荒津良悟は不良だ。喧嘩さえ出来ればそれでいい。しかし最近は、宇佐田葵という少女に付き纏われて困っている。
喧嘩の邪魔さえされなければ別にいいかと、放置していたのだが――。

不良少年と小動物な少女。そして二人を襲う凄惨な事件とその後のお話。

※主人公以外によるレイプ描写あり。基本的にいちゃらぶです。

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不良と小動物少女と、レイプとその後の二人だけの世界

 荒津(あらつ) 良悟(りょうご)は俗に言う不良だ。

 肉食獣のようにキツい目付きに平均より遥かに高い身長。その容姿から、幼少の頃より周囲に恐れられてきた。

 何かと突っかかられることが多く、中学生の頃から喧嘩に明け暮れ、他の不良たちと殴り合う日々を過ごした。それは高校へ進学しても変わらず、一週間で拳を使わない日の方が珍しい程だ。そして滅法強く、ついには市内で彼に敵う者はいなくなっていた。

 世が世なら番長と呼ばれていたであろう喧嘩野郎。それが荒津良悟だ。

 

 そんな彼は今、一人の同級生に付きまとわれていた。

 

「ねー良悟。今日も授業でないの?」

 

 風が冷たくなり始めた終秋の空を、どこか寒々しい陽射しが照らし出す青い天下。

 屋上で寝転ぶ良悟の顔を、制服姿の少女が上から覗き込んだ。胸のスカーフは良悟と同級生であることを示している。

 高校生という歳の割には、小さな少女であった。背丈は低く、胸も慎ましい。ふわりと膨らんだロングヘアーは少女の背をほんの少しだけ大きく見せているが、それでもなお大抵の同学年よりは小さい。

 その代わりなのか大きな瞳は、良悟の顔を映し込んで夜空のように閃いていた。

 

「……うるせぇな」

 

 ぼやくように良悟は呟き、少女から顔を逸らすように寝返りを打った。そんな良悟の顔を少女は追って、身体の上をぴょんと跨ぐ。

 

「ねー、いい加減不味いと思うよー。私たち、三日連続で出てないじゃん。そろそろ指導とか入るんじゃ無いかなー」

「だったらお前だけ行けばいいだろ、宇佐田(うさだ)」

 

 じゃれつかれることに苛立ったのか良悟は、起き上がりながら少女の襟を猫のように引っ掴んで剥がす。プランとぶら下がりながら、少女は唇を突き出した。

 

「そーじゃないのに。分かってないなー、君は」

 

 少女の名は、宇佐田 葵(あおい)。

 三ヶ月前から良悟に付きまとってくるようになった少女だ。

 

 二学期から転校してきた葵は、クラスに馴染めなかった。

 既に一学期を経て友人同士のグループが完成されていたということもあるが、家庭環境に事情を抱え不安定であった葵が友人を作れるような精神状態では無かったことも要因だ。周囲を突き放す言動を繰り返した葵も悪いは悪い。だが葵の精神が落ち着いた頃にはもう、クラスに彼女の居場所は無くなっていた。

 特段いじめがあった訳では無い。しかしもう誰と仲良くなろうにも、既に残してしまったイメージが先行し上手くいかなかった。友人も作れず、孤独に学校に通う日々。教室で座っているだけのことが、針のむしろのように感じてしまう。

 だが彼女は気付いた。自分と同じように、クラスで一人孤立している人間がいることに。

 

 それからだ。葵が良悟と一緒にいるようになったのは。

 今のように授業をサボっている時に顔を出して以来、葵もまた、一緒に授業を抜け出すようになった。

 空の下、二人並んでおしゃべりなどして暇を潰す。

 

「でも成績はちょっと心配だなー。良悟、成績って……あっ」

「あっ、じゃねーよ。別にいーんだよ。高校への進学だって親への義理だし。退学になったって構いはしねーよ」

「ふぅん、アテはあるんだ」

「お前にゃ関係ねーよ」

 

 こうして葵が一方的に話しかけ、良悟が面倒くさそうに応対する日常。

 葵は楽しそうにしているが、良悟の方も無理に撥ね除けることもしない。

 友達とも、ただのクラスメイトとも言い難い関係。

 

「でもさー、だからって勉強しないのと出来ないのは関係なくなーい?」

「出来ねぇとは言ってないだろ」

「え、じゃあさ、今度の期末勝負しようよ! 私絶対勝てる自身あるよ」

「やなこった」

「なんでさー」

 

 微妙な距離感で適当にじゃれ合う。二人だけの、誰にも邪魔されない世界。

 そんな、穏やかな日々を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

 だが荒津良悟は不良だ。

 葵と過ごすような柔らかな気性を、自分を狙って徒党を組んできた輩に向ける事は無い。

 

「テメーら揃いも揃って……暇なのか?」

「うるせぇ! 荒津……テメェもここまでだ!」

 

 放課後、人通りの少ない工事現場前。

 そう吠える不良たちは、十人ほどの徒党を組んでいた。

 ここに集った者は皆、一度良悟に手酷く敗北した不良たちだった。一方的に因縁をつけて打ち負かされた者。腕自慢を気取って挑んでは敗走した者。舎弟にしてやろうと意気込んでは断られ、激昂して襲いかかれば返り討ちにあった者など、様々だ。

 彼らは同じような目に遭った不良同士で集まり、良悟への復讐を企み、今日実行した。

 

「フクロにしてやるよ! 今の内に遺言を残しな!」

 

 血気盛んなゴロツキに囲まれ、しかしそれでも良悟の表情は余裕だった。あくびすら噛み殺している。

 

「ふわぁ~……で、集まったのはこれで全部か?」

「あぁ!?」

「これじゃ足りねぇっつってんだよ。敗北者ども」

 

 良悟は拳を打ち合わせる。何度も何度も殴り、堅くなった拳を。

 

「一度負けた奴が集まったところで、負け犬は負け犬なんだよ」

 

 歯を見せて笑う彼の表情は、荒々しい凶暴性に満ちていた。まるで獅子が、獲物を前にして猛るような形相。

 囲む不良たちは飲まれ、怖じ気づく。

 

「く、くそっ! やっちまえ!」

「う、うおおっ!」

 

 不良の一人が音頭を取り、一斉に襲いかかる。だがその一人の出先を、良悟は拳で出迎えた。

 

「へっ?」

 

 唸る拳圧に気付いた時には、既に顔面にめり込んだ後だった。

 

「ぐわばっ!?」

 

 文字通り鼻っ柱を折られ、吹き飛ぶ不良。飛びかかろうとした他の不良たちは一斉に足を止め振り返る。

 そこには大量の鼻血を流し、痛みで蹲って動けなくなっている姿が。

 

「……どうした? 来いよ」

 

 静まりかえる不良たちへ、良悟は首を回して挑発する。だがその時には既に、勝敗は決まっていた。

 羊たちは何匹集まったところで、若獅子には敵わない。

 

 

 

 

 

 

 次の日、良悟はまた囲まれていた。

 葵、一人に。

 

「みーつけた! なんでこっちにいるのさ」

 

 いつもとは違う棟の屋上でフェンスにもたれ掛かっていた良悟を、葵は金網に手を掛け覆い被さっていた。そのうなじには走ってきたのか、汗が浮かんでいる。いつもより熱い息づかいを間近で感じたからか否か、良悟は目を逸らした。

 

「いや……別にどこにいたっていいだろ」

 

 そう答える表情はいささかバツが悪そうだ。

 

「じゃあそれこそいつものとこでいいじゃ……って」

 

 葵は良悟の腫れ上がった頬を見て瞠目した。

 

「どうしたのそれ!?」

 

