雑な部分もありますが、ご了承ください。
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地下に設けられたオークション会場、ここでは年端も行かない幼児から成熟した大人まで、様々な理由で売りに出された人間が高額で取引されている。無論、このことは表沙汰にはなっておらず、光のある表社会に隠された裏社会のこととして片付けられている。
『さあ! お次はこいつらだ!』
そして今宵も多くの者が奴隷としてが高値で売りに出されていた。しかし今回は特別に違い、会場からいつも以上のざわめきが起きた。
『あのくノ一集団、『紅椿』の影の狼と恐れられた影丸とその一行だァ!』
『おぉぉぉぉっ!』
スポットライトを当てられた一人の女性、そしてその後ろで横一列に並ばされる少女たちの名前を聞いた客たちから熱声が湧き上がる。彼女たちは身を隠すものを何ひとつ纏っておらず、乳首の先から下半身の秘部の割れ目まで、すべてがさらけ出されていた。
並ぶ少女の1人は目を閉じて怯え、1人は諦めたように死んだ目で俯き、1人は自分の身よりも目の前の女性を心配そうに見つめ、1人は……と、各々の反応を見せた。
そんな中、唯一前方に出された女性、影丸は怒りと憎しみを込めた眼差しを辺にいるものに向けた。体には、凌辱を受けたと思われる傷跡がいくつも見受けられ、それが今まで彼女が受けてきたものの生々しさを伝えている。
『傷物だと侮るなかれ、この影丸は締りがいい上に未懐妊だ!』
下劣な言葉を聞いて会場はさらに盛り上がる。
それもそのはず、紅椿の影丸と言えば、裏社会ではその名が知れているくノ一なのだ。獣のように荒々しい鴉色の長髪と抜群のプロポーションで標的を仕留めるその姿は、まさに影の狼と呼ぶに相応しいものであった。そんな女が売りに出されているだけでも驚愕だと言うのに、未だに子を宿していない、それを聞いただけでも、獣並の欲を持ったものなら本能に従って下半身を震わせてしまうのだ。
さらには影丸に負けず劣らず、なかなかのものを持っている部下達がここで手に入る……これを聞いて汁を漏らさないものはいなかった。
『ほら、前に出ろ』
パンっ!
『うっ! ……うぐっ……』
少女達の後ろに控える男の1人が、首輪を付けられた赤髪の少女の尻肉を叩き弾かせ、前方に歩かせる。少女もまた、臀部に何度も叩かれたような痣ができていた。
『さあさあ! まずはこいつ! 100万から!』
『130万!』
『140万!』
『145万!』
司会が値段を言うやいなや、客達は次々と金額を競り合っていく。人がこうして売りに出されるなど現代なら有り得てはならない光景なのだが、この世界のこの時代、この社会では当たり前のように行われていた。そんな残酷な現実に、少女達は泣きながら絶望し、影丸は無力な自分を呪いながらも、反抗的な眼を崩さなかった。
『さあ、500万! これ以上の額を出すやつはいないか! なんなら全員まとめ買いでもいいよォ!』
ノリに乗ってきた司会がそういった。すると、後方の座席から一人の男がゆっくりと手を上げ、
『まとめ買いってことは、紅椿一味全員を購入していいということか?』
と、司会に問いかけた。
『勿論、出すもの出してくれたら構わないよ!』
その言葉に男は仮面越しにふっと笑う。
『じゃあ……全員で5億、これでどうだ?』
5億、奴隷オークションでも早々でないであろう額にこの場にいた客や司会者がざわめき、さらには絶望していた紅椿の面々までもが驚愕したが、男は言葉を続ける。
『どうした? 5億ではもの足りないと言うのか?』
『い、いや、滅相もない! さ、5億! 5億以上はいないか!』
司会は焦りを誤魔化すように声を上げるが、誰も手をあげない。それもそのはず、いくら紅椿とはいえ、奴隷相手に5億などという大金を超える額などそう簡単に出せるはずもないのだ。
『……いない? じゃあ5億! そこのお客さんが5億で全員お買い上げだー!』
司会が小槌を叩き、乾いた音を会場に響かせる。
『(わ、私たち……どうなるの?)』
『(……わかんない)』
『(……あの男)』
一方、買われた紅椿一行は未だに混乱していた。それは影丸も同じであった。
そんな彼女たちを他所に、男は遣いのものを引き連れながら会場の階段をコツコツと上がる。
『さあ、行こうか。我が家へ』
男は影丸に手を伸ばし、鎖に繋がれた彼女の両手を掴んだ。
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ここは東の山の麓に建てられた和風の屋敷。
木立に囲まれたこの屋敷には『獅子家』という名の富豪が暮らしていると言われており、敷地の広さは並大抵の金持ちでは到底手に入れることの出来ないものとなっている。
しかし誰もこの屋敷について詳しく触れようとしない。ここまで広いとなると、興味以上に謎の不気味さと知ろうとすれば消されるかもしれないという恐怖心が襲ってくるのだ。
「紅さん! もっと力を込めて! 掃除は時間との勝負です!」
「は、はいぃ!」
「翠さん、貴方はそのまま道場の壁を磨きなさい」
「はい!」
そんな怖い噂が流れる獅子舞の敷地内にある道場にて、元紅椿のくノ一だった紅と翠は、獅子舞の家臣兼獅子家の清掃大臣こと桂助に扱かれながら、床やら壁やらを磨いていた。
「そんなものでは1日では終わりませんよ! 正式に女中になったからには厳しくやらせていただきます!」
「ひぃ……」
「はい!」
容赦のない桂助の扱きに紅は赤髪を抑えながら悲鳴をあげ、翠は汗を流しながら活力ある答えを返した。
敷地同様、獅子家の屋敷内にある施設の数は相当なもので、道場だけでも十はある。その全てを女中である彼女達が磨かなければならないのだ。
「おい桂助、あまり虐めたら可哀想だろ」
道場の入口から一人の男性、この獅子家の現当主である獅子舞が顔を見せた。その横には、伸ばした髪が特徴的な家臣、近之助が桂助に見下すような眼差しを向けている。
「あ、旦那様!」
「お帰りなさいませ!」
紅と翠は急いで主人である舞の前までかけると、その場で頭を垂れた。
「舞様は甘い、理由はどうあれ、この獅子家の女中になったからには全ての炊事洗濯その他諸々etcをこなしてもらわなければなりません」
「へーへー、相変わらず堅いねぇ石桂さん。そんなんだからいつまで経っても慕われないんじゃないのぉ?」
「黙れロリコン之助、迎えた早々に手を出した貴様に言われる筋合いはありません」
「誰がロリコン之助だ、純愛と呼べ純愛と」
桂助と近之助は互いの額をぶつけて近距離から睨み合う。
