変わり、止まり、折れ曲がって。
それでも想いは、只そこにある。
誰もがそれを、知っているから。
人は変わっていく。きっと良くも悪くも、そんなものなんだろう。
人同士の関係も、変わっていく。好きも嫌いも、変わっていく。
だから、そう。今の気持ちも関係も、きっとこの先変わってしまう。
それでも。それが例え、移ろうものであっても。
その気持ちに、応えなければならない。
「私、大喜が好き。好きになってくれなくていい、それでも大喜が好き」
涙を流しながら、それでも無理矢理笑顔を作る雛。その震える手に、そっと俺の手を重ねる。
「ありがとう、雛」
言いながら、俺も何故か泣いてしまって。二人して、そのまま泣き続けた。
俺は、千夏先輩が好きだ。それは今でも変わらない。雛にもそう打ち明けた。その上で、雛は俺を好きだと言ったのだ。
千夏先輩と付き合えたら、なんて考えた事はある。でもそれこそ叶わない夢だ。千夏先輩は眩しすぎて、触れることが許されない人だ。
じゃあ、雛はどうなんだ。
千夏先輩と同じくらい、もしかしたら上回るかもしれないスゴい奴。俺は雛を、嫌いじゃない。いや、好きだ。大事な、友達だと思っていた。その雛自身が、友達より先に進みたいと言うのだ。拒む理由なんか、あるだろうか。
……いや、理由ってなんだ。好きになるならないに、理由を付けるのか俺は。そんな打算的なこと、それこそ許されない。失礼にも程がある。
俺は一体、どうすれば良いんだろう。いや既になし崩しで、俺たちの交際は始まったわけで。
どうしよう、かな。我ながら最低だと思うけど、俺は未だに迷ったままだ。
好きって、なんだろう。
いつぞや、千夏先輩と行った水族館。でも今日隣にいるのは、先輩じゃない。
あの告白から迎えた最初の日曜日、俺たちはここを訪れている。どういうわけか雛のやつが、行ってみたいとリクエストしてきたのだ。
正直、なんとなく気まずい。前に千夏先輩と通った記憶もまだ鮮やかなのに、こうしているのが気まずい。
もし告白されないままだったら、単に友達と遊びにいくだけの事なのに。でも一応は付き合っているわけで、これは所謂一つのデートなわけだ。
一通り回って、そして。
帰り道で、雛はぽつりと呟いた。
「大喜が先輩とした事、上書きしたかったんだ。……大喜が、好きだから」
上書き。それはつまり。
雛にとって千夏先輩が、張り合わなければならない相手だという事。
絶対に負けたくない、という強い思いが伝わってくる。
「ごめん。好きになってくれなくていい、なんて嘘。大喜が千夏先輩より、私を好きになってほしい。私だけを、好きでいてほしい」
その瞳は、涙に潤み。それでも、凛として俺を見据えている。
俺は、俺は――。
「……良いのか、俺で。俺なんかで、さ」
まだ逃げようとする自分が、嫌になる。
今必要なのは、そうじゃない。俺の気持ちを、ただ口にするだけで良いのに。
逃げるな。日和るな。
「良いよ。それに今はまだ、千夏先輩を好きでも良い。いつか先輩より私を好きになってくれる、って信じてるから」
真剣なその目に、気圧される。雛は、本気なんだ。本当に、俺を好きなんだ。
俺はここまで真剣に、千夏先輩を好きだろうか。ただ憧れているだけなんじゃないのか。
一度そう思ってしまうと、心は傾いていく。ほんの僅かな間に、傾いていく。
そして。そっと目を閉じた雛に導かれるように。
俺は雛を抱き締め、そしてキスしていた。
初めてのキスは、熱かった。
帰宅して尚、身体の熱は冷めようともしないまま燻っている。
無理もない、あんな事をしてしまったんだ。
「大喜くん、なんか顔赤いけど。また風邪?」
千夏先輩にそう言われてやっと、顔まで赤く染まっているのに気付いた。うう、格好悪い。
雛に告白された事、付き合い出した事、それを先輩に言うべきなんだろうか。
