――☆――
「はぁ――」
コンビニでのお仕事からの帰り。漸く見えてきたアパートの屋根が目に入って、思わずため息が零れてしまった。
「――って、ダメダメ!」
立ち止まり、自分に言い聞かせながら両手で頬を軽く叩く。冷たい夕風で凍えた肌に、小さな痛みがぴりぴりとよく響いた。
弦巻さんのコンビニで働くのは今日で二日目。
「……まだまだ慣れないなぁ」
おにいさんや弦巻さんは「そこまでお客さんは多くない」と言っていたけれど、それはきっと都会のコンビニと比べての事なんだろう。
確かにお客さんが店内にいない時間もあった。けれど、お昼時にはお弁当を買いに来たお客さんがレジに並んだり、近所のおばあちゃんからレジで話しかけられたりと、初めて会う人がたくさんいて。それが新鮮で楽しくもある一方、ちょっと疲れてしまうのも事実だった。
しかも精神的に疲れているだけならまだいい。
(昨日なんて、帰ってご飯食べたらいつの間にか寝ちゃってたし……)
生体型ボイスロイドはその構造の多くを、人間をベースとして作られている。
それはより人間らしく、人間が持つ構造的な強みを生かすためであるのだが……同時に、その欠点も幾分か受け継ぐことになってしまっていた。例えばそう、身体を使わないと体力が落ちてしまう、といった具合に。
最終メンテナンス以降、殆どの時間をおにいさんの家で過ごしてきた自分の体にとって、いきなりの立ち仕事はあまりにハードだったらしい。
(時間的にご飯を用意できないのは仕方がないとして、片付けも手伝えなかったし、卓袱台で寝ていた筈なのにいつの間にか布団の上にいたし、今日も朝起きたら朝食も用意してくれてたし、昨日入れなかったからって態々お風呂まで沸かしてくれてて……)
家の事もバッチリやって、その上で……なんて予定はあっさりと崩れてしまっていた。
おにいさんは「初めての事はなんでも疲れるものだから」って言ってくれたけど、いつまでもそれに甘えている訳にもいかない。
だから、小さく拳を天に突き上げて覚悟を決める。
「今日は帰ったら、ぜーったい、寝落ちない! そして、片づけも手伝って疲れた所をみせないぞ、おー!」
「――そっか、じゃあ結構脚とか疲れが溜まってるんじゃないか? 良かったらマッサージでもしようか?」
家での食事中。おにいさんの言葉に、私の決意は早速揺らいでいた。
きっかけは今日のお仕事の話をしていた時の事。私がまだ要領良く出来なかったせいで、弦巻さんまで巻き込み、一日中ほとんど立ちっぱなしになってしまったというくだり。
おにいさんが箸を止めて、少し心配そうにこちらを見つめながらそんな事を言ってきたのだ。
「いえ、でも……私がやりたいって言ってやってる事ですから」
少し言いよどんでしまったのは、そしてもらえたら気持ちいいだろうな、という考えが頭を過ってしまったからだ。今も意識してしまっているせいか、おにいさんの大きな手に視線が吸い寄せられてしまう。
「いやいや、それならマッサージだって俺がやりたいだけだしさ」
そんな事を言われると、思わず甘えたくなってしまいそうだ。少しずつ傾きかけている心の天秤を押さえつけながら、断わる口実を探す。
「でも……結構凝っちゃってますし、多分大変なんじゃないかなーって……」
「そんなに凝ってるなら、むしろ早いうちにちゃんとほぐしとかないと明日に響くんじゃないか?」
しまった。ますますおにいさんの顔が心配そうなものになってしまう。箸の動きは再開しているけれど、どちらかというと早く食べ終わってしまってマッサージしようという感じのペースだ。
「でもでも、明日――」
明日はお仕事無いですから! と言おうとして、それはつまり久しぶりにおにいさんと一日一緒にいられるのでは、と気付いてしまう。
……確かにこのままでは、久しぶりに一日一緒にいられるのに、筋肉痛で横になっているだけなんて可能性も十分在り得る。
気付いた瞬間、心の天秤がカタン、と逆側に傾いた。
「――明日まで疲れを残すのは、やっぱり良くない……かも?」
「だろ? じゃあ食べ終わったら早速始めるか」
―――――――
ご飯を食べ終わった所で、マッサージするにも身体を温めた方がいいと、言われるがままお風呂に入って。
和室の襖を開ければいつも寝る時とは少し違い、おにいさんの布団だけ真ん中に敷かれている。