桂助は掃除以外でも規則を重視しようとすることから石のように堅い桂助、略して石桂。
近之助は元紅椿の比較的歳下のくノ一、碧に(両思いかつ互いに同意があったとはいえ)手を出して孕ませたことから、ロリコンの近之助、略してロリコン之助。
と、それぞれ嫌味を込めたあだ名で呼びあっている。
「ち、違います。桂助様はお優しいです」
「翠……あなたという子は」
「紅はどう思うんだ?」
「あ、そのー……もう少し優しくしてくれてもいいかなーって」
「紅、ここが終わったら西の道場を1人で、全部! 磨きなさい」
「そ、それはあんまりですよォ!?」
「はははっ、お前らは本当に仲が良いな」
まるでコメディのようなやり取りに舞は腹から笑い、桂助と近之助は「誰がこいつと!」と声を合わせた仲の良い言葉を返した。
「主様」
突然、声をかけられた舞が振り返ると、そこには獅子家の女中専用の袴を纏った影丸が立膝をついて頭を垂れていた。
「東門の掃除と池の手入れ、終わりました」
「ご苦労、影姫」
「それと、他の者たちも各々の役目を終えたところです」
「では菓子でも食べて休むといい。ちょうど近之助が無駄買いした甘味が蔵に残っている」
「な、坊っちゃんそれはないぜ!」
「いいじゃないですか、この糖尿寸前の男にはちょうどいい」
「糖尿じゃねえ!」
近之助の激しいツッコミも、桂助はいつものようにひらりと躱す。
「ありがとうございます。しかし主様」
「ん?」
「その、申し上げにくいのですが……姫と呼ぶのはやめていただけませんか?」
「何故だ? 丸よりもいいと思うが」
「いや、姫というのはちょっと……」
影丸は横に目を逸らす。
別に影丸が主人である舞に対して嫌悪感を覚えているわけではない。ただ、彼女の生きてきた人生路を考えると、姫などという可愛らしいものをつけられるのにはこそばゆいものがあるのだ。
「いいじゃないですか、カシラは全然姫っ子ですよ」
「そうですよ、カシラのお姫様姿、とっても素敵です」
「お、お前ら……やめろ」
前に1度着せられた姫服。あの時の体験は、影丸にとって軽いトラウマになっているらしい。
「そうだ、以前有馬が西洋から取り入れた衣装があるのだが……影姫、着てくれないか?」
「ま、またですか?」
「嫌か?」
「出来ればハレンチなものは……」
また変な格好をさせられると思い、影姫は顔を赤くしながら自らの体を抱きしめる。いくら主人の命令とはいえ、毎回着せ替え人形のように服を着させられることには羞じらいを感じていた。
「影丸様、まさか坊っちゃまの頼みを断るおつもりで?」
「あ、有馬様……」
いつの間にか影丸の真後ろに立っていた有馬。彼は現獅子家の当主である舞の忠実な側近であり、和服と洋服を掛け合わせたような正装を身にまとっているため、屋敷の中ではかなり異質な存在感を出している。
「おお有馬、用意はできたか?」
「既に皓様が手入れ済みでございます」
「うむ、ご苦労。では行こうか」
「わ、私に拒否権は……」
「カシラー、私たちもカシラのコスプレみたいですー」
紅にも翠にも裏切られ、有馬にも背後を取られた影丸に拒否権などなかった。
「……行きますよ近之助」
「ああ、俺たちの入る隙間はねえな」
「ほら、あなたも掃除しなさい」
「……しゃあねえ、やってやるよ。早く碧に甘えてえなぁ」
彼らの楽しそうにワキワキと話す光景に察した桂助と近之助は、黙って雑巾を絞り、道場の掃除を始めた。
────────
場所は変わって、屋敷の西側にある大広間にて、舞と紅、翠は横並びで正座し、襖の先にあるものを今か今かと待ちわびていた。その姿を有馬は端で見守る。
「はい、出来ましたよー」
襖が少し開かれると、元紅椿くノ一の皓が隙間から顔を覗かせ、待ちわびる3人を見てゆっくりと襖を開けていく。
「どうぞ!」
皓の合図に合わせるように、隣の広間脇から影丸が姿を現した。
「ほぉ、これはなかなか」
「カシラ……可愛い」
「似合ってます」
「あ、あまり見ないでください……お前らも見るな」
3人は影丸の姿を食い入るように見つめ、影丸は恥ずかしさで赤面させた。それもそのはず、今の影丸、もとい影姫は、西洋の国の使用人が着用する云われている仕事着、すなわちメイド服を纏っているのだ。しかも通常のものとは違う、スカートを膝丈よりも短くした特注品であり、持ち前の美脚を露出させている。
「やはり影姫にはこういった衣装が似合うな」
「カシラー! 可愛いー!」
「は、ハレンチだけど……似合います」
紅と翠からの声援に、影丸はさらに顔を真っ赤に染める。
この屋敷に来てからというもの、舞は影丸に様々な衣装を着せていた。単なる浴衣から臍や脚部を取り除いた改造物、デザイン良なくノ一衣装、裏社会に住む一部のマニアから購入したスクールミズギという品物など、王道からカワイイ系、美しいものから少々卑猥なものまで、多様なものを取り入れては、お洒落という名目で着せ替え人形のように纏わせていた。
「細かな箇所は皓様が手入れをしました」
「どうカシラ、腰回りとかキツくない?」
「きつくはないが……」
影丸にとって、この歳にもなってこういった衣装を着るのは、さらには元部下達の前でこの姿を晒すのはある意味精神的にくるものがあった。
「この飾りは? ついていなかった気がするが」
「あ、それは私がつけました。なんか物足りなかったので」
「皓様の裁縫技術はなかなかのものですな」
「へへ、紅椿の時からみんなの服を作ってましたから」
皓は照れくさそうに笑いつつ、自慢するように胸を張って応えた。
「しかしメイド服というものはなかなか見てて飽きないものだな……そうだ、同じものを取り入れて皆で着てみるのはどうだ?」
「え、私達もあれを?」
「ああそうだ。勿論、俺も近之助たちも着るぞ」
「わ、私は……前の動物の方が」
「翠、そういう意味じゃないと思うよ?」
「動物か……ならこの前の猫の衣装を取り入れるか」
「だ、旦那様! 真に受けないでください! あれを着るなんて嫌です!」
「安心しろ、俺も有馬も皆が着る。なぁ有馬?」
「……坊っちゃまのお望みとあらば」
「やめて!」
何故か脱ごうとする有馬を紅と翠は必死に静止させ、その光景に舞は大口を開けて笑った。
「…………」
「みんな楽しそうで何よりだね、カシラ」
「……私の身にもなれ」
「と言いつつ、カシラもなんのかんの言って楽しんでるよね」
「……知らん」
そっぽを向く影丸の背中を、皓は悪戯そうに啄いた。どんな扱いを受けていようと、今が1番平和を謳歌していることは間違いない。
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ぐぼっ! ぐぼっ!
