---江戸川コナン----
蘭が同じ相手を再び病院送りにしてしまったそうだ。それも妃先生の目の前で…今は隣の自室にこもり、啜り泣いている声が聞こえる。何をしているんだ?
「新一がこんな時に居ないなんて、許さないんだからね」
えっ?怒りの矛先が俺に向かっていないか?なんでだよ~
---鳥居亜樹---
やっと退院出来た。オシッコをすると、挿管を抜いた後が痛いが…右頬に傷跡が残ってしまった。顎骨が粉砕骨折したそうで、人口関節を入れた手術痕である。
「これで、人違いは無くなるね」
って、含み笑いの夏美。もう入院はイヤだぁ~。久しぶりにガレージで車の整備をしていた。ジャガーマーク2、母さんの遺産である車。まだ、俺は自動車免許を取れる歳ではないが、整備をして来る時に乗れる様にしている。
隣には美和子さんの愛車であるRX-7 FD3Sが置いてある。整備を頼まれたのだ。由美さんとの出会い以来、俺達の事を気に掛けてくれ、非番の度に来てくれていた。
「どう?」
「大切に乗られていますね。サスとブレーキはメンテ済みで、小石を跳ね上げた細かい傷は、補修しておきました。オイルも交換済みです」
「ありがとう。でも、このジャガーは美しいなぁ」
「えぇ、母さんの形見ですから。いつか免許を取って、これに乗って、取材旅行をしたいです」
我が家のガレージは修理工場並の大きさである。夏美の金型を作る為の設備もあるし、俺のバイクを整備するスペースもある上、ジャガーの交換用パーツも保存しているし。俺の亡き母は、車のマニアだったらしい。
「向こうに見えるお屋敷は?」
ガレージの窓から指を指して訊いてきた美和子さん。
「あっちは母屋です。俺達の住んでいるのは離れですから」
「ふ~ん、母屋は誰が住んでいるの?」
「無人ですよ。未だに規制線が張られて、俺達でも入れないし」
「規制線?なんで?」
「母屋で殺人事件が起きて、警察が証拠保全しているんですよ」
あれ?美和子さん知らないのか?
---佐藤美和子---
非番の翌日、出勤した足で、資料室に向かった。未だに証拠保全の為に、規制線を張られている亜樹君の家の母屋。何があったのだろうか?
「何を調べるつもりかね、佐藤君」
記録をまとめている箱を探していると、上司の目暮警部に声を掛けられた。
「鳥居邸殺人事件の資料を見ようかと…」
「君もあの事件に興味を持ったのかね?」
「私も?」
「あぁ、公安も興味を持ったらしく、関係資料を持ち出されてしまったよ」
そこで、目暮警部に興味を持った切っ掛けを話した。
「鳥居亜樹、夏美兄妹と仲良くしているのか。妃先生が事件以来、彼らの顧問弁護士をされている。彼女に訊いてみたら、どうかな」
目暮警部のアドバイスを貰い、暇な時間に妃先生を訪ねた。
◇
「そうだったの、最近、友達が出来たって、美和子さんと由美さんのことなのね」
妃先生に、近況を話したら、どこか嬉しそうにしていた。
「高校にも行かず、友達を作る機会が無いから、心配していたのよ。私の娘を友達にって考えていたら、蘭があんなことをするから」
世間は狭い。蘭ちゃんが傷害事件を起こした相手は亜樹君だったそうだ。確かに工藤新一君に似ているものな。
「で、事件についてだったわね」
「えぇ。後、何故未だに規制線が張られ、亜樹君達ですら出入り禁止されているのかです」
「端的に言えば、亜樹君、夏美ちゃんも容疑者だからよ。家族で無事だったのは、あの二人だけ。それも離れにいたって…でも、彼らがやった証拠は無いし、彼らの姿は監視カメラ映像にも映って居なかったの」
母屋周辺には監視カメラで、侵入者を警戒していた。有名な推理作家と有名な女優の夫婦の住む家、粘着質なファンに対する対処らしい。まして、彼らの長女は人気アイドルだったそうだ。そんな誰もがうらやむ家族の闇…亜樹君と夏美ちゃんは、離れで暮らして居た。育児放棄である。華やかさが無い者を離れに隔離して、いなかった者として扱っていたらしい。
救出された二人の身体にはDVの後が刻まれていたそうだ。彼らの供述によると、母親と姉のストレスのはけ口に、父親は自分の書斎に缶詰になっており、二人を気に掛けていなかったらしい。それを裏付けるように、母屋にある写真には親子3人の姿を撮した物しか無かったそうだ。
「それで、亜樹君と夏美ちゃんが、疑われたのですか?」
「そう…で、監視カメラに映らない経路を今も調べているので、現場を遺族へ返却されていないのよ」
離れから、事件のあった母屋へ、彼らが移動する際には、監視カメラに映るはずなのだが、映っていなかったそうだ。地下通路を疑い、庭を掘り起こそうとしたらしいが、亜樹君の実母、初代安芸桜邸は文化財の指定を受ける歴史的な建築物と庭園であり、文化庁から許可が下りなかったらしい。
そう、あの広大な敷地は亜樹君の実母の遺産であり、相続人は亜樹君だけなのだった。安芸桜本人が文化庁へ宛てた遺言書にそう書かれていたそうだ。再婚相手に財産を食い潰されないように、自分の後に入るであろう後妻に、亜樹君が殺されないように、文化庁に念を押して、亜樹君の保護を頼んだそうだ。
だが、後妻にはいった女優は、文化財である母屋を無断で改築し、蔵に入っていた安芸桜の国宝級の作品を何点か売りに出して、贅沢三昧をしていたらしい。
その為、捜査陣は好き勝手している後妻に恨みを抱いた亜樹君が犯行に及んだと思ったそうだ。12歳の少年の凶行…そう結論づけたのだが…
「三人の死に方が奇妙で…父親は書斎で餓死をしていた。書き始めると寝食を忘れ、仕事の没頭するそうで、後妻かアシスタントが時間を管理していたそうなの。その後妻は、寝室で窒息死。苦しんだ様子も無く…一番の問題は長女なのよ。自室は血まみれだったけど、未だに発見されていないのよ」
「その長女がやったって線は?」
「一人で生きられる生活力は無しの上、事件からもうすぐ5年だけど、目立つことが好きな彼女が、人目を忍ぶって生活は出来ないってことで、殺されたと誰もが思っているわ。この私もね」
「父親のアシスタントは?」
「これも、未だに行方不明なの。長女とアシスタントの駆け落ちならば、シックリ来るんだけど」
アシスタントは女性だったらしい。
「じゃ、亜樹君達は監視対象?」
「それは違うの。保護対象よ。成人になるまで、亜樹君の財産は私と文化庁で管理をしている。そもそも、亜樹君達は父親の遺産すら手を付けていない。自らの稼ぎだけで生活をしているのよ」
絵師として、推理作家として、ラノベ作家として、フィギュア製作者として…
「彼らも、他人には興味が無い。まして、別居していた家族なんか、いなかった者と同じだと言うのよ」
家族愛が無い訳では無い。あの兄妹を見ていて思う。互いが互いを信用し、信頼しているようだし。
「だから嬉しいのよ。美和子さんと、由美さんが彼らと交流を持ってくれて…」