魔法の森の奥深く、立ち上る瘴気をものともせず元気に駆け回る子供程度の小さな影が三つあった。
「ねぇスター?本当に反応はこっちなの?」
「ええ。どんどん近づいているわ」
「よーし、待ってなさいよ、大蛇もとい茸!」
無論、普通の子供が魔法の森で遊ぶはずもない。彼女たちは妖精、それも光の三妖精と呼ばれるサニーミルク・ルナチャイルド・スターサファイアの仲良し三人組である。現在は神社の近くに引っ越したものの、もともと魔法の森に住んでいた彼女達にとっては森の奥とて庭のようなものである。
「まだ動いてないわ…このまま一直線よ!」
「ねぇサニー、大蛇ってどうやって捕まえたらいいのかな?」
「なんとかなるでしょ」
実は彼女達はひょんなことから蛇を蛞蝓が溶かした跡に茸が生えると知り、森にいるという人すらひと呑みにする大蛇を捕らえんとやって来たのである。彼女達が無策なのは死んでも復活する妖精故の無鉄砲さ。それが今回の彼女達には災いした。
突如スターサファイアが足を止める。
「あれ?動いた?」
「えっ?どっちに…?」
たとえ目に映らなくとも生きるものの気配ならば全て察知できるスターサファイアはこの狩りではまさしく三人全ての目である。スター
サファイアに合わせて二人は足を止め、辺りの様子を窺う。
「あ、わかった…さっきより近く、こっちに…ええっ!?」
スターサファイアが驚愕の表情と共にその場を飛び立つ。その直後反応できず残されたサニーミルクとルナチャイルドの視界は暗色の何かに塞がれた。
「ちょ!?スター!?いきなり何を…う…そ…?」
「スター!?スターぁぁぁぁ!?」
スターサファイアが飛び立った先を見上げた二人の目に飛び込んだのは、スターサファイアの頭から腰までを飲み込んでいる大蛇だった。スターサファイアは足を必死にばたつかせて大蛇の口から逃れようとするも、妖精の力で大蛇に対抗すること敵わず、徐々に身体が大蛇の奥へと消えようとしている。
「に…逃げなきゃ…!?」
「違うわルナ!音を消して!私が消えて不意打ちするわ。スターを助けなきゃ」
逃げようとするルナチャイルドを叱咤してサニーミルクは友のため、能力を発揮して姿を消し大蛇へと躍りかかる。が、そんな彼女を嘲笑うかのように蛇の丸太ほどもある胴体が彼女を正確に捉え、ルナチャイルドともどもとぐろの中に巻き込んでしまった。
「かはっ…ど、どうして…?」
「い、いぎぃ…潰れるぅ…」
彼女達は知る由もなかったが、蛇には温度で獲物の位置を探るための器官がある。故に、光と音をいかに操ろうと二人の挙動は大蛇には筒抜けだったのだ。ぎりぎりと二人を締める大蛇の胴。だが、彼女達は気づいていない。普通の蛇ですら締め付ける力だけで鼠の全身の骨を砕くだけの力を持つ。ならば人間を呑むサイズの大蛇が絞め殺す気でかかれば人間の子供程度の妖精など一瞬で桃のように潰れ、長い蛇体を彩る極彩色になっていよう。では、彼女達が五体満足でいられているのは…ひとえに、この大蛇が三匹の哀れな妖精を嬲って楽しむために彼女達を捕らえたからに他ならない。
そしてこれも彼女達は知る由もないことであるが、この大蛇は長く生きるうちに妖力を備え、人語を解する存在であった。風に乗って聞こえてきた、妖精たちの無邪気な、そして蛇にとってはとんでもない企みを聞きつけ、懲らしめんと現れたのである。だが、あまりにもあ
っさりと大蛇に捕らわれた妖精を前に大蛇の嗜虐心に灯がついた。蛞蝓に溶かされ喰らわれる同胞の痛みの万分の一でも味わわせてやろう、どうせ死のうと妖精は蘇るのだから…。嗜虐心を義憤に摩り替え、大蛇は生かさず殺さず口と胴に捕らえた妖精を締め苛むのであった。
