「えっ――きゃッ?!」
歯を食いしばって震戦を抑え込むと、腰を跳ねさせるのに夢中になっていたゆかりさんの背中へ手を回し、今度はこちらから抱き寄せる。
「ちょっと、弟くん……!?」
焦ったような声が胸板をくすぐるけれど、もう遅い。
抱きしめた余波で、肉槍は彼女の一番奥を捉えている。そのまま隙を作らないよう、上がった呼吸を整えながらも腰で大きく円を描いた。
しかしいくら外で大きな円運動をしようとも、先端では最奥の形を確かめるように、小さくなぞる動きとなる。
午前中のバックから激しく突き込むような交合や、先ほどまで行われていた主導権を握られ腰同士を打ち付けるような激しさとはかけ離れた、小さな刺激。
「んっ……! ぅッ……」
ゆかりさんの口から洩れる声も、それに比例したように小さく掠れた声だった。
先ほどまでの挑発的な煽り文句が混じった分かりやすい嬌声とは真逆の、ともすれば苦痛を押し殺すような吐息にすら聞こえる。
――だけど、ゆかりさんは苦痛を感じない。
なれば、乱れた呼吸に混じった熱の原因は一つ。
「……やっぱゆかりさんって、激しく動くよりもこういうねちっこく責められる方が、実は好きだよね?」
「は、はぁ……!? な、なに言って……ふふっ、妄想するのは結構っ、ですけど……根拠のないことは……ぁっ」
「……成程? 確かにっ、根拠はないかもな……」
「でしょう? なら――」
「――じゃあ、試してみようか?」
腕の中で上目遣いにに見上げていたゆかりさんの腰を軽く持ちあげ、下から突き上げた。
「んッ、ふっ……何のつもり、ですか……」
腰に乗られているという状況もあって勢いが乗らないのもあるだろうが、大きく肩が上下し、少し呼吸が落ち着いたように見える。
「何って、根拠がないなら比較すればいいだけだから……っと」
「んうぅううぅうぅぅぅ……ッ?!」
比べるまでもない程、反応が大きく変わった。
抽送を中断し、槍先で最奥を突き上げた状態で腰を横に揺らすと、ゆかりさんの頤が天を仰ぐ。
「ほら、やっぱりこういう刺激の方が好きなんだろ?」
「そんな事――ッ、はぁッ! あんんッ……!!」
先走りをたっぷりと溢れさせる筆先で奥の入り口回りをくすぐると、細められていた紫の瞳がギュッ、と瞑られる。
どう言い繕ったところで、演技でないのは明らかだった。
実のところ、前回暴走しかけてゆかりさんを危うく精液で溺れさせかけた(……そう表現すると本当に酷いが)事は自分もかなり反省していたのだ。
ゆかりさんには『練習』に付き合ってもらっている以上、苦しませるような事は――例えゆかりさんが苦痛を感じなくとも――するまい。
そう決意して改めて今までの経験を順に思い返している内に、ふと彼女自身がゆっくりとしたセックスの方が好みなのでは、と思い至ったのである。
最初に触り方を教えてくれたのだって、確かに最初は慣らす為に優しくというのは尤もだったが、その後も乳房だけでなくその周辺を触る様に言っていたし、秘策として教えてくれたのもマッサージやスローセックスもどきというゆったりした物が多かった。自分が逸って失敗をしたからとはいえ、あまりにも偏っている。
何より、ゆかりさんは今までセックスしている間、どこかずっと余裕を残しているように感じていた。
――今、腕の中で小さく身体を震わせているのと違って。
(……まさかここまで有効打になるとは思わなかったけど、間違ってはなかったって事で)
午前中のセックスの時から試したかったのだが、その時はゆかりさんの「もう体力切れですか?」という煽りについ乗ってしまって、確認できなかったのだ。
(しかしやっぱ、ゆかりさん、崩されると弱い所あるよな……)
あまりに言葉や態度からして分かりやすすぎで苦笑が漏れるが、意外にも一番如実な変化は心音だった。