いや、言われたって迷惑だろうな。千夏先輩は俺の事を、――好きな訳じゃない。嫌いでもないだろうけど。多分。
きっと俺の事は、只の後輩としか思ってない。家族みたいには思ってくれるかもしれないけど、それは俺が考える「好き」じゃない。
雛は俺を、好きだと言ってくれた。そして俺も、雛を「特別な好き」になりつつある。
もし何処かで俺が気持ちを伝えていたら、先輩は俺にそういう気持ちを持ってくれたんだろうか。
いや、考えても仕方ないか。届かなかった、それはもう良いじゃないか。
妥協するとかそんなんじゃない、俺を好きになってくれた雛に応えよう。
だから、そう。
「先輩、好きでした」
壁に阻まれて届かないけど、それでも。俺は、そう告げた。
新しい一歩の為に。
それから少し月日は過ぎて。俺たちは何度もデート……というかなんというか、二人でバカみたく遊び歩いたりしている。
デートと素直に言えないのは照れ臭いから、そして全力で遊んでるだけだから。デートってもっとしっとりしたものじゃないのかな、とは思うけど。
まあ俺たちだからな。バカ二人がタッグを組んでるんだから、色気も何もあったもんじゃないか。
とは言え、だ。毎回帰り際には、人目を憚りながらキスをするのが恒例になっている。この辺はデートっぽいんだよな。
そんでもって、今日この日。俺は雛の家へとやって来ている。お出掛けも良いけどたまには部屋でゆっくりしようよ、と雛が言い出したから。
確かに休みごとにどっか行ってるし、そうでなくてもお互い部活があって疲れてるし。多少のんびりしてみるのも良いかもしれない。俺の部屋だと、隣に先輩が居たりするわけだからな。気まずいわ。それはもう気まずいわ。そうなると雛の部屋が最適解ってやつだろう。
蝶野家には中学の頃何度か来た覚えはあるけど、最近は足が遠退いてた。高校生になってからは、なんか気恥ずかしくなって。一応は女子の家だからな。
「はい、蝶野で……あら大喜ちゃん。いらっしゃい、久し振りねー」
玄関で迎えてくれたのは、雛のお母さん。……変わってないなこの人。
可愛いって言うか、歳取らなすぎと言うか。雛のお姉さんどころか、下手すりゃ妹って言っても通るぞこの人。
時空が歪んでるんじゃないか、この人の周りだけ。
「あ、ご無沙汰してますおばさん」
「やあねえ、舞って呼んで。次おばさんって言ったら、ひっぱたくわよ?」
そういうおばさ、……舞さんは何故か大荷物を抱えている。
まるで今から、何処かへと出掛けるかのように。
いやまさか、なあ。
「雛は部屋ね、私これから四時間くらい留守にするから。ごゆっくり~♪」
俺へ一方的にそう言って、舞さんは行ってしまった……。いや良いのかあんた。
なんかお膳立てされているというか、飛んで火に入る夏の虫というか。釈然とはしないけど、とりあえず。
「お邪魔しまー……す」
少しの緊張感と色んな意味での期待を胸に、俺は蝶野家へと踏み行った。
記憶の中にある雛の部屋とは、若干だけど変わっている。
こんなに女子女子した部屋じゃなかった気がするし、もっと新体操関係の本が多かった気もする。
まあ、そりゃ一年以上来てないからな。
「大喜、コーヒーで良い? まあ他はギムネマ茶とかそういうのばっかりだけど。お母さん、すぐ変なの買ってくるからさ」
……ああ、思い出した。前に来たときは舞さん、わけ分かんない蓮の葉のお茶出してくれたな。何だったんだろうあれ。
とりあえずコーヒーくらいが平和で良いよ。うん。
台所へと立ち上がった雛を見送り、持ち主がいない部屋に一人。考えるのは、やっぱり雛の事。
こうして誘われて部屋に上がる、それは前にもあったこと。でも今、俺たちは付き合っていて。
なんとなく、浮わついている自分がいる。期待してしまう、よくない自分がいる。
まったく、嫌だな。すぐそれだ、男だから。
雛が戻ってきてからも、どこかその辺が引っ掛かってしまう。