 別に重傷では無い。しかし上からガーゼを貼り付けたそれは、葵と出会ってからは一番大きな傷だ。

 

「別に……喧嘩だよ、喧嘩」

「喧嘩って……負けたの!?」

「バーロー、勝ったよ。でなきゃ病院送りだ」

 

 昨日の喧嘩。勝ったには勝った。しかし無傷でとはいかなかった。顔以外にもいくつかの青あざを作り、制服の下には包帯を巻いている。だがそれでも、負けるよりは大分マシに収まっていた。

 

「勝ってそれなの? そんなに強い相手だった?」

「いや、雑魚ばっかだったよ。でも十人に囲まれたから、何発かもらっちまった」

「十人! そ、そんなに……」

 

 相手を聞いて葵は、押し黙った。その大きな瞳は動揺に揺れている。

 

「……それじゃ、もしかしたら、もっと……」

 

 大きな怪我をしていたのかもしれない。その想像に、葵は囚われた。今日は無事でも、何かが違えば、もしかしたら……。良悟を映す瞳は不安に震える。

 

「……あんだよ。今更喧嘩を止めろって言う訳じゃねぇだろうな」

 

 微かな拒絶を含めて、良悟はその瞳を睨み返した。そこには意見を許さない頑なさがあった。

 良悟にとって喧嘩は生業のようなものだった。普通の青春を望まなかった代わりに得た、彼なりのモラトリアム。それを奪うことは、誰であっても許さない。そんな含意の籠もった視線だった。

 

 葵は息を呑み、目線を落とした。

 

「……分かってる。分かってる、けど」

 

 葵は理解していた。自分と良悟が一緒にいられるのは、この微妙な関係だからだ。

 不良と孤立した少女。二人は似ているようで、違う存在だ。クラスに居場所がない者同士でも、その価値観はまるで違う。

 良悟は喧嘩の中にこそ生を見いだしている。そここそが彼の定めた己の居場所だ。それを止めてほしいと葵が言えば、良悟はもう二度と葵と話すことは無くなるだろう。そしてそれでも、生きていける。

 一方で、自分は――。

 

「――分かってる、けどさぁ」

 

 崩れて、良悟の胸の上に落ちる。小さな身体はそのまま腕の中に収まった。そのまま良悟の襟首を掴んで、制服へ顔を押しつける。

 

「でもさぁ……!」

 

 心配だ。好ましい人が大怪我をするかもしれないことを仄めかしていて、それを止めたいと願わない方が無茶だ。

 だけどこの関係を、終わらせたくない。

 

 葵にとって、この屋上での時間が一番大切な物になっていた。

 誰とも繋がれず、心を通わせられず、ただ青春を磨り減らす絶望に苛まれていた時に出会った、一筋の光。

 話すことは全てが他愛ない。しかしそれに、どれほど救われたことか。

 

 良悟が喧嘩の中に居場所を見いだしているのなら。

 葵にとっては、ここがその居場所だった。

 

 だから、何も言えない。この関係が、終わってしまうことを何より恐れているから。

 

「だってさぁ……!」

 

 だから、何も言わず、嗚咽するように無意味な言葉を紡ぐだけだ。

 それを良悟は、そのまま胸の中で受け止めた。

 

「………」

 

 だが本当に、止められたら――どう答えるのだろうか。

 そう、自分への疑問を投げかけながら。

 

 結局その日、不安になってしまった葵を宥め続けて放課後まで過ごした。

 その様子に良悟も少し心配になり、一応校門前まで見送ってから帰ることにした。

 

「ねぇ……明日も、来るよね。私、何も……」

「あぁ、聞いてねぇよ。だからんな顔すんな。似合わねぇ」

「……ふふっ、似合わないは酷いよ」

「うっせうっせ」

 

 最後はどうにか笑顔で、別れる。

 

 それを、一人の生徒が見ていた。

 

 

 

 

 

 

 数日後。

 良悟はまた、人気のない空き地で不良たちに絡まれていた。

 

「お前ら、飽きねぇな……」

「うるせぇ!」

 

 顔に包帯を巻いたままの男が吠える。先日良悟に鼻を折られた不良だ。

 

「で? 怪我が無くても敵わなかったのにまた挑むのか? しかも人も減ってるじゃねぇか」

 

 他の面々も見渡せば、全治している人間はいない。いずれもガーゼや絆創膏を貼り付けているし、中には杖を突いている者もいる。しかも人数は、半分に減っていた。

 

「それで俺を倒せると思ってるのかよ。算数の勉強からやり直したらどうだ?」

 

 万全の状態でも打ち負かした相手だ。余裕になるのも当然だった。むしろここから、負ける想像が出来ない。それは何も慢心では無く、客観的に見てもそうだった。

 しかし不良も、考え無しに挑みかかった訳では無かった。

 

「へへっ……お前さぁ、いいネタ隠してたよなぁ……」

「あ?」

「恍けんなよ。コイツさ」

 

 そう言って不良は、手にしたスマホの画面を突きつけた。そこには――。

 

「――なっ」

 

 どこかの公園らしき、木々の茂みを背景に。

 別の不良に口を押さえられた、葵の顔があった。

 

『んんーっ!』

『げひっ、暴れるなよ~、葵ちゃん』

 

 動画らしく、音声も聞こえた。しかも通話のようだった。画面には葵の他に、複数人の不良の姿が見える。

 先日の襲撃に参加し、今日いない面々だった。

 

「ひひひっ、俺の舎弟がお前と同じ高校に通っててさぁ……いやいいネタくれたよねホント。後で褒美をやらなきゃさぁ!」

「ひゃははははっ!」

 

 不良たちが嗤う。下卑た笑い声を憚ること無く。耳障りな合唱を聞きながら、良悟は叫んだ。

 

「ソイツは関係ねぇ!」

「その様子が、関係あるって言ってるようなもんだぜ……なぁ?」

 

 スマホを持った不良が問いかけると、画面の中で葵を拘束する不良が答えた。

 

『あぁ。こりゃ丁度良い人質だ。……楽しめそうだしなぁ』

『んんぅっ!』

 

 不良の手が伸び、制服の上から胸を揉みし抱く。嫌悪と恐怖から葵は身を捩らせるが、男の膂力に只でさえ小柄な葵は敵わなかった。

 

「やめろっ!!」

 

 良悟は威圧的に叫ぶが、それは不良たちを喜ばせる結果にしかならなかった。

 

「ひゃははは!」

「ぎゃはは! あの荒津が! そんな顔をするなんてなぁ!」

「っっ!!」

 

 ハッとして良悟は口元へ手を当てる。自分は今、どんな顔をしている?

