「あー、なんでこんな緊張するんだ……」
あかり謹製のハンバーグを頂き(非常においしかったです)、先にお風呂へ入らせて貰い、彼女を待っている最中。自分の布団の上で足を投げ出して壁にもたれかかり、ぼんやりと天井の照明を眺めながら自問自答する。
もうあかりとは何回もエッチしてきているのだし、とっくにこんな時間にも慣れたものと思っていたのだが……。
少し考えて、やはり久しぶりだからだろうかと結論付けた。
あかりが帰ってきてから二週間ちょい。更には調整の為にAHS社へ行っていた期間を合わせれば、一か月弱ぶりの共寝になる訳で。あかりと出会ってからの約一週間、毎日のようにしていた時から考えれば随分と時間が空いている。
「という事はあかりと暮らしてる期間も合計すると大体一か月ってことか……早いなぁ」
改めてそう意識し部屋を見回すと、大分色々なところが変わっている。
一番目立つのはやはり、あかりが来るまでは部屋の中央を占拠していたちゃぶ台だろうか。
それがなんということでしょう。脚をたためるというちゃぶ台の特性を最大に活かし、大胆なまでに省スペース化、パソコン机と壁の間に収納されることにより部屋の中央に広々とした空間が出来ているではありませんか。
そして生まれた空間には、あかり用のシングル布団が敷かれている。
これを買おうと言った時にあかりは『おにいさんの布団で一緒に寝るから必要ありません』とか言っていた。けど、そんなの眠気で緩んだ理性崩壊待ったなしなので、頬を膨らませて抗議する彼女を押し切って買いに行ったんだっけ。
いつもは間にスペースを開けて敷かれている布団だが、今日は風呂から出てきてみれば、あかりの期待を表すように一分の隙間もなくぴっちり隣り合わせに敷かれていた。
変わったのはそれだけじゃない。あかりの服を入れるための棚や、その上の服かけにかけられたジャケットとプレゼントした帽子。
量は多くないものの部屋にはもう、ぬぐい切れないほどしっかりとあかりの存在が刻まれていて、落ち着いた今改めて見ると、ああ一緒に暮らしてるんだなぁという実感が湧いてくる。
「……どうしたんですかおにいさん? そんなほっこりしたような顔をして」
「ん? ああ、やっとお風呂上がったんだ」
待ちかねたあかりの声に部屋の入口へと視線を向けると、バスタオルを巻いただけの彼女が笑顔でひょっこりのぞいてていた。だが、自分の言葉を聞いた瞬間その笑顔が俯いてしまう。
「あ……、ごめんなさい、待たせしてしまったみたいで……」
「あ、いや! そういうつもりじゃなくてっ――」
慌てて立ち上がって、いち早く誤解を解こうとあかりの元へ駆け寄りその肩を掴んで、彼女の口端が緩く弧を描いているのに気づいた
「……ふふ、冗談ですっ。でも、そんな風に言っちゃうくらい待ちきれなかったんですね?」
あかりはそう言うと、いたずらっぽい笑みを浮かべた。
「なんだ、ちょっと焦ったじゃんか……まぁ、そわそわしてしまう位には待ちきれなかったのは事実だけど」
冗談だったと分かって安心すると同時に、そんな小悪魔っぽい行動にも愛しさが湧いてくる。
「もー、おにいさんのえっち……」
一方のあかりは素直に認められるとは思っていなかったのか、お風呂で上気した頬をさらに赤くした。
「男はみんなエッチだからいいんです」
そう言いながら手を取って部屋の中央、布団の上へと引っ張る。あかりはさしたる抵抗もなく二、三歩よろめき、帰った時のようにぎゅっと抱き着いてきた。ふわりとほの甘い香りがあかりの銀髪から漂う。
玄関の時とは違って、あかりが身にまとっているのはタオルだけだし、自分だってすぐ脱ぐことを想定して薄地のTシャツとトランクスだけ。
お陰でさっきより胸の……いや胸だけじゃなく、腕からお腹から太ももから、全身男にはない少女特有の柔らかさが全身に押し寄せる。
先ほどの緊張もほっこり感も全てを塗りつぶして、この三週間で濃縮された性欲が下半身から全身へ駆け巡った。
