前話もよろしくお願いします。
プリン一に対して唾液が九十九くらいになるまで水増した最後の一口が、とうとう無くなる。
「んぢゅっ、ちゅぅ、ちゅぐっ……っちゅ、はっ……無くなっちゃったな」
「んくっ……はい……」
おにいさんが空容器を置くと、橙に染まった卓袱台の上へと長い影が伸びる。
「ってもうこんな時間か……プリン一つでもう夕方か……」
「今度から毎食これにしようかなって思っちゃいましたけど、それじゃあ、食べてるだけで一日が終わっちゃいますね」
一瞬時間の経過で素に戻ったおにいさんは、私の言葉ですぐにまた淫靡な二人だけの世界へ戻ってくる。
「でも、一日くらいならいいかもな……そうやってご飯とセックスと、あとは寝るだけみたいな日があっても。今度は、そうしてみるか?」
あまりにも魅力的な提案だった。
「はい……。でも、今日もまだ終わってませんから」
「はは、そうだったな。ちょっと気が早かったか」
それに何度もおにいさんの半身は跳ねて脈動していたけれど、未だ射精はさせれていない。
再び部屋が甘ったるい空気に包まれていく。自然とおにいさんの唇が近づいて、おにいさんの唇へと近づいて。この和室だけ現実から切り離されているような、世界で二人きりになってしまったような夢心地すら感じてしまう。
――けれど、そんな時に限って現実的な都合が邪魔をしてきた。
「……っ、あっ」
「? どうした?」
出来る限りおにいさんの顔を見ながらキスがしたいと、大きく体を捻って。下腹へ、今もしとどに溢れるお汁とは違った液体の感覚が意識される。
そう言えば、今朝繋がってから一度も行っていなかった。
「……ぁ、その……お、おしっこ……」
「え……あ、あぁ……と、トイレな」
一瞬面食らったおにいさんは、暫くしてから理解したのかうんうんと頷きながら、抱きしめていた手を緩める。
さっきまでの淫靡で甘ったるい雰囲気は、蜃気楼のように掻き消えてしまっていた。
(うぅ……こんな時に……しかも何でわざわざおしっこ何ていっちゃったんだろう……っ、普通にトイレで良かったじゃん!)
自分の迂闊さは言うまでも無いが、今ばかりは自分が生体型なのすら疎ましい。
さっさと行って帰って来ようと、おにいさんのを抜かなければならない口惜しさに後ろ髪をひかれつつも立ち上がろうとして、
「……あれ? あ、腰、抜けちゃってる……?」
少し腕に力を入れれば腰も僅かに持ち上がるけれど、それ以上に上がっていかない。しかも、そんな僅かな抽送でも快感は容赦なく波のように押し寄せてきて、一度意識してしまった尿意も合わせて刺激されてしまう。
最悪の事態を想定して、バスタオルを剥ぐ。濃密な淫気の下から現れた布団はすでに絞れそうなぐらいに濡れていて、万一漏らすようなことがあれば、畳まで汚してしまうのは明らかだ。
選択肢は無かった。
「お、おにいさん……申し訳ないんですけど、おトイレまで、連れて行ってくれませんか……?」
震えそうな声でそうお願いすると、おにいさんの目が僅かに見開かれ、お腹の中で欲望が脈打つ。
知識としてのみ存在する、とある性癖が頭を過った。
(も、もしかしておにいさんも見たい……のかな。~~っ、でも、おにいさんが見たいなら……でもでも……っ!)
