裏と表。
本音と建前。
そして、私と私。
隣り合っていて、でも決して交ざらない。
でも、それでも。境界は、揺らいでしまうから。
「どうしてあの子の事まで、わざわざ気にしなくちゃいけないの」
そんなのは決まっている、私は先輩だから。先輩は後輩を導くものだし、私だってそうしてもらった。だから、そんな分かりきった事を聞いてほしくない。
でも、なのに。声は退いてはくれない。迷いなく、私を問い詰める。
「良いじゃない、ワガママ言えば。いつだってそうしてきたでしょう」
それは……まあ、そうだ。
家族を振り回し、猪股家へと転がり込んで。私はずっと、ワガママだ。
でも、だからって。今それを言うのは卑怯じゃないかな、いくらなんでも。
反論しようとしたその瞬間、足元が消えて失せ、私は何かに呑み込まれていった。
視界が光に包まれ、意識が浮上していく感覚がやって来る。毎日欠かさず訪れる、この時間。
「ん、あー……朝、か」
何か、寝ながら誰かと話していたような気がする。でもスマホのアラーム音に頭を揺らされたせいか、夢の残滓はすぐにこぼれ落ちてしまった。
居候先でこうも寛いで眠れる辺り、私は大変に図太いようだ。ま、悪いことじゃないか。
いつものように朝が来た、さてと支度して学校へ行こうか。
そう思って立ち上がろうとした、その時。下着の中に嫌なぬるつきを感じてしまい、私は苦々しい顔でベッドに腰掛け直してしまう。最近は度々こうなるから嫌だ、朝から気分が重くなってしまう。こういう風に濡れる、というのがどういう状況かくらいは私だって知っている。だからこそ、嫌だ。発情している、なんて。それならまだ尿漏れの方がマシだ。……いやこの歳でそれは不味いかな、ガタが来るにはまだ早い。
家にいた時のように、寝る前に自分で弄って発散したら良いんだろうけど、ここでそれは正直辛い。借り物の部屋だし、何より壁の向こうには大喜くんがいる。こんな生臭い一面を知られたくない、後輩の前ではちゃんとした先輩でいなければ。
とりあえず穿き替えて、気分を立て直そう。大丈夫だ、私はきっと大丈夫。
でもやっぱり元栓が緩んでいるのかもしれない、と思うのは大体部活中。その気配を感じたら、事前に休憩を取ってトイレに一時避難する事になってしまう。口をハンカチで塞ぎ、バレないようにオナニーする自分は、どうにも情けない。情けないけど、でも練習中に不快感で動きを鈍らせる訳にはいかない。
大喜くんが、見ているんだから。
情けない先輩ではいられない、格好くらいつけさせてくれないと。
そう思いつつ、指は加速していく。大喜くんの事を考えると、どういうわけか
目を閉じて思うのは、大喜くんの手。彼の指先が私の中をはい回る、そんな妄想を繰り広げていく。興奮は一気に背筋を駆け上がり、瞼の裏には火花が瞬いて。そして――
「っ、……!!」
便座に腰かけたまま身体が大きく跳ね上がり、そのまま弛緩して後ろのタンクへともたれ掛かる。すぐに拭いて行かなければならないけれど、余韻が退かないと動くに動けない。どうしてこうも不便なのか、身体と言うのは。
ああ、また大喜くんをこんな事に。結局私は、情けない先輩だ。大喜くんは純粋でひたむきで、何より可愛い。こんな欲望をぶつけて良い相手じゃない。それに大喜くんは、……蝶野さんと付き合っているんだ。人のモノを欲しがるなんて、卑しいにも程があるじゃないか。私は先輩として二人を祝福し、見守らなければいけない立場なんだ。
「……行かなきゃ」
余計なことを考えている余裕はない、練習に励もう。身体を動かして、忘れてしまおう。
猪股家には、たまに大人たちが一人もいない事がある。しかも丸一日どころか、下手したら数日。まあ普段なら一向に構わないのだが、練習でクタクタになって帰宅した時にそうだと気付いてしまうと非常に困る。
いや朝由紀子さんが言っていた気もするし、それなら忘れていた私が悪いんだけど、こうなると色々と面倒だ。本当に一人なら買い置きのカロリーメイトでも開けて夕飯を済ませて寝てしまえば良いんだけど、でも今は大喜くんがいる。まさかダラけた姿を見せる訳にはいかない、料理のひとつもしてあげなければ。ああ、先輩は大変だ。
……にしても、二人きりか。これはあまり、良くないな。
この間から元栓ユルユルの私だし、下手をすると大喜くんに勘づかれかねない。それは――、
