を、三人称視点で眺めるやつです。
せっかくのTSなのに三人称視点だし本人が性転換に対して動揺を見せてないのでTSの醍醐味が限りなく薄い仕上がりになってしまっています。
TRPG「ブラッドムーン」+「ギルティウィッチーズ」キャンペーンNPCのセルフエロパロ。
製造元がBLを書くタイプなのでボーイズラブタグつけるかで迷ってしまった。
肉体的には男×女の描写しかないし男男恋愛描写があるわけでもないので一応なしにしておきます。必要そうだったら付けます。
あの動画を見たのは現実のことだったろうか。今でも振り返っては疑問に思う。
当時の自分はオカルト話やらアングラなネタを掘るのにハマり始めていた。
バベルネットだとかいう胡乱なフォーラムに出入りしていたのもその一環だ。裏社会で糸を引く吸血鬼の脅威だとか、人を殺すモンスターを殺して食う話だとか、およそリアルでは鼻で笑われそうな書き込みが大真面目に並ぶその掲示板の空気感は、大昔のオカ板を彷彿とさせて心地が良かった。
件の動画はその掲示板で見つけた。スレッドタイトルは「たぶんすぐ消える」、本文には外部の動画サイトへのリンクが貼られるのみ。サムネイルは薄暗く、それだけでは内容は窺えない。
なんだこれはと不審に思ったが、そのスレに連ねられる「マジのやつじゃん」「これ本当にあったんだ」「探してた」などといった書き込みに好奇心を擽られ、気付けば再生ボタンをクリックしていた。
■
『ちゃんと撮れよ~』
男の声と共に、まずは運転免許証が映し出される。どんなアングラな映像が始まるのか期待していたから、正直拍子抜けだった。
免許証は
疑問を抱く間に運転免許証が放り捨てられる。そしてカメラが角度を変えた。こちらを睨む少年の姿が映し出される。
「うわっ」
思わず声が漏れた。その鋭利な眼光に、自分までもが射抜かれたように感じたからだ。
先程の運転免許証の少年だろう。つまりは海野標だ。紺色の上着にTシャツ、下はジーンズのラフな格好。打ちっぱなしのコンクリートの内装や、積み重なった段ボール箱を見る限り、撮影場所は屋外倉庫といったところだろうか。吊り下げられた電球がゆらゆらと彼らを照らしている。
少年は薄汚れたコンクリートの床の上に胡座をかいている。かたや金髪ツーブロック、かたや耳も口元までピアスだらけ、といかにもな出で立ちの男二人に挟まれ、肩を抱かれていた。両腕は背中の側に回されている。どうやら後ろ手に縛られてもいるようだった。
相変わらず目つきは鋭い。だが、こうして見ると運転免許証の写真よりも線が細いな、と思う。面立ちもより幼く感じられ、やはり少年という表現の方がしっくり来る。
その少年だか男だか、まあ海野標でいいだろう。両側の男の他に、タトゥーを入れた男が立って、海野標を見下ろしている。どうやらこの男が集団の主犯格らしい。一際体格の良いその男は、顔にも古い切り傷らしきものが刻まれ、強面を際立たせていた。どの男も彼よりも年齢体格ともに彼を上回る。
海野標はその中で萎縮する様子は一切なく、怒りを込めて男たちを睨めつけている。
『っ! ――――!』
不意に海野標がカメラに向けて何かを叫んだようだった。が、それに合わせて音声が切られてしまう。動画をアップロードした者にとっては都合の悪い何かなのかもしれない。やがてタトゥーの男が、こちらへと叫ぶその頬を殴りつける。
鈍い音がした。海野標の身体が床に叩きつけられた音だ。動画のミュートが解除されたのだ。
『オイオイ、何事だよ標ちゃァん』
地に蹲った標の頭を、レザーブーツの踵が踏み躙る。嘲笑うような男の声の、ちゃん、の部分を強調するように、奇妙なイントネーションが置かれていた。
『助けでも期待してんのか? 天下無敵の海野標サマがよォ』
踏み躙られる少年の頭へとカメラが近づく。アップになったその眼光は未だ衰えず、彼を嘲る男を向いていた。
『そんなチャチな手錠一つで逃げられなくなったとか言わねえよな? まさかその程度で――』
『アホらし』
『あ?』
思ったより声が高いな。そんな場違いな感想を抱いた。先程は叫びかけたところで音声が途切れたから、声を確認することはできなかったのだ。
低く抑えたハスキーボイス。海野標はそういう声をしていた。
そういえば、手錠を嵌められているのか。てっきり後ろ手に縛られているものと思っていた。などといった見る側のとりとめのない思考を他所に動画は進む。
海野標は鼻白む気配を一切見せず、男たちにドスを効かせて声を張っていた。
『んなイキれるようなこと、手前らがひとつでもしたかってんだよ』
『あ?』
『どういう意味だよ』
『どうもこうも』
ブーツの爪先で顎を上げられながら未だ怯みもせず、海野標は男らへと吐き捨てる。
『どうせこの遺物だって魔女に用意してもらったんだろ。そんで嵌めてもらうのも魔女頼りと来たら、お前らが自分で成し遂げたことってなんかあんのか』
魔女。魔女?
そういえば魔女がどうこうとかいう書き込みも見かけたことがあった気がする。するが、その話題はバベルネットですら与太話として扱われていたはずだ。それをこういう緊迫した場面で出されてしまうとなんというかこちらとしては気が抜けるのだが、どうやら動画の登場人物たちはみな真剣なようだった。誰の茶々も入らない。
海野標はすっと目を細める。口の端には血が滲み、こめかみにはコンクリートで擦られた赤い痕ができていた。
『太鼓持ちでイキんのも別に自由だけどさ、虚しくなんねえの』
男のブーツは少年の顎元に添えられている。その気になればいつでも顔面を蹴り飛ばせる姿勢だった。そうなっても構わない、ということだろうか。
少なくともその瞳に怯えの気配は窺われなかった。
『……んな奴らにいいようにされてる自分に、疑問は抱かないんですかねえ』
タトゥー男の低く唸るような声にも、彼は肩を竦めるような仕草を返す。
『別に。俺がしてやられたの、お前らにじゃなくて魔女にだし』
あっけらかんと言い放って、まあそれはやらかしたなと思うけど、だとかため息をつく。完全に男たちをナメきっている態度だ。今の海野標は拘束されていて、様子を見るに抵抗もできない状態で、この男たちが暴力の行使に躊躇いのないことは理解した上で、それを全く恐れていない。不敵を通り越して不遜とも感じられた。
同じことをタトゥーの男も思ったのだろう。横たわる海野標の胸元を踏みつけながら、さらに声のトーンを落として凄む。
『テメエ、これから何されるか分かってねえだろ』
『それなんだけどさ』
アダルトビデオみたいな展開になってきたなあ、と思う。というかアダルトビデオなのかこれは。それにしてもテンプレめいた三下セリフを吐くものだ。ある意味すごい。もしかしたらそういう台本とかのやつなのかもしれない。
そんな風にのんびりと考え始めていたものだから、
『わざわざ女にしてもらわないとレイプもできねえの』
海野標の言葉の意味が理解できず、思わず首を捻ってしまっていた。
――女にしてもらわないと、とか言った? どういう意味だ? 聞き間違いか?
