ルールその一、クラブの活動について口にしてはならない。
ルールその二、クラブの活動について口にしてはならない。
ルールその三、活動は帝音学生寮瀬戸(せと)海月(みつき)の部屋で行う。
ルールその四、活動は毎週金曜の放課後から翌日昼間までとする。
ルールその五、主導権はコインで決める。
ルールその六、夕食の献立をセーフワードとする。

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セトヒダカクラブ 深夜の部

 毎週金曜日の放課後は帝音学生寮前で双子の妹の零奈(れいな)と待ち合わせる。警備員も零奈を顔パスで通してくれるくらいには繰り返した恒例行事。けれど警備システムは人間ほどの融通を利かせてくれず、毎回出さなければならない申請書の煩わしさにも慣れた頃。

 

「お、お姉ちゃん……その、ね……」

 

 今日零奈に振る舞ったのはローストビーフ。オニオンソースとわさび醤油を用意して、副菜には簡素なサラダを添えた。牛もも肉のブロックをサーモンナイフで薄く切り分けると、火が通り過ぎていないピンク色の断面が室内灯の光を受けて輝いた。

 

 我ながら、ここ最近では会心の出来と言っていい。

 

 零奈とともに完璧な仕上がりを見せる夕食に舌鼓を打ち、親が離婚して離れ離れだった時間を埋めるようにお互いのことについて話し合った。好きな音楽を始めとして、アニメの話や料理の話、学校の得意科目や不得意科目まで、思いつく限りに話題を振っては質問を繰り返した。

 

 ニューレジェンドのあと、留学する火凛(かりん)を成田空港まで見送りに行ったときは、お互いに話をしたいけれど声のかけ方がわからないぎこちなさがあった。

 

 けれど今なら、会話が途切れてしまっても、気まずさはまったく感じない。

 

 空になった食器を片付けたダイニングテーブルで、私は零奈の左隣に座る。そして彼女の左手に自分の右手を重ねた。

 

「お姉ちゃん、いじわるしないで……はやく、しよ……」

 

 触れるか触れないかといったギリギリの力加減で、零奈の指を一本一本なぞっていく。その度に零奈の手はびくびくと震えた。彼女の顔を覗き込むと、頬には朱が差し、瞳は潤み、ジッと私を見つめる視線にはこのあとへの期待が溢れている。

 

 零奈の指に自身の指を絡めて、きゅっとほんの少し力を込める。

 

「零奈ったら、もう我慢できないの?」

 

 薄く微笑みを浮かべて問う。零奈は自身の色欲を見透かされたのが恥ずかしいのか、自分で口にした誘い文句に照れたのか、右手で口元を覆って顔を逸らした。

 

 けれどすぐにチラチラとこちらの様子を伺い出す。興奮が隠しきれていない。私が動き出すのをそわそわと待っている様が大型犬のよう。ぶんぶんと勢い良く振られるしっぽを想像して、私はたまらず、くすくすと笑みをこぼした。

 

 私の笑い声に反応して、今度は耳まで零奈の顔が赤くなる。私が零奈の左手への愛撫をやめて、ジッと顔を見つめていると、零奈は観念したように、こくん、と首を縦に振った。

 

「我慢できないから、えっちなこと、して……」

 

 零奈は、先程まで零奈の手を撫で回していた私の手を取って、そっと指先に口付ける。そして愛おしそうにうっとりと頬ずりを始めた。

 

「お姉ちゃんの手が好き。細くて長くて繊細で、血管が透き通るくらい白くて、爪の手入れを欠かしてない、ピアノを弾ける綺麗な手」

 

 昔からずっと憧れてた、と零奈は再び、私の指先にキスの雨を降らす。くすぐったさに、ついつい私も身動ぎしてしまう。世の中には手の甲にキスをして忠誠や敬愛を示す文化もあるらしいが、零奈のコレは情欲の色が強すぎる。

 