その端に座っていたおにいさんはこちらに気付くと、布団をぽんぽん軽く叩いて私を呼んだ。
「お、上がったか。じゃあ早速ここにうつ伏せで横になって」
「このままの恰好で、ですか?」
「そ、そのままの格好で」
今の私はバスタオルを体に巻いただけ。それなのに、おにいさんはさもそれを気にしていない普段通りの様子で、きゅっと胸が締め付けられた。
別に裸を見られるのが恥ずかしいわけじゃない、むしろ見られるのは歓迎だ。
そうではなくて、最初シャツ一枚纏っただけの姿でも顔を赤くしてくれていたのに、今は平然としているのが少し寂しい。
「どうした?」
「あ、いえ……!」
沈んだ表情を浮かべてしまっていなかったかと慌てながら、顔を見られないようそそくさと布団の上へ横になる。
「よし、それじゃあふくらはぎからいくぞ?」
幸いおにいさんは気付いてないようだ。と、ほっとしたのも束の間、足を持ちあげられて、次いでぐっと押される感覚がふくらはぎにじんわり響く。
まるで痛いような、くすぐったいような、なんとも言えない奇妙な感覚。
「あっ、ちょっ……んんっ!」
反射的に脚を捻って逃れようとして――おにいさんが手に力を込め、動けないように固定されてしまう。
「マッサージ初めてで変な感じするのは分かるけど、動かれると危ないからさ」
おにいさんはそう言いながらも少しずつ場所を変えて、張ったふくらはぎ全体を押していく。
「で、でもっ……んぅっ、んっ……ひゃ、ぁっ」
思わず変な声が出てしまい、口を手で抑え込んだ。別におにいさん相手なら、恥かしい声なんていくら聞かれてもいいと思っていたのに――
(何、コレっ……思わず声、出ちゃって……やっ……)
えっちなことをするつもりが無かったせいで、心づもりが出来ていなかったからだろうか。それともえっちなことなんてされてない筈なのに、えっちな声が出てしまっているせいだろうか。
(すごく、恥かし――ッ、あぁんっ?!」
いつの間にか伸びてきていたおにいさんの手が、口を押さえていた手を引き剥がして、再び喘ぎ声が漏れてしまった。
「しっかり呼吸しないとマッサージの効果が薄くなるから、手は体の横にな。声は別に出てもいいから」
優し気な語調とは裏腹に、手首を掴む掌は大きく力強い。抵抗する間もなく手を体側に戻された。
(何か、今日のおにいさんちょっと強引っ……えっちの時も、こうならいい……のにっ)
そんな風におにいさんとのえっちを思い出してしまったせいだろうか、自分でも気付くくらいに声が蕩け始めていた。
「あふっ、んっ……はぁっ……!」
一度意識してしまうと、どんどん身体が熱を帯びていく。
敏感な場所を触られた時みたく、快感の高波が襲ってくるわけではない。けれど、穏やかな海岸線に打ち寄せる波のように、小さな気持ち良さが少しずつ下から這いあがってくるみたいで。
「よし、ここはこの辺でいいだろ」
ぼーっと夢見心地でいる間に、おにいさんの手がふくらはぎから離れてしまう。
「あっ……」
思わず肩越しにおにいさんへと振り向くと、目の合った彼は苦笑し、頭をくしゃりと撫でてくる。
「大丈夫、そんな顔しなくても次の太腿をマッサージするために、ちょっと座りなおすだけだから」
言われて、自分がひどく物欲しそうな表情を浮かべてしまっているのに気付く。恥かしさに慌てて顔を元の位置に戻すと、ふくらはぎにずしりと温かな重みが乗った。
「力入れやすいようにここ座るけど、大丈夫か? 重くないよな?」
「っ、うん……大丈夫……」
両脚を挟み込むようにおにいさんが私の上へ座っている。いや、座っているというよりこれは……
(……なんか、動けないように固定されちゃってるみたい)
どくん、と心臓が大きく跳ねた。
まるでそのタイミングへ合わせるように、太腿へとおにいさんの手が乗せられる。
生体型が人間の構造を元にしている以上、体の下から上へ行くにつれてだんだんと感覚が鋭くなっていくのも変わらない。ふくらはぎの時よりも、しっかりとおにいさんの手が感じられてしまう。
大きくて、すこし節くれだっているおにいさんの手。
「――良し」
張り具合を確認するように軽く太腿を圧すだけだったその手に、掛け声と同時に力が籠った。
