心のままに、は難しい。
思う通りに、なんていかない。
でも。それでも。
きっとそれは、伝わるから。
考えてみればもう何年も、自分から何かを欲しがらなくなっていた気がする。バスケは母から託された夢で、それ以外を見ないで突き進むのが「正しい生き方」だと教えられてきたから。だから本当は何もかも興味が薄くて、当のバスケさえ別にそこまでは執着していなかった。親の都合で止めることになっても、それならそれで構わないとさえ思っていた。悔しくはあっても、母がそれで良いと言うなら従う気だった。
でも心の何処かに後悔はあって、引っ掛かってはいた。ここを離れたくない、と思い始めていた。
その気持ちがハッキリ形になったのは、あの日。大喜くんと、話した時だ。
毎朝体育館で会う、後輩男子。今まで単に、それだけだと思っていた。でも大喜くんはあんなにも真剣に、あんなにも真っ直ぐに、私に向かい合ってくれたのだ。私はこの子と離れたくないんだ、そう気付かされた。理由なんて分からないまま、ただ心の底から沸き上がってくる感情に身を任せて。
そして思い出した、まだ小さかった頃を。欲しいものを手にいれるまで泣いた事、駄々をこねて暴れたあの頃を。いつのまにか物分かりが良くなっていた自分に、腹が立って仕方なくなった。
だから私は、駄々をこねた。親の都合も何もかも蹴り飛ばし、泣いて暴れて意地を貫き、日本に残ったのだ。
まあまさか、その大喜くんの家に居候するとは思ってもみなかったけど。
猪股家の面々は皆優しく、私を気遣ってくれる。でもそれが、少しだけ重い。私は表向きバスケの為に住まわせてもらっているから、それ以外を考えるのが心苦しい。由紀子さんは母の元チームメイトで、だから何処か似ているんだ。夢を託されている、と思うとまた色々と思うところもある。
そんなのは私の勝手な思い込みなんだろうけど、それでもなんとなくやりにくい。大喜くんに、近付きにくい。
大喜くんは可愛いし良い子、最初はそうとしか思わなかったけど、段々と分かってくる。私が大喜くんに向けている感情は、世に言う――恋と言うものなのだろう。だから離れたくなくなった、そういう事か。分かってみれば、簡単な事なんだな。こんな気持ちは、知らなかった。私はまだまだ子供で、誰かを好きになるなんてもっと遠い話だと思っていたし、今までそんな暇も無かった。
しかしそうなると、私はどんどん大変になっていく。猪股家への義理もあるから私からは動けないのに、大喜くんの側には既に他の女の子がいる。蝶野雛さん、新体操部の子だ。大喜くんは「好きとかそういうんじゃない」とは言うけど、二人はとても仲が良い。きっと付き合っているんだろう、とさえ感じる。
悔しいな、素直にそう考えてしまう私がいる。もし私が、居候じゃなかったら。同じ学年だったら。夢なんて、託されなかったら。私はきっと、大喜くんに好きだと言えるのに。
ああ――、辛い、な。
好きだけど、好きだから。これ以上近づいてはいけない、と気持ちに蓋をした。線を引いて、離れた。離れたくないのに。大喜くんは蝶野さんが好きだから、私は距離をおかなければならない。それが大喜くんの、幸せだから。
そう思うのに、そのせいで、苦しくて仕方ない。大喜くんの気配を感じるだけで、お腹の奥が熱くなる。線なんか越えてしまえ、と耳元で声がする。血が出るほど唇を噛み締めて堪えても、心の中では濁流が渦巻いて止まらない。
人を好きになるって、難しくて苦しいんだな。
インターハイが翌日に迫り、出先用の荷物を詰めながら。ふと、思ってしまう。私がいない間に大喜くんは、蝶野さんと過ごしたりするんだろうか。こんな事を考える余裕はないのに、一度始まってしまった妄想は止まらない。恋人同士がなにをするかなんて、よくは知らないけれど。
「……嫌だ、な」
蝶野さんは嫌いじゃない、あの子だってかわいい後輩だ。でも、だからって。大喜くんを、渡したくない。
――大喜くんは、隣にいる。たぶんまだ、起きている。
心に嵌まっていた枷が音を立てて軋みだし、少しずつ本音が外へと漏れていくのが分かる。こんなのは絶対に許されない、でももう止められない。
熱に浮かされたまま、私はふらふらと部屋を出て。そして、隣のドアを開けていた。
「ぇあ、どうしたんですか、せんぱ……い?」
驚いた顔で立ち上がった大喜くんを見た途端に溢れる涙が、視界を一気に塞いでいく。身体から力が抜け落ち、気が付けば私は体制を崩し。あの時のように、大喜くんを押し倒していた。
