タイトルの通りである。
今般の脱走事件は、単なる夫婦間のトラブルから著しく
逸脱し、空母艦隊による攻撃でインドの沿岸部を炎上させるほどの
大惨事を引き起こした。もはや恋愛の問題ではなく戦争である。
醜い同士討ちも引き起こした。
赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴は、ベンガル湾に浮く孤島で
死んでしまった。言うまでもなく彼女らは日本側最強の
航空戦隊であり、深海棲艦と戦うための世界の希望であった。
それが、味方同士で殺し合って全滅した。
提督はモテる。確かにモテる。
色男は女泣かせとは言うが、それにしても異常である。
大和さえ、ついに提督と離婚するに至るのは
無理もないのかもしれない。あれほど夫をしつこく
束縛した彼女が愛想をつかした本当の理由はなんなのか。
空母艦隊のリーダー格となった瑞鳳、瑞鶴は、
今回の事件の真相を探ると同時に、二度とこのような茶の番を
引き起こさないために、提督、榛名、鹿島の三人を裁くことにした。
なお、今回の事件に関して大本営側では横須賀に存在する
全ての艦娘の即時解体命令が出されていた。
実は、提督捜索艦隊は先に大本営を航空機1600機で大空襲をしてから、
インドのベンガル湾に集結していた。
つまり、この時点で大本営にあるのはガレキの山と大量の死体だけだった。
大本営は機能を失った。日本政府も知らぬふりをするしかない。
ラバウルやパラオなど他の鎮守府も震えあがり、
抗議の声など上げようもない。
この世界で提督達を裁く権利を有するのは、横須賀鎮守府である。
そのリーダーが瑞鳳、瑞鶴の二名であることは上でも述べた。
「おまえたちがリーダーとは笑わせる」
と長門や陸奥が鼻で笑う。
空母の力は偉大だからだと瑞鶴がない胸を張る。
なぜか龍鳳その他の空母は首脳部から除外されていた。
「私がこの基地の臨時提督となります」
と瑞鳳が言う。
「まずは執務室を尋問部屋に変えましょうか。
簡易裁判ができるように机といすをたくさん持ってきてね」
それから2時間後、捕縛された提督が連れられてきた。
どんなひどい状態かというと、描写するのがめんどいので
『ハンニバル・レクター博士』でググってください。
「まず。提督にいくつか質問しますから、正直に答えてください。
初めに言っておきますが、別室に榛名さんと鹿島さんがいますので。
提督がもし嘘をついたら、彼女たちが罰を受けることになります。
この世に生まれてきたことを少し後悔するほどの罰です。いいですね?」
瑞鳳は、自らを『提督代理』と名乗る。
提督用の椅子に座り、テーブルの上で手のひらを組む。
代理の右の席に座り、眼鏡をかけているのは瑞鶴。
彼女は『提督補佐官』を名乗る。秘書ではないのか。
左の席に座るのは、額に青筋を立てる鳳翔さん。
『重要参考人』を名乗る。何の参考人なのか。
提督の運動神経や耐久力は人間を超越している。
本気を出せばゴジラほどの戦闘力を誇ると評価された
彼が万が一にも逃亡しないよう、
執務室の周りは高圧電流が流れる鉄条網で囲った。
鎮守府の庭には地雷まで埋めておいた。
これで万全の状態で尋問ができる。
――なぜアフガンに逃亡したのか?
(彼が話したとおりに、できるだけ正確に描写する)
――逃亡したのではない。榛名に拉致され、結果的にそうなった。
――アフガンに逃亡する前、なぜ鹿島と沼田市で生活していたのか。
――大和の主砲を顔面に食らい、吹き飛んだためだ。
自ら望んで沼田に行ったわけではない。
鹿島と暮らしたのは成り行きだ。
――沼田にいることをなぜ鎮守府側に明かさなかったのか。
連絡する意思がなかったのではないか。
提督は黙秘をした。別室から電流の流れる音と、
鹿島の悲鳴が聞こえるが、それでも提督は黙秘を続けた。
瑞鳳代理は、質問を変える。
――大和のことをどう思っているのか。
大和は提督の妻で相違ないか?
――正確に言うと、愛していた。今は違う。
妻ではない。理由は先日離婚届を渡されたからだ。
――経緯はどうであれ、提督が原因で空母艦隊の
最強の戦力がほぼ壊滅した。何か思うことはないか?