 まるで、昨日のコイツらのように必死な――。

 

「だけどよぉ、お前の返事次第じゃコイツを解放してやってもいいぜ」

「――本当か」

 

 だが、不良からの提案に思考が切り替わる。

 応答した良悟を見て、鼻の折られた不良は喜悦に表情を歪ませながら言う。

 

「あぁ。テメェが……大人しく俺らにボコられればな」

『んんーっ!』

 

 葵が何かを言おうと藻掻く。だがしかと抑えられた口からはくぐもった声が漏れるだけだった。

 

「お前が俺らに今度こそフクロにされるってんなら……放してやってもいいぜ?」

 

 良悟は、天秤にかけた。自分と葵。どちらが大事か。

 だがその秤は、意外なほど簡単に傾いた。

 

「――大人しくしてれば、いいんだな」

『んーっ!!』

「ひひひっ! そうこなくちゃなぁ! おい!」

「あぁ!」

 

 スマホを突きつける不良は、嗤いながら他の不良を呼ぶ。その手には縄が握られていた。

 

「両腕を縛らせてもらうぜぇ。じゃねぇと抵抗するかもしれねぇしなぁ」

「……んなダセぇ真似しねーよ。だが、いいぜ。やれよ」

 

 そう言い捨て、良悟はされるがままに受け入れた。後ろ手に荒縄で縛られた良悟は、更にその場で跪かされる。

 

「……さぁ、これでリンチでもする準備は整っただろ」

「あぁ、さしものお前も手が使えなけりゃどうしようもねぇ」

 

 別に良悟は、無敵の人でも無い。現に前の喧嘩でも負傷していた。故にこそ、この状態に持ち込まれたら五人相手でも敵わない。

 

「約束通り、解放しろ」

「ひひっ、あぁ、そうだな――」

 

 不良は良悟の言葉に頷き、スマホへ口元を近づけた。

 これでいいんだと。良悟は諦めたように目を閉じる。そして己で自嘲した。

 

 喧嘩が一番の筈だった。それさえ出来れば他に何も要らないつもりだった。

 だが今、その道を閉ざそうとしている。コイツらの恨みは深い。二度と立ち上がれなくなるくらいリンチされるだろう。

 だがそれでも今の良悟に悔いは無かった。

 

 気付かないうちに、良悟にとっても――あの時間が、大切になっていたのだ。

 

 故にこそ良悟は、いっそ安らかな気持ちで――。

 

「――その女を犯せ」

 

 そしてその声に、目を見開いた。

 

「話がちげぇぞ!!」

「ひゃははははっ!! んなモン守る訳ねぇだろ!!」

 

 憤怒の吠え声を、不良たちは気持ちよさげに受け止めた。立ち上がろうとするも、上から肩を掴まれて動けない。

 スマホの中では、向こうの不良たちが沸き立っている。

 

『きゃほー! お許しがでたぜー!』

『んーーっ!! ぷはっ、やだ、来ないで!!』

『お、思ったよりはうまそうだな』

『俺的にはもっと肉付きが良い方がなぁー』

『穴さえあれば関係ねぇべ』

『やだ、やだやだやだぁーーっ!!』

 

 そして、悲鳴と共に画面が暗転する。

 

「あ、アイツら切りやがった。ちっ、俺らも見てぇのによぉ」

「仕方ねぇ、俺らはこっちで楽しもうぜ」

 

 そういう不良たちは跪く良悟を見下ろしながら、各々の得物を取り出した。鉄パイプにバール。釘バット。不良の矜持など関係ない、ただただ良悟に復讐せんと集合した者たちは凶器も容赦無く使う腹づもりだった。更に言えば、最初から葵はヤリ捨てるつもりだった。

 その方が気が晴れるから。そうした方が良悟がより傷つくから。

 

 野卑な笑みを浮かべて不良たちは良悟へと近づいていく。

 しかし、当の良悟は押し黙ったままだった。

 

「ひひっ、絶望しちまったかぁ?」

 

 鼻を折られた不良はいい気味だと言わんばかりに嘲笑った。

 しかし、逆だ。

 良悟は己の内からふつふつと湧き上がる怒りに焼き尽くされていた。

 

 腑(はらわた)が煮える。血が沸き立つ。まるで身体の中心が煉獄の如く燃え盛っているように、体中が熱い。

 紛れもなく、人生で一番の憤怒だった。

 

「ぐ、うううぅぅ……」

 

 獣のような唸り声が、最初は誰の者か分からなかった。

 だがそれが自分が発した物だと自覚すると、もう抑えることはしなかった。

 

「うう゛う゛う゛ぅぅぅぅ……!」

「な、なんだコイツ……」

 

 その異常な様子に不良たちは怖じ気づく。だがここまでやった以上、今更イモは引けなかった。

 

「やるぞっ!」

 

 急先鋒たる鼻を折られた不良が鉄パイプを振り上げる。そして良悟は音を聞いた。

 自分の肉を打つ金属音では無い。それより早く鳴り響いた、別の音。

 何かが引き千切られる、それを。

 

 自分の血管が怒りのあまり弾けた音か、それとも両腕を戒める荒縄が力任せにぶち切られた音か。

 それもどちらが先か分からない。しかしどちらでもいい。

 この後のことを、良悟はよく憶えていないのだから。

 

 

 

 

 

 気がつくと、目の前には死体のように動かなくなった男たちが転がっていた。

 いずれも意識はない。そしてまた、無事ではない。血を流し、腕をへし折られ、歯を砕かれている。喧嘩を再開するどころか、再び立ち上がることすら怪しい。

 そして唯一意識のある不良もまた、両脚を折られ痛みに蹲っていた。

 

「いてぇ……いてぇよぉ……」

 

 鼻を折られた男だった。葵を映したスマホを突きつけてきた。

 それを思い出した良悟は男の襟首を掴み、無理矢理立ち上がらせる。その時拳が血に塗れていることに気付いたが、どうでも良かった。

 

「ひぎぃっ!」

 

 不良は悲鳴を上げる。両脚の激痛からか、あるいは良悟の浮かべる形相への恐怖からか。それもまた、どうでもいい。

 

「おい」

「ひっ……」

「アイツは、どこだ……」

 

 その遠雷の如き低い声音に、喉を引き攣らせた男は一瞬だけ詰まった。だがそれすら煩わしかった良悟は男を地面に投げ落とし、その膝を踏み砕いた。

 

「い、ぎゃあああぁぁっ!!」

「答えろ。アイツはどこだ!!」

「こ、ここです! ここに!」

 

 そう言って男はスマホを差し出した。そこには計画を立てる際に保存したのか、地図の画像が表示されていた。

 良悟はそれを目に焼き付ける。公園。幸い、行ったことのある場所だ。

 

「そうか」

「ひ、ひぃ、だから許し……」

 

 良悟は用の無くなった男を――その顎を、蹴り砕く。折れ飛んだ歯が宙を舞い、男の口は形を失う。

 

「あぎゃあっ!?」

 

 それきり男は、鼻だけでは無く口すらも破壊された男は気絶する。そして良悟は走り出した。

 

 間に合ってくれと、半ば絶望しながら。

 

 

 

 

 

 

 無情な移動時間の末、良悟は公園へと辿り着く。

 スマホから垣間見えた背景を頼りに木々を掻き分け、遂に探し当てる。

 

 そこには五人の不良たち。

 そして葵がいた。

 

 衣服を剥がれた葵は胸元から股間にかけてを白日の下に晒されていた。生白い肌色をした小さな胸に臍。剃っているのか無毛の股間が、全て曝かれている。

 その割れ目から――白濁が流れ出ていることを見て。

 そして何より葵の瞳が、大きくてキラキラ輝いていた彼女の眼差しが――光を失っているのを、見て。

 

「……ひっぐ、えぅ……」

 

 泣いているのを、見て。

 

「っっ!! ああ゛あ゛あああああぁぁぁ!!」

 

 再び憤怒に焼き焦がされる。

 

「お、今更来やがったのか。残念ながらもうカノジョは味わわせてもら――ぐげっ?」

 

 状況を読めない間抜けな不良が真っ先に餌食になる。重打の拳が顔面にめり込み、顔を変形させながらたっぷり十メートルは吹き飛び、木に衝突して気を失う。

 

「なっ、コイツ!?」

「ボコにする予定の奴らは何を――ぐぺっ!!」

 

 良悟の圧倒的な怒りの拳が、不良たちの意識を刈り取っていく。

 そこには何の手間も掛からず、先の再現が行なわれた。男たちを砕き、折り、叩き潰して。

 最後に立っていたのはやはり良悟だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 流石に息を荒げる良悟の両拳は血に染まっていた。それはほとんどが不良共の返り血。しかし一部は激情の衝動に耐えきれなかった拳自身が流す血でもあった。