そんなモヤモヤを抱えたまま、とりあえずは取り繕って、二人。
特にやることもなく、なんとなく、二人。
何処か気まずげな、でも心地良い、二人。
そんな空気のなか、ふとした拍子に沈黙が訪れる。
よく分からない、何か言いたいけど言えない雰囲気。
でも雛の小さな一言が、それを切り開いた。
「あのさ、大喜。私、下心全開であんたを呼んだんだよ」
下心。それがどういう意味かくらい、俺の足りない頭でも分かる。
それは、つまり。
もっと先へ、行きたいということ。「特別な好き」を、更に進めたいということ。
でも、でも。それは本当に愛していなければ、絶対に許されないこと。
俺に、その資格があるのか。俺は雛に、言えるのか。誰よりも愛している、と。
欲望に流されるわけには、いかないから。雛を傷つけたくない、大切な相手だから。
じゃあ、どうしたら――。
「……バカな癖に、何考え込んでるのよ。良いんだよ、私は大喜が好きなんだから」
ちょっと笑って、でも真剣な瞳で。雛は、俺を見据えている。
ああ、そうか。簡単な事なんだ。
俺は、どうしたいか。どう、なりたいか。何を言うべきなのか。
最初から、分かっていた事だ。
「雛、……好きだ。千夏先輩より、誰よりも、俺は雛が好きなんだ」
そう、そうだ。最初から俺は、雛が好きだったんだ。目も眩むほど目映く輝く千夏先輩に当てられて、それしか見えなくなって。それでも俺は、雛と一緒にいたいと思っていた。
憧れ続けた人は、確かに今も好きだけど。でも、それは雛とは違う「好き」なんだ。
あの夜「好きでした」と一人で口にしてから、幾日か。ようやくハッキリと、心が固まった。覚悟が出来た、とも言うか。
雛の身体を抱き締め、キスをする。甘く柔らかい、恋人同士のキスを。
愛している、その思いを込めて。キスを、し続ける。
長い長いキスの果て、唇を離したその時。雛は、小さく呟いた。
「良いよ。大喜、……しようよ」
舞さんはあと数時間は帰らないだろうけど、それでも戸締まりは済ませてから。
俺と雛は、部屋の中で向かい合う。一糸纏わぬ姿で。
正直照れるとかそういう次元ではないけど、まあお互い様だから。
改めて、思う。雛って、女子なんだな。
「……あんた今スゴい失礼なこと考えてない?」
「まさかぁ」
この状態で殴られるのは勘弁だ、でもなんでバレてんだ俺は。
良いけどさ、別に。以心伝心ってことだろうか。違うな。
「あの、さ。その……それ、普通なわけ? それとも特殊?」
顔を背けつつ雛が指でしめすのは、俺の腰の下。もう一人の、俺。
「多分、普通なんじゃないかな。……比べたこと無いから分かんないけど」
「ぬー……。入るかなー……」
スゴく真剣な顔で、雛は考え込んでいる。…………いやうん、まあ。そりゃあ、そういうことをする訳だから。相性とかそういうの、あるよな。どっかの作家さんが、旦那のそれが入らないとかそういう本出してたし。
無理はさせたくないけど、でもそんな事言ったら絶対ムキになるよなこのバカ。
さて、どうしようかな。
こっちもこっちで、気になってはいるんだけど。
「殴られるかもしれないけど、言うぞ。触っていい?」
「……殴りはしないけど、優しくしなさいよね」
いや、お前すぐ殴るじゃないかよ。とは言え、とりあえず許可は貰ったから。
言われた通りになるべく優しく、その肌に触れてみる。
伝わる熱さと、その滑らかさ。女子の身体って、こうなのか。こんなにも、違うのか。
手をそっと滑らせて胸に到達すると、雛の身体は小さく震えた気がしたけれど。明確に拒絶されはしなかったから、手を止めはしない。
ほかの場所より柔らかく、指が埋まる感触がなんだか不思議だ。
口にしたら絶対殴るでしょうから言いませんけど、雛さんのお胸は周囲の皆様に比べましても控えめに見えるのですハイ。
でもこんなにも弾力に富んで、魅力的だなんて。女子って、スゴい。
