言葉も行動も、大事なもの。
二つ揃って、先へ進む。
大丈夫、未来は明るいから。
そう言えば以前、「俺は家では野党だ。なんだかんだ言っても、政権は
今の俺が、まさにそんな感じだし。
でも大好きな人がすぐそばにいてくれる、それが幸福でなくてなんだと言うのか。俺たちはきっとこの先、離れる事はない。千夏先輩は俺を離さないだろうし、俺としてもそうだ。何やらかすか分かんないこの人から、下手に離れる訳にもいかない。
幸せではあるけど、さ。
俺は、悩み続けていた。千夏先輩が、好きだから。
同じ家にいられて、その気配を感じるだけでも十二分に幸福感に包まれていた。人生は美しく、日々は輝いていたんだ。それに先輩に呆れられたくないから、可能な限り努力し続けた。一緒にインターハイに行こうね、と貰ったミサンガはその証し。例え力及ばず敗れても、俺は這い上がった。千夏先輩に、見ていて欲しいから。自慢できる後輩、良い同居人でいたいから。
でも。……なのに。
少しでも気を緩めると、良くないことばかり考えてしまう俺がいた。
千夏先輩は若干ポンコツな所があるし、一回気を抜くと戻ってくるまで時間がかかる。おうちモードの千夏先輩は隙だらけ、あちこち透けたりはみ出たりしているのだ。もちろん俺は紳士だ、凝視したりはしない。でも、だ。それでも目に焼き付いた
夜毎夜毎にそれらが蘇り、抗いがたい衝動を呼び込んで。気が付けば日課のように、千夏先輩をオカズにしてしまっていた。
あの人は夢を追うために家族と離れ、猪股家に居候しているんだ。それを汚すようなことは、絶対にしてはいけない。僅かな気配さえ悟られてはならない。そう思うからこそ、止まらない。
妄想はどんどん膨れ上がり、いつの間にか暴走し。
どんな経緯を辿ったのか、それさえ思い出せない混沌の中。俺はついに――千夏先輩を、押し倒していた。
風呂上がりからちょっと経って尚、ほのかに残るボディソープの匂い。柔らかく暖かい肌の温もり。千夏先輩の全てが、俺の理性を奪いつくしていく。
もう、止まらない。衝動に身を任せようとした、その時。千夏先輩は俺の頭をクシャクシャと撫でながら、小さく呟いた。
「ねえ、大喜くん。
その声は穏やかで、優しくて。そして――恐ろしい。身体を縛っていた熱が一瞬にして消え失せ、背筋が凍り付いたように震えが来た。俺の無い頭でも、それくらいは分かったから。
そうなれば、全てが終わる。この生活どころか、俺の人生そのものが。
先輩にのし掛かったまま、絶望に身体が支配されていく。
でも。――でも。その瞬間は、訪れなかった。
千夏先輩は俺を抱えるようにして、そのまま横に転がり――俺に覆い被さったのだ。
上下が入れ替わり、今度は俺が組み敷かれていた。
「どうする?このままだと、ワルイコトされちゃうよ?
ニヤリと笑う千夏先輩は、捕食者の顔。それがゆっくりと近付いてきて。
気が付くと視界は暗く翳り、その唇が俺の口を塞いでいた。
キス、された。そう認識した刹那。
「ふふ……意外とかかったね。もっと早く襲ってくるかと思ってたのに」
千夏先輩は悪戯っぽく笑いながら、俺の服に手をかけていた。
それでようやく俺は理解した、全てが千夏先輩の手の内だったのだと。この人の思い通りに、踊らされていたのだと。
もしかしたら最初からこの人は、こうするつもりだったのかもしれない。
隙だらけに振る舞っていたのも、なにもかも計算尽くだったんだ。
しなやかな指先が呆然とする俺の肌をはい回り、反応を確かめるように弄び始めるのをただ受けいれるしかない。
「大喜くんって可愛いし肌キレイだよねー……なんか悔しい」
いや、そんなこと言われても。
反論しようとしたけれど、でもそんな余裕は与えてもらえない。俺が口を開くより早くその指は、腰まで届いてしまっていたから。
反射的に身体が震え、先輩の指が躊躇いを見せた。――が、それはほんの数秒間。
あっさりと先輩の手は、俺の下着の内側へと入り込んで。
「ん、……っと。捕まえたー」
するりと絡み付いた指はそのまま、
