この弾幕の壁を、どう突破すればいいだろうか。空間を歪め擬似的な穴を作り出す俺のスキマだが、それさえも通じないのは月の都の結界以来だ。
今はまだ、セラミックスの鎧を纏い防御力を高めながらも回避もする事で耐えてはいるのだが、この方法だってずっと続けるのは少しダルい。
何故なら俺は、耐久スペルが大ッ嫌いだからだ。だからどうにかして強引に突破しようと思案する。しかし、回避し耐える事しか思い付けない。
「……瞬間移動もダメか。どういう理屈だ……?いやへカーティアに理屈とか求めちゃダメなんだけど」
まるで、重力の檻にでも閉じ込められているかのようだ。ブラックホール弾幕のような、重力に伴う破壊力こそ無いものの……。
全方位から襲いかかってくる高速の弾幕は吸血鬼である俺でやっと「見てからの回避」が出来る速度なので、もしスペルカードルールに則って戦えば、反則だと判定されても仕方ないレベルだ。
「ゴリ押ししかねーな。『雷神拳』ッ!更に────紅眼『吸血鬼の本質』!覚醒『生命の輝き』!!」
セラミックスの鎧の上から更に雷を纏って、身体能力を底上げした上で、生命力をも消費し始める。理性を保てる中では最高に強化した状態だ。
しかしそれはあくまで「自前の強化」の話。また外部から力を借りれば俺の「強化」は指数関数的に上乗せされていくのだ。
《……背中に扉を開き、二童子に踊らせるのか》
《頼める?ダメ?》
《いや、私は構わないし二童子もお前が好きだから毎度の如く協力するだろう。しかしそれだとお前の生命力が削れる速度が更に早まるだけだぞ》
《さっき月に潰されて死んでんだけど?死ねば少しくらいは生命力も復活するんだから、問題ないよ》
《へカーティアが自己犠牲を是とするかは、私にも分からないぞ。それで飽きられたらどうする?全く無意味になるんだぞ》
《問題ない。俺の強さはへカーティアの予想なんて上回ってるっつー事実を見せ付けてやるだけさ》
《……分かった。なら約束しろ。必ずへカーティアを楽しませ、変な気を起こさせない、と》
《……そりゃーね》
へカーティアに限ってそんな事は無いだろうが、賢者たる隠岐奈が異国の神であり地獄の女神であるへカーティアを警戒するのは無理が無いことだ。
「おにーさん、かなり削ってるね!?大丈夫!?」
「更にテンション上げたらオーバーフローしない?大丈夫なの?」
「問題ねーな!里乃も舞も、頼んだぜ!!あとは、防御より攻撃に全ブッパすりゃあ……!スキマがダメだからって諦めるこたァねェ。弾幕は弾幕なんだ」
《……本気なのね》
《ああ。サンキュ、袿姫。……頼むぜ建御雷!》
《ククッ、お前も相変わらず狂ってるな。ここまで身を任せていた防御を切り、攻撃に全振りとはな》
《それをすることでしか……へカーティアのこの耐久スペルはゴリ押しできねーからな》
《クッ……フフッ……クカカッ……ああ、間違いない!狂っているのはアイツだ!だが我の見込んだお前の方が狂っていると、今ここで証明して見せろ!!》
四肢に纏った雷が、更なる強化に伴って耳障りな音に変わった。少しでも雷エネルギーを込めれば、レーザーとしてぶっぱなせそうなくらいだ。
「魔剣『妖魔雷霊剣』……本気出すぜ。超本気だッ!強化に強化を重ねたラストワード、舐めんなよッ!
『真・雷霤撃波』ァァァァアアアアッッッ!!!」
真っ白に輝くレーザーが剣先から放たれる。今の俺は、力量は無限で出力が低いのが問題だったが、強化に次ぐ強化でその問題はある程度は解決した。
被弾しながらも攻撃は緩めない。そこまでして、漸く攻撃が一点に集中してブチ当てられるからだ。
「頑張れっ、頑張れっ!一本集中っ!!」
「フレーッ、フレーッ、お・に・い・さん!頑張れ頑張れおにーさんっ!」
「「You!Can!Do!It!」」
「ここを突破したらご褒美くれええええええええええええええええええ〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!」
「「
情けない器の叫びに、神々、里乃と舞はいつもの調子で答えてくれる。
極太の光線は凄まじい風を帯び、凄まじい速度で失い始めていた生命力は諏訪子から注がれ始める。諏訪子は、その能力にて木も生やせる。ある意味で生命力を操れるというワケだ。
「素晴らしい……!素晴らしいわエスカルゴくん!!これこそ、私がモルモーやエンプーサを捨ててでも手に入れようとした
弾幕の壁で顔は見えないが、心底嬉しそうな顔をしているというのが声で伝わってくる。因みに、今へカーティアが発した「フィーリア」とは、古代ギリシア語で「愛」を意味する。4つの愛の1つとされている。
《カルちゃん!もっとパワー上げなさい!でないとその包囲網を突破するなんて夢のまた夢よ!!》
《母さ……》
母さんからも凄まじい量の生命力が与えられる。まるで俺2人分だ。削っても削っても削りきれないくらいのとんでもない量だ。
《出力も倍よ!ブチ抜きなさい!》
ドクンと胸が高鳴る。その瞬間更に出力が上がり遂に弾幕の壁に穴が空いた。
