※この作品はR-18です。

「大和の愛から逃げ続けたらどうなるのか?」   作:なおちー

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深海棲艦が横須賀を攻撃した。

あれから一週間。

 

提督と大和は夫婦の寄りを戻し、

一見すると平和な世界が戻ったかのように思えたが、

物語はそのような単純な結末を迎えるわけではないのだ。

 

「パパ~~。お空がブーブー言ってる。お昼なのに真っ黒なの」

 

休日の昼下がり。

 

まだ幼児言葉の抜けない大和。

(娘の名前。母と全く同じ)

 

羊羹(ようかん)を食べてる途中で楊枝で窓の外を指した

 

「こらっ。お行儀が悪いですよ」

 

「えへへ」

 

「あなたはお食事中にすぐ気をそらしてしまうのが悪い癖よ。

 今のご時世で甘味は貴重なのよ。作ってくれた人に感謝して

 残さず食べなさい。ほら。あんまり足をぷらぷらさせない。

 お行儀のなってない子はパパから御叱りを受けますよ」

 

と大和が提督に話題を振るが、提督は日本茶を盛大に吹きだした。

 

何事かと大和も窓の外を見ると、いた。

 

 

いたいたいた。

 

かつての米英連合軍が使用してた、無数の爆撃機が横須賀の空を覆っていた。

今さらあれが何かと問うまでもなく、

深海棲艦による空爆が開始されているのは確かだった。

 

今さら空襲警報が鳴り響くが、遅すぎる。

敵機は少なく見積もっても200以上はいるだろう。

味方の基地の上空に敵が接近するまで誰も気が付かなかったのか。

 

否。

 

気づけなかったのだ。早期警戒網などこの基地と周辺海域には存在しない。

なぜなら提督を巡る国際問題から発展した同士討ちにより、

鎮守府内の艦娘の9割が死んでしまった。

 

第一機動艦隊を始めとする正規空母を初め、金剛シスターズ、大和の妹の武蔵、

長門型戦艦、伊勢型戦艦、扶桑型戦艦、無数にいたはずの駆逐艦隊など、

決戦用の兵力をほとんど失ってしまった。

 

もはや提督達の艦隊は、後進国に毛が生えた程度の戦力しか

維持できなかった。なにより恐ろしいのが資源が枯渇していることだ。

潜水艦隊は健在だが、護衛する駆逐艦や戦艦が不在であるため、

南方占領地帯より資源が入ってこない。

 

日本国内にある資源だけでは現戦力を維持することさえ困難だった。

 

 

さて。まもなく横須賀に合計で20トンを

超える爆弾が落とされようとしているのだが……。

 

このまま物語を進める前に、

読者諸兄らも気になっているであろう

突っ込みどころを想定し問答する。

 

 

Q そもそも深海棲艦は、提督捜索艦隊として使役されていたのではないか?

 

A 空母艦隊が同士討ちで死んだため解体された。深海棲艦は母港へ帰った。

 

 

Q 横須賀の他にもラバウルなどにも鎮守府があるはずだ。

  なぜ応援に来ないのか? また事前に敵艦隊を発見できなかったのか。

 

A 実は横須賀鎮守府には日本が有する戦力がすべて結集していた。

  提督捜索艦隊200隻とは、当時の日本が出せる全力だった。

  赤城と加賀が他の鎮守府を空爆すると脅して戦力を引き抜いた。

  大本営は加賀の指示で空爆した。

 

 

Q 現在横須賀で戦闘可能な戦力は?

 

A 大和、翔鶴、鹿島、榛名、間宮、秋月、由良。そして提督。

  

  一方で敵艦隊は正規空母ヲ級12隻を主力とした、

  キングジョージ五世級戦艦5隻、

  巡洋艦11隻を含めた総勢で50隻を超える大艦隊。

  艦載機は1100機を超える。

 

 

Q それでは勝つのは不可能なのではないのか?

 

A 数の不足は提督の戦闘力でカバーするから問題ない。

 

 

Q 提督は人間のはずだが、深海棲艦とどう戦うのか。

  実は提督も艦娘の一種だったりするのか?