「あーのーさー、今またスゴい失礼なこと考えてるでしょ」
「滅相もない」
なんだろう、俺の顔って電工掲示板でもはっ付けてあるんだろうか。よくもここまでバレるな、俺。
とにかく矛先を変えようと、胸をまさぐっていた手を下へ下へと移動させていく。
脇腹から細い腰を抜けて、そして。
そのまましゃがみこむ姿勢で、雛の脚の間に顔を寄せる。
もちろん見たことなんか無い、その場所に。気がつくと俺は、キスしていた。
「ん、……っ」
僅かに顔を出した肉の芽に吸い付き、そのままゆっくりと口を動かしていく。
口の中へと舌を進めるように、肉の間を割り広げながら。舌に感じる、少し刺激の強い味を楽しみながら。
雛の中に、入っていく。俺が、入っていく。舌を押し潰すような圧力も、心地良い。
雛が脚を震わせ、身体が倒れて尚。それは、止められない。
尻餅をついた形の雛の前で、這いつくばるようになりながらも口を離さない。離れたく、ない。
雛が俺の頭に手を置いて、ちょっと強引に引き離すまで。俺は無心にキスを続けていた。
「さて、です」
「はい」
仕切り直し、とばかりに俺たちはちょこんと正座で向かい合う。なんだこれ。
「ええと、大喜さんや。してもらったことは返すのが礼儀だと知ってはいますけど。いますけど、無理です」
雛は全裸なのに真面目な顔、聞いてる俺も真面目顔で全裸。だからなんだこれ。
まあ、言いたい事は分かる。一方的にされるだけは心苦しいけど、自分から同じようなことは絶対出来ない、と。
うん、そりゃな。世の中には前段階でそういう事をやりあって、気分を盛り上げる習慣もあるそうですが。
初心者のバカ二人に、そんな器用な事が出来るわけがない。
俺たちは、俺たちのペースで良い。
「別に同じことしてほしい、とか言わないからな俺は。雛が美味しいから、舐め続けちゃっただけ」
それが本音で、俺の素直な気持ちだ。
「……それはそれで退くけど、ありがとね」
むしろ退かないでくれ。まぁ、良いけどさ。
正座から膝立ちになって、そのまま雛の頬にキスをする。大好きだから。
美味しいのは、全部だ。雛の全部が美味しい、気持ちいい。愛している、と素直に思う。
もっと、もっと。雛の全てが、欲しい。
「あ、……そこじゃないって! もうちょっと下だってばバカ!」
「無茶言うなよバカ! こんなの簡単にできるかよ!」
ベッドの上でお尻を高く上げる雛、そしてその後ろから覆い被さろうとしている俺。「顔見られながらとか恥ずかしくて無理だし、反射で蹴りそう」という雛の言い分からこの姿勢になったものの、こっちからだとその、……あっちの穴まで見えるんだけど。良いのかな。
それはともかく。まあ、最初からこんなのがスムーズにいくわけがないんだけどさ。そもそも何処にどういれて良いのかも分からないくらいだ。舐めるのとは全く行動のベクトルが違う。
雛に言われるまま触ってみて、一応「穴」は分かったけれども。でもこんな狭い場所に、入るんだろうか。そりゃ雛が不安な顔するわけだ、だって指でさえ噛みきられそうになったのに。
大丈夫かな、とは思うけど。ここに入れてみたい、という期待もある。
意を決して、何度目かのチャレンジ。なんとか的が当たったのか、クチュリと音を立てて俺の先が雛の肉に食い込んだ。
でも、良いんだろうか。このまま、進んで良いんだろうか。
……とは言え雛からは、「は よ せ い」というオーラを感じる。なら――良いんだよ、な。
ゆっくりと、腰を進めて行く。ギチギチに締め上げられながらも、少しずつ。少しずつ、奥へと進んでいく。
「ぃ、ぁは……っ」
何かを押し裂いた感触と共に、雛が声にならない息を吐く。そして、そして。
「は、いった、ぁ……」
俺の全てが、雛の中へと埋まりきった。雛と、一つになった。
まさかここまで、想像を越えた感覚とは思わなかった。熱くて蕩けて、何もかも吸いとられていくような快感。