『……どういう意味だよ』
『俺が男のままじゃ下剋上もできねえのかって言ってんだけど。魔女におねだりしたワケだろ、要するに』
タトゥーの男が訊き返すも、結局海野標の答えは自分には理解できないものだった。諦めて動画を少し戻す。
『女にしてもらわないとレイプもできねえの』、『俺が男のままじゃ下剋上もできねえのか』やはり聞き違いではないように思う。続けられた言葉を素直に読み取ると、魔女がこの少年を女に変えたらしい、という結論に帰着するが、いやいやいや。
「……よく分からん設定のAVだな」
しかし再確認してみると最初に映された運転免許証の顔と直接映される海野標の顔立ちは微妙に異なっているように感じられる。少し幼くなったように思えたのは女にされたから、ということなのだろうか。恐らく写真の方が男性的に見えるよう加工されているのだろうが。
改めて珍妙な設定のビデオだな、と腕を組んだところで、何度か巻き戻したせいで読み込み中になって止まっていた動画が再開される。
少し前のやり取りを再び見せられてから、海野標という少年――いや、少女か? 設定上男ということにはなっているらしいし、少年として見る方がいいのかもしれない――は相変わらずの胆力でゆっくりと男たちを見回す。
やがてそれで、と冷めた瞳で吐き捨てた。
『お前らは女になった俺が相手でも、こんなチャチな手錠がなきゃ歯向かえねえの』
煽るような、同時に噛んで言い含めるような響きを含む、持って回った言い回しだった。
『別にお前らまとめて相手してやってもいいけど。前みたいにやるか? ――』
途中でタトゥーの男を見上げて笑う。途中で音声が途切れたのは男の名でも呼ばれたからだろうか、彼がぴくりと肩を跳ねさせる様子が動画には映っていた。どうやらこの動画、海野標以外のプライバシーには配慮するといった体で撮影されているらしい。先程の海野標の叫びが消されたのも同様の理由か。
今の海野標は拘束され、床に転がされ、胸をブーツに踏みつけられている。自分に敵愾心を向ける男たちに取り囲まれている。
『俺んこと見返したいんならさあ、普通に掛かってくればいいだろ。受けて立つし、したらそれだけでも結構見直すし』
そのようなどうしようもない劣勢にもかかわらず、海野標は堂々としたものだ。理屈っぽく言葉を捏ね回し、彼らを挑発すると同時にその矜持を刺激するように声を張る。彼らの良心には一切期待していないが、プライドには可能性を見出している、とでもいったところか。
実際、拘束された線の細い少年を強面の男たちが取り囲んで勝ち誇っているというこの構図は、横から見るとなかなかに情けなく映る。それが魔女とやらの第三者に頼って成し遂げたのであれば尚更だ。海野標が少しでも萎縮する気配を見せていれば話は変わったかもしれないが、その片鱗すら窺わせないのだから益々しょっぱさを感じさせられてしまう。
『何から何まで魔女にお膳立てしてもらってイキるよか、よっぽど建設的だと思うけどな』
そこんとこどうよ。煽るように言って、海野標は男たちへと視線を向ける。タトゥーの男を除いた二人は、その視線から逃れるように顔を背けていた。
なるほど彼らにまともな誇りが僅かなりとも残っていれば海野標の思う通りに事態を動かせたかもしれない。そう思わされる程度には、彼はこの場の空気感を支配していた。
しかし同時に視聴者の立場から理解できることがある。
ここで彼らが大人しく引き下がる展開になるならば、この動画が掲示板に貼られることもないだろう、ということだ。
『……そうかい』
タトゥーの男が低い声で唸る。一時の静寂を、鈍い音が打ち破った。
ブーツの爪先が少年の頬を蹴り飛ばしていた。
再び床に叩きつけられた海野標の顔に、しかし落胆の色はない。もともと駄目元での煽りだったのだろう。赤く腫れた頬と対照にその瞳は冷めきっていた。
ぼそりと呟く。
『どうしてそう意味ない見栄を張るかね……』
『こっちの台詞だ。手前、自分の立場忘れてんじゃねえだろうな』
タトゥーの男は海野標に凄んでみせてから、ツーブロックの男を振り返る。
『オイ、アイス出してやれ』
その言葉に海野標が眉を跳ねさせた。丸く見開いた青い瞳でタトゥーの男を見上げる。
この少年が僅かながらとはいえ、初めて狼狽の気配を見せた。それを意外に思いながら複窓を開く。アイスという言葉の意味を調べるためだ。
仲間の男たちも戸惑っている様子だった。海野標同様、もしくはそれ以上に驚いた顔でリーダー格の男へと問い返す。
『え? マジっすか』
『冷たいやつ出すんですかぁ? もったいねー』
『いいから出せ。ここまでコケにされて引き下がれるか』
アイス、意味、隠語、まで入れてやっとそれが覚醒剤を意味する言葉であることに辿り着いた。一部では割と常識的な話らしく少し恥ずかしさを覚えた。
しかし、アイスと聞いて即座に顔色を変えてみせたこの少年は、やはり真面目そうに見えて裏社会に精通している人間らしい。ガラの悪い男に囲まれて一歩も引かない姿を散々見せつけられて今更なのだが、改めて再確認させられるとなかなか感じ入るものがある。
そういう設定に過ぎないのだろうとは、思うが。
『……お仲間、渋ってるみたいだけど』
『っせえな』
『考え直したら。お前らがキモチヨクなるために仕入れてんだろ、俺に使ってどうすんだよ』
『いざとなったらアイツに頼めばいくらでも出してくれるだろ』
『……まーた魔女頼りかよ。恥ずかしくないのかね』
魔女。そういえばこれも何かの隠語かもしれないと調べてみたが、流石に引っかからない。彼らにのみ通じる符牒のようなものなのだろうか。
『まあまあ、よく考えてみろって』
タトゥーの男は奇妙に朗らかに笑ってみせる。そこに不気味さを見出すのは海野標も同じなのか、嫌そうに眉を寄せているさまが映されていた。
『その魔女頼りの人間にコケにされまくって何も出来ないでいる、お前は恥ずかしくないのかって話になるぜ?』
『…………』
さすがに反駁のしようがないのか、返答の代わりとばかりに鋭い眼光がタトゥー男を向いた。
そうしている間に、タトゥーの男へと四角い金属製のケースが手渡される。そこから注射器が取り出される一方、仲間の男たちは再び少年を両脇から抱えた。Tシャツの襟を捕まれ、細い首を大きく露出させられる。
