しばらくして、リンクが回復した。
視界はもとに戻り、彼女たちはやはりしっかりと装備を装着していた。
寒さのおかげか、突如私に顕現した彼女たちの裸に勃起することはなかった。そのため、リーフからはバイタルには問題ないと告げられた。
「リンクを遮断しうるほどの強力な電波が放出されたのでしょうか?」
ルシアが原因を調べようとする。
「このあたりには、そんな立派な電波塔はないはずよ。」
アイラがメモを取りながら答えた。今起きた不思議な現象のレポートを作っているようだ。
「指揮官、どうして声が出なかったんですか?」
リーフに詰め寄られる。
君たちの裸に興奮しかけていた-なんてことは言えないので、リンクが遮断されたせいでうまく声が聞こえなかったのだとごまかした。
結果的に、あれほど寒くて憎たらしかった吹雪に助けられることになった。
「と、とにかく先を急ごう。ヒートジャケットの充電も気にしなきゃだし。」
私は彼女たちの間を縫うようにして先へ移動し始めた。彼女たちも任務に戻る。
シグナルが検知された海域近くに差し掛かると、物音が聞こえてきた。
「少なくとも4体。これは・・・馬?」
アイラが耳をすませて音の出どころを探しながら言った。
「まさか。ここはマイナス25度ほどありますよ・・・?」
ルシアが驚いたように言った。
「3時の方向!来ます!」
リーフが声を上げ、全員が武器を構えた。
ルシアは剣を構え、前方を見張る。
アイラは大鎌を両手で持ち、指揮官への敵襲を防ごうと構える。
リーフはフロート銃をまっすぐ前に向け、すぐに発射できるようにエネルギーを充填している。
私の銃を持つ手に、ジワリと汗が滲んでいく。
ゆっくりと、「なにか」のシルエットが現れ始めた。
緊張が、更に高まっていく。
しかし、その物音は私達の眼の前でピタリと止んだ。
そこには4体のケンタウロスのような構造体がいた。乳房が確認できることから、全員メスのようである。
「貴殿らが、空中庭園の派遣部隊だな?」
音の方向から、声が聞こえた。
「ええ、空中庭園執行部隊、グレイレイブンです。」
私がそう答えると、彼女たちは前後の脚を折って言った。
「我々は守林人だ。貴殿らに害を与えるつもりはない。リーダーのもとへ連れて行くから乗ってくれ。」
その時、私はリーダー格と思われる構造体の上半身になにやら異変を感じた。
構造体の人間の部分、もっと言えば乳房が収められているあたりに突起のようなものが見える。普通の人間の女性が水着を着ていたとしても、ここまで大きく突起を確認できることはないはずだ。
疑問に思ってると、今度はその奥の一体が、伸びをするように前足を空高く振り上げた。
よく見ると、後ろ脚の間にスリットのようなものが見える。スリットの中央部には何らかの白い物体が付着しており、それは断続的にその構造体の前脚付近にまで飛んでいる。
「指揮官、どうしますか?」
ルシアの一言ではっと我に返った。
しばらく考えた末、私達はその提案に乗ることにした。
移動中、ルシアとリーフは一言も話さなかった。ただ一人アイラだけは自分を乗せて走る守林人に声をかけ、守林人とはなにか、普段何をしているのかなどを根掘り葉掘り聞き出しては自前のノートに書き出していた。
「寒くはないか?」
私を乗せる守林人が声をかけてくれた。寒くない、と答えると、「これから寒くなるかもしれないから、これを体に巻いておけ」と重い毛皮のようなものを渡された。
これはありがたいと思って、私はそれを体に巻いた。作られてそれほど時間が経っていないのか、若干の獣臭さが残っているが非常に暖かい。
「ありがとう。」
私は守林人に声をかけた。すると守林人は笑顔でこう言った。
「しっかり巻いておいてくれよ。そろそろ日が落ちるから、スピードを上げたいんだ。」
強烈な加速Gとともに、守林人たちのスピードが上がった。
私は体が後ろに引っ張られる感覚と同時に、獣臭さにかき消されていたある臭いの存在に気づいた。
「なんだ、この栗の花のような臭いは・・・?」
「栗の花の匂いを嗅いだことはないが、その毛皮は作ってからあまり時間が経っていないんだ。もしかしたらそれかもしれない。すまないが、到着まで我慢してくれ。」
「大丈夫。ヒトのオスからもこんな臭いがするものさ。」
少し冗談交じりに答えてみた。しかし、これに返答はなかった。
悪いことをしてしまったかも、と私は守林人の顔を見た。その顔は、少し赤くなっていた。
理由はわからなかったが、「きっとこの子はウブなんだろう」と思うことにした。
しばらくして、守林人たちは速度を落とした。
視界の先に、イグルーが乱立しているのが見える。その中には、守林人たちが火を焚いている姿も見える。
「空中庭園の部隊をお連れした!リーダーはいるか?」
私を乗せる守林人が、近くの守林人に声をかける。
「リーダーなら、そろそろもどってくるわ。」
「わかった。それでは貴殿らよ、しばしそこの焚き火の近くで暖を取っていてくれないか。」
彼女に従い、私達は焚き火の近くに移動することにした。彼女たちの背中から降りるとき、「今度また、たくさん話を聞かせてね!」というアイラの大きい声が聞こえた。