 次に唇が触れたタイミングで、私は少しばかり指を動かす。零奈の唇を指の第一関節でなぞって、下唇を人差し指と中指で挟んだ。手前に指を引くと、ぷるんと唇が逃げた。瑞々しく弾力のある唇が震え、私の指を物欲しそうに零奈の視線が追う。薄く開いた唇の隙間に人差し指をあてがってやると、零奈は嬉しそうに指を咥えた。

 

「はむっ……んくっ……ちゅる……」

 

 丹念に、丁寧に、零奈は私の指に舌を這わせる。人差し指は、熱く、ぷりぷりとした感触に包まれた。指全体に唾液をまぶし終えると、母乳を求める赤ちゃんのようにちゅうちゅうと吸い付いて離さない。

 

 上目遣いでこちらの様子を伺う零奈の瞳からは多大な親愛が伝わってくる。そして溢れ出る愛欲からなる奉仕は肋骨の内側を熱くするほどに心地良い。このまま零奈の好きにさせてあげたいとも感じてしまう。

 

 けれど。

 

 零奈から視線を外して、ちら、と机の上を見る。机の上では何の変哲もない十円玉が自身の価値を示していた。表か裏かを零奈と決めて、投げた硬貨は私に勝利をもたらした。

 

 勝ったのは私である以上、今夜の私には骨の髄がとろけるまで零奈を愛し尽くす特権がある。

 

 今にも淫蕩の雫を口端からこぼしてしまいそうな零奈の口から、私は指を引き抜いた。

 

「零奈。今でも私のピアノは好き?」

 

「うん」

 

 零奈は上気しきった顔で頷いた。

 

「じゃあ今日は、零奈がピアノの代わりになりなさい」

 

 零奈を見下ろして、宣言する。言われた零奈はぱちくりと目を瞬かせていたが、やがて理解が追いついたようで、にへらと相好を崩した。

 

「えへへ。それってアレだよね? お姉ちゃんの指の動きに合わせて私をアンアン喘がせるってことだよね? 乙女の祈りとかジムノペディみたいにゆったりと優しく? それとも子犬のワルツとかトルコ行進曲みたいにアップテンポで軽やかに? うぅー、想像するだけで、もう今からゾクゾクしちゃうよ」

 

 私は身を乗り出して零奈の頭の上に手を伸ばす。彼女の茶髪をワンサイドアップにまとめている工具のネジをモチーフにした髪ゴムに手をかける。そして零奈の耳元で答え合わせをするかのように、ひとつのピアノ曲を囁いた。

 

「今日の気分は、リストのラ・カンパネラ」

 

 強く、激しく、病的に、私はあなたを愛します。曲名の裏に隠した私の心情まで零奈に伝わったかはわからない。けれどとてつもなく難度の高い曲から、今日の命運を推し量ることは難しくはないだろう。

 

 私はするりと零奈の頭から髪ゴムを引き抜いて、バツ印になるよう留められている二本のピンを外した。そして彼女の髪をぐしゃぐしゃになるまで掻き回す。セットされた髪は人前に出すのを憚られるほど掻き乱された。零奈が私の部屋に泊まるときは、欠かさず行っているルーティーン。

 

 私の愚かしい振る舞いを零奈は苦笑しながら受け入れている。

 

「もうお姉ちゃんってば。こんなことしなくても、私は逃げたりしないのに」

 

 零奈はされるがままではあるが、その間ジッと私を見つめている。熱のこもった視線。けれど彼女の焦点は零奈自身の欲望から、私の胸の内に移ったことが感じ取れた。表層ではなく、もっと深い部分。DJがフロアを支配するには、客の心情を読み取って熱狂へ向かって背中を押してやらなければならない。

 

 日高(ひだか)零奈には、他人の心を音楽に乗せる天性の才能が備わっている。つまるところ、零奈は人並み外れて他者の感情を読み解くことに長けていた。

 

 今の私では太刀打ちできない照魔鏡が、私の顔を映している。私の心を、見透かしている。

 

