---妃英里---
肝試し大会が終わり、亜樹君の家の母屋が全焼し、庭園もボロボロである。離れも一部破壊されており、損害金額はとんでも無い額になるようだ。残っている図面から各職人が修復する為の金額を見積もって行くが…修復不可能な物が多い。屋敷の補修部品の入っていた蔵が破壊されて、大切な補修部品が盗まれていたのだが、犯人は取り押さえ済みだったのだが、捕り物中に補修部品が破損していたらしい。
彼の父親の蔵書類も殆ど初版だったらしく、これも補填が不可能をされた。
「結局、金があっても元には戻らないんだよね?だから、持ち出して安全な場所に保管したいって言ったのに…」
警察庁に恨み節を呟く亜樹君。
「そう言われても…証拠物件ですから」
「全焼されても証拠物件になるんですか?」
「証拠隠滅の疑いもあります。今回のタイホ者は厳密に精査いたします」
消えた想い出は帰らない。警察にとって想い出は、無価値なのだろう。
◇
とある政府高官の一声で、亜樹君の保有する不動産、動産が総て、国に買い取られることになった。この件に関しては接収であり、文句は一切受け付けないと言う。その日を境に突然、亜樹君と夏美ちゃんは私達の前から消えた。それは熱い夏の日のことだ。
---鳥居亜樹---
鈴木財閥、佐田財閥に俺と夏美と蘭は囲われ、温泉旅館の離れを改築した家屋に引っ越した。母さんの形見のジャガーマーク2とふとした切っ掛けで手に入れたポルシェ356Aはガレージにいれてある。火事騒ぎになる前に、移設を完了していた。離れの一階は部分は夏美の工房で、二階が俺のアトリエである。温泉旅館の本館部分は佐田ホテルが運営する会員制の高級旅館らしい。
離れと本館の間には池があり、その畔には桜の木が植えてある。それをデッサンをしていく。
湯煙の香りを満喫しながらモデルにしている蘭を描いていく…
◇
うたた寝をして目が醒めると、あの夏の日の前日だった。温泉旅館に居たはずなのに、俺は自宅のアトリエにいる。これって、タイムリープか?今からなら間に合う。取り戻せる物は、全て離れの倉庫へと移した。母親の形見の品、父親の蔵書など…あと、秘密の隠れ家から番犬を連れて来て、敷地内に離した。きっと、明日の晩に良い仕事をしてくれるだろう。母屋は義理の母親が無断改築してしまったので、思い入れは既に無い。
翌日、夏の風物詩、鳥居邸の夏祭りがやってきた。鳥居邸の正門前には屋台が建ち並び、人も屋台も熱気を帯びていく。喧噪に比例して、パトカーや救急者のサイレンの音が増えていくし。離れの周囲は美和子さんと高木刑事のおかげで、刑事達が張り込んでくれている。もちろん、公安にも働いてもらって
いるし。
夕方、一発のロケット花火が母屋に撃ち込まれ、それを合図に、正門付近で爆発音が連続で鳴っている。母屋はまるでドラゴン花火の様に、火の花を咲き誇っていた。俺は、その瞬間を脳裏に焼き付け、デッサンを起こしていった。
正門前の通り沿いがやけに明るい。ライトでも照らしているのだろうか?深夜零時を回る頃、母屋から火の粉はみえなくなった。漸く鎮火したのだろうか?夜風にのって、肉の焼けた臭いが鼻をつく。祭りは終わったのだろうか?
翌朝、家の上からヘリの音が鳴り響いていた。昨晩の火事の取材クルーだろうか?
「おにいちゃん、ニュースで取り上げられているよ。母屋の出火から焼け落ちるまで、誰かが撮影していたみたい」
「母屋って焼け落ちたの?」
「窓から見えないでしょ?」
確かに、窓から母屋が見えなくなっていた。蔵は番犬のお陰で、荒らされていないようだ。後で、褒美を与えるか。
「母屋の火事の割に、死者が多いと思ったら、屋台のガスボンベに引火して、正門前の通りが火の道になったらしい。でね、火だるまになった人々が、向こう側の政治家の家に飛び込んで、延焼範囲を広げたらしいよ」
夏美は朝からテレビに首ったけのようだ。俺は、アトリエに籠もり、昨晩のデッサンを清書していく。
---佐藤美和子---
亜樹君の母屋に捜索の手が入った。無人だったはずだが、焼け跡からは多数の死体が見つかった。殆どが遺骨、遺灰状態で、個人の特定は難しそうだ。
「まさか、母屋に潜入して、母屋の中で花火大会したバカが沢山いたってことか?」
目暮警部でさえ、目を背けている現場。肉や髪の燃え尽きた臭いが鼻粘膜にこびりつきそうである。見た目三階建てで、実際四階建てだった建物は、屋根無しの平屋状態になっていた。それだけ、火力が凄かったのだろう。
通りに出れば、そこにも死体が多数。目撃者の話では、プロパンボンベに手持ちのロケット花火を撃ち込んだバカが多数いたらしい。
「これ、身元の特定って、出来ないですよね?」
高木がぼやいている。いや、誰でもぼやきたいだろう。DNAでしか個人の特定が出来ないし。証拠探しをしている鑑識さんが大変そうだ。
「目暮警部!」
千葉くんが何かを見つけたようで、警部の後ろについていく。
「これって、地下室にいく階段では?」
母屋が全焼したおかげで、隠されていた地下への階段が発見された。閉ざされていた扉の向こうには焼け焦げた跡は無く、煤が入った形跡だけ目立っていた。奥へ進むと、防火扉があり、その向こうにはシェルターがあった。空気清浄機や酸素ボンベがあり、保存食がプールしてある。そこに、目立った外傷の無い女の死体が1つ…女の傍には、金の延べ棒の山に宝石類など…
「この顔…行方不明だった長女だ…こんな場所で生きていたのか」
目暮警部が唸るように呟いた。
鑑識さんによると、彼女の死因は一酸化中毒のようだ。詳しくは解剖してからだろう。