勢いと言うものは、大切です。
下手に考えるより、勘とノリと勢いで押す方が上手くいったりするもの。
まあ、限度がありますが。そんなこんなで、どうにかこうにか進んでいければ十全です。
正直、余りにも出来すぎていた話だ。手が届かないと思っていた大好きな千夏先輩と、どういうわけか同居する事になるなんて。
話を聞いたときはそりゃ嬉しかったけど、それ以上に困惑が大きかったのを覚えている。
だって、同居だ。千夏先輩が俺の家にいる、一緒に生活する。それはもう、恋人同士よりも距離が近いんじゃないか。
それこそ最初のうちは、どうしていいか分からないくらいに緊張していた。
よりによって隣の部屋が千夏先輩の私室になった都合上、おいそれと物音も立てられない。
慣れてきてからも、起きている間ずっと何処かで気を張っていたっけ。
そんな俺は今どういうわけか、ベッドに組み倒されている。両腕をがっしりと捕まれ、身動き一つ出来ない状態で。
俺を押さえ付けている千夏先輩は、妖しくも美しい捕食者の笑みを浮かべている。
何処でどう歯車が狂ったのか、これは――なんなんだろう。
身の危険を全力で感じながらも、逃げられる気がしない。
どうしよう、かな。
いやそんな呑気な状況じゃないだろ、俺。
大人三人がそれぞれの理由で数日留守にする、と聞いたのは当日の事。と言うか部活を終えて帰ってきた俺たちは、丁度家を出る所だった母さんにそう告げられたのだ。今日は土曜日、つまり少なくとも明日一杯は二人きりになる。その間はとりあえずどうにかやっておきなさい、と来たもんだ。その上金も渡さないし、小遣いから出せってのか。
このいい加減さ、どうだろう。さすがは俺の一族だ、俺のバカは血脈に違いない。
千夏先輩と丸一日以上二人きり、というのはさすがに初めて。まあ、ヨコシマな事なんか考えるべきではないし、もし妙なことをやらかした日には俺の名字がなくなる。猪股家から追放されてしまう。
それに俺たちはつきあっているとかそういうんじゃない、俺が一方的に片想いしているだけだ。だからなにも起きない、そんなもんだ。それで良いんだ、そうでないと俺が耐えられない。
あれこれと思いつつ、適当に夕飯を済ませてそれぞれ部屋に引っ込む俺たち。二人きりで同じ部屋にいると、やっぱり少しだけ気まずいから。
特に何事もなく時間は過ぎて、風呂を浴びて後は寝るだけという状況。その珍しいタイミングで、千夏先輩が俺の部屋に顔を出したのだ。いつもの寝る前フォーム、オーバーサイズのシャツ姿で。下が裾で見えないのが、どうにも目の毒だ。
「大喜くん、ちょっと良いかな」
既に来ておいてそれを言うかな……とは思いつつ、構わないですよと招き入れたその判断が良くなかった。
ひょいっとステップを踏んで軽く入ってきた千夏先輩は、そのまま俺の顔に手をかざし。――掌底の要領でベッドに叩き込んでくれたのだ。
何が起きたか分からないまま、身体が動かせない。腕を押さえられた時点で大概なのに、そこから更に乗られてしまってはどうにもならない。口は動くけれど、何を言えば良いんだ。やめてくださいとか言っても聞かないだろうし、まさか罵ったりは出来ないし。
「あの、千夏先輩? 落ち着きましょうよ、ね?」
とりあえず落ち着かせようとはしてみるけれど、千夏先輩は止まらない。
その眼はどこか虚ろで、妖しい光を湛えている。明らかに様子がおかしいと感じたところで、ある匂いに気がついた。記憶の奥を照合してようやく正体が分かるほど、普段は縁がない匂い。
これは、まさか。近づいてくる先輩の顔から感じる香気に、それがようやく確信へと変わった。
「先輩、呑んでますね!?」
この人は、優等生の皮を被ってはいるが意外とアレなのだ。大人の目がない所ではすぐハメを外す悪い癖があるから、どうせ皆いないし構わないかなとか考えて一杯ひっかけたんだろう。
この人部屋に小さい冷蔵庫置いてるからな、ビールくらいは常備してる。この前部屋に行った時も、ロング缶の残骸を見たし。見つからないようにスーパーまで空き缶捨てにいく周到さだけど、そうまでして酒なんか呑みたいもんかな。
まあ、良いんだけどさ。先輩だってストレスが溜まるだろうから、発散の手段は必要だろう。いや良くはないか、なんとか他の方法を探してほしい。
とりあえずそれはそれとして、千夏先輩をどうにかしないと。これはさすがに、洒落じゃすまない。それにこのままじゃ、俺が持たなくなる。