彼女を乗せていた守林人の表情が非常に和やかであることから、この短時間でかなり仲が良くなったようだ。アイラの手に握られている鉛筆も、先程とは見違えるくらいに短くなっていた。
焚き火に当たり暖を取っていると、ルシアが話しかけてきた。
「指揮官。このポイントは、シグナルが検知された地点にかなり近いです。」
「ということは、やはり彼女たちが今回の鍵?」
「確定はできませんが、その可能性は大いにあります。注意深く彼女たちを監視しましょう。」
私とルシアはゆっくりと周りを見始めた。
寸分の狂いのない形のイグルー。その1つには、空中庭園でもよく見かける色をしたペール缶が山のように積み上げられているのが見える。おそらく自分たちやその他の機械のメンテナンスに使う工具や油が置かれているのだろう。カレニーナあたりに聞けば、なにかわかるだろうか。
丁寧に武器ラックに置かれている槍の数々。横にはすり減った砥石とその予備があることから、刃先がしっかりと手入れされているのだろうと考えられる。
なにかを洗っている守林人がいる。彼女たちのパーツのように見えるものもあれば、細長いホースのようなもの、先程私が使った毛皮と似たようなものもある。そしてその全てに、白い絵の具を散らしたかのように液体が飛び散っている。
ホースの先端になにかありそう・・・、と凝視しようとしたその時、横から楽しそうな声が聞こえた。
「ねぇ。この槍はどうやって使ってるの?」
「アイラ、この方は仕事中ですから、あんまり話しかけないほうが・・・」
「いいのよ。私達に興味を持ってくれるなんて、めったにないことだし。」
アイラとリーフ、それから守林人の会話だった。
守林人は武器ラックの中から1本の槍と丸太を取り出すと、アイラとリーフを遠ざけた。
「この槍、刃先がとっても尖っているでしょう?」守林人が口を開く。
「ええ。なんでも貫けそうだわ!」アイラが目を輝かせながら言う。
「貫けるだけじゃないわ。見てて。」
そう言うと、守林人は凄まじい勢いで槍を振った。槍そのものは丸太に当たらなかったが、その刃先から出た薄紫のかまいたちのようなものが丸太を真っ二つに割った。
「すごい!なんて強力な武器なのかしら!!」アイラが興奮で飛び跳ねながら言う。
「私達は、これを使って森を守っているのよ。」守林人も、アイラの想像以上の興奮ぶりに喜んでいるようだ。
「それからね、この槍にはもう1つ役割があってね・・・」
守林人の言葉はそこで止まった。
「あら、リーダーが帰ってきたようだわ。」守林人が言った。
「いいところだったのに・・・。また後で話しましょ!」
アイラはそう言うと、こちらに向かって走り出した。リーフも守林人に一礼してこちらへ向かってきた。
「すまない、待たせてしまった。私はロゼッタ。守林人のリーダーを努めている。」
ロゼッタはこちらに向かい話を始めた。
「いえ、こちらこそここまで運んでいただき感謝を申し上げなければなりません。私たちは空中庭園から派遣された執行部隊、グレイレイヴンです。」
私はロゼッタに正対し、丁寧にお辞儀をした。
その時、私は再びジャミングのようなものに襲われた。
強烈な頭痛をぐっとこらえて目を開けると、そこには全裸のロゼッタの姿があった。
大きくハリのある乳房、ピンとたった乳首・・・守林人は皆乳首を勃起させているのか?
しっぽ以外に、小さなホースのようなものが伸びているのが見える。ホースの根本は先程別の守林人で見たスリットにつながっているようだ。
少し見つめていると、そのホースはスリットにスルスルと収められていった。
ルシアたちを見ると、彼女たちが先程と同じように全裸であることを除けば特に変わった様子はないようだ。確かに、今回は意識海のリンクに影響はない。
アイラは足をひろげて座っているために、その女性器が丸見えになっているが、当然彼女はそんなことは気にしてはいないだろう・・・。
「どうした?私の機体、なにかおかしいところでもあるか?」
ロゼッタが私に声をかけた。
振り向くと、彼女は先程の装甲をつけた姿に戻っていた。ジャミングが終了したのだろう。
「ええ、まぁ・・・。空中庭園ではなかなか見かけない機体だったもので・・・。」
私はしどろもどろにならないよう、心を落ち着かせながら答えた。
ロゼッタはフッと笑ってこう言った。
「私達の機体は、いわゆる“亜人型”と呼ばれるものだ。空中庭園の構造体は私が知る限り人型しかいないから、あまり見ないのも当然だろう。」
「ディアンヌ達が、非常にユニークな客人だと言っていた。たしかにあなたたちは皆とても個性的に見える。」
ロゼッタが言った。ディアンヌとは、先程私を乗せてくれた守林人の名前のようだ。
「それで、空中庭園はどうしてあなた達をここに派遣したんだ?」
私はロゼッタに、今までの経緯をすべて話すことにした。
「なるほど・・・。パニシング以外の可能性が高い異常シグナルがこのあたりの海域で検出された、か・・・。」
ロゼッタは顎に手を添え、少し考えてこう言った。
「そのシグナル、おそらく私が原因だろう。」