 激しい痛みが良悟を襲っている筈だ。だがそれを気にも留めず、良悟はあられもない姿の葵へと近づいていく。

 

 間近で見れば見るほど、哀れな姿だった。

 激しく抵抗したのか、髪は大きく乱れている。一方で殴られたりはしていない。するまでも無い程に非力だった所為か。

 引き裂かれた衣服は手足に辛うじて引っかかっている。それがもう、与えられた役割を全うしていないことは目に明らかだが。

 そしてその顔には……溢れた涙が筋となって落ちていた。

 

「りょう、ごぉ……」

 

 枯れた声で名を呼ぶ声。それはどれだけ泣き叫んだか、助けを呼んだか、突きつけるようで。

 良悟はその声に息を呑む。

 彼女が受けた陵辱を、思い知り。

 

「……宇佐、田」

「ひっぐ……うぇぇ……汚され、ちゃったよぉ……」

 

 涙を流しす葵に、どう声を掛ければいいのか分からない。慰めることも、励ますことも、違う気がした。

 だがそれでも、言うべきことは言うべきで。

 

「……すまない」

 

 崩れ落ちてそれだけ絞り出すのが、やっとだった。

 

「すまない……!」

 

 

 

 

 

 無言のまま、二人は葵の家まで帰り着いた。

 破れた衣服をかき集め、良悟の上衣を羽織らせることでどうにか裸身を隠し、良悟がおぶりながら帰路へ。

 

 宇佐田家はマンションの一室だった。

 良悟はそのリビングのソファに座り、重い溜息をついた。

 

 葵は今、シャワーを浴びている。

 男たちからもたらされた、陵辱の跡を流すために。

 

 そして勝手に帰る訳にもいかず、良悟はリビングで待機している。

 本当はすぐにでも帰ってしまいたかった。葵へ合わせる顔が無い。

 だがそれでも玄関先で、縋るような目で袖を掴まれれば、その足は止まってしまった。

 

 だから今ソファに身を沈め、項垂れていた。

 そうしている内に垣間見えるリビングは殺風景だ。生活感が薄い、と言うべきか。

 良悟は葵がいつかした、両親は共に仕事で海外に行ったという話を思い出す。そして日本に残りたいという葵をあっさり置いて、このマンションを与えたということも。

 だから葵は、一人暮らしだ。

 そして友人はいない。あんなことがあっても――彼女に、寄る辺は無い。

 

「………」

 

 改めて罪の重さを自覚し、息をつく良悟。

 だがその背後で扉が開く音がして、振り返る。

 

「……あ」

 

 そこにはドライヤーもそこそこで出てきたのか、未だ髪の湿る部屋着姿の葵がいた。Tシャツにハーフパンツ。タオルを首に巻くその肢体からは、微かに湯気が立ち昇っている。

 

「良悟……」

「……あぁ」

 

 何を言えば良いか分からず、生返事だけが宙を舞う。

 葵もまた視線を彷徨わせ……そして気付く。

 

「……手」

「ん、あぁ」

 

 血の滲む手を指摘されて良悟も思い出す。

 そう言えば、拳を自分で砕いていた。痛みは今でも打ち鳴らされる警鐘のように響いているが、この心の罪悪感と比べれば忘れてしまう程度だ。

 

「別に……」

「手当、するから」

「こんなの、今することじゃねぇ」

「……アタシが、したいから」

「……そうか」

 

 葵を慮って断ろうとするが、そう押し切られた良悟は押し黙って受け入れる。させたいようにさせることこそが、今の良悟にとって出来る唯一の贖罪だからだ。

 救急箱を持ってきて、不器用ながら手当てをしていく。

 

「……痛いよね。ごめんね、下手で」

「別に、痛くねぇよ。……こんな、程度」

 

 お前が、受けた心の傷に比べれば。

 その言葉は、飲み込んで。

 

 やがて手当は完了する。それは完璧とは言い難い物だったが、良悟にとっては文句ない物だった。

 この拳が放置の末駄目になったとしても、どうでもよかったから。

 

「……ありがとな」

「うん。……うん」

 

 そしてまた、二人は押し黙る。

 ソファに並んで座ったまま、時間だけが過ぎていった。チクタクという静かな時計の音が巡る度、カーテンの隙間に映る日の光は落ちていく。どれほどそうしていただろうか。

 

 再び口を開いたのは、良悟だった。

 

「……じゃあ、もう」

 

 いつまでも、ここにいる訳にはいかないと。

 別れを告げる言葉を、口にしようとした。

 

「やめて」

 

 それを食い入るように止めたのは、葵の小さな叫びだった。

 そして良悟の腕を弱々しく掴み、呟く。

 

「……どこにも、いかないで。ここにいて」

「だけど、俺は……」

 

 確かに、あんなことをされて、その日の夜を一人で過ごせというのは酷だ。辛く苦しい、悪夢のような夜になる。

 だが、その元凶は――。

 

「お前は、俺の所為で」

「違うよ」

 

 誰の目にも明らかだと思っている真実を伝えようとして、しかし否定された。

 俯いてその目を合わせない葵は続ける。

 

「……アタシの、所為だから」

「そんな、訳ねぇだろ」

 

 それは、それだけは、違う筈だった。

 不良の所為だと言うならば、分かる。良悟の所為だと言われたら、勿論受け入れる。

 しかし自分の所為だということだけは、絶対に違う。

 

「お前は、被害者だ。何も悪くねぇ。十人が聞いたって、そう言う筈だ」

「それでもっ!」

 

 声を荒げる葵。弱くも彼女なりの精一杯で袖を握り締めながら、肩は震わせ言葉を紡ぐ。

 

「それでもアタシだけは、違うって言うよ……」

 

 意味が、分からなかった。

 

「なんで……」

 

 どう見ても、自分が悪いと良悟は思っている。不良の自分が、喧嘩に明け暮れ恨みを買っている自分が復讐されることなど、充分に予想できた。なら突き放すべきだったのだ。どれだけ葵に憎まれようと、彼女の身を思うなら。

 

「これは全部、俺の甘さが招いた結果だ! 俺がっ!」

 

 それでも自分が何も出来なかったのは、あの時間が心地よいと、思ってしまったから。

 良悟にとって付き纏ってくる鬱陶しい奴は、いつの間にか大事な人に変わっていて。

 サボりのついでにおしゃべりに付き合ってやるだけの暇つぶしは、大切な時間に変わっていた。

 それが好きで、大好きで、捨てきれなかったから。

 

「俺が……お前を、傷つけた」

 

 それが、真実。良悟はそう吐露した。

 しかし葵は――。

 

「違う。……甘えたのは、アタシだよ」

 

 そう、否定する。

 手当てしたばかりの手の甲に、良悟は生温かい物が降りかかるのを感じた。それは腕を抱えた葵から零れる涙だった。

 

「ずっと一緒にいたいと思った! この時間が永遠に続けばいいと思ってしまった! 良悟には、他に居場所があるって知ってたのに! ……だから、こうなった。アタシが良悟を縛り付けたから、その罰を受けたんだ……」

 

 葵にとっての真実は、そうだった。

 自分が良悟に纏わり続けたことその物が、間違いだったのだと。

 

「アタシが、早く解放してあげれば……良悟は、こんな風に傷つかずに済んだのに……」

 

 それが、一番の罪だった。彼女にとっての。

 自分が受けた傷は、勿論重い。一生背負う痛みだ。だがそれ以上に、自分の所為で良悟の心を傷つけてしまったことの方が、一番重い罪だった。

 

「……そん、なの」

 

 良悟は言葉を無くす。

 そんなこと、葵が背負う必要はない。

 だが目の前の少女は、頑なで。

 