突いていた時はトクッ、トクッ、トクッ、と間断がある拍動だったのが、今やトクトクトクトク――と、小動物みたいにハイペースで心音が刻まれている。
一見クールそうに見えて、ゆかりさんは結構露骨に内心が心拍に現れるのかもしれない。あと、そのせいか全身が滅茶苦茶あったかい。
あかりが人をダメにするクッション的柔らかさだとすれば、ゆかりさんは人をダメにする湯たんぽ的温かさって感じだ。冬の今は特に重宝しそうである。
この部屋そういえば冷暖房も無いんだよなと、ぬくぬくをより感じる為に抱き直したところで、ゆかりさんが目をうっすら開いた。
「深くイってたみたいだけど、大丈夫か?」
「ふふ……っ、何、言って、はぁっ、るんですか……こんな演技に騙されてたら、はぁっ……駄目じゃ、ないですか」
そう言ってゆかりさんは、いつものようにニッと悪戯っぽく笑もうとする。
だが、その口の端は持ち上がらずにだらしなく解けたままで。
だが、細められた目蓋の奥では熱っぽく潤んだ瞳が煌めいていて。
だが、汗の浮いた額には前髪がしっとりと張り付いていて。
(……いや、それでイってないは、流石に無理があるだろ)
けれど、そんな状態でもいつも通りに振舞おうと、年上らしく主導権を握ろうとするゆかりさんは――
(――可愛いな)
口に出しかけた寸前で、褒めるような事を言わないという約束を思い出して、何とか呑み込む。
代わりに、もっと可愛い所を見てみたいという衝動が沸き上がった。
「……そうだったのか、ゆかりさんの演技って凄いから、全然分からなかった」
「っ、でしょうとも。んっ、やっぱり弟くんは、まだまだ、んっ、ですね……」
「だな、今が練習で良かったよ――でも演技と見分ける為にも、本当にイってる所も見せて欲しいんだけど」
「へっ……? ひゅっ! んやぁ……ッ」
向かい合わせに腰をぐりぐり押し付けながら、顔を彼女の胸部へと埋める。狙いは胸、ではなく鎖骨。
くっきり浮いたラインを舌でなぞる。
「んぁっ……ちょっ、そんなトコっ……!」
「れるっ……ゆかりさんが教えてくれたじゃんか。胸だけじゃなくて、その周りもって……嘘だったの?」
舌を止めて間近に見つめると、ゆかりさんは口をむにむにさせて、視線を逸らした。
「嘘では、無いですけど……それは「そっか、じゃあ続けるね?」――んひっ?!」
言い訳は愛撫で遮る。
鎖骨の窪みを舌先でほじると、ぴくぴくと肩が震えた。
「うん、確かに嘘じゃなかったな」
「そん、な……っ、あれは、あかりちゃんの為、に……っ」
我慢しきれなかった熱が、吐息となって首筋に吐きかけられる。
「ふーん?じゃあ、ゆかりさんはもっと直接的な方がいいんだ? こんな風に」
舌を下方へと滑らせなだらかな丘を一気に駆け上がり、ぢゅううぅぅっ――と濃いピンクの突端へ強く吸い付く。呼応するように後頭部を火照った手で強く抱きしめられた。
「んあぁっ……はっ、やっ……そんな、あかりちゃんと、違って、小さいしっ……吸っても、楽しく、なぃっ……ですよぉ……!」
やっぱり大きさの事気にしてたようだ。微笑ましくて口が自然とほころぶ。
「確かに大きさは全然違うけど、ちっさいのはちっさいので良さがあると思うけどな」
「そんな、無理にフォローしようとっ、しなくても……」
そんな言葉とは裏腹に、薄い乳房の脂肪の奥では心臓が早鐘を打っていて、期待に答えようとつい口が滑ってしまう。
「いやいや、小さいからこそ心臓がドキドキしてるのが良くわかるし、こうやって抱き合っててもより密着できるし、何よりちっさいおっぱいって――可愛いし」
「――ッ!」
瞬間、ゆかりさんの全身がギュッ、と縮こまった。
両腕で頭を締め抱えられ、両足で体を締め付けられ、蜜壺で肉茎を締め上げられる。