「……いい、よな?」
「……いい、ですよ?」
辛うじてあかりに確認を取る理性が残っていたことの方が、もはや不思議なくらいに。彼女を二つ並んだ布団の上へと押し倒して覆いかぶさり、唇へとしゃぶりつく。
「んっ?! ……んちゅ、ちゅむ、ぴちゅ……」
挨拶のリップキスを飛ばしていきなり舌を口腔にねじ込む。あかりも最初びっくりしたように一瞬動きを止めたが、すぐ舌を絡めて答えてくれた。後はもう思うがままに彼女の舌へ、歯茎へ、口蓋へ……舌を押し当て粘膜同士をすり合わせる。水のじゃれあう音と、どちらのとも分からない少しずつ荒くなる鼻音だけが、電気すらまだ消していない部屋に木霊した。
「ちゅぷっ――はぁっ、我慢、できなかったんですね」
「ああ、今までずっと我慢してたからな」
現に欲望に突き動かされる手の動きは今も止まらない。半ば無意識でバスタオルの端を引っ張って、あかりを唯一隠していた布を剥き取った。
ふりゅん――純白のヴェールから解き放たれた二つの白い果実が跳ねて暴れて、たちどころに視線が釘づけになる。
すぐさま視線に気づいたあかりは、重力に引かれたおっぱいを下から支え持ち、ふにゅふにゅと揺すった。当然それに合わせて先端で桜色に色づく突起も揺れ、目が勝手にそれを追う。
「……おにいさんすっごく必死で、そんなに好きなんですか?」
「いやいや、だってこんなにきれいでおっきなおっぱいが目の前で揺れてるのに、見るなって方が無理があるから」
勿論きれいなのは胸だけじゃない。天使のように光の輪が浮かんでいるしっとりと濡れた銀髪も、興奮で潤んだ蒼い瞳も、健康的な色と艶の唇も、つるりと滑らかな曲線を描く下腹部も……兎に角全てが美しく、そして可愛らしかった。
そんな翼を無くした天使のような少女を、今から自分の汚い精で汚す――そう考えただけで一層大きく心臓が鼓動し、陰茎がびくんと跳ねてあかりの太ももに先走りの雫を散らした。
「あ……まだ触ってもないのに、こんなに……」
驚いたような口元はすぐに、嬉しそうな微笑へ変わる。
「……どうします? もう、挿れちゃいますか?」
「っ!――いや、そういう訳にもいかないだろ。こっちは準備出来てるけど、あかりの方はまだだし」
肯定しそうになって、何とかまだキスくらいしか前戯をしていなかったじゃないかと踏みとどまる。
が、それを聞いたあかりは徐に両太ももを手で持ち上げ……俗にいうM字開脚のポーズを取って、秘裂の中が見えるように広げた。
「えっと……それが、ですね。今日お兄さんから無事終わったってメールを貰った時からもうずっとこんな感じで」
「うわ……これは、凄いな」
押し広げられた高土手の中はもうすっかり熟れ切っていた。
色素の薄い淫花の花弁は、これから起こる行為への期待でぷっくりと膨れている。
見ただけでぴんッ、と尖ったクリ以外はどこもかしこも柔らかいのが分かった。
一際柔らかい穴は口寂しいというようにパクパクと開いたり閉じたりを繰り返す。
その奥からはあかりの匂いを煮詰めた、理性を蕩かす甘い蜜が止め処なく溢れていく。
ここに今すぐむしゃぶりつけたら……いや、下半身でたぎる肉棒を突っ込んで思いっきり腰を打ち付けられたら、どれだけ気持ちがいいだろう。
そんな衝動にくらくらしかけながらも、何とか手をあかりの胸へと手を伸ばした。
「? 挿れなくて、いいんですか?」
「――いや、やっぱり前戯はした方がいいだろ?」
女の子が感じるためにはそういうのも大事だと聞くし。
「おにいさんが待ちきれないなら別になくても……」
「いやいや、あかりの体を触るのもこれはこれで気持ちいいしさ」
「もう……でも、気遣ってくれてありがとうございます」
本音で言えばすぐにでも彼女とつながりたい、そう思っているのはバレバレなようだった。だがそれでも、というこちらの意志を汲んでくれたあかりは、足を支えていた手を外して、こちらの行為を迎えるように両手を広げる。