「くっそぉ!離して…ぇ…スターを…返せぇ!」
「ぐぇ…げぶぅ…やめ…てぇ…」
サニーミルクは締め付けられながらも、残った気力だけで不屈を訴える。対してルナチャイルドは痛みに耐えかね、顔を涙と鼻水に塗れさせ泣き叫ぶのみ。二種類の異なる反応を楽しむように大蛇の締め付けに緩急が加わり、二人の口から悲鳴が漏れる。
「スター!頑張って…ス、ター…あうぅっ!」
締められ骨の軋む痛みに耐えながらずるずると大蛇に呑まれるスターサファイアに悲痛なエールを送るサニーミルク。だが、彼女の呼びかけも虚しく、スターサファイアのもがきは弱まって行き遂にはだらりと足が垂れ下がるのみとなる。そして…
ごくん、とあっけなく大蛇の喉にスターサファイアは消えて行った。大蛇にとってはいつでも呑み込める獲物を、暴れるうちは無駄な抵抗をさせていただけに過ぎなかったのであろう。大蛇の喉の膨らみが徐々に下に下にと移動していくのを見て、サニーミルクの張り詰めていた糸が切れた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
パニックを起こし、じたばたと身をよじろうとするサニーミルク。傍らのルナチャイルドは既に締め付けに耐え切れなかったか、白目を剥いて涎を垂らしており、サニーの苦し紛れに振り回す肘が当たっても反応すらしない。
「離せ!離せ!離せぇぇぇぇぇ!」
ぽかぽかと振り下ろす拳など、大蛇にとっては兎の毛で突くほどにも効かないであろう。だが、それでも他に術を持たないサニーミルクは足掻くしかなく。
ふと、サニーミルクは胡乱げな思考で、背中を押さえる蛇体が少し膨らんで来たのを感じた。
「え…これって…?―――――――」
そう、蛇体の膨らみは、中に何かがあると言うこと。大蛇の腹を隔てただけの距離の遠さに、サニーミルクもまた、ドロワーズの中に小水を撒き散らしつつ意識を手放した。
嬲り甲斐のなくなった獲物をあっさりと大蛇はひと呑みにし、森の奥へと姿を消した。
――――――きて
――――――――ナ、起きて
――――――――――ルナ、起きなさいってば!
「…ふぇ?」
「おはよう、ルナ。残念ながらバッドモーニングだけど」
「ルナが一番遅いのは珍しいわね」
二人の呼びかけに意識を取り戻したルナチャイルドは辺りを見回す。だが、広がるのは一面漆黒の闇。身動きは殆どとれず息苦しく生臭い空間。ルナチャイルドは直前の状況を思い出し、がたがたと震える。
「嫌ぁ!私達、あの蛇に…で、出なきゃ!溶けちゃう!」
じたばたともがこうとするルナチャイルドだが、ぴっちりと腹も背中も柔らかいものに固定されているようで動けない。唯一頭だけが動くとわかった彼女が勢い良く頭を振った途端にごちんと鈍い音と鈍痛が走った。
「「あだぁ!?」」
思ったより近くに聞こえるサニーミルクの悲鳴。少し下からはくすくすとスターサファイアの笑い声が聞こえてくる。
「いっつう、ルナ、何すんのよぅ」
「あいたた…このやわこいのサニーだったの?」
「まぁ、今ので目も覚めたんじゃない?」
暢気な二人の様子にルナチャイルドは疑念を抱く。いくら何でも、暢気すぎやしないだろうか。
「何悠長なこと言ってんのよ!このまま私達、溶けて蛇の栄養になっちゃうのよ!?」
「だってねぇ」
「何も打つ手がないんだもの」
あっけらかんと、絶望的な宣告をする二人。
「私なんかルナに挟まれて動けないもん。なんとか動けないかって頑張ってる時にルナは寝息たてちゃって」
「私は、一人だから頑張って体勢を変えて顔を付き合わせてお喋りできるようにはなったわね」