『ほらほらっ! もっと締めんか!』
『う……くぅっ』
また、まただ……こいつらは、何度私達を犯せば気が済むんだ。
『口がお留守だぜっ!』
『むぐうっ!?』
『噛みちぎんなよぉ、噛んだら全員斬首だからな!』
前も後ろも、黒ずんだ陰茎をぶち込まれて、白いものを出されて…………この世界に生きている以上はいつあってもおかしくはなかったが。
『ふんっ!』
パァンっ!
『あがぁっ!? や、やめ……て』
パァンっ!
『あひっ!?』
『おい、あまりやりすぎるなよ? そいつは高値用に取っとく奴だからな』
『わかってるって……全く、こんなにいい体をしてるっつうのに……くそが!』
『がっ、く、苦し……い』
紅……
『ちゃんと扱けよ、じゃねえと他のやつがどうなるか分かってんだろうな?』
『んむっ……ふぁい……ん』
じゅるるるるっ!
『うおぉ……すげぇ、丸ごと吸い取られそう……だ!』
『んぐっ!? ……んっ』ゴクッ……ゴクッ……
『ほら、しっかり飲め』
翠……
じゅぼっ! じゅぼっ! じゅぼ!
『あっ、や、やだ……あぁっ』
『もっと喘げ! じゃねえと他のやつにもぶち込むぞ!』
『頑張れよぉ、今日はお前とお前らの大将しか下の穴使えねえんだからな』
『確かお仲間さんにこの前初潮が来たばっかのやつがいるんだったな。穹だっけ?』
『っ!?』
『お前が嫌っつうなら、そいつでもいいぞ?』
『皓ってやつでもいいかもな。ま、あいつの場合は昨日のやつで身体が持ちそうにないか』
『……あっ、あっ、あっ』
『なんだ、やればできるじゃねえか』
『いいぞぉ、興奮してきた……』
『俺、もうそろそろやばい。こいつは中でいいんだっけ?』
『知らねえ、けど問題ねえだろ』
『っ!? い、いやだ! 中はっ!』
ビュルルルルッ!
『あぁぁぁっ! いやあぁぁぁっ! ……やぁ、抜いて……』
グリっグリっ
『あぁ……』
『ほら、お仲間のためにもしっかり受け止めろよ』
『…………ぃ…………ゃ……』
碧……
皆……私が不甲斐ないばかりに……。
『うお、出るぞ……』
『影の狼に種付けだ……うっ!』
こんなヤツらに……
グチュッ!
『んんんんっ!』
気持ちが悪い……
『ああ、溶ける……見た目だけじゃなくて中まで名器だ』
『口を窄める度に絞り出される……またたってきた』
『他のやつも呼ぶか』
ずぼっ
『う……おぇぇぇ! ……げほっ』
ここは……地獄だ。
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数日が経ったある日の子の刻、女中や家臣たちが一日の疲れを癒すように眠りにつくこの時間に、舞は障子に背を向ける姿勢で文机に向かい合って、手紙らしきものを読んでいた。彼がこの時間帯まで起きているのは珍しいことなのだが、今日はとある人物との約束で起きているのだ。
「……主様」
ふと、外から声が聞こえ、障子を挟んだ向こう側に黒い影が映し出された。
「入ってくれ、影姫」
「失礼します」
舞の許しとともに、スーッと静かに障子が開かれると、浴衣姿で正座をする影丸の姿があった。髪はまだ風呂上がりで湿っていて、それがより一層艶めいた淫らさを醸し出しており、正座のまま部屋に上がり、障子を閉めるだけの動作にすら色気を帯びていた。
「すまないな、遅くに呼びだして」
「いえ、主様の命令とあらば」
「……今は2人だけだ。舞と呼んでくれ」
「はい、舞様」
影丸は改めて舞の名を呼ぶ。
「昼は済まない、流石に冗談がすぎたな」
「いえ、冗談で良かったです」
今日の昼、舞は以前に宣言した通りに猫の衣装を人数分取り入れたと告げて、家臣や女中達を騒然とさせた。
しかし人数分を取り入れたというのは舞の冗談で、実際は近之助の分の衣装しか取り入れることができなかった。何でも発注側のミスでそうなってしまったらしく、舞は非常に残念そうにしていた。
なお、その報告を聞いて殆どの者が安堵の息を吐いたのを彼は知らない。
「……影姫」
「はっ」
「……お前達がここに来てから、もうどれくらいになる」
「……1年、でしょうか」
「そうか、もうそんなに経つのか」
1年、紅椿一行がこの屋敷に来てから既にそれほどの時が流れているという事実に、 舞は今までの記憶を巡らせた。
「お前達も来たばかりの頃は警戒心を隠しきれていなかったな。それがこうして触れ合えるような関係になるとは思わなかった」
「その件については申し訳ございませんでした」
「謝ることじゃない。あの頃は皆、衰弱しきっていたからな」
獅子家に買われ、屋敷で女中として働き始めたばかりの頃の影丸達は、今のように笑顔のえの字も浮かべることが出来ないほど精神的に弱っていた。影丸も上辺だけは礼儀正しく従っていたものの、内からは警戒心と殺意が溢れ出ていた。
しかし、共に生活していく中で両者はお互いのことを知っていき、その中で近之助と碧が結ばれ、紅と翠が正式に女中となり、他の者たちもそれぞれの役割を務め、今では簡単には折れぬ信頼関係を築いていた。
