『アオのハコ』
愛する事は素晴らしいと、誰もが言う。
愛されたいと、誰もが言う。
だから。
祝福されるべきだ。
どんな、愛も。
愛である限り。

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同居を知った直後からの分岐だとでも思ってください。
恋心は拗れ拗れて、絡み絡まれて。
幸せに、なる。
そんな。お話。


絡み付くアオい鎖

 例え割り込まれても、勝てると思っていた。私達には、確かな絆があって。でも、今はまだ、気付く必要がないだけで。大喜も私も、せめてインターハイ出場を決めるくらいまでは部活一本でいた方がいいから。……そう、思っていたのに。

 気が付けば大喜は我らが英明学園の誇る大スター、鹿野千夏先輩と同居していて。お互いを「同士」と思えるほど近い距離にいて。……私は、いつのまにか、周回遅れになっていた。私だけ、独りになっていた。独りでも立っていける、と自分を騙して、必死で取り繕って、それでなんとか「私」を保っていられるかと思えば、更に追い討ちまで飛んできたんだから始末が悪い。大喜は私に肩を貸して、助けてくれた。千夏先輩に見られても、関係ないと言った。…………本当に大喜は優しくて、優しくて、優しくて、残酷だ。大喜は私を、友達だとしか思っていない。好きではあっても、恋する相手だとは思ってないんだ。匡と同じ、仲良しなだけ。女子だけど、只の友達。それでもいい、なんてもう思えない。大喜に、愛して欲しい。そう思えば思うほど、苦しくてしかたがない。

 嫌だ、嫌だ、嫌だ。これ以上は、耐えられない。このままじゃ私は、破裂する。

 

 猪股家には、何度も行っている。勝手知ったる人の家、というヤツだ。大喜の家族とも私は顔見知りで、訪ねても不自然なことはない。生活時間の隙で、家のなかが空になる時間帯も把握している。だから、そう。気付かれず入り込むなんて、簡単な事なんだ。だって私は、無敵の蝶野雛さまだ。

 大喜の部屋は、この前と何も変わってはいない。精々置いてあるジャンプの号数が違うことくらいだ。今はいない大喜の匂い、大喜の気配が残っていて、思わず顔がにやけてしまう。ああ、やっぱり私には大喜が必要なんだな。改めて、そう思う。――いやでも、あまり味わってもいられない。大喜が帰ってくるまで、そんなに間はない筈だ。

 ベッドの下へと滑り込み、息を殺す。こういう時だけは、凹凸に欠ける身体に生まれて良かったと思う。そりゃ普段はちょっと……色々思うけど。

 やがて、その時が訪れた。大喜の足音、そして――もう、一つ。聞こえる声は、想像通り。千夏先輩と話ながら、大喜が入ってきた。一瞬腹が立ったけど、それは別にいい。同じ家にいるんだし、好きに喋っていればいい。私は、私がしたいのは、別だから。

 

 そのまま何時間か。出入りが何度かあって、それでも私はずっと隠れていた。まだ、だ。まだ早い。

 それからまた少し。部屋の空気に石鹸の匂いが混ざったのを感じ、ようやく「その時」が来たのが分かった。風呂上がりの大喜が、入ってきたのだ。

 大喜が腰かけてベッドが大きく軋み、一瞬裏板が私に近付いた。……まあ、ぶつかりはしないだろうと思ってはいたけど多少は驚いた。新しいの買えばいいのに。あんまり背は伸びてないけど、体格は変わってきてるんだからさ。

 それからベッドは小さく揺れ始め、ギシギシという音に大喜の荒い吐息が重なっていく。何が起きているのかは、想像が付く。……大喜が、私の上で、してるんだ。そう思うと、私も身体が熱くなっていく。ほとんど動けないベッドの下でも、手指は動かせる。大喜の息遣いを感じながら、目を瞑って指を肌に這わせる。――これは、大喜の指。大喜の手。私の身体を愛撫しているのは、大喜なんだ。声を殺し、音を立てないように、私はどんどん登り詰めていく。私は今、大喜と……してるんだ。

 そう、思いたかったのに。

「……っ、千夏、先…輩っ」

 大喜の喘ぎが、私を現実に引き戻してしまった。大喜は、千夏先輩を想ってしていて。私は、それを盗み聞きしながら独りでしていて。どこにも、繋がりなんて、なくて。私は、大喜に、なにも、思われて、なくて。私、は。

「嫌だ」

 口からそう出たのが早かったか、ベッドの下から抜け出すのが早かったか。どうでもいい。私は、大喜の身体を掴むように、ベッドへ押し倒していた。

「ひ、雛!? おまっ、なっ」

 大喜は何か言おうとしたけれど、それは聞いてあげない。それより、大事な事があるから。大喜の脚を抉じ開け、さらけ出された大喜の――そこへと顔を埋める。生臭く湿った匂い、身体の一部とは思えない醜い肉の塊。相手が大喜でなかったら、死ぬよりも辛いだろう。でも、これは、大喜なんだ。大喜だから、大好き。大喜だから、愛せる。でも。

「これ、邪魔……っ」

 先から溢れたままの白い粘液を、指で掬い除ける。千夏先輩の名前を呼んで出た、汚ならしいもの。汚れてしまったままじゃ可哀想だ。綺麗にしてあげないと、なにもかも全部。

 私はそのまま大喜を、大喜のすべてを、口で包み込んだ。千夏先輩を想って触った部分も、なにもかも、私が塗り替えてしまおう。……そういえば、これファーストキスだ。大喜とのキスが初めてのキス、嬉しいな。大喜もきっと、嬉しがっている。だからこんなに熱くなって、私の口の中で暴れているんだ。気持ち良さそうに、震えているんだ。