あと数センチの所まで肌が接近し、私の鼓動や熱まで伝わってしまいそうだ。離れなければならないのに、離れたくない。もっと、近づきたい。
なのに、なのに。近づくことが出来ない。大喜くんには、蝶野さんがいるから。私なんて――。
「ごめん、ねぇ……っ」
涙は止まる事を知らず、ボロボロと溢れ続けている。情けない、消えてしまいたい。こんな身勝手で、どうしようもない私が、この子を好きでいて良いはずがない。
「……蝶野さんと付き合ってるのは、知ってるの……。でも私、大喜くんが好き……」
ああ、言ってしまった。これでもう、全て終わる。それでももう、我慢できない。終わらせてしまわなければ、私は破裂する。
「嫌だよね、私なんか……。大喜くんが好きなのは」
蝶野さんだもんね、と言おうとした。言いかけた。でもその言葉は紡がれる事無く、消えてしまった。大喜くんの言葉に、掻き消されてしまった。
「俺は、千夏先輩が好きです」
短く、でも強い口調で。信じられない一言が、私の胸を貫いてしまう。
大喜くんが、私を。そんな、まさか。そんなのは、そんなのは。
「……どう勘違いしたのか分かりませんけど、俺は雛と付き合ってませんから。あとアイツを女子だとあんま思ってないです。俺が好きなのは、千夏先輩だけです」
大喜くんの口から出てくるのは、あまりにも意外すぎる話。私を気遣う優しい嘘なのかとも一瞬訝しんだけれど、そんなわけがない。大喜くんが、そんなこと出来るわけがない。
「あの日、先輩を見たときからずっと。俺は、千夏先輩が好きです」
その言葉には、一切の嘘を感じない。真っ直ぐで熱い、真摯な言葉が私に向けられている。
じゃあ。つまり。気付かないまま、両思いだったという事なのか。
こんなに近くにいて、お互い好きあって、それでも拗れて。
あまりにも、あまりにも――。
「大喜くん、バカだよね……っ」
「千夏先輩こそ、バカですよ」
そっと触れたその肌は、焼けるように熱い。その熱を絡み合わせるように、私たちは。
初めての、キスをした。
夜が明ければ、私はインターハイへと出陣する。その後でも良かった、いやそうするべきなんだろう。身体のバランスを崩したくないし、テンションも保ちたい。でも、それでも。
私は今、大喜くんを愛したい。大喜くんに、愛されたい。胸の奥からやってくる衝動を、押さえきれない。
服を脱ぐのさえもどかしく、大喜くんを掻き抱いて、そして。……そして。
「ねえ、大喜くん。……どういう風に、すればいいのかな」
「いや、俺もよくわかりません」
二人揃って、未経験な私たち。何をどうすればいいか分からないと、今になって気が付いた。なんて間抜けなんだろう、お互いバカ過ぎる。勢いでどうにかなるかな、とも思ったけど。思ったけど、まず初動が分からないから踏み出しようがない。
……むう。どうしよっか。もぞもぞと触れあいながら、そんな風に小さく悩んでみる。視線を落とした先にあるのは、大喜くん。大喜くんの、オトコノコ。……これが、入るのかー……。大丈夫かな、私。壊れないかな、ちょっと不安。
まあ、なんとかなるさ。とりあえず触れてみると、そこは思った以上に硬く熱い。張り詰めた肉の、独特な感触。今までに無い、でも何処かで知っているような。きっと本能が、知っているんだ。これの扱い方を。
なら、なんとかなるだろう。指の赴くままになで回すと、少しずつ湿り気を帯びてくる。透明な、でも粘つく何かが涌き出て止まらない。
「あー……の、大喜くん。なんかトロトロ出てきてるけど、これ平気?」
「は、いっ。気持ちい、い。ですっ」
息を荒げる大喜くん、その表情は蕩けきっている。そうか、これは間違ってないんだな。そうかそうか、うん。
……そうだ、もう一つ試してみよう。
「ね、大喜くん。触ってみて」
そっと大喜くんの手を、私の脚の間へと導いてみる。私がなんとなく「やり方」が分かったみたいに、大喜くんも出来るかもしれない。私もこんな風に、気持ちよくなれるかもしれない。
物心ついて以来、親さえ触れたことがない場所。そこを大喜くんの手がおっかなびっくりはい回っていく。ああ、なるほど。これは、良いな。私が、ほとびていく。少しずつ、解れていく。
そしてその指は、ゆっくりと「中」へも食い込む。自分でもあまり弄ったりはしない所だけど、怖くはない。大喜くんだから。
御返しに私も手の動きを速めていくと、大喜くんもそれに応えて。激しい喘ぎはどちらの口から出ているのか、もうわからない。夢中になって弄り続けていると、不意に大喜くんの身体がビクンと震えた。
「あ、出ま……すっ」
