思い詰めた先にあるのは、やっぱり強行手段。
でもそれだけじゃない、愛さえあればどうにかなるもの。
先のことより、目の前を見ていこう。なんとかなるさ。
甘い甘いキスをして、身体を絡め合う。
頭の中はピンクの靄がかかって、いろんな事が遠ざかっていくのが分かる。幸福な満足感、それだけを残して。
俺がいて、千夏先輩がいて。そして、雛がいて。三人だけの時間が流れていく。
どうしてこうなっているのか、考えるのも億劫になりつつある。
でも、それでも。夜が明けたら、またそれぞれの日々が始まるんだ。お互いを好きでいるために、好きでいてもらうために、精一杯頑張る日々が。
だから今は、楽しもう。この週末を。
一体どうしたのか、そう思う暇もない。
先輩との同居が再開し、忙しくしていた俺は突然雛に呼び出されて。そして気が付けば――。
「えっと大喜、……ゴメンね」
謝るくらいなら放せや、と思うが声は出ない。口になにかが詰め込まれているせいで、息は出来るが喋れる状態じゃない。吐き出そうとしている間に口はテープで閉じられてしまって、目を白黒させている間に手足が縛り上げられ、仰向けのまま大の字で固定されてしまう。いや雛が俺を殴ったり蹴ったりは日常茶飯事だけど、こういう底意地の悪いことはまだされたことがない。と言うか普通に考えて有り得ないだろ、こんなのは。
「ゴメン、でも聞いて欲しい。私、大喜が好き」
――それは、知っている。あの夏の日、面と向かって言われたから。恋愛的な意味だって、ちゃんと。更に雛は言ってくれた、返事はいらないと。千夏先輩を好きなままでもいいから、私がアンタを好きだって事を知っていて欲しい、と。
正直俺は、どうしていいか未だに分からない。千夏先輩が好きだから雛を嫌いか、って聞かれればそんな事はないから。雛を完全に拒絶するには、千夏先輩とは違う理由が必要だ。それは今の俺には持ち合わせていない、
雛は雛でいいやつだし、キスを求めてきたりお姫様の姿になったりする雛を見ていて胸が高鳴るのを確かに感じている。だけど、だけど。いや、だからこそ動けない。雛の気持ちに応えるという事は、先輩を諦めるという事だから。
千夏先輩が俺をどう思ってるかなんて、それこそ分からない。でも俺は千夏先輩が好きで、支えてあげたい。寄り添いたい。その気持ちはどうやったって消えたりしない、諦めようがない。
じゃあ、どうするんだ。
堂々巡りの卑怯な俺を見下ろしている雛の顔は、少しずつ高度を落としていく。そして、そして。
「――……っ」
その唇が、テープで塞がれた俺の唇へと舞い降りた。
それはつまり、キス……された。間に遮蔽物があったとはいえ、雛とキスした。
密着した雛の表情は蕩けるような熱に浮かされ、何処か正気を失って見える。いや、
これは、不味い。なんとしてでも、逃げなければならない。
そう思いながらも、完全に自由を奪われた俺は抵抗さえ覚束無い。
俺の顔をはい回っていた唇が、ゆっくりと首へと降りていく。頸動脈に歯が触れる感触に背筋がざわめくものの、その悪寒はすぐに上書きされてしまう。雛の手が、俺の服を緩め始めたから。
ピチャピチャと舌が音を立てながら、顕になった肌の上を移動する。鎖骨を抜けてゆっくりと焦らすように降下して――。
「――!! っ、……!」
雛の唇が、俺の乳首を覆い隠したその瞬間。強烈な刺激がやって来た。吸い上げられながら舌でなぶられる、経験したことがない快感が。それだけでも凄まじいのに、更に空いている逆側が指先で弄ばれてしまう。
こんなメチャクチャな状況でも、肌が感じる情報だけは偽りようがない。身体の芯を無理矢理暴かれていくような、悪辣な快感には逆らいようがない。