何とかして降りて貰わないといけない、でもどうするか。
考えている間にも、目が座ったままの先輩は俺の顔を舐め回している。まさかキスより先に顔を舐められるとは思わなかった、くすぐったいし恥ずかしい。
その感触は思考を中断させて余り有る、只でさえ回らない頭がどんどん鈍っていくのが分かる。
楽しそうで何よりだけど、この辺で止まってくれないと困る。
「やめ、……ダメですって、先輩……!」
どうせ酔っ払い相手だ、こっちも多少は強く抵抗したって良いだろう。注意が散漫になりつつある先輩の隙を突く形で、どうにか腕の拘束を抜け出そうともがいていく。
先輩は腕力こそあるけれど軽量だから、押さえ込む力はさほどでもない。全力で行けばおそらくは抜け出せる、そう思い始めた。でもそれは、すぐに止まってしまう。
先輩の眼から、大粒の涙が溢れ始めたから。
「どうして、嫌がるのぉ……。私は大喜くん、大好きなのに……!」
見る間にその顔は涙でグシャグシャになっていき、嗚咽に近い泣き声が部屋を満たしていく。こうも至近距離で泣き顔を見せられては、こっちが悪いことをしている気さえする。いや、全面的に千夏先輩が悪いんだけど。
しかしまあ感情のブレーキが効かなくなっているというか、この人色々と衝撃的な状態だ。
正気に戻ってほしいけど、でもこうやって「好き」と言われて嬉しい自分もいるわけで。どうせ酔いが醒めたら忘れちゃうんだろうけど、さ。
――そう、忘れてしまう。だったら、いっそこの場で同じように恥をかいておくか。
「千夏先輩、俺も好きですよ。だから大事にしたいんです、こういう荒っぽい事は良くないですよ」
勢いでこうなるのはどう考えても間違ってるし、何より終わってからが気まずすぎる。これからまだしばらく、同じ家で過ごすんだから。
いくら酔っ払ってても、完全におかしくなっているわけじゃない。少し落ち着かせれば大丈夫だろう、その筈だ。
――その筈、なんだけど。
千夏先輩はキョトンとした顔になって、俺を見詰めるばかり。通じているのか、いないのか全く分からない。
幸い腕の圧迫は緩んできているし、もう少し時間をかければ抜け出せそう。一回脱出して、そこからゆっくり考えれば良い。そうしよう、なんとかなるさ。
少しだけ事態の進展に安堵した、その時。
千夏先輩の表情が、サッと置き換わった。
「そっかー、そかそか。大喜くんは私が好きかー。そうなのかー」
それはそれは嬉しそうな、天使の笑顔。惚れ直すどころの騒ぎじゃないくらいに素晴らしいその姿に、一瞬息が止まりそうになる。
けど、でも。
そこに続いた一言が、俺を戦慄させた。
「じゃあ、何の問題もないよね? 両想いなら、さ」
ぞわり、と背筋が粟立つ。しまった、と気付いた時にはもう遅い。鎮火するどころか、爆薬をくべてしまった。
千夏先輩の身体が俺にのし掛かったまま反転し、そのお尻が――その全てが目の前に晒される。予想に反してそこには何も纏われていない、下着さえ着けていない生まれたままの下半身。鍛えられた逞しい脚の付け根、翳って見えるその場所は、もちろん今まで見たこともない。
大好きな人の秘密の場所を、息がかかるほどの間近に突きつけられて。興奮が止まらない、止められない。
そしてそれは、可能な限り分かりやすい形で千夏先輩に伝わってしまう。この姿勢では、先輩の顔は俺の下半身に密着しているのだから。
「わ。……こんなになるんだねえ…………」
フワフワと浮わつくような声と共に、千夏先輩の手が俺にそっと触れる。その指先が器用に動き回り、そのまま興奮に充たされている
こんな形で、こんな事。もちろん想像もしたこと無い、……なんて白々しいことは言わない。何度妄想したか、その度に罪悪感で腹筋が捗ってしまったか。
楽しそうに俺を責め立てる指先に連動するように、目の前では白いお尻が揺れ動く。先輩も、興奮している。感じている。その証がとろとろと溢れ落ちて、その匂いが立ち上っては俺の心を塗り潰していく。
「えっと、男の子はこうするんだっけ? こんなかな、……っと」
しなやかな指先が絡み付くように俺を扱き立て、握り締め、そしてどんどん追い込んでくる。
逃げようと思えば逃げられる、でも逃げたくない。さっきまでの危機感は何処かへ行ってしまい、むしろこの状況を歓迎している自分がいる。だから自由になった手も、先輩を振りほどくためではなく――