電球で照らされる薄暗さの中、その首の白さが奇妙に映え立っていた。
楽しげに注射器を弄ぶ男のさまに、海野標はあくまで呆れた風に吐き捨てる。
『……洒落になんねえぞ』
『俺ァずっと洒落のつもりはなかったんだけどな。まさか洒落だと思ってたか?』
返答はない。海野標は男を睨み返すのみ。それに気を良くしてか、タトゥー男は身を屈め、鼻歌交じりにその首へと注射器を近づけていった。
白い首筋に注射針が突き付けられる。あと少し力を込めれば針先が首へと潜り込む。
まさにその瞬間、海野標はタトゥー男の目元へと唾を吹きかけた。
『づお、ッ!?』
『わあっ』
振り上げた右足を股間へと叩き込み、左側のピアス男の顔面に頭突きをかます。撮影者のものらしい情けない喚き声も聞こえた。それからはカメラがブレてよく見えなかったが、どうやらもう一人の男にも何らかの一撃をかましたらしい。野太い男の悲鳴が上がる。画面は明後日を向き乱れ、薄汚れた床が映され口の開かれたボストンバックが映されと視聴者の映像酔いを誘う。
『この野郎!』
『……っ!』
怒号、固いもの同士がぶつかる音、押し殺すような悲鳴、男の荒い呼吸音。
やっとのことで定まった画面は、やがてうつ伏せに転がされた海野標を映し出した。彼を拘束する手錠がここに来て初めて確認できる。どうにも状況には見合わないきらびやかな色と装飾をしているというか、まるでジョークグッズのような造りのそれが奇妙に滑稽だった。
だが、床に倒れ込んだ彼は先程見せた大立ち回りとは裏腹にぴくりとも動かない。その様子はとてもジョークで片付けられるものではなかった。
『そ、いつ死んだんすか……!?』
『流石にヤバいんじゃ……』
『うるっせえな! 今更だろ! そもそも悪いのは暴れた方だろうが』
タトゥーの男が仲間たちに吠え、目元を拭いながら海野標を抱え起こした。脈拍を確認しているのだろうか、顰め面でその首に手を当てる。
すぐに肩を落として大きく息を吐いた。
『……生きてるよ。ビビらせやがって……』
『は~……』
その言葉に、他の男達も安堵の息を漏らす。撮影者の大きなため息が一際大きく響いた。
しかしシャブだのレイプだの言い出すくせに、いざ相手が死んだかもしれないとなるとこんなにも動揺するものか。海野標は彼らのこの小心も計算に入れて煽りを入れていたのかもしれない。ただ単にプライドの高さから来たものだったかもしれないが。もしくは死ぬことが恐ろしくないのか。
どちらにせよ、今の彼に意識はない。挑発も抵抗も全ては無駄に終わった。
『ったく、手こずらせやがって』
『急に暴れるから驚きましたねえ』
『ずっと大人しかったのは油断させるためだったんかな』
『だろうな。可愛げのねえ奴だ。……今のうちに打っちまうぞ』
脱力した細い身体が仲間たちに引き渡される。これは彼らにとっての幸いで、海野標にとっての不幸であるが、先程の乱闘で覚醒剤が駄目になってしまうようなことはなかったらしい。今度こそ無抵抗の首筋へと針が宛てがわれ、潜り込む。
そのまま親指は躊躇いなくピストンを押し込んだ。覚醒剤が音もなく打ち込まれていく。
海野標の反応はなかった。意識がないから当然なのだが、ついさっきまでは気丈に振る舞っていた姿の対比か、その静けさがどこか空恐ろしく感じられる。
取り返しのつかない事態が進みつつある。そのことを否応なしに実感する。
やがて役目を果たした注射器が放り捨てられる。
『オラ。さっさと起きろ』
タトゥーの男が何度か海野標の頬を張るが、その瞼は伏せられたままだ。うめき声ひとつ漏らさない。苛立たしげに一発、音が鳴るほど強く張り手を入れても依然反応はなかった。
『完全にオチちゃってます? なんか意外っていうか……』
『ビルから落ちても車に跳ねられても平気そうだったって話聞いたことあるんスけど、さすがにガセでしたかね』
こいつらは何を言っているんだ。いくらなんでもガセネタに決まっている。漫画やアニメのエピソードじゃあるまいし、と眉を潜めたが、
『いや、それは事実。まあ手錠が効いてるんだろうな』
タトゥーの男があっさりと彼らの言葉を肯定するものだから、呆れ果てるべきか混乱するべきか分からなくなる。いやいやいくらなんでも有り得ないだろう。だが動画の中の彼らは大真面目にその話を信じているようだった。
違う、と思い直す。これはそういう設定の話で、フィクションでアダルトビデオで、そのはずだっただろう。時折出てくる不可解なやり取りからそう結論付けたはずだったのに、何を惑わされているのやら。
繰り返し言い聞かせながら、しかし認めざるを得なかった。
この映像には奇妙な生々しさがある。
そういう創作物だと都度確認しなければ、そのことを忘れてしまいかねないほどには。
力の入らない痩身が、巨躯の男たちに弄ばれている。
『ああもう、面倒くせえな! このまま始めちまうか』
『それがいいかもしんないスねー。いつ邪魔が入るかもわかんないし』
結局彼らは海野標を起こすことを諦めてしまったようだった。ツーブロックの男に身体を支えさせ、タトゥーの男は腰のベルトから抜いたナイフでTシャツの前をざくざくと裂いていく。
それを見守っていたピアスだらけの男がふとこちらを向いた。正確には多分、撮影者の方を。
『ほらお前、始めるからなー。ちゃんと撮ってろよ』
『はっ、はい!』
そのやり取りだけで彼らの間の上下関係が察せられるようだった。一人だけ特に意見を求められることもなく、ただカメラを回させられているのだからさもありなんといった具合だが。
意識を失ったまま服を裂かれた海野標の肢体へと画面が近づけられる。
『傷多いな』
『なんか意外ですね』
この男たちと意見が一致するのはいまいち嬉しくないが、同じことを思った。曝け出された白い素肌には大きな傷が散見された。抉られたような、貫かれたような傷が大半だ。少なくとも日常生活で受けるような傷ではない。
その全ての傷は既に塞がっているようだったが、それでも痛々しい印象は拭えない。
『胸あんのかこれ?』
『揉み心地しょぼいっすね。ないわけじゃねえけど』
『もっと注文つければ良かったかも。パイズリできるくらいにしてやってください! みたいな感じで』