――その問いが、私に謝罪を求めているとしたら私は
謝罪するつもりはない。あいつらが勝手に争って
自滅した結果だ。自業自得だろう。
――自身が艦娘に非常に人気があり、中にはケッコンまで
求めている艦娘がいる事実を把握しているのか?
――ある程度は把握している。ケッコンまで望んでいる娘が
いる件については、良く知らない。自分は34になる男性であり、
若い娘に囲まれた職場でそこまでうぬぼれるつもりはない。
――例えば金剛についてはどう思うか? 彼女と比叡と霧島の
証言を総合すると、金剛は4度告白するも振られ、
お茶会に27回誘ったが断られ、髪型を変えても
見向きもされなかったとされている。金剛の好意には気づいていたのか?
――気づかないわけがない。
金剛に手を出さなかった理由は、三女の榛名の方が好みだったからだ。
下手に金剛と親しくしたら榛名の怒りを買うことになる。
参考人の鳳翔さんが手を挙げた。
尋問調書を読み上げる瑞鳳が、
いったん読むのを中断し、どうぞと手を差し出した。
「今得た情報では提督の好みが把握できません。
提督は鹿島さんではなく榛名さんを愛していたのですか?」
「いや違う。俺が愛していたのは榛名のおっぱいだ。
人格的な意味では榛名に興味などない。あくまで
性的な関心である。個人的には榛名の性格はイカれてると思う」
鳳翔はフタを開けたままのペットボトルを提督に投げつけた。
提督の顔が水で濡れる。
「提督は、艦娘を……。いいえ。女性の人格を否定して
体にしか価値がないと言いたいようにも聞こえますよ?」
「俺はただ、おっぱいが好きなだけだ。
君の言っていることは俺の言葉の一部を切り取っただけの
類推解釈。つまり詭弁だ」
「その言い方、すっごくすっごく腹立ちますね。
全力でパンチして前歯をへし折ってやりたくなります」
「好きにしろよ。それで鳳翔さんの気が済むならな。
俺は見ての通り無抵抗の人形だ。人形をサンドバックにして
イタぶる趣味が君にあるのだとしたら、好きにしろよ」
「あなたという人は……どれだけ人を見下したら気が済むんですか!!
私が怒ってる理由が分からないんですか!!
あなたが、みんなに黙って遠くへ行ってしまって、
二度と帰ってこないのではないかと、心配していたからなんですよ!!」
「バカが。それが勘違いなんだよ!!」
提督の気合いを込めた怒気のために
蛍光灯の明かりがついたり消えたりを繰り返した。
「おまえらはよぉ!! 俺を何だと思ってるのか!!
まさか神様だとでも思ってるんじゃねえだろうな!?
俺はただ横須賀に派遣されただけの青二才!!
提督の業務を行っているだけの男だ!! そんな男にお前たちは
何から何まで求めすぎなんだよ!! だいたいなぁ!!」
提督の息が荒い。
「この職場は女が多すぎるんだよ!! お前たち、自分らが
疑心暗鬼に陥ってるって自覚はないのか!? 少しでも
俺が自分以外の女と話しているだけで、すぐ陰で付き合ってるとか
特別扱いしてるとか嫉妬しやがって汚ねえ噂を流しやがってよ!!
お前たちがドロドロしてるせいで、女に絶望したんだよ俺は!!」
「それはあなたの態度があまり……」
「いいから話させろ!!
俺だってこの職場で好きな女の一人や二人は当然いたよ!!
いねえわけねえだろ!! 俺はホモじゃねえんだよボケが!!
最初の頃はおしとやかで女らしい大和や榛名に憧れていたよ!!
でもてめえらが陰で女の争いばっかやってるから絶望したの!!
おまえらのせいで絶望したの!! それでおっぱいに逃げたんだよ!!
女は体こそが最高の魅力だ!!