 

A 読めばわかる。

 

 

Q 味方の戦力に疑問を感じた。なぜ由良と秋月がいるのか。

  むしろ生きていたのか。劇中では出番がなかったはずだが。

 

A あの二人は有能だし、しかも可愛いので登場させた。

 

 

Q なぜ敵の艦載機が本物の飛行機になっているのか。

 

A 深海棲艦は、一度艦娘の捕虜になった。

  その影響で飛行機を使うようになったのだろう。

  なお敵のデザインは、原作の艦これとは著しく異なるようだ。

 

 

提督は、娘が残してしまったイモようかんを、

男らしく噛み砕いて咀嚼した。

 

「大和。出撃するぞ」

 

「はい。提督は基地で指揮を」

 

「今回は戦力が足らん。俺も出る」

 

「え!?」

 

 

空からは、飛行機のエンジンの轟音が降り注ぐ。

無数の爆撃機のお腹から800キロ爆弾の雨が降る。

 

大地が揺れ、煙が舞い、破片が四散する。

横須賀は、神が与えたのであろう地獄と化した。

 

人々は、逃げまとったところで逃げるべき場所などなく、

ただ永遠と続く雷のような爆撃が終わることを祈ることしかできなかった。

 

 

提督は家の庭に掘っておいた防空壕へ娘を避難させてから、

壕の中で直ちに反撃のプランを練る。

大和の他の艦娘達も提督の自宅地下の防空壕へと集まってくる。

 

大和、翔鶴、鹿島、榛名、間宮、秋月、由良。

この非常時に集まってくれた戦士達だ。

 

榛名は拷問の傷跡が深く、全快には程遠い。

 

間宮は料理を作るのは得意だが、戦闘には向かない。

 

鹿島は練習巡洋艦のため、最前線での消耗戦には堪えない。

 

 

これでは戦う前から絶望してしまいそうになるが、

上の三名以外の艦娘はやる気満々だった。

 

翔鶴は五航戦の力を見せつけてやると奮い立つ。

 

秋月は自慢の長10センチ砲を主体とした防空戦闘が得意だ。

 

由良は武装こそ目立ったところはないが、視野が広く頭が良い。

 

大和は近代化改装をほどこされて対空戦闘力が大幅に向上。

もちろん砲雷撃戦においては世界の最強である。

 

 

そして

 

 

「そろそろ俺が戦う時が来たようだな」

 

 

提督が上半身を艦娘の前でさらす。

 

提督が投げ捨てた上着を、思わず手に取ってしまう翔鶴。

すんすんと匂いを嗅ぎながらも、彼の肉体のあまりの

素晴らしさに惚れ直してしまう。

 

提督の上半身の筋肉は、もはや人のそれではなく

マウンテンゴリラやチンパンジーのそれだった。

 

 

「少し準備運動をするか」

 

 

提督は壕から地上へ出た。

そしてひざを良く折ってから跳躍した。

はち切れんばかりにパンパンに膨らんだ太もも。

 

彼は、敵軍の爆撃機の高度へと一瞬で達する。

正面からコクピットに張り付く謎の男をみて、

敵のパイロットは大いに慌て操縦に影響する。

 

しかし提督は良い的だ。

 

編隊飛行中の周囲の爆撃機から機銃の斉射を受ける。

 

「いててて。いてっ。おっ。あちーなこの野郎!!」

 

提督はパイロットのいるコクピットを押し開いて、

中にいる人を外へ捨ててしまった。

 

操縦する人のいなくなった爆撃機は高度を失っていく。

提督はまた別の爆撃機に飛び乗り、同じようにコクピットを

開けて中の人にパンチを食らわせたり、ショック死させたりした。

 

さらには爆撃機の後部機銃を奪い取り、

自らの手で射撃するなどして敵の飛行機を攻撃した。

弾が切れたら、また別の飛行機の機銃を奪った。

 

彼は7分の間に敵の爆撃機、および戦闘機を

合計34機も撃破することに成功した。

 

敵の迎撃により1200発を超える弾を食らったが、

まだまだ元気そうだ。

敵の弾を貫通させない鋼の肉体があるからだろう。

 

 

大和と秋月も対空戦闘を展開。

 

三式弾を中心とした濃密な弾幕を展開して敵をひるませた。

対空射撃を開始して一分もしないうちに4機の

敵飛行機が煙を吐いた。うち1機は空中で爆散した。

 

敵の数は圧倒的とはいえ、爆弾を一通り落としてしまったので

あとは空母へと帰還するしかない。

 

敵機が引く。

 