「お前が短刀を預けてくれた時、俺は本当に嬉しかった」
「……私にとって、生涯の主は舞様だけと決めています」
そして影丸に至っては全身全霊を尽くすことを示すために、自らがくノ一であり、生きている証でもある短刀を舞に預けたのだ。
「……だが、俺は今のままでは満足できない」
「満足……?」
「お前は俺に全身全霊を尽くしてくれている。しかし、今後は体と魂だけじゃない、これからの人生も捧げて欲しい」
舞は立ち上がり、影丸の前で立膝をつき、彼女の黒い目をじっと見つめる。
「影姫、単刀直入に言う……俺と結婚してくれ」
その言葉に影丸は少しだけ目を見開き、鼓動を速める。が、すぐに下を向いて顔を逸らす。
「……ありがたきお言葉。しかし……」
ようやく開いたものの、影丸は言葉を濁すように口を紡ぐ。これが何を意味するのか、舞はすぐに察した。
「……理由を教えてくれないか」
「……私は、舞様に命を救われた身でございます。いえ、私だけでなく、紅たちも。貴方様には心の底から感謝しております。告白も嬉しい限り……ですが、私のような影で生きてきた女が妻になるなど」
「本当にそれだけなのか?」
「それは……」
「……体のことを気にしているのか」
「…………」
舞の問いかけに影丸は黙然する。実際、彼女は自分の体のことを気にしていた。
紅椿一行が獅子家に買われる前……1つの油断によって敵の策略にハマり、紅椿が組織壊滅した際、彼女達は敵の男達に凌辱の限りを尽くされた。その痛さと屈辱は今でも彼女達の心身に刻まれており、特に影丸に関しては、多方面から恨みを買われていたことから拷問同然の行為を何日間にも渡って受け続けた。
叫ぼうとも、嘆こうとも、奴らが腰と手を止めることはなく、彼女達の体に射精をし続けた。そこは地獄、この世に存在する本物の地獄だった。
「……私に、舞様に抱かれる資格はありません。失礼します」
影丸は立ち上がり、 部屋から去ろうとする。
「待て」
その影丸の手を舞は掴み、そのまま抱きしめる。と同時に、部屋を照らしていた明かりがふっと消え、寝室は暗闇に包まれた。
「離してください」
「お前がなんと言おうと、俺はこの手を離すつもりは無い」
「…………」
「俺はこの身にかけて、お前を、お前の傷も受け入れる……この1年でそう決めたのだ」
「…………舞様」
影丸の持つ傷も、彼女自身も受け入れる。舞は腹を切る以上の覚悟でそう言い放った。
「……影姫、俺と一緒になってくれ」
暗がりの部屋の中、舞は影丸と向き合いお互いの瞳を見つめ合う。影の狼と恐れられた獣の目は、噂とは程遠いほどに舞を愛おしそうに見つめている。
「……御意のままに」
覚悟を決めた影丸は帯を弛め、スルスルと浴衣を脱いでいく。浴衣の中は何も着ておらず、影丸のスラリとした裸体が露わになった。
大きいながらも程よい形を保った2つの乳房、くノ一として鍛え上げられた女性らしい付き方をした筋肉とクビレ、大きすぎない肉付きの臀部等々、世の男性だけでなく、女性も振り返るであろうプロポーションに、舞の雄としての本能は刺激された。
そんな影丸の体に刻まれた傷跡、特に胸下から腹部あたりに付けられた複数の傷の跡が、影丸が受けてきた屈辱を物語っていた。
「……綺麗だ」
「舞様……んっ」
舞は影丸の肩を掴み、抱き寄せると、彼女の唇と自らの唇を重ねる。啄むように吸い付きあい、互いの舌先を絡ませながら、ときに口内で暴れさせる。
れろっ……ちゅっ
「んっ……んっ♥」
唾液が混ざり合い、粘り気のある卑猥な音を鳴らす。
その音に興奮したのか、舞は影丸の体を優しくまさぐり、乳輪、脇筋、臀部を愛撫していき、影丸もそれを受け止めるように舞に身を任せた。
「ぁ……あっ」
口を離し、唾液の糸を引くと、舞は間を置かずに影丸の首筋に甘噛みをする。噛まれた箇所から伝わるピリピリとした微弱な刺激と時々撫でられる傷跡の痛みに、影丸は獣のような目付きを緩め、崩した女子顔を浮かべる。
卑劣な者たちから受けた恨証であるこの傷の痛みは、舞の撫でられているこの間は快感へと変わっていた。
「立っていては何も始まらないな」
「……はい 」
2人は抱き合い、舞が影丸を押し倒すようにゆっくりと布団に倒れ、体を沈ませる。
……はむっ
「あぁっ♥」
倒れて早々、舞は影丸の右乳房にしゃぶりつく。
じゅうっ……ぢゅるっ
「は、はぁ、あっ♥」
舞は乳輪辺りまで口に含み、頬をすぼめて乳首の先まで赤子のように乳を吸いあげ、その刺激に影丸は小さな悲鳴をあげた。
乳を吸われるなど、拷問を受けていた時は不快感しか感じていなかった。しかし不器用ながらも気持ちよくしようと必死に食らいつく舞の吸い付きは、それとは違って体の底からゾクゾクとさせる快感を与えていた。
「あぅ、あっ……あんっ♥」
さらに舞は追いこむように、右手で影丸の左乳の先に付いた乳首を掴んで捏ねるように指先を動かす。
くにっ……くにゅっ
「だ、ダメです舞様、そんな先ばかり……いぃっ」