『後で頼んでみるか?』
下卑た会話をBGMに、その胸に節くれ立った指が這う。そこでやっと胸元の膨らみに気付いた。傷のインパクトにすっかり気を取られてしまっていた。
彼らの言う通り決して大きくはない。手のひらに揉み込まれて辛うじて形を変える程度の胸の脂肪と、尖った先端が指先で弄ばれるさまが見える。
薄暗い画面や背を丸めるような姿勢では分かりづらかったが、やはり海野標は女であったらしい。彼ら風に言えば、女になった、か。そういえばブラジャーもつけてないように見える。設定が徹底している。
それにしても突飛な設定だ。そのように改めて再確認する。
タトゥーの男が海野標のベルトを解く。ズボンごと下げられた際に僅かに垣間見えた下着も、どうやら男物であるように思えた。
『御開帳~』
邪魔な靴もまとめて下履きを放り捨て、腰から下は靴下を残すのみだ。上半身ほどではないが傷の目立つ脚は、少女めいた肉付きの薄さだった。生白いそれがほっそりと力なく伸びている。
その身体を抱え込んでいたツーブロック男が膝に手をかけた。そのままM字の形に脚を開かせる。意識のない海野標は人形のようにされるがままに男の胸に頭を預けている。だから薄暗い中にもじっくりとそこを観察することが叶った。
ぴったりと閉じられた桃色の秘唇。想像よりも毛は薄く、アダルトビデオで見るものよりは肉感に欠ける。幼いというか、清楚な印象を抱いた。モザイク無しのそれを見るのは初めてだ。思わず釘付けになってしまっていた。
『これが海野標ちゃんのオマンコで~す』
タトゥーの男の声に被さるように、どっと品のない笑い声。はは、と撮影者の愛想笑いが僅かに混ざるのが聞こえた。
『まあそりゃキレーなもんだよなー、経験あるはずねえもん』
『まさに処女って感じ』
『膜もあるしな』
男の指がその秘裂をこじ開け、生々しい濃桃色と襞とが露わにされていく。途中、唾らしきものが吐きかけられた。滑りをよくするためだろう。唾を塗りつけた指がそのまま肉を開き、潜り込む。
そのさまを固唾を呑んで見守っていた。
『ほら、起きろって』
『このまま処女なくすぞ~いいのか~』
軽薄な声。抱え込まれた身体が揺さぶられ、折り曲げられた膝から先がゆらゆらと振れた。ピアス男が手持ち無沙汰に胸の膨らみを弄り始める。
一方でタトゥーの男は熱心に下をまさぐっているようだった。男の身体が邪魔でその様子を確認することはできないが、くちくちと小さな水音が立つのが聞こえ始めている。先程塗り込まれた唾液だろうか。或いは。
『濡れてきたな。やっぱガキはクリだわ』
やはり、そういうことなのか。
『オンナとしてはゼロ歳だからそりゃそうっしょ』
『つってもキマってきたら分かんないんじゃないすか。そのまま開発してやりましょうよ、折角シャブ入れたんですよ』
『ったりめえだ。見てろよ』
意気込む男らとは裏腹に、それからしばらくは地味な絵面が続いた。せっかくのモザイク無しの局部もタトゥー男が邪魔で見えず、他の二人は胸を揉んだり肌を撫でたり傷跡をなぞったりとのんびりとした愛撫を手慣れた様子で繰り返す。その様子をカットなしの引きで見せられ続ける。
しかし引きだからこそ伝わるものもあった。服を破られ、または脱がされて晒された傷だらけの白い肌が、少しずつ赤みを帯びていく緩やかな変化。眠るようだった表情にも僅かに変わっていくのが窺える。全身と同じように赤らみ始めた頬と、どこか苦しげに寄せられた眉と。
『……ぁ』
耳障りな水音の響く中でも、その微かな声はよく通った。
男たちにドスを効かせていたのと同じ喉から発せられたとはとても思えない、甘やかで幼い少女の声だった。
当然彼らはそれを聞き逃さない。にやにやと下卑た笑いを突き合わせ、軽く海野標の頬を叩く。
『起きたか?』
『……いや、まだすね。寝たまま感じてるっぽい』
『落ちながら一端のオンナにされてるってことかあ』
他人事のように言い交わしつつ、タトゥーの男が撮影者を手招きする。慌てた様子でカメラが寄ると同時に、男は撮影の邪魔にならないように体勢を変えた。濡れそぼった割れ目の肉を割り開き、中へと潜り込んだ指が蠢かされている様子が大写しになる。開かされた太腿の付け根が薄く光っているのは汗ばかりではないだろう。
性経験のない自分では妄想を含まらせるしかないが、指はその中で何かを押し込むような動きを淡々と繰り返しているようだった。そのたびひく、と折り曲げられた腿が跳ねる。
そして。
『あ、あっ、……あ』
先程よりも明確に、甘い声が上がった。それも男の動きに合わせて。
水音がさらに激しくなり、伴って声のペースとトーンが上がっていく。荒い呼吸の音が聞こえる。伏せた瞼にきゅっと力が入って、抱え込まれた身体が一度大きく跳ねた。
『はっ、あっ、あ、……っ!』
そうして全身がゆっくりと弛緩していく。半開きの口が浅い呼吸を繰り返し、ツーブロック男の胸へぐったりと頭が預けられる。
っしゃ、とタトゥーの男が指を抜いた。潜り込んでいた二本の指の間には粘ついた愛液が糸を引く。ついさっきまで男の指を加えこんでいた場所は充血しきっていて、ひくひくと口を震わせる様はどこかグロテスクにも思えた。
『いっちょこんなもんよ』
『さすがー』
『まーやっぱこうなっちゃうとただのオンナっすね。カワイソー……いや、カワイイって言ってあげるべきなのかな』
同情するようにこぼしながら、ツーブロックの男が無造作に髪を撫でる。指先に耳を擽られるとそれを嫌がるようにむずがる仕草を見せた。そこに媚びるような嬌態を感じたのは、流石に考えすぎであろうか。
タトゥーの男は破られた海野標のTシャツで指を拭った。そのまま自分のベルトに手をかける。
『もういいわ。このままハメる』
『え、寝てる間に奪っちゃうんですか?』
『それもありだろ。もしかしたらそれで起きるかもしんねえし』
『あー。それは悪くないかも』
無責任な会話。人を人と思わない、鬼畜極まりないその言動に、だが共感させられていたのも事実だった。
この海野標という少年、或いは少女が、眠ったままに処女を奪われてしまうことを惜しく思う。出来ることならその瞬間の動揺を観察したいと思う。
