浮遊城アインクラッド第四十八層主街区、リンダース。その一角に建つリズベット武具店の寝室で、俺は夜更しをして同世代の恋人と愛を確かめ合っていた。
「んっ、んんっ、ぁっ、はぁっ……」
たんっ、たんっ。裸のまま俺の下半身に座った少女のリズミカルな腰遣いに合わせ、ベビーピンクの髪が肩の上で揺れる。見ているだけで、ふわふわとした髪の感触を脳が思い出す。触りたい。思ったときには俺はベッドに投げ出していた右手を持ち上げていた。
伸ばした手が宙を泳ぎ、少女の頭へと伸びる。俺の意図を察した少女が腰を振りながら前屈みになって頭を差し出してくる。撫でて、と自ら甘えてくる少女に庇護欲をくすぐられ、可愛がるという欲求を満たそうとした。
しかし、俺は途中で手の進路を切り替えることにした。
「あんっ……」
右手の平が目標に接触し、広げていた五本の指が内側に向かって動く。手の平全体にむっちりと吸いつくような質感。じんわりと熱が浸透し、手を温める。もっと熱を感じようと指に力を込めると、綺麗な丸みを帯びたそれが形を歪めた。
「もうっ」
少女の口から不満がこぼれる。ほんの少し咎めるような声音とは逆に、十六歳という年齢よりも少し幼く見える少女の口元と目元は笑みを象っていた。さらに力を入れ、色白く母性的な膨らみを抱く少女の胸を握りしめていくと顔の火照りと笑顔が増した。
「ほんっとうに、男って胸が大好きねー」
「勿論」
「即答しますか……」
食い気味に本音を晒した俺に対し、少女は呆れた様子だった。この瞬間も、少女の胸をぐにぐにと握り続けているが、少女は意に介さない。姿勢を正して俺の股間に座り直し、俺に胸を委ねたまま尻を振りたくる。ギッチリと肉棒全体を締めつけ、俺の脳に刺激を与えてくれる。
「胸の大きな子に浮気なんてしないでよ?」
「それはないから大丈夫だよ」
「へぇー? その根拠は?」
「俺が好きなのはリズだけだから」
改めて俺の本心を告げると、リズベット――リズはまた顔を赤くした。俺から視線を外し、「今日は暑いわね……」と小さく呟きながら何気ない様子で窓の方向を見た。カーテンで遮蔽された外は真っ暗闇だ。陽射しのない外は肌寒いとすら感じるはずなのだが。
もしかして、リズは照れたのだろうか。
「可愛いよ、リズ」
「変なことばっかり言わなくていいっての……!」
意地の悪い笑顔を見せた俺を懲らしめようとしたのか、リズが体の動きを速めた。開いた健康的な太腿の付け根で、肉棒を食らうリズの秘所が容易に確認できる。奥へと誘導されるたびにぐぷぐぷと卑猥な音を立て、俺の耳を楽しませてくれる。
熱々の膣壁にぎゅっと抱きしめられる直接的な幸福にも襲われ、俺は脱力した。リズの胸から離した手を再びベッドに投げ出すと、今度はこちらの番とでも言いたげな顔をしたリズが俺に顔を近づけ、唇を重ねてきた。
「くちゅっ、ちゅっ、ぴちゃっ、ちゅぷっ、んっ、あぁっ、ぢゅるっ」
桜色の小さな唇が俺の口を塞ぎ、リズの赤い舌が俺の口の中を撫で回す。れろ、れろぉと丹念に、隅々まで。流しこまれた唾液を擦り込まれていく。あんたはあたしのもの。所有権を刻みつけるように可愛がられ、今度は舌に絡んできた。
「ぁ、ふっ、んんっ、ぐちゅっ、ぐっちゅっ、むちゅっ、ちゅぷっ、ぢゅる」
俺は抵抗せず、リズと視線を重ねていた。
大きな目に縁どられた、朱に近い色合いの瞳。灯りがないせいで瞳が光を失っているだけのはずだが、それとは違う闇のようなものを感じた。ずっとこうしていたい。辛いことを忘れて、ただ傍で温もりを感じていたい。リズの目は、口以上に俺に対する依存に近い深愛を伝えていた。
「んっ、はぁ……」
リズの舌が俺の舌を解放し、口から離れていく。舌先に伸びる唾液の太い糸。それがプツンと途切れて俺の口に落ちる。リズはそれを見届けた後で、俺の唾液を乗せた舌を口内に戻し、ごくりと喉を鳴らした。