真っ暗な視界に突如穴が空いた事で、唐突に光が差し込む。現在自分がいるコロシアムが目に入り、ああ、外に出たんだとホッとした気分になった。
「んふふっ……ふふふふふふっ……!最高の気分よ、エスカルゴくん……!ドキドキしちゃう!」
「こっちも別の意味でドキドキしてるよ」
晴れやかな気分だ。暴力的で、雑魚狩りするにはオーバーキルなまでの強さを一瞬だけとはいえ発揮できたからだろう。力を発揮するのはやはり爽快感すらある。
「だが、まだだ。俺はやれるはずだ……!『喘げ』、魔剣『妖魔雷霊剣』ッ!魔剣『暗黒斬月剣』ッ!」
「二刀流……!」
「いいや、四刀流だッ!!」
「ッッ…………!?」
「『
『布都御魂剣』ッ!!」
「……あはっ♡ あなたいつからサイコキネシスなんて使えるようになったのよ……♡」
「生憎だけど、どっかの女子高生じゃあないから。そんな高尚なモンじゃあないよ。この妖魔雷霊剣、暗黒斬月剣は柄にも布なんか巻いていない、完全な金属の塊。俺の《雷を操る程度の能力》は、物体に電気を纏わせ浮遊させるなんて事も容易にできる。そんでもって『陣風丸凩』として生活してきた間に培った、飛び抜けたマルチタスクも可能とするこの成長した頭脳をフル活用すりゃあ……ピアノを弾くが如く、それぞれの剣に、また別な動きをさせる事が出来るッ!!」
「凄い……凄いわ……あはっ……興奮しちゃう♡」
布都御魂剣は十拳剣。十拳剣は、普通ならば片手なんかで持てない程に重い。それだけ長いからだ。しかし俺は吸血鬼。人間には難しくとも吸血鬼たる俺ならゴリ押しで可能となる。
そして電気をモノに纏わせられるのは俺だけだ。巫月、魅玖、緋月に加えて、霊魔もまだこの領域に達してない。だからこの「四刀流」は俺だからこそ可能な技術だと言える。
「いくぞ……へカーティア……!!」
「イイわよ、今のあなたになら見せてあげるわッ!純狐にすら見せない、この私の『9割』をね!!」
「ッ!!」
「防ぎようがない魔法をぶつけてあげるわ!!」
「防いでみせる……!『擬似神化・言霊神形態』!!
『魔力を伴う攻撃は完全にシャットアウト』ッ!」
「イイわよ、その
「げに荒々しきは真なる神の御霊なり!殲滅せよ!穿つべきものはこの永き世にてたった1つの現実!極限『クアトロ・レーザー』ッ!!」
妖魔雷霊剣からは雷の、暗黒斬月剣からは闇の、陣風丸からは妖力の、布都御魂剣からは神の力の、そして霊力のレーザーを放つ。
4本のレーザーは発射の直後に交わり、ドリルのような形に回転しながら突き進む。
「うおおおおおおおおおおおおあああああああアアアアアアアアアアッッッ!!!ブッ飛べえええええあああああああああああっっっ!!!!」
「はあああああああっっ!!!」
2人の叫びが地底に木霊する。叫びと共に互いの技の出力まで上がっているような気さえしてくる。幾らサグメの力を借りてシャットアウトすると宣言していたとしても、やはりそこはへカーティアだ、俺なんかの予想は遥かに超えてくると予想した方が良いのはバカでも赤子でも分かる。
だから、2人分になったとも言える生命力すらも全部削る勢いでドンドン強化したレーザーを放つ。そうする事でしか、ボロ負けすることを防げない。
今の俺は、娘や彼女達に嫌われそうな程に本当に情けない。
「くっっっ……そおおおおおおおおっっっ!!!」
「!!」
押し負けると確信した瞬間、レーザーが交錯するその場所が、高層ビルを破壊する爆弾の如き激しい爆発を起こした。
地底のコロシアムは跡形もなく吹き飛び、更地になってしまったが、俺がそれに気付いたのは復活の後だった。どうやら爆発で死んでしまったらしい。
へカーティアは……居ない。へカーティアも、一応死んだようだ。とはいえ彼女の本体は各地獄にあるお陰で、実質残機は無限で不死身なワケだが。
「いやー、凄い攻撃だったわねぇ♡」
「あ。復活した」
どこかに隠れているのではと思い周囲を見回していると、俺のすぐ目の前に粒子が集まるようにしてへカーティアが現れた。
やはり、一度死んだので復活したのだろう。妹紅なら炎のフェニックス、俺なら雷の蝙蝠が出るのと同じように。
「ビックリしたわ。まさかこの私が吹っ飛ぶなんて思わなかったもの」
「……こっちのセリフだよ」
「あなたの『擬似神化』、解除したの?それとも、一度死んだから自然とリセットされたの?」
「後者。死んだよ」
「あー、じゃあ今回は惜しくも引き分けね」
「……流石にあんな攻撃は、俺の持ち技じゃあ防御はできねーな……『攻撃は最大の防御』とはよく言ったもんだよね。まさに攻撃でしか受け止められない、そんな技だったよ」
「ふふ、そうねぇ。『名も無き攻撃』ならどうにか相殺できる、と。今のは9割だったから次は10割の私と戦ってみましょうか♡」
「暫く修行する時間くださいよォ〜」
「あっははは、それは勿論♪」
「……」
もしへカーティアが「
答えは分からない。分からないが、答えに近付く為には、己を鍛える────それしかないのだろう。
因みにコロシアムはこの後へカーティアが修復、いや再構築してくれた。
俺も、久保帯人先生のようなシャレオツなセンスが欲しかったです。