ということで本日二話投稿です、次話もよろしくお願いします
「ごちそう、さま……でした」
震える手で何とか手を合わせ、空容器を背後のおにいさんに渡そうとしたところで、力の入らない指から零れ落ちそうになる。
「っと……危なかったな」
が、落ち切る寸前におにいさんの手が伸びて、私の手ごとぎゅっ、と容器を握りしめた。
同時に心臓と子宮もきゅぅっ、と切なく締め付けられる。
「あッ……んんっ、ありがとう、ございます……」
「い、いや……これくらい……」
おにいさんの声が少し上ずった原因は明らかだ。自分の一番奥深くで、自分よりも熱い塊がびくんっ、と蠢いた。
(おにいさんも、今の……ちょっぴり気持ち良かったんだ)
ゲームをしながらセックスをする、腰を振ったりはしない。そう聞いた時の不安はとっくに無い。
脚を組みなおしたり、目を合わせるために身体を捻ったり、寄りかかったり……そんなちょっとした動きが生み出すささやかな快感でも、おにいさんのモノは一々震えて悦んでくれる。それに気づいてちょっとだけ大げさに身体を傾けてみれば、大きく張り出したカリ首の返しが、待って欲しいと膣襞に引っかかって出て行くのを拒んでいた。
確かに突き込まれる時の爆ぜる様な快感は無いけれど、だからこそ大好きなおにいさんが沢山反応してくれるのが分かる。勿論自分を求めて欲望を打ち付けられるえっちも大好きだったけど、お互い求めて甘える様なこのえっちも、既に大好きになっていた。
(それに、これなら……)
残してもらったセクサロイドとしてのデータベースには、相手が動かなくても気持ちよくさせる為のやり方が色々と入っている。今までは知識と動作がうまくかみ合わなくて披露出来なかったけど、経験を積んだ今なら――
えいえい、おー! と胸の内で奮起し、早速おにいさんへご奉仕しようとして。
(あっ、また、動いてっ……)
ちょっと気合を入れすぎて力んでしまったのだろうか、おにいさんのが再びお腹の中で小さく悶えた。
膣に意識を集中していたせいで、小さな悶えは大きな快感のうねりとなってさらに奥へと甘く響く。
(んぅぅ……っ! あっ、駄目っ……、力抜けて……。あっあっ、んぃっ……お汁、こぼれちゃ……っ)
気持ちよくして貰ったんだから、そのお返しをしなきゃいけないのに。そんな意志とは裏腹に、おにいさんへ浅ましくも貪欲に甘えようとする秘所は、もっと奥まで熱を咥え込もうと潤滑液を染み湧かせる。
自分の太腿を伝わる熱い液体は、汗にしてはあまりに粘度が高すぎる。伝わるというより、ダマになって転がっている位の存在感だ。バスタオルの下では、きっとかき混ぜられた唾液みたいに白く泡立った体液が、じっとりと私とおにいさんの脚をぐしょ濡れにしているのだろう。
そんな火照って神経が剥き出しになった脚とは逆に、おにいさんの熱を余すことなく受け止めた膣は、もうぐずぐずに蕩けて感覚が曖昧になっている。代わりに快感だけは波のように広がり、お腹の中全部が、内臓の全てがおにいさんの欲望を受け止める為の性器になってしまったような感じだった。
そんな妄想だけで、またお腹の奥が熱くうねる。呼応するようにおにいさんの欲望もはち切れんばかりに脈動した。
「っ……ちょ、あかり……くぉっ……」
「あっ……ごめんな、さいぃぃ……ッ」
久しぶりに来た大きな波に、二人そろって身体を震わせる。その微振すら敏感な性器によって快感へと変えられ、永久機関が出来上がってしまう。
いつまでも続く穏やかな愉悦に、結合部はどんどん熱くなり、粘着質な水気は留まることを知らない。
「やっ、あっ……あぁっ――」
ちょろちょろと注がれていた快感が、ついにコップから溢れる。
ふわっ、と全身が浮く感覚。いつもの性器から放たれた快感の電流が全身を痺れさせる絶頂と違いすぎて、一瞬そうだと分からなかった。
(は、ふぁ……っ)
身体全体から同時に快感が染み出してくるような、今までじっくりと溜めてきた喜悦がじわっと全身から広がって、伝播して、身体の中をゆっくり駆け巡る。
温かくて、幸せな、気持ち良さに、視界がぼやけて――目は開いて起きていた筈なのに、再び意識がはっきりするまで、おにいさんの手が優しく髪を撫でていることにも気付けなかった。
撫でられるたびに、快感の残り香が広がる。
「イったのか?」
「ん、うん……そうみたい」
「そっか、ちょっといつもと違う感じだったけど、呼んでも返事が無かったから。でもイけたなら良かったよ」
おにいさんは私が達した事を、自分事のように笑む。
「返事が無かったって、私、どんな状態だったんですか?」
「そうだな……ゆるゆるで、うっとりしてて、呆けてて……すっごい可愛かった」
