「さァエスカルゴくん、勝負よッ!!」
「……」
「テンション上げていきましょ!ほらほら!」
「これからボコられるのにどうやってテンションを上げればいいのか分からない」
俺は現在、地底にあるコロシアムに来ている。
へカーティアから「私の暇潰しの相手をせよ」と命令が飛んできたからだ。彼女から力を借りている俺からすれば、その命令は聞くしかなく、それ故にフルボッコにされるのが確定しているだけに、俺のテンションはあまり上がってはくれない。
「逆に考えなさい!あなたが本気を出しても、私が死ぬ事は決して無い!即死レベルの、新たな戦術を試せる相手だと思いなさい!!」
「……まぁそう思えば少しはやる気も……」
しかし数分後にはこのコロシアムは木っ端微塵になっているのだろう。当番として受付をやっている河童が少し可哀想だが、仕方ない。へカーティアの命令は絶対なのだ、俺からは何も言えない。
「ほらぁ、さっさとしなさいな。私の気はそこまで長くはないわよォ?」
「じゃあ……胸を借りるつもりでやらせてもらうよ、へカーティアッ!!眷属『擬似神化』ッ!!」
「うふっ♡ いいわよぉ、のっけから本気じゃないとつまらないわ!!」
「『擬似神化・創造神形態』」
現在、俺に力を貸してくれている全ての神々からとてつもない力を借りている。その中でも特に神綺母さんから力を多めに借りる。そうする事で、俺は擬似的にではあるが創造神となり、ある程度好きに創造ができる。
「召喚『武器庫の解放、出血大サービス・改』!」
「……へぇ♡」
コロシアム上に巨大なスキマを開き、そこから、雷武器シリーズに加えて本物の刀剣類を降らせる。しかもそれらの武器には、創造神の能力を利用してとある能力を付与している。
即ち「触れた物のバフを解除する程度の能力」。
へカーティアの身体能力は並だ。そりゃそうだ、彼女は決して、超人でも悪魔でも鬼でもないのだ。それならどうして、吸血鬼たるこの俺の胴体を分断できる程のパワーを有していたのか?
答えは簡単。魔法による身体強化のレベルが遥か高みに達しているからである。身体強化の強さは、白蓮のそれを遥かに上回っている。白蓮でさえも、俺の胴体を分断できる強さは無い。
だから今こうして降らせている武器には少しでも触れるとその身体強化を解除する能力を付与した。掠りでもすれば再び強化する前に隙を突けるだけの余裕ができる。
「そんな効果も当たんなきゃ意味無いよなぁ」
「そうね、無意味ね!」
へカーティアは魔術の神。どんな魔法も凄まじい高さのレベルで使いこなせる。本気で身体強化などされたら鴉天狗やそれ以上の速度で動ける彼女に、武器を降らせて攻撃を当てられるかもしれない、と少しでも思った自分の甘さを呪ってやりたい。
どうして生身で、しかもスピードが持ち味な戦法ですらないクセに、残像が見える程の速度で動いているのか。あんな動きをしているへカーティアをも捉えるには、方法は1つしかない。
「重符『ウィス・アトラヘンディ』ッ!!」
「ッ!?弾幕に……引き寄せられるッ……!!」
まだ創造神形態を解除していないので、母さんに与えられた重力を操るこの能力は、ほんの少し強化されている。
弾幕同士がある程度の引力を伴っており、そして対象者を弾へ引き寄せる。それこそがこのスペカの真髄。少し前までまだまだ弱かったが、能力を更に鍛える事によりドンドン引力も強まった。
「たとえ光だろうとブラックホールの前には軌道を歪められ、乱れるもの!へカーティアの動きをただ制限するのなら、ブラックホールレベルの強ささえ必要にならない!!」
「成程ね……散らばるように発射されたはずの弾幕は収縮し、最終的にはポン・デ・リングみたいな形に落ち着き動きを封じるのか……これは少し厄介ねぇ。でもまだ甘いわッ!!」
「何……?」
「この程度の重力の塊……力づくで壊せないとでも、本気で思った?」
