※この作品はR-18です。

極夜白染   作:棒笹

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第16話(TE01) 彼女たちの未来

―冷たい。

青白い光が遠く離れていく。

何も聞こえない。

手足の感覚も、殆どない。

まるで、首から上だけしか機能していないような気がする。

ここは何処なのか。

私は何者なのか。

周りはどんどん光を失っていく。

深い深い水の底に沈んでいくような気がする。

これ以上考えることは、無駄なことなのかもしれない。

今はもう、何かアクションを取ることさえ考えたくない。

ゆっくりと目を閉じて、すべて片付けてしまおうか。

思い出さなければいけないことがあるような気もするがー

 

突然、後頭部に激しい痛みが走った。

 

その痛みは後頭部からジワリと広がり、頭全体が痛む。

 

想像を絶する痛みにのたうち回る。

 

まるで、何者かに脳内をいじられているような感覚だ。

 

ついさっきまで真っ暗だった周囲に光が見え始めた。

 

その光は天国のような白い光などではなかった。

 

鮮血のような、真っ赤な光だった。

 

私は、光の方へ歩むことにした。

 

その先に何があるかはわからないが、とにかくそこに向かわなければならないと本能が言っているようだった。

 

頭の痛みに時折倒れ込みつつ、私は歩き続けた。

 

早くしないと、その光がなくなってしまうような気がした。

 

赤い光に全身が包まれていく。

 

その眩しさに目を閉じていても耐えられなくなったとき、私の視界に砂嵐が出現した。

 

砂嵐に視界を奪われた瞬間、私は忘れかけていた感覚を思い出した。

 

突然の頭痛、砂嵐、次に来るものは・・・。

 

「・・・揮官!指揮官!!おい!しっかりしろ!」

何者かに激しく肩を揺さぶられているようだった。

ゆっくりと目を開けると、それはディアンヌだった。

「やっと目を覚ましたか・・!」

長い間私の肩を揺すっていたのだろう。ディアンヌは激しく呼吸をしながら私の方を見つめている。

横を見ると、注射器を手に持ったマリネの姿が見える。

私が目を覚ましたのをわかったようで、彼女はその注射器をそっと近くの箱の中にしまった。

彼女の足元には、ヴィラからの支給品である薬物のビンが複数転がっていることから、結構な量の薬物が私に投与されたようだ。

いつの間にかまくりあげられている私の左腕には、橈側皮静脈や尺側皮静脈に沿うように複数の注射痕が見られた。

ルシアたちを犯し尽くし、彼女たちの眼の前で倒れ込んだ私は、守林人により治療を受けていたようだ。

そういえば、意識を失う直前に、リーフがバイタルがどうのこうのと言っていたのを思い出した。

「だいぶ眠っていたようで・・。」

まだ焦点の合わない目をディアンヌに向ける。

「まだ動くな。身体の感覚が十分じゃないだろう。」

感謝を示そうと首を動かそうとしたが、ディアンヌはそれを許さなかった。

「・・・申し訳ない。」

徐々に手足の感覚は戻ってきているものの、まだ立ち上がれそうになかったのでしばらくはディアンヌの指示に従うことにした。

「あっちに行っちゃう前のリーフの指示と、箱の中にあった紙の通りに色々使ったんだけど・・・これで大丈夫なのよね?」

マリネが足元に転がっている小瓶と紙を私に見せた。

紙には、ヴィラの荒々しいが読み易い字が書き殴られており、薬の使い方が事細かに記されていた。おそらくこれがなければ私は薬物の過剰投与で死んでいただろう。帰ったらヴィラに感謝せねば・・・。

マリネに感謝を伝えたあたりで、ゆっくりと頭の回転も戻ってきた。

 

「それより指揮官、伝えなければならないことがあるのだが・・。」

体調がだいぶ回復したことを確認したディアンヌが、私に真剣な表情を向ける。

私は、彼女が何を言いたいかわかっていた。

「うん。おおよそ言いたいことはわかってる。」

私は意を決してキカイイッカクの方に目を向けた。

 