「ん、ぁ……っ。大喜くんの、入って……!」
先輩のオンナノコ、その内側を目指して入り込んでいくのだ。
何に似ているかと言えば、感触は口の中に近い。でもそれよりずっと狭く、そして熱い。人差し指一本だけでさえ折れそうなほど締め付けられているのに、ここに……入れるんだろうか。
指を捻って先輩の中を掻き回すようにしてみると、その内壁は場所によってさわり心地が違う気がしてくる。オンナノコって、こんなに複雑なのか。こんなにスゴいのか。
夢中になって指を動かしていると、不意に太股へと鋭い痛みがやって来た。まるでつねられたかのような、というか実際先輩がつねったんだろう。その辺にしてね、と小さな呟きが遅れてやって来たから。
そして先輩の身体はまた向きを変えて、俺の腰を跨いで立つ格好になる。弄りすぎたからか薄く口を開いたままのオンナノコから俺へと蜜が零れ落ち、まるで一本の糸のようだ。
ここで先輩が腰を落としたら、そこで俺たちは
ゆっくりと高度が下がってくる粘膜が、俺の先端を呑み込んでいくのがはっきりと見えている。身体が浮き上がるような、吸い込まれる程の快感。こんな事をしてはいけない、と最後の理性が警鐘を鳴らしているけれど。でももう止まらない、止められない。
見る間に幹が埋まっていくその中で、一筋赤いものが伝っていく。それはきっと先輩の、「初めて」の証。
俺にとって先輩は、最初の人。先輩にとっても俺がそうなれた、その満足感で魂まで充たされていく。
そして程なく、俺の全てが先輩の中に消えた。
「あ、あーぁ……っ」
それをどう言葉にしていけば良いのだろう、全く見当もつかない未知の感覚。押し潰されながら摩擦されているというか、先輩自身は動いていないのに中がうねって締め上げてくる。そしてそれを感じていると、知らず知らずのうちに腰が動いてしまう。先輩を跳ね上げようとするかのように、激しく。それは千夏先輩も同じなのか、シンクロするようにお互いが激しく上下に身体を揺らしあう。
じゅぷりじゅぷりと粘液の音が立ち、二人の口からは呻くような吼えるような獣声しか出てこない。
もう何も考えられない、何もかも遠くへと消え去っていく。残っているのは、一つだけ。
射精したい、という欲求だけが心を支配していく。
そしてそれはもう、制御できない。
「出ま……す、先輩……!」
身体の芯からマグマが駆け抜け、尿道を疾走して炸裂する。一度脈打つ度に精液の塊が通り抜けていく、それが延々と繰り返されて止まってくれない。
千夏先輩も千夏先輩で俺を圧殺しようという程の力で締め上げながら、長く尾を引く短い嬌声を止めどなく漏らし続ける。
この瞬間が永遠に続いてほしい、と願いながら俺はただ、快感に身を任せた。
「やー……はっは、ごめんね大喜くん」
「いや、まぁ……はい」
千夏先輩と俺、二人は今並んでお風呂中。
これからとんでもなく気まずい事になる、とあのあと覚悟はした。したものの、千夏先輩は悪びれる様子さえ見せなかった。それどころか「正気? 生憎そんな面倒なもの、最初から持ってた覚えはないよ」と胸を張ってくれたくらいだ。どこの死神ですか貴女は。
「まあ、良いじゃない。お互い気持ちよかったんだから、さ」
……そういう事じゃない気がするけど。もっとこう、ムードとかそういうのが必要なんじゃないだろうか。だってセックスってそんなに軽いものじゃない、色々と考えないといけない筈だ。こんな勢いで、何も考えずにしていいわけがない。
それとも俺が考えすぎてるだけで、世の中はもっとシンプルだったりするとかかな。好きだからまあいいや、って。
過ぎたことを気にしたって、どうにもならないんだけど。
「ん、っと。あー…出てきちゃった。お湯汚れちゃう汚れちゃう」
呑気な顔でお湯から出る先輩、その脚の間からは白濁した粘液が零れていく。いろんな意味で物凄い光景だ、まさかこんな姿を目にすることになるなんて。
俺の視線を感じたのか先輩は湯船の縁に腰を下ろして脚を広げ、その――オンナノコを指で拡げて見せてくれた。
肉の谷間が大きく開かれ、サーモンピンクの粘膜が露になる。さっき俺が入っていた場所、先輩の内側へと続く隘路。
出来るなら、その一番奥まで知り尽くしたい。逆流なんかして欲しくない、一滴残らず注ぎ込みたい。