今まで何度もえっちなことはしてきたし、いっぱいみられてもいるけれど、排泄行為はそれらと違った恥かしさがあった。
さっきまで当然としていて気付かなかったが、一日中繋がりっぱなしということは、当然こういう事だって起こりうるわけで。恐々とおにいさんが何を言うのか、唇を見つめる。
「――分かった、おしっこの方なんだよな」
「う、うん……っ、わっ……んっ!」
頷いた瞬間、ぐっと下から押し上げられる感覚が身体を宙に浮かす。
おにいさんは器用に繋がったまま、私の脚を抱えて立ち上がった。
「大丈夫か? 下手に抜いちゃうと漏らしちゃうかも、と思ったんだが……」
「ん、ぅん、そうかも……」
体感的にはまさにその通りなのだが、改めて言われると恥かしい。でも、何はともあれ畳を汚してしまうことは無さそうだと一安心。それに、
(良かったぁ……一応見られる覚悟はしてたけど、やっぱり恥かしいのは恥かしいし……)
と安心したのもつかの間。その数十秒後、安堵から一転絶望へと突き落とされた。
「えっ、待って……ここ、お風呂……!」
トイレとは反対側、脱衣所への扉を開けたおにいさんは、躊躇なく風呂場の引き戸も押し開ける。
「だって、さっき抜いたら漏らしちゃうかもって。そんな状態だと、トイレに行っても座る為に抜いた所で漏らしちゃうかもだし。ここならそういうのも大丈夫だからさ」
「そ、それは……そうかも、だけど……っ!」
抱きかかえられている時は見えなかったおにいさんの顔が、お風呂場の姿見に映る。ちょっぴり意地悪な時のおにいさんの顔。
その下には真っ赤に染まりきった自分の顔が続き、さらにその下へ視線をずらすと――
(ぅわ、ぁ……ぐちょぐちょで凄い事、なってる……)
太い肉槍に貫かれた大陰唇は、テラテラと怪しく濡れそぼち、自分で見てもいやらしいと思ってしまうほどだ。その惨状に気づいた瞬間、思い出したようにむわっ、とした淫臭が鼻孔へ充満した。
「もしかして、どうなってるか分かって興奮した? 滅茶苦茶吸い付いてきてるし、それに、すっごくエロい表情してる」
「っ! あ……」
目が合った鏡の向こうの少女は苦し気で、困りきって、恥かしそうで……けれど細めた目の奥には、期待を孕んだ怪しげな光が宿っている。思わず自分自身ですら、えっちだと思ってしまった。
お腹の奥でおにいさんの存在感が増す。おにいさんが興奮したのではなく、自分が昂って締め付けてしまったのだ。
「そ、その……いつも私、えっちの時こんな顔して……」
「今日はいつもよりちょっと恥かしそうだけど……まあ、大体こんな感じかな。うん、やっぱり可愛い」
「やぁ……っ」
こんな快感に蕩けて、性欲に歪められた顔が可愛い訳が無い。思わず目を瞑って両手で顔を覆い隠すけれど。
「そうやって恥かしがってる所も可愛いな」
「うぅぅ……っ!」
隠しても駄目なんて、逃げ場がない。
しかも力んでしまったせいか、いよいよ尿意は限界寸前を迎えてしまう。
「あ、あぅ……その、そろそろ出そうだから、抜いて……?」
「ああ、そういえばそうだった。じゃあ、抜く――」
目を瞑っていても分かる、不穏な静寂。
「――なぁ、ここなら漏らしてもシャワーですぐ流せるし……その、このまましてみてくれないか?」
「~~っ!」
一度は去ったと思った危機が、背後から助走をつけて殴りつけに来た。
「お、おにいさんの変態……っ」
「いやいや、そもそも今日は挿れっぱなしで過ごそうって話だったし、な?」
確かに私もさっきはいいかもしれないなんて思ったけれど、流石に限度があると思う。
「そ、それならせめて目を閉じて耳塞いでてよぅ……」
「いやほら、手はあかりの脚支えてないと危ないし、目瞑ったら何かあった時対応できないだろ?」
「そんな事言っても、絶対おにいさんが見たいだけだもん……っ!」
「そうだな、見たい」
おにいさんはわざとらしい口調から一転、真面目なトーンで断言した。
「そういうのは趣味じゃないと思ってたんだけどさ、恥かしがってるの見てたら、あかりのなら見たいなって」
最悪の部類の告白だった。だがそんな変態的な宣言でも、『自分のなら』なんてワードが入るだけで、心臓が高鳴ってしまう。
(ズルい……そんな事言われたら、見て欲しく、なっちゃう……っ)
惚れた方の負け。
惚れた者の弱み。
言葉の意味が経験と結びつく。確かにこれは抗えない。
羞恥の苦みを含んだ甘い敗北に身も心も焼かれながら、目は閉じたまま顔を覆っていた手を外す。
「……っ!」
そのまま顔から真下へ下ろして、ぬちゅりと滑る大陰唇を押し広げる。目を開けなくとも、ちゃんと見えているのはすぐにわかった。
おにいさんの逸物が射精しているみたいに脈打ち、その昂奮を伝えてくる。
「……する、ね?」
「お、おう……」
期待に唾液を呑み込んだのが振動として伝わり、それが堤防を決壊させる最後の一押しになった。
「んっ……」
「――っ!」
静かに零れるようだった水音は、ややもせずに下品な噴出音へと変わる。
熱の籠った感嘆の溜息が髪へと吹きかけられた。
「女の子のって、こんな風に出るんだな……」
「い、言わないで……っ、死にそうなくらい、恥かしいのに……!」
「あー、そうだよな。悪い……」
口では謝りながらも、その一方でおにいさんの本能は欲情を滾らせていた。
「あっ、やっ、んぁっ……」
バクバクと跳ねる心臓の下に、もう一つ心臓があるのではと思うほど力強く太い脈動が、膣だけでなく尿道までもを圧迫し、
ぷしっ、ぷしゅっ、ぷしゃっ――!