「ッ……!?」
「ほォ〜ら、簡単に……BOOM☆」
「うわっ」
へカーティアは月と地球のついた2本の長い鎖をヌンチャクのように振り回すと、俺の重力の弾幕にブチ当ててはドパパパパンッと破壊していく。
霊力を纏った拳で弾幕を破壊するという、霊愛や俺の戦闘スタイルにも見えなくもない。
「ふふ、そんなに力を出し惜しみできる程あなたは強いのかしらぁ?」
「いやいや、そんな事を考えてるワケないじゃん……まさかここまで通用しないとは思わなかったけど」
「私のスピード、パワー……あなた以上なのよ♡」
「やっぱりそうみたいだね……キチィなぁ……!ならこれでどーだ!入れ替わる重力に翻弄されろッ!!重符『ループするスケルトンボーイ』!!」
「ひゃっ!?」
UNDERTALEのSansの最後の攻撃よろしく、手で重力の方向を操り、へカーティアを天に地に、前後左右問わずに振り回し続ける。
ガシャガシャッと耳障りな音を鳴らすチェーン。叩き付けられる度に軽く声を上げるへカーティア。配置した弾幕にだって被弾しているようだ。しかしどれも全くダメージになっていなさそうに見える。
「被弾する度に肉が抉られて痛いわねェ!あーん、服も穴だらけになってるじゃないのよっ!」
「一定量以上の物体を吸い込めば自動的に消滅するいわば小型ブラックホール……それなのにすぐに再生するってそれは意味不明のレベルを超えてる……」
「……?あなたも治癒魔法を使えるでしょうに、何を言っているの?」
「…………ッ!!」
俺が使える魔法は、当然のようにへカーティアも使える。そんなの分かっていた。しかし無詠唱で、しかもまるで効いていないように見えるレベルでの超速再生だなんて、そんなの、自動でのベホマとは全然違う。
詠唱を省略すればそれだけ威力や効果は落ちる。魔法を使う上での常識だ。スペル化させたところで完全詠唱時と比べれば威力は数割落ちる。しかし、その上で瞬時に完全回復するくらい俺の治癒魔法は鍛えてある。なのに。それなのに、へカーティアの治癒魔法は、無詠唱で完全詠唱の俺を超えている。
流石に笑うしかない。レベルの差だなんてそんな小規模な話ではない。魔法の次元が違いすぎる。
「……そ〜んなに意固地になって魔法を使わないのはどうして?私が神だから?」
「……」
「あなたの真意、当ててあげましょうか……?魔力が尽きるのが怖いから。違う?」
「……違わない」
「素直でイイわねェ!じゃあいいわ、たっぷり力を貸してあげる!与えられる魔力をフル活用して私に対抗してみなさい!!地獄の力も大紅蓮地獄以外の力なら使わせてあげてるんだからぁ!!」
「!!」
力が溢れてくる。無闇に抑えると肉体が崩壊するような幻覚さえ見えそうなほどの、凄まじい密度の力の奔流。流れに身を任せた方が良いだろうと俺は判断したが、きっとこの判断は間違っていない。
そしてへカーティアは纏う魔力の密度を更に高め球体の付いた鎖をブンブンと振り回し始めた。
「言っとくけど、本気の4割くらいだからね?」
「本気のへカーティアは今の2.5倍かぁ、相変わらずまるで勝てる気がしないや」
「しかも……まだ言ってなかったけれど、私の本気はもう1段階あるわよぉ」
「へ?」
「私の3つの身体がそれぞれ持つ『強さ』を1つの身体に束ねる────『
つまり、へカーティアの言う「今は4割」とは、その強化版も含めるとするのなら、まだ全体の2割でしかない……という事だ。
フリーザの「変身をあと2回残している」発言と同じくらいの、酷い絶望感だ。まさか本気を出したへカーティアにまだ更にその上があっただなんて。
「さァいくわよッ!!」
「まさかッ……!?」
異界の球体と地球の球体を交換し、地球ティアに変身する。すると地面に手を付き、以前の戦いでも魅せたあの技を披露する。
「神罰『ノアの方舟』ッッ!!」
「ちくしょ……また地面をブチ抜きやがったッ!」