「じゃあ、俺はどう償えばいいんだよ……」

 

 そんな言葉が、無意識に零れ落ちてしまう。

 自分が負うべき咎を、他ならぬ葵の手によって取り上げられた。だから、そう呟いてしまった。そして一度零れれば止まらない。

 

「俺はもう、お前を傷つけたくないのに……!」

 

 もう、これ以上。

 この少女が傷つくことは耐えられない。

 

「……あは、は。そう、思ってくれるんだ」

 

 その言葉に葵は、泣きながら笑う。

 

「良悟は、そうなんだ……」

 

 嬉しかった。

 そんなにも自分を想ってくれることが。

 だから、欲が滲んでしまう。それが彼の罪悪感を薄らせることが出来ることだと、自己肯定してしまう。

 

「じゃあ、じゃあさ……」

 

 互いの心を痛いくらいに曝け出したこの場所では、仕舞い込めない。

 

「忘れ、させてよ。――上書きして」

 

 そして葵は顔を上げ。

 良悟の顔へと。

 

「―――」

 

 自失する良悟。

 唇に触れる柔らかな感触が、同じそれと気付くまで数秒掛かる。その数秒の内に、離れていく。

 

「……えへ。ファーストキスだよ。これだけは、守ったから」

 

 そう言って笑う少女は、どことなく嬉しそうだった。

 だが一転、不安になる。

 

「あ……でも、駄目だよね。こんな、汚れちゃったら……」

「――んなこと、ねぇよ」

 

 そしてそんなこと言われたのなら。

 今度は良悟の方が口付ける番だった。

 

「んっ……」

 

 再び、そして今度は、より深く。

 不意打ちでは無いキスは唇だけでは飽き足らず、互いの舌を重ねるに至った。

 水音。いつの間にか手は繋がれ、身体の距離も零になる。

 密着しながら、長く唾液を交わし合う二人。

 

「――ぷはっ」

 

 そして銀の糸を引いて名残惜しげに離れた時には。

 もう二人の頬は、桜色に染まっていた。

 

「……いいのかよ。あんなことがあったのに」

「……いいんだよ。あんなことがあったから」

 

 至近距離で熱い視線と、静かな言葉を交わす。

 

「もし、良悟が書き換えてくれるなら、今日は最悪の日じゃ無くなる。だって――大好きな、人なんだから」

 

 そう、口にする葵の顔は。

 恋する乙女、その物で。

 

「……あはは。卑怯かな。こんな風に、告白したら」

 

 誰でも、逃げられない。

 そう自嘲する彼女は、それでも止められなかった。

 

 ずっとずっと、想いはあった。けれどあの微妙な関係性が心地よすぎて、離れることも、踏み込むことも出来なかった。

 その中途半端な関係が、今回の事件を引き起こした。だから葵は己の咎だと信じたのだ。この恋心を諦めることが出来なかった自分の所為だと。

 離れるべきだと言った。それでも、もう、この想いが滲んでしまったのなら。

 もう。

 

「好き、だよ。良悟。ずっと、好きだったよ」

 

 止め処ない。溢れる想いが。

 愛しくて、恋しくて。高鳴る心臓は跳ねるように疼いてリズムを刻み、汗ばむ手の平は伝わる体温を受け止めて嬉しがっている。勝手に流れる涙には熱が籠もって、告白を紡ぐ唇にはまだキスの感触が残っていた。

 

 言うべきことを、言った。

 だから後は、祈るような気持ちで――。

 

「――そう、か」

 

 だから優しい表情で彼が手を握り返して。

 触れ合った唇で、返事を紡いでくれた時。

 

「俺も、好きだよ。……葵」

 

 彼女の痛みは、埋められたのだ。

 

 

 

 

 

 

「――ん、どう、かな」

 

 それから二人は、ベッドへ移った。

 葵の自室の、一人用のベッド。その上で落ち着かない気分になりながら、良悟はパサリ、パサリと彼女が服を落としていくのを待った。

 そして生まれたままの姿が、露わとなる。

 

 手の平に隠れてしまうくらいの小ぶりな胸。なだらかな臍は透き通るような白い肌に覆われて。ほっそりした手足はチョコレートのように甘く脆そうだ。

 だが小さくもツンと立った桜色の双子が。艶めかしくくびれた細い腰が。陰毛一つ生えていない谷間の聖域が。

 恥ずかしげに赤く染まった顔と共に、充分すぎる程の色香を放っていた。

 

「……あぁ、綺麗だ」

「えへ、へへ」

 

 外は既に、夜の帳が下りている。

 だから微かな月明かりと、ベッドランプにのみ照らされた彼女の肢体はとても蠱惑的に浮かび上がっていた。

 

 それを見た良悟は、己の内側から溢れる雄の情動に困惑していた。

 好きな女の裸を見ただけで、これ程まで迸る物なのかと。

 

「……あ♡」

 

 故にベッドへ近寄ってきた葵がソレ(・・)に気付いた時。良悟は恥ずかしさのあまり顔を逸らした。

 

「……って、女に脱がせてそれはかっこ悪ぃか」

 

 だから良悟もまた、それを露わとする。テントを張っていた布を解放し、持ち上げていた一物を。

 

「わ……♡」

 

 解放されたと同時にまるで跳ね上がるように起き上がった肉棒を見て、葵は口元を手で覆った。ドキドキと跳ねる胸が鳴り止まない。男の剣を目撃し、女の鞘が疼く。

 漲るソレをぶら下げながら、良悟もベッドの淵に下りて衣服を脱ぎ捨てていく。

 

「……別に、いいよ? ほらアタシは……もう見られてるし」

「だったら尚更、俺も見せるのがマナーだろ」

 

 そう言って良悟もまた、一糸纏わぬ裸体を晒す。

 鍛え上げられた肉体。いくつもの傷を負った肌。身体のあちこちには、固まった血がこびり付いている。

 それに気付いて、良悟は顔を顰めた。

 

「……あぁ、俺もシャワー借りれば良かったな」

「ううん、いいよ。それに……」

 

 葵は鼻をヒクつかせる。近寄って、汗ばんだその匂いを嗅ぐ。

 

「……けっこー、好きかも♡」

「やめろよ……」

 

 かぁっと熱を持った顔を、肘で隠す。

 それに葵はクスリと笑いながら、一気に抱きついた。

 

 互いの身体の感触が伝わり合う。

 良悟には触れれば形が変わる柔らかな肢体が。

 葵には逞しく堅い頼もしい筋骨が。

 

「えへへ」

 

 照れくさそうにはにかむ葵。触れた胸元は腹筋へ押しつけられ、僅かな膨らみは潰れている。そこから伝わる心音は、ドクドクと激しい。

 

「葵……」

「うん……♡」

 

 そのまま葵を抱きかかえ、良悟はベッドに転がった。倒れ込んで高さの合った二人の顔は間近で見つめ合う。

 良悟は葵の背中に手を回す。華奢で細い背中。強く抱き潰せば壊れてしまいそうな感触に、少しだけ不安になる。

 その表情を感じ取って葵は、自分から身体を擦り寄せた。

 

「大丈夫だよ、良悟。むしろ、壊れちゃうくらい激しくしてほしいな」

「……いいのか?」

「そっちの方が、思い出に残るでしょ?」

 

 だから、遠慮しなくて良いと。

 至近距離で誘惑する。

 

「ん……♡」

 

 また、口付ける。三度目の接吻。飽きるどころか、何度やっても心地よい。

 

「……んぁ……♡」

 

 舌を重ね合わせたまま、良悟は葵の胸元へ手を滑らせた。葵の吐息に甘い物が混ざったが、キスはし続ける。

 指を這わせる。薄いがそれでも弾力を持つ二つの塊をふにふにと握り、柔らかな感触を堪能した。

 

