---安室透---
ドアベルの音で入店してきた客を見ると、警視庁の佐藤刑事がいた。たしかレイプされて、今は休職中だったな。
「安室さんは副業で探偵されてますよね?」
俺の前に立ち止まり、射貫くような視線を向けてきた。流石の俺でもたじろぐような圧を感じる。
「そうですけど…」
「二代目安芸桜という絵師を調べて欲しい」
聞いたことが無いなぁ。
「どんな絵を描かれている絵師さんなのですか?」
カバンの中から書籍を取り出すと、ドンとカウンターの上に置いた。画集のようだ。『絵師 安芸桜の世界』と背表紙には書かれている。
「この絵なんですよ。問題なのは…」
佐藤刑事が指し示した絵には『天狗の調教』と題名が書かれている。
「この絵がなにか問題でも?」
力強い目力で俺を睨む佐藤刑事…
「見た目、問題が無いから、安室さんに頼んでいるんですよ。問題があれば、警察で捜査します」
意味が分からない。受ける方向で、画集も借りた。
◇
この作者…あり得ないシチュエーションの絵が多い。妄想で描いているのだろうか?例えば『楽園』。顔ははっきりと描かれていないが、全裸の俺が仁王立ちし、股間にはベルモットが顔を埋めているし…俺はモデルした覚えは無いが、この身体は俺である。割れた腹部、毎日鏡で見ている俺の腹である。佐藤刑事の依頼、興味が湧いたよ。
二代目安芸桜と契約している鈴木画廊へ向かった。
「あれ?安室さんも絵画の鑑賞するんですね」
って、鈴木園子さんと毛利蘭さんがいた。そうか、鈴木画廊は鈴木財閥の傘下なんだな。
「ちょっと知り合いに画集を見せて貰って、実物を見ようと…」
最新作の『天狗の調教』しか無いぞ。もう売れたのか?
店員に画集を見せてきいてみた。
「この画集に出ている絵画の実物を見たいんですが」
「あぁ、この殆どは佐田グランドホテルの桜の間に常時展示されていますよ。佐田様は、絵師安芸桜の作品のコレクターなんですの」
佐田グランドホテルか。
---鳥居亜樹---
庭で狩り取った草木から染料を煮出している。普通の絵の具からでは出せない色があるので、それを探すのは絵師の仕事である。この前の絵は1億5000万で売れたそうなので、当分の間、ノンビリと生活ができそうである。
「おにいちゃん、お客さんだよ」
夏美に呼ばれ、釜焚き場から玄関に向かった。玄関には顧問弁護士の妃先生と女子高生らしき女性がいた。
「ながらく、娘が謝罪できなくて、ごめんなさいね」
あぁ、この子が娘さんなんだ。
「本当に新一にソックリねぇ」
って、俺は誰かにソックリらしい。二人を客間に案内すると、娘さんが何かを見て固まり、
「そうか、お前が犯人なのね」
って、回し蹴りを喰らった。
頭がズキズキする。眼を覚ますと病院のベッドの上である。妃弁護士は夏美に謝っている。なんでだ?
「あ、お兄ちゃん、意識が戻った?」
「なんで、俺、病院にいるんだ?」
「また、妃弁護士の娘に病院送りにされたんだよ」
「原因は?」
「お兄ちゃんのサンプルに彼女のデッサン画があって、のぞき魔に間違えられたんだよ。単なる妄想大王なのにね」
あぁ、脳内保存していたあれか。そうだ、草木を煮出す前に、客間で妄想デッサン画の整理をしていたんだ。アトリエだと絵の具で汚れるから、きれいな客間で…
「二度も、本当にごめんなさいね。申し訳ないんだけど、警察沙汰にはしないで欲しいの」
執行猶予が消えちゃうからか。
「いいですよ。不幸な事故ってことで…後日、民事請求するかも知れませんが」
「えぇ、わかっています」
股間に手を伸ばすと、既に挿管済みのようだ。これ、外すのも痛いんだよな~