※この作品はR-18です。

極夜白染   作:棒笹

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第21話(TE06) 帰還

「うん・・・」

明るいところに出ると、リーフが目を覚ましたようだ。

ゆっくりと、目が開いていく。

その目はまだ焦点が合っていないようで、手を伸ばして周りのものに触れようとした。

 

私の頬にその手が触れた。

 

彼女の記憶にしっかりと残っている、決して忘れてはならない感覚。

 

長い間、それを忘れてしまわないように守り続けていた感覚。

 

「・・・指揮官。」

 

久しぶりにその感覚を体験したリーフは、唇を震わせながら声を出す。

 

「・・・指揮官・・・!」

 

リーフは両手で私の頬に触れる。

 

「もう、会えないと思っていました・・・。」

 

涙で顔をグシャグシャにしながら言葉をつなぐ。

 

「ユニットの中でもみくちゃにされて、壊れそうなほどに快楽を与えられて、そして首元を槍のようなもので突き刺されて・・・。私、いや、意識海の中の”リーフ“はあのユニットの中で殺される運命なんだと思いました。」

 

「機体を動かせなくなったあと、すぐにここにも触手がやってきて、何もできないまま閉じ込められたんです。あの殻のなかに水を流し込まれる前に気絶させられて・・・。キカイイッカクは、意識海を作り変えてから、私をそれに適合するように作り変えるつもりだったんです。その材料が私とキカイイッカクの意識海で、あの殻は意識海を統合する装置でした。」

 

そこまで言うと、リーフは言葉に詰まった。

 

「・・・怖かった。とても、怖かったんです。キカイイッカクと一つになって、永遠に彼のザーメンタンクとして生き続ける未来をずっと見せられて・・・。ルシアもアイラもこうなっちゃうんだって、指揮官にもう会えないんだって・・・。」

 

「・・・指揮官、助けてくれて、ありがとうございました・・・!」

 

リーフは、私の頬に触れていた両手を真っ赤に染まった軍服に移してしがみつき、わあわあと泣き始めた。

 

私はリーフに被っていた軍帽をかぶせ、意識海の転送ができそうな地点まで移動した。

 

 

「・・・そこ。そこなら無事に転送できそう。」

21号の指示通りの位置にリーフを立たせた。

機体の大部分が機能を停止しているため、ヴィラ達はリーフの2つの機体を専用のケーブルでつなぐというアナログな手法で意識海を転送しようとしている。

「指揮官も一緒に転送したいところなんだけど、それには出力が足りないの。悪いけど自力で戻ってきて頂戴。」

とのことで、私はリーフを見送ってから別の脱出口を探さなければならないことになった。

意識海を転送できるよう、リーフをおいて離れる。

「意識海の外の世界で、待ってますね。指揮官・・・。」

すっかり顔を泣き腫らしたリーフが言った。

私の返事の前に、リーフの姿は見えなくなった。

 

「じゃあ、こっちも出口を探さないと・・・。」

私が歩き出そうとした途端、地面が揺れ始めた。

ホストである意識海を失ったこの空間は、時間が経てば崩れてなくなってしまう。

それは至って普通のことであるが、まさかここまで早いとは予想していなかった。

 

「なにボケっとしてるの、指揮官!?早く走りなさい!」

 

ヴィラの声に突き動かされ、私は走り出した。

あたりはどんどん崩壊していき、行きに使っていた道の一部はすでに寸断されていた。

回り道をしながら、来た道を戻っていく。

時折岩の破片が体に当たって痛いが、今はそんな事を考えている余裕はない。

「出発点が見えてきた・・・!」

崩壊を続ける世界はところどころ暗く、またところどころ明るい。

幸いなことに、出発点のあたりは明るく照らされており、道にも崩壊の影響はまだなさそうだった。

あと2ブロックほど突き進めば、出発点までたどり着く。

心と身体のギアを上げ、全速力で駆け抜けていった。

 

出発点につながる一本道まで戻ってきた。

あとは、この道を駆け抜ければ脱出成功である。

私はそのままのペースで道に差し掛かった。

 

しかし、それはほんの少しの狂いで壊れてしまう。

 

気がつくと、私の身体は床に転がっていた。

 

立ち上がって進もうとするが、足元がおぼつかない。

 

「まさか、崩壊が・・・。」

 

そのまさかだった。

 

