楽しくて、楽しくて。
愛しくて、愛しくて。
だからこそ、止められない。
可愛いから、止められない。
「遅いなあ、あのバカ」
花火大会の会場で、シートの上に座ったまま。私は小さく息を吐く。
休憩の間にトイレ行ってくる、って立ち上がってそのまま戻りゃしない。全く大喜と来たら、こういう所が大喜なんだから。まあ、生理現象に怒っても仕方ないか。
にしても、だ。あのバカが、可愛いとか言えるとは思わなかったな。そっか、私は可愛いか。知ってるけどさ、そんなの。知ってるけど、言ってくれて嬉しい。勇気を出して、良かったな。
千夏先輩にも、追い付けるかな。私を、好きになってくれるかな。
「……どうかなぁ……」
先はまだ不安だけれど、頑張ろう。
しっかし来ないな、裾広がってきちゃったの直したいのに。リップも塗り直したいし、あと私もトイレ行きたい。ラムネ飲みすぎたかも。
でも荷物がなあ……。持って行けない量でもないけど、そうすると場所取られちゃうし。どうしようか。
「あの、蝶野……さん? だよね?」
突然声をかけられて振り向くと、そこにいたのは見知った顔。
土曜の勉強会でお世話になっている、伊藤くんだった。
「あれ、伊藤くんも来てたんだ」
その浴衣姿を見て、ふと閃く。
「あのさ、ちょっと荷物番頼んでいい? 着付け直したくて、さ。御礼はするから」
男子相手にお手洗い行ってきます、とは言えないから。相手が大喜だったら逆に気安いんだけど、伊藤くんくらいだとなぁ……。
快く引き受けてくれた伊藤くんを残して、私は立ち上がる。
とりあえず一通りの用は済ませて、さて戻るかと歩き出した時だった。
「――、――!」
何かが、聞こえた気がした。くぐもった声のような、なにかが。
音はか細いが、どこかで聞いたような気もする。
灯りから離れた暗がりの奥に、その主がいそうな気配。暗がりの気配、か。まあ、お祭りの夜なんかはたまにいるんだよね。気分が盛り上がっちゃったのか、その、……色々している人たちが。
前にうっかり覗いちゃった事あったけな、スゴいビックリした。恋人になったらああいう事をするのか、と思った。
お盛んな人たちがいるなら、邪魔しない方が良いんだけど。でも、聞き覚えがあるような感じがどうもモヤモヤする。まさか友達の誰かじゃないでしょうね、最近あいつら次々彼氏出来てるから有り得ないとも言い切れない。
伊藤くん待たせてるし、大喜も戻ってきてるかもしれない。もう行かないといけないけど、でも後学の為に。もしかしたらこのあと、大喜とそういう事になるかもしれないし。
ちょっとだけ、覗いてこようかな。
足音がしにくいと言う点では、草履はスニーキング向きだと思う。そう言えばスニーカーは「スニーキング向きの靴」って意味だとか。どうでも良いけど。
忍び足で樹の影から影へ、新体操で鍛えた体勘を駆使して移動していく。全くなんでそんな必死なの私。
姿が見える位置まで近付き、屈んだまま様子を伺う。浴衣は多少汚れたかもしれないけど、まあどっちみち私が汚さずに帰れる訳無いし親だって分かってるさ。きっと。
丁度花火も鳴り出して、その光と音も味方してくれる。これはなかなか、悪くないぞ。
どうやらカップルらしい二人、組み敷かれている方が男のようだ。その上で揺れる、女性のシルエット。騎乗位ってやつだろうか、かなり激しい。
男の方が切れ切れに抵抗するような声を出しているから、逆レイプってやつかもしれない。
そう思って目の正月を味わっていた私は、でも。その声が、気になってしまう。聞き覚えがあるどころじゃない、これは知っている声かもしれない。
そして、その疑念が――
「ダ、やめ、……ぅっ、千夏、先輩……っ!!」
その一言で、確信に替わる。確信して、しまう。
目の前で繰り広げられている光景がなんなのか、分かってしまった。
千夏先輩が、大喜を犯している。大喜を支配し、セックスを強要している。
名前を呼ばれたせいか、今まで無言だった千夏先輩も言葉を紡ぎ出す。
「止めないよ? だって、大喜くんが可愛いから悪いんだもん」
勝手な事を言う千夏先輩は、スクワットするように大喜の上を跳ね回る。
花火の光で数瞬毎に浮かび上がるその姿は幻想的でさえあるけれど、でもこれは愛の行為なんかじゃない。一方的な、暴力だ。