「ま、どうせ私達妖精は溶けても1回休みなだけだし、溶けるのが先か息が詰まるのが先かわかんないけど、楽しい話でもして気を紛らわせましょ?」
「…うん」
納得は行かないものの、確かに何も出来ないなら、暗くなっても仕方ないとルナチャイルドも二人の案に乗ることにした。この辺りは妖精故の強みとも言えよう。
生臭い肉の牢獄の中、そこに似つかわしくない明るい三つの声が響く。やれ、この後も小さな蛇で栽培を敢行するか否かだの、やれチルノが蝦蟇に呑まれた時に笑ったのは悪かっただの、取り留めのない話が続く。ふと、ルナチャイルドは背中にぬるぬるした感触を感じた。
「ひゃん!?なんか背中がぬるっと…」
「あー、服が溶けて来たんじゃない?」
「私なんか、一人で挟まれてるから全身ぬるぬるよ。オイルレスラーみたいね。ふふ」
ぬるぬるは背中から、腹へと至り、しゅうしゅうと音を立ててサニーミルクとルナチャイルドの間に挟まっていた服の残骸が溶けていく。
「うわぁ、ねぇルナ、私達今はだかんぼでぴったりひっついてるわよ」
「ほんとだ、…サニー、あったかいね」
「私一人のけ者にしないで欲しいわ」
「きゃ…スターもあったか~い…」
ぴったりと大蛇の腹の中で抱擁を交わすような体勢のサニーミルクとルナチャイルドに、一人離れたスターサファイアがぬるぬるの手を擦り付ける。まるで泥遊びをする幼子のような手つき。だが、三人に甘い刺激が走る。
「ひゃ!?」
「今のスターの手…すっごい気持ちよかった…」
「私も手が痺れるぐらい凄かったわ…」
お返しとばかりにスターサファイアの手を舐め上げる二人。その瞬間スターサファイアは体を仰け反らせて痙攣した。
「あぁぁぁぁぁぁっ!?イくぅ!」
脱力して余韻に浸るスターサファイア。彼女達は気づいていない。蛇の胃液が皮膚を侵し、神経をむき出しにしているからこんなにも小さな刺激ですら心地よいのだと。やわやわと肉壁が蠕動しスターサファイアを奥へと誘おうと動き始める。過敏な全身がまるで舐られているような刺激にスターサファイアは声もなく絶頂を繰り返す。その小さな身体はサニーミルクとルナチャイルドを離れ、腹の奥へ奥へと落ちて行く。
「え…?あれぇ…?二人が遠くに行っちゃってるぅ…」
「スター、どこ行くのぉ…こっちおいでよぉ…」
「あん…そっかぁ…私、溶けて小さくなっちゃったから、滑り落ちてるんだ…」
「スター、待って、待ってぇ…」
「また、後でね…」
どんどん小さくなっていくスターサファイアの呟くような声は、肉壁に吸われるように消えて行き、二人の妖精だけが残された。
「ね、サニー。サニーはいなくならないでね…」
「何言ってんのさルナ。こんなにぴったりくっついてるから、いなくなりようがないじゃないの」
「もっとくっついていい…?」
「良いよ。ん…ちゅ…」
ルナチャイルドとサニーミルクはぺちゃぺちゃと互いの口内を貪り合う。
「ね…今考えたんだけど…もし、この中でまた生き返ったら、どうしよう」
「そうなったら、今度はスターも一緒に、仲良くすればいいのよ」
「そっかぁ…そうだよね…ん…っ…」
いつしか二人の身体は、溶け合いぴったりとくっつき合っていた。神経すらも溶け合っているのか、舌を絡めるだけで互いに絶頂を迎える。
「さにぃ、さにぃぃぃぃ。きもちいいねぇっ!」
「るなぁ…ずっといっしょだよぉっ…」
幾度果てたろうか。
「さにぃ、あったかいね…」
「さにぃ…?あれ?」
「ずっと、いっしょだって、いったのに」
「それとも、わたしがさにぃだったんだっけ」
「じゃあ」
「ずっと」
「いっしょ」
「だよ」
「ね」
ごぷっ…ごぷ…
とくん