次の瞬間、目の前にあった道は大きな岩によって砕かれ、軽く10メートルはありそうなほどの大穴があいた。

 

構造体であれば軽々飛び越えられるだろうが、あいにく私は人間だ。走り幅跳びで飛び越えられる距離ではない。

 

なんとかして解決策を探ろうとするが、近くには何もない。

 

必死になって探していると、あたりが突然暗くなった。

 

崩壊の影響かと周りを見渡すと、どうやら私の周りだけ暗い影があるようだった。

 

暗い影の正体は、それですぐにわかった。

 

避けてもいいが、さらなる絶望を生むだろう。

 

「・・・ごめんな。」

 

私はゆっくりと顔を上げ、目を閉じた。

 

 

てっきり岩に押しつぶされたと思っていた私の身体だったが、なんだか感覚がおかしい。

 

目を開けると、私は宙に浮いていた。

 

・・・天国へでも、連れて行ってくれるのかな。

 

ズガァーンと、大きな音が鳴った。

 

おそらく私が岩に押しつぶされた音だろう。

 

どれどれ、顔を上げて私の死に様でも見てやろう・・・。

 

しかし、私がいたであろう場所には岩はなかった。

 

代わりにいたのは、ベレー帽をかぶった鮮やかなピンク色の髪の少女・・・アイラだった。

 

「ルシア!頼んだわ!」

 

何が何だかわからないうちに、私の身体が何者かにキャッチされた。

 

顔を上げると、目に飛び込んできたのはあの責任感の強い表情・・・ルシアだった。

 

「指揮官を回収しました!アイラもこちらに!」

 

その言葉とともに、アイラが落ちてくる岩を足場にしてこちらにピョンピョン跳ねて移動してきた。

 

「おまたせ!脱出するわよ!」

 

私を抱きかかえながら移動するルシアをアイラが大鎌を振り回して護衛しながら、おそらく彼女たちがここへ来るのに使ったであろう脱出口に向かって突き進んだ。

 

「ヴィラ、21号。指揮官の救出に成功しました。これよりそちらに戻ります。」

 

「了解。あと15秒でこの機体は完全に役目を終えるわ。早く移動して頂戴。」

 

私達三人は、彼女たちの勢いそのままに脱出口へ突っ込んだ。

 

 

「・・・指揮官、起きた?」

目を開けたら、21号の顔とちびっこが視界のほとんどを占めていた。

ちびっこは私の胸に電極を当てていたようで、私が起きるとすぐにそれを取って21号のところへ行った。

「ありがとう、ちびっこ。ヴィラに見せに行こう。」

そういうと、二人はヴィラの方へ走っていった。

とりあえず寒いので軍服を着直し、ついでに毛布にくるまりながら立ち上がった。

いつの間にか、吹雪はなくなり、視界がかなり良好になっていた。

あたりを見回すと、さっきまではあったリーフの機体はなくなっていた。

機体から漏れ出した循環液により赤く染まっていた雪の上に、薄っすらと新雪が積り始めていた。

「とりあえず、ヴィラのところへ向かおうか・・。」

21号とちびっこの足跡を辿ってヴィラのもとまで歩いていった。

「あら、ずいぶん早いお目覚めね、指揮官。」

ヴィラはタオルで身体についた循環液を拭いながら言った。

「ヴィラ、これ。指揮官のバイタル?だっけか。」

21号が紙を渡した。

「そう、バイタルで合ってるわ。・・・うん、これと言って異常はないわね。あそこでもし岩に押しつぶされてたら、今頃臓器ドナーとしてあなたを登録しなきゃいけなかったでしょうね。ルシア達に感謝するといいわ。」

「そうだね。ヴィラと21号にも助けられたよ。ありがとう。」

「礼を言われる筋合いはないわ。あれだけ大口を叩いておいて、結局私にはあなたを救う余裕はなかった。あなたが先にルシア達を回復させておいたのが、巡り巡ってあなたを救うことにつながったのよ。」

ヴィラが少しすねたように言った。

「それでも、リーフを助けた事実は変わらない。私のことはともかく、リーフのことは間違いなく二人がいないと助けられなかった。その点だけでもいいから感謝させてほしい。」