提督達に与えられた反撃のチャンスはここだった。

艦載機は空母で補給と整備を受ける。

敵に反復攻撃の機会を与えるわけにはいかないのだ。

 

 

直ちに港から横須賀・打撃艦隊が出撃した。

 

この艦隊は、日本が誇る大型の正規空母・翔鶴を

中心に位置させ、その周囲を提督らが囲むと言う陣形だ。

 

なお、秋月の指示により、敵機が襲来して

対空戦闘が始まった場合は、各艦は円陣(輸形)を維持することに

固執せず、各自が自由に移動しながら防空戦闘をすることになっている。

 

翔鶴に対して、

 

大和は左、

秋月は右、

提督は前方に位置した。

 

 

この打撃艦隊の目的は、空母翔鶴の艦載機の一撃により、

たとえ勝てないにしても敵をひるませ、

最後は撤退にまで持ち込ませることである。

 

そのためには翔鶴を沈めるわけにはいかない。

 

 

提督はさすがに上半身裸で戦場に出るのは

まずいとして、白いタンクトップを着ることにした。

頭にはターバン、下はステテコパンツという

統一感のないスタイルだった。

 

 

防空部隊の司令官に任命された、秋月が檄を飛ばす。

 

「周囲の警戒を怠るな!! 

 上空にばかり気を取られず、海面へも注意を払え!! 

 敵には潜水艦が含まれている可能性が高いぞ!!」

 

敵はまだ見えない。

 

いったいどこに敵空母がいるのだろうか。

翔鶴から発艦した水観妖精、偵察妖精も、いまだに敵艦を

発見できずにいた。由良も水観を発刊させている。

 

由良に備え付けられた高性能の電探、そして由良の

優れた頭脳が、現在の危機的状況を察知した。

 

 

「二時の方向に魚雷を確認!! 複数!! 来ます!!」

 

 

3本の魚雷が扇状に進む。

 

目標は翔鶴のようだ。

どれか1本でも当たれば良しとしている。

 

取り舵を取る。

 

翔鶴の船尾ギリギリを1本の魚雷が通過した。

 

他の2本は外れた。

 

ほっと一息……、

 

ついている場合ではなかった。

 

新たな魚雷を由良が報告するが、今度は間に合わない。

 

またしても扇状に発射された魚雷。

今度は数が多いので避けきることは不可能だ。

 

 

一本は提督の右足に命中した。

 

「ぐわあああああああ!! いてえええええええええ!!

 なんて痛さだあああああ!!」

 

もう一本は、鹿島に命中した。

鹿島は翔鶴を守るために急に進路を変更し、翔鶴の行き先を

さえぎるように航行。結果として直撃となってしまった。

 

鹿島はぐったりとし、沈んではないないが意識のない状態となった。

翔鶴が顔色を失い、大和が涙ぐむ。

秋月が凶悪な顔で歯ぎしりし、提督は怒りに燃える。

 

 

「今俺と鹿島に撃ったのはどこのどいつだ!! 

 海の中に隠れてねえで、出てきやがれよおおお!!」

 

 

提督は足のすねに刺さったままだった魚雷(不発)を手で抜き取り、

潜水した。海の底まで潜るつもりで泳いでみると、いたいた。

敵の潜水艦はたったの一隻。

 

その正体は潜水新棲姫だった。

 

とても可愛らしい幼女だったが提督はロリコンではないので

容姿に惑わされることはない。鬼の形相の提督が不発の魚雷を

片手に襲い掛かって来たので、さすがの新棲姫も距離を取る。

 

提督は彼女の髪の毛をつかみボコボコにしてやろうと迫るが、

潜水艦相手に人間が追い付けるわけもない。

 

水圧のせいで身体にかかる負担は半端ではない。

次第に息が苦しくなり、

さすがに追いかけるのを止めようとした時であった。

 

「イムヤが援護するよ」

 

「イクもイクのぉ」

 

「ゴーヤもいるからね!!」

 

前回の大騒動と奇跡的に無縁だった潜水艦隊の面々であった。

彼女らが魚雷を一斉に射出すると、たまらず潜水新棲姫は撤退していった。

これにて一時的とはいえ、敵の水雷戦の脅威は消し去った。

 

 

提督が再び水面に顔を出してみると。

 

「お、おい。翔鶴!? おまえなんで燃えてるんだ!?」

 