他人の手に触れられる事なんか有り得ない場所を、よりによって大好きな人に暴かれてしまった。羞恥と興奮で頭がおかしくなりそう。いや、もうおかしくなっているんじゃないだろうか。
「へーこんななんだ、
しゅにしゅにと撫で擦られるその感覚が、思考さえ奪ってしまう。おかしくなっていたって、もう良いじゃないか。
そんな何処か捨て鉢な気持ちになりながらも、最後の理性を振り絞って俺はなんとか抵抗を示そうとするけれど。
千夏先輩は、それさえ許さない。
「確かこうするんだよね、男の子って。渚が言ってたんだよ」
天使の笑顔の先輩に捕まれたまま激しく上下に揺さぶられていくせいで、身体はもう自由にならないから。
一瞬一瞬変化しながら襲ってくる激しい快感が、意識をズタズタに引き裂いてしまう。
口から出てくる呻くような音が、自分の声だとは信じられない。
腰の奥で膨れ上がる快楽の塊、それが一気に爆発する――かに思えたのに。
「う、ぁ……っ?」
先輩の手がピタリと停止したことで、その波も形にならないまま止まってしまった。
もうすぐ、あと数秒だった。そんな生殺しが、逆に心を追い込んでいくのがわかる。
頭の中は射精欲求に染まり、他の全てが消えていく。
もっと、もっと、もっと。
その欲望が口を突きそうになったその時、千夏先輩の身体が小さく揺れた。
僅かに起き上がった肢体からしゅるしゅると服が滑り落ちそして、白い裸体が顕になる。
千夏先輩の、全てが。
「んー……やっぱりちょっと恥ずかしいかな」
でも着たまま
それは、それは――。
心臓が高鳴り、血が沸騰しそうなくらいに熱い。それはきっと、命と天秤にかけてでもあまりある究極の快感。生涯最高の、生まれ変わっても忘れない程の幸福。
でも、――でも。
「ダメ、です……こんな、こんな……!」
振り絞った声はでも、あっさりとはね除けられてしまう。
千夏先輩はそっと指先を俺の唇に乗せ、優しく言葉を封じてしまったのだ。
そしてそのまま俺を跨ぎ、そのまま――俺の上へと舞い降りた。
その瞬間感じたのは、まるで何かに噛まれたかのような鋭い圧迫。そして焼けるような熱さ。先輩の腰は完全に落ちきり、天井を向いていた筈の
千夏先輩の中に、俺が補食された。根本まで完全に、食われた。
散々焦らされた俺が、その刺激に耐えきれるわけがない。身体の奥深くからやって来た衝動が、瞬時に決壊する。
「ぁー……そっか、こんな感じかぁ……っ。これはなかなか……」
熱に浮かされたような先輩の声、それを掻き消すように精液が尿道を駆け抜けていった。一度始まった射精はもう止まらない、それ以外何も考えられない。
気絶しそうな程激しく、でも甘く蕩けるような絶頂は終わらない。
いったいどれ程、そうしていただろうか。
長い長い射精がようやく収まった頃、千夏先輩は俺の顔を撫でながら呟く。
「いっぱい出したみたいだねぇー……。これは大喜くん、責任取らないとねぇー……」
その表情はいつも俺をからかうときと似た、小悪魔の笑み。
完全に先輩の思い通りになった俺は、なすすべも無く――先輩のモノになった。
家族が寝静まった深夜、毎晩のように千夏先輩は俺の部屋へとやって来る。
その目的は、一つだけだ。
「たーいーきーくーん、今日もしましょうねー」
ニコニコ笑うその顔は可愛いけど、でも。
……でも。
なんだか身体だけが目当てみたいで、複雑な感じがしてしまう。こういう関係になりたかったかと言われると、違う気もする。とは言え、だ。拒むつもりにもなれないのが、俺の悪いところなんだろうな。
ベッドに座って俺を待つ千夏先輩を見ていると、これはこれで幸福だとも思えてくる。
大好きな人と結ばれるわけだから、当然か。しかし、だんだん俺も麻痺してきてるんだな……。
少しずつ心が躍りだし、それを受け入れるように身体も猛り始める。
そうなってしまえば、もう止まらない。
「あ、じゃあ……お邪魔します……」
「はい、いらっしゃーい」
いつも通り自分の部屋で十二分に解され、赤く蕩けたオンナノコをくちゅりと拡げて千夏先輩は俺に微笑みかけた。