すこし曇ってはいたが、3つの透明な膜の奥にはまだ彼女たちがいる。

 

私が意識を失う前は肉壁に四肢を埋め込まれていたはずだが、今の彼女たちは違っていた。

 

それぞれ床に組み伏せられ、こちら側にそれぞれのペニスを誇張するように足を開き、そしてそのペニスは女性の腰のようなものによって支配されている。

 

おそらくその中がよほどいいのだろう、彼女たちはあまりの刺激に凄まじい喘ぎ声を上げながら搾精を続けられている。

 

そして、彼女たちの横にあるタンクの液晶を見つめる。

 

情報が先程と変わっている。

 

普通ならば彼女たちの登録名、推定許容搾精量、現在までの搾精量、場合によってはステータスなどが表示されている。

 

しかし、今はその液晶内に“パラメータ変更中”という文言と進捗を示すゲージが表示されている。

 

液晶の情報の意味も、私は容易に推測できた。

 

激しい頭痛と砂嵐の先で、私が見たものー

 

それは、キカイイッカクの“理想”であった。

 

 

搾精ユニットの中に、もう彼女たちの姿は見えなかった。

 

無事に搾精が終わり、解放されたのだろうか?

 

いや、違う。

 

ユニットの奥に見えるキカイイッカクの肉壁は激しく動き続けている。

 

その肉壁に光が当たると、なにかのシルエットが見える。

 

一つはとても大きな乳房を持った何か。

 

残りの2つのシルエットはかなり似ているところが多いが、髪型や頭部の形状が異なる。

 

一つはツインテールの髪型をしたなにか。

 

そしてもう一つは、短髪で大きな角のようなものが見える何か。

 

三体のシルエットは、紛れもなく人であった。

 

三体はそれぞれ乳房を持っているのにもかかわらず、その股間が大きく膨れ上がっている。

 

そして、膨れ上がった股間の先から透明なホースが伸び、近くのタンクに接続されている。

 

今、そのうちの一体の股間にあるホースが白く染まった。

 

凄まじい勢いでタンクにその白い液体が注がれていく。

 

白い液体の製造者のシルエットが、激しくうごめいているのがわかる。

 

まるで心臓の拍動を目の当たりにしているかのようだった。

 

腰のあたりが前に突き出る度、シルエットはホースを白く染め上げる。

 

やがて白い液体が出なくなると、シルエットもピタリと動かなくなった。

 

そして肉壁が動き、そのシルエットは見えなくなっていった。

 

意識を取り戻す直前、あるユニットから機械音声が聞こえた。

 

そのユニットに見えるシルエットは、先程白い液体を供給したシルエットと同じように激しく動いている。

 

あまりに激しく動く様子から、それはそのシルエットが意図して行っているものではないとすぐにわかった。

 

「1号ザーメンタンク”ルシア”、400ミリリットルの射精を命令します。」

 

機械音声の指示に従うように、そのシルエットは白い液体、精液を射精し始めた。

 

最後に、こんな声も聞こえた気がした。

 

「指揮官・・・助けて・・・・!」

 

 

「ディアンヌ、ロゼッタを呼べる?」

情報をすべて伝えたあと、私はディアンヌに問いかけた。

「どうしてだ?」

ディアンヌが不思議そうにこちらを見た。

「この状況を打開できるのは、彼女しかいない。」

「・・・この状況から、彼女たちを助けることができるのか?キカイイッカクの支配力はかなり強力で・・・」

「一つだけ策がある。ただし、これにはロゼッタの協力が必須なんだ。」

狼狽するディアンヌを遮って言った。

「どうする気だ?」

「それはロゼッタが着いてからのお楽しみ、ということで。」

「・・・わかった。」

 

