そりゃそうだ。真面目な話を黙って聞いてるかと思ったら、ただ単にイくのを我慢していただけとか、逆の立場でもそんな顔をすると思う。
いつの間にか蝋燭も消えた薄暗い部屋に、ただただ気まずい沈黙だけが重苦しく空気を澱ませていた。
どうしよう。やはりこんな空気にしたのは自分なんだし、責任を取るためにも何かこちらから言わなければと、覚悟を決めて口を開きかかけた丁度その時。
――ピリリリリリリリリリリ!
耳に付く甲高い警告音が鳴り響く。
すわ火事か、地震警報かと跳ね起きようとするも、ゆかりさんが上に乗っているせいで動けない。一方のゆかりさんは落ち着き払ってこちらの頭上に手を伸ばして携帯端末を取った。
「はい、こちら技術部回収課、Δチームのユカリです」
(いやただの電話かい!)
何て紛らわしい着信音を設定してるんだと突っ込みたかったが、話し方からして仕事の電話なのだろう。舌先まで出かかった言葉をグッと呑み込む。
それにしても、先ほどまでの諸々などまるで無かったような落ち着いた応対だ。
(というか、よく考えたら今もまだ入ったまま喋ってるのか……)
自分の下半身に視線を落として、繋がっているのを確認し、再び視線を上げる。
電話越しにもキリっとした美人が、実は男の物を咥え込んでいる。
「んっ――すいません、大丈夫です」
思わず肉棒が跳ねてしまい、すごいジト目で睨まれた。
「了解しました。準備してすぐにでも向かいます――で、弟くんは何してくれてるんですか!」
「いや、本当に今のは悪かった! 仕事の話っぽかったらあんまり聞いたら不味いよなって意識を他の所に向けたら――その、何か真面目に仕事してる裏でこっそりって、なんか、こう……うん」
「知りませんよそんなの! そういうことはあかりちゃんとやってくださいよ!」
「いやもう本当にその通りです……」
何一つ反論する余地などない、圧倒的正論である。
「本当に……いえ、私も責任が無いわけではないですけど……。兎も角、申し訳ないですが緊急で仕事が入ってしまったので、今日の練習はここまでという事で、少し失礼します」
ゆかりさんは余程急いでいるのか、そう言うや否や立ち上がろうとし――
「ちょっ!? 待った! 今立ち上がられたらヤバいんだって」
――慌ててその肩を押さえ込む。
「何で私が立ち上がったら弟くんが――って、ああ! そうでした……」
こちらの視線を辿り、そこにある物をゆかりさんも思い出したらしい。
ずーっと根元を縛られ、いたぶられ続けている哀れな半身の事を。
先ほどから限界以上の我慢を強いられてきた愚息は、頭痛がしそうなほどの快楽を今も脳へと叩きつけてきていて。しかも引き抜かれかけて少し覗いた竿自体も、普段より若干黒ずんだまがまがしい色と化していた。
「こ、これ……大丈夫なんだよな? ”取れ”たりしないんだよな?」
不安に駆られて恐々と結合部から視線を上へ移動させる。
いや、なんだかんだ言いつつゆかりさんだって経験豊富っぽいし、加減はしてくれてるだろう。だから「大丈夫ですよ」という悪戯っぽい余裕のある回答を期待していたのだが。
「ぇ、や、ど、どうしましょうか……コレ……?」
ゆかりさんは、オロオロと慌てたような表情でリボンを引っ張りかけては止める、というのを繰り返していた。
「え゛っ、ちょ……? いや、えっ?」
予想を裏切られて、冷や汗が背筋を伝う。
「あの、解いて大丈夫そうですか……?」
「いや、知らないよ! っていうか結んだのゆかりさんなんだから、そんなの知る訳ないだろ!? というかこういうのはゆかりさんの方が慣れてるだろ?!」
「ゆかりさんだって知りませんよ?! 知らないから体感で大丈夫そうか聞いてるんじゃないですか! というか人を勝手にヤりまくりみたいに言うの止めてくれません!? 女の子を家に上げたその日に襲う弟くんみたいに、ゆかりさんは節操が無いわけじゃないですから!」
「じゃあ何で結んだんだよ!」
「それはさっさと弟くんが降参してくれる筈だったからです! 何でこんなことになるまで粘ってるんですか! 馬鹿じゃないんですか?!」
「いやそれ完全に逆切れ――お゛っ……?」
口論のはずみでゆかりさんが少しリボンを引っ張ってしまったらしい。突然ドクンドクと腰から熱い脈動が全身を震わせ、全身が戦慄く。
「あっ……だ、大丈夫――ですか?」
恐々とゆかりさんは身を乗り出して、天を仰ぐ顔を心配そうに覗き込んでくる。
「分か、らんっ……! けど、多分、これ、小出しにされたら、マズい……」
溜め込まれ過ぎた快感が容赦なく神経を焼き切る様が幻視された。今回は意志の力で何とか耐えきったが、こんなの何度も繰り返していたら、コレでしかイけない超絶ドドドM大王になってしまうのは間違いない。
それならいっそ、次の一回を全力で耐えきった方がまだ目がある、との判断だった。
そんな男の覚悟はしっかりとゆかりさんにも伝わったらしい。唇をきつく結んだ彼女の喉が、ゴクリと唾液を嚥下する。
「……分かりました、何かあったら責任は取ります。……あかりちゃんの事から、ご家族へのご連絡まで」
「いやあの勝手に殺すのは止めてくれない!?」
あと両親に絶対死因は言わないで欲しい。息子さんが腹上死しましたとか――絶対あの両親なら抱腹絶倒するに決まっている。
「じゃあ、行きますよ――?」
時限爆弾のケーブルを切るような慎重さで、彼女の指がゆっくりリボンの端を掴んだ。
「引くのは、一気に頼む……っ」
――しゅるっ
小さな布が擦れる音に続いて、臨界寸前の火薬庫が爆発した。
「おっ――ごっ? っ――――」
頭が一瞬真っ白に染まり、そして怖い程の脱力感が襲ってくる。
苦しいすら超えて、肉の檻から精神が解き放たれたように伸びやかな感覚が、全身を柔らかな幸福感で包み込んだ。
(あ、死ぬかも――)
自然とそう思ってしまう、安らかな感覚。この状態が後少しでも続いていれば、絶頂を通り越して本当に昇天していたかもしれない。
けれど、幸か不幸か抑圧に抑圧を重ねた精液はもう肉体の意志など関係なかった。
どぷぅっ! どびゅぱっ! どぐんっ、どくどくどく――っ!