だからこそ大喜は土に爪を立て、必死で堪えている。そう、見える。何を耐えているかは想像がつく。恐らくだけど射精、だろう。最後の最後で、踏みとどまっているんだ。抵抗しているんだ。
しかしそれは、千夏先輩に踏みにじられる。その未来が、分かりたくもないのに分かってしまう。
大喜の身体が痙攣し、そして土を掴んでいた指が力を失ってしまうのが見えたから。
そういう動画とかは見たことがある、射精の瞬間に男の子がどうなるか。ああなるんだ。ああなって、弛緩してしまうんだ。
それに立ち上がった千夏先輩の脚の間から、何かが白く垂れ落ちていく。精液だ、千夏先輩の中に放たれた精液がこぼれ落ちているんだ。
「じゃ、大喜くん。蝶野さんにヨロシクね」
そう一言言うとそのまま、凌辱者は暗がりの奥へと消えていく。
あの人は大喜が私と一緒だと、知っていた。知っていて尚、大喜を犯した。傷つけるためだけに、大喜を犯したんだ。
解放されたはずの大喜は立ち上がること無く、ただ啜り泣きしている。
大喜は千夏先輩が、好きなんだ。千夏先輩だって、それに気付いてる筈だ。それなのに、いや「だから」か。憧れも好意も何もかも蹂躙し、叩き潰してしまった。
……なんて事を、と思う。でもその一方で、これがチャンスだという賎しい思いも沸き上がってくる。
ここで助け起こして、大喜の心を支えて上げたなら。大喜は、私を好きになる。私だけを、好きになる。
善意のオブラートが下心を包み込んでいくのがわかる。
そうだ、そうしよう。千夏先輩が悪いんだから、突け込んでなにが悪い。
「大……喜、大丈夫……?」
歩み寄り、声をかけて。その姿に、改めて驚いた。服は剥ぎ取られあちこち傷だらけ、声を殺して泣きながら私を見詰めてくる。助けて、と瞳が訴えている。
助けるよ。私は、大喜が好きだから。大事な人だから。
そう、思うのに。
私の小さな胸は、興奮に高鳴り出していく。
千夏先輩は、言った。可愛いから悪い、と。身勝手な言葉だ、それは疑いようがない。
でも、だ。ボロボロになって涙を流す大喜は。無力な大喜は。
「可愛い、なあ……」
あまりにも、可愛すぎる。千夏先輩が我慢できなくなったのも仕方ないか、とさえ思う。
お腹の奥が疼き、その熱が全身へと広がっていく。
気がつけば私は、助けを期待している大喜の胸へと腰を下ろしていた。
暗がりの中、目の前には剥き出しになった大喜の下半身。星明かりと時おり光る花火に照らされる、――オトコノコ。生まれて始めて見るそれは、寸詰まりの蛇にも見える。
これが、千夏先輩の中に呑まれていたんだ。千夏先輩に、喰われていたんだ。
慈しむように、或いは調べるように。それを手でまさぐっていく。柔らかい肉の塊は、触っているだけで段々と固く熱くなり頭をもたげだした。勃起、と言うんだっけ。オトコノコがそうなるのは知ってるけど、こんなにも持ち主が傷付いていても反応するものなのか。なんというか、健気で可愛い。
「ひ、な……? やめ、て……」
怯える声を背中に感じても、私は手を止めない。千夏先輩に苛められて可哀想なこの子を、癒してあげないといけないから。
私は大喜もこの子も、苛めたりしない。可愛がるだけだ。千夏先輩みたいには、しない。
撫でて擦って、そしてキスして。いっぱいいっぱい、可愛がってあげる。
大喜はまだ何か言っているけど、それよりこっちが大事だ。私の手の中で気持ち良さそうに震える、この子が。
可愛い可愛い、と弄っていると。
ビクンとそれが大きく跳ねるように震えて。
「……、――!」
大喜の圧し殺した声と共に、白い飛沫が噴き上がった。顔まで届く勢い、これが射精なのか。こんなスゴい噴出を、千夏先輩は自分の中で受け止めたのか。
ただいたぶる為だけに、そこまで出来るんだろうか。千夏先輩の情緒はどうなってるんだ、あの人赤い血とか流れてないのかもしれない。
私もやってみたら、わかるのかな。大喜を犯したら、わかるのかな。
可愛がるつもりだったけど。苛めないと誓ったけど。
――どうしよう、かな。
身体の向きを変え、大喜と向き合う。もちろん胸の上に座ってはいるけれど。
小動物のように怯える大喜の頬を、そっと撫でてあげる。苛めないからね、可愛がってあげるんだからね。だから、大丈夫だよ。そういう思いを込めて、撫でてあげる。