だが、目覚めた時には全てが手遅れだった瞬間。それを理解した瞬間、果たしてどういった面持ちでその事実を受け止めるのか。その光景を想像して心が擽られていた。
悪趣味なアダルトビデオだ。そう思う。
こちらの思惑など出演者にとっては知ったことではない。事態は淡々と進行していく。
タトゥー男の巨体が脱力した身体に跨る。途中、ピアス男の手招きを受けて、カメラが角度を変えた。頭の斜め上から海野標を見下ろす形。薄赤く染まったその顔と、開かれた脚の間に宛てがわれる逸物がどちらも映り込むアングルだ。
タトゥーの男は当然のように身体に見合ったモノを持ち合わせていた。指で解され、中で絶頂させられるまでになったとはいえ、海野標の肢体には女性的というよりはいまだ未成熟な印象の方が強く抱かされる。そこに血管を波立たせ、隆々とそそり勃った肉棒の先が潜り込んでいくのを見せられると、文字通りの凶器という表現が脳裏を過ぎった。
当然彼らはその凶器を振るうことを躊躇しない。男の太い指が柳腰を鷲掴みにし――そして、勢いをつけて引きつける。
『……っ!!』
息を詰めるような音が聞こえた。海野標の顔を見ると、その表情は苦痛に歪められていた。無理のある大きさを受け入れさせられて、流石に痛みを感じているのだろう。
だが、まだ目覚めない。瞼は閉ざされたままだ。
『あーあ、本当に寝たまま処女奪われちゃったよ』
『起きないから悪いんだぞ~』
それを囃し立てる男たちの声が聞こえた。もちろん返答はない。苦しげな浅い呼吸が、うめき声とともに海野標の唇からは漏らされるだけだ。
タトゥー男の逸物はまだ半分ほどしか入っていない。それでも少し腰を揺するだけで、細い肢体はぎくりと身を竦ませるような気配を見せた。
『どんなもんすか? 中』
『ただただキッツいわ。締めつけるばっかで全然こなれてねえ、ちょっと強めに分からせる』
『わー、大変。壊れちゃわないかなあ』
『あんだけ大口叩いてんだ。こんぐらい、平気、だ……ろっ!』
再び勢いをつけて、割れ目へと逸物をねじ込んでいく。左手は腰に、右手は太腿を掴んで、より力を込めて中へと押し入ろうとしているようだった。
男に掴まれていない方の太腿を見ればそこには赤い筋が伝っていた。破瓜の証だ。これを意識のない状態で受け入れさせられたのは、海野標にとっては幸か不幸かどちらなのだろうか。
予め感じさせられ、濡れていたからか、水音ばかりがやかましい。それに重なり、やがて肉と肉のぶつかり合うセックスそのものの音が響き始めた。タトゥーの男がやや強引にでも逸物を受け入れさせたのだろう、ピストンの度に揺らされる傷だらけの白い肢体が薄明かりに艶めかしく映る。
そのさまに欲を喚起させられでもしたのか。ピアスだらけの男が不意にこんなことを言い出した。
『……あのー、今のうちに口使っていいすか?』
『あん?』
タトゥーの男が一度動きを止める。リーダー格の男に凄まれていやぁ、と気圧されながらも、ピアス男は半笑いで続けた。
『絶対起きたら口使えそうにないじゃないっすか~。なら今のうちかなって』
『まあ絶対噛むよなこいつ。絶対噛む』
『……俺ぁ別にいいけどよ、途中で起きて食い千切られても泣くなよ』
『や、その時は流石に泣きます』
仇は取ってくださいね、だとか冗談めかして言いながらも前を寛げ始めるピアス男。
『物好きだなあ』
ツーブロの男が彼らの邪魔にならないように身を引く。一応の壁というかクッション代わりになっていた男が下がったことで、海野標の身体は薄汚れたコンクリート床の上にそのまま横たわる形になった。だが、タトゥーの男は構わず腰を振っている。これではあちこちぶつけてさぞかし痛かろうと思うが、それを気にする彼らではないのは明白だった。
ピアス男は自分の逸物をぶら下げながら、海野標の顔の方に片膝をついて腰を下ろした。タトゥーの男には負けるが、彼のものもそれなりに立派なサイズをしているように見える。並行で進められる性行為に撮影者が迷ってしまったのか今は引きのアングルで、細い肢体に腰を打ちつけるタトゥー男の姿と口元に腰を下ろすピアス男、その両方が見えはするがどちらも詳細は窺えない。
戸惑う撮影者を見るに見かねてか、ツーブロックの男が苦笑気味に手招きをした。
『口の方撮っとこうぜ、折角だからさ』
『あ、は、はい……』
招かれるままに顔の方へとカメラが寄る。目を伏せたまま唇に肉塊をねじ込まれた海野標の横顔が映し出された。その顔が途中で一際明るくなったのは、スマートフォンのライトで照らし出されたからか。
開かされた口に頬張らされた逸物が入り込み、それがゆっくりと前後する。その度に頬の形が変えられるさまが見て取れた。同時に濡れた肉のぶつかり合うパンパンという生々しい音もする。
一人の少年、或いは少女の身体が肉穴として性欲の捌け口とされている。その実感が改めて強くこみ上げてくる光景だった。
『どんな感じ? クチ。噛まれそう?』
『やめろやめろ。歯は当たるけど結構いいよ、結構あっついし』
『起きる前に終わらせとけよー』
『んー』
ピアスの男が海野標の後頭部を掴む。そこからは、いわゆるイラマチオというやつだろうか。海野標の頭が好き勝手に前後させられ、時折えずくような苦しげな声とともに、先走りとも唾液ともつかない汁が唇から漏れる様子が映される。
陰毛の濃い男の股間に強引に顔を埋めさせられるさまは、ある意味では膣を犯される以上に強い冒涜感を感じさせるものだと実感した。それが生真面目そうな少年の顔であるから尚更だ。
並行して下の方も使われているのだから、今の海野標はなかなかに無理のある姿勢を強いられている。意識がないながらも、その顔は苦悶に歪んでいるように見えた。そもそもが口の中に逸物を突っ込まれているのだから物理的に歪まないはずもないのだが。
上の方からはピアス男の上ずった喘ぎ声が聞こえてくる。男の喘ぎ声を聞かされても何ら楽しくないな。そのようなことを悄然と考えていた。
『あ、出るっ、出るぞ、出す……!』
『早っ』
息を乱したピアス男は一際強く海野標の顔を抱え込み、引き寄せる。アップになった男の内腿が痙攣している。押し込まれた逸物が深くまで入り込み、内側からその細い喉の形を変える様子も画面からはっきりと確認ができた。
