継母の連れ子が元カノだった、いまは僕の父親とヤってる 作:大中小太郎
「水斗……水斗っ」
誰かが呼ぶ声で、目を覚ます。
長い、長い夢から、目を覚ました。
(誰、だ?)
ぼんやりと目を開くと――父さんがいた。
「っ!?」
慌てて跳ね起きる。
なぜ父さんの顔を見てこんなに驚いたのかは、僕自身にも分からない。
「なんでこんなところで寝てるんだ?」
父さんは父さんで、僕に首を傾げていた。
「え?」
見回すと――リビングだった。
僕はリビングのソファーで横になっていたらしい。
ベッドほど寝心地がよくないので、背中が少し痛い。
痛いということは、夢ではなく現実だ。
「ああ……ごめん。父さん」
反射的に謝る。
なんだか、この父には、少し悪いことをしてしまった気がする。
「大丈夫か?」
父さんは訝しげな顔をしていた。
そりゃ、息子がクーラーの効いた部屋ではなく、居間のリビングで寝ていたら、悩みの一つも疑うだろう。
「ああ、大丈夫。昨夜、飲み物を飲んだ後、寝ぼけてここで寝ちゃったみたいだ」
僕は昨夜のことを思い出す。
そう……たしか、このソファーに用があったんだ。
でもその用を果たす前に、夜中の白昼夢に襲われて、無意識のうちにソファーで眠ってしまったのだろう。
そうして朝まで、いまのいままで……あの夢を見ていたようだ。
「なにをやってるんだか」
父さんは呆れた様子だ。
仕事に行くために目覚めたところ、リビングで寝ていた僕を発見して起こしたというわけか。
「夏休みはもう終わったんだぞ。学校に行く支度、しなくていいのか?」
「ああ、そっか……うん」
そう、昨日は夏休みの最終日だった。
長かった夏が終わり、新しい学期が今日から始まるのだ。
「その、父さん?」
「ん?」
「変なこと聞くけど、ここ最近、よく眠れてるか?」
「そりゃまあ、快眠だけど?」
なぜそんなことを聞かれるのか分からない、という顔だった。
「まさか父さんがストレスで不眠症になってるとでも思ったか?
ははは、何を言うかと思えば。由仁さんと再婚して幸せ絶頂のこの時期に?」
なんか心配されたのが嬉しいという顔をし始めたので、不愉快な気分になった。
でも、間違いなく、父さんだ。
そう、父さんとは、こういう顔で笑い、こういう声で話す人だ。
(全然、似てないじゃないか)
夢の中で気付けなかったようだけど、あっちの『父さん』は、とんだ大根役者だった。
「峰くーん? 机のこの書類、もっていかなくていいの?」
「え? ああ、そうだった。ありがとう由仁さん」
リビングの外、寝室の方から、由仁さんの声が聞こえた。
父さんはその声に応じて寝室に駆け込んでいく。
そのやりとりだけで、分かる。
あれこそ、父さんと由仁さんだ。
「…………」
僕はリビングに誰もいなくなったこの瞬間に、ソファーの下を探る。
すると、夢の中で一度見付けたその場所に――あった。
五角形に折りたたまれた紙だ。
慎重に折り目を開いていくと、畳まれていた紙に名前が記されている。
『伊里戸水斗くん』
紙も、筆跡も、夢で見たものと同じだった。
「まったくもう……」
こんな紙きれ一枚に、随分と困らされたものだ。
まあ、なにをどう困らされたのかも、既に靄が掛かったように思い出せなくなっているのだけど。
でも、この紙を処分しなきゃいけないことだけは、よく覚えている。
僕は紙を持つ指に力を込めて、逆方向に力を加える。
びりっと、何の抵抗もなく、紙は破れた。
重ねてもう一回、半分に裂く。
念入りに、細かい紙吹雪になるまで、入念に破いた。
「…………」
その瞬間、音も無く、映像も無く、何かが消えていく。
僕の頭の中から、長い夢の記憶が、跡形も無く消えていく。
誰が何をしていたのか、どこで何が起きていたのか、全ての夢の内容が消えていく。
痛みもないし、感触もない。
夢を忘れる瞬間なんて、誰も知覚できない。
きっとこの現象は、僕だけではなく、夢に関わった全ての人間に起きただろう。
自覚的にその引き金を引いた僕だけが、少しだけそれを実感できた。
(まあ、でも……学ぶものもあったのかな)
紙吹雪になった紙を屑籠に捨てて、僕は息をつく。
あの夢を見なければ気付けなかったものがある……そんな気がする。