「ふぁ……んちゅ……♡」

 

 良悟の手が乳房を撫でる度、葵は身体を捩らせた。それでも止めたくないのか、啄むように口吻を続けようとする。その様がいじらしく、ついいじめたくなった良悟はその先端部を摘まみ、コリコリと転がした。

 

「んんっ♡」

 

 ピクンと仰け反り、唇を離してしまう葵。良悟は謝罪した。

 

「悪い、痛かったか?」

「痛くは無いけど……いきなりすぎだよ」

 

 赤くなった顔で、恨みがましく葵は睨み付ける。

 

「そこは敏感で、自分でやってもすぐ気持ちよくなっちゃうんだから……♡ 良悟が触ったら、すごく気持ちいいに決まってるよ♡」

 

 そう告げる葵の顔には、もっとして欲しいと書かれていた。

 要望に応え、良悟は再び胸に手を当てる。

 

「んぅ……♡」

 

 恥ずかしげに、しかし確かに感じて葵は頬を赤らめる。それを見た良悟はもっと大胆になった。葵の身体を下へと動かし、覆い被さるような姿勢になる。

 そして尖った乳頭へと、むしゃぶりついた。

 

「んあぁっ♡ あっ♡」

 

 敏感な一点に吸い付かれた葵は嬌声を上げた。背筋が弓なって身体が跳ねるが、良悟の体重によって抑え込まれる。そのまま葵は、されるがままになった。

 舌が這い、口の中で小さな実を転がす。味わいは汗の香りだが、どこかほんのりと甘い錯覚もする。舌先で押し潰す度、葵は新鮮な喘ぎを吐き出した。

 

「ひぅ♡ ふああっ♡ んんっ♡」

 

 刺激を受けるほどに葵の声は熱を帯びていく。良悟の首に回し、その頭をかき抱くようにしていた手に力が籠もる。腹の下敷きになっている脚はもじもじと蠢いて、その肢体は堪え切れぬ何かに震えていた。

 

 ひとしきり堪能した良悟は口を離すと、悪戯心でもう一方の乳首にも同じ刺激を与える。

 

「はうぅっ♡」

 

 やはり似た反応をする葵。そのままたっぷり同じだけ味わってから口を離すと、己の唾液でてらてらと光る胸元が見下ろせた。

 そしてその上で、瞳を潤ませる葵の表情も。

 

「はーっ、はーっ♡」

「……可愛いな」

 

 頬を撫で、思わずといった様子で呟く良悟。触れた肌は熱い。だが自分自身の体温も、血の滾り自覚するほどに高まっている。

 また、唇を落とす。

 

「んっ……♡ ちゅ……♡」

 

 口付け合いながら良悟は、葵の身体の下に手を入れ持ち上げた。そのままベッドの上に座り、自分の膝の上に葵の小さな肢体を乗せる。

 そうして唇を離した良悟は、つつーっと葵の臍をなぞった。その下にある物を自覚し、葵はいっそう赤くなる。

 

「あっ……♡」

 

 辿り着いたのは女の源泉……陰部だった。良悟は割れ目を撫でながら耳元で囁く。

 

「いいか、ここ」

「……うん♡」

 

 葵は頷いた。その背筋にぞくぞくとしたものが走るのを感じながら。

 良悟の指が一本、秘裂へと侵入する。

 

「んんっ♡」

「やっぱり、狭いな」

 

 不器用に、しかし丁寧に探っていく良悟。間近で震える葵の反応を確かめながら、気持ちいい場所を模索する。

 

「……ここか?」

「あっ♡」

 

 良悟の指の腹が膣内を一部引っ掻くと、葵の身体が一際大きく震えた。

 

「ここか。責める……で、いいんだよな」

「うん♡ いじって、ほしいな♡」

 

 上気した呼気でそう答える葵。良悟は柔らかな女肉を抱きしめながら神経を集中し、葵を官能へ導いていく。指先で湿り気を感じ、ほぐれてきたところで二本目を差し入れる。

 

「あっ♡ はうっ♡」

 

 小刻みに浮く腰。二本目の指も葵の秘裂は抵抗なく飲み込んだ。ちゅくちゅくという厭らしい水音が響き始めて、葵は恥ずかしそうにぎゅっと目を瞑った。だが良悟の指が再び弱い箇所をなぞり上げ、無理矢理開かされる。

 

「はひゅっ!♡」

 

 ビクンと一際大きく跳ねる小さな身体。そして葵は激しく慌て始める。

 

「ま、待って良悟、その、これ以上は……!」

「ん?」

 

 だが葵を気持ちよくすることに全神経を注いでいた良悟の指は急には止まらない。良悟がその様子に気付く頃には、二本指は少女の弱点をむぎゅっと潰していた。

 そうなると、もう堪えきれなかった。

 

「いぎゅっ!♡ う、ひうぅ~♡」

「お……」

 

 ギクリと葵の肢体は一瞬で固まった。硬直する手足。そして氷解するようにほぐれていくと同時に膣壁からこぷりと溢れる蜜めいた物を指先に感じ、良悟は指を引き抜いた。

 よく見える位置にまで持ち上げると、そこにはねっとりとした愛液がこびり付いていた。

 紛れもなく、絶頂の証だ。

 

「うわ……エロいな……」

「やだぁ……♡ 見ないでよぉ……♡」

 

 良悟がよく見える場所ということは、その腕に抱かれる葵からもよく見えるということでもある。眼前に己の達した証を見せつけられ、葵の顔は羞恥で染まった。

 愛らしげなその仕草を見せつけられ、良悟はゴクリと喉を鳴らした。

 

「……じゃあ、もう前戯は充分だよ、な」

「あ……♡」

 

 葵の身体が、するりとベッドの上に降ろされる。そして股を開かせ、その間に身体を入れる良悟。

 ずいと前に出たのは、聳えた立つ男のシンボルだ。

 

「……♡」

 

 逞しい剛直を見つめ、葵の瞳はうっとりと蕩けた。だが同時に、胸はドキドキと高鳴る。

 しかし残念なことにその鼓動には、不純物も混ざっていた。

 

「……怖いか」

「……うん……」

 

 それは、愛し合っている今とはまるで違う、陵辱の記憶。ひたすらに恐ろしく苦痛な、拭いがたいハジメテの経験。まだ数時間しか経っていない、その時に刻まれた痛みと怯懦が、葵の身体を竦ませる。

 

「無理なら……」

「それは、駄目」

 

 慮ろうとする良悟の言葉を葵は否定する。

 

「上書きして、って、言ったでしょ……?」

「だが……」

「どのみちここでやらなきゃ、アタシは一生、その時の記憶に怯えることになっちゃう。そしたら後日良悟と愛し合えるようになっても、ずっと心のどっかには残っちゃうと思うんだ……鉄は熱いうちに打てって、それは違うかもだけど……」

 

 そう言う葵の視線は真剣で。だけど頬は優しく緩んで。

 その両手は、迎え入れるように伸ばされた。

 

「だから、して♡ 良悟♡」

「……後悔、するなよ」

「うん♡」

 

 頷いた葵に覚悟を決めた良悟は、その一物を濡れそぼった秘所へと宛がった。ピトリと当てられた貝口と亀頭から互いの熱が伝わり合う。ドキドキと鳴り響く心音は、今はどちらかというと恐怖よりも期待が大きくて。

 そして。

 

「うっ……ふぅっ……」

「んっ……♡ はうぅっ……♡」

 

 ずぷりと音を立てるように、肉槍が沈んでいく。充分に潤滑油が塗りたくられた膣内はそれでも狭く、剛直は押し割るように侵入していった。その微かな痛みに、フラッシュバックする葵。

