…猿男くんの部屋で
そして、
私は家に連れ戻された。
よくわからないけど、お父さんとお母さんが泣いてる。
一体何がどうなっているんだろう。
猿男くんからも連絡がない、連絡も取れない。
一体何が起こっているんだろう。
お父さんもお母さんも泣いてばかり。
誰に聞いたら教えてくれるんだろう。
そうだ、哮なら何か知ってるかもしれない。
哮なら、何か教えてくれるかもしれない。
…哮に電話をかけてみたけど…。
「おかけになった電話番号は、お客様のご希望によりお繋ぎできません。」
哮とも連絡が取れない。
どうして…。
私は大きくなったお腹を抱えて、家を抜け出した。
哮の家。
玄関の所で、呼び鈴を鳴らした。
そうすると…大きな女の人が出てきた。
知らない女の人だったけど…知っている女の人でもあった。
出てきたのは人間じゃなかった。
確か、艦娘で…武蔵…。
その武蔵さんは私を見るなり、こう言った。
「哮は貴女には会わない。お引き取り願おう。」
…何なの?…この武蔵は…?
私はボンヤリしていた頭をハッキリさせて、この武蔵さんに向かい合った。
「哮に会いたいんです。そこをどいてください。」
「そういうわけにはいかない。お引き取り願おう。」
「何なんですか!?どうして艦娘のあなたが哮の家に居るんですか?何の理由があって私に帰れと言うんですか?」
「私は成り行きから哮の用心棒を引き受けることになった。哮に害を為す者を退けることが、今の私の務めだ。」
「わ、私は哮に危害なんか…!」
「加えただろう。」
「何を言ってるんですか!?」
「哮のこと、ずっと好きでした。」
「………?」
「
「………!!」
あ…あの動画を…私と猿男くんが
「明らかに猿男を選び、哮を捨てると宣言したセリフだ。哮に害を為すセリフだ。」
「貴女は哮に害を為した。貴女は哮に害を為す者だ。ここを通すわけにはいかない。」
「ち!違うの!わ、私…哮を傷つけようなんて、そんなつもりは…ッ!」
「あのときは猿男くんに無理矢理…ッ!でも、何度も何度もされてるうちに、だんだん…!」
「私も苦しかった!…でも、猿男くんとこうなってしまったら…!猿男くんを…良いって認めてしまったから…!」
「辛かったけど!猿男くんのものになるしかなかったの!」
「あ…あなたも女なら!女の体を持っているのなら!わかるでしょう!?」
「男の人に
「さっぱりわからんね。」
「猿男とのセックスが良かったからって、どうして猿男を選び、哮を捨てなければならないんだ。」
「猿男とのセックスが気持ちよくて、哮のことも好きだと言うなら、二股でも三股でも架ければ良かろう。」
「哮を捨てる…諦めるのは、哮からその二股を責められてからでも良かったんじゃないか。」
「何故貴女は早々に哮を切り捨てたのだ。」
「そんなこと、出来るわけないじゃない!二股を架けるって…あなた…!」
「実際私はそうしている。私は自分が好きな相手とは、自分を好いてくれる相手とは誰とでもセックスする。」
「…勿論、これは世間一般に広く受け容れられるようなことではない。納得がいかないという相手とは…残念ながら、自然と疎遠になった。」
「だが、こんな私でも良いと言ってくれる相手も居る。」
「提督や金剛、鎮守府の仲間達が…特に姉さ…大和が私を受け容れてくれることには、強い喜びを感じている。」
「貴女は男にイかされたらその男のモノにならなければならないと、その男だけを愛さなければならないと思っているようだが。」
「それは唯一絶対のドグマなどではないし、普遍にして不変の正義などではない。」
「ましてや、哮を…誰かを生ける屍にしてまで従わねばならない規範などでは断じてない。」
「しかし貴女はこの規範に従うことを選んだ。」
「貴女は貴女をレイプした猿男を愛することを選び、それまで絆を育んできたはずの哮を捨てることを選び…。」
「…そして哮を生ける屍にすることを選んだ。」
「やはり貴女は、哮に危害を加える者だ。ここを通すわけにはいかない。お引き取り願おう。」
…言い返せない…。
でも…。
私が何か言い返そうとしていると、武蔵さんは続けてこう言ってきた。
「私が誰と寝ようと、提督は私を抱いてくれる。」
「私が誰と寝ようと、金剛は私と肌を合わせてくれる。」
「私が誰と寝ようと、大和は私を貪ってくれる。」
「私も提督に抱かれ、金剛と肌を合わせ、大和に貪られるのが好きだ。」
「私は、伴侶が居る同僚たちとも肉体関係を持っているが。」
「その同僚たちは私を抱いているときでさえも、私に抱かれているときでさえも自分の伴侶を想っている。」
「私は、私の肉体に伴侶の代わりを求める彼女たちが好きだ。」
「誰とセックスをしようと消えることはない『好きという気持ち』は、確かにある。」
「…対して貴女の哮に対する気持ちはどうだったのか。」
…目の前が暗くなる。一度ハッキリした頭が、またボンヤリとする。
「…貴女が何を言おうと、ここを通すわけにはいかない。」
「貴女がここで私と何を話しても…胎の子に障りが出るだけだ。」
「…帰るんだ。そしてもう二度とここには来るんじゃない。哮はこれから生き直さなければならない。…貴女は貴女で、生き直さなければならないだろう。」
…私は武蔵さんが呼んだ車に乗せられて、家に帰った。
お父さんとお母さんは、まだ泣いていた。
おまわりさんに支えられながら、私は自分の部屋に戻った。
ベッドで横になって、目を閉じた。
…武蔵さんの言葉が、頭の中に響く。
「誰とセックスをしようと消えることはない『好きという気持ち』は、確かにある。」
「…対して貴女の哮に対する気持ちはどうだったのか。」
…猿男くんとエッチして、私は…猿男くんを、猿男くんの方を好きになった。
哮への気持ちは、ハッキリと小さくなった…消えてしまった。
でも武蔵さんの周りには、他の誰かとエッチしても、好きな相手を好きで居続けられる
誰とエッチしても消えない『好きという気持ち』は、確かにある。
…そんな気持ちは確かにあるのに、私の、哮への気持ちは…こんなに…あっけなく…。
どうだったの?何だったの?私の気持ちは…「好きという気持ち」は…。
…暗くなった目の前がますます暗くなり、ボンヤリした頭がますますボンヤリして…私はそのまま眠りに落ちた。