊を日本に戻すよ。

 提督の潜伏先は分かった。今はそれだけで十分。

 今日から私がこの艦隊の指揮を取るからね」

 

深海棲艦を加えた、200隻を超える提督捜索艦隊。

その最高指揮権はかつて加賀にあったが、戦闘不能(死んだ?)に

なったため瑞鳳が引き継ぐことになった。

 

瑞鳳の謎の反転により、提督をイランに残した状態で

艦隊は引き返すことになった。多くの艦娘がいら立ちを残した状態で。

 

 

それから横須賀鎮守府では、会議が行われた。

空母艦隊、戦艦、巡洋艦などの各部隊の代表を集めての首脳会談だ。

 

瑞鶴や瑞鳳を代表とする「穏健派」は、提督への制裁に反対した。

彼女らは、提督にはこれからも提督として艦隊を指揮してもらいたいと

思っていた。また恋愛に関しても提督のことは愛してはいるが、

提督は大和の夫であるため、とりあえず諦めるとしていた。

 

「穏健派」は、提督は大和のものであるから、

仕方ないという点で一致していた。

 

一方で「過激派」は、一言でいうと翔鶴のような艦娘の事だった。

瑞鳳がベンガル湾で反転の指示を出したのは、提督を捕まえても

その後さらなるに地獄になるのは必至だったからだ。

 

どのみち提督を捕まえるのは造作もないのだ。

その前にもう一度鎮守府に戻り、艦娘の意志をまとめる必要がある。

 

 

「あいつは一度死ぬべきだ」長門や陸奥は過激派だった。

 

金剛シスターズも榛名に厳しいお仕置きをすると主張して譲らない。

三時間に及ぶ舌戦のすえ、話は折衷案でまとまった。

 

提督をとりあえず日本に連れて帰る。

そして提督を口頭で尋問したうえで、その後の対処を決める。

ただし、今回の事件を引き起こした鹿島と榛名の処刑は断行する。

 

(実は鹿島は何も悪いことをしてないのだが)

 

皆は今日のところはゆっくり休んで、充分な補給をしてから、

再びベンガル湾へと展開する。遠洋である。いっそ鉄道で

内陸を進んでイランへ入った方が速そうな感じもした。

 

瑞鳳は寮の部屋にこもり、明かりを暗くしてベッドに倒れこんだ。

 

まだ風呂にも入ってないし、食事も済ませてない。

今日の会議ですっかり憔悴しており、いるはずのない提督の顔を

思い出し、聞こえるはずのない彼の声を思い出す。

 

 

『今日も瑞鳳の卵焼き、おいしーな』

 

『たべりゅーーー!!』

 

『俺はいつだって瑞鳳のそばにいてやるからな』

 

 

逢いたい、と思った。

 

本当なら瑞鳳だって過激派に加わりたい。

でもそれは、提督が一番に嫌う行為だって知っているから。

 

 

「俺ならここにいるぞ?」

 

 

空耳かな? 瑞鳳はかぶりを振った。

 

 

「俺だよ。提督だよ。ちょりーっす」

 

「提督……? うそ。本物?」

 

 

提督は瑞鳳の部屋のトイレの窓から侵入した。

この時点で提督の帰還を知っているのは瑞鳳だけだ。

なぜ自分のところへ来てくれたのか。

そもそもどうやって日本に戻って来たのか。

 

聞きたいことは山ほどあった。

 

「なんか逃げても無駄っぽいから自分から帰って来たぞ。

 イランの外務省経由でインド政府に頼んでさ、

 政府専用機で日本まで送ってもらったんだ」

 

その方がインドが実害を被らなくて済むと判断したためだ。

政府の判断としては賢明である。

 

「提督……なんか知らない人みたいに変わっちゃったね」

 

瑞鳳の言う通り、提督は

ずいぶんと荒々しい姿になって帰って来たものだ。

 

頭に白生地でシマシマ模様のターバンを巻き、

薄手のマントで身を隠し、頑丈なブーツを履く。

髪の毛は何日も洗っていないためボサボサで汚い。

汗をかいているため体臭や口臭もひどかった。

 

瑞鳳は、すぐに風呂場に行かせようとしたが、

廊下を歩いたら誰かに見つかる可能性が高い。

そこで、せめて濡れタオルで体を拭いてあげようと思った。

 

「上着を脱いでくれる?」

 

「おう。悪いな」

 

男の人の背中ってこんなに大きかったんだと瑞鳳は思った。

格闘家のごとく鍛え上げられた、提督の肉体。

ぷにぷにした部分など見当たらず、全身に無駄なく筋肉がついている。

アフガンからイランの大地を旅したためか、

冬場とはいえ日焼けしている。

 

「鹿島さんと榛名さんはどうしたの?」

 

「あいつらも来てるよ」

 

玄関の方が騒がしかった。

 

鎮守府の入口から堂々と帰って来た鹿島と榛名は、

まず川内に見つかり、駆け付けた駆逐艦たちにに

押さえつけられ、体中を殴打されてから連行された。

 

現場には鹿島と榛名の抜け落ちた髪の毛、

だ液、血液が残されていた。

 

まさか犯人が自分から帰ってくるとは思わず、

衝撃のあまり鎮守府全体がパニックになりかけていた。

 

 

「あら、あなた」

 

「おう。大和」

 

提督は、自宅に帰って来た。

 

瑞鳳のトイレの窓からこっそり抜け出し、この一軒家まで歩いたのだ。

提督の家は鎮守府から歩いて5分の距離である。

 

「おかえりなさい。いつになく帰りが遅かったわね」

 

「まあ色々あってな」

 

「どこに寄り道してたの?」

 

「ちょっとアフガニスタンまで」

 

「ずいぶんと遠出をされたんですね」

 

「君は冷静なんだな」

 

「私は夫がこの家に帰ってくればそれで満足ですから。

 でも正直疲れました。あなたのことは今でも好きです。

 娘のこともあるし、本当はあなたと一緒に暮らすべきなんでしょうけど、

 あなたと一緒にいると他の艦娘たちがうるさいんですよ。

 私も何度嫉妬で殺されそうになったことか」

 

大和は深いため息をつき、キッチンの奥の引き出しから

一枚の紙を持ってきた。離婚用紙だった。

 

「他所の鎮守府への移動願いも出しておきました。

 離婚ってことでいいですよね?」

 

提督は最初は首を縦に振るが、本当にそれでいいのだろうかと迷う。

 

「あとで裁判が開かれるそうですから」

 

「裁判?」

 

「今回の事件の責任を取るための裁判です。

 提督はたぶん死ぬことになると

 思いますけど、頑張ってくださいね」

 

「ああ……」

 

「夕ご飯の残りがありますから、食べてから寝てください。

 明日の朝ご飯も作ってあげますね。

 食べるものはちゃんと食べてから死んでください」

 

「ありがとう……」

 

ハンバーグ定食は、涙の味がした。

 

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