「…、ぁ…」

 ビクンと大喜が跳ね上がり、口の中に熱い何かが広がっていく。あぁ、聞きそびれた。ちゃんと「雛」って言ってくれたかな。言ってると良いな。千夏先輩の事なんか、忘れてしまえばいいのにな。そう思いながら、大喜のくれた「愛」をごくりと飲み込む。お腹の中まで、大喜に愛されてる。そう、思う。

 顔を上げると、大喜はナゼか真っ青な顔をしていた。なんでだろう、まあいいか。

「大喜、好きだよ。大喜が誰を好きになっても、構わないから。私はずっと、大喜だけが好き」

 今まで出来なかった告白を、ちゃんと。もっと早く言えば良かった。もっと早く、こうすれば良かった。私はずっと、蓋をしていたんだ。告白してしまったら、今までの二人じゃなくなってしまうから。それが、怖かったから。

「私は、もう我慢しないよ。自分の事だけ考えていいって、大喜が言ってくれたから。大喜、大好きだよ」

 大喜のパジャマを、引き剥がす。石鹸の匂いよりずっと心地いい、男の子の…大喜の匂いを胸一杯に吸い込みながら、露になった胸板の可愛い乳首に吸い付いて。舐め上げて。弄ぶ。男の子も、やっぱりこうすると気持ちいいんだな。私も、大喜を想って触るから分かるよ。どんどん可愛い声が漏れてきて、どんどん大喜を好きになっていく。今でも大好きだけど、もっともっと。もーっと、好きになる。大喜にも、そうなって欲しい。でも、それは贅沢かな。大喜は大喜で選んでいいよ。私が、ちゃんと塗り替えるから。誰を好きになっても、私を思い出すように。

 そして大喜を、手で擦り上げる。大喜が自分でするみたいには出来ないかもしれないけど、私だって。大喜を好きな気持ちを込めて、優しく愛撫する。大喜はいつだって、私の味方なんだ。だからそう、大喜は私の手の中で、硬く熱くなっていく。私の気持ちに、応えてくれる。

 そんな大喜だから、私を――全部、あげたい。なにもかも捧げるから、大喜のすべてが欲しい。

 いつの間にかドロドロになっていたショーツを脱ぎ捨てて、大喜の身体を跨ぐ。指で、私の、……大喜だけの場所を拡げながら、ゆっくり輿を沈めていく。大喜は――何か言ったけど、聞き取れなかった。照れてるのかな、恥ずかしいよね。私もだよ。私も、スゴく恥ずかしい。でも、大喜だから。大喜と、一緒になれるなら。恥ずかしさも、気持ちいい。……なのに。

「――」

 あと少しという所で、ドアの向こうから何かが聞こえた。小さな声と、ノックの音。ああ、やっぱり邪魔しに来たんだな。そうだよね、やっぱり。でも、私は、引き下がらない。

「大喜くん、さっきから何のお…と……?」

「千夏先輩、今取り込み中ですよー」

 私たちが愛し合っているんだと、教えてあげる為に。わざとらしく先輩に笑いかける。そう、もう遅いからね。私が一手、先だ。

「蝶野、さ…ん……?」

 固まった千夏先輩に、見せつけるように。私は、大喜を――全部一気に、呑み込んだ。邪魔なんかさせない。千夏先輩には、負けない。大喜はこれで、私のものだ。

 痛みも異物感も、なかった。ただ、嬉しい。大喜が、私を満たしてくれている。大喜を、私が包み込んでいる。それが、それが、嬉しくてたまらない。

 腰をくねらせ、身体を振り、私の中全てで大喜を愛してあげる。キスして、抱き締めて、思い付く限り全ての行為で、愛を描いていく。

「千夏っ、先輩……、私、大喜が、好きで、す。だか、ら。絶対に…譲っりま、せ…んっ、よっ」

 大喜を全身で愛しながら、全力で勝利宣言をする。千夏先輩が大喜をどう思おうと、私の勝ち。だって、私達は愛し合っているんだから。

 敗けを認めるように千夏先輩は床へと崩れ落ち、そして。それと合わせるように私の中で大喜がドクドクと震え、激しい熱波がお腹の奥へと迸った。……むぅ。先輩に見られたから、って感じがしてなんだか釈然としない。

「次は、私だけ見てね。私だけ、感じてね」

 大喜は照れちゃって、返事をしてくれないけど。でも私の中の大喜は、ちゃんと応えてくれた。言葉じゃなく、脈動と熱で。

 呆然としたまま動かない千夏先輩の、虚ろな瞳に見守られ。空が白むまで、私達の愛は止まらなかった。

 

 それから。私の幸せな日々は、ずっと続いている。新体操は辞めたけど、それはどうでもいい。どうせ、「蝶野元代表の娘だから」って言われるだけなんだし。正直、好きでも何でもなかった。大喜さえいれば、あとはいらない。それに私のお腹には、大喜との赤ちゃんも宿ってくれて。大喜の家族も、私を受け入れてくれて。卒業したら、正式に結婚だ。

 千夏先輩も、今では私達を祝福してくれる。「お腹が目立つ前に」って大喜と形だけの結婚式を挙げた時も、感極まって泣きながら、私達を祝ってくれた。やっぱり千夏先輩、優しくて良い先輩だよね。先輩にも、素敵な人が見つかるといいな。私と大喜みたいに。

「大喜、大好きだよ。ずっとずっと、一緒だよ。ね、……私、幸せだよ」

 大喜は、やっぱり応えない。でも、分かってる。大喜も、私を愛してる。分かってるから。これからも、これからも、ずーっと……二人で幸せになろうね。

 やくそくだよ。

 やくそく、だからね。




雛ちゃんがどんどん勝手に病んでいきます。
可愛いけど。

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