やがて、カメラが少しずつ引いていく。ピアス男の筋肉の緊張は止み、後は残った精液を海野標の口腔内へと搾り出すような仕草を見せていた。片手を逸物に添え、もう一方の手は海野標の顎を掴み、上げさせている。無理な方向へと首を捻られる痛みにか海野標の肩が跳ねた。
そして不意に、その瞳がぱちりと開かれる。
『あ、えっ?』
間の抜けた声はピアス男のものだ。彼は自分のモノを海野標の口に含ませていて、開かれた瞳とばっちり視線が合ってしまったようだった。
一瞬の硬直、それから。
『……うっわ!!!』
『いッ、――!!』
ピアス男が勢いよく腰を引いた。同時に海野標の首を掴んでいた手も離し、彼から離れる。すると自然両腕を手錠に戒められている海野標は上体を支えるものを失う。その身体は床へと叩きつけられていた。
――流石に状況の理解が追いつかなかったのか、ピアス男の逸物は無事であるようだった。呆然と周囲を見回しかけた海野標はタトゥー男に腰を引き寄せられてバランスを崩し、再び床に頭を打ち付けて表情を歪めた。
『て、めえら、何――ぅ、あ』
張り上げかけた声が喘鳴に遮られる。そこには苦痛の色が濃く思えたが、微かに混ざる艷めいた気配を否定することもできないように感じられた。
気を良くしたタトゥーの男が海野標に伸し掛かる。正常位に彼を圧しながら、上機嫌な声で大きくがなった。
『何はねえだろ何はよォ標ちゃん、まさか俺らのことすっかり忘れちまったってか!?』
『ッああ忘れてたよ完全に、お前らが想像の何十倍かは見下げ果てた奴だってことはさ!!』
海野標もそれに負けじと怒鳴り返す。つい先程までされるがままの人形であったのが嘘のように、瞋恚の籠もった眼光をタトゥーの男に向ける。
正直、想像の何十倍かは苛烈な目覚めを見せられている。いや、目覚めそのものはどこか間が抜けていたというか、流石に状況についていけないよな、と納得できるものだったが、そこからの復帰があまりに速やかすぎる。
もう少し狼狽えたり衝撃を受けたりなどするものではないのか、普通。気を失う前の状況から幾分か覚悟はできていたのかもしれないがそれにしたって限度がある。
『マジで間一髪だったな、お前』
『いやーあれ一瞬でも遅れたら多分食い千切られてたよね? 怖すぎ』
『ったりめえだ、もっかいこっち来いよ上等だから、次は天国連れてってやる!!』
『元気過ぎる』
『っていうか絶対それ地獄のやつですよねー……』
『うるせえ! 死ね!!』
逸物を仕舞い込んだピアス男は遠巻きから彼らを眺めながら股間を押さえていた。正直、男として気持ちは理解できてしまう。
それにしても元気過ぎる。ツーブロ男の言う通りだ。意識を失わされる以上にドスを効かせて叫び散らしているのは単純に激昂しているからか、覚醒剤が効いてハイになっているせいなのか、もしくは、
『ギャアギャア喚くじゃねえかよ、標ちゃん』
『――――っ』
消耗を悟られないための虚勢か。
内側をかき混ぜるような腰の動きに海野標が息を詰める。唇を噛み締めて対面の相手を睨み返す、その眼光の鋭さは依然鈍る気配はないが、しかしどこか病的な輝きを帯びているように思えた。
やはり人間である以上、覚醒剤の薬効には抗えないのか。そもそも意識のない間に弄り回された身体の昂りも未だ収まってはいないように見える。タトゥー男の肉竿を受け入れさせられる苦痛があってなお、淡紅色に色付いた肌も頬も、情欲を誘う艶を帯びて画面に映っていた。
海野標の胸元が上下する。深い深呼吸。
落ち着きを保つための仕草が、そうしなければならない彼の劣勢を示している。
『……無理矢理突っ込まれて起きれないことって、あんだな。お前、相当な粗チンじゃねえの。勃起障害とか大丈夫?』
『お前がとんでもねえガバマンだったってだけだろ』
『俺は、懐が広いんだよ。ケツの穴の小せぇ野郎とはちがっ、て、……っ』
舌戦の合間にも男の腰が叩きつけられ、細い身体が震える。肩が跳ね、眉が苦しげに――或いはどこか切なげに歪む。
噛み締めた唇の端からは未だに精液と涎が溢れ、血混じりに顎を汚していた。後ろ手に戒められているために拭うこともできない。あそこまで深くに精液を注ぎ込まれたのなら吐き戻すのも難しいだろう。
そもそもこうして覆い被さられていると再確認できることだが、体格差がひどい。巨躯に押し潰される格好の海野標は相当に苦しげに見えた。辛うじて呼吸を保ち、声を震わせない努力をしているが、それでも時折語尾が跳ねる。玉の汗が肌を転がり落ちて、ぐしゃぐしゃに乱れた前髪が額に張り付いている。
覚醒剤によって感覚を狂わされ、意識のない間に全身を弄ばれ、一際大きい男の逸物を咥え込まされている。腰をぶつけられる度に揺れる爪先の頼りなさがこそ、もっとも今の彼の状況を正確に示しているように思えた。
なのにその瞳を見れば、折れる気など毛頭ないことが理解させられる。
一方的で理不尽な暴力。惨めさを煽り立てる陵辱。海野標はどこまでもその被害者に過ぎないというのに、何をどうして躍起になって気炎を吐いて、彼らと渡り合おうとしてみせるのか。分からない。理解が及ばない。
だからこそ心を惹かれ、だからこそそれが撓められる瞬間を期待してしまうのか。
視聴者の自分はとっくにタトゥーの男に肩入れし始めていた。
これは悪趣味なアダルトビデオに過ぎないのだとそう言い聞かせながら。
『ま、前からアイツのを咥えこんでたんだもんな。そりゃケツの穴もガバガバだわ』
『――は?』
だがしかし、不意に海野標の声が――ひときわ低く、冴え渡るような鋭さを帯びた。
タトゥーの男が不意に飛ばした、下卑た煽り。海野標の恋人か友人でも揶揄するものだろうか。詳細は視聴者には伝わらないが、とにかくそれが空気を一変させていた。
引きの画面に映る海野標はタトゥーの男を見ている。睨んでいるのではない、ただ見開いた瞳を向けている。覆い被さられた少女の肢体。後ろ手に戒められた両腕。
状況は何も変わらない。にも拘らずぞっとするような寒気を覚えていた。気付けば上気していたはずのその頬の色が白んでいる。薬の影響か、どこか怪しい輝きを爛々と見せていた筈の瞳が冷めきっている。