うぅ……自分で聞く分には微塵も可愛い要素が無いし、むしろ恥ずかしいのに、おにいさんは本気で言ってて……少し嬉しい。
「後は、涎も沢山垂れてたな。上の口からも、下の口からも」
「~~っ」
慌てて口元を手首で拭うと、袖が一瞬でびしょびしょになった。布団の上はそれよりもっとびちょびちょのぐちょぐちょだ。この間クリーニングに出したばかりのおにいさんの布団は、前回以上の惨事になっていた。
「あ、ぅ……お布団、ごめんなさい……」
途中から汚してしまっていたし今更ではあるけれど、それでもさっきまではここまで酷くなかった筈である。
「いやいいって、畳が汚れないように敷いてるんだから、仕事は十分果たしてくれてるさ。とはいえ、今度耐水性のマットは買った方がいいかなって気はするけど」
「いえ、そのお金、私が出します! お給料もらってからになっちゃうと思いますけど……多分、これだって殆ど私のお汁ですし」
「いやいや、俺の体液も混じってる筈だし、あかりが感じてるのを見るの好きだから、せめて半々だな」
「で、でも多分濡らした割合で言ったら私の方が圧倒的だと、思い……ますし」
成り行きとは言えすごく恥かしい事を言っている気がする。
「いやいやいや。ほら、俺はまだ精液出してないし、それ込みで考えれば半々が妥当だと思うぞ」
「えっ……あっ……」
言われて、お腹の奥がまだ満たされていないのに気づく。そういえばおにいさんはイってる時の私の顔を見ていた訳で、当たり前と言えば当たり前の話だった。
気付いた瞬間、落ち着きかけていた疼きが再び大きくなり始め、同時に申し訳なさを感じる。
「やっぱりこのえっちだと、おにいさんが気持ちよくなれないんじゃ無いでしょうか?」
「いや、そんな事は無いぞ。射精してないだけで今だって滅茶苦茶気持ちいいし」
おにいさんの言葉に嘘は無い。
(……でも、やっぱり出して欲しい)
不安と、もう一つ何か良く分からない感情が混じってもやもやする。
「そんな顔しなくても、本当に気持ちいいんだけどなぁ……それに、まだ今日は時間がたっぷりあるんだし、焦らなくてもいいと思うけど」
「あ……そっか」
別にイったからってそこで止めなくていいし、おにいさんはどうやら本当に今日一日ずっと挿れっぱなしにするつもりらしい。
まだ十分機会があると気付いて、安堵が広がると同時に、喉が渇いてることに気づいた。あれだけお汁を溢れさせてれば当然なのかもしれないけど。
「じゃあ、休憩がてら……お水取ってもらっていいですか?」
落ち着くためにそう言うと、おにいさんは「ああ」と短く答えて弁当の入っていた袋から、ペットボトルの緑茶を手渡してくれた。
「……お茶まで用意してるなんて、今日は本当に一切抜かないつもりなんですね」
「いや、流石にそこまでは……でも、それもいいかもな?」
「っ――や、それは……でも、おにいさんがしたいなら……」
誤魔化すように手渡されたお茶を受け取って口づける。言うまでもなく、手渡すときに指が触れて、熱い疼きがおにいさんとの結合面から広がった。
けれどそれ以上に笑んで細められた目の奥へ、嗜虐的な欲望がうっすら浮かんでいることが、頭の奥を根本から揺さぶった。
「すごいな、お茶飲んだ端から愛液になって出てるみたいだ」
「っ!? えふっ、えほっ……そ、そんな事無い――ことも、無い……かも、だけど」
「あ、ほらまた蛇口捻ったみたいに出てきてるし」
「~~っ!」
思わずぷいっ、と顔を背けてしまう。
それは、意地悪してくるおにいさんが嫌いだからじゃなくて、むしろ嬉しいから。
勿論優しい今までのおにいさんだって大好きだ。そもそもそうじゃなかったら、私はここにいない訳だし。
それに、別に痛い事や恥かしい事が好きだとかそういう訳でもない。
けれどおにいさんは人間だ。しかも、私が設定上与えられた年数の仮想経験と、実際の経験年数を合わせた年数よりも長く色々を経験している。その分きっと、今まで私に見せて来た優しい面以外にも色んな表情があるはずだ。綺麗な所だけじゃなくて、ドロドロとした欲望だって、もっと。
最近少しずつ見せる様になってくれた、ちょっと意地悪で嗜虐的な所も、そんな今まで隠れていた側面の一つなのだろう。
新たな一面を知って、今までだって十分に好きだけど、もっともっともーっと好きになってしまいそうだった。
それを見せてくれたという事は、それを見せてしまうくらいには油断していて、私が受け入れてくれると信じてくれているという事だ。そう考えると胸から下腹まで、体の芯がきゅんきゅん疼いて仕方がない。
(これって、少しだけだけど、おにいさんと対等になれてるって事だよね……?)