こんなの既婚者なら誰もがたどり着くべき当然の結論だろうが!!」
鳳翔は、圧倒された。
提督代理の瑞鳳や補佐官の瑞鶴でさえ、あまりの剣幕に口をはさめない。
ハンニバル・レクター状態にもかかわらず、提督は実に
2時間10分(正式な記録では2時間7分)もの間、大演説を展開した。
速記係の大淀は大変だった。
あせって途中でペンの先が折れてしまうくらいの内容だった。
提督は自己弁護に終始した。
恐るべきことに、要約すると同じ話をダラダラと続けただけであり、
内容をまとめると原稿用紙一枚程度で収まる。
結果的に大淀はペン先を折る必要など全くなかったと知った。
いわく、自分は結婚に失敗した。
簡単に離婚したら娘に迷惑がかかる。
娘に罪はないため、強烈な自己嫌悪に陥り、女の体に逃げたくなった。
いわく、沼田市で出会った鹿島こそ大天使であった。
おまえらに自分の幸せを邪魔する権利があるのか。くたばれ。
提督の仕事など知ったことか。大本営が代理の提督を派遣すればいい。
いわく、不覚にもアフガンのカーブル市に飛び立ったが、
あれはあれで幸せな生活が送れた可能性が高い。
他の艦娘のいないところで生活するのがベストという、
榛名の考えは全く賢い。お前らはバカだ。
いわく、今現在ここで裁判ごっこをしている艦娘は大嫌いだ。
今後一生このことを恨む。不満なら今すぐ殺してくれて構わない。
ただし、自分の命と引き換えに鹿島と榛名を解放しろ。
いわく、ストレスがたまったので、おっぱいが揉みたくなった。
鹿島と榛名がだめなら、翔鶴がいい。だが翔鶴は死んだのか。
実に惜しいことをした。加賀や赤城のことはもうどうでもいいが、
翔鶴だけは生きていてほしかった。彼女のクールな銀髪も好みだった。
翔鶴の裸を見るのがひそかな夢だった。
翔鶴の件のところで、怒りのあまり鳳翔が拳を机に立てる。
大地が割れるほどの轟音が鳴るが、それでも提督は演説を続けていた。
彼が演説を一通り終えると、気を使って一人の背の高い艦娘が
彼の汗をハンカチでぬぐう。喉が渇いたでしょうと言い、ペットボトルを
飲ませてくれた。提督は、生まれてきてこんなに水が美味しいと思ったのは、
イラン西部の砂漠地帯でベドウィン族と共にさまよい、オアシスに
たどり着いた時以来だった。ラクダも溜め池に顔を突っ込み水を飲んでいた。
鳳翔が目を見開いている。
瑞鳳は小刻みに震えている。
瑞鶴だけは冷静に「あの……」と女に声をかける。
提督の隣にいる女は件の翔鶴だった。死んだとされる翔鶴だった。
提督は、翔鶴のおっぱいが揉みたいと思った。
その次の瞬間、提督の周囲に砂塵が舞い散り、床に砂が落ちた。
やがて砂の中から炎が現れ、炎が燃え尽きた後に翔鶴の魂を召還したのだ。
クルアーン(コーラン)がもたらされる以前の、中東地方に
古くから伝わる魔法の儀式。ジン(精霊)イフリート(悪霊)
シャイターン(悪魔)らの力を借りた、死者蘇生の魔術である。
提督はイラン高原地帯で無意味な時を過ごしたのではなかった。
あれは夕日が砂漠の丘へ沈む頃だった。
提督は、逃亡に協力してくれた遊牧民のテントからふと顔を出し、
砂塵の混じった強風を全身に感じた。早くテントに戻りなさいと
男性に言われるが、提督は全く無視して砂漠の丘を見つめていた。
提督は、そこに人の霊を見た。
人とは言えぬ、頭でっかちで筋肉質な小人だった。
小人には不釣り合いなほどの大きな翼が生えていた。
彼は翼をはばたかせ、提督の横に降り立つ。
そして神の言葉(アラビア語)で一言二言語った後、
砂塵の中へ消えていった。
その日から、提督には魔術が宿った。
「翔鶴ねえ……。生きてたんだね」
「瑞鶴。お姉ちゃんがいなくてさみしかった?」
暖かい抱擁をする妹の背中を、艦載機の500キロ爆弾が襲う。
次に狙われたのは鳳翔だった。続いて瑞鳳、速記係の大淀。
傍聴席にいた明石、神通、扶桑、山城、武蔵、長門、陸奥だった。
