---鈴木園子---
「はぁ?どういうことですか?私には真さんと言う彼氏がいるんですけどねぇ!」
我が家で騒動が勃発した。伯父様が、私に見合いをせよと迫って来たのだ。
「財閥の孫娘は政治の駒の1つなんじゃよ。いいか?あの家と縁を結べれば、鈴木財閥は安泰になるんじゃよ。あんまり、わがままを言うなよ」
いやいや、わがままを言って居るのは伯父様の方である。私には彼氏がいるんだし…
「しょうがないな。しょうしょう力尽くで…」
まさかのスタンガン…私の意識は闇に沈んだ。
気が付くと、箱らしき物に閉じ込められ、どこかに運ばれているようだ。強引すぎるだろうに。どこの誰と見合いをしろと言うのさ。身体の自由は無い。指先一本も動かない。
「一応、お持ちしました。気にいったのなら、お側において下さい」
外の声が聞こえ、どこかに置かれたようだ。相手の声は聞こえない。
「いらないよ。気に入る前に持って来られても迷惑です」
「手懐けがいが有るでしょ?」
「面倒です。お持ち返りください」
なんか、見ないで返品って、それはそれで失礼でしょ?こんないい女は滅多にいないわよ。
---鳥居亜樹---
なんだろうか?最近、見合いの申し出が多い。結婚する気はまだ無い。まだまだ自由奔放でいたいのだ。
「主様、お客様がお見えです」
「客間にお通ししてください」
「わかりました」
俺を主様と呼ぶ少女。神代家から俺のお側要員として派遣された宮王子蓮という少女ある。文武両道に優れていて、俺のボディガードらしい。見た目は凜々しいのだが、妄想したい気分もある。が、今は客に集中しよう。
客間に向かうと、工藤優作氏と工藤有希子さんがいた。
「この前は、映画に出演していただき、ありがとうございます」
有希子さんに頭を下げた。
「いえいえ、報酬分は働けたかしら?」
「はい、おかげさまで良い作品がつくれました」
ちづるが主演のエアナイトで出演してもらい、お礼に絵画をプレゼントした。畳1畳分のキャンパスに、工藤夫妻の全裸像である。
「実物よりも良かったですよ。私はあんなに若く無いから」
いやいやどうして、子供を産んだとは思えない肉体美であった。未だに未使用と思える色合いで美しいと思ったし。
「で、今日は、旦那様の方ですよね」
「えぇ、君のルーツに興味を持ってねぇ」
「ルーツっていうほどの物はないですよ」
「君の母親は神代秋桜氏だよね?では、本当の父親は?」
「俺は知りませんよ。母親が誰に抱かれたかなんて、見ていないですから」
工藤優作は、俺の実の父親が鈴木家の者では無いと考えているそうだ。
「その鳥居姓は君のだよね?君の母親の再婚相手は鈴木家の分家筋だったし。佐田家も鈴木家も君の家系と縁を結びたいようだ」
この人はどこまで調べているのだろうか?俺の知らないことを…
「俺は俺の事を知らないんです。知っている人を紹介しますから…」
知っている人に訊くのが一番である。
---工藤優作---
彼の側近の少女、宮王子蓮の運転する車で、鳥居亜樹を知る者の住処に向かった。彼の家を出て、森の中の一本道を進んでいる。1時間も走ると、門があり、その門を潜り、未だに一本道を進んでいる。だが、鳥居亜樹の住処から1時間も走ると、森を抜けるはずだが、周囲は鬱蒼とした森である。なにか、場違いな場所に迷い込んだ感覚がある。
「ここです」
いつの間にか現れた屋敷。扉の前には目つきの鋭い男性が立っていた。
「蓮、ご苦労、戻って彼を支えなさい」
「はい。では失礼します」
少女が車でこの場を立ち去った。うん?私の帰りには、また来てくれるんだろうか?
「当屋敷の執事をしています九内伯斗と申します。主人が奥でお待ちです。どうぞ、中へ…」
九内と言う執事の後を追うように、彼の後ろを付いていく。
コンコン
「お連れしました」
客間らしき部屋に通されると、見るからに若い男性がソファに座っていた。
「工藤優作だな。どの時間軸でも謎探しが好きなようだな」
妙な言い回しをする男性。「どの時間軸でも」とは、どういう意味だ?
「まぁ、座りたまえ」
彼の正面に座った。
「で、何を訊きたいんだ?」
「あなたのお名前をお聞かせください」
「僕の名前?訊いてどうするんだ?」
「情報と共に記録に残します。物書きの基本ですよ」
「ふ~ん、そういうものか。まぁ、いいか。僕は代羽周太郎。黙示録の作者の末裔だよ」
黙示録…ヨハネのか?まさか…それは驚愕で、想定外のことだ。
「君はもう気づいていると思うが、ここは、君達の住む世界とは違う。故に君はもう物書きじゃ無い」
おいおい…まさか…
「そう、ここは『とこよ』だよ。君達の住む『うつしよ』とは違う世界だ」
『とこよ』とは神の国とか黄泉の国という生きている人間が来られる場所では無い。
「もう、君は現世では死んだ事になっている。もう現し世には戻れない。鳥居亜樹を知るとはそういうことなんだ」
マズい…相手がマズすぎる。こいつは人外なのだろう。いや、なんらかの神の可能性もある。
「君の推理?調査結果の通り、鳥居姓は亜樹の物だよ。亜樹は僕の下で修行し、罪を償った。その見返りに、現し世でやり直し人生を送らせているんだ」
まさか、鳥居亜樹は神様転生したのか?
「彼は僕の弟子である神代家の神主を助けてくれた。自分の身がどうなろうと構わずにね。そんなソワソワしないでも大丈夫。時間は沢山ある、ここでの1000年は現し世では5分程度だから」
足が床と同化している。もう逃げられないようだ。