他人が出した体液を呑むという行為に興奮したようで、リズは腰振りが捗っていた。尻が上下に揺れ動いて、肉棒が奥まで押し込まれる。直後には解放されるのだが、またすぐに声を抑えてはいられない快感と熱が襲い来る。
「もっと、声聞かせて……?」
リズに求められ、俺は閉じかけた口を開いた。
短く、途切れ途切れの声を上げる。リズはそんな俺を眺めて嬉しそうにし、肉棒を荒々しく食らっていく。美味しそうな獲物を見るように目を細め、舌なめずりをし、俺を犯していく。暴力的な刺激に晒され、下腹に熱が昇ってくる。
心地のいい熱だ。この熱を解放すれば気持ちよくなれる。でも、もう少しだけこの時間に浸っていたい。
俺の想いとは正反対に、リズはラストスパートを掛けてきた。尻が俺の股間に叩きつけられ、パンッ、パンッと賑やかな音を奏でる。リズを止めようと動かした俺の両手はリズの両手の指に絡まれ、囚われてしまう。
両手を握ったリズは妖しく笑いながら、俺の上で踊った。
跳ねる、跳ねる、跳ねる。忙しなく動き続け、時折愛に溢れた言葉を放つ。
「好き」
「大好き」
「ずっと一緒だから」
「あたしの傍に帰ってこなかったら、許さないからね?」
油断をすれば呑まれてしまいそうになる深い愛情。リズの暗い瞳に魅入られながら、俺は返事の代わりに射精を始めた。ほぼ同時に思い切り尻を振り下ろしたリズの膣内で、小刻みに震えながら肉棒が精液をびゅるびゅると放出する。
中で広がる粘液。熱々でどろどろの存在を認識し、リズが震えていた。
「赤ちゃんが、できればいいのに……」
リズの願望。だが、それが叶わないことは俺もリズ本人もよく知っている。
この世界は現実ではない。ヘッドギア型のゲームハード、ナーヴギアが脳に直接接続して見せている仮想の世界。本当の俺の体は現実にあって、収容された医療施設で体を横たえているはずだ。いつ解放されるかもわからずに。
今から約一年半前、俺たちはデスゲームに囚われてしまった。
俺もそんな一人だった。サービス開始前の稼働試験、いわゆるベータテストの抽選には選ばれなかったが、発売日にソフトを手に入れられた時点でかなりの幸運だと思った。サービス開始直後にゲームを始め、もう一つの世界ともいえるアインクラッドの世界で絶望的な知らせを伝えらえるその瞬間までは。
『アインクラッド第百層を攻略するまで、この世界からログアウトすることはできない』
ナーヴギアおよびSAOの舞台であるこのアインクラッドを作り出した張本人、
天才ゲームデザイナーにして量子物理学者の手で始められた、身勝手で理不尽なデスゲーム。絶望的な生活が始まって約一年半が経過しても、アインクラッドの攻略は半分ほどしか進んでいない。
クリアするまでこの世界で生きる不安は続く。
「ねえ……」
「ん?」
「今日もソロでフィールドに出るの?」
「うん」
リズの問いに、俺は素直に返事をした。
食べていくためにはお金が必要だ。安全な街区圏内を出て、フィールドにいるモンスターを倒して
全百層で構成されているアインクラッドは、階層が上がるに連れてそこに出現するモンスターのレベルも上がる。普段使用している狩り場の推奨プレイヤーレベルは、俺のレベルよりも圧倒的に下回っている。仮にモンスターの集団に囲まれたとしても、余裕を持って逃げきれるはずだ。
しかし、何事にも絶対ということはない。
万が一にも俺が死んでしまったら。リズはそれを恐れているようだった。
「死んだら、あたしは絶対に後を追うから」
だから、リズは俺に呪いをかける。俺が無茶しないように。この幸せな時間が続くように。
「ありがとうございましたー!」
店頭に立つリズが元気よく言い放った。見送られた男性客はというと、店を出る前に残念そうな顔を見せつつも、肩を落として外へと出ていった。俺はリズの隣で、随分と嬉しそうなリズを眺めた。