まだドキドキしすぎて名前も呼べないし、敬語が混じっちゃうし、おにいさんが喜ぶだろう呼び方も出来てないけど……それでも彼に一歩近づけたことが嬉しくて、つい甘い吐息が漏れてしまった。
「はふぅ……」
「どうした、急に溜息なんかついて」
「え? あっ、やっ、別に――」
絶頂の余韻に湯あたりして、意識もぼーっとしてしまっているのかもしれない。意識を現実に引き戻し、心配させまいと慌てて振り返った目の前に、黄色い物体が掲げられていた。
「――プリン!」
しかもスーパーでよく見る、手のひらサイズのカップとはサイズ感が違う。紙コップの、それもLサイズ並みの容器に、ぎっしりとプリンが詰まっていた。
「~~っ、おっきい……っ!」
「……くっ、そうか……マキさんめコレ狙ってたな……っ」
おにいさんが小さく呻いて、お腹の奥でビクビクと熱が蠢く。けれど今は、それ以上に大きなプリンへと意識が行ってしまう。
「やっぱり、昼ご飯があれだけじゃあかりには足りないかな、と思ってたんだよ。弁当もう一個買うのも考えたけど、マキさんにこれ勧められてさ」
今までこんな商品置いてなかったと思うけど、もしかして新入荷したのだろうか。初お給料が出たら、絶対に買う。あるだけ買う。全財産で買う。
いや、落ち着こう。いくらなんでも実際そこまでは……うん、しない。防水マットの事や、それだけじゃなくて他にやりたいこともあるし。
「――かり? あかり?」
「あっ、はい!」
取らぬ狸を皮算用していると、いつの間にかお兄さんに呼びかけられていた。
「プリン大き目に掬ったから落ちるぞ? はい、あーん」
そう言いながら、おにいさんは大き目のプリン塊をスプーンに乗せて、こちらへ突き出している。
「あ、あーん……」
焦っていたこともあり思わず言われた通りに口を開いて、舌の上にくどいまでの甘さが広がった。
「どう? 美味しい?」
「うん……お、美味しい……」
シチュエーションの甘みに麻痺した舌では味なんて全然分からないけれど、そう言うしかない。
知識として恋人同士で食べさせるという行為があることは知ってたけど……こんなに恥かしい物だとは知らなかった。それに、男性を喜ばせる方法として女性の方からするのはいつか私もやってみたいと思ってたけど、まさか逆にやられるなんて……!
照れくさくて恥ずかしいのに、またされたいと思わずにはいられない。二律背反がニューラルネットワークをショートさせる。
「……んっ、こくっ」
結局味が分からないまま嚥下してしまう。ちょっと勿体なかったなという後悔はだが、すぐ目の前へ差し出された次のプリンでかき消される。
「はい」
まだまだ大きな容器に詰まったプリンは少ししか減っていない。食べてもなくならない幸福と、まだ何度も食べさせて貰えるんだという歓喜に頬を緩め、けれど減った分から思い至る。
「あれ、おにいさんは食べないんですか?」
腰を浮かさないよう注意しながら背後を見返しても、他のデザートも無さそうだし。
「いや、うっかりしてて、コレ一個しか買ってないんだよね。あかりならこれくらい余裕そうだし」
着実におにいさんの中で、私が腹ペコキャラになって行っている気が……いや、確かに最初ご飯食べさせてもらった時はお腹空いてて食べすぎちゃったけど……うん、それ以外でもちょーっと食べる量は多い気がするけれど……た、確かに、いつもならそれくらいのプリンならペロリといけちゃうけど……!