ああ、可愛い。こんなに可愛いなら、苛めたく――いやいや。いけないいけない。
優しく、慈しむんだ。
そう思いはすれど、どんどん気持ちは盛り上がっていく。気が付けばもう夢中で、大喜の上で腰を揺すってしまう。
擦れる、あふれる、止まらない。普段から擦り付けてオナニーするのは好きだけど、それよりずっと気持ちいい。
段々ともどかしくなってきて、下に穿いていた肌襦袢も脱いでしまって。直接大喜の肌に、私を擦り付けていく。
大喜を使うの、気持ちよすぎる。ああでも、これだけじゃダメだ。
ちゃんと大喜も、気持ちよくしてあげないと。
一回立ち上がって少し下がり、大喜の腰を跨ぐ。そしてへたりこんでいるオトコノコを、もう一度。もう一度、手で愛撫してあげる。
もっともっと、気持ちよくしてあげるからね。
元気を取り戻した所で、私も自分を拡げて狙いをつけていく。
セックスを、する為に。大喜を、愛する為に。
涙を溢しながら力無く首を振る大喜に、安心して良いよと微笑んで。私は、――大喜の上に舞い降りた。
友達に聞いたような痛みや異物感はなくて、それより何より愛しさが強く込み上げてくる。大喜を、包み込んでいる。大喜を、独り占めしている。それがたまらなく、愛しい。
そして漸く、千夏先輩の気持ちも分かってきた。支配する悦び、と言えばいいんだろうか。大喜を組み伏せてセックスするのは気持ちいい、確かにそれは理解できる。でも私としては、それだけじゃつまらない。やっぱり、愛が無いとね。
私が大喜の上で跳ね回るのは、愛してるから。愛してるから、犯したいんだ。
……あれ、なんだか違う気もする。ま、良いか。どうでも。
私の中で元気に存在感を示してる大喜のオトコノコをイメージしながら、意識を集中させてみる。
なんか中を締めると気持ちいいとかそんなのを聞いたような、聞かなかったような。大喜の顔は泣き顔のままだから、悦んでいるかどうかは分からないけど。
私はスゴく気持ちいいけどね、お腹の奥まで大喜でいっぱいになってるから。
このまま、最後まで。千夏先輩がしたことを、私が上書きしてあげたい。
千夏先輩みたいに、してあげる。トドメを、刺してあげる。
あれ、私いま――何を考えた。
そうだ、私は何をしているんだ。千夏先輩と、同じことを、しているじゃないか。
大喜を蹂躙し、犯し、壊している。
それに気がついて尚、腰が止まらない。止められない。ああ、そうか。やっぱり千夏先輩も、そうだったんだ。踏みとどまれなくなったんだ。
それもこれも、何もかも。
「大喜が、可愛いから。可愛いから、悪いんだよ」
苛められて可哀想な大喜は、理性を失うほどに可愛いから。
可愛いから、仕方がない。私も千夏先輩も、悪くなんか無いんだ。
そのまま力を込めて腰を叩きつけていると、突然お腹の中で何かが弾けとんだ。それがなんなのか、もちろん見えはしない。でも、わかる。射精だ、私の中で大喜が射精したんだ。
身体の隅々まで大喜の熱が浸透していく感覚に、思わず声が出てしまう。
なるほど、千夏先輩がこれを受け止めたわけだ。気が狂いそうになるほど、気持ちいい。大喜を支配しきった、その快感。これは、癖になるかもしれない。
でも私としては、一回じゃ足りないかな。ひょっとして千夏先輩、私が覗いてると分かったから譲ってくれたんだろうか。そうだとすると、後で御礼しなきゃなぁ……。
はて。御礼。何か忘れてる気がするけど、良いか。とりあえず、もっともっと楽しませて貰おう。
どうせ急ぐわけじゃない、まだまだ大喜で遊ぼう。
いつの間にか花火は終わって、硝煙の臭いも風に解けていく。星明かりも疎らな闇空の下で、私は動けなくなるまで大喜を犯し続けた。
夏が終わる頃。
私と千夏先輩は、とても仲良くなっていた。同じオモチャを愛でる者同士、私たちは親友になっていた。
可愛いから女の子にしちゃおうよ、と千夏先輩が言い出してからは女装させたりメスイキ?というのを仕込んでみたり。匡と絡めたら面白そうですよねーと軽い気持ちで言ってみたせいで、あれこれ大騒ぎになってみたり。
毎日が、楽しくて仕方ない。不安も恥ずかしさもあるけど、でも何より楽しい。
私たちの日々は、愛しくて。
そして今日も二人、大喜で遊ぶのだ。
伊藤君は多分、泣きながら一人で帰りました。
頑張れ伊藤君。