 彼女の瞳に映る瀬戸(せと)海月(みつき)の表情には、未だに怯えの色が浮かんでいた。

 

 かつて私は家族のカタチを保つため、子供ながらに奮闘していたことがある。母は心が弱かった。年々父との折り合いが悪くなり、一線を越えないよう私は母の機嫌を取り続けた。けれどその甲斐なく両親は離婚。私は母に、零奈は父に着いて行き、一家は離散。そして母は体調を崩し、現在は海外で療養中。

 

 私が母のために頑張れば頑張るほど、家族というカタチは失われていった。

 

 だからだろうか。本当は零奈なんてここには居らず、全部寂しい女の妄想なんじゃないかと、そう思うときがある。それくらい零奈と一晩を過ごすのは私にとって信じがたい出来事であり、覚めて欲しくはない夢の続きなのだ。

 

 零奈が部屋を出て行ってしまうのが恐ろしく、私はいつも彼女の髪を乱して、人前に出られないよう心理的な枷を施している。

 

 そんな私の心の機微も、きっと零奈には伝わってしまっている。

 

「零奈、キスをしましょう」

 

 あえて、声に出す。零奈は「うん!」と嬉しそうに瞼を下ろす。彼女の瞳を占有していた怯えるばかりの弱々しい女が消え失せる。私は零奈の髪を乱した手をそのまま彼女の頭に添え、ゆっくりと零奈の唇へ顔を近づけた。

 

 互いの吐息が触れ合う距離。鼻先が擦れ合う。唇に生まれる柔らかな感触。啄むように唇を幾度も重ねる。響くリップノイズ。焦れた零奈が唇の隙間からちろちろと舌を出して、私の唇を舐め上げた。零奈の舌を唇で挟む。柔らかな弾力を唇で揉み込みながら、私は突き出された零奈の舌に吸い付いた。

 

「ちゅっ……ぢゅぷ……ぁむっ……」

 

 すぐ、互いに互いの舌を絡め始めた。零奈の耳を塞ぐように、彼女の頭を鷲掴みにする。応じるように、零奈は両腕を私の首の後に回す。零奈の身体が私にしなだれかかってくる。互いの熱を全身で味わいながら、私たちは相手を貪ることにのみ集中していく。

 

「れろっ……ぬちゅ……じゅるる……むちゅ……」

 

 舌と舌を押し付け合う。私の口の中で暴れようとする零奈の舌を抑えつけ、逆に零奈の口内を蹂躙する。けれど押しつ押されつの駆け引きは互いに決定打を持たず、相手の舌の輪郭を思い描けるほど丹念にねぶり合うだけに留まった。溢れてくる唾液を舐め取る度に、口端からじゅる♡ といやらしい音がこぼれ落ちる。

 

 はぁっ♡ はっ♡

 

 もう、息も絶え絶えだった。呼吸すらも忘れてディープキスに溺れた私たち。零奈を貪る快楽よりも息苦しさが勝ったとき、ようやく私は一度目のキスに区切りをつけた。

 

「ふーっ♡ ふーっ♡」

 

 零奈も私と同じように息が上がっている。酸欠寸前になるまで息を止めていたのか、零奈はぐったりと私の首筋に頭を載せた。零奈の荒い呼吸が胸元にぶつかってくすぐったい。けれど息切れと興奮でどくどくと荒ぶる心臓のせいで、大して気にはならなかった。

 

 息が整うまでのほんの少しの間、私は零奈の背に片手を回して、もう片方の手で零奈の頭を撫でるように彼女の髪を梳いてやる。

 

「えへへ。お姉、ちゃん……お姉ちゃん……」

 

 甘えきった猫撫で声で姉と呼ばれる度に、私の口端は緩んでしまう。収まりのいい体勢を探してか、零奈がわずかに身動ぎする。それが身体を擦り付けてくる猫のようで、とても愛おしい。結局私の胸に顔をうずめたところで、零奈は落ち着いた。今なら暴れる心臓が血液を送り出す音や、肺が膨らむ音すらも聞かれていそうな密着具合で面映い。

