---司波深雪---
叔母様から突然の申し入れ。
「本日午後6時からお見合いをセッティングしたからね。行って来てね」
と…まだ、学校である。
「制服で構わないわよ。相手の方は本質を見るタイプだから、見栄えだけではダメですからね」
お兄様にも、叔母様からのメッセージが届いていたようだ。二人で、お見合いの会場へと急いだ。
場所はロッテルバルト、横浜にある喫茶店であるが、情報通のマスターの元へ、色々な組織のメンバーの通っているという店である。
少し早い時間に付き、叔母様が予約しているテーブルに案内された。奥の個室である。
「盗聴などの心配はなさそうだ」
部屋を調べたお兄様がそう言われた。相手はどんな方だろうか?不安が一杯である。
約束の時間が5分ほど過ぎた頃、ドタドタという慌ただしい音と共に現れた。
「ごめんなさい。道に迷いました」
顔の右半分に人工皮膚のマスクを着けた男性と、女性の私の目から見て、美しい女性とかわいい女性が入って来た。男性は私の前に座り、女性二人は、彼の後ろに立った。護衛なのだろうか。お兄様も私の後ろに立っているが…
「これはかわいい女性だね。どこの家系かな?」
「私は司波深雪と申します。四葉家の親類です」
「あぁ、四葉家かぁ。いつもお世話になっていますよ。俺は鳥居亜樹です」
鳥居家?訊いたことが無い家系である。
「学歴は中卒、現在、絵とか本を作っています」
「もしかして、作家の鳥居亜樹さんですか?」
お兄様が質問をされた。
「そうです。お近づきの印に絵をプレゼントしましょう」
背負っていたディパックからスケッチブックを取り出し、5分ほどで描き上げ、最後に落款をおして、私に手渡してきた。
それは短時間で描き上げられる絵ではなかった。モデルである私も息を飲んだ。上半身裸で椅子に座る私…彼には服が透けて見えているのだろうか?
「この落款は…」
お兄様の声が震えていた。
「えぇ、二代目安芸桜です」
国宝級の絵師であった。このようなラフ画でも落款があれば、数千万にもなると言われている絵師であった。着ている物に左右されない、本質を見る目をお持ちなのかもしれない。背筋を冷たいものが走り抜けて行く。
「コース料理かな?茜も蓮も座りなよ。後ろに立たれると落ちつか無いよ」
「わかりました。では失礼します」
二人の女性は彼の両隣に座り、お兄様も私の隣に座られた。
「それって、制服?まだ学生さん?」
「はい、この春から、国立魔法大学付属第一高等学校に通っております」
「随分と固い学校だな。俺とじゃ釣り合わないかな」
「あの私ではダメですか?」
「いや、深雪さんが良ければ問題は少ないけど、俺は高校に通っていないから…いや中学も不登校だったから、実質小卒だよ。いいの?」
笑顔を崩さずにそう言われた。私には決定権は無い。あるとすれば、叔母様であろうか。
「まぁ、よく考えて答えは出してね。じゃ、また縁があれば」
食事を終え、颯爽と私達の前から去って行った。
---鳥居亜樹---
お見合いを終えた後、小淵沢の四葉邸に寄った。
「真夜さん、俺小卒だよ?」
四葉邸の女主人にそう伝えた。
「それがなにかしら?学歴なんて名札と一緒よ」
「そうだけど…あんなかわいい女性は、俺には勿体無いかな?って、言うか、結婚する気は無いよ」
「四葉家を利用するだけなの?つれないわね。あの子じゃ足り無いかしら?亜樹君は目が肥えているから。護衛の方々も上物だしね」
「彼女達は賢者様の配下だよ。俺がスカウトした訳でない」
「賢者様の…では、亜樹君が次期当主かしら?」
「鳥居家は俺一人だから、どうあがいても俺しかいないし。鳥居家の当主なんか、なにも権限が無いよ」
「紡がれる縁が大事なんですよ。権限なんてお飾りにすぎませんからね」
「じゃなんで、この時期にお見合いなの?」
「いずれ、あの子が四葉家の当主になります。その時に鳥居家との縁があれば、後ろ盾になりますから」
結局は、あの子も政局の駒なのか。あんなにかわいいのに…あぁ、妄想が溢れていく…
---司波深雪---
家に無事に帰宅して、一息いれてから叔母様に報告をすると、彼が叔母様の元に来ているという。
「深雪さんのことをべた褒めしているわよ。自分には勿体無いって…あの桜島麻衣の恋人で彼女をプロデュースした彼の目に深雪さんが止まったのよ」
桜島麻衣…今一番売れている女優さんである。ほんの少し前まで、死亡説が流れていたのに…その恋人って…
「恋人がいる人とお見合いですか?」
「えぇ、正妻は望んでいませんからね。彼の愛人か側室になれれば御の字ですよ。それに桜島麻衣は女優を引退するまで、結婚はしません。もしかすると、彼は一生独身になるかもしれないわよ」
そんなことを言われても…
「彼は、四葉家に何をもたらすのですか?」
「不可侵領域の確保よ。縁が紡がれれば、あなたの代の四葉家は、何者にも攻め込まれないの」
鳥居家にはそんな権限があるのだろうか?
◇
その晩、夢を見た。
一糸纏わぬ姿で、彼の前で横になっている。彼の息づかいを感じ、身体が反応していく。萎えていた箇所はムクムクと…乾いていた箇所はムラムラと…彼を求め続ける私。そんな私をみているだけの彼…胸が張り裂けそうである。苦しい…全身から何かが噴き出し…目覚めた。全身ヌメヌメであった。溜まっていた物が吹き出したのだろうか。着替えを持って、シャワー室へと向かった。
---鳥居亜樹---
家出をし放浪をし、お見合いをしたが、家に帰ると変わらない日常が待っていた。朝、夏美と共に神主の神社へ行き、掃除をして由美さんの様子を見て帰る。断酒中なのに朝が弱い由美さんを起し一緒に掃除をする。儀式場の床の雑巾掛け、境内の雑草摘み、落ち葉の掃除など…もうすぐ冬である。雪おろしが大変な季節だ。由美さんは対応仕切れるのだろうか?巫女には後、真純と蘭、繁忙期にはのどかや瞳をバイトとして雇うか。夏美は人事面、経理面はノータッチだし。俺は俺で忙しいんだぞ。
家に戻り、かえでと翔子ちゃんの体力アップトレーニングを付き合い、お昼には三人でキャッツアイへ、そして、午後から執筆活動である。麻衣とちづるは東京で民放の連ドラの撮影で、年末年始には戻ってくるらしい。
「パンダさんはいつ来るんですか?」
「春かな~」
かえでの質問に答える。
「私は将来、麻衣さんと共演したいです」
「応援しているよ」
翔子ちゃんは既に佐田芸能と契約を結んでいる。立派な女優の卵である。
「何よ、その目は…」
「瞳でショートケーキを作りたい」
狼狽えている瞳に妄想を口走り、トレイで叩かれる日常…平和だな。
執筆活動は平和と程遠い。言わば、戦場である。まさに時間との闘いである。う~ん、美和子さんを抱き枕にして昼寝したい。ネタギレであり、現実逃避中でもある。担当編集の鈴木さんから、執筆活動中の描画は禁止されていた。妄想が膨らんでいく。どうするか?自分で処理かぁ、味気ないなぁ。