「あ、あー……そっか。
からかうような、でも少しだけ焦ったような声と共に雛の指が俺の下半身をまさぐっていく。そしてその指は迷うことなく、
しなやかな指先に愛撫されるまま、こっちの意思なんてお構いなしに屹立していくのが止められない。
「よっ……と」
顔を上げて俺を跨いだ雛は、こっちに背中を向けて俺の胸に腰を下ろした。一瞬だけ視界に見えた白いお尻は、なにも纏っていないかのように見えたけど、でも。でも、それを気にすることなんか、すぐにできなくなってしまった。
雛の両手が、俺を扱き始めたから。
「えっと、こうかな? よく分かんないんだけどなー……」
まあ良いや、と握り潰すような力で上下に擦られていく俺。良いやじゃない、こんなの
腰をくねらせながら俺を追い込んでいく雛の責めに、耐えきれるわけはない。でも、耐えなければ。そうでなければ俺は、千夏先輩に顔向け出来なくなってしまう。
でもそれを見透かしたように雛が、「んー、たしかこういう
我慢も何もかも吹き飛ばす、更なる快感が襲ってきた。
柔らかく熱い何かが、俺を包み込んでそして。蠢く何かが、俺を執拗に擦り始めたのだ。
何が起きたかなんて、分かるわけがない。全てが白く染まり、頭の奥がバチバチと火花を散らす。
ただ、ただ――気持ちいいだけ。
その暴力的な快感に押し流され、気が付けば俺は――射精していた。
「ん、んぐっ、……ぷぁっ。あー……あんま美味しくないなぁ……っ」
一瞬遅れて聞こえてきた雛の声でようやく、俺は理解できた。今まで雛の口の中にいたことを。そしてそこを、汚してしまったことを。
込み上げる罪悪感、でもそれさえすぐに掻き消される。僅かに浮いたお尻から粘液の糸を引かせて、雛がゆっくりと動き出したから。これから何が起こる、何をされる。それが分かってしまったから。
頭では拒もうとする、でも身体はそうしない。出来ない。
射精して尚天井を向いたままの俺に、雛の身体が――
そういう行為がある事は知っている、でもまさか。こんな形で、こんな風に。
「んー……こう、入るか……なっ!?」
小さな声と共に重圧が俺に被さり、そして。何かを貫く感触が、伝わってきた。後ろ向きでいるから雛の表情は見えないけど、背中が一瞬強張るのは見えた気がする。でもそんなのを気にしていられない程、俺はただただ呆然としていた。
雛と繋がった、
「あー……、これ、で。大喜、は私の、だから、ね……!」
まるで痛みを堪えるかのような切れ切れの勝利宣言と共に、その身体がスクワットよろしく上下に揺れ動く。繋がった箇所からはジュブジュブと粘液が音を立てて、余りにも卑猥すぎる。
こんな事、していいわけがないのに。それなのに、身体がこれを受け入れてしまう。熱く固く締め上げられ、上下に激しく擦られて。こんなにも気持ちいいことを、拒めるわけがない。首から下が自分のものではなくなったみたいだ、腹が立つくらいに気持ちいい。
そして雛の動きはどんどん加速し、俺はほんの僅かな抵抗も許されないまま何度も何度も射精させられ。
日がすっかり落ちきるまで、犯され続けた。
重い身体を引き摺って家へと帰りつけたのは、奇跡のようなものだったかもしれない。どう帰ったか、覚えてさえいないのだ。
ベッドに転がってようやく、涙が込み上げてくる。雛に犯された、セックスさせられた。心に刻まれた深い傷が、痛んで仕方がない。
でも一方で思ってしまう――これは、俺のせいなんだと。俺が返事を保留し続けていたから、強行手段に出たんだ。俺を自分の下に縛り付ける為に。