 

「お姉ちゃん、もうちょっとこのまま」

 

「なに? 今日一日ここに居てのんびりする?」

 

「えー? ちがうよぉ。のんびりするのはヤだけど、お姉ちゃん、いい匂いだなって」

 

「そうかしら? まあ、ありがとう、と言えるのかしらね、これは」

 

 言って、私は零奈の頭頂部に鼻をうずめた。

 

「わ! わ! 嗅ぐのはナシだよ!」

 

 じたばたと零奈が暴れる。不意打ち気味に頭突きはされたくなかったので、私はすぐに顔を上げた。零奈はそのまま、私から身体を離してしまう。

 

「いい匂いがするかと思って」

 

 苦笑混じりに弁明する私を、零奈は「うー」と恨めしそうに睨んでいる。頭皮の匂いを直に嗅ぐのは、さすがにちょっとなかったらしい。

 

「お姉ちゃんの変態さん」

 

「まあいいじゃない。人の胸の谷間に顔をうずめながら、いい匂いなんて評するどこかの変態さんには負けてしまうわ」

 

「えっ……? あっ」

 

 自分の行いを省みたのか、零奈の顔にサッと朱が差す。その様相を面白おかしく見守って、私は椅子から立ち上がる。座ったままの零奈の顎先に私はそっと指を添えて、上を向かせた。無防備な唇に、私はもう一度キスを落とす。

 

 鳴り響くリップノイズ。

 

「続きはベッドで、ね」

 

 蕩けたような表情を晒して、零奈は「はぁい♡」とはにかんだ。

 

 リストバンド型のスマートリモコンでダイニングの照明を落とす。伸縮性があって軽くて防水ですべすべと肌触りがよく、室内の家電すべてを制御できるため、家の中ではすっかり愛用するようになった便利デバイスだ。激しい行為の最中でも存在を忘れる装着感が気に入っている。

 

 椅子から立ち上がった零奈を背後から抱きしめる。「脱がせていい?」零奈の耳元で囁きながら、私の手はすでに零奈が着ているブラウスのボタンに伸びている。胸元のボタンをひとつ外す。

 

「やっぱりお姉ちゃんの方がえっちだよ」

 

 先程変態呼ばわりされたことを根に持っているのか、少し拗ねたような口調で零奈は応じた。そして私が外したボタンのひとつ下のボタンを自ら外す。私たちは交互にブラウスのボタンを外しながら、寝室へ向かう。密着したままでは歩幅を広げることもできず、互いの太ももと太ももを擦り合わせながら、少しずつ前に進む。

 

「えへへ。歩きづらいね」

 

「ええ。ほんとうに」

 

 口から出たのは悪態だが、私も零奈も露にしている感情は喜びだった。ダイニングキッチンからベッドまで十数歩の距離。それが亀のように遅々として進まない。けれど今の私たちはその不自由ささえも、一種のエッセンスとして捉えている。

 

 ブラウスのボタンを外し終える。鎖骨からおへそまで、零奈の肌が晒されている様を肩口から覗き見る。正中線を指でなぞりたいという欲求をぐっとこらえ、私は零奈の首元にある赤いリボンに手を伸ばした。私がリボンの留め具を外している間に、零奈は袖口のカフスボタンを外している。

 

 留め具が外れたリボンを床に落とす。私は眼前にあるブラウスの襟首を掴んで、するりと零奈の素肌を外気に晒した。零奈が上半身に身に着けているものはオレンジ色をしたブラジャーのみ。細い首筋や肩甲骨の間にできた陰影、なだらかな曲線を描くくびれ。それら魅力的な零奈の後ろ姿が私を惑わす。

 

 私はもう知っている。きめ細やかですべらかな零奈の背中は、肌を合わせるだけで胸の内が暖かくなるほど心地よい。

 

 その誘惑を振り払って手をかけたのは、零奈の腰元。彼女が着ているプリーツスカートのホックとファスナーだった。ぱさりと音を立てて、零奈の腰からスカートが落ちる。下着姿になった零奈が振り返る。