だからといって感謝はないけど、ただの悪夢ではなかった気がする。
「水斗くん? 洗面台、いま空いたから、歯を磨いちゃいなさい」
リビングを出ると、由仁さんが声を掛けてくれた。
年相応の肌年齢と、素朴な明るさの、いつもの由仁さんだった。
「ああ、ありがとう」
いつものような敬語は、使わなかった。
そろそろ、常にとは言わないまでも、ちゃんと『お母さん』として接していい時期だろう。
僕は由仁さんの反応を見ることなく、洗面台へ。
「あ……」
入れ違うような形で――彼女と会った。
結女だ。
いつの間にか目を覚まして、歯を磨いていたらしい、簡素なルームウェアの結女だった。
結女は僕に気付くと、まだ整っていない身なりのせいか、少し気恥ずかしそうな顔をして、
「お、おはよう……」
「ああ、おはよう」
不思議なくらい自然と、気負いのない声が出た。
結女が一瞬だけきょとんとするくらい、いまの僕は普段と違って見えたらしい。
「洗面台、使っていい?」
「うん、いいけど……」
結女とすれ違って洗面台の前に立ち、歯を磨き始める。
結女は軽く僕の様子を見た後、その場を後にした。
――いつもの結女だった。
変に色っぽくもないし、淫らでもない。
たまに不愉快だけど、いまも大切な、僕の元カノ。
これからも一緒に暮らしていく、伊里戸結女の、なにも手を加えられていない姿だった。
(……とりあえず、身なりだけでもしっかりしておかないとな)
夏休み明けの今日から、改めて、結女と共に学校に通う。
ことさら粋がるわけじゃないにしても、まあ少しくらい、髪型に気を配ってみようと思った。
――夢には意思があるという。
現世のルールで見れば『悪意』としか取れないような、意思があるのだと。
でも、悪夢の中にある『真意』を掴んでしまえば、悪夢にも『意味』があるのだろう。
だからどうか、夢の中の『僕』よ、いましばらく眠っておいてくれ。
いつか、お前という形で溜め込んでいたものを、少しずつ、よい形で実現していくために。
あんな夢を見なくても済む現実を、僕の手で整えるから。
お前に預けて、お前から届く熱情はきっと、そのためにあるはずなのだから。
そんなことを考えながら、僕は冷水で顔を洗う。
清涼な水を顔に浴びせると、脳裏にあったその感傷は、夢の残滓と共に、洗い流されていく。
邯鄲の枕は終わりを告げた、胡蝶の夢から人間に戻った。
真夏の夜の夢は幕を引いて、シュレディンガーの猫は眠りに就いた。
かくして――僕こと伊里戸水斗は、今日もよい夢を見るために、朝を迎えるのだった。
○
顔を洗っている間、玄関あたりから、声が聞こえた。
「あ、峰秋おじさん。おはようございます」
「ああ、おはよう結女ちゃん。僕はちょっと急ぐから、ご飯は由仁さんたちと食べてね」
結女と父さんの声だ。
耳は拾っていても、意識には届かない程度だったので、僕は実質的に聞いていなかった。
「そうですか。気を付けてくださいね――」
夢は無意識の出来事。
例え記憶に残らなくても、そういう心の情動があったという事実までは消えない。
夢そのものを忘れてしまった僕は、そんな発想もまた、忘却の彼方に置いてきてしまった。
「――お義父さん」
【完】
ご一読いただきありがとうございました。
短いですが、エピローグだけ別話にさせていただきました。
改めまして、無駄に長くなった拙作にお目を通していただきまして、
まことにありがとうございました。
タイトルを聞いた時点で元カノ✕父親というNTRを思いついて、
思いついたものを身勝手に書き殴り続けること、気がつけば30万字以上、
ざっとラノベ3巻分くらいの文章量となりました。
こうして振り返って見ると、エロシーンは台詞や行為がパターン化したり、
終盤は手前勝手なペルソナ展開が絡んで迷走気味だったり、
全体的に推敲が不十分だったり構成もクソもなかったりと、腕の不足を感じるばかりです。
こんな、ただ書きたいものだけを書いて満足したような二次創作に、
ここまでお付き合いくださいました方々、誤字報告をくださった皆様、そしてご感想をお寄せくださいました皆様に、深く感謝を申し上げます。
また刺激される原作に出会えるまでは、適当に二次エロやオリジナルを書いていきたいと思います。
以上、大中小太郎でした。