膝裏のちょっと上から始まり、少しずつ上方へ移動しながら、ほぐすように揉み始める。
「あっ……そこっ……」
太腿の中ほどまで来たくらいだろうか、ふくらはぎと違ってこっちは疲れてないのかも……と思っていた所に、じんわりとほぐされるような感覚が広がる。
「痛いか?」
「んんっ……そうじゃなくて、ちょっと痛いけどっ……気持ち良くて……」
「ここだな? それなら、少し強めに続けるぞ」
太腿の後ろと言うよりは少し内側。一度止まった手が、宣言通りぎゅうっ、ぎゅうっ、と疲れを絞り出すようにそこら一帯を揉んでいく。
「はあぁ……んうぅ……はふぅ」
力を入れられる度に、自然と口から緩み切った声が漏れてしまう。
「そんなに気持ちよさそうにされると、こっちもやり甲斐があるな」
おにいさんは楽しそうに笑いながら少しずつ揉む場所を上へとずらしていく。
そう、股関節の方に。
(――っ)
いつの間にか閉じてしまっていた目蓋の裏に、おにいさんの両手が秘所へと近づいてくる様が過った。
癒されるような心地良さに、妖しい気持良さが混じり始める。
「んっ、んんっ……は、あぁっ……くんっ……」
疲れを吐き出すようだったため息が、鼻の奥から脳髄を揺らすような高い喘ぎに変わっていく。
湯上りでぽかぽかとしていた肌が、内側から湧き上がる熱で汗をにじませる。
(ダメ……なんだか、えっちな感じ、が……っ)
今やおにいさんの手は、タオルを捲るか捲らないかというきわどい所まで迫っていた。
ぞわりと肌が粟立つ感覚が腰まで広がる。太ももがピクピク小さく痙攣する。
(これ以上、されたらっ……)
そんな切なる願いとは裏腹に、おにいさんはとんでもないことを口にした。
「太腿の付け根で疲れが溜まっちゃうらしいから、ここは特に念入りにするぞ」
「んぅっ!? そん、ああぁあぁっ……!」
甘い絶望に抗議しようとして、その弾みに押さえつけていた快感が溢れてしまう。
背筋が反って、頭が白む。
「邪魔だからタオル、取っちゃうな」
その隙をつくように、身体を隠していた唯一の布まで解かれてしまった。
お股に感じるひやりとした感覚は、そこが汗ではないもので濡れている何よりの証拠で。
……ごくりと、背後で嚥下する音。
「付け根もやってくぞ」
おにいさんはさっきまでと同じように話しかけて来る。けれど、喉を鳴らす音と、少し低くなった声は聞き間違いじゃない。
(やっぱりバレてる……っ)
声だけじゃない。大陰唇を掠めるように脚の付け根をおにいさんの手は揉んでいるが、もうそこまで潤滑液が溢れてしまっている。現に、にちゅっ、ぬりゅっ、という今までとは違う粘着質な音が部屋に響いていて、気づかれていないはずが無かった。
(おにいさん、今、何考えてっ……)
明らかに分かっている筈なのに、それを無視するようにマッサージを続けられている。
快感に痺れる頭にいろんな可能性が浮かんだ。
マッサージだけでこんなに濡れるなんて、えっちすぎると引かれてないだろうか。
でも、つばを飲み込んでるって事はそれでも興奮してくれてるんだろうか。
それとも、マッサージは口実で、実は最初からえっちな事をするつもりだったのだろうか。
でもでも、それなら最初から誘ってくれればいいのに――それとも、この間上手くできなかったから?
興奮に水を差すように嫌な考えが浮かびかけ、思考が自分の内側へ向かいそうになった所だった。
「んっ?! あっ……そこ、は……」
おにいさんの指が、秘裂をなぞり上げる。
一瞬間違って当たってしまっただけかと思っていたが、そうではない。
「んぅ、やぁ……く、ふぅ……」
二度目、三度目。一定のリズムで、しかもどんどん秘所に触れる指の本数も面積も増えている。
にゅぢっ、にぢゅっ――卑猥な水音と、大仰な呼吸音だけが部屋の中に響いた。
(っ……もしかして、おにいさんも興奮して……)
聞こえる呼吸音が喘ぎが混じった自分のものだけじゃないことに気付くと、太腿をいつの間にか押していた硬い物の存在にも気づく。
更にじゅんっ、と愛液が溢れるのが分かった。同時に、大きくおにいさんが息を呑んだのも。
「……悪い、あかり。マッサージするの脚だけのつもりだったんだけど、こんなの見せられたらさ……中もマッサージしていいかな?」
あかりちゃんはもちもちしてて絶対揉み心地いいと思う。