それからしばらくして、ロゼッタがやってきた。

キカイイッカクの状況が変化していることを知っていたのか、その表情はかなり険しかった。

「申し訳ない。」

開口一番、ロゼッタが頭を下げた。

「私達が不甲斐ないせいで、貴殿らをこんな危険な状況に・・・!」

このままではロゼッタの謝罪をただ聞くだけになりそうだったので、ディアンヌとともにロゼッタをなだめてから話を進めることにした。

「それについてなんだけど・・・。」

「なにか解決策があるのか?私に、いや、守林人にできることなら何でも話してくれ・・・!」

ロゼッタの目はかなり必死だった。

「そういうことなら話は早い。」

私はロゼッタの目をまっすぐに見て言った。

 

「ロゼッタ、今からキカイイッカクとセックスしてもらっていい?」

 

 

ロゼッタは目を見開いてこちらを見つめている。

言葉の意味を理解するのに時間がかかるようだ。

めったに見せないロゼッタの様子に、ディアンヌも驚いて声をかけた。

「ロゼッタ、大丈夫か?」

目を白黒させながら、ロゼッタが答えた。

「ああ、大丈夫だ・・・。にしても、どうして今?」

「知っての通り、キカイイッカクはパニシングによる侵食が進みつつある。」

私はゆっくりと話を始めた。

「侵食が進んで、キカイイッカクの行動に変化が起きた。」

「ああ。貴殿の構造体を手籠にして、エネルギータンクとして格納しようとしているのだろう?」

「そう。ルシアたちをキカイイッカクの中で支配して生かし続けて、思い通りに操ることでエネルギーを精液として貯めたり排出させたりできるようにしたいんだ。」

「・・・でも、そもそもここまで劇的に機械体の行動が変化するのは結構珍しいんだ。」

「珍しい?」

「そう。ハイスピードでパニシングに侵食されない限りはこうならない。」

「逆に言えば、それまでは何らかの原因で侵食が抑えられていたんだ。」

「ひょっとして、それって・・・」

「その通り。あなたが度々キカイイッカクとセックスをして、精液を射精させることで、パニシングの侵食を抑えていたと思うんだ。抑える、というよりはパニシングを精液に含ませて排出させていた、というのが正しいのだろうけど。」

「でも、それだったらロゼッタはとっくにパニシングに侵食されていたはず・・・。」

ディアンヌは混乱しているようだ。

「確かにそう。でも、その理由はロゼッタならわかるんじゃない?」

「・・・私の機体は、ディアンヌたちとは少しだけ特殊なようなんだ。程度こそ微々たるものではあろうが、パニシングの侵食に抵抗する機能がある。指揮官の推測は、私の機体の情報と照らし合わせてもかなり現実味がある。」

「・・・でもロゼッタ、指揮官が言うには今のキカイイッカクのパニシングに対する侵食はだいぶ深刻じゃないか。そんな状況で彼の精液を受け入れたら・・・あなたも危険にさらされてしまう。」

「そんな事はわかっている、ディアンヌ。」

「だったら・・・!」

「ルシア達をこのまま見殺しにしろというのか?」

ロゼッタの一言に、これ以上ディアンヌは何も言うことができなかった。

何もできない自分を悔やむかのように歯を食いしばり、涙を流している。

「そもそも、今回の問題は守林人が解決すべきものだったんだ。しかしながら結果としてキカイイッカクのエネルギーを私達で十分賄えず、結果として指揮官やルシア達に協力を仰いだ。」

「彼女達は、今現在も私達に代わって何千ミリリットルという射精に耐えている。彼女達がどれだけ快楽にのたうち回ろうと、強い刺激に頭が焼ききれそうになろうと、キカイイッカクは目的の量の精液を射精させるまでは止まらない。それはお前たちが一番理解しているはずだ。」