それに応えて俺もそこへと自分を向け、ゆっくりと進んでいく。
普段は千夏先輩が俺に跨がってくるけど、今日はこっちから来て欲しいようだから。
何度目かではあるけど、やっぱり緊張するな。人の身体に入っていく、というのは。
「ぅぁ……来た来たぁ……」
嬉しそうな声と、それに呼応するようにうねって絡み付く先輩の内側。どちらも刺激的すぎて、それだけで射精してしまいそうだ。どうにか堪えるけど、長くは持つわけがない。
ゆっくりゆっくりと腰を動かす間にも気は抜けない、気持ちよすぎて壊れそう。
千夏先輩もそう思ってくれているんだろう、声こそ押さえてはいるけど明らかに目の焦点がおかしい。ここからどんどん乱れていく千夏先輩、それを至近距離で見られるのはとても嬉しいし心地良い。
だけど。今日はこのままいつも通り、溺れるわけにはいかない。
溢れてくる快感を無理矢理押し込め、繋がったまま俺は千夏先輩を見据える。聞かなければいけない事があるから。
「千夏、先輩……。先輩は、俺を……どう、思っている、んですかっ」
あの日以来、何度も何度も千夏先輩と繋がった。俺は愛している、それは確かだ。でもそれは俺の気持ち、それだけでしかない。
千夏先輩は一度も、俺に言ってくれていない。好きだとも、愛しているとも。ただ単にセックスがしたいだけ、オトナのオモチャみたいに思っているんじゃないか。
先輩にとって俺は、なんなのか。それが、知りたい。例え、その答えが俺にとって致命傷になるとしても。
その思いを込めて抱き締めた先輩は、ほんの少しだけ驚いた顔をして。大喜くんってホントにめんどくさい子だね、と俺の頭を撫でてから。
「大喜くんは、私の大好きな人。ずっと一緒にいたい、赤ちゃん産みたい、死に水取ってあげたい。
優しく囁き、ギュッと俺を抱き締めてくれた。
それは余りにも優しくて、幸福で。今ここで死んでも良い、と思える程に。そんな想いが内側から迸るのが、ただただ止まらない。
いつしか俺は泣きながら先輩を抱き締め、嗚咽と共に精液を注ぎ込んでいた。
「恥ずかしいんだよね、恋とか愛とか。口で言うより、行動する方が私らしいし」
ベッドに仲良く横たわりながら、そんなとんでもない事を言う千夏先輩に内心呆れてしまう。いや、ああも周到に人をハメておいてそれですか千夏先輩。
……いつから、と聞かれれば最初から。千夏先輩はさっき、そう言ってくれた。朝練で逢うようになってすぐ、俺を好きになってくれたのだと。ただそういう経験は無いし男子の扱い方も分からないから動けなかった所に、渚さんが余計な話を持ってきたらしい。
曰く「一回身体の関係さえ持ってしまえば、男はそれで100%落ちる」とか。バスケ以外のことに関してはポンコツな千夏先輩はそれを見事に信じ込み、言葉より行動を優先するようになった。その上俺の方から迫ってきたことにすれば失敗しても被害者として責任取らせてしまえる、とろくでもない方向へと話を膨らませて。
そんな行き遅れOLの捨て身婚活みたいなことを、俺の大事な先輩に吹き込まないで欲しいもんだ。まあ見事に成功してしまっているけど。
結局俺は、千夏先輩に振り回される方が性にあうんだろうな。
この先何が起きても、俺はその度に千夏先輩を好きになり続ける。それはきっと確かな事だ。
日々は矢のようにすぎていく、それでも俺たちは俺たちだ。
雛に殴られたり匡に見捨てられたりしたけれど、俺に大きな変化はない。千夏先輩は、……まあ色々と。産んだり辞めたり、色々と激しく変化してはいるけれど本人はのんべんだらりとお気楽だ。二人とも起きたことは起きたこととして、楽に楽に適当に生きている。
千夏先輩は今も変わらずどこか抜けていて、やっぱり言葉が足りなくて。俺はそのフォローをしたり巻き込まれたり、忙しいようなそうでもないような。まあ、退屈はしないから良いけど。
これからもずっと、俺たちはこうなんだろう。
千夏先輩は俺を振り回して、俺はあれこれ言いながらも世話を焼き続ける。それでいい。
ああ、幸せだな。俺は、幸せだ。