「好きに触ってくださいね」
お許しが出た瞬間、手が胸を揉み始めていた。
全体を鷲掴みにしてなお余る柔肉、それら全てを何とか味わい尽くしたくてついつい手に力が入ってしまうが、そんな我儘すら受け入れてくれる柔らかさ。そして大きさ。
(やっぱりすごいな……)
久しぶりに揉むあかりの胸はやっぱり指に心地よくて……いや前よりしっとりずっしりむっちりと指を押し返してくる気がする。
そういえば前は家に来るまで食べてない日が続いてたし、それ以上にあかり自身の体調が良くなかったわけで――つまりこれが、あかり本来の柔らかさとも言えるのだろうか。
新たに思い知らされるあかりのポテンシャルに半ば感動すら覚えながら、ただただ手を動かし指先の感覚に集中する。
「えっと……私の胸、どうですか?」
「どうも何も、すっごく気持ちいい……いつまでも触ってたいくらいだ」
「良かった……それなら良かったです」
何故かあかりは自分の答を聞いて、ほぅ、と安心したようなため息をついた。
その事に一瞬疑問が浮かんだものの、手から流れ込んでくる圧倒的な快感があっというまにその違和感を押し流してしまう。
……後から考えれば、ここでその違和感をはっきり認識しなかったことが、この後に続く事態を招いた最後の分水嶺だったのかもしれない。
「でも、そろそろ挿れてほしいかなって……駄目ですか?」
「もう我慢できないんだ?」
「はい……」
女の子から挿入をおねだりされているという興奮に、あかりの表情は視界に入らなかった。胸から腰を捕まえるように手をスライドさせ、肉槍を開かれた脚の奥で咲く秘花へと近づける。
(あれ? なんかさっきより濡れてないような……?)
「どうかしましたか?」
「あ、いや……」
少しだけ、秘所を濡らす淫靡なぬめりが薄くなったような気がしたが、当のあかりが挿れて欲しいと言っているのだ。丁度自分が覆いかぶさって陰になっているし、照明の当たり方の問題だろうと自身を納得させて、粘膜同士をくっつける。
「っ――!」
あかりの入口へと少し触れただけでびりっと快感の電撃が肉棒に走る。だが、本番はここからだ。
「――いくぞ」
「はいっ」
これから来る何かに備えるように、あかりがぎゅっとシーツ代わりになっているバスタオルを軽く握った。それと同時に腰を押し進める。
じゅぷぷぷぷ……
「く……ぁ……ッ!!」
圧し絞られるような抵抗感と共に、熱い肉が一番鋭敏な場所へと纏わりついて来て、思わず呻いてしまった。
久しぶりだからということも、最近碌に抜く時間が無かったということも原因だとは思う。
だが、それらを差し引いてなお、あかりの中は恐ろしいまでの快楽だった。全部入ったわけじゃないとはいえ、最初の一突きで射精してしまわなかったのは、奇跡といってもいい程に。
(危な……っ)
暴発しそうな興奮を冷まそうと、腰を動かさずに深呼吸をしようとして、
「……あの、もしかして気持ちよく無いですか?」
不安げな声に、結合部へと落としていた視線を上の方へ向ける。バスタオルを強く握りしめたあかりが、自分が動かずに黙っているからだろうか、恐々とした表情を浮かべていた。
「――いや、むしろ逆だ。あまりに気持ちよくて、な……」
「本当ですか? 良かった……」
あまりこちらも余裕がある訳ではなく、言葉少なにそう返しただけだったが、それでもあかりは表情を緩める。
どこか違和感のある彼女の言葉に疑問が鎌首をもたげそうになるものの、そっちに意識を取られた瞬間暴力的なまでの締め付けが襲ってきた。射精してしまいそうになって、浮かびかけた疑問は頭の片隅に追いやられてしまう。
二、三度深呼吸して少し余裕が出てきたところで、あかりに呼びかける。
「ふぅ、そろそろ動くぞ?」
「別に確認しなくたって、おにいさんの好きに動いていいんですからね?」
「いやいや、一応、な?」
なんだか今日はあかりの反応がいつもと違う……?