息を呑んでいた。同時に息を呑む音が聞こえていた。多分、これは、そうだ。カメラを持った撮影者のそれだ。なのに海野標を目の前にしたタトゥー男本人は気付かず、或いは頓着せず、笑いながら続けてみせる。
『お前らそうなんじゃねえの? ……あ、もしかして、女になったら処女もくれてやりたかったりしたか。そいつァ悪いことしたな』
『…………』
『それともアレか、もう一人のオトモダチの方か。三人、妙に距離近いもんなあ』
『アホらし』
『あ?』
吐き捨てられた言葉は、動画の冒頭で聞かされたものと重なる。激昂させられる前、薬を射たれる前。
今は殴打で腫れた頬も、血と精液に光る口元もそのままの陵辱の痕を残しているのに、海野標は当初とそっくり同じ冷め切った空気感を取り戻していた。
ゆっくりと目を細めてタトゥーの男を睨めつける。
『別に。手前のやっすい人間観を哀れんだだけだ』
『…………』
『ほら。弛くてイけねえんだろ? 締めてやるからさっさと出せよ、短小野郎』
海野標の脚が上がった。あろうことか男の腰に両脚を絡め、自分からその巨躯を引き寄せる。密着した瞬間にぐちりと厭らしい水音が立ったが、その際も僅かに眉を跳ねさせるだけだった。
タトゥーの男が息を詰める。その腰がぎくりと硬直して、多分あれは射精しているんだろう。海野標も顔を顰めているが、そこにはもはや不快感以外のものは見出だせないように思えた。
覚醒剤の薬効が切れたわけではない。身体の昂りも収まったようには見えない。肌は朱に染まって汗を浮かべ、しかし表情ばかりは冷め切っている。犯されているのは海野標の側であるはずなのに、場を支配しているのもまた海野標であるようにさえ思えた。
やがて男の腰に回った脚がゆらりと解かれる。そのさまの艶めかしさにはどこか捕食者めいた優越が滲んで見えた。
タトゥーの男が緩慢に腰を引く。濡れた割れ目から逸物がゆっくりと引きずり出されて、蹂躙されたそこが露わになる。海野標の秘所からは白濁が溢れ出る。思う存分貪られ、征服され、今もひくつくその場所を、しかし今はもう恥じて隠す素振りすら見せず。
『満足したかよ』
もはや嘲笑いもしない。ただ冷えた視線を向けるだけ。
その事実が何よりも彼を嘲弄する。
鈍い音。タトゥー男の拳が海野標の頬を殴りつけていた。
予期していた反応だったのだろう、眼差しに動揺はない。自分の頬に振り下ろされ、再び持ち上がった男の拳を見つめている。その拳が強く握り締められ、そしてやがて解かれる様子をも。
異様な空気感。取り巻きの男たちも、恐らく撮影者も、その気迫に呑まれて息を止めていた。
『……もう一本だ』
『えっ?』
静寂を打ち破ったのはやはりタトゥー男の声だった。困惑を隠せず聞き返したツーブロックの男へと、ぎろりと八つ当たりのような視線を向ける。
『シャブだよ、追加だ追加。徹底的にぶっ壊す』
『ええ……マジすか……。ていうか俺一回もハメられてねえんすけど』
『俺も口だけ~』
男の一人が気の進まない様子でボストンバッグへと向かった。そこから再びケースがタトゥーの男へと手渡され、注射器が取り出される。もう一人のピアスの男が海野標の腕を掴み起こす。
『今度はどこ打つんですか。また首?』
『いや。直接マンコに行く』
『わー』
ピアス男の腕が細い膝を抱え上げる。秘すべき場所を晒されながら、そのまま彼の胸に背を預ける形となった海野標に抵抗の気配はなかった。
動揺も困惑も見当たらない。静かに目を眇め、自分にクスリを打つべく身を屈めたタトゥー男を見下ろしている。冷め切った瞳の青い色。
それを鼻先で笑い飛ばしてみせるタトゥー男の様子がどこか虚仮威しに感じられたのは、こちらもその空気に呑まれてしまっているからか。
『今度は抵抗しねえのか』
『……あれ、まだ撮ってんの。配信中?』
海野標が顎をしゃくってこちらを向く。唐突な話題の転換。急に視線をくれられたことで撮影者も動揺したのか、カメラの画面が一瞬ぶれた。
『……そうだよ。今もお前の痴態が全世界に配信中ってワケ』
『ふーん』
とんでもない事実を軽く流し、海野標は大きく口を開く。直後、音声が途切れた。覚えのあるマイクミュート。海野標が何かを言い切った後に、再び音声が戻されるのも同じ。
『えー。結局お仲間の助け待ち?』
『今更来ないんじゃないかなあ』
『ま、希望を持つのは自由だよな。よし打つぞー』
男の宣言に伴い、海野標が顔を顰める。注射針が突き立てられたのだろう。
『…………っ』
薬の効果はどうしようもなく絶大だ。苦しげに寄せられた眉が跳ね、乱れかけた呼気を呑み込んでは、唇を噛む。それでも肌に浮き立つ汗は隠しようがない。
どんなに気焔を吐いたところで、人間の身体は覚醒剤の薬効に抗えるように出来てはいない。
『さて』
やがて注射器が投げ捨てられる。肩で息をし始めた海野標の顎を片手で掴み、タトゥーの男はにたりと口の端を歪めて顔を近付けた。
『ぶっ壊される準備はできたか?』
『…………』
低い声は恫喝の意図をたっぷりと含まされたそれ。
だがいらえはない。
ただ冷たい眼差しのみが返るだけ。
水音に肉の絡み合う音が混ざる。肉のぶつかり合う音とはまた違う、まさに男と女の睦み合うさまそのものを示すような音が。それは逸物を深く含まされた秘裂から高く響く音だった。
騎乗位めいた姿勢でタトゥー男のものを呑み込みながら、ツーブロックの男に支えられる傷だらけの肢体。どうやらツーブロ男はその尻の割れ目に自分の逸物を擦りつけているようだった。ピアスの男は時折横から手を伸ばし、性感帯を刺激してはその様子を窺って笑う。
『……っ、はあっ、はあ、……っ、は、……ぁ、あっ』
海野標は深い呼吸を繰り返している。嬲りが再開されてからずっと、できる限り呼吸を一定に保とうと努めているようだった。しかしそれも時折乱され、上ずった甘い声が漏れる。中を抉られるたび、節くれ立った手のひらに腹を撫ぜられるたび、無防備な耳に歯を立てられるたび、押し殺せなかった嬌声があがる。
喉を引き攣らせては眉根を寄せ、瞼を閉じて深く息を吸う。呼気に膨らんだ小ぶりの胸に男の手が這い、昂奮に尖った乳首を指先で摘まれ、転がされる。また一瞬、息が詰まる。それを誤魔化すように、すぐにうんざりとしたように視線を流した。