愛情表現にしては痛すぎる緊縛に顔をしかめて、
(……ってそうか『可愛い』もアウトだったか、しまったな)
思わず褒めてしまうような事を言っていたと気付いた。
また叱られるんだろうか、いやこの全身を使った締め付けが既に不満の表現なのか。
身構えてはみたものの、拍子抜けなことに文句を言われはしなかった。
代わりに熱く焼け切ったゆかりさんの淫口が、溜まった感情をぶつけるように容赦なく肉槍へ膣襞を食い込ませ、根元から引き抜くように絞ってくる。
痛烈な快感に、穏やかな刺激で燻っていた獣欲が目を覚まし、腰を彼女に叩きつけさせろ、奥へぶちまけさせろと一気に燃え上がった。
「っく――ゆかりさん、ごめん。出来れば少し激しく動きたいんだけど……」
ゆかりさんはそこで漸く手足の力を緩めて身体を離す。だが蜜壺の締め付けは制御が効かないのかそのままで、にも拘らずゆかりさんはふらふらと膝で立ち上がろうとした。
「んぁっ……はっ、くぅ……んんっ!」
「おっ……くぁッ!」
カリの返しにゴリゴリ膣を引っ掻かれる刺激と、肉粒がつぷつぷ亀頭へ絡みつく刺激に、お互い呻く。
ゆかりさんが肩を掴んで一番太い槍先を抜くまで、意味のある言葉を発することはできなかった。
「んんぅうぅぅっ……あっ、やっと、抜けた……っ」
ぢゅぽんっ、と水音を響かせて、ゆかりさんは体を横に、ベッドの上へと倒れ込んでしまった。
「ふぅ……っ、大丈夫か?」
「……ええ。けど、やっぱり弟くんの、凶悪になり過ぎです……私のせいでもありますけど……」
ゆかりさんは息を整えると、文句を言うような、けれど申し訳ないような表情を浮かべて起き上がる。朝のトレーニングの時にはあれだけ走って軽く息を切らす程度なのに、今は震える腕で漸く上体を支えている状態だ。
本当は彼女の身体を労わった方がいいのだろう。だが、それ以上に性欲の収まりがつかないのも事実で。
(ヤバかったら止めてって言ってあるし……そう言われてないって事はまだ、大丈夫って事だよな……?)
無理矢理続ける理由をこじつけて彼女の身体に手を伸ばして、その手をふらりと躱された。
「んっ、そんな顔したって、駄目、ですよ……?」
「――っ、悪い。やっぱこれ以上はキツそうか」
気まずく空を切った手を震える指で捕まえて、ゆかりさんは子どもに言い聞かせるように微笑んだ。
「いえ、そうでは無くて……今日は、あくまで観察力を鍛える『練習』だって、言ったじゃないですか」
言外に射精する必要は無いでしょう? と、そう言われてしまえば確かにその通りで。
「そう、だよな。観察力を鍛えるだけなら、別に最後までやる必要はないもんな……うん」
「それに明日はあかりちゃん、お休みなんですから、その時の為に、ね?」
あかりのことを言われると茹った頭が急速に冷えて、理性が再稼働し始めた。今朝、あかりが嬉しそうに明日は休みで一緒に過ごせると言っていたことも思い出される。
「……確かに、な」
「そうですよ、だってこれは『練習』なんですから。本番の邪魔になっちゃったら、それはもう練習じゃないですから」
ゆかりさんは重ねた指で手を握らせて、ベッドの上へと着地させた。手の甲を包んでいたぬくもりが離れる。
(そうだよな。今のはただ自分が射精したかっただけで……また、性欲に流されてしまう所だったのかもしれない)
衝動に任せて突き進むのは、あの時失敗したのと何も変わらない。
自分を納得させる頃には下半身も少し冷静さを取り戻したようで、先ほどまで腹に当たりそうなほど反り返っていた逸物は、水平を向くくらいにまで下がっていた。
「ありがとうな、ゆかりさん。また逸って失敗をするとこ、ろ……?」