「それは21号の手柄ね。結局、あの大きなバッグの中身のほとんどを使う羽目になったんですもの。」

「・・・でも、ヴィラの技術は私にはない。」

21号が割り込んできた。

「21号は、構造体の知識を持っていない。道具があっても、それを使う方法は知らない。道具を持ってきたのは私だけど、それを使えたのはヴィラのおかげ。だから、指揮官は間違ってない。」

21号はヴィラをまっすぐに見て言った。

「・・・そう、じゃあ言葉だけ受け取っておくわ。21号もそれで満足よね?」

観念したようにヴィラが言った。

21号はゆっくりと頷いた。

「・・・ほら、早くルシア達のところへ行ってきなさい。アタシはまだやることがあるから。」

「やること?」

「あの守林人・・・ディアンヌ?から頼まれているの。リーダーの機体を検査してくれって。面倒だから断りたかったんだけど、どうやらここの構造体は妊娠できるそうじゃない?面白そうだから引き受けたのよ。リーフの回復までにはまだ時間がかかるからちょうどいいわ。」

「21号は、どうすればいい?」

「検査だけだから、あなたの手を借りることはないと思うわ。ちびっこがいたら役に立つかもしれないけど、無くてもなんとかなる。指揮官についていっても、こっちに来てもどっちでもいいわ。」

21号はしばらく私とヴィラの顔をキョロキョロと眺め、結局ヴィラについていくことにしたようだ。

「あら・・・指揮官、嫌われちゃったわね。」

「21号、指揮官は嫌いじゃない。・・・でも、ヴィラについていったほうが安心する。」

「はは・・・。でも、そうあるべきだと思ったよ。」

私はヴィラ達に別れを告げ、ルシア達の方へ歩いていった。

 

「指揮官、お目覚めになりましたか。」

こちらに気づいたルシアが走ってきた。

「うん。助かったよ、ありがとう。」

開口一番、ルシアに感謝を伝えた。

「いえ、役目を果たしたまでですから。」

ルシアはいつもの表情で答えた。

「・・・それより、リーフの方へ行きましょう。まだ起きたばかりでしょうから、私がお運びします。」

そう言うと、ルシアは意識海から脱出したときのように私を抱き上げ、走り出した。

「脱出するときも、こんな感じだったよね。」

「ええ・・・あと少し侵入が遅れていたら、どうなっていたことやら・・・。リーフに指揮官のことを聞かれたのであのことを話してしまいましたが、顔を真っ青にしていましたよ。アイラが今、リーフをなだめてくれています。」

「ヴィラには近づくなって言われていたと思うんだけど、どうやって侵入したの?」

「いえ、指揮官。ヴィラは途中で21号をこちらに向かわせて、「指揮官が危険だからこちらに来い」と言ったんです。」

「ヴィラが?」

「はい。当初の計画では、リーフの元の機体に意識海を転送するときに、一緒に指揮官を転送してそこからゆっくり帰ってきてもらおうとしていたようです。しかしながら、リーフの機体はヴィラの想像以上に損傷が激しく、二人を転送するのに十分な出力を確保できませんでした。空間の崩壊を予測したヴィラは、私達を指揮官のもとに派遣して、必要に応じて救出するよう指示を出しました。そうやってリーフの意識海に侵入した直後、指揮官がこちらに走ってくるのが見えたんです。そして、岩に道が寸断されたところも。」

「なるほどね・・・。それでアイラが私を投げ飛ばして、ルシアが私をキャッチして救出成功、と・・・。」

「そういうことです。私の剣を足場にしてアイラを向こうに飛ばし、アイラは指揮官を大鎌で引っ掛けて投げ飛ばしたあと、そのまま岩を砕いて自分も戻ってくる、というのが一連の流れです。帰りに私が指揮官の輸送に専念していたのは、アイラがいたからというのもありますが、そのときに剣が折れてしまっていたというのもあります。」

「先にアイラの方に向かえっていう、ルシアの判断は正しかったね。」

「それも一理ありますが、一番大きかったのは指揮官が私達に機体の換装を命じたことです。おちんちんがついていた方の機体は、外見こそ私達のものでしたが、戦闘時の出力はかなり抑えられていましたから。あの機体のまま意識海に入っても、岩を砕くどころかアイラを投げ飛ばすことさえできなかったでしょう。眼の前で潰される指揮官をただ眺めていることしかできなかったと思います。」