え、と思う暇もないまま。大喜くんのオトコノコが、激しく脈打ちそして、熱い飛沫を迸らせた。白い噴出はあっという間に私の手を染めて、それでも止まらずに溢れてベッドに広がっていく。これが、射精というものだろうか。大喜くんの精液は青臭く、試しに舐めてみると苦味が舌を突く。でも、愛おしい。
その愛しさに身を任せ、直に精液を舐め取ろうとオトコノコに舌を這わせてみる。たちまち口の中が大喜くんの味になり、息をするだけでそれが鼻にまで抜けていくのが興奮して堪らない。そして喉を降りていく感じはちょっと名残惜しい、もっともっと欲しい。
でもそれは、
ベッドに腰掛け直して脚を開き、そして、私のそこを、手で割り拡げていく。グチュリと粘膜が音を立てて、私の内側が。決して見せてはいけない筈の場所が、大喜くんの目に晒されてしまう。恥ずかしい、でも頭が快感で痺れて堪らない。もっと見て欲しい、触れて欲しい、――愛して欲しい。
大喜くんもきっと、それを望んでいる。だって大喜くんのオトコノコは、そうしようとしている。あの堅さも、熱も、全てはこのためにあるんだ。オンナノコを貫くためにオトコノコはあって、オトコノコを呑み込むためにオンナノコはある、それがきっと正しいんだ。
やっぱり不安はある。うまくいかなかったらどうしよう、とも思ってしまう。
それでもきっと、大丈夫。私たちは、私たちだから。
何度か角度を直しながら、ゆっくりと大喜くんのオトコノコが私の中に埋まっていく。こんな大きなものが入るなんて、何か不思議ではあるけれど。でもこうやって掘削されていくのは、嫌な感じじゃない。大喜くんを迎え入れている、愛している、それが嬉しい。
身体が押し重なり、そして。二人の腰が、密着した。
私の一番奥に、大喜くんを感じる。不思議だけど、でも心地良い。痛みも不快感も無い、ただただ愛しさだけが溢れてくる。
「どう、かな……、私の中、変じゃない、かな……っ」
「は……い、先輩、スゴく、気持ちいぃ……で、す」
どちらともなく腰が動きだし、私の中が掻き回され。それに応えて、私も大喜くんを締め付けて。これは、気持ちいい。気持ちよすぎる。一瞬毎に眼の裏で稲妻が走り、身体の芯が溶け落ちていく。きっと大喜くんも、同じ気持ちだろう。
……と思っていたけど。ふと見れば大喜くんは歯を食い縛り、必死で何かを堪えている。これは、まさか。私は何か、間違えたんだろうか。大喜くんに変な我慢を強いるなんて、私はイヤなのに。
「あの、大喜くん、どうし……」
「いやあの、このままじゃ、出……ますっ」
出ます、さっきも聞いた言葉だ。それはつまり、つまり。
大喜くんはさっきのように、射精しようとしている。それだけの事だったんだ。
ぎゅっと大喜くんを抱き締め、耳元で囁く。
「良いよ。そのまま……ね」
それが、どうやら楔になったらしい。大喜くんの身体はさっきよりも激しく震え、そして私の中にいるオトコノコも爆発するように脈打った。ドクドクと音がしそうなくらいの勢いで、凄まじい奔流が押し寄せてくるのが感じられる。私の隅々まで、大喜くんが染み渡っていく。それは気絶しそうなほどの快感で、意識が焼け切れそう。やっぱり、こっちなんだ。私はここで、精液を味わいたかったんだ。
膣内射精を楽しみながら、上の口同士もキスを交わす。愛している、それだけしか考えられない。もっと、もっと。
大喜くんのオトコノコは、まだまだ元気だ。私だって、負けてない。お腹が破裂するくらいに、注いで欲しがっている。
今この瞬間を、精一杯楽しもう。貪欲に、力一杯愛そう。
人を好きになるって、こんなにも楽しいのか。ああ、良いな。
空が白みだして漸く、私たちは身体を離した。全身ドロドロで、息も絶え絶え。ベッドに横たわったまま、でも眠りに落ちる時間は無い。シャワーを浴びて支度しないといけないし、それに何か食べておかないと。……まあ
「先輩、あの、ごめんなさい……」
申し訳なさそうに溢す大喜くんを抱き締め、頭を撫でる。言いたいことは分かってる、私はこれからインターハイなんだ。セックスしていい状況ではないだろう、そんなの私が一番分かってる。でも。
「良いんだよ。私は大丈夫」
そう、大丈夫だ。むしろ、負ける気がしない。今の私なら、キングギドラにだって勝てる。……多分。
「全国制覇して、来週帰ってくるよ。そうしたら、またしようね」
これは、約束。果たすべき、約束。
さぁ、やってやろう。私は全部、手に入れる。泣いて暴れて駄々こねて、何もかも手に入れる。
それでこそ、私だから。
先輩が闇堕ちしなかった話だと思ってくだされ。