俺の子供を生んでほしい、一生寄り添っていたい。
そう想いながら見つめていると、千夏先輩の口元に小さく悪戯な笑みが浮かんだ。
「ね――もう一度、しようよ。今度は大喜くんからさ、……来て」
壁に手を付いてお尻を突き出した千夏先輩に覆い被さるように、ゆっくりと腰を進めていく。
さっきよりも更に熱くなった割れ目を押し拡げながら、その奥を目指して。
「ふぁ……あぁ……っ」
先輩の中は吸い付くように密着しながら、細かく揺れて絡み付いてくる。上からの加圧が緩んだ分、それがより強調されている。……ような気がしなくもない。そんな微妙な差なんか分かるわけ無い、俺に分かるのは一つだけ。
先輩の身体が、気持ちいいということ。
無我夢中で腰を振ると、粘つく水音と先輩の喘ぎが風呂場の壁に反響してどんどん大きくなっていく。母さんたちがいなくてよかった、と今さらながらに安心しながら俺はどんどん加速を続ける。
根本まで突き込んでも止まれない、押し上げるように更に深く。そして弾力のあるお尻に押し戻されて、今度はもっと奥まで到達しようと再度叩き込む。その繰り返しが、心の底から気持ちいい。
こんなにも幸福な、こんなにも満たされる時間。もっともっと続けたい、もっともっと愛したい。
でも、それでも。限界は、来てしまう。
下半身を覆う熱の塊が、一点に集まっていく。煮えたぎるような、強い強い射精欲求が再び沸き起こるのが分かる。
堪えられる限界はもう過ぎている、今すぐにでも出そうだ。
それをなんとか繋ぎ止めているのは、ほんの僅かな罪悪感だけ。さっきは先輩が乗っかっていて、逃げ場は何処にも無かった。俺の意思がどうでも、膣内射精以外の選択は無かった。でも今は違う、抜こうと思えばいつでも抜ける。
この射精は、俺の意思。千夏先輩の中を俺の精液で充たしたい、この人を――孕ませたい。そんな欲望だけで自身を突き動かしている事実を、認めなければならない。
その覚悟もなしに、セックスをしてはいけないのだから。
なら――。
「先輩、愛して、ますっ! 俺の子供、産んでくだ、さ……い!」
先輩の腰を掴んでいた手をお腹に回しながら、力の限りに叫ぶ。俺たちの愛の結晶が宿る事になる場所に、この想いが届くように。
そしてその叫びが、最後の一押しとなった。
ドクンと一際強く心臓が脈打ち、血流が一気に爆速へ。その全ては、たった一つの為に。
ゴボゴボと音を立てそうなくらいに濃く大量の、命そのものが変換されたような精液が身体を通り抜けていく。
「う"ぁ、あ、あー…………」
千夏先輩の低い喘ぎは、もうほとんど聞こえない。目の前は立ちくらみを起こしたように暗く染まっていき、身体の力はもう消えかけている。
心地良い脱力感に抗いながら、俺はなんとか口を開きそして。
「先輩、好きです」
どうにかこの一言だけを絞り出し、床へと崩れ落ちた。
卒業後の進路が決まっちゃったな、と缶ビール片手に笑う千夏先輩。そしてお相伴に預からせてもらっている俺。大人がいないから羽目を外しちゃうのは、良くないことだけどそんなに悪いことでも無い筈だ。
これからもまだまだ、二人の時間は残っている。言いたいこと、したいこと、見たいもの、聞きたいこと、――いくらでもある。それ全部やり終えても、まだ余り有るくらい。
……まあ考えないといけない事とかそういうのも腐る程有るんだけど、どうにかなるだろう。
だって、俺たちだし。
「あ、そうだ。ちょっと左手出して」
「えぁ、は……いっ!?」
言われるままに出した手の薬指、そこに千夏先輩がぱくりと食いついてきた。しかもかなりの強さで。
痛いです先輩、と逃げようとするけど振りほどけない。うう、この酔っ払いめ。
ようやく先輩が口を放した時には、薬指の真ん中にクッキリと歯形が刻まれてしまっていた。
「じゃあ、今度は大喜くんの番ね」
そう言って自分の左手を差し出す千夏先輩の表情は、真剣そのもの。
俺にも指を噛め、というのか。でもなんでそんな、……って。
「あ。あー……そういうこと、ですか」
千夏先輩は
そういう事なら、しない手はないな。
白くしなやかな指にそっと歯を当て、遠慮しいしい力を込めていく。
どれくらい残るかはわからない、すぐ消えてしまうかもしれない。でもこの痕が消えても、刻んだ誓いはちゃんと残るだろう。
いつかここに、本物の指輪を嵌め合う。それは決して違える事の無い、俺たちの約束だ。