影丸は止めようとするが、舞は口と手を止めずにそのまま攻め続け、仕舞いには空いていた左手で鼠径部付近を撫で回し始める。
「(い、いや、何……これ)」
赤子のような吸い付きと捏ねるような手先、そして鼠径部への愛撫により、影丸の全身に痺れるような感覚が流れ始める。
「こ、これ、へんっ……あっ、だめ……!」
今まで感じたことの無い感覚に影丸は興奮しながらも恐怖し、足をビクッと跳ねさせる。
その姿を見た舞は彼女の体を優しく抑えつけ、手先の速度を早めた。
こり……こりっこりっこりっ
「だ、ダメっ、く、くる! なにかきちゃ……あぁぁっ!!」
ぷしゅっ……
未知の快感が足先まで伝わると、影丸は甲高い嬌声を上げながら全身をビクンと震わせ、秘部から勢いよく潮を吹き出した。
「んっ……もしかしてこのような経験は初めてか?」
「は、はぃ……」
乳から口を離した舞からの問いかけに、影丸は火照った顔で答えた。
凌辱されていた際も男達から同じように胸を攻められていたが、どれも気持ちの悪いものばかりで、快感によって絶頂するのは初めてであった。
「そうか……なら本番にするとしよう」
舞は1度上半身を起き上がらせると、纏っている服を脱ぎ捨てる。鍛え上げられた筋肉のついた逞しい体、そして
「(これが、舞様の……)」
猛々しく反り上がる一際大きい黒い陰茎がその身を露わにした。暗がりでハッキリ見えなくても、影の具合からその大きさが伝わってきた。
「……お前を貰うぞ」
舞は影丸の両肩付近に手を置き、彼女にそう告げた。
「……私の体を、貴方に差し上げます」
影丸は目を瞑って股を広げ、両手で湿った秘部を包む大陰唇を開き、舞を受け入れる姿勢をとった。
ぴとっ……ズブブッ……
舞は影丸の膣口に亀頭先をあてがい、こじ開けるように徐々に中へと挿入していく。一度目の絶頂によるものなのか、彼女の中は愛液で満たされており、彼の一物をすんなりと中へ誘っていく。
「…………」
約1年ぶりに味わう、自分の身体の中を突き進みながら入り込んでくる異物感に、影丸は堪えるように体を震わせる。平然を装おうとしているが、まるで何かに怯える恐怖に満ちた表情を隠しきれていない。
「大丈夫だ、お前を不快にさせるようなやり方はしない」
「……はい」
ある時は鎖に繋がれ、またある時は磔状態で体を弄ばれ、ある時は異物を……幾ら強気に振舞っていても、あの日々は影丸にとって大きなトラウマになっていた。それでも影丸は舞に体を許し、だから舞もその事を理解した上で彼女にこのような言葉を囁いたのだ。
ずぶぶぶっ…………ずぶんっ!
「んんっ……」
しばらくして陰茎は根元までくい込み、影丸の膣に収まる。愛液で満たされた彼女の膣内は、舞の陰茎を溶けて癒着させてしまいそうなくらい柔らかくて生暖かいものであった。
ずっ……じゅぶっ! ずぢゅっ!
そして舞は間を置かずに腰を前後に揺さぶり始める。
「あ、あっ、あぁっ……あ♥」
舞の硬い陰茎は影丸の膣内を掻き回し、出し入れする度に水気のある粘着音を奏でる。その音と膣を擦られる刺激に影丸は怖がった顔を徐々に緩ませた。
「はぁ、ん……加減はどうだ、影姫」
「はっ、はいっ……気持ち、いい……んんっ♥」
影丸は姫声を漏らしながら答える。カリ高な亀頭が彼女の膣壁についた無数の肉ヒダを押し潰し、引き抜く度にそれらをカリに引っ掛けて擦りあげる。
「あ、は、あっ……あぁ、んっ♥」
太い一物が激しいながらも優しく自分の体内を抉り回す快感に、影丸は初めて性行為に対する快感を覚えた。無理矢理やられるのとは違う、愛のあるセックスがこれほど気持ちいいものなのかと、影丸は豊乳を揺らしながら思った。
「……ふんっ!」
ぐちゅっ!
「ひゃあぁっ!? ♥」
突然舞は影丸を掴むと、力を込めた深い一撃を打ち込み、奥深くにある肉壁を突き上げた。その一撃は影丸の性感帯である部位を押し上げたようで、彼女は叫びのような声を漏らして軽い絶頂を迎えた。
「くっ、締まって……うっ」
「は、あ、だ、ダメっ。そこ突いたら……あ、あっ♥」
軽い絶頂を迎えたことで影丸の膣内は一段と締りが良くなり、細かい肉襞が舞の竿を一層締め付ける。しかし舞も負けじと陰茎を動かし、亀頭で影丸の弱点を突き続けた。
グチュグチュという愛液と我慢汁が混ざり合う卑猥音と影丸の淫乱な喘ぎ声が重なり合い、寝室中に響き渡る。
…………ググッ
しばらくすると陰茎に更なる血液が流れ出し、一際大きくなって膣壁に圧をかける。その感覚に影丸は舞が射精する寸前であることを感じ取った。
「か、影姫……出るっ……!」
「ん……はい、中に……私の中に……」
息を荒らげて興奮しながらも、影丸を強く愛おしそうに抱きしめる舞。そんな彼の抱擁に影丸は体を布団に沈ませながら、彼の背中に腕を回して抱き返す。
影丸の柔らかい乳が2人の間で潰れて広がり、舞の胸板と擦れ合う。
「影姫……影姫っ!」
「舞様……舞、様……あぁっ!」
バチュッ!