提督が潜っていた時を見計らったかのように、敵の第二次攻撃隊が

翔鶴を襲っていたのだった。翔鶴は攻撃隊(戦闘、爆撃、雷撃)を

全機発艦させており、護衛の飛行機は存在しなかった。

 

大和、秋月が主力で援護をするが、敵の数は50を超えた。

後で分かったことだが、飛来したのは敵基地から

飛び立った長距離爆撃機の群れであり、空母の艦載機ではなかった。

 

敵は対空射撃を恐れ、高高度からデタラメに爆弾を投じたのだが、

そのうちの二発が不運にも翔鶴の飛行甲板に命中し、大穴を空けた。

 

翔鶴は格納庫内部に火災が発生。修理妖精が直ちに消火活動を開始し、

なんとか火は消したが、飛行機の離発着が不可能になった。

 

つまり、現在敵の空母艦隊を攻撃中の妖精たちは、翔鶴に帰ることはできない。

とはいえ、日本近海での戦闘のため、最悪本土に不時着すればよいので

生き残れる可能性はある。戦闘で死ななければ、という条件付きになるが。

 

 

由良が声が枯れる勢いで叫ぶ。

 

「四時の方向!! 電探にて敵艦隊を補足!!

 大型艦多数確認!!  あれは……!!

 先頭を進むキング・ジョージ五世級を

 少なくとも三隻は確認!!」

 

戦艦、重巡洋艦、軽巡洋艦、駆逐艦を多数そろえた艦隊だった。

総勢で30隻以上はいる。

 

 

旗艦はプリンス・オブ・ウェールズ(皇太子)

 

続いてデューク・オブ・ヨーク(ヨーク公)、

 

アンソン、

 

ハウ。

 

キング・ジョージ五世級の姉妹艦が顔を並べる。

 

彼女らの正体は深海棲艦ではなく、

実際の戦争で沈んだ船の亡霊が形を成したものだった。

金髪の美しい女性の姿をしている。

 

敵皇太子は、かつて日本軍の航空部隊に一方的な戦いで

沈められた恨みをここで晴らそうとしていた。

 

 

爆撃隊の攻撃によって翔鶴の飛行甲板を破壊した後は、

戦艦の主砲でとどめを刺すつもりなのだ。

 

 

「次は艦隊戦よ!! 砲雷撃戦、用意!!」

 

大和が叫ぶ。

 

砲雷撃戦ならば大和が主体だ。

 

敵艦隊の一番先頭の戦艦に向けて主砲、副砲の照準を合わせる。

 

同じく戦艦の榛名は、「あまり大丈夫じゃありません」と弱気だ。

拷問の傷は相当に深いらしい。榛名は提督に使ってくださいと、

主砲を手渡した。戦艦にとって命と同様な主砲を、彼女は渡してしまったのだ。

 

提督は任せろと歯を見せて笑う。

 

提督は砲撃に関しては素人だったため、

榛名の主砲を鈍器として使うことにした。

 

 

「行くぞおらあああああっ!! って、ぐおっ。

 なっ なんだ。水柱で前が見えねえぞ!!!?」

 

敵の皇太子は、提督に対して集中砲火を命じていた。

 

敵艦隊にとって最も脅威となるのは大和ではなく提督であり、

まず提督を撃破してから翔鶴に狙いを定めるつもりでいた。

 

敵艦隊は、主砲、副砲を撃つ。

 

巨砲の弾が空を飛ぶ。轟音は天を裂く。

 

提督に対し、毎分200を超える弾が飛来する。

 

例え命中せずとも、至近弾でも相当なダメージとなる。

 

提督はこの時、砲雷撃戦の恐ろしさを初めて知った。

敵からの明らかな殺意を感じる。

敵は、本気で自分を殺そうとしている。

 

反撃しようにも視界がなく、恐怖で呼吸すらできない。

飛行機の機銃と違い、相手は巨砲を撃つ大型戦艦である。

海洋の覇者である英国が、国の威信をかけて建造した大型戦艦である。

 

人間である提督には、どうしようもない。

 

艦娘はこんな世界で戦っていたのだ。

あいつらは強いから戦いなんて楽勝なんだろうと

侮っていた。だが、現実はこんなにも辛い。

 

大和達は、こんなにも過酷な戦場で戦い、

辛さを顔に出すこともなく母港に帰って来ていたのだ。

彼女たちにとって、優しい提督の存在がどれだけ心の支えになり、

そして恐ろしい敵と戦う勇気となっていたことか。

 