何かが違うけれど、それが何かは分からない――そんな小骨が喉の奥に引っかかったような違和感をここでようやくはっきりと認識する。
だがそれについて大して考えもしないうちに、早く気持ちよくなりたいという自分本位な獣欲に誘われるまま、勢いよく腰をあかりの最奥へと押し込んだ。
――押し込んで、しまった。
「っ―――――!!!!」
ぞりぞりと先端を削られるような快楽に酔いしれかけたところで、あかりの口から声にならない悲鳴が上がる。
そう、悲鳴。
最初は快感を耐えている嬌声だと思ったのだが、すぐに様子がおかしいことに気が付く。
痛々しいまでに歪んだ眉毛、一分の音も出さないようにと噛みしめられた唇、白い肌が蒼白になるほどに握りしめられた手……だが何よりも、しっかりと結ばれた目の端には小さな雫が浮かんでいた。
それが苦痛に耐えている証拠だという事は、快楽に脳が溶かされかけている自分でも分かる。
「ちょっ――! あかり、大丈夫かっ?!」
一瞬で興奮は冷め切り、慌てて痛みの原因たる一物をあかりの中から引き抜こうとして――
「――駄目ッ!」
腰を後ろから押されて、再び肉槍があかりの中へと押し戻される。自分の意志とは関係なく、腰を駆け上がる快感がただただ今は憎々しかった。
「っく――何してるんだよ、あかり?!」
一拍置いて、漸く腰を後ろから押した力の正体があかりの脚だと理解し、何とか距離を取ろうと手を突っ張る。だがあかりは目に涙を浮かべながらもいやいやと首を振り、密着しようと背中に手を回してきた。
「ちょっと久しぶりでびっくりしちゃっただけ、ですから……気にしないでください」
「そんなわけないだろ!」
苦し気に歪んだ唇でそんな事を言われたって、信じられる訳がない。むしろ無理しているのが分かって痛々しいだけだ。
そして今更ながらに、先ほどまでの違和感の正体を理解する。
多分ずっとあかり自身は気持ちよくなかったんだと。だから何度も不安に駆られてこっちはどうなのかを確認していたのだろうと。
だが今だって痛いはずなのに、あかりは手足に力を入れてひしと抱き着こうとする。
あまりの必死さに爪を立ててしまったのだろう、背中へピリッとした痛みが走った。
「痛いんだろ?……それなのに無理しなくていいから、な?」
「嫌です! 私の事は気にしなくていいですから、おにいさんは気にせず動いてくださいっ!」
あかりの四肢はいよいよ抱き着く力を痛いほどに強めた、絶対離さないと言わんばかりに。
理由を考えようにも、快感と混乱がごちゃ混ぜになった今の頭ではそれすらままならず、思わず疑問が口からこぼれる。
「何で……」
「……おにいさんに気持ちよくなってほしいんです。だって久しぶりのえっちで、おにいさんだってずっと我慢してたんですよね? ……それとも、やっぱり今の私じゃおにいさんの事を気持ちよくさせれてませんか?」
「そんな――」
不安で揺れる瞳へ吸い込まれるように思わず否定しようとして――言葉を飲み込む。
今それを否定したらどうなる? 「自分の事を気にしないでください」断固としてそう言うだろうことは、今までのあかりの様子を見ていれば容易に分かる。
下半身を焼く忌々しい快感を噛みつぶしながら、どう答えるべきかしばし考えて。
「……ああ、気持ち良くないな」
「っ――!!」
言った瞬間あかりの目が見開かれ、涙の粒がじわりと膨らむ。こんな表現しか思いつかなかった事へ罪悪感が津波のように押し寄せるが、これ以上あかりを傷つけないためだと自分に言い聞かせ、せめてもと言葉を続ける。
「俺は、あかりと一緒に気持ちよくなりたいんだ。あかりがそんな苦しそうにしてると心配で気持ちよくなれない」
「そんなの納得できない」あかりの表情はそう言うように、少しも晴れなかった。
沈痛なまでの静寂が、呼吸の間に聞こえてくるだけの時間が過ぎる。
「わかり……まし、た」
やはり、納得はしていない。だが理解はしてくれたのだろうか、背中に回された手足の力が緩み、それに合わせて名残惜しそうに震える一物をあかりの中から引き抜く。
「っと、大丈夫か?」