「・・・さあ指揮官。リーフ達がこちらに気づいたようです。ひとまず話はここまでにしましょう。」

そう言うと、ルシアはリーフ達のすぐ近くに私をおろした。

そこには、いつもの格好に戻ったアイラとリーフがいた。

「指揮官、危なかったわね!あと少し遅かったらなんて想像するだけでも恐ろしいわ!」

アイラが飛びついてきた。

構造体のスピードは人間を遥かに上回るため、増幅した衝撃で私とアイラは新雪の中に倒れ込んだ。

「あら、私、そんなに重たくないはずなんだけど・・・。」

「アイラ、指揮官はまだ本調子ではないですから・・・。」

ルシアが苦い顔をしながらアイラを引き剥がす。

「それもそうね。何にせよ、助け出せて良かったわ。散々指揮官に助けられておいて、その指揮官を助け出せなかったなんてなったら、この鎌で私の心臓を一突きしちゃいたくなるわ。」

アイラは手に持っていた大鎌でトントンと地面を叩いた。

「あれ、その大鎌、そんな感じだったっけ?」

大鎌になにか違和感があることに気づいた。

「さすが指揮官!気づくのが早いわね~!マリネが色んなことのお詫びにって、研いでくれたのよ。切れ味が鈍くなったら持ってきてなんて言葉と一緒にね。試しに近くにあった丸太に使ってみたんだけど、軽々切れちゃった。今なら侵食体も一振りで首を飛ばしてやれるわ!もちろん、指揮官を引っ掛けられるように先端だけはそのままよ。」

「・・・空中庭園に戻ったら、しっかり管理してもらわないと困るぞ?」

もちろんよ~!と自信満々なアイラを横目に、私はリーフに向き合った。

「だいぶ回復した?」

「はい。機体がもとに戻ったので、エネルギー面も機能面も問題ないです。」

「そっか、それなら良かった。」

リーフはどこか恥ずかしげな様子で私を見上げた。

「ひょっとして、あのことを引きずってる?」

図星だったようで、リーフの顔がみるみるうちに真っ赤になっていった。

「指揮官をお守りしなければいけないのに、あんなにあっけなく捕まって、殻の中に入れられて、助けられたら安心してあんなに泣いて、最後には指揮官が大変な状況だったのを知らないで一人悠々と元の機体に戻って・・・。なんとお詫びをしたら良いか、わかりません・・・。」

「そんなこと、全然気にしなくていいよ。」

私はリーフの頭に手を置いた。

「そうですよ、リーフ。私もアイラも、指揮官に助けられた身です。指揮官がいなければ、今頃三人揃ってキカイイッカクのザーメンタンクとして深海に沈められていたでしょう。あなたが責任を取ろうとしているなら、私達もそうしなければなりません。」

「そうよ。たしかにリーフの言う通り、私達は指揮官を守る側だけど、結果として指揮官に助けてもらった以上、どう責任を取るかより、どうこの恩を返すかのほうが重要じゃない?」

「指揮官、ルシア、アイラ・・・。本当に、これでいいんですね?」

「いいも何も、リーフが無事戻ってきてくれたことが何よりだ。それ以上の恩返しはいらない。」

私の言葉を聞いたリーフは、それ以上何も言わなかった。

「あ、でも私の約束はまだ果たせてないからね。指揮官、戻ったら覚悟しておきなさいよ!」

・・・今すぐ果たそうとしないだけ、まだマシか。

 

「指揮官、聞こえる?こっちは今しがた守林人のリーダーの検査が終わったところ。」

ヴィラからの通信だ。

「結論から言ってしまうと、これと言って問題はないわ。受精時期が違う2つの子が子宮の中にいるけど、時間的にはそんなにズレがあるわけじゃないから最悪二人同時に生んでしまっても大丈夫だと思う。ただ、どうも人間と比べて成長が早いから、早めに代わりのリーダーを決めるように言っておいたわ。子供を抱えながら戦うのも大変でしょうしね。」

「なるほど、了解した。どうもありがとう。」

「それで、ここからが本題。帰投の時間よ。セリカから通信があったの。30分後に帰投用のポッドが投下されるから、すべての荷物を積んで戻ること、だってさ。」

「思ったより動きが早いな。」

「ルシア達はメンテナンスでどうにかなるとしても、あなたの身体にはだいぶガタが来てるの。さっきのは生命維持の上では異常なしってことであって、仮に今からあの子達と一戦交えようなんてほざきだしたら即刻気絶させて空中庭園に送り返してやろうと思ってたわ。そのことをセリカに伝えたら、顔を真っ青にしてニコラとハセンが出てきてね・・・。あいつ、本当に面白いやつ。よっぽどあなた、信頼されているのね。」