狭い執務室の天井を所狭しと翔鶴の艦載機が舞う。
逃げようとする艦娘は、翔鶴が後ろから弓で射って殺した。
提督も翔鶴に拘束具を外されて自由になったので、
軽く準備運動をしてから大暴れすることにした。
提督は零式艦上戦闘機用の20ミリ機銃を肩に背負い、
鎮守府内の全ての扉を順番に開けて乱射した。装弾数が後期型で
100発以上もある。弾が切れたら、間宮が補給してくれた。
なぜ間宮なのか。
「私も瑞鳳さんたちのやり方が気に食わなかったんです」
とのこと。しかし間宮も翔鶴にとっては邪魔者。
翔鶴が持ち上げたテーブルの角を間宮の側頭部に叩きこもうとしたところ、
「まっ、待ってください。私は翔鶴さんの邪魔をするつもりはありません。
提督さんの奥さんは翔鶴さんであると認めます。私はただ、提督さんの
お手伝いがしたいと思っておりまして。鹿島さんと榛名さんの
監禁場所を教えますよ。それでどうですか?」
「そうですか。監禁場所を教えてくれるなら生かしてあげます。
ただし、もし偽の情報でしたらあなたの胴が真っ二つに割れますけどね」
「そ、それはどうも」
ふたりは殺伐とした会話をしながら廊下を駆けた。
提督も少し遅れてついていく。肩に担いだ主砲弾が重いのだ。
(戦艦武蔵から奪った46センチ主砲弾)
鹿島は艦娘寮の一室で、逆磔(はりつけ)にされて電流を流されていた。
あまりの非人動的な行為に、提督は衣を割いて泣き叫んだ。
こんなひどいことをした艦娘を、いますぐ解体してやると大声を上げる。
室内にいた白露型の駆逐艦5隻は、
提督が全力で投げた主砲弾によってミンチになった。
瀕死の鹿島をわきにかかえた提督。次は榛名の監禁されている部屋へ行く。
榛名は意外なことに庭の木に全裸で縛りつけられていた。
彼女の体中にミツを塗り、そこへスズメバチの大軍を放っていた。
体中がブクブクに張れてしまっている。秘所にもミツが
たっぷり塗られている。眼球近くが刺されて
片目がつぶれてしまった榛名を見て、提督はまた叫んだ。
榛名をいじめていたのは金剛シスターズだった。
提督は翔鶴の妖精から800キロの魚雷を受け取り、
金剛の口の中に押し込む。金剛のあごを持ち上げてよく噛ませた。
金剛の首から上が爆散し、驚愕する霧島と比叡。そこにスキができた。
霧島の頭部を、提督が両の手のひらで上下からサンドイッチし、
コキッとへし折る。霧島の頭は90度回転した。逃げようとする比叡を
羽交い絞めにし、一緒に地面に倒れる。そこへ間宮が隠し持っていた硫酸をかける。
比叡は髪の毛から首筋にかけて硫酸を浴びた。
この時の比叡の悲鳴は、神奈川から遠く離れた
秋田県の秋田市役所の職員の耳にまで届いたと言う。
「今の攻撃はちょっと危険でしたよね?
もし提督に硫酸がかかったら、どうするつもりだったんですか?」
翔鶴が、お仕置きと称して間宮のお腹を蹴り上げる。
間宮は五メートル吹き飛び、2分後に起き上がってこちらに
戻って来て翔鶴に土下座した。翔鶴は間宮の頭を靴の底で
踏みつけながらも、許すと言った。
理由は提督が不快そうな顔をしていたからだ。
提督の中では、鹿島と榛名の居場所を教えてくれた間宮は立派な仲間だった。
ちなみに先ほどの翔鶴の蹴りだが、普通の艦娘が食らったら
全治3か月ほどの大けがになっていた。間宮の証言では、
『高速道路を時速110キロで走るダンプに衝突した痛み』らしい。
お昼ご飯を作るのが得意な間宮は、普段から栄養価を考えた
食生活を心掛けているため、耐久力の高さに定評があった。
(これに関しては小説的誇張表現ではなく、実際に栄養価の高い
食事をしている人は基礎体力に優れ、労働や戦闘に向く)
翔鶴、間宮、提督、そして死にかけの鹿島と裸の榛名。
以上の五名は、横須賀鎮守府を後にしようとした。
翔鶴は、爆撃機隊に建物の完全なる破壊を命じた。
だが……!!