「その、今日はお腹がいっぱいというか、膨れてるので……一人でそれ全部はちょっと無理かもです」
「あ、あー……うん、成程。了解」
そっと下腹に添えた手で、おにいさんは思い出したように顔を赤くしながらも察してくれたようだった。
けど。ああ、駄目――そんな表情されたら、少し満たされた食欲が、あっという間に性欲で塗りつぶされていく。
さっきまで甘くて美味しそうに見えていたプリンが、今は興奮を昂める為の道具に見えてしまう。
「だから、ですね……私も、あーん、しましょうか?」
「えっ、あっ……でも、手震えてるし、後ろ向きは難しそうだけど」
「はい、だからちょっと変則的なのになっちゃいますけど……」
おにいさんの趣味からはちょっと外れちゃうかもしれないけど、あーんすると聞いた時は頬が緩んでいたし、多分、大丈夫。
おにいさんが隠していた一面を覗かせてくれたんだから、私も、少しだけ。
「……じゃ、折角だし、お願いしようかな」
そう言ってスプーンとプリンを渡そうとするおにいさんに、私は口を開いて答える。
「それじゃあ、一度私にそれ食べさせて貰っていいですか?」
「ああ、そっか、このままスプーン渡すとプリン落としちゃって勿体ないかもしれないしな」
おにいさんはこれからされようとしていることに気付かないまま、そっと私の舌にスプーンを乗せる。うん、大丈夫。甘さが分かる程度には冷静だ。ゆっくり、落ち着いて――
肩越しに後ろへ振り返ったまま首を伸ばして、
「あかり? ……っちゅく、ぞぢゅっ、ちゅっ……ぺぢゅっ、ぢゅくっ……っは――あ、あかり!?」
唇を重ねて、差し入れた舌から温めたプリンを注ぎ込み、彼の口の中で甘みを塗り広げる。
口を離して拭った時、おにいさんは愕然と目を見開いていた。
「んっ……その、嫌でしたか?」
「い、いやっ……全然っ!」
おにいさんが首をぶんぶん振ったせいで結合部が揺すられ、保温状態を保っていた下腹が、再びじゅくじゅくと熱され始めた。
「それとも、するのは初めてだったから……下手、でしたか?」
「や、むしろ凄い上手で……いや、上手とか分かんないけど。こんなことした事無いし……」
ビクン、ビクン……とお腹の奥でおにいさんの欲望が脈打つ。
「じゃあ、もう一回しても……いいですよね?」
「う、うん……」
つばを飲み込みながら素直に頷くおにいさんは、普段とは違って可愛かった。
震えるスプーンには、さっきより大きなプリン塊が乗っていて、その分長く口をつけていたいという下心がありありと透けている。
「んぁ……あむ、くちゅっ……んちゅっ、ちゅっ、ぐぢゅっ……るろっ、ぢゅぢゅるっ、ぢゅっ、ぷぁ……は、あぁぁ……っ」
さっきイかせてくれたお礼をするつもりで、噛まなくていいよう咀嚼し、液化したプリンを舐め広げる。今度はおにいさんも自分から舌を絡めて来て、彼の味が混ざったカラメルが私の喉奥へも落ちていく。食道が灼けるように火照った。
名残惜しそうに舌を突き出したままのおにいさんは、うっとりと目を細めていた。
「これ……凄いな……甘くて、あかりの味がして、滅茶苦茶……っ、普通にキスするより……ヤバいな……」
何度も言葉を探しながら、それでも当てはまるものが無いというように一言一言を吐き出す。言葉で表現できないほど良かったのだというのは、おにいさんの半身が雄弁に語ってくれた。舌が擦れる度、熱く、大きな脈動がお腹に響く。彼の興奮が伝わるのに、言葉は必要なかった。
「はい……。プリンも、おにいさんも、凄く……美味しくて……」
ただのディープキスでもおにいさんの味は分かるつもりだったけど、そこに強い甘みが加わることで、それ以外の味が強調される。おにいさんの味を再発見したような気分だ。
おにいさんも、私も、プリンの容器を見た。普通のプリン容器の三倍くらい高さのあるそれには、まだまだ沢山黄色い媚薬が詰まっていた。
視線が、交差する。
「昼からもゲームするつもりだったけど……プリン、もうちょっとゆっくり味わって食べないか?」
「うん……私も、そうしたい。それに焦って食べたら、勿体ないかもだし……」
「そうだよな、勿体ないもんな……」
昼前まではあれだけ激しくおにいさんの欲望をぶつけられたかったのに、今はもっとこのゆったりとした温かい結合をいつまでも味わいたかった。
スプーンが口に差し込まれ、舌を口に差し込み、一体となった口腔内で甘い媚薬をかき混ぜ、唾液とよーく混じったところで飲み下す。
最初は長く楽しむために一口一口が大きかったけど、半分を切ってからは逆に一口が小さくなっていった。
その代わりに、呑み込むのを限界まで我慢するようになって。その分、口から甘い涎が零れてしまうこともしばしばで。でもそれすら気にならなくて。
勿論下からも涎は止め処なく溢れていた。
舌が絡むごとに生じていた疼きは、やがて体温の残った吐息だけで痛いほどに主張してくる。どんどん体の水分が失われて、その分をおにいさんの唾液で補う。体の中からおにいさんに染められているような感覚に、またお腹が疼いてお汁が増える。性器だけじゃなくて、舌も、身体も、頭も、全部が蕩けてしまう感覚。
いつまでもこうしていたい――けれど、いくら大きくてもプリンは有限。どんなに節約しても、最後の一匙はあっけなく訪れてしまった。