「――――ぉお゛ッ!!」
天国から地獄へ、尿道を拡張される激痛に文字通り声すら出せない。半固体と化した精液の塊がビーズのように連なって駆け抜けていく。
こんなに早く終わってほしい射精は人生で初めてだった。
「――はぁっ……! 生きて……る……っ」
漸く喉から音らしきものが発せられたのは……いや、呼吸が再開できたのは、長く苦しい射精が終わってからだった。
荒い呼吸を落ち着けながら、天井一面に広がる幻の星を消し去る為に強く目をしばたたかせて。そこで腹部に痛みを感じる。
と言っても懸念していたような内側の内臓的な痛みではなく、外側の皮膚に対する痛み。
上に突き出していた顎を元の位置に戻すと、そこにはまだ空を向いてぷるぷると全身を震わせるゆかりさんがいた。
「あぉぉっ……! んくぅぅっ……!」
彼女は真っ白な肌を全身ほんのり赤く上気させ、唇を噛みしめた彼女は何度も背筋を痙攣させていた。
お腹へ感じる痛みはその痙攣に合わせて強弱を繰り返していて、腹の上で握りしめかけた手の爪が引っかかっているせいなのだと気付く。
「大丈夫……か?」
痙攣が落ち着くまで待ってそう聞くと、長い溜息をついて、ゆかりさんが疲れたような顔でこちらにもたれ掛かって来た。
「全ッ然大丈夫じゃないです……死ぬかと、思ったじゃないですか……」
胸板に倒れ込んだ顔が上目遣いに睨んでくるが、その目じりは疲れで下がり切っていて、甘えているようにすら見えてしまう。
「それはこっちの台詞だと思うんだが……」
「何、言ってるんですか……解いた瞬間は、全然射精しなくて、ガクガクって震え始めたから、大丈夫かなって……油断させたところに……」
「いや、それは……まぁ、そうだな、すまん……」
自分の意志ではないといはいえ、自分の体が引き起こした事態であることには変わりなく。何だか釈然としないまま謝ると、ゆかりさんはそんな態度が不満だったのか、ずいっと顔を近づけてきた。
「しかも……普通に、射精するならまだしも……っ、うどんみたいに太いの、が……殴りつけられてるかと……」
体感でも痛いほどに出たとは思ったが、傍から見てもそうだったらしい。
でも、それはやっぱり寸止めなんてやってきたゆかりさんの方に責任があるような……。
言い返したいところだったが、ゆかりさんはもう目を開けるのも面倒だというように、力なく睨みつけた目を閉じてしまって。
「疲れました……すっごく。私は、もう寝るので……ほっといて、下さい……」
「おお……っていいのか? さっき仕事の電話があったんじゃ……?」
「仕事? ああ、それなら後で何とかしとくので――? 仕事っ!?」
バッとゆかりさんは跳ね起きた。
「時間――よし、そこまで経ってない……んんっ」
そして携帯で時間を確認するや否や慌てて立ち上がり、ベッドから下りて二、三歩の辺りで小さく太腿を震わせた。
「あっ、やっ……出て来ちゃ……んぅうぅっ!」
原因は、先ほど出された精液が入ったコンドーム。
酷使された肉棒が著しく萎れていたのと、彼女の膣圧の強さ。それらによって茎から引き抜かれて挿入ったままになっていたコンドームから、精液がどぷっ、どぷっと勢いよく放出されていたのだ。
スライムみたいに粘性の高い白濁を股から吐き出しながら、ゆかりさんは力なく頽れた。
「だ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫に……見えますか?」
重い身体をおして立ち上がり彼女のもとに近づくと、ぺたんとフローリングについたお尻の間からはまだ濁液が零れ、床へと広がっていた。
我ながら、怖いほど出たな……と感心を通り越して不安になっていると、彼女の手が手首を掴んでくる。
「すいませんが、はぁっ、車まで、連れてってください……」
「え、本気で?」
幸いにも全身を濡らすのは主に汗とはいえ、鼻がお互い馬鹿になっているだけで、自分もゆかりさんも身体にはべったりと性臭が付いている筈だ。
「大丈夫、です……人と会うような案件では、んんっ、無いですし……目的地に着くまでには、落ち着くでしょう……」
だが、ゆかりさんは本気らしい。眠そうな半眼の奥には、絶対に行かなければという執念にも近い光が、しっかりと理性を帯びて輝いていた。
こっちも体は重いが、そんな目をされたら断わるわけにもいかないだろう。
「分かったよ、それじゃ、服はどうする?」
「あっ。さ、さっき着てたのでお願いします。あと、パーカーがそこのクローゼットに――」
今、「あっ」て聞こえたんだけど、まさか裸のまま外に出ようとしてたんじゃないだろうな……?
(´;ω;`)ワレワレノギョウカイデモ、ゴウモンデス……