よほど彼らの反応が面白かったのか、ケタケタとヴィラが笑う。

「・・・とにかく、早いところ帰投の準備に取り掛かって。ポッドは私の周辺に落下するようになってるから、地上についたのを確認したら連絡するから、そしたらいらっしゃい。現実世界でも押し潰されたくなければ、下手に動かないこと。」

そう言うと、ヴィラの通信は一方的に切れた。

「もう、帰投するんですね。」

リーフが言った。

「ああ。色々と収穫があった滞在だったね。」

「どちらかといえば、私達は収穫された側だったけどね・・・。」

アイラのブラックジョークが炸裂した。

「とにかく、荷物をまとめましょう。ロゼッタ達への連絡もしなければいけません。」

ルシアの一言で、皆が動き出した。

 

荷物をまとめていると、ロゼッタ達がやってきた。

「・・・もう、帰ってしまうと聞いたのでな。」

「ええ。短い間でしたが、お世話になりました。」

ルシアが丁寧にお辞儀をする。

「あなた達には本当に迷惑をかけた・・・申し訳ない。」

「そのことは、もうあまり考えないようにしましょう?」

リーフが答えた。

「確かに私達はキカイイッカクの暴走に巻き込まれてしまいましたが、現に私達は生きています。色々教えてもらったこともありますから、これで貸し借りはなしってことにしませんか。」

三人の中で一番重症だったリーフの一言は、ロゼッタにはかなり効果的だったようだ。

「それに、そんなに落ち込んでいては、お腹の中の子に影響があるかもよ?」

「お腹の子?」

私の言葉に、ルシア達は驚いたようだった。

「あ、言い忘れてた・・・。実はロゼッタのお腹の中には・・・。」

私の説明に、三人は目を丸くした。

「・・・本当に、そんな事があるんですね・・・。」

「私も機能の一つとしか考えていなかったが、まさか身をもってそれを体験することになろうとはな。ヴィラが興味津々で私の身体を調べていた。リーフの心臓をつかんでいたときとは目の輝きが違っていたから、ほとんど彼女の興味によるところだったんだろう。結果としてふたりとも異常なしとのことだ。」

「でも、相手があのキカイイッカクだなんてねぇ・・・。」

マリネが呆れた顔で言った。

「キカイイッカクのエネルギーは私達のザーメンなんだし、実質的には私達みんなの子かもね?まぁ、そうでなくともせっかく授かった命だから、みんなで育てていくつもりだわ。」

「・・・これは私の勝手な推理ですが、実質的に、ではなく本当にみんなの子かもしれないですよ。」

リーフの言葉に、全員が注目した。

「さっき、21号とお話をしていたんです。そうしたら21号、「ロゼッタはみんなの精子をお腹に入れた」って言っていたんです。先程まではその意味がわかりませんでしたが、あの子はキカイイッカクの精液のことを言っていたと思います。つまり、私達のものを含め、キカイイッカクに取り込まれた精液はエネルギーとしても使われるけど、その一部はそのまま精液としてキカイイッカクのタマタマに蓄えられているって言いたかったんじゃないでしょうか?精液がそのまま蓄えられているんであれば、精子もそのままでしょうから・・・。」