エプロンドレスを身に着けたウェイトレス然とした格好。張った胸元には大きめのリボンがあり、全体的に可愛らしさを引き立てる意匠だ。この服装もピンク色に染めた髪色も、リズの女友達から勧められたものであるらしい。リズ本人は自分に似合うものかと疑っていたようだが、童顔のリズにはとてもよく似合っていた。格好を変えただけで訪れる客も増え、売上が伸びたということもあって今もこの格好を続けている。
格好だけ見ると喫茶店か何かの店員にしか見えないが、リズはこのリズベット武具店のれっきとした店主であり、鍛冶屋だ。高い武器作製スキルを持つリズの鍛える武器は質がよく、固定客は多い。そして、その多くは男性プレイヤーであり、リズの容姿に惹かれたものも少なからずいることだろう。
着飾ることで利点はあったが、逆もあったようだ。リズは男性客に頻繁に言い寄られるようになり、結婚を申し込まれることもあった。MMORPGというゲームの分類上、やはり嗜むのは男性プレイヤーが大半を占める。この世界に閉じ込められたことで現実に戻るのを諦め、数少ない魅力的な女性プレイヤーに好意が殺到するのは必然だった。
今も独り身の女性プレイヤーを悩ませる問題ごとだが、リズはもう自分には関係ないとばかりに晴れやかだった。
「しばらくそこにいてね」
と開店前に言われてからずっと、俺はリズの横に座ったままだ。店頭にいてほしいなどと言われたのは初めてで、最初は思惑が掴めなかったが、すぐにその理由は明らかになった。
果たして、今日の営業が始まってから俺の目の前で何人の男性プレイヤーがリズに振られたのだろう。「あたし、この人と結婚するので!」と言われて失恋に沈む常連客の男性プレイヤーが後を絶たず、俺は全員から恨みがましい視線を向けられた。
俺はリズの露払いとして大いに役立っていた。この調子で恨みを買うと、フィールドに出たときに襲われそうだ。まあ、最前線で戦う攻略組の相手はともかく、その辺のプレイヤーに負ける気はしないから問題ないと思うけど。
「もういい?」
「いいよ。しつこい人たちにはお披露目は終わったし」
「売上とか大丈夫? さっきの人たち、来なくなりそうだけど」
「大丈夫だって。あたしの腕は十分知ってもらってるし」
既に十分な宣伝効果は得られたとのことだが、リズがウェイトレスの格好をやめる様子はない。何だかんだ言いながらも気に入っているようだ。
「ってことで、今日はそろそろ店仕舞いしますか」
「もう? 何か用事でもあるの?」
「まぁ、ね」
言葉を濁したリズは店外へと出た。店の扉に掛けられた、『OPEN』と書かれた木札を裏返してきたようだ。まだ日中なのに店を閉めていったい何をするつもりなのか。素材集めなのだとしたら俺を頼るはずだが、特に何も言われていない。よくわからないが、本人の自由にさせることにした。
俺はそろそろ稼ぎに行こうかと思い、椅子から腰を上げたところ、俺の傍にやってきたリズに流れるような動作で引っ張られる形となった。首根っこを掴まれ、ずりずりと物のように引きずられていく。
「リズ……?」
リズは何も答えない。
「リズさん……?」
改まって問うが、リズはにっこりと花咲くような笑みを見せるだけだった。
リズが俺を連れて向かった先は、店頭の奥にある工房ではない。本当に今日は武器を作らないつもりらしく、益々何をするのかわからない。俺は首を傾げながらリズに引っ張られ、気がついたときには寝室のベッドで、昨夜と同じように組み敷かれていた。
「ちょ……」
「ほら、脱いだ脱いだ」
俺に促し、リズが真っ直ぐ揃えた人差し指と中指を下に向かって振った。すると、リズの眼前に紫色の光を放つ半透明の四角い画面が表示された。プレイヤーが表示できるメインメニュー画面だ。
続けて行われた手早い操作によって、リズの服装が変わる。エプロンドレスを脱ぎ、履いていた下着も取り払い、生まれたままの姿で俺の股間に自分の股間を押しつける。その頃にはリズの表情は淫靡な笑みに濡れ、俺へと甘い言葉を掛けてきた。
「ねえ」
「はい……」
「あたしも結構稼げるようになってきたんだよ? 積極的に狩りに行かなくても、二人くらいなら贅沢しながら余裕で養える。って、ことはさ、もうあんたが前線に行く必要ってなくなるよね?」