(おれは……大馬鹿だった)

 

大和が提督の盾になるべく、移動を開始する。

大和へ弾の半分が飛ぶようになったおかげで、

提督はなんとか考えるだけの余裕ができた。

 

提督は、たとえ戦闘で勝てないにしても指揮することができる。

ここは最前線。今ここにいる艦娘に言葉で直接指示が出せる。

 

 

「間宮!! 予備の甲板を持ってきているな?」

 

「予備の甲板……? はっ。確かに持ってきております」

 

「おまえは翔鶴の甲板を予備と交換しろ。急げ!!」

 

 

間宮さんは、提督に頼まれて背負っていた瑞鶴用の甲板を

翔鶴にセットした。これで飛行機の離発着ができる。

 

ちょうどそのころ、翔鶴の攻撃隊が戻って来たので収容した。

みな満身創痍の酷い状態だ。無事に帰還できたのは

たったの7機……。他は全機が深海棲艦の対空射撃で撃破されるか、

被弾したため翔鶴にまでたどり着けなかった。

 

実に73機の飛行機を失った計算となる。

深海棲艦の対空能力は提督の想像をはるかに超えた。

だがショックを受けている場合ではない。

 

「俺と大和がここで敵の攻撃を引き付ける!!

 秋月以下の船は、単縦陣で移動して敵艦隊の外側に回りこめ!!

 T時有利に持ち込んだ後は、各自の判断で射撃を開始しろ!!」

 

しかし!!

 

と由良が言葉を飲み込む。

 

確かに提督と大和の耐久力なら、先ほど説明された展開は可能だ。

だが反撃する能力が足りなすぎる。

 

秋月は駆逐艦。由良は軽巡洋艦。榛名は主砲がなく副砲しか打てない。

間宮も手投げ爆弾を持っているが、敵に接近することがまずできない。 

 

翔鶴は飛行機を収容してから戦闘海域の後方へ移動している。

 

「いいから言うとおりにしろ!! 俺は提督なんだぞ!!

 俺の判断を信じてくれ!! 頼む!!」

 

「了解!! 各艦!! 面舵いっぱい!! 我に続け!!」

 

 

秋月がリーダーとなり、艦隊運動を始める。

訓練された艦隊に特有な、整然とした見事な運動だった。

 

秋月達にも敵艦隊の砲弾が飛んでくるが、こちらからも撃ち返す。

地獄絵図のように互いの陣営を砲弾が行き交い、

水面を叩き、消炎が舞う。

 

 

「ぐあっ!!」

 

提督の肩に、敵の砲弾が当たる。

続いて太ももにも命中した。

 

動きの鈍った提督に、容赦なく砲弾が降り注ぐ。

 

提督の体が宙へ浮く。

海の上で肩肘を突き、また起き上がると、また弾が命中して吹き飛んだ。

 

提督がふらつきながら起き上がろうとすると、

それを邪魔するかのように砲弾の嵐が舞う。

これでは反撃するどころの話ではい。

 

どう考えても彼我の戦力に差がありすぎる。

これでは、太平洋戦争末期の日本海軍が

米機動艦隊を相手にした時と再来である。

 

 

提督は、もう助からないと思った。

 

せめて大和だけはと思うが、大和の後部主砲が損傷して旋回不可と

なっている。副砲や対空機銃にもにもずいぶんと被害が出た。

世界で最も耐久力のあるはずの戦艦が、

これほどの被害を受けていることにますます頭が混乱しそうになる。

 

敵にも被害はある。

 

大和の主砲弾を受けた戦艦ヨーク公が大破炎上。

勇敢にも艦橋付近が炎上しながらも主砲を打ち続けていたが、

炎の勢いが弱まることはなかった。消火活動を諦め、戦列を離れた。

 

後方にいる敵巡洋艦は大和の流れ弾を食らったのか、

こちらも黒煙を上げて炎上している。

 

 

「提督~~~~!!」

 

翔鶴だ。もう艦載機が壊滅したというのに、提督を守ろうと前進してきた。

後方で待機するようにとの提督の指示に反してまでやってきてしまった。

 

のこのこと攻撃目標がやって来たので敵艦隊は

巨砲の集中砲火を浴びせる。

 