「あなたという人は、またここから逃げ出すんですか」
完全武装した大和が、次々に翔鶴の爆撃機を迎撃する。
大和のハチの巣のような対空機関銃の精度は見事で、
翔鶴一隻だけでは対抗しようがなく、次第に翔鶴たちは劣勢になっていった。
提督は間宮にも援護を求めたが、攻撃が苦手な間宮は
せいぜいよく熱したフライパンで相手の頭を叩くくらいの事しか
できないらしい。さきほどの硫酸は、明石の倉庫から盗んできたもので
自分で作ったものではないそうだ。
大和は、艦載機の8割を失った翔鶴に腹パンを食らわせた。
翔鶴は「かはっ……」とひざをつく。
翔鶴の前髪をつかみ、顔面に拳を叩きこむ。
翔鶴は空母のため接近戦には弱く、大和に殴られるたびに
顔面が変形するほどの壮絶さだった。翔鶴の折れた歯が地面に転がる。
「大和!! もうやめろ!!」
提督は恐妻家のため、今でも妻には頭が上がらない。
妻に暴力を振るうなどもっての他だった。
金剛達は平気で殴っておいて矛盾しているようだが、
結婚に失敗するとこうなってしまうのだ。
賢明な読者諸君らは、くれぐれも『気が強いだけの女』とは
結婚しない方がいい。人生を棒に振るだけじゃすまないぞ。
(筆者は大和が大好きで水着のフィギュアまで持っている。作中で
大和をヤンデレ妻にした理由は、こういう完璧そうに見える女ほど
結婚後の豹変が怖いという戒めのためだ)
「何か言いましたか?」
提督の腹にも、大和の拳が突き刺さる。
提督は地面をごろごろ転がった。
――ああ……痛い。
――なんでこんな痛い思いをしなくちゃならないんだ。
鹿島と榛名は、涙を流しながら脅えている。
間宮さんは木の陰に隠れて震えている。だって怖いから。
提督は、タイムマシンのスイッチが押せるなら、
大和と結婚する前の頃に戻りたいと思った。
「私から逃げて、鹿島さんと榛名さんとの生活も捨て、
最後は翔鶴さんと駆け落ちですか。まるで三流ドラマの
脚本みたいですね。提督は恥を知りなさいよ」
提督の手のひらが、踏みつけられる。
重さ4トンもの圧がかかり、提督が舌を出しながら絶叫した。
「やっぱりあなたはオカしい。
提督は中東を旅してから人が変わってしまったようです。
もともと浮気性な人なのは知ってましたけど、
もうただの犯罪者じゃないですか。娘にはあとで言っておきますね。
お父さんは不幸な交通事故で命を落としたって」
大和は、自慢の三連装46センチ主砲×3、
計九門を全て提督のお腹へ向けた。
段数は2250発もあり、今すぐ全弾発射するという。
物語冒頭の時と違い、今度こそ本気である。
「大和は確かに別れるとは言いました。でもあなたが
離婚した後も、何事もなかったかのように
他の女とイチャイチャしてるんだって……考えるとですね。
頭の中がぐしゃぐしゃになって殺意が抑えきれなくなっちゃうんですよ。
もう私の前に現れないで。死になさい。いいえ。死ね」
「へっ……。勝手なことばかり言いやがって。
お前だって自分勝手なことばっかり言って俺を束縛したくせに。
お前にもう少し寛容な心があったら!!
こんなことにはならなかったんだぞ!!
俺は子供を作ったからには責任を取ろうと思っていた!!」
「責任から逃げ続けていたくせに、どの口がそう言うのよ!!
あなたは榛名さんや翔鶴さんのおっぱいが大好きなんでしょ!!
もう私の事なんてなんとも思ってないくせに!!」
「お前のことが心から嫌いなわけじゃねえ!!
確かにお前の性格はアレかもしれないが!!
それだけ俺のことを好きでいてくれたんだろ!!
不思議なことにな!! 昨日お前に離婚しようって言われた時は
胸が痛んだよ!! なぜだろうな!!」
「はっ。あなたが胸が痛む……? ないない。それこそ嘘っぱちよ!!
今から地獄に送ってあげるから、あの世で翔鶴さんのおっぱいでも
触ってなさいよ。ド変態の畜生提督!!」
「おまえが俺を殺しちまったら、おまえは人殺しとして
娘を育ててていくのか!? 大和(子供の名前)の親が人殺しでいいのかよ!!