俺が初めてを奪われた、それだけじゃない。もしかしたら雛は今日の事で、自分の将来も何もかも失うかもしれない。と言うかもし妊娠なんかしたなら、絶対にそうなる。そして俺は、一生をかけて償うしか無くなるだろう。俺なんかの人生を捧げた所で、釣り合いが取れるとは思わないけど。
どうしていいか、本当に分からない。泣いたって意味がないのに、涙が止まらない。
――と。
『大喜くん、起きてる?』
ノックと共にやって来た先輩の声で、強引に意識を引き戻す。泣き顔なんて、見せたくない。
グッと顔を拭い形だけでも平生を装って、どうかしましたかと返事を返してみる。
少しだけ沈黙を経て入ってきた先輩を見て俺は――、絶句してしまった。
だって先輩は、いつもとは全然違う姿だったから。いや、違うというか、……着ていない姿だったから。
何で今先輩が、裸で。どうしてそのまま、俺の部屋に。混乱で頭が沸き上がった、まさにその時。
先輩の裸体が、すっと沈み込んだ。
寸刻も経ずフラッシュバックしたのは、ついさっきの雛の姿。俺を押し倒し拘束した、蹂躙者の記憶。
恐怖で全身が硬直し、動けない俺。目を閉じる事さえ出来ないまま、絶望感だけが膨れ上がっていく。先輩も、
もう、お仕舞いだ。そう覚悟した俺、でも。
でも
先輩は俺を、押し倒したりしなかったのだ。優しく抱き締めるだけ、恐怖を感じない柔らかい抱擁がそこにあった。
「怖かったね、大喜くん。大丈夫だよ、私が蝶野さんを叱ってあげたから」
鈴の音みたいなその声が、耳から脳へと染み込んでいく。暖かい肌の温もりが、俺を蕩かしていくのが分かる。
拭って止めた筈の涙が、再び溢れ始めた。でもこの涙は、何処か暖かい。
そのまま先輩の胸に顔を埋め、俺は小さな子供のように只、泣き続けた。
ベッドに横たわる俺の頭を撫でられながら、千夏先輩は静かに話しかけてくれる。
俺と雛が体育倉庫に向かうのを見て、なにか嫌な予感はしたらしい。でも練習の途中だったし周りの目もあったから、その場では何もしなかったと。でも帰り道で逢った雛に一方的な
「蝶野さんの事だから、絶対ややこしくてろくでもない事をやらかしたんだろうなーって。で、ちょっとだけ
…………何をしたんだろう、この人。まあ、考えない方がいいな。
そして千夏先輩はそんな雛を「叱って」、それから――俺を慰めようとこうして来てくれたという事。
「大喜くんはさ、考えすぎる子だからね。このままトラウマになって女の子嫌いになられても困るからさ、私が一肌脱ごうかなって」
ええまあ、脱いでますね先輩。この人はときどき信じられない事するけど、さすがに驚く。
でも、だけど。いくら俺を気遣っての事だからって、こんなのは許されるのだろうか。洒落ですむんだろうか。
そう言おうとした俺を制するように、千夏先輩ははにかみながら続ける。
「あと、ね。
――その一言とそして、覆い被さってきた唇に塞がれて。俺の疑問は、喉から解き放たれることなく霧散してしまう。
もしかしたら根っ子の部分は、雛と同じなのかもしれない。でも優しくて暖かい、いつもの千夏先輩がそこにいた。
この人になら、例え襲われたって構わない。そう思えるほどに俺は、やっぱり千夏先輩が好きなんだ。
仰向けになった先輩の脚の間に顔を埋め、そこに息づくオンナノコと対面する。生まれてはじめて見るその場所に堪らなく興奮を煽られ、でも少しだけ恐怖が胸に甦ってきた。雛のここが、さっき俺を苛め抜いたんだ。そう思うと、何処かで躊躇いが生まれてしまう。千夏先輩は、そんなことしないのに。しない筈なのに。
その躊躇を感じ取ったのか、千夏先輩は俺の頭を優しく撫でて。そして、オンナノコを指先で開いて見せてくれた。
サーモンピンクの内側が顕になって、更に指はその奥まで晒してしまう。千夏先輩の一番深い場所へ続いている、その道を。
