---鳥居亜樹---
宮野医院で移植手術の第一号の患者さんの手術が無事に終わった。宮野先生は名医だったようだ。移植手術な関係で、経過観察が必要と言うことで、俺達の住居が変わった。元温泉旅館の本館部分を、経過観察の患者及び、その家族の宿泊する施設になり、俺達は移設した離れで生活をすることになった。作業場は別館の広間をそのまま使えるのは良いことだ。
「翔子ちゃん、具合はどうかな?」
麻衣と一緒に、移植手術第一号となった牧之原翔子という少女の元へ、お見舞いに行った。
「あっ、麻衣さん。だいぶ、具合は良い感じです」
麻衣が撮影で行った七里ガ浜で出会ったそうだ。そこで、色々話をして、翔子ちゃんが心臓移植のドナー待ちだと知ったそうだ。
『ねぇ、どうにかなりませんか?あんな小さな少女が絶望している姿は見たく無いんです』
と、麻衣に泣き付かれ、伯父に相談してみた結果、佐田医療財団を設立し、宮野医院を招聘したそうだ。
「麻衣さん、ありがとうございます」
「お礼は彼にいってあげてね」
って、俺に振る麻衣。
「命を拾えました。本当にありがとうございました」
と、お礼を言われても、実感はあまり無い。
◇
「訊きましたよ、画伯。美談を本にしましょうよ」
と、担当編集の鈴木さんが、客間のソファに座りこむやいなや、そんなことをほざいた。美談?なんの話だろうか?
「牧之原翔子ちゃんと桜島麻衣さんの間の橋渡し秘話ですよ」
興奮気味に話す鈴木さん。
「俺は、何もしていないよ」
「何もって、ことは無いでしょ?子供専用の臓器移植医療の財団設立に尽力したと聞いていますよ」
「身に覚えが無いです。俺は、伯父に話をしただけで、後は、資金を少し寄付しただけだよ」
「少し?普通の未成年はポンと10億も寄付しません。うちの相談役も感心していますし」
鈴木家の相談役って、あの次郎吉って成金爺さんか?怪盗キッドの大親友で、宝石や絵画をエサに攻防戦をして遊んでいるという。
「あの爺さんだよね?鈴木園子の陵辱画を欲しがっていたのは?」
「それは内緒ですよ。園子が聞いたら引きますから、で、美談はハードカバーで出版しますからね、がんばってください」
俺は、最近、本職が絵描きなんだが…まぁ、バイト感覚で薄い本は描いているけど…
---佐藤美和子---
由美に呼ばれた。由美のマンションへ向かうと、彼女の恋人の太閤名人こと羽田秀吉氏が一緒にいた。
「何?見せつけるために呼んだのか?」
「そうじゃないの。美和子に頼みがあってえ~」
既にヨッパのようだ。
「佐藤刑事の彼氏にたのんで欲しいんです。神代神社で結納式が出来ないかなって」
結納?由美達はようやくする気になったのか。って、私の彼氏って?
「私に彼氏はいないけど…」
「亜樹君よ。美和子の王子様のあ、き、く、ぅ~、ん」
亜樹君…私の彼氏に見えるのか?どう見ても、彼女は麻衣ちゃんか蘭ちゃんの気がするんだけど。まぁ、強いて言えば、恥ずかしい姿を見られたことか。
「でも、亜樹君は神代家を知らないって言っていたけど」
「そんな筈無いですよ」
と、太閤名人が家系図らしき物をみせてくれた。そこには…亜樹君の名前があった。母親の名前は秋桜と描かれていた。安芸桜のことか?ふと、夏美ちゃんの名前も見つけてしまった。亜樹君の双子の妹らしい。えぇぇぇぇ~!
「現当主は、彼の母親の弟で、彼からみれば、伯父さんなんですよ。お願いです。あの神社で結納式を行いたいんです」
と、拝み倒されてしまった。
---鳥居亜樹---
美和子さんから難しいお願いをされた。神主に丸投げしてみた。
『賢者様から許可が出たよ。聖域の神社で執り行うそうだ。聖域なら、僕は亜樹に乗り移れるし』
それは、俺が神主となって取り仕切るのか?
『そうだよ。夏美は神代家の神社の次期当主だからね。聖域では神主にはなれない。その点、亜樹は前世で修験したし』
あぁ、あれか。あれって、夢で無くて前世の記憶なのか…
---佐藤美和子---
神代家の神社よりも格式が上である聖域の森にある神社で、由美と太閤名人の結納式が行われることになった。但し、秘密の儀式な為、その神社には当人しか入れないと言う。家族、友人は神代家の神社で待機となる。一般的な結納式をここで行い、今は由美、太閤名人、亜樹君だけが聖域への入場許可が下り、三人だけで、鎮守の森の先にある聖域の森へ向かった。
太閤名人の家族と初めて会ったのだが、蘭ちゃんの友人の世良ちゃんが、実の妹だったそうだ。宮野先生は、名人の母親の妹だという。
「で、なんで、亜樹君の探偵さんはいるんだ?」
「いや…何となく」
「じゃないでしょ?零君、あなたは、明美の幼なじみでしょうが!」
と笑顔の宮野先生。零君?安室さんの名前って透じゃ無かったっけ?
「本名は零って言うんですか?」
「男の秘密は探らないでください」
って、苦笑いしている探偵さん。
「無事に結納式は正式に終了しました。宴を始めましょうか」
樽酒が樽のまま、鳥居の前に置かれ、ケーキカットならぬ、樽割りが始まり、由美は泥酔状態に…
「ここで戻す分には問題無いです。世俗の垢を落とすのなら、鳥居の外でですから」
と、亜樹君が亜樹君らしくない雰囲気を纏ってウンチクを語っていた。
---鳥居亜樹---
儀式場の掃除をしないと。これが大変である。儀礼ルールに則った掃除方法で無くてはならない。儀式場の脇にある井戸の水で拭き掃除をし、清めていく。鬼門には塩を盛り、悪しき者を追い出す。それが終わったら、境内のホウキ掛けである。澱んだ、濁った気を追い出すのだった。それを巫女と神主の資格者だけ行う。該当者は俺と夏美と、巫女の儀式を受けた明美、真純、志保だけである。重労働だよ。まったく。
「なぁ、蘭ちゃんと桜島麻衣はしないのか?」
って、真純
「したくても出来ない。巫女の儀式を受けていないから」
「なんで受けないんだ?」
「神社の関係者じゃ無いから。それに、バージンじゃ無いとなれないんだよ」
「それって、蘭ちゃん達は…」
「妄想にお任せします」