 

 ブラジャーとショーツの基調はオレンジ。零奈が好んで羽織っているパーカーと同じ色。零奈を色で思い浮かべるとしたら、やはりオレンジになるだろう。

 

 ブラとショーツには畦道に咲いていそうな小さな花が刺繍によっていくつもあしらわれ、縁にはチュールレースが重ねられている。

 

 何よりも、ブラカップからはみ出そうな豊かな実り。零奈のおっぱいは、再会した頃よりも明らかに大きくなっていることが見て取れる。原因が私であることは、火を見るよりも明らかだ。

 

「かわいいわ。似合ってる。でも、サイズがキツいならちゃんと言いなさい。明日買いに行きましょう」

 

 所感については、素直な言葉をそのままに。ついでにデートの約束も取り付けると、嬉しそうに零奈ははにかむ。

 

「うん! ありがとうお姉ちゃん。……ねぇ、私もお姉ちゃん脱がしていい?」

 

 私の服装は深い青色のキャミワンピに黒ベルトをハイウエストで巻いている。私が返事をする前に、すでに零奈はウエストマークとして使っている黒ベルトのバックルに手をかけていた。かちゃかちゃと留め金が音を立てる。ベルトが外され、身体を締め付ける圧迫感がひとつ消えた。

 

「いいわよ、って言ってあげたいところだけど、ワンピースにそこまで脱がせる要素ないでしょ」

 

 私はキャミワンピの肩紐を腕まで下ろした。胸元を覆っていた布地がめくれて、チューブトップのブラと胸の谷間が顕になる。零奈の熱い視線が、服のはだけた胸元を這う。今にも手を伸ばして来そうな零奈を見て、「脱がすんじゃなかったの?」と、私はブラを少し下にずらした。より深く、谷間を零奈に見せつける。

 

「ファ、ファスナーって後ろだっけ!?」

 

「横よ」

 

 左手で右の肩甲骨を触るようにして、私は肘を上げた。零奈は右手を伸ばして、ファスナーのスライダーを下までおろす。零奈が両手でワンピースを掴み、下方向へ少し力を入れて引っ張ると、私のワンピースはストンと床へ落ちた。

 

「ブラのホックもサイドにあるの。外してくれる?」

 

 左腕を上げたまま、私は零奈に次に脱がすべきものを伝える。

 

「わかった。じゃあお姉ちゃんのブラジャー、取っちゃうね」

 

 弾むような声音で零奈は応えた。ウキウキとした表情のまま、零奈は私のブラのホックを外した。並行して、私は零奈を抱きかかえるように彼女の背中に両手を回した。私も彼女のブラのホックを外し、ストラップを肩から腕へ滑らせる。

 

 ぱさりと私の胸元からブラが落ちた。零奈の谷間を指でなぞる。そのままブラの前中心―――真ん中の谷間部分―――に指を引っ掛けてやれば、簡単に零奈の身体から剥がれ落ちた。零奈のブラが私のブラの上に重なる。

 

「わぁ! お姉ちゃん、ホント細くてきれいな身体。太ももはスラッとしてるし―――」

 

 言って、零奈は私の身体に手を伸ばす。ワンピースとブラジャーを外す際に私の左半身に寄っていたこともあり、私の左内ももには零奈の左手が添えられる。そしてわざと、私の身体で最も敏感な部分に手がぶつかるよう、零奈は内ももを撫で回した。

 

「んっ……」

 

 咄嗟のことで、私の喉からは殺しきれなかった吐息が漏れる。無意識の内に私は口元を手で隠した。私の反応を見て、にんまりと零奈の唇が弧を描く。

 

「お腹も引き締まってくびれもすごいし―――」

 

 反対の手は私の腰を掴んでいる。そして彼女の腕に力が込められ、ぐいっと零奈の方へ引き寄せられた。

 

「えへへ、このつんと上向いたおっぱいがかわいいんだよね」

 