「・・・つまり、ロゼッタは私の精子で受精した可能性があるってこと?私、ロゼッタをパパにしちゃったかもしれないってこと・・・???」

マリネは目を見開いて動揺している。

「マリネだけじゃないです。私達は除きますが、ディアンヌ達を含めたほかの守林人も、その精子でロゼッタを妊娠させていたかもしれません。」

「・・・もしそうだったら、まさしくその子は守林人皆の子だな。」

そうロゼッタが言うと、マリネはどこか吹っ切れたような表情になった。

「・・・そう。一方的におちんちんをしごかれて、気が狂うほど射精させられて嫌気が差してたけど、そういうことなら私の努力も無駄じゃなかったわね。」

「指揮官、本当に世話になったな。」

今度はディアンヌが話しかけてきた。

「だいぶキカイイッカクも安定してきたらしいから、もうジャミングに悩まされる心配は無いと思う。次にここに来たときは、焚き火に身を投げなくても大丈夫だ。」

そばにいたアイラが、大鎌を強く握りしめていた。

「そして、キカイイッカクがこうして落ち着けるほどのエネルギーを供給してくれたルシア達にも感謝しなければな。おそらく私達だけでは厳しかった。本当にありがとう。」

「いえ・・・、私達は、なすべきことをやったまでですから。」

ルシアが冷静な口調で答える。

「今生の別れってわけじゃないんだし、そんなに重く考えないでよ。」

アイラも続いた。

「少なくとも私は、まだまだここで調べ足りないことがあるの。必ずここに戻ってくるから、また色々聞かせてね!」

アイラの言葉に、珍しくディアンヌが笑顔を見せた。

「ディアンヌが笑うなんて、いつぶりかしら・・・。」

マリネとロゼッタは、めったに見せない仲間の表情に驚いていた。

 

「準備は済んだかしら、指揮官?たった今、ポッドが着弾したわ。地点を送信するから、そこに集まって頂戴。」

ヴィラからの通信だった。

ロゼッタ達の提案で、その地点までは彼女たちに連れて行ってもらった。

ここに来たときと同じような光景、しかしながら私達と守林人の間にはいつの間にか強い信頼関係が芽生えていた。

ロゼッタが喝を入れなければ、きっと守林人達はいつものペースとは比べ物にならないほどゆっくりと歩き続けたことだろう。

「指揮官、やっと来た。ポッドの準備はできてる。セリカ達が首を長く?して待ってるらしい。」

首を長くってどういう意味?とリーフに問いかけている21号をヴィラが引っ剥がし、ちびっことともにポッドに突っ込んだ。

「ほら、あなた達も早く。エネルギー不足で宇宙の藻屑になりたい?」

ルシア達は守林人に別れを告げ、ポッドの中に入っていった。

「・・・それじゃあ、私も行こう。」

歩き出そうとしたが、ロゼッタに肩を掴まれて動けなかった。

振り返ると、ロゼッタが拳を突き出してきた。

「・・・ありがとう。」

ロゼッタの拳に私の拳を重ねた。

ぱしっという音が響く。

「・・・今度は、ぜひゆっくりしていってくれ。」

「ありがとう。任務がなかったらね。」

私はロゼッタに背を向け、ポッドに向かって走り出した。

 

「それでは皆さん、また会いましょう。」

ポッドがゆっくりと上昇していく。

それぞれが思い思いの方法で見送りに来た守林人に感謝を伝えている。

やがて守林人の姿も見えなくなった頃、7本の狼煙が私達の視界に入ってきた。

色の異なる7本の狼煙は、上空で混ざり合って複雑な色を作り上げている。

「・・・オーロラみたいですね・・・。」

リーフがつぶやいた。

「粋なことをしてくれるじゃない。本物をお目にかかれなかったことが心残りだわ。」

ヴィラが皮肉まじりにつぶやいた。

「ねえ、ヴィラ。オーロラって、あれのこと?」

21号がヴィラに問いかけた。

「違うわ。あれは単なる狼煙。本物はもっと幻想的なの。」

「21号、ヴィラと見ている方向が違う。右を見て。」

指示通りにヴィラが首をひねる。

「・・・」

「ねえ、ヴィラ。オーロラって、あれのこと?」

「・・・大正解よ、21号。」

21号が見つけたのは、それはそれは大きなオーロラだった。

下にいた守林人も、歓声を上げていることだろう。

「・・・この星も、まだ捨てたものじゃないわね・・・。」

偽物のオーロラと本物のオーロラの共演に、全員が心を打たれていた。

=完=




あとがき
トゥルーエンド編はこれにて一区切りとなります。ここまでお読みいただいたすべての方に感謝申し上げます。
また、無事全員救出・帰還といういわゆるトゥルーエンドを書いたところ、想像以上にお役に立てない部分が数話続いてしまったことをお詫び申し上げます。
ただ、この物語はもう少し続けたいと思っております。
普段ならば単なる“GAME OVER”や“MISSION FAILED”で終わってしまう物語のその先、キャラクターの成れの果てを表現できるのも創作の面白いところですからね。
ということで、次回よりバッドエンド編です。ここまでの話で若干ネタバレもしてしまっていますが、話の流れとしてはTE01からの分岐となりますのでよろしくお願い致します。
棒笹
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