いつの間にか俯いてしまっていた顔を上げ、暴走を止めてくれたお礼を言おうとしたところで、彼女がナイトテーブルに乗せていたタブレットに手を伸ばしているのに気づいた。
ハメ撮り上映はいつの間にか終わって動画は停止しているし、何も今触らなくても、と思ったところで、画面がパッと切り替わる。
映っているのは裸パーカーのゆかりさんが画面に向かって手を伸ばしているところで、画面端には銀色のスプーンの柄が入り込んでいる。そして、ゆかりさんが自分の脚に跨って……
「……ってこれ、まさか」
「はい、今のもしっかり記録しておきましたので。これでまた次の参考資料が出来ましたね」
タブレットを両手で持ち、ゆかりさんはにっこりと、わざとらしい程に満面の笑みを浮かべた。
「いやいやいや! 今の撮る必要あったか!?」
「勿論、ありますよ。――って、消そうとしたら駄目ですからね!」
「くっ、絶対消してやる……ッ!」
両手を伸ばしてタブレットを奪い取ろうとするも、ゆかりさんはぴょこんとベッドから跳ね起きて、素早く身体を盾に隠してしまう。
それを追って捕まえようとした時にはもう部屋端の机まで逃げてしまっていて、目の前でタブレットを入れた抽斗が閉められた。
カチリ、と鍵が閉まった音と共に、ゆかりさんの唇が意地悪くニッ、と持ちあげられる。
「絶対消させませんよ? これは私の仕事記録でもあるんですから」
「いや、仕事記録て……」
突っ込みかけたが、そういえばゆかりさんは現在俺とあかりが上手くいくように手伝うのが仕事な訳で、案外間違ってる訳でもないのか……?
「って、いやいや! やっぱそれを動画ってのはおかしいだろ!? 文字でいいじゃん! というか……まさかそれ、会社に提出したりしてないよな……?」
ありえないよな、とも思いつつそんな不安すら湧き上がってしまって。それを聞いたゆかりさんは一瞬ぽかん、としてから思いっきり噴き出した。
「ふふっ……流石にそんなことはしないですよ。会社……というか上司に提出する報告書はちゃんと『人間同士でも起きうるささいな問題は起こりつつも、全体として上手くいっている』と書いてますから。これは私の個人的な仕事の記録です」
「まぁ、それなら……いや、やっぱそれでも消して欲しいんだが……」
なんというか……やっぱり社畜気質なところあるよな、ゆかりさん。もっと強く言うつもりだったのに、個人的に仕事の記録を付けるなんて言いだしたのに若干引いて、気後れしてしまう。
と、語調を弱めたのが良くなかった。何か碌でもないことを思いついたというように、口だけでなく目までもが悪戯っぽい三日月へと変わる。
「嫌です♪ でも、そうですね……弟くんが納得できないというならこうしましょう。弟くんがあかりちゃんを悲しませるようなことがあったら、これを公開しちゃう事にします。勿論私は映らないように加工して」
「はぁ!? いや待て、それは脅迫だろ?!」
「そうですよー?」
ゆかりさんはニヤニヤと、悪びれもせず小首を傾げる。
しまった、完全に薮蛇発言だった。頭を抱えて溜息をつくと、慰めようとでもいうのか元凶が頭を撫でてくる。
「まあまあ、それ以外の脅しには使わないと約束しますから。それに、弟くんだってあかりちゃんを不幸にするつもりは無いんでしょう? それなら大丈夫じゃないですか」
「いや、そりゃそうだけど……はぁ、もういいよ、分かったから……」
釈然としないものしかないが、こんな風に悪戯っぽいゆかりさんを説得させれる気がしない。何を言っても理屈をつけて来そうな感じで。
少し乱暴に髪を梳く手を振り払うと、案の定ゆかりさんは今日一番といってもいい位に楽しそうに頬を綻ばせていた。
弱みを握ってやったぜと言わんばかりに。
……うん、やっぱいつか絶対消す。抹消する。この世から一ビットも残さずデリートしてやる。