「あぁぁっ♥」
お互いの名前を呼び合いながら、舞は最奥に陰茎を一気に挿入させ、子宮口付近の肉を突き上げながらマグマのように熱い白濁液を流し込んだ。
今まで感じたことのない熱と快感に影丸は頭の中を真っ白に弾かせ、発情した雌狼のような遠吠えを上げながら絶頂を迎えた。
「(射精る……舞様の……これが、まぐわいの悦び)」
脈を打ちながら白濁液を吐き出す一物と子宮内へ流れ込もうと暴れる子種の群れの熱を腹越しに感じながら、影丸は体を震わせて抱かれることへの悦びを味わった。
「ぁ……」
ようやく精液を出し終えると、舞は腰を引いて影丸から一物を引き抜く。膣穴からは、舞の精液と影丸の膣液が混ざってできた愛液が漏れだした。
「はぁ……はぁ……影姫」
「はぃ……んっ」
舞は蕩けるように表情を崩す影丸の瞳を見つめた後、彼女の唇を奪うように重ねた。先程とは違い、舞が彼女の口内に舌先をねじ込み、上手く絡み合うように唾液の分泌を促した。
「んっ、ぷはっ…………舞様、仰向けになってください」
「? 仰向けか?」
舞は言われた通りに仰向けに寝転がり、布団に体を沈ませる。すると影丸は痺れるように力の抜けた体を必死に動かしながら、舞の脚の間に入り込むように姿勢を変える。射精しながらも、彼の一物はいまだ勃起状態を保っていた。
「お、おい。そういうのは……」
「いえ……やらせてください」
そう言うと、影丸はそそり立つ舞の一物の先で膨らむ亀頭を口に含み、徐々に竿部分も口の中へ頬張ると、そのまま頭を動かして扱き始める。
愛液に塗れた陰茎は独特の苦さを影丸の口内に広げたが、彼女の舌は仄かな甘さを感じ取っていた。
「ん……んむっ、えあっ」
一物を貪るように啄みつつ、時折舌先で裏筋とカリについたものを舐めとる。
「(まさか、私の方からこのような……けど)」
汚らわしい一物を頬張るなど、影丸にとっては二度とやりたくないと思っていた。しかし彼女は愛する人と体をまぐわせたことで、今だけはその行為をすることができた。
ちゅぷっ、ちゅぷっ……
「んんっ……ん」
ちゅ……ぢゅるるるるっ!
「うぅっ!」
影丸は根元まで陰茎を飲み込むと、頬を一気に窄めて愛液を吸い上げる。揺れる頬肉が竿に吸い付き、喉奥で亀頭を受け止め、汚れを吸い込んでいく。
ある程度扱き終えると、影丸は一物から口を離し、吹きかけるように暖かい息を吐いた。
「……出来ました」
「すまない、礼を言う……しかし」
「?」
申し訳なさそうに苦い顔をする舞に影丸は首を傾げる。
それもそのはず、影丸からの口内清掃によって綺麗に舐め取られた舞の一物はさらに興奮してしまい、再び彼女を求めて反り立っているのだ。
「……すまん」
「……舞様ったら」
影丸は微笑むと、まだ若干脱力した体で舞にしがみつき、対面になるように座り直した。
「私は、何処までも貴方に着いて行きます」
「影姫……」
しばらく見つめあった後、2人は3度目の口付けを交わす。2人で一物についた愛液の味を絡め合いながら、舞は再び影丸の膣穴に亀頭先を挿入した。
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「…………」
草木も眠る丑三つ時、からかなり経った時間帯。影丸との行為を終えて眠っていた舞は目を覚まし、布団から上半身を起き上がらせる。隣では、先程まで愛し合っていた影丸が、睡眠時にのみ見せる乙女顔を浮かべながら寝息を立てて眠っていた。
「……可愛らしい」
こんな影丸の表情を見るのは初めてだったのか、舞は眠る彼女の姿に見惚れた。
「坊っちゃま」
「……来たか、有馬」
「桂助様と近之助様がお待ちです」
「よし、分かった」
舞は影丸を起こさぬようにそっと立ち上がり、彼女に向けて小さく一言告げてから寝室を後にした。
「よお坊っちゃん、支度は出来たか?」
「ああ、遅くなってすまない」
「主君を待つのも家臣の役目です」
しばらくして、支度を終えた舞が屋敷門まで向かうと、同じく支度を済ませた桂助と近之助が門前で待っていた。両者ともにいつもの袴姿ではなく紅の鎧をそれぞれ身にまとっており、さらに近之助は槍を肩に担ぎ、桂助は刀なのか槍なのかよく分からない歪な武器を手に持っている。三者とも、まるで今から戦に出向くかのような格好をしていた。
「有馬、今一度確認するが……その情報、確かだな?」
「はい、奴らは先程申し上げた場所を隠れ蓑にしています」
「そうか……まさか1年もかかるとは、俺の力量不足だ」
「それは違う、たったの1年だ。たったの1年でここまで来れたんだよ、坊っちゃん」
「そうですとも」
落ち込むような発言をする舞に近之助は励行し、桂助も珍しく彼の言葉に賛同した。
「しかし、まあよくあんな奴らがここまで生きてこれたぜ……蜚野郎は駆除しなきゃあなぁ」
「……近之助、分かっていると思うが」
「分かってるって、あんまり荒々しくやるなって言いたいんだろ? だがな、女房を痛めつけてた野郎に優しくするほど、俺は善人じゃねえんでな」
ニヒヒと笑う近之助。しかしその手は怒りで強く握られ、指と掌の間から血を流していた。
「あなたのことですから、磔にでもしないと気が済まないでしょうね」
「ったりめえだろ、5億分の苦しみを味合わせてやらぁ。そういうお前も同じだろ?」
「さあ、秘密ですよ」
「……1つ言っておくが、これは仇討ちではない。奴らのようなもの達を殲滅する、それが我々の仕事だ」
「……あいよ」
舞は燃えたぎるような瞳で2人に言い放った。