「それは……」
「あたしたちって、恋人でしょ?」
リズの手が俺の右手を掴む。リズに操られるようにして人差し指と中指を真っ直ぐ揃えさせられ、下に動かされた。それに合わせて俺の前でメニュー画面が開き、続けて可視化のボタンを押下させられた。
本来、メニュー画面は本人にしか見えない。それを可能とする可視モードにすることで、リズにも見えてしまう。俺の装備などが全て筒抜け。リズは画面に表示された装備フィギュアから俺の装備を勝手に剥がしていく。
あっという間に俺を下着一枚にした後、リズはオプションメニューに移動し、そのままさらに奥の画面へと遷移を続けた。やがて、リズは目当てである『倫理コード解除設定』の項目を見つけると、躊躇なく解除した。
これで、本来ゲーム内で禁じられているはずの性行為が可能となる。
本当に、今からするつもりらしい。
ただ、普段とは何かが違う。何かを悪巧みしているような、そんな雰囲気を感じる。
「あたしを恋人にしてくれたってことは、いずれは結婚してくれるんだよね?」
俺は、リズと初めて出会ったときのことを思い出していた。あの日、リズは一人でフィールドに出てモンスターと戦って素材集めをしていた。普段は同じように素材集め目的のプレイヤーと一緒に狩りに出ていたようだが、その日は一人だった。
周りに迷惑を掛けずに、自分一人でもやっていける。そんな気持ちだったのかもしれない。慢心し、フィールドの奥に進み、モンスターに囲まれてからようやく後悔したようだった。俺がその場に偶然立ち寄って、リズを助けていなければ、今頃はどうなっていたかわからない。
危険な目に遭ったことのあるリズだからこそ、死に対する恐怖を色濃く知っている。だから、無茶はしない。俺にも無茶をさせたくない。俺を説得するためならば、何でもしようという覚悟かもしれない。
「あたしと結婚してあたしに養われるって約束してくれるまで、解放してあげないから」
リズが抱き着いてくる。下着の中の肉棒が、リズの陰部に上から押さえつけられる。圧迫され、熱を供給され、どくどくと下半身に活力が満ちてくる。期待に震える己の分身を今から抑制することもできず、俺はわずかに残っていた抵抗の気持ちを投げ捨てた。
「あたしに依存させてあげる」
リズの接吻で唇に蓋をされる。俺の顔を見たまま口づけを交わし、手探りで見つけた俺の股間を覆う布地から肉棒を取り出す。ぶるんっと外に躍り出たそれを撫で、リズは腰を持ち上げて遠慮の欠片もない捕食を始めた。
「あっ! あっ! 大きいっ! んんっ! あはぁっ! これ、本当に大好きっ!」
昨日とは比べるべくもない雌がそこにはいた。十代の少女とは思えない、匂い立つ濃い色香。俺の反応を見ながら相好を崩し、もっと可愛がろうと食って掛かる。尻に敷かれるというのはこの状況を言うのだろうか。レベルも、戦闘用のスキルも俺のほうが上なのに、何の抵抗もできずに、俺は果てた。
射精した。何度も、何度も。
元気になると、また精液を搾り取られた。
それでもリズは止まらない。
「頑張れー、もっと出せるでしょ?」
柔らかい女体で抱きしめられ、至近距離で見つめられ、耳元で囁かれる。
本能をくすぐられ、肉棒が蘇った直後には膣圧で屈服させられる。
抗えなかった。もっとしてほしい。気が付くと、俺はそう口走っていた。
「それじゃあ、あたしと結婚してくれる?」
俺は頷いた。
「あたしが指定した狩り場以外には行かない?」
俺は頷いた。
「もしも現実に戻れたら、向こうでも結婚してくれる?」
俺は黙って何度も頷き、リズの要望を全て受け入れてしまった。立て続けに浴びせられた快感が脳を突き抜け、理性を狂わせる。未知なる快楽に足を踏み入れた俺は、どんどん落ちていく。
「約束だよ。あたしの傍にいてくれたら、一生幸せにしてあげるから」
断る理由はどこにもなく、俺はリズの魅力に溺れていった。