 

「ひっ」

「葵!」

 

 怯えに竦んだ表情を浮かべた葵をかき抱く良悟。父性を感じさせるゴツゴツした胸板と、自分を思う熱を感じ、葵の精神は安定を取り戻す。

 

「ふぅっ……ふーっ」

「……大丈夫そうか?」

「うん……だから、続けて」

 

 ぎゅっと葵も背中に手を回しながら、耳元で誘惑するように囁く。

 

「嬉しい気持ちも、あるから……♡」

「っ!」

 

 そう言われては、男として、腹の底から沸き上がる物を抑えられない。そのまま遠慮せず、腰を落とす。

 

「うっ、ふぅぅ~……♡」

 

 苦しげな、しかし同時にどこか幸せそうに喉を震わせる葵の声を耳元で聞きながら、良悟は膣壁を割り開いていく。奥へ奥へと掘り進み、そして――。

 

「はひぃっ!♡」

「っ、ここか……!」

 

 突き当たりまで辿り着く。そこは女の最奥。子を育む神聖な場所にして愛すべき者を迎え入れる門。子宮口だった。それをぐにぃっと亀頭に押し潰されることで、葵の背筋に一番の電流が走る。そして同時に、溢れる幸福感が。

 

「えへへ……♡ 全部入った……♡」

 

 好きな男の一物を拒絶せずに受け入れることが出来た安心感。生まれついてから必ず存在する空虚が埋められ満たされる感覚。安堵から葵の顔が目に見えて緩む。

 幸せそうに頬を擦り付けてくる少女の髪を、良悟も称えるように撫でる。

 

「あぁ、頑張ったな」

「へへ♡ どう、かな? アタシの膣内(なか)♡」

「すげぇ温かいよ。それにうねって……女の奴ってこうなんだな。気持ちよすぎて今にもイっちまいそうだ」

「……もしかして、良悟ってハジメテ?」

 

 そう問う言葉に、良悟はバツ悪げに答える。

 

「あぁ、童貞だよ。かっこ悪ぃけどな」

「そんなことないよ。むしろアタシは嬉しいな♡」

 

 じゃれつくように足を絡めながら、きゅうきゅうと良悟の肉茎を膣壁で包み込んで葵は言う。

 

「良悟のハジメテを貰えて、すごく嬉しい♡ ……アタシのは、もう駄目になっちゃったから……」

「んなことねぇだろ」

 

 また表情を曇らせた葵に対し良悟はキッパリと否定した。

 

「ノーカウントでいいだろ、あんなの。……それとも、俺のはアイツらと一緒か?」

「! ううん……全然違うよ。あんなのより、もっとずっと幸せ……♡」

「だったら、これが本当のハジメテだろ。初物同士だ、俺ら」

「うん……♡」

 

 あの出来事を無かった物としたいのは、二人とも一緒だった。そして幸せなこの時間を堪能したいのも、同じ。

 お互いの体温。性器の形を確認しあうかのような微かな時間。心満たされる幸福な一時だが、やはり若い情動を抱える身としては物足りない。

 

「葵……動いて、いいか?」

 

 むしろ柔い快感がずっと愚息を包む感触に、良悟は我慢の限界だった。男としての律動がその先を求めて止まない。ぐつぐつと煮える焦りにも似た性情動が理性という抑えを外しかけていた。腰が疼き、血潮はごうごうと耳元で五月蠅く唸る。

 どこか必死さすら感じさせるその言葉に、葵はニコリと微笑んで答えた。

 

「うん……いいよ……♡」

「っ!」

 

 許可が出た瞬間、箍が外れて腰は動き出した。それでも最初は、なるべく刺激が薄いようゆっくりと引き抜く。

 

「ぁ……♡ ひぃ、ん……♡」

 

 絡みつくヒダをキノコの傘で引っ掻きながら、ずるるっと音を立てて抜いていく。愛液という潤滑油がたっぷり塗りたくられているにも関わらず、かなりの抵抗がある吸い付きだった。

 

「あっ♡ あうぅ♡」

「くっ……もう少し力抜かないとキツいんじゃないか……」

「ひぃん♡ だ、だってぇ♡」

 

 悶えながら、葵は答える。

 

「いなくなるの、寂しくてぇ……♡」

 

 切なく、そしてどこか煽るような告白。それを聞いて、良悟の何かがはち切れる。

 そして気付いた瞬間には、それまでとは全く違う乱暴な腰付きで再挿入していた。

 

「ひぃんっ!♡」

 

 スパァンと音が鳴るほどの勢いで一気に奥まで突き入られ、跳ねる肢体。それを抑えつけながら、良悟は重く息を吐いた。それはまるで、口から蒸気を出しているかのようで。

 

「葵……」

「ひゃい……♡」

 

 呼びかけられ、さながら従順な犬のように返事をする葵。何故なら気付いてしまった。良悟が、どれだけ労っていてくれていたかを。

 

「壊れちゃうくらい、激しくしてほしい……だっけ?」

「うん……♡ で、でも今思うとちょっと言葉の綾かな……?♡」

「忘れるくらい、に……?」

「い、いや、別にいっかなって……♡」

 

 ケダモノのような呼気を間近に感じ、ゾクゾクと背筋が泡立つのを感じる葵。それはトラウマとは全く別の、生物的な恐怖が根源だった。

 目の前にいるのが、自分という雌肉を喰い殺さんとする雄であることを自覚した、獲物としての。

 

「あ……♡」

 

 細い腰をむんずと掴まれ、葵は小さく声を零す。それは逃げられないようにする為。そしてより、深くまで突き入れる為。

 熱い空気が纏わるようにして、囁きが届く。

 

「もう、我慢はきかねぇぞ」

 

 己の女体を操るためのハンドルをガッチリと握られ、葵が浮かべることが出来たのは。

 

「えへ、へ……♡」

 

 そんな、期待を含んだ媚びた笑みだった。

 

 そこからは本当に、箍が外れたようだった。

 

「んぅ!♡ んあっ♡ あっ♡ あっ♡」

 

 腰をガンガンと打ち付けるその光景は、まるで掘削機械のようですらあった。女という存在を穿ち、貫き、砕いてしまうような有様。清らかな聖域を蹂躙する凶悪な大蛇。それは暴力的にも見えてしまう風景だが、当の組み敷かれている本人は幸せそうに喘いでた。

 

「あっ♡ あぁっ♡ はう~~っ♡」

 

 どちゅどちゅとピストン運動が激しく葵の膣を突く度、表情は蕩けより淫靡に崩れていく。

 

「ふぅ~~っ♡ んあっ♡ いぎゅうっ♡」

「イけよ。いくらでも」

「んんっ!♡ んぅっ♡ あっ、ああぁ~~っ!♡」

 

 そして限界に達した葵は、突かれながら果てる。白い火花が頭の中で弾け、爆発した快楽が肢体に駆け巡った。愛蜜が噴き出すように溢れ、互いの接合部を熱く濡らす。しかし良悟は、それに気付いたところで止める気配を見せない。

 

「ひぃ♡ りょうごぉ♡ イったぁ♡ イっちゃったのにぃ♡」

 

 甘く懇願する葵に対し、良悟は腰の動きを止めること無く告げた。

 

「言っただろ。壊れるまで止まらないって」

「~~っ♡ ひっ♡ ひうぅ~~っ♡」

 

 無慈悲な宣告。それを受けた葵は二つの物に身を震わせた。一つは本当に止まってくれないんだという絶望からの恐怖。そしてもう一つは、恐ろしくも強い雄の部分を垣間見たことによる子宮の蠢動だった。

 