一航戦と比べて戦闘力では劣るが、史実では最も長い期間を

戦い続けた空母、戦闘経験が日本一豊富な五航戦。

 

翔鶴は、訓練通りの見事な回避運動(乙字)をして

砲弾を避け続けているが、

それでも敵の数からいって撃沈するのは時間の問題だ。

 

提督は翔鶴の献身に涙を流した。

大和も、提督のすぐそばで主砲と副砲を撃ち続けている。

 

どれだけ絶望的な状況でも少しも戦意が衰えない彼女たちは、

日本を守る本物の勇者。護国神だった。

 

彼女らが奮戦する最中、秋月隊のT時が形成された。

 

秋月、由良、榛名が射撃を開始する。

撃沈はできなくとも、せめて副砲くらいは沈黙させる。

連続砲撃で相手の目をくらませれば、翔鶴や提督に向く弾の数は減る。

 

その時、大和の主砲がハウの機関部を叩く。

ハウはたったの2分で沈没してしまった。

 

生き残った大型戦艦、ウェールズ、アンソン、

重巡洋艦が主力となって大和に撃ち返してくる。

敵艦の火力では大和の武装はともかく機関部までは貫けない。

 

大和は腕が折れ、口から血を流しながらも

鋭い眼光で敵を照準し、大砲を打ち続けた。

 

翔鶴は提督を守ろうとして逆に提督守られたため、

まだ無事だった。翔鶴は提督の指示に従い、

生き残った艦攻隊を直ちに発艦させ、

目の前にいるウェールズの直上に500キロ爆弾を落とした。

 

主砲部分に炎が燃え盛り、黒煙が天まで昇る。消火活動を始める。

たった一発の爆弾では撃沈には程遠く、すぐに火が収まりそうだ。

 

アンソンが翔鶴に目を付け、主砲を放つ。翔鶴の体が吹き飛ぶ。

 

翔鶴は腕で全身をガードしたため、服が破け血だらけだが撃沈はしてない。

翔鶴型航空母艦は耐久能力で一航戦や二航戦を大きく上回るし、

前述のとおり生死を駆けた戦いを3年近くも続けた経験があるのだ。

 

敵の駆逐艦隊は魚雷を秋月隊に放つ。

秋月、由良、鹿島も魚雷を撃ち返し雷撃戦が開始される。

 

榛名の足に魚雷が当たり、中破するが、

由良が敵駆逐艦にも魚雷を命中させて轟沈させた。

 

 

大和が皆を鼓舞するために、腹から声を張り上げる。

 

 

「全員、ひるむな!! 撃たれたら撃ち返しなさい!!

 敵にも被害は出ている!! 戦争は気合いだ!!

 気合いで負けたら絶対に勝つことはできないと知れ!!」

 

 

大和の46センチ三連装砲が、新たな獲物を見つけて回転を始める。

 

 

「次はアンソンに狙いを付ける!! 一撃で確実に撃破しろ!!」

 

 

大和は『一式徹甲弾』を発射した。

 

これは敵の目前で落ちた弾頭が、その後、魚雷として水中を直進。

敵に命中する、日本軍が極秘に開発した秘密兵器である。

 

アンソンの直前で空高く水柱が上がるが、目論見通りだった。

まもなくしてアンソンの船底(足)に徹甲弾が命中した。

アンソンは大きな波を立てながら転覆し、20秒で海の底へ沈んだ。

 

大和の射撃精度は見事だった。

 

彼女は攻撃力と防御力において世界最高なだけでなく、

射撃の腕、戦いのカンも半端ではない。

 

先ほどの一式徹甲弾は、なんと初段でアンソンを撃沈したのだ。

 

この大和型戦艦の一番型は、来るべき米英艦隊との決戦に向けて

日本帝国が国力の全てをささげて建造した。戦艦の性能のみならず、

乗組員も海軍の戦艦乗りで最優秀の人材が採用されたのだ。

 

先ほどの奇跡の一撃は、その名残だろう。

 

 

それにしても、さすがに敵部隊の数が多すぎた。

 

敵の大艦隊は単縦陣で移動して、

逆に提督達に対してT時を取ってきた。

 

狙いをそれぞれ翔鶴と提督と大和にしぼりこむ。

 

ウェールズを先頭とし、それに続く多数の重巡洋艦、

駆逐艦隊が続けざまに猛烈な射撃を開始する。

 