確かに半分は彼女達を苦しめた奴らへの仇討ち、彼女達と同じような犠牲者を増やし続ける奴らへの天誅に当たるかもしれない。しかし、これは同時にこの先の未来を摘むような、いずれはやらなければならなかった奴らを殲滅するという目的を含んでいる。すなわち、人々がこの先を生きていくために必要な、彼らのもう1つの仕事なのだ。
「有馬、しばらくの間、影姫達を任せたぞ」
「かしこまりました。念の為、皆様の警備は鐡様と銀様にも任せております」
「……感謝する」
鐡と銀、彼女達もまた紅椿の元くノ一であり、今も獅子家の忍として働いている。本来なら彼女達も紅達のようにくノ一家業から身を置いても良いのだが、頭である影丸や年下の仲間達を守るために忍を続けたいと自ら志願したのだ。
「……さて、行くか」
「おう……ところで坊っちゃん」
「なんだ?」
「ちゃんと影丸とは済ませたか? なんのかんの言って相手はデカい。下手したら最後になるかもしれねえんだぞ?」
「……違うな」
「あん?」
「俺は明日も、明後日も、その先も、この戦が終わったあとも彼女のことを抱き続ける。死ぬことなど考えてもいない」
「……皮が向けて何よりだぜ。いや、これじゃあ単なるケモノか」
「お二人共、そういう発言は死に繋がりますよ」
「はっ、そうかい」
「……行くぞ」
「「御意」」
舞は有馬が開けた屋敷門を潜り、桂助と近之助もその後ろに続く。
3人の無事を祈りながら、有馬はその背中を見つめた。
「(舞様……)」
そして裏でこっそりと話を聞いていた影丸もまた、心の中で彼の無事を祈っていた。
ある旅人の話によると、とある村に潜んでいた怪しい輩たちが一斉に消息を絶つという事件が起きたらしい。どんな集団なのか、誰がいたのかは村人でさえ知らないという。さらに同時期、別の地方に住む謎の組織も同様に忽然と姿を消したという。
そんな彼らの存在を、実はとある集団が社会的にも物理的にも消したということは、一定の人物を除いて誰も知らない。
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木々に生えていた緑葉が紅葉に姿を変えて、秋風と共に地上に落下するこの季節。獅子家付近の村では秋祭りということで祭事の準備に追われていた。
そして獅子家の庭園でも、大量の紅い落ち葉が敷き詰めるように庭を包み、女中達がその処理に追われていた。
「はぁ〜、秋だねぇ」
「紅、ちゃんと掃かないと桂助様に怒られるよ?」
「そんなこと言ってもさー、掃いても掃いてもなくならないんだもん」
紅は箒の先でカッカッと落ち葉を掃き散らした。女中の2人は今日も今日とて庭掃除をしているが、この季節になると落ち葉という名のた紅いゴミを処理しなければならない。自身の髪と同じ色とはいえ、こうも多いと腰を痛めてしまうから、やる気も削がれるのだ。
「今年もお芋買ってこよっかなー、そしたらもうちょっとはやる気でるかも」
「そのお芋で前の秋にやらかしたのはどこの誰ですか」
「うっ……私です」
愚痴る紅の後ろから、同じく箒を持った桂助が鋭い針のようなツッコミを入れた。
去年の秋、紅は今のように掃除中に焼き芋が食いたいと言って集めた落ち葉をかき集めて芋を焼こうとしたのだが、やりすぎた結果落ち葉の山は大炎上し、危うく庭園が焼けの原になりかけたのだ。
「桂助様、ここは私たちが掃きますので」
「いえいえ、私もちょうど暇だったものでしてね。折角だから一緒にやりますよ」
「(桂助様ったら、なんか翠には甘いよなー)」
「あなたが不真面目すぎるんですよ」
「き、聞こえてたんですか……」
心の内で吐いたはずの愚痴を讀まれた紅は驚愕する。
「おっ、掃き掃除か。私も手伝おう」
と、そこへ黒い着物を纏った影丸……否、影姫がゆったりとした歩みでやって来た。
「だ、ダメです奥様! 奥様は座っていてください」
「そうですよ。奥様にこんなことをさせる訳にはいきません」
「いいじゃないか、何も出来なくて退屈なんだ。
……あと、その奥様って呼び方はやめてくれないか? お前達が言うと違和感が酷いんだ」
「えー折角慣れてきたのにー」
「ダメですよ、奥様なのにカシラなんて変です」
舞の伴侶になってからというもの、影姫は皆からカシラではなく奥様と呼ばれるようになった。影姫も獅子家当主の舞の妻となったのだからそう呼ばれるのは仕方の無いことだと分かってはいるが、それでも何処か息苦しさを感じてしまうのだ。
「呼び方は兎も角、2人の言う通りです。奥様、今が1番大事な時期だと自覚してください」
「桂助様、そのセリフは前にも聞きましたが」
「子を身篭っているという自覚を持って欲しいだけです」
お堅そうに言う桂助に影姫は面倒と言いたいようなため息を吐きながら、我が子が眠る膨れた腹部を着物越しに撫で回した。舞に似たのか、それとも自分に似たのか、お腹の子どもは時折腹を蹴って自身の存在を主張していた。
「おうおう、変わらずくっだんねえ話で盛り上がってんなぁ」
と、4人の後ろにいつの間に近之助と腕に赤子を抱いた妻の碧が立っていた。
「碧姉さん、近之助様、おはようございます」
「蒼ちゃーん、おはよー」
紅は2人の子どもはである蒼のフニフニとした柔らかいほっぺをちょんちょんとつつく。赤子特有のモチモチ肌が紅の指を跳ね返し、蒼は彼女を見てヘラっとした笑みを返した。
「かーわいいー!」
その笑顔に紅は舞い上がり、優しく蒼に頬擦りをした。
「碧、体の方はいいのか?」