「大喜くんだけ、だよ……。こんなこと、大喜くんにしか出来ないからね……」
火照りきった声に導かれるように舌を這わせると、少し塩気の強い酸味がやって来る。誰も知らない、俺だけが知っている味。千夏先輩の、味。
舐めれば舐める程に奥から汁気があふれて、すぐに顔もベッドもドロドロだ。でもそれが、堪らなく心地いい。
もっと、もっと。
そう思いながら必死で舐め続けていると、俺の身体にも変化が生じ始める。限界まで搾り取られた上恐怖で萎縮させられていた
腰を浮かせてしまうのが止められない、千夏先輩に気付かれてしまう。でも、その羞恥さえ今は快感を煽るばかりだ。いつしか恐怖の残滓は、心から消えていた。
きっとそれは、先輩にも伝わったのだろう。
千夏先輩はまた俺の頭を撫でて、こう言ってくれた。
「いいよ、来て。大喜くんが私の、
自分からのし掛かって挿入する、なんていうが上手くいく筈はない。何度も上滑りして、的を外してしまって、それでも。それでも千夏先輩は、俺を咎めたりはしなかった。そして――。
「あ、そこ……! そのまま、真っ直ぐ……っ」
ずにゅりと「穴」へ俺が呑み込まれた、その感覚。
雛に呑み込まれた時と近い、でも決定的に何処かが違う。上手く言えないけど、そう思う。個体差なのか、そうじゃないのか。いや、そんなのはどうでもいい。
「い……っ!? 入った、ね……。大喜く、ん……」
小さく眉間に寄った皺、僅かに漏れた痛みの声。それを申し訳なく思うほどの余裕は、俺にはない。
ただただ、気持ちよくて。ただただ、愛しくて。
無我夢中で腰を振り続け、たちまち俺は上り詰めてしまう。
この人の中に、精液を放ちたい。奥の奥で、俺を知って欲しい。そんな凶悪な欲望をギリギリで制圧していられたのは、僅かな間だけだ。
どうなってもいい、このまま射精したい。すぐにそんな思いが、俺を支配してしまった。
「あ、あー……。なんか、出……っ。大喜くんの、出てるぅ……。いい、よ……。大喜くん、が、出したいだけ……全部、良いから……ね、……っ」
甘い甘い嬌声を浴びせながら俺を抱き締める先輩に応えるように、何度も何度も精液が迸る。ここで死んでもいい、とさえ思うくらいの幸福感に包まれながら。
あれから何度夜を越えたか。いつしか俺と雛と千夏先輩は、一緒にベッドで過ごすようになっていた。
どういう経緯を辿ったのかは、もう覚えていない。きっと搾られ過ぎて脳細胞がジェノサイドしたんだろう。俺のせいじゃない。最初雛は千夏先輩を怖がっていたけれど……本当に何をしたんだろう……、すぐに二人は「仲良く」なっていた。まるで恋人同士のようにお互いの身体を隅々まで愛し合い、俺の前でどんどん乱れていく。そして俺も、それを見てると我慢できなくなってしまうんだ。
千夏先輩の温もりに包まれながら雛とキスをしたり、雛の中に注がれた精液を先輩が吸い上げたり。二人が競いあうように俺へ跨がったり、そんなこんなでいつも週末の夜は更けていく。
俺は先輩と雛を、先輩は雛と俺を、雛は俺と先輩を、それぞれ好きで居続ける。その為に、普段はそれぞれで頑張る。
進む道は、変わってしまったけれど。
もう学校でも、もちろん家でも一緒に過ごすことは無い。俺たちはもう、踏み越えてしまったんだ。何事も無かったように過ごすには、余りにも大きな事が起きすぎてしまった。
そして夜が開け、新しい週が始まる。
俺たちはまた他人に戻って、それぞれの場所へと歩んでいく。
でもそれは、今生の別れではないから。
「また、週末に」
それは俺たちの、約束だ。
中国語だと「週末見」ですかね、「週末に会いましょう」は。