全身の発情はとうに否定しようがない。男らの一挙一動に腰をがくがくと震わせて、腿を強張らせては背を丸めようとする。俯けられた唇から嬌声が溢れ落ちる。男にしては長く、女にしては短く切り揃えられた髪はぱさぱさに乱されて、薄赤く色付いた全身は汗に艶めかしく濡れ光る。薬で鋭敏にされた感覚を、荒く強引だが馴れた手管でもって煽り立てられ、完全に性感を引き出されてしまっている。
すっかり女にされてしまっている。全身を見れば自然そのように思わされるのに、しかし、その眼光だけが未だ褪せない。
男らが手を止めない理由もそこにあるのだろう。
ぶっ壊す。
宣言した成果にはまだ遥か遠い。
『ぅ、ぅう、あっ、あ! ……はあ、は、はっ……』
『随分イイ声が出るようになったじゃねえか』
『もっと素直になれよ。寝てた時みたいにさ』
『もっとしてとか、もうやめてとか、そういう風に言ってもいいんだよー?』
『……はあ、……』
男たちの煽りにも反応を返さない。先程と同じ、ただ冷めた視線を向けて深呼吸を繰り返すのみ。いくら身体の反応が快くともこれでは手応えがないだろう。失神から目覚めた直後、眦を吊り上げて怒鳴り散らしていた頃の方がまだ遊びがいがあったかもしれない。
或いはこれらの煽りは、その頃のような反応を期待してのものか。
正直自分の目には、男たちのやり方が手ぬるいものに見え始めていた。薬はもう尽きたのだろうか。もっと他に、海野標を脅かせるような材料はないのか。ついさっきは海野標の何らかの地雷を踏んで彼を逆上させたように見えるが、そこをもっと深掘りしてもいいのではないか。或いはもっとハードなプレイを。もっと。
この少年がもっと崩され、乱され、心を折られるさまが見たい。そういう展開を、明確に期待してしまっている。先程の啖呵を後悔し、詫びさせられ、屈服するさまを。またはもとが男であったという設定が正しいのならば、自らの身体のありように絶望するさまを。
より強い刺激を。より強い感情を。より強い絶望を。
魅入られるように、この動画に求め始めていた。
『――――っ!! あ、……ッ』
『お、イったイった』
『この姿勢キツいよなあ』
丸めようとした肩を掴まれ、背中側に掌を押し込まれ、無理矢理に仰け反らされた姿勢。不本意に体重を預けさせられたまま、細い肢体が苦しげに跳ねる。
びくびくと腰が痙攣し、両膝がすり合わされるように持ち上がって、しかしそれが叶うほどの力も残っていないのか途中で脱力する。絶頂のサインを一切隠すことも叶わず、論われて笑われる。
でも、それじゃあまだまだ足りない。鬱陶しげに男たちへと向けられた、その瞳の輝きは失せない。
もっとだ。次は何を。どのようにこの少年を乱して、それを笑うのか。その心に爪を立てるのか。
早く。はやく。
切望に心が逸る。
自覚もないままにモニタに齧りつき、海野標の肢体を見つめ続ける。
――その姿が、不意に横から伸びた手のひらに覆われて隠された。
「……は?」
『はいそこまでー』
『あっ……』
『よしよし、素直でええね。早う降参せんと何されてもおかしゅうないからなあ』
画面はそのまま下を向く。軽薄そうな関西弁の男の声と、撮影者らしき弱気な声と。いまいち緊張感のない語りの裏で、鈍い殴打の音と男のうめき声が響く。
それすらもなんの説明もないまま、途中で途切れて唐突に動画は終わった。
不完全燃焼な結末に呆然とする。
「え? これで終わり? いや、続きとか、……あっ」
ブラウザが明転する。動揺のあまりうっかりF5キーを押してしまっていたようだった。焦れた気持ちで再読み込みを待つ。
が、しかし。
再び表示されたスレッド一覧に、先程の動画スレはない。
どうやら自分が動画に見入る間にスレッドごと削除されてしまったようだった。
■
それから少しして、その掲示板へのアクセス権限を奪われた。調べたところ、バベルネットというフォーラムそのものがインターネット上からすっかり消えてしまったようだった。
海野標という名前でサーチエンジンやSNSを探してみることもたびたびある。そういうアダルトビデオのシリーズがあるのか、はたまた女優の名前が引っかかることを期待したのだが、やはりこれも見つからない。
裏の裏、一部の人間だけの間で出回る掘り出しものエロ動画、とでも表現すべきものだったのだろうか。あれは。探してた、だとかそういう書き込みがあったのも、そういうことなら頷ける。
しかし全てがきれいさっぱり消えてしまった今では、あの動画が本当に存在したのかどうかすらをも疑問に思わざるを得なかった。
一度見ただけの動画だ。インターネットのどこを探しても見つからない。或いは自分のサーチ技術では引っ掛からない。思えば設定も珍妙だし、女優はやたら気が強すぎるし身体は貧相で傷だらけだし盛り上がりどころで急に切れるしだし、いまいち人気が出なかったお蔵入りビデオだとかそういうものなのかもしれない。
それならそれでいいと思う。あの内容は本当にフィクションで、そういう設定で撮られたものに過ぎないのならそれでいい。できれば続きを見たいとも思うが、続きどころか一度見た動画にすら再び辿り着けずにいるのだから高望みが過ぎるといったところだ。
だが、あれがフィクションでなかったなら。
あの撮影技術も照明もなっていない、素人くさい上にプライバシー加工すら雑で、その割に気を使っていないわけではない様子だった、何から何までも不可解でちぐはぐな動画。
それがもしフィクションではなく実際に行われた陵辱の現場を撮影したものだったなら。
それが流出したのが掲示板で見つけたあの動画だったのだとしたら。
これほど夢のある話はない。
そのように思ってしまっている。
同時にまた、このようにも思う。
あの後の展開を少しだけでいいから垣間見せてほしいと。
そんな願いを叶えてくれる存在はなく、願う先などこの世界には存在しない。そのことは理解している。
それでも不埒な願望を抱くことだけは今もやめられずにいる。
本作は「齋藤高吉」「冒険企画局」「株式会社新紀元社」が権利を有する
『ホラーアクションRPG ブラッドムーン』の二次創作物です。
(C)齋藤高吉/冒険企画局/新紀元社
pixivにも投稿してます。