 次の瞬間にはもう、零奈は私の乳首に吸い付いていた。淡桃の蕾をいたぶるように、零奈の舌はちろちろと小刻みに往復する。刺激物でも口に含んでいるのかと思うほど、ぴりぴりと電流にも似た快楽が神経を走った。

 

 立ちどころに、血液が集中する。小さな突起はぷっくりと膨れ、痛いほどに固くなった。何もされていない方の乳首が切なくて切なくて、こっちも可愛がってほしいと懇願してしまいそうになる。

 

「あっ、んっ♡ だ、めよ……零奈♡」

 

 私の喉から、艶の乗った声が漏れる。それを聞いた零奈は、にやにやと上目で私を見遣りながら、無我夢中に私の乳首にむしゃぶりつく。零奈の中で獣欲が途方もなく昂ぶっているのを肌で感じる。歯止めの利かない興奮に当てられて、私自身も彼女の思うがままに愛されたいと思ってしまう。

 

 セーフワードというルールを設けないと私の身がもたないほどの情熱的な愛情表現は、たしかに私を虜にし、病みつきにさせている。

 

 けれど―――

 

「今日は、私の日、でしょ?」

 

 彼女の頭を抱くように、両腕を回す。そして彼女に見えないところで、ブレスレット型のスマートリモコンを操作した。沈黙していたスピーカーが、人には聞こえない音色を歌う。

 

「ひゃんっ!」

 

 直後、零奈の腰が跳ねた。零奈の足がガクガクと震え、立っていられないとばかりに崩折れそうになる。縋り付く零奈がへたり込まないよう、咄嗟に彼女を抱きしめて支えてあげる。

 

 彼女の重みを受け止めて、零奈が私の望み通りに仕上がったことを確信する。

 

 そして、私はスピーカーの再生を止めた。

 

「え? えっ? 私、今、イッちゃった……? な、なんで……」

 

 ああ。やっぱり今の一瞬で、零奈は絶頂に達したのか。

 

 目を白黒させる零奈は、まさに混乱の渦中と呼ぶのに相応しい様相だ。

 

「さ。おいで零奈」

 

 零奈の手を引いて、私はベッドの上に座り込んだ。壁との間にクッションを挟んで体重を預ける。零奈には私の足の間に腰を下ろしてもらって、私にもたれかからせる。

 

「待ってお姉ちゃん。今日私の身体、なんか変で……」

 

「大丈夫。零奈は自分が気持ちよくなることだけに集中していればいいの。いつものからはじめるわね」

 

 言って、私は零奈の胸部に手を回す。とはいえ性行為とは関係ない。内容自体は真っ当なマッサージであり、どちらかと言うと私の趣味。私が責めていい日は必ず零奈のデコルテをほぐすところから始めている。

 

 デコルテとは具体的にどこを指すのかと言うと、首筋から肩周り、胸元まで。元々血管やリンパ管が集中している部位であり、そこの部分に溜まった老廃物を押し流して血行促進することを目的としている。

 

 デコルテマッサージの効果は様々だ。首や肩の凝り解消、小顔効果や顔のくすみ解消、ニキビや吹き出物の解消、さらにはバストアップ効果まで期待できるという、まさにいいこと尽くめとしか言い様がない。

 

 これらの説明を零奈にしたところ、二つ返事で「やってやって!」とせがまれた。以来、私は必ず零奈のデコルテをほぐしている。

 

「強く圧すわよ」

 

 一言添えて、私は零奈の鎖骨のくぼみを指で圧す。使う指は人差し指と中指の二本。指を強く押し込めば、ゴリゴリと皮膚の内側にある筋肉の筋を感じ取れる。そして鎖骨の中心から外側へ向かうように圧す場所を少しずつずらしていった。

 

「正直半信半疑だったけど、ほんとに育っちゃったよね。私のおっぱい」

 

「ホントね。週一だけやる素人の見様見真似で、目に見えて成果が出るとは私も思ってなかったわ」

 