「すきぃ♡ すきすきぃ♡」

「なら、いいだろ」

「よくないぃ♡ 止まってほしいのにぃ♡ うれしいのにゃんでぇ♡」

 

 愛しい気持ちが溢れて止まらない。それがどんなに怖いことでも、良悟を受け入れることを魂が喜んでいた。

 

「あっ♡ おっ♡ はひぃっ♡」

「こら、腰を逸らして逃げようとするな」

「むりぃ♡ あっ♡ あーっ♡」

 

 結局葵は、心身を荒らし尽くす暴虐に物理的にも心情的にも身を委ねるしかなかった。自分の腰を物のように掴んで離さない腕を振り払うことは不可能。そして自分を味わい尽くそうと躍起になっていることが嬉しくて拒めない。気持ちよすぎて恐ろしくても、葵は逃げることが出来なかった。

 

「うっ♡ うぅ~~♡」

「………」

 

 それでも不服を現すため、視線だけでせめてもの抵抗をする。だが精一杯睨み付けようと濡れた眼を尖らせているその姿は、良悟の愛欲を煽る以外の作用をもたらさなかった。

 ずちゅんと、より奥深くまで肉槍が突き刺さる。

 

「~~っ♡ おっ♡」

 

 バチバチと走る電流の如き快楽に、意識が飛びかける葵。しかしそれでも絡めた脚は離さなかった。それはある意味の覚悟だった。意識があろうとなかろうと、貴方の愛を受け入れる――という、サイン。

 健気でもあり卑しくもあるその仕草を感じ取った良悟は、だからこそピストンをより激しい物にしていく。

 

「葵っ、葵!」

「あっ♡ おっ♡ はひっ♡」

 

 華奢な身体を軋ませ良悟の全力を受け入れる葵。早く終わって欲しいという思う一方で永遠にこのまま交わい続けたいと願う二律背反に苛まれながら、ただその時を待ち続ける。

 そして、良悟は己の奥からせり上がってくる物に気付いて、叫んだ。

 

「出すぞ、葵っ!」

「! うん、うんっ♡」

 

 万感の思いと共に葵は頷いた。中に出すかどうか、等という問答は無かった。何故ならそこを新たな精で上書きすることこそが、二人の望みだったから。

 膨らんだ亀頭を最奥へ押しつけ、良悟はその猛りを解放する。

 

「~~~~っ♡♡♡」

 

 声にならない声を上げ、放精を受け止める葵。迸りとなって飛び出した精子は子宮へと流れ込み、その熱量で女の聖殿を熱消毒し浄化していく。同時に自分の脳裏を真っ白に埋め尽くす快感に、葵の肢体は弓なりに仰け反った。

 

「くっ、ふぅ……!」

 

 射精する快楽に熱い息を吐きながら、良悟は腰を捩らせ奥へ奥へと剛直をねじ入れる。それは己から放出する精子を一滴も無駄にはしない為。男としての征服欲の現われだった。

 

「あ゛っ♡ ああ゛っ♡」

 

 まるで断末魔のような声を絞り出し、カエルめいて跳ねる葵。長い吐精が終わった瞬間、その瞳から涙が溢れる。――それが歓喜を伴った物であることは、誰に問わずとも分かっていた。

 

「はーっ♡ はーっ♡」

 

 荒い息をつく葵は息も絶え絶えだった。性感で尖った乳首を乗せた薄い胸は忙しなく上下し、ヒクヒクと痙攣する肢体は疲労と興奮によって噴き出た汗でびっしょりと濡れている。顔は真っ赤で疲れ切っていて、しかし、幸せそうな笑顔を浮かべていた。

 

「はーっ♡ ふぅーっ♡ ……りょうごぉ……♡」

 

 愛しい人の名前を呼ぶ甘い声を聞いて、良悟は繋がったまま抱き寄せ囁いた。

 

「よく頑張ったな」

「ううん♡ 全然辛くなかったよ♡ だって、良悟のだもん♡」

「そうか……」

 

 そんな筈は無い。だけど、彼女がそう言うのなら受け入れよう。

 だってこれからも、忘れさせてやればいいのだから。ずっと。ずっと。

 

「葵……好きだぞ。愛してる」

「うんっ♡ アタシも、すきぃ♡ だいすきぃ♡」

 

 月明かりが二人だけの世界を照らし出す。愛しげに視線を注ぐ男と、その男に身も心も委ねて頭を擦り寄せる少女。本当に心を寄せ合っていることが伝わる光景。

 なの、だが――。

 

「……愛してる、からさ」

「ん?♡」

「もう一回……」

「へ……」

 

 そう言われて葵は気付く。膣の中の一物が、その猛りを鎮めていないことに。

 

「え、え、え?♡」

「次で終わらせるよう……努力するからさ」

「待って♡ 一回でこんなになるのに?♡ まだするなんて♡」

 

 フルフルと頭を震わせ、拒否の意を示す葵。しかしその瞳を覗き込む良悟は分かっていた。本気の拒否では無いことを。濡れた眼は期待に満ちていることを。

 であるなら、遠慮はいらない。

 

「夜はまだ長いからな。月が沈むまでには終わらせる」

「それって、朝じゃ――あっ♡ ひあっ♡」

 

 そうして良悟は再び葵を押し倒し、繋がったままの剛直を突き上げた。ぐちゅっとまだ射精の余韻冷めやらぬ子宮口を押し上げられた葵の膣も、また嬉しそうに肉槍を締め付ける。快楽を知ったばかりな二人の若い身体は一度だけでは満足できなかった。

 

「だめぇ♡ ホントに、だめ――んんっ♡ ちゅっ♡」

 

 哀願するだけの口を唇で塞ぎ、容赦無く腰を叩きつける。二度目、三度目の射精は、そう遠い話でも無さそうだ。

 結局、二人は朝まで互いを貪り合った。我を忘れて、全てを忘れて。

 その間には、最早――他人の痕跡は、どこにも無かった。

 

 

 

 

 

 

 そして二人の日常は、様変わりした。

 まず屋上へはあまり行かなくなった。授業に出るようになったのだ。しかしそれは、急に真面目になったからでは無かった。

 

「良悟♡ 良悟♡ ねぇ期末三位だったよ♡ 褒めて♡」

「あぁ、偉いぞ」

 

 休み時間、甘える少女を膝の上に乗せ人目も憚ること無くいちゃつく二人。何のことは無い。屋上へ行く必要が無くなっただけだ。

 葵にとっては、もう屋上へ逃げる必要が無かった。教室はもう居場所の無い地獄では無い。だって居場所はすぐ傍にいる。すっかり雌になったことを隠すこと無く、好きな人へ甘え倒す。

 良悟にとっては、教室で見せつける必要があった。ここに自分の女がいることを。そしてどれだけ溺愛し、大切に思っているかを。どれだけ愛を注いでも足りない、愛しい少女を撫で回す。

 

 兎を寵愛する若獅子。万が一その逆鱗に触れてしまった場合、どうなるか。それは既に学校中に知れ渡っていた。葵と良悟が一緒にいるところを兄貴分に告げた男子生徒は、見るも無惨な姿で吊し上げられていたからだ。病院で再起不能になった不良たちも含め、その恐怖は市内全域にまで伝染していた。

 最早二人に手を出そうとする人間は、世界のどこにもいなかった。

 

「ねぇ良悟、アタシそろそろご両親に挨拶に行きたいな♡」

「あぁ、いいぞ。親父もその部下たちも、『若が嫁を連れて来た』って喜んでくれるだろうよ」

「やったぁ♡ じゃあ週末ねっ!」

 

 至近距離で互いを見つめ合う二人の視界に、他の景色は入っていない。

 もうどこに行こうが、二人だけの世界はずっとそこにあった。


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