大和は撃沈こそしないが被弾数が70発を超え、

肩膝を突きながら血を吐いた。

 

主砲は後部を含めた二つが撃破され、

あと一つしか残っていない。

 

提督は、両足が折れてしまった翔鶴を

自分の背に隠して敵弾に耐え続ける。

 

 

ふぅ……。

 

と提督は息を吐いた。

 

頑丈な提督でも骨がいくつか折れていた。

大やけどを負った左の腕が重い。

海の上に人間が無理に浮いているのもさすがに疲れてきた。

 

さすがにここまでかと思った。

 

秋月隊にT時を取らせたのも、翔鶴が第二次攻撃隊を

発艦させるための時間を稼ぐため。翔鶴の反撃が、

実質この艦隊にとって最後の反撃と言ってよかった。

 

混戦の最中、大和の奮戦で敵戦艦を二隻も

撃沈できたのは嬉しい誤算だった。

 

 

自分達がこの海域で全滅するのは予定の通り。

提督がしたことは、自らしたことの責任を取ること。

 

本来の横須賀の戦力ならば、30隻程度の敵艦隊なら

余裕で全滅させられた。それができないのは、自分自身の

結婚生活を維持できずに、その結果空母を壊滅させてしまったからだ。

 

 

翔鶴は大破してしまった。あと一撃を食らったら沈没する。

 

もう、ここまでだった。

 

みんな、よくやってくれた。

 

大和はどれだけ多くの敵弾に耐えたのか。

由良と秋月は魚雷を打ち切った。

鹿島は身を犠牲にして翔鶴を救った。

間宮は立っているのがやっとの状態だ。

榛名は最初から戦える状態ではない。

 

その時だった。キングジョージ五世級、

アンソンが突如自爆し、あっという間に沈没を始めた。

 

「よっしゃあ!! あたったよおお」

 

イムヤ達の魚雷攻撃だった。潜水艦部隊は、潜水の深海棲艦を

撤退させることに成功し、こちらに戻って来た。

ウェールズ艦隊にとって完全な奇襲となった。

 

敵の主力艦は、残すはウェールズのみだが、

まだまだ巡洋艦と駆逐艦が山ほどいる。駆逐艦隊は、

すぐにイムヤたちに爆雷を投下し始め、ますます混戦となる。

 

 

そこへ、敵機が襲来してしまった。

 

 

敵空母の攻撃隊である。

補給と短い休息を終えた、600機を超える大編隊だ。

 

あの大和や秋月でさえ、死を覚悟した。

恐怖のあまり手が震え、射撃の精度がにぶる。

 

どれだけ自分を奮い立たせようとしても、水上艦である

彼女達では飛行機の爆弾や魚雷には勝つことができないのだ。

 

二艦は、史実でも米空母艦隊の圧倒的な数の力で攻撃された経験を持つ。

だから、今日ここで自分たちが死ぬんだと悟った。これで二度目の死になる。

 

 

その時、提督の体に敵の大砲が命中し、吹き飛んだ。

 

指揮官が意識を失ってしまった。本当にこれまでのはずだった。

 

だが奇跡は起きた。

 

 

『提督』

『愛しのあなた』

『提督さん!!』

『提督~~』

『提督さんたら、こんなところで寝てしまって』

 

海に倒れて浮かぶ提督の周りに、複数の空母が立っていた。

 

死んだはずの赤城、加賀、蒼龍、飛龍、瑞鶴、瑞鳳、鳳翔だ。

 

 

提督は、クルアーンの魔術で死んだ人を呼び覚ますことができる。

彼は地獄の砲雷撃戦の中で、翔鶴が大破した時、

確かに正規空母を始めとした彼女たちがいてくれたらと思った。

そうしたら、本当に出てきた。

 

彼女たちは実体のない幽霊だったが、提督達を救うために

飛行甲板から艦載機を発艦させ、敵を攻撃することができた。

 

伝説の第一航空戦隊、第二航空戦隊、歴戦の兵の鳳翔飛行隊が

主力となって空を舞い、大混戦となる。

不意を突かれた敵航空隊は、面白いくらいに簡単に撃墜されていく。

提督はこの瞬間、神が確かに味方してくれたのだと思った。

 

この世界は、自分を戦場で死なせるようにはできていない。

大和とも、別れるようには神が望んでなんかいない。

そこまで考えたところで意識を失った。

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