「ふふ、さぁて、今回はどう対処する?」
「『擬似神化・風神形態』ッ!!」
「神奈子さんの力?それで何を…………あぁ、成程♪」
風のバリアを纏い、水を吹き飛ばす。ついでに、水の弾幕も弾いている。さながら防水加工を施したフロントガラスのようで、全身を濡らさずに完全な視界を保てる事の有り難さを改めて思い知った。
お陰でこうして────不意打ちにも気付ける。
「そこだ!」
「おっと……気付かれちゃった?」
「視界の端で青髪がチラついたモンでね」
異界と月の球体を振り回し背後から接近していたへカーティアにも、どうにか気付けた。風を纏った裏拳で軽く弾き返すが、へカーティアは、ニヤリと笑っただけ。
「喰らいなさいっ!『月が堕ちてくる!』ッ!!」
「すげー質量爆弾……。でも、こんなのを壊せない俺じゃあない!能力で破壊せずとも、神奈子様の風のバリアで壊して……壊…………壊せねええええッッ!!うぐぉおおおっ……んぎゃああああああああっ!?」
風のバリアで壊せると踏んでいた巨大弾幕だが、見事にバリアを貫通され、しかも受け止めきれずに一度死んでしまった。
プチッと潰されるなんて、まるで虫だ。
「ふふ、ワンキルね」
「クソッ、なんで壊せねえ……!?」
「あなたが使う『風のバリア』には、大きな欠陥がある。私はそれを突いただけなのよ」
「欠陥だと……」
「まず、あなたの風のバリアは、自らを中心にして円筒状に展開していたわね」
「……?そうだよ」
「でもそれが間違いなのよん。バリアとするには、円筒状じゃあなく、球形状にしなくてはね」
そういえば次男の霊魔のバリアは球形状だった。あの形の方が満遍なく全方位を守れるとは俺も一応分かってはいるし、常識だと言えるのだが……。
「……風のバリアなんて、目に見えないでしょ。目に見えないのになんで穴が分かったのさ」
「裏拳で私の球を吹っ飛ばしたでしょう。その時の鎖や球の軌道から風の吹いている流れを察したの。あぁ、これ真上と真下はガラ空きなのねぇ……って」
「ちっ……」
出力は上げられても、自分を完全に囲うようにはまだ展開できない。風の操作は複雑で苦手なのだ。出力を上げればそれだけ操作も難しくなる。当然、苦手とはいえ出力を落とせば球形状にもできるが、そうするとへカーティアの相手をするには心許ない威力しか出せないのだ。
「もっかいだ!眷属『擬似神化』ッ!!」
「今度は誰から力を借りるのかしら?」
「『擬似神化・言霊神形態』ッ!!」
「……へぇ、まさかのサグメからとは……♡」
「これより俺の発言は全て現実となるッ!!どんな力でも覆せない『真実』をぶつけてやるッ!!」
ある程度とはいえ運命を思い通りに歪める俺と、俺以外の相手に向かってその者の運命について言及するとその運命が逆転するサグメの良い所取りの、この「言霊神形態」。
ある意味最強ではあるが、それでもレイチェルの能力と同じで「絶対に不可能なこと」だけは絶対に実現しない。
例えば「妹紅が今ここで消滅する」と言っても、まずここに妹紅は居ないので不可能だ。そして俺がスキマで妹紅を召喚しても、肉体がほんの一時的に消滅するだけで、直ぐに復活する。
真の意味では殺せない。何故なら蓬莱人だから。
「面白いわねェ!!それじゃあこれならどうっ!?
『冥府の川』ッ!!」
頭上の球体を、地球から異界の球体に交換する。
3つの球体から、レーザーに見えるくらいに長く高密度に連なった弾幕が放たれる。それらは1つに収束し俺の近くに到達すると5つに別れる。やがて五角形を描くように囲まれてしまう。
確かこれは非スペカだったか。ちょっとした技の割にはスペカと変わらない威力、内容に思えるが。
「氷の弾幕にゃガチで気を付けねーとな……。流石は地獄の女神だよ、コキュートスを模した弾幕とか、綺麗で凶悪が過ぎる……」
「
「こんな熱いの触れねーよ……!
