ぢゅぷっ、ばぢゅっ、どぢゅっ!
言い終わらない内に、容赦ない水音が腰へと叩きつけられた。
「おぐぉっ、ぎっ、あ゛ぁ……っ!」
電気椅子に座らされたみたいに全身が跳ねる。
「全く、何でいきなり意地を張り出したんですか? まさか男の意地なんてつまらない理由じゃないですよねっ? ほら、早く無駄な抵抗は止めたらどうですっ? ほら、ほら、ほらっ!」
両手を胸の上に置いて跳ねまくっているせいで、股間だけでなく心臓まで圧迫され、容赦なく血液が心臓から逸物へと流し込まれた。
限界以上の送血量に、肉棒ががミチミチと張り裂けそうな音を立てる。
けれどそのせいか、あるいは空撃ちを繰り返させられたせいか、正座した後の脚みたいに肉棒が痺れて、快感が和らいだ。
動ける――手をしっかりと握りしめれることを確かめ、腰を持ちあげられた瞬間を狙ってゆかりさんの太腿を捕まえた。
そのまま勢いよくベッドへ押し付けながら、下から震える腰を持ちあげる。
「――っ?! んぁぁッ!!」
ゆかりさん自身が腰を下ろそうとする勢い、太腿を押し付ける力、腰を持ちあげたことによる僅かなタイミングのズレ。それらが合わさりとうとう初めて、嘘偽りのない嬌声が彼女の口から零れた。
さっ、と手の甲で口を隠しても手遅れだ。
「悪いけどっ……これ、練習なんだろ、っ……だったら別に、ゆかりさんをイかせてもっ、俺が射精する必要は、無いよな……っ」
驚いたように丸く見開かれた目が攻撃的な鋭利さに絞られる。
「……確かに、そうですね。そうでした、そういう名目でした」
「? 名、目、ぅうぅぅぅっ――!?」
だが、疑問を追求する暇は与えられない。太腿へ手を乗せられたまま、反撃されるリスクもいとわずゆかりさんは再び腰を持ちあげた。身体を支える手は胸から腹へとスライドし、その分より高く腰が上がる。
自分でも見たことのないほど赤黒く腫れあがった亀頭が、久しぶりに生暖かい外気へ触れた。
「はぁっ……では、どうぞイかせてみてください。尤も、いつものようにイったふりはもうしませんけど」
「くっ……今は我慢してるだけの癖に……っ」
根拠の無い煽り文句に、ゆかりさんは全体重で応えた。
ぢゅぱんッ!!
「がっ……くぉ……っ!」
水音と肉の爆ぜる音が混ざる程に勢いよく。粒立った襞肉が重力と共に高速で叩きつけられ、細かな凹凸の擦れはバイブレーションとなって亀頭から根元までを震わせた。
麻痺を上書きするような快感の微振動が腰の奥まで貫徹し、尿道の奥に押し込められた精液を暴れさせる。
けれど、苦しいのは自分だけではない。歯を食いしばって目蓋をカチ開けば、ゆかりさんが目を眇めて内腿を戦慄かせているのがはっきりと見えた。
「ふっ……どうです? 気は変わりましたか?」
余裕そうに鼻を鳴らし、ゆかりさんはもみあげを掻き揚げる。嘲笑に見せかけようとしていたが、吐息にはっきりと熱が籠っているのが分かった。
渾身を持って腰を衝き上げる。
「んぅっ……!」
気持ちほど力が入らず数センチ上へと押し上げる程度の動きしか出来ない。にも拘らず、余裕の笑みが悩まし気に歪んだ。
(行ける――!)
もう一撃を加えようと腰を押し上げて、だが今度はそれより早く彼女の腰が浮き上がり――叩きつけられる。
ぶぢゅっ!
先ほどよりも重たい水音が響いた。
「好き勝手されたら、はっ、困りますよ?」
「……最初は、私をイかせてみてとか言ってた――ぐぉっ……!」
ばぢゅん! どぢゅ! ぢゅずっ!