ここから更に動いたら、どんなにか――と興奮に我を忘れかけたその時。
「っ……ぃぎっ、うぅ……」
雛の圧し殺した呻きが、理性を引き戻した。
身体の中に、異物を受け入れるということ。あの押し裂く感じ。雛が今どんな状態なのか、それは想像さえつかないけど。それでも。
「ごめん、雛……」
俺は一人で気持ちよくなって、それでも満足せず先に行こうとして。雛を傷付けて、モノ扱いして。そんなの、そんなの。
声を絞り出して謝ろうとした俺を制するように。雛が手でベッドをバンッとぶっ叩いて、声を上げた。
「なに、気にしてんのよ……! 大好きだから、大丈夫なのよっ!」
その声は、いつもの雛。自信の塊、無敵の蝶野雛。いつだって全力でバカな、そして全力で俺を好きでいてくれる雛。
「ここで止めちゃったら、初めてが痛いだけで終わっちゃうじゃない……っ! 私が慣れて気持ちよくなるまで、続けなさい!」
無茶を言うなこのバカは。でも、バカさ加減なら俺だって負けていないから。
やってやろうじゃないか、どっちかが音を上げるまで。
痛みを堪える呻きはすぐに消え、雛の口から漏れてくるのは切なげな吐息へと変わっていく。
それに応えるように、俺も気がつけば喘ぎを上げながら腰を動かしていた。
快感は止まることを知らず、幾度も幾度も雛の中で射精し続けて。それでも尚、萎える感じがしない。
「どんだけ、出すのよ……っ、私をっ、にんしっん、させる気っなのっ!?」
憎まれ口さえ心地良い、身体が止まらない。本人の言い様とは裏腹に、雛の中は俺から精液を吸い出そうと責め立ててくるから。なにが慣れて気持ちよくなるまで、だ。こっちが逆に潰れそうだ。
それに。それに――
「して、欲しい。雛が好き、だから。ずっと、ずっと、俺だけの雛、で、いて欲しいから」
一生、一緒にいたい。
添い遂げたい。
出来れば死に水とって欲しい。
それが「好き」の行き着くところだと思うから。
口にしたその瞬間、雛の肌が更に赤く染まって。一瞬の後に俺を包み込んでいる雛の中が、突然最大級の締め付けを示した。
それに合わせるように口からは叫ぶような嬌声が流れ、そして――
「雛、……雛? おーい……?」
突然糸が切れたように、雛の身体が停止する。今ので意識が失せたのか、そのまま雛はベッドに崩れ落ちてしまった。
程なくしてチョロチョロと聞こえ出したのは、水の音。繋がっているその場所から、何かが溢れて止まらない。
いや、ちょっと待った。これは、まさか。
「雛さん、漏れてます漏れてます! 元栓閉めて、て言うか起きろって! おいバカ、不味いから!」
幸せそうな顔で失神したまま、自分のベッドを汚していく雛。
どうすれば良いのか見当もつかない俺。
全裸のバカ二人は、バカみたいな事態のなかで。やっぱりバカな顔をするばかりだった。
「あんな不意討ちみたいなこと言うから、悪いんじゃない!」
「嬉れションする方が悪いんだろうが、失神までしやがって」
何よ何だよ、と睨み合っては見たものの。すぐにどちらともなく笑い出す。ああ、馬鹿馬鹿しい。
雛が意識を取り戻すまではそんなに時間はかからなかったが、それでもベッドはぐっしょり部屋そのものもグッチャグチャ。おまけに舞さんも帰ってきてしまい、阿鼻叫喚の地獄絵図を繰り広げたのがついさっき。
……まあ、後悔はないけど。
とにかく、だ。
俺たちは、こうなった。色々あったけど、こうなった。
バカで歪で、メチャクチャな二人ではあるけれど。先の事なんか分からないけど。
それでも、だ。
「愛してる、雛」
「大喜、愛してるよ」
今のこの気持ちは、本物だから。変わっていくかもしれないけど、それでも。
愛を込めて俺たちは、キスをする。ずっとずっと、この愛が続くことを願って。
雛ちゃんを闇堕ちさせずに大喜くんと結ばせるのは、意外と難しいんですよ。