……違う。私はこんなことを考えてはいけない。
気を確かに持て、私は先輩なんだ。大喜くんを、困らせるな。血が滲むほど唇を噛み、拳を握りしめて自身を制して、それでも心の何処かには不穏な気配が残ってしまう。
頭の奥にそれを押し込んで、平生を装いながら私たちは二人の時間を過ごしていく。まるで家族のように、或いは平和な恋人同士のように。そんな風には、なれないのだけど。
「なれば良いじゃない」
意識の背後からぬるりと絡み付いてきた声に、一瞬背筋が粟立つ。まるで私のような声、私にしか聞こえない声。でもこんなのは、私じゃない。私はこうであってはいけない。
「なんでよ。みんな好き勝手してるのに、私だけ我慢するのは面白くないよ」
それはそうだけど、でも私にだって立場があるんだ。子供みたいなことを言ってはいられない。
「まだ子供だよ。大人のふりなんかしてもつまらない」
そうは言っても、そこまで割りきって振る舞える訳がない。世の中建前が大事だから。自由なのは夢の中だけで良い。
とは言え確かにそれは一理ある、たまには羽目を外しても許されるだろうか。
こんな機会なんだし、良いんじゃないのか。
そうしよう、かな。いや、するべきだ。
私がこう言うんだから、しなければ。
それが当然……のような。
いや、それは違う。
それは、それは。
――――。
…………。
「――
一瞬、目の前に幕が降りたような気がした。まるでネガポジ反転したように、気分がさっきとは全然違う。
あれ、私は一体何を悩んでいるんだ。したいことをする、ワガママな人生を送ってきたじゃないか。
だから、そう。やりたいように、やらせてもらおう。
決意を込めて、食後の油断した大喜くんをそっと捕まえる。あくまで、そっと。逃げられても困るから、からかうような仕草で。
「ん、千夏先輩? どうし……んむっ」
不思議そうな顔をして何か言おうとしたその唇を、私の唇が塞いでしまう。
何が起きたか分からないかのようにもがく大喜くん、でも逃がしはしない。そのまま抱き締めて、力の限りキスを続ける。閉じきれない歯列を押し開いて舌を捩じ込み、怯えて隠れる大喜くんの舌を絡めるように嬲りながら。
大喜くんはとても良いこで可愛くて、ずっとずっとこうしたかったんだ。我慢なんかしなければ良かった、もっと早く大喜くんを味わいたかった。まあ、でも我慢した分喜びもひとしおだけど。
やがて抵抗が止んだのを見計らって唇を離すと、大喜くんは腰が抜けたのか身動ぎもしない。
ああ、可愛いな。
そう思っていると、下着の中に慣れ親しんだ感覚がやって来た。内側から溢れ出る、発情の証が。そうだ、この間からずっと私がこうなのは、大喜くんが近くにいるからだ。簡単なことじゃないか、私は大喜くんを
そこを掻き回して中を掬い取った指先を、半開きになったままの大喜くんの口へとゆっくりゆっくり導き入れていく。私の愛液が大喜くんの中に染み込んでいく、というのはなかなかに刺激的だ。私にとっても、大喜くんにとっても。大喜くんの下半身、厚い布に隠されているその部位がさっきから膨れたように見えるのが、その証拠。
「苦しそうだねぇ……、出してあげないとねぇ……」
囈のように呟きながら脱がせると、それはすぐに顔を見せてくれた。男の子の、オトコノコが。
「だ……め、ですっ……! やめ……てぇ……」
真っ赤になって恥ずかしがる大喜くん、本当に可愛い。でも本当は嫌がってなんかいないんだ、だって逃げようと思えば逃げられるんだから。
手で握り締めてみると、熱く硬い独特すぎる感触。オトコノコって、不思議だな。まあ、これからゆっくり色々と知っていこう。
時間はいくらでも、あるんだから。
仰向けに横たわった大喜くんに腰を下ろして、前傾姿勢でキスをする。お互いもうなにも着けていないから、何もかもがダイレクトに伝わりあって止まらない。私はまるで失禁したように大喜くんの肌を濡らしていくし、大喜くんは大喜くんで元気一杯のオトコノコが私のお尻に当たってヒクヒクと揺れているのがはっきりとわかる。
二人とも、身体の準備は良いようだ。このまま少し下がって、大喜くんを呑み込んで。それで、大喜くんを私のモノにできる。
「ん、……この辺、か……な?」
なにしろ初めての事だ、勝手が分からない。でもなんとかなるさ、とモゾモゾとやっていくと。クチュリと音を立て、私の入り口に大喜くんの熱が伝わってきた。これで照準は合った、あと少しだ。