おしっこもそれに合わせてリズミカルな噴射を繰り返す。
まるでおにいさんの代わりに射精させられているみたいな感覚だった。
「噴水みたいだな」
「そ、そんな事言われたって……! お、おにいさんの……がっ、おっきすぎる、から……っ。前より、太くなってる気も、する、しっ……!」
「……そんな大きさが簡単に変わるはずないだろ」
「で、でも……っ」
挿れた時は勘違いかもしれないと思っていたが、一日ずっと入れっぱなしだった今なら、以前より全体的に存在感が増していると断言できる。
が、反論する前に耳朶を吐息にくすぐられた。
「――あかりが昂奮して締め付けすぎてるんじゃないか? ほら、外から見ても一生懸命吸い付いてきてるのが良く分かるし。きゅうっ、きゅうっ、て……っ!」
「んくっ、そんな……ぁあぁぁ――っ!」
視覚が無いからこそ、より他の神経が昂って埋められた熱の形が意識される。
釣り針のように獲物を逃がすまいとするカリの返しも、太い幹に浮いた血管の形も、尿道がひくつく律動も――真っ暗闇の中ではっきり熱い脈動と快感が強く意識された刹那、絶頂へと昇り詰めた。
(ぁ……おしっこしながら……イっちゃっ、たぁ……)
ふるふるふるっ――と、甘い絶望が多幸感とともに全身を震わせ、それに合わせておにいさんが膝をついた。
「ぉ……っく……っ……!!」
首筋へと押し付けられた鼻から、獣みたいな吐息が何度も鎖骨を撫で上げる。
往生際の悪いおにいさんの半身は、絶頂するみたいに悶えながらも、未だ抵抗を続けていた。
「っ……はぁ、はぁ、はぁ……っ。今のは、ヤバかった……」
「ふーっ、ふーっ、ふー……我慢しなくて、良かったのに……っ」
脱力してくっつきそうな目蓋を吊り上げて睨むと、おにいさんは誤魔化すように苦笑する。
「や、でも女の子をイかせまくりたいっていうのは男のサガみたいなもんだしさ」
「それなら、おにいさんも……はぁっ、一緒にイってくれれば、いいじゃないですか……っ」
「いや、男はそんな何度も連続ではイけないものでして……」
「むー……」
有耶無耶にしようとしてか、髪をわしゃわしゃと撫でられる。
ちょっとだけ、流されてもいいかなと思ったけれどそういえば今日はずっとこんな感じだ。それに、おにいさんをまだイかせれていない。
「汚れちゃいましたし、折角ですからついでにお風呂入りませんか?」
「確かにそうだな、このままだと冷えちゃいそうだし。かと言ってこのまま布団に戻る訳にもいかないし」
そういっておにいさんは浴室付の湯沸かしスイッチを押した。
「じゃあ沸くまでに服脱いで軽く体洗うか」
「もちろんそれも、このまま……ですよね?」
「ここまでやったら、な?」
おにいさんが悪戯っぽく笑んだのを見届けて、私は抱きかかえられたまま身を屈める。
撫でられる髪に隠れた顔にはきっと、おにいさんと同じような笑みが浮かんでいるに違いない。