「エスカルゴー、ちょっといい?」
「勉強中です」
「じゃあ暇よね、ちょっとオペ室まで来て頂戴ね。サグメに呼ばれなかった?伝言を頼んでおいたのだけど?」
「……勉強の後に行く、と伝えたんですけど」
「私の指示が最優先よ。姫と『戯れる』暇なんて、今日はもう与えないからね」
永遠亭で勉強中、俺は永琳に呼び出されオペ室にやってきた。こういう時は、決まって人体実験だ。尤も俺は妖怪なので人体実験と呼ばないだろうが、とにかく人体実験である。
「今日は何ですか」
「とうとう臓器複製も大詰めよ。そろそろ、心臓の複製に取り掛かろうと思っていてね」
「ほへぇ……で、俺で実験ですね分かります」
「そうそう。あなただって心臓に穴が空いた程度で死にはしないんだから、別にいいでしょ?」
「サンプルの為にまず臓器丸ごと持っていくクセによくもまぁヌケヌケとそんな事を言えたものです。流石に心臓が1つ丸ごと抜けたら死にますからね」
「そう?意外と生きてるかもよ?再生慣れして」
「まぁ何でもいいです、娘に物理教える為に物理の勉強中なので早く解放してくださ……」
「はいおやすみー」
「ぐぅ」
◆
体感にして数秒後、俺は目を覚ました。どうやら場所は────まだオペ室らしかった。
魂の状態で近くを彷徨いた記憶は無い。当然だが何かを知覚した記憶すらも無い。
胸に手を当てる。戦闘中は煩い心臓も、今だけはトクン、トクンと優しいビートを刻んでいる。だが変だ。いつもなら死ねば魂の状態となり、そこから肉体を生成するのだから、今のように「寝ている」状態で目を覚ますはずがないのである。
そこで気付いたが、永琳先生が心臓を何か透明な容器に入れて、それを観察しては、精密にスケッチしていた。冠状動脈まで事細かに。
「永琳先生」
「あらエスカルゴ、復活したのね」
「あ、やっぱ死んだんですか」
「そうじゃないの?……あら?でもあなたが復活するときって、妹紅の炎の不死鳥みたいに、雷の蝙蝠が出るんだったかしら?」
「そうですよ。
「まさか。あなたに吸わせた麻酔は、ちょっと強いだけで、一度死ねばリセットされるわよ。魂にまで作用する麻酔ってワケじゃないんだから」
「じゃあ何ですか。俺は心臓に穴が空いた程度では死なないどころか、心臓が抜き取られてもすぐ再生するって事ですか?」
「そうね。蓬莱人もびっくりの再生力ね。あなた、死にすぎよ?もしかしたら、いえ、確実に私や輝夜よりも死んでるわ。そうでないと私達以上の再生力なんて有り得ない。妹紅は私達より死んでるから、私達以上の再生力を会得している。それと同じよ」
「凄いや。これから自殺が難しくなりましたね」
「あんたそれ子供達の前で言うんじゃないわよ!?絶対よ!?」
「わ、分かってますって」
◆
「……って永琳先生にキレられてさぁ」
「当然ウサ。寧ろ怒られないワケないでしょ」
「そりゃそーだけど、2人きりなんだし、ポロッとそういう事を言っても良い気がするんだよなぁ」
「その認識は危ういね。いつか、言ってはいけない場面でそういう事を言う時が来るよ?エスカルゴ、デリカシー無いし」
「んなっ……」
実験後、てゐと縁側にてお茶を嗜みながらそんな話をしている。サグメは巫月に勉強を教えている。本当はサグメも誘いたかったが仕方がない。なので愚痴ついでに先程の話をした次第だ。
「ま、気を付ける事にするよ。てゐのアドバイスは素直に聞いておいた方がいい事が多いからな……」
「へー、少しは年長者を敬う気になった?」
「いや。てゐは、会うだけでも幸運を与えてくれるからな。せめてもの礼というか、なんというかさ。なーんて、気にしないでくれ」
「ふーん、じゃあもう1つアドバイスしとくウサ。調子が良いときは、調子が良いなりにドンドン普段やらない事をやるといいウサ。慣れてなくても案外上手くいくかもしれないよ」
「……もう少し、てゐとまったりしたらそうするよ」
「キモ。口説いてる?そういうとこムリですわー。モテ男の自覚無いの〜?私が本格的にエスカルゴに惚れたら、幸福中毒にして、私としか居れなくなるように操るよ?」
「何それ怖い」
「誰しも、幸福感に浸りたいものなのよ〜。たとえそれがドMの変態野郎だとしても、本人にとっての
『幸福』を得られるようにしてやるの。そうすると心から『幸福』に依存するようになっちゃうのよ」
「俺はそれに抗えるかな」
「あんたは別格よ。多分、抗えるウサ。何故なら、あんたにとっての『幸福』は『皆と楽しく気楽に、好き勝手に暮らすこと』だから。誰か1人になんて縛られない。それがあんたなの。逆に言うと、他の皆から縛られているとも言えるウサ」
「!」
俺は言葉で皆、そして自身を縛っている。てゐの幸福論は、俺の持論とよく被っている部分がある。だから、成程確かにと受け入れやすい部分もあるのだろう。普通なら「縛ってる・縛られてるなんて」などと反論するだろう。
「……否定しないって事は自覚あるんだ?」
「そうだね。だから俺は……てゐのことも縛りたい」
「や〜だよっ、私は自由気ままに過ごしたいの」
「……」
「まっ、2人きりの時なら、あんたに縛られようとどうでもイイけどさ〜♪」
「……それ、って……」
ムクムクと黒い欲望が起き出してきた。隠そうとするが、あまり隠そうとしても、てゐの前にあまり意味が無いような気がする。仕方ないので、彼女が一瞬目を逸らした隙に服で隠したが、これに意味があるかは分からない。
「前も言ったと思うけど、エスカルゴのことは別に嫌いじゃないしね。『好きな子に悪戯したくなる』とかいう心理はよく分からないけど、鈴仙への悪戯だってノッてくれるのとか面白いし」
「男の子にゃそんな心理が働くんだよ」
「あんた男の子って
「それを言うとてゐもそうなるが」
「は?私は女の子ですが??」
「……何かもうどうでも良くなってきた」
「なーによ、期待して興奮してるクセに♡」
「んなっ!?な、なな何を言っ……」
「惚けても無駄だよ。テント張ってる……って言うんでしょ、それ。気付いてないとでも思った?」
「ぐぬぬ」
「服で隠して何になんの?いつも見せ付けるクセに2人きりなのに隠すとか意味不明なんだけど?」
「べ、別に隠したっていいだろ……ヤる為にこうして2人きりになったワケじゃあねーんだしさ……」
「!……ふーん。ホントに、私とまったり過ごそうとしてたんだ。でもダメ。そんなの見たせいで、私の方が
「てゐ……」
てゐに押し倒された俺はそのままされるがままになった。イジめるように各部位を的確に攻めるその手付きに何度も絶頂させられた。そして、縁側にて始めた行為は、サグメや巫月の覗きがあっても尚、暫くの間、継続された。
たまにはこうして女の子に襲われるのもまた違う趣きがあっていいなと、つくづく思った。