無言で再び容赦ないピストン運動が再開される。
「くぉっ……それは、ズルっ……いっ」
ゆかりさんは口を横一文字に結んで、話す気はないと言わんばかりに淡々と腰を叩きつけ始めた。肉付きの薄い尻肉がそれでも揺れて、太腿に叩きつけられる勢いに胸板まで生暖かい粘液が飛び散る。
ペースも早く、抵抗しようにも腰が重くて早く動かない状態では反撃も出来ない。それでもなんとか腰を浮かせれば、次の瞬間には布団へと撃墜され、上からだけでなく下からの衝撃が腰の奥でぶつかり合った。
手でも動きを押さえつけようと力を入れている筈なのだが、ゆかりさんの跳ねるペースは一向に落ちる気配が無い。
何か、何か反撃の手段は――
「く、あっ……ゆかりさん、って、スタイルっ、いい、よな……」
思い出したのは、よりによってゆかりさんからアドバイスを貰い、あかりと上手くいった時の記憶。
あかりが自分に好意を寄せているからこそ、言葉だけで肌を上気させ、蜜を溢れさせるまで感じたのだとは分かっている。だが、ゆかりさんにもせめてその何分の一かでも効果があればと、回らない頭は考えてしまった。
「……何ですか、急に?」
ゆかりさんは機械的に腰を動かし続けながら、不機嫌さと怪訝さの混じった目で冷ややかに見下ろしてくる。
「心にもない事を無理に言う必要はっ、ないんですよ? あかりちゃんのように、私は大きく、無いですしっ……」
「そうじゃなくて、ぐっ……ゆかりさんはっ、腰のくびれとか、綺麗でっ……顔もいいし、モデルみたいで……っ」
何とか喉から言葉を絞り出す間にも、容赦なく機械的に上下動が繰り返されていた。
「それはっ……設計段階での、デザインが良かっただけです……元は受付用が、コンセプト、ですからねっ……企業の顔として、最低限……っ」
腰を打ち付けるたびに声が跳ねるが、それも規則的で。それどころか口調の温度はどんどん下がっていく。
けれど、ゆかりさんとの記憶を思い出すのに精一杯だったせいで、そうでなくとも頭はとうに苦痛と快楽でぐちゃぐちゃで、その違和感に気づけなかった。
「それに、なんだかんだ言って、気を使っては、くれてっ……、優しくは――無いけど……っ、いや、優しい所も――」
「――うるさい」
割り込むというより切り捨てられるように黙らされた。
今まで聞いたことのない、凍てつく刃物みたいな声。
ここに至って、遅まきながら彼女の様子がいつもと違うのに気づく。
「いい加減、思ってもいないことを延々垂れ流すのは止めていただきませんかね」
いつの間にか動きを止めて俯いていた彼女は、はぁっ、と深くため息をついて顔を上げる。
酷く冷たい目だった。
いつものからかう様な輝きも、蠱惑的な艶めきも、自信ありげな煌めきも、そこにはない。
そうでありながら、怒っているわけでも軽蔑しているわけでもない。
紫の瞳は静かに開かれているだけだった。
人形にはめ込まれたガラス玉みたいに、ただ部屋の薄暗さを映し、黒々とした闇を湛えて。
「いや……別に、思っても無い事なんて……」
今度は溜息すらつかず、彼女は静かに口を開いた。
「ええ、お世辞だと言うのは分かっています。そしてそれが、私を善がらせようという目的だという事も。身体を碌に動かせなかったからそういった手段に訴えたのだろう事も。恐らくあかりさんとの経験の結果としてその行動を選択したことも」
最低限の抑揚だけの淡々とした列挙は、反論を許さない滑らかさで。まるで思考を読んでいるかのように、彼女の口にしたことはほとんどその通りだった。
そこで一度区切って大きく間を置いたのも、一呼吸付ける為と言うよりは、「その通りでしょう?」と言い聞かせる為のように感じてしまう。
「性交渉に言語的なコミュニケーションが含まれることは理解しております。本来ならそれを想定して然るべきであり、戯言と聞き流すべきであることは理解しております。ですので、申し訳ありません。これは貴方のせいと言うよりも私の不出来によるものです。――ただ、それでも流石に不愉快だと申し上げます」
堅苦しく突き放すような言葉に反して、表情はピクリとも動かない。録音された音に合わせてただ口を動かしているだけのような違和感すらある。
辛うじて瞬きこそあるものの、それだってリピート再生されているように周期的だ。
何も言うべきではないと思いながらも、その不自然さに思わず口が動いてしまう。
「ゆかりさん、は……自我個体なんだろ……何で、そんな……」
機械みたいな――とは続けられなかった。
ころころと変わる感情、つかみどころの無い本音、自分の身体を使う事への躊躇の無さ。
そう言った彼女の苦手だと思っていた部分が、違和感が、そうだと考えてしまうとあまりに自然なような気がしてしまったから。