「はい、もう大分。奥様こそゆっくり休んでください。今は1番大切な時期ですよ」
「お前もか……全く、寝てばっかだと調子が狂うんだよ」
碧からも言われてしまい、影姫は頭を抱えた。休め休めと言うものの、何もしていないのに休むだなんておかしい話だ。寧ろここ最近は動かな過ぎて体が訛り、彼女自身も調子が狂っていた。
「あ、笑った」
頭を抱える影姫が可笑しかったのか、蒼はでへっと息を吹いて笑った。
「いい笑顔ですね。一体誰に似たんでしょう」
「そりゃあ碧姉さんですよ。こことかそっくり」
「けど髪型と性格はこの人に似ると思います」
「いいねぇ、なんなら将来、蒼に2代目近之助を襲名させるか」
「そうはさせません。蒼殿には貴方のような甘党人間にならぬように私が教育します」
「お前が教育なんてやったら頭が石になるだけだ馬鹿野郎」
「やりますか? 誰が教育者として相応しいか」
「やってやんよ」
「あーもうやめてください! 何で2人ともそう喧嘩するんですか!」
「け、喧嘩はダメです。蒼ちゃんが泣いちゃいます」
「ふふ、楽しそうね」
またもや始まりかける家臣2名のくだらぬ喧嘩。それを紅と翠は割って入り、碧と蒼はおかしなやり取りに面白そうに笑っていた。
そんないつもの光景を、影姫は愛おしいものを見る目で見つめた。
「奥様、良かったら抱いてみますか?」
「え? あ、いや、私は……」
「これも練習と思って」
拒否する間もなく、碧は我が子をそっと手渡し、影姫は左肘の内側に頭が乗るように、そして右腕で柔らかい体を支えるように優しく抱きかかえた。
「……暖かいな」
腕の中で眠る蒼、まるで日溜まりのように暖かい体温を持つこの子の体。
いつか、産まれてくる我が子も同じようにこの腕で、舞とともに抱くのだろう。そう思うだけで、影姫の心は颯爽と走る忍のように飛び跳ねた。
「…………いい笑顔だ」
「ええ」
鴉色の髪を風に揺らしながらあの頃とは比べ物にならない笑みを浮かべる影姫を、舞と有馬は縁側から眺めた。
「……有馬」
「何でしょうか、坊っちゃま」
「……俺は、いつか報いを受けるのか?」
唐突な問いかけに、有馬は暫く無言になった。
舞の言葉、それは彼自身が今までしてきたことへの報いがいつかは来るのか、というものであった。
「……その時は私がお守りします。勿論、奥様も、屋敷の皆様も。それが私の役目です」
有馬の応えに、舞は「そうか」と呟いた。
「坊っちゃま、私からも1つよろしいでしょうか」
「ああ、いいぞ」
「……坊っちゃまは何故、奥様……いえ、影丸様達を向かい入れようと思ったのでしょうか」
「……気になるか?」
「はい」
今まで聞かれることのなかった有馬からの問いかけに、舞は数秒黙り込み、口を開いた。
「……彼女達には笑って欲しい、そう思っただけだ」
あの時、奴らの調査であの場へ出向いた際に、舞は裏社会の実態に怒りを覚え、鎖に縛られた彼女達の悲しみを見た。だからこそ彼は動いたのだ。
「坊っちゃまらしいです」
「らしい、か。そう言われては何も言えないな」
あの時につけた頬の傷跡をかきながら舞はそう言って微笑んだ。
「旦那様ー! 旦那様も赤ちゃん抱きますかー?」
「……行くとするか」
「行ってらっしゃいませ」
紅から呼ばれた舞は立ち上がり、庭園に降りて彼女達の元へ向かう。
いつまでも、彼らのこの時間が長く続くことを祈るばかりである。
──────幕間
「舞様、行っちゃったね」
「うん」
「3人とも、無事に帰ってくるかな?」
「……帰ってこなかったら、私が許さない」
舞が家臣を連れて夜な夜な外へ出ていった頃、自ら屋敷の護衛についた鐡と銀は、紅達の眠る部屋と影丸のいる部屋が丁度見える位置で待機していた。そして2人は微かに聞こえた門の開く音を耳に捕らえ、彼らが出陣したことを察した。
「ねえクロ」
「なに? シロ」
「クロはさ、本当に良かったの?」
「良かったって?」
「好きなんでしょ、舞様のこと」
銀の直球に鐡は一瞬狼狽えたが、直ぐに彼女に向き直す。
「……仕方ないわよ。だって舞様ったら目ん玉の中、カシラしか映ってないもん」
「あー、それはそうだ」
ついでに、先程までの舞と影丸の甘声が聞こえていたのは言うまでもない。
「でも、私はこれでいいと思ってる。カシラには幸せになって欲しいもん」
「クロ……」
「私達がこうやって動けてるのも、あの時カシラが挫けないでいてくれたからだし。そもそもあの人が拾ってくれなかったら私達、死んでたかも」
鐡は紺色の空を見つめながら呟くように言った。
幼くして2人だけで生きてきた、いや、生きざるを得なかった鐡と銀は、生きる術も分からず、ひたすら道に迷う毎日を送っていた。そんな彼女達に手を差し伸べたのが影丸であった。
そしてあの時、影丸は自分達のためにどれ程の屈辱を受けようと決して心を折らなかった。だからこそ、彼女には幸せになって欲しい。だから密かに恋心を芽生えさせていた彼のことも諦める。それが鐡の決意と思いであり、銀も同じであった。
「あーあ、でも惜しいなぁ。もうちょっとで玉の輿できたかもしれないに」
「クロ、言い方……」
「いっそのこと、碧の子どもでも貰っちゃおうかな」
「流石に年の差がありすぎるし、男の子か女の子かわかんないわよ」
「ダメかー、姐さん女房ならいけると思ったんだけどなー」
「「……はぁ」」
鐡はつまらないと言うような顔でため息を吐き、銀はこいつの無謀な野望をどうにか出来ないかという意味を込めたため息を吐いた。