「!!」
へカーティアが俺の重力の弾幕を消したのと同じように、へカーティアの弾幕も破裂するように次々消えていく。無機物程度なら特に制約無くどうにか始末できるようだ。これなら戦える。
するとへカーティアは、頭上の球体を、異界から月の球体に交換する。
「へぇ、面白いじゃないッ!そろそろ7割で遊んであげるわよッ!!」
「7割……!!『擬似神化・埴安神形態』ッ!!」
「宇宙『アブソリュート・ゼロ』ッ!!」
へカーティアを中心に真っ白な霧が溢れる。あの霧の波に飲み込まれると問答無用で凍らされるので絶対に直接触れてはならない。
もし触れるなら、手袋をしてゴキブリホイホイに触れるが如く、自分と霧の間に何かを挟めばいい。
《隙間無く鎧を構築しないと意味無いわよ!》
《分かってる!窒息死覚悟で密閉しねェと……!》
冷気すらも感じなくなる。まるで埴輪のように、鎧としての意味が無い程、身体を動かせない状態にまで包み込み、凍結を防ぐ。
霧が晴れたと直感し、凍った鎧をパキンと破壊し少し気温の下がった空気を胸いっぱいに吸い込む。霧は防げた。
全く、あんな技術、スペルカードルールで見れば反則もいい所だ。俺が相手だから使うのだろうが。
「そうね、その方法は前にルーミアとのタッグ戦で見せてくれたわね。でもね……まだ甘いわね。そんな一時凌ぎ、対策されると分かってて、私が『次』に備えてないと本気で思った?『
「しまっ────」
時間が停止。「大紅蓮地獄」による時間停止は、へカーティア以外の誰しもが動けなくなる。これは咲夜さんだろうと俺だろうと変わらない。正確には時間凍結だ。
すると気が付いた時には、俺の胸から赤黒い血に濡れたへカーティアの腕が突き出ていて、手には、何か赤黒い何かを掴んでいた。
「ぁ……」
「ふふっ……心臓、もーらいっ♡」
グボッという重い水音を出し、胴体から腕を引き抜いた。支えを失った俺はその場に倒れる。一方、へカーティアはブヂュッと心臓を握り潰し生温かい返り血を浴びる。
「く……そッ……!!」
「……え?なんでまだ生きてるの?こわ〜……」
「心臓なんて……再生するに決まってンだろッ……!自前の再生力だけなら幻想郷最強なんだぜッ!?」
「……あなた、もう、最っ高に面白いヤツね!まさかそんな事でも私の予想を超えるとは!!イイわよ、なら見せてあげる!現時点の『8割』をねッ!!」
それでも本気の4割なのが怖い。へカーティア、強さに天井が見えなさすぎる。今ではギリシャでの最高神だし、ギリシャ神界での最高神なら、俺では到底手が届かないくらいの強さというのも分かる。分かるが、幾らなんでも……。
今度は月から異界へ球体を交換する。
「この耐久を死なずに突破できたら、それだけでも賞賛に値するわ。……『
「囲まれたッ……!でもへカーティア、そっちこそ、甘く見てるんじゃあねーの?この俺を囲むったってそんなの無駄無駄無駄無駄ァーーーッ!!……え」
「この私の権能に逆らえるとでも?」
「スキマが……開けねえ……!?」
「私が『閉じ込める』と言えば『閉じ込める』の。それ以上もそれ以下もないわよ」
「…………っ!!」
月の都の結界は超技術の結晶だ、だからスキマで穴があけられないのも分からなくはない。そして、博麗大結界を含む幻想郷を覆う二重の結界になら、俺でも穴をあけられる。
つまりへカーティアは、ただの弾幕だけで、月の都の超技術にも迫る「包囲」の技術があるワケだ。いや、こんなのを技術と呼べるかすら分からない。つまるところ超絶パワーでのゴリ押しなのだから。
回避は……できなくもない速さだ。しかし、視界が真っ黒な弾幕で覆われて、酷い有様になっている。しかも地面が抉られて、浮かばざるを得ない状況に追い込まれている。
俺が使う耐久スペルは、相手が空中に居るのなら球状に囲むが、地に足をつけているならドーム状に囲むように設定している。
だがへカーティアのこの耐久は、相手が地に足をつけていようとつけていまいと、問答無用で球状に囲むらしい。それに伴って地面を抉るのも織り込み済みらしいのが本当に恐ろしい。
指で触れれば、指は一瞬で消し飛んでしまった。この威力、コンクリートも容易に破壊できそうだ。
「『擬似神化・埴安神形態』ッ!!」
《言っておくけど流石にこの威力は防げないわよ?セラミックスだもの、あんまり……ねェ……》
《壊れるそばからドンドン再生させりゃあいいさ。俺の再生速度よりは遅いだろうけど何もしないよりマシだもん。だからちょっと、いつもより強い鎧にしてくれると嬉しいんだけど》
《分かった、あなたがそう言うなら。ただし、今度また磨弓ちゃんの実験に付き合いなさいね》
《いつもの事っしょ》
《フフ、それもそうね》
こうしてセラミックスの鎧に再生能力が付与され少しは回避が楽になった。被弾しても、ダメージは鎧がある程度は吸収し、且つそのダメージもすぐに鎧自体が補正してくれる。
鎧というよりは甲冑だが、とにかく袿姫には感謝しかない。
「さてと。
スキマがダメなら言霊神形態なんてそもそも通用しないはずだ。視界が完全に封じられる空間の中、俺は一体どうすればいいのか。そして、この8割のへカーティアからもっと本気度を引き出すには俺はどんなパフォーマンスをすればいいのだろう。