「必死になって私達守林人を助けてくれている彼女達が、指揮官や私達を信頼して搾精に耐え続けている彼女たちが、このままではキカイイッカクの傀儡にされてしまうんだ。搾精だけでなく、彼女たちはキカイイッカクの余剰なエネルギーを陰嚢に精液として貯蔵できるようにその意識海を改造され、キカイイッカクの指示でその精液を射精させられ、生きたまま永遠にペニスをしごかれ続けるエネルギータンクに生まれ変わらせられてしまうんだ。」

意識海を改造される、という言葉にディアンヌとマリネが目を見開いた。

それが構造体にとって何を意味するか、自身も構造体である守林人が知らないはずがない。

「もし、そうなったら・・・あの子達は・・・!」

マリネがガタガタと震えながら声を出した。

「おそらく、もう私達が知っているルシア達はいなくなってしまうだろうね。消される、という方が想像しやすいかな?」

私の一言で、マリネとディアンヌは膝から崩れ落ちた。

「・・・このままでは、これが本当に現実になってしまう。現実になってしまえば、もう私達の誰もその責任を取ることができない。」

凛とした佇まいを崩さず、ロゼッタは彼女たちに語りかけた。

「しかし、今ならまだ間に合うのなら、彼女達を助けることができるのなら、それをやらないでどうするんだ?」

「・・・これで私がパニシングに侵食されたとしても、彼女達を助けられるのならば守林人として本望だ。」

「ディアンヌ、マリネ。その時は・・・皆のことを頼んだぞ。」

ディアンヌとマリネは、もう何も言い返すことができなかった。

「・・・待たせたな、指揮官。始めるとしよう。」

 

私は準備のため、ロゼッタとともにある場所へ移動することにした。

「・・・さあ、この箱の中に“アレ”があるはずなんだけど・・。」

「アレ?」

「そう。ロゼッタをパニシングから守ってくれるやつ・・・お、これこれ。」

私はルシア、リーフ、アイラのそれぞれの箱の中から水色の液体を取り出した。

「これは?」

「人間で言う免疫血清みたいなものさ。パニシングを中和して無力化できる・・・らしい。アシモフの受売りだけどね。」

「ロゼッタもルシアたちと同じ構造体だから、おそらく使えると思うんだけど、試してみる?」

ロゼッタは私の提案にすぐに賛同した。

「やってみよう。少しでも無駄死にのリスクを回避できるなら十分だ。」

「分かった。それじゃあこれを今からロゼッタの体内に埋め込むから、一時的に機体の権限をもらうよ。」

そう言うと私はロゼッタの意識海をオフラインにした。

亜人型とは言え、上半身の構造は基本的にはルシア達と同じだった。

 

胸部装甲を外し、乳房を露出させる。

 

ルシアたちとアイラの中間くらいの大きさであるが、見た目はやや硬そうな印象を受けた。

 

腹部のハッチを丁寧に開け、ノズルから液体を補給する。

 

何が起きてもいいように、上限まで液体を入れたあとハッチを閉じると、そこに白い液体がついていることがわかった。

 

機体にエラーが起きてしまったかと思い、焦ってロゼッタの機体を確認する。

 

その液体は、ロゼッタの乳首から出ているようだった。

 

恐る恐る、ロゼッタの片方の乳房を握る。

 

予想通り、その触感はルシアたちとくらべて硬かった。

 

乳房が変形していくと、ぴゅっ、と母乳が吹き出した。

 

その瞬間、ロゼッタの言葉がフラッシュバックした。

 

「空中庭園の構造体とは違い、私達守林人やキカイイッカクは独自で開発されたものなんだ。その開発者の意向に従って、私達には生殖器が標準装備されている。もちろんオーガズムに達するし、孕むことだってできる。」

 

間違いない。

 

ロゼッタは、誰かの子を妊娠している。

 

だとしたら、この子を危険に晒す訳にはいかない。

 

しかし、この体勢ではどうにもできない。

 

かくなる上は・・・。

 

私はロゼッタの装甲を丁寧にもとに戻し、機体を起動させた。

 

そばにあるシリンジは、その針先をウマのペニスに変え、水色の液体がなみなみと注がれている。

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