俺は金剛姉妹を殺めちまったが、おまえまで人殺しになるんじゃねえよ!!」
「あなたって人は……本当に娘のことは大切に思っているのね。
少しだけ嫉妬しちゃうわ。私のことは一度でもそんなに
大切に思ったことがあったの!?」
「あるよ!! あったよ!! ちゃんと指輪を渡してあげたろうが!!」
「カッコカリのね!!」
「ああそうだよ!! カリで問題あるか!!
最初はお前に惚れてたんだよ!! 本当に好きだったんだよ!!
だから子供まで作っちまったんだろうが!!」
「なら私のもとから離れないでよ!! どうして私を不安にさせたのよ!!
私のことをずっと愛してよ!! 他の女にデレデレしないでよ!!」
「大和……おまえ」
人とは、こんなにも涙を流せる生き物だったのだろうか。
大和の流す涙が、地面に大きな染みを作っていく。
顔を手で抑えても鼻水が止まらず、大和は膝を抱えて泣き崩れた。
そこにいるのは嫉妬に燃える恐妻ではなく、
ひとりのか弱い乙女だった。
本当は大和だって離婚なんてしたくなかった。
離婚しようと言い出したのは、提督の浮気が国際問題にまで発展し、
第一機動艦隊の空母が同士討ちまでしてしまったから。
ほとぼりが冷めるまでは、提督と赤の他人に戻るべきだと
大和の理性が判断していた。
婚姻関係を一度破棄すれば、お互いの気持ちも晴れるかもしれない。
そんな願いを込めて。
だが、提督が翔鶴を連れて逃げている姿を見てただ悲しくなった。
死んだはずの翔鶴がなぜいるのかは謎だが、美しい銀色の髪と
優しそうで知性を帯びた瞳に魅力的な唇。スタイルも良い。
やはり提督は、でかくて燃費の悪い戦艦よりも、
美人な空母の方が好みなのかと思うと我慢が出来なくなった。
だから提督を止めに来た。
すでに鎮守府の施設の八割は大破炎上中。
翔鶴は大往生。
間宮は木の陰で隠れておしっこを漏らしている。
鹿島は瀕死の重傷。
榛名は全身を搔きむしりながら、うめき声をあげている。
「大和。こっち向けよ」
「あっ……」
この夫婦が唇を重ねるのは、実に半年ぶりだった。
「今まで不安にさせてごめんな?
俺はやっぱりお前のことを愛しているんだ」
「そんな……今さらそんなこと言われても信じられるわけ……」
提督はまた大和の唇を塞いだ。今度は舌まで入れた。
「愛してるよ」
「うそ」
「愛してる」
「そんなこと思ってもないくせに」
「俺は真剣だぞ。俺はお前の夫だ。そしておまえは俺の妻だ。
俺達は少し道に迷っちまったが、まだ若いんだ。いくらでも
やり直すことはできる。そうじゃないか?」
提督は大和の体を力強く抱きしめ、耳元で
お前だけを愛してると言った。大和の心臓の鼓動が波打った。
「でも……どれだけ多くの艦娘が死んでしまったの」
「あいつらには申し訳ないことをしちまった。
だが俺達が結ばれるためには、遅かれ早かれ殺し合いに
発展してたと思うよ。女が多い職場にモテる男がいる
場合ではよくあることだ」
「ぷっ。自分でモテるって普通言う?」
「だが、これ以上モテる必要はないな」
「えっ」
「だって俺は、大和の夫なんだから」
ふたりは、大炎上する鎮守府の庭の中で、時も場所も考えずに
愛し合った。裸の二人がじゃれ合うたびに、たまに地雷が爆発するが、
ふたりとも耐久力が高いので大した被害は出なかった。
翔鶴は涙を流し、鹿島も泣き、榛名はうめいていた。
間宮は居てもたってもいられなくなり、どこかへ走り去った。
すれ違う二人の心、きっかけはささいなことであり、
よりを戻すのもささいなきっかけで十分なのかもしれない。
思えば多くの回り道をして夫婦は元の関係に戻った。
実に実に長い道のりだった。
こうして世界に平和が戻ったはずだが、物語は少しだけ続く。