抜くときにも眉根がピクリと寄り、苦しそうなあかりが少しでも楽になるようにと頭を撫でる。
「……はい、私は大丈夫です。でも……」
あかりの不安げな視線が向いている先が、確認せずとも自分の下半身であることは容易に分かった。
「あー……これは……すまん! こればっかりは自分の意志じゃどうしようもなくてな……」
先ほどまでの苦しそうなあかりを見ても尚、攻撃的にびくびくと跳ねる一物をさり気なくシーツで隠すようにしながら距離を取る。
「そんなおっきいままで、苦しそうなのに……大丈夫なんですか?」
別にこんなものおっきくなるばかりで痛くなろうはずもない。それなのに本当に心配そうにあかりは聞いてくる。
「別にこれはしばらく放っておけば縮むしさ、そんな気にしなくていいって」
「でも……そうだ! それなら口か手で処理しましょうか? それなら、おにいさんも気兼ねしなくていいですよね!」
確かにそれならあかりへの負担は少ないかもしれない、だけど――
「…………いや、今日はやめとこうか」
「何でっ――!!」
あかりは腕をつかむと一瞬とびかかって来そうなほどにこちらへ顔を近付けて、それからはっとしたように目をしばたたかせ、最後に力なく再び布団にへたりこんで睫毛を伏せた。長い睫毛が涙に濡れる。
「……何で、ですか?」
「いや、今日はちょっとあかりが上手く感じれないみたいだからさ、それなら無理にしようとしなくてもいいんだ」
「別に無理なんてしてないです! だから――」
あかりはそう必死に言いながら、こちらの下半身へと手を伸ばそうとしてくる。
そこまで言うなら……とそんな考えが一瞬頭をよぎりそうになって、伸ばされた彼女の手から逃れるように距離を取った。
「あ……」
ころん、と。涙が零れ落ちた。
「っ、ごめん」
だが今再びあかりに触られてしまったら、そして今度こそ我慢できなくてあかりの体を傷つけてしまったら……そう考えると、やっぱりまだ熱を帯びたそこを触られるわけにはいかなかった。
代わりに宙へ浮いた手を握って、少しでも安心させようと口角を上げる。
「あかりの気持ちは凄く嬉しい。だけどあかりが無理してまた何かあったら……って、心配なんだよ。だから今日はやめとかないか? その代わり……と言っちゃなんだけど、布団はくっつけて一緒に隣で寝よう、な?」
あかりは途中からうつむくようにしてそれを聞いていたが、やがて顔を上げてぎゅっと手を握り返してきた。
「気を使ってくれてありがとうございます。その代わり、手、繋いでてくださいね?」
少しだけ元気を出してくれたのだろうか、いつもの様な……という訳にはいかないが、ほんの少しだけ笑みの戻ったあかりの表情に安堵する。
「勿論……あ、ただちょっと先にトイレだけ行かせてもらっていいか? 恥ずかしいんだが、ちょっと落ち着いてきたら尿意が、な」
「……分かりました」
少しだけ「それならトイレまでついていきます」とごねられるか? とも考えてしまったが、ぎこちないとはいえ笑顔を浮かべるあかりは、先ほどまでと違い素直に手を離してくれた。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「はい、待ってますね」
さり気なく下半身を隠すようにしながらそそくさとトイレに入り、ドアを閉めて――
「くそっ!」
あかりに聞こえないよう小さな声で、だが口から唾を散らすほど荒々しい悪態が吐き出された。対象は言うまでもなく、今なお膨張している自らの下半身に対してである。
尿意が、なんていうのはもちろん嘘で。実際はあかりが痛い思いをしているのに、未だ自己主張を続けるこれを、何とか鎮めるためにトイレに駆け込んだのだ。
あかりと一緒に寝ると約束をしたものの、このままの状態では間違いなく気づかれるし、そうなれば彼女はまた変に頑張ってしまおうとするのは目に見えていた。
「……くそっ」
どうしてこうなったのだろう? 何が悪かったのだろう? あかりの体調に何か問題があったのだろうか? それとも自分が下手になっただけ? 前は上手く行っていたのに…………いや、本当は前からあかりが無理していただけなのだろうか?