「ええ、自我個体ですよ。尤も、貴方の彼女であるあかりさんみたいに高等な自我がある訳ではないので、失敗作のようなものですが」
そう言って、彼女はにっこりと優し気に微笑む。
今までごく当たり前に見ていたその表情自体は前と何一つ変わらない筈なのに、突然人形が動き出した時のような不気味さを感じてしまった。
「……いえ、自我個体自体もいわば規格から外れた存在。つまり私は、失敗作の中の失敗作と言ってもいいかもしれません」
怯んで言葉が出せないでいたものの。その発言は流石に聞き逃せなかった。
「自我個体は、失敗作なんかじゃ無いだろ……!」
確かに商品として見れば、アンドロイドは命令へ忠実に動くだけの存在であることが望ましいのだろう。
ボイスロイドだって、その受け答えが人間らしいだけで、企業から見ればその本質は変わらないのかもしれない。
けれど、それでも――
ゆかりさんも、すぐに自らの失言に気付いたらしい。苦虫を噛み潰したように苦し気な表情を浮かべ、視線を暫く彷徨わせてから、申し訳なさそうに唇を噛んで目を合わせた。
「……そうですね、今のは失言でした。ごめんなさい。あかりちゃんの事を悪く言うつもりは無かったんです」
深々と、腰から頭を下げるゆかりさんを前に、何もいう事は出来なかった。
何も言われないことを赦されていないと解釈したのだろうか、やや沈黙があって彼女は頭を下げたまま続ける。
「ただ、自我個体はやはり本来想定されてない結果の存在であることに代わりはありません。だからこそ、その自我は規格化されていないんです」
俯いても聞こえ易いようにという事なのだろうが、腹から出された少し低めで大きな声が身体に響く。
「くっ……」
「……つまり、各個体が持つ自我には差があるという事に他なりません」
「あぁ……っ」
「勿論人間も同じパーソナリティは存在しないでしょう。ですが、そのような種類としての差はもちろんの事、いわば自我の完成度合い、いわばレベルがあるという事です」
「うぅ……」
「安心してください、あかりちゃんは大丈夫ですから。人間とほぼ――いえ、全く同じレベルと言ってもいいでしょう。それは保証します。ですが――」
「待っ……!」
その先を言わせまいと呻くが、焦って先ほどから乱れっぱなしだった呼吸が詰まってしまう。
その間へ滑り込むように、ゆかりさんは続けてしまった。
「――ですが、私は不完全な自我しか持っていないんです。あなたとも、そしてあかりちゃんとも同じではない。自我個体が意図しない完成品だとすれば、やはり私は失敗作なんです」
自分を失敗作と卑下するその声は、不思議と落ち着いているような気がした。あるいは冷めていると言ってもいいのかもしれない。同じことはもう何度も言って、とうの昔に慣れてしまったというように。
「貴方の一番身近な自我個体はあかりちゃんですから、仕方ない所はあると思います。ですけど、出来る限り私をあまり人間の様に扱わないで欲しいんです。混乱してしまいますから」
「っ、いや――」
殆ど一方的に喋られ続けてもう限界だと口を開いたところで、それより先に髪が擦れ、ゆかりさんが顔を上げたのが分かった。
「嫌だと言われても、申し訳ないですが、これだけは私にも譲れな――い……?」
……とうとうこちらの状況に気付いたゆかりさんは、案の定絶句した。
あんな事を言ってはいたけれど、その表情は目を丸くして、喋りかけた口をそのままぽかん、と間抜けに開け放した酷く人間臭い物……のような気がする。
何故推定なのかと言えば、さっきから天井を仰いでいるせいでまともにゆかりさんの方を見れないから。
「――ほんとっ、くっ、本当、真面目な話してるのにっ、ごめん……! けど、さっきから、あぁっ、ゆかりさん、話す度に、うぅ……めっちゃ、キツくて……っ! うくぉっ……!」
なにせゆかりさんの中に収まっていた逸物が、話している間ずっときゅうきゅうと締め付けられまくっていたのだ。
最初こそこんなことで話を中断させる訳にはいかないと我慢していたのだが、ゆかりさんが頭を下げてからは一段と締め付けが増し、しかもそ声を出すたびに緩急を付けて襲いくる。言っている言葉の意味が理解できただけでも奇跡のような状態になってしまった。
最早なりふり構っていられないと、話を止めようと思っても既に呼吸が乱れてまともに声が出ず、さっきまでのやり取りも相槌というより、実の所ただただ呻いているだけで――と、そこまで喘ぎ喘ぎ何とか説明した所で、ようやく一息ついて顔を戻す。
あまりにも情けない事情に、ゆかりさんは何とも言えない微妙な顔をしていた。
「えぇー……」
ここら辺、後で直すかもしれません。
書いているときの私はなぜエロとシリアスを混在させようとしたのか……