そう思って力を込めようとした、その時だった。
「やめて……ください……。こんなの……ダメ、です……」
か細い声で、涙を浮かべて。大喜くんが、拒絶を示したのだ。
ぬう、ここまで来て。何が気に入らないんだろう、この子は。
身体の反応からしたら、大喜くんは気持ちいいはずだ。なのに――。
「大喜くんは、蝶野さんが好きなんだもんねぇ……。私じゃ嫌だよねぇ……」
考えたくないし今さっきまで忘れていたけど、そうなんだっけ。
でもなあ、そういうの気にしてたら私が堪らないし。そういうのは、好きじゃないんだ。
だから、――良いや。
「よっ……とぉっ」
全部無視して、一気に腰を落としてあげた。ずるりと濡れた摩擦感、そして異物が胎内に入ってくるという不思議な背徳感が背筋を貫いていく。程なく私は大喜くんに軟着陸し、呆気なくその瞬間は過ぎてしまった。
大喜くんのオトコノコが全部、私の中にある。大喜くんの一番大切な場所を、私が支配している。これは、……スゴいな。
お腹の奥を圧迫されている、そんな未知の快感が止めどなく襲ってくる。ただ止まっているだけなのに、気を失いそうな程に気持ちが良い。これでもし動いたなら、私はどうなってしまうんだろうか。
考えても仕方がない、やってみよう。いつだって私は、考えるより行動だ。
脚に力を入れて僅かずつ身体を持ち上げていくと、内壁が引っ掻くように刺激されてなかなかに良い感じ。入れたときは分からなかったけど、オトコノコの形のせいだろうか。さっき見たときは括れてカサのように見えたから、そこが引っ掛かるんだろう。
ある程度上げたら抜けそうになったので、今度はゆっくり下ろしてみる。やっぱり予想通り引っ掻く感じはしないものの、内側を押し拡げていくこの圧迫感も悪くない。でも私としては、やっぱり上げる方が良いな。
抜けるギリギリまでやってから一旦着地、を何度も何度も繰り返していく。頭の中はこの上下運動で染まり、何かを考えるのがどんどん億劫になっていくのが分かる。きっと大喜くんも、と言いたい所だけれど。
大喜くんはさっきから固く目を閉じ、必死で何かを我慢しているような顔をしているのだ。
はてどうしたのかな、と顔を寄せてみると。聞こえてきたのは囈のような、頼りなく小さな声。
「ダメ……止まっ……て……。出ちゃう、から……」
懇願するその切ない呟きは、でも無意味な抵抗だ。大喜くんが何を堪えているのか、何を恐れているのか、それは分かるけれど。そんなのは、私が知った事ではない。
「良いよ、大喜くん。私の中で、射精しちゃいなさい?」
そう囁きながら、グッとお腹に力を入れて内側を締め付けて上げる。元栓の緩みをどうにか出来ないかと「尿漏れに効くなら」ってことで膣トレというのを試した事があるから、この辺の力加減は承知している。そしてオトコノコが、強い締め付けに弱いということも、だ。
瞬間、大喜くんの身体が痙攣してそして。私の中で、オトコノコが一際激しく震えた。
「あ、ぁー……。来た来たぁ……」
ドクンドクンと伝わる拍動と、堰を切ったように流れ込んでくる激流。膣内射精って、こうなのか。頭が沸き立つ程に熱く、そして強い。人間が増え続けてるわけだ、こんなにも気持ちいい事をするだけで増やせるんだから。まあそれは、良いや。あれもこれも、良いや。
もっともっと、したい。なにも考えずに、ただセックスし続けたい。随分とワガママだな、でもそれが私だからね。
「大喜くん、まだまだ出来るよね? どうせ皆明日まで帰ってこないし、朝までずっと、ずっと一緒にしようね」
返事を聞かないまま、私はまた腰を動かし始める。気持ちいいことだけ、していたいから。
「どうして……あんなこと……」
またそれか、と私は嘆息する。あれからずっと、この通りだ。
決まっている、私はこういう人間だから。やりたい事しかしない、ワガママな女だから。
一々何で聞いてくるんだろう、まったく面倒だな。
いつも見る、夢の中。私と同じ顔をした、でも私と正反対なこの
大人ぶって勝手に納得して、自分を押さえつけて。なのにそれを嫌がって、解放されたいと願っていた。全く意味が分からない。
もう我慢なんかしない、欲しいものは全部手に入れる。死んでも不様は晒さない。私は私として、生きていく。
じゃあね、良い子の私。大嫌いだったよ。