無力感に力なくドアに寄りかかると、ぐるぐるといろんな考えが頭の中で回って、絡まって、捻じれて……それからしばらくの後、最後に頭の中へ残ったのはぐちゃぐちゃになった、鉛のように重い自己嫌悪と後悔の塊だけだった。
「…………はぁ」
もう苛立ちを吐き捨てる気力すら無く、ただため息をつく。
だが、唯一不幸中の幸いだったのは流石にこの精神状態では興奮のしようが無かったらしく、逸物も小さく萎れてしまった事か。
一応トイレに行った目的は達成できたわけだし、今できることはせめて約束通り、あかりと一緒に寝ることだろう。……そうだ、試験の時に隣の奴が消しゴム忘れて、昼食のサンドイッチ千切って消しゴム代わりに使ってた話でもしてやろう。
それならあまり沈んだ顔をして心配させるわけにもいくまい。鏡がないので、しばらく粘土細工をこねるように無気力な表情を多少マシに整えてから、トイレのドアを開いた。
「ごめん、待た――せて」
だがあかりが横になって反応がないのに気づき、慌てて声のトーンを落とす。
「……あかり?」
一歩、二歩……他人の家に不法侵入しているかのように静かな足取りで。恐々様子を窺いながらあかりの方へ近づくと、あかりはもう眠っているようだった。
目の周りを泣き腫らし、とても苦し気な表情を浮かべたまま、布団を強く抱きしめて。
「あかり、ごめんな……」
普段なら勉強が終わるまで頑張って起きているあかりが、一緒に寝る約束をしたのに先に寝てしまうなんて、やっぱり無理をしてたんだろう。
聞こえないと分かっていても、謝らずにはいられなかった。他には苦しさがマシになるよう約束通り手を握るくらいしか、今の自分に出来ることはないのだから。
だが指先があとわずかで触れるかというところで、あかりの眉がピクリと辛そうに歪んだ。
「ごめんなさい、おにいさん……」
――何であかりが謝るんだよ! そんな必要がどこにある!?
そう肩を掴んでしまいそうになる寸前で、今のが寝言なんだと気づいて踏みとどまる。
「……ごめん」
握ろうと伸ばした手を引っ込めて、謝罪を口にした。
もしかしたらあかりを起こしてしまうかもしれないと考えると、手を握るのを躊躇われたというのはある。そうなったら、またあかりは心配させまいと笑顔を浮かべることが容易に想像できてしまい、そんな無理をしてほしくはなかったのも確かだ。
だがそれ以前の問題として、今の自分があかりの手を握る資格があるのか自信が無かった。
あかりは目の前にいるのに、まるではるか遠くにいるみたいに何もできない。
そんな無力感で倒れこみそうになりながらも、何とか横になってしまう寸前で照明を消さなきゃと思い出し、ふらふらと力なく立ち上がって電灯の紐に手を伸ばす。
電気を消す寸前、視界に入ったあかりの表情はやっぱり辛そうで――
「――ごめん」
真っ暗な部屋の中、意味のない謝罪だけが独りよがりに虚しく響く。
背中につけられたあかりの爪痕が、ずきずきといつまでも痛んでいた。