 それが終わると次は大胸筋をほぐしていく。親指を握り込むように軽く拳を作って、人差し指から小指の第一関節と第二関節の間の平らな部分を使う。およそ鎖骨の下辺りから、肩の方へとスライドさせる。この動きをぐりぐりと何度も繰り返しながら、零奈の大胸筋を丁寧に揉みほぐした。

 

「えへへ。実はお姉ちゃんにやってもらうだけじゃなくて、お風呂上がりとか寝る前に自分でも毎日やってたり」

 

 その次は小胸筋。脇のすぐ横。普段はブラ紐がかかっている辺りに人差し指と中指を添える。筋がコリコリとしている部分を指で探して、指圧するポイントを上下にずらした。

 

「毎日って、私の手つきを真似して最初から最後まで?」

 

「うん。そうだよ」

 

 ここまでが、ただのデコルテマッサージ。

 

「ここからは少しくすぐったいわよ」

 

「大丈夫だよ。最近はなんか、くすぐったさだけじゃなくて、マッサージの気持ちよさもわかってきたもん」

 

「そう。それはいいことね」

 

 そして私はデコルテマッサージの一環であるかのように、スペンス乳腺の開発をはじめる。

 

 乳房と脇の境目。横乳の中でも特に脂肪が薄い部分に、中指と薬指を差し込んだ。力加減は先程よりもずっと優しく。脂肪の奥にある筋肉を押し込むのではなく、指の腹で撫でるイメージ。ぴくぴくと指先を細かく揺らしながら零奈の乳房を振動させると、彼女の反応は劇的だった。

 

「んにゅっ!?」

 

 不意打ち同然の突然の刺激に、零奈は声ならぬ声を上げて飛び上がる。

 

 その様は、まるで無防備な襟首に雪玉を詰められたかのよう。背筋が反り返り、ぶるぶると震えている。イッたのだ。胸だけで。

 

 対する私は、零奈が絶頂する姿を肌で感じて、なんだか感慨深くなってしまった。

 

 スペンス乳腺を触り始めた頃はくすぐったさばかりが訴えられて、零奈からは不評を買っていたと思う。えっちな雰囲気を盛り上げるための前戯で、割と本気の笑い声が響くのだ。ムードぶち壊しどころではない。

 

 けれど本人の親告通り、零奈は胸だけで感じている。私の思惑を知らないまま、零奈は自分自身でせっせとスペンス乳腺を開発してくれていたらしい。

 

 その変遷に思いを馳せる。笑い声はいつしか荒い息に代わって、やがてくすぐったさよりも気持ち良さが上回り、そしてただの脂肪の塊が性感帯へと変貌した。

 

 ガクガクと震える零奈を余所に、私は汗ばんだおっぱいが手に吸い付く感触を味わう。手の中でたぷたぷと存在を主張する大きな双丘を、私が育てたのだと思えば達成感もひとしおだ。

 

 筋肉の痙攣が収まった頃を見計らって、私は柔らかな乳肉の中に指が沈み込む感触を楽しんだ。胸の輪郭を際立てるように、横乳から下乳へ零奈の肌の上で指を滑らせる。

 

 胸を圧迫する一点が幾度も往復する内に、ついに零奈が音を上げた。

 

「や、やだっ! だめっ! いやっ! へんなのっ! おっぱいがへんっ! きもちよくって、頭、ちかちかする……っ♡」

 

 唇を零奈の耳元に近づける。零奈の耳朶に染み込ませるように、普段よりも低い声でゆったりと囁きかける。

 

「大丈夫。変じゃない。気持ちよくなることはいいことよ。零奈は新しい刺激に戸惑ってるだけ。私を信じて。私に身を委ねて。私の指だけに集中しなさい」

 

 とはいえ今日の零奈はすこぶる体調がいいらしい。私の影の努力が実を結んだとも言えるが、今日の零奈はいつにも増して敏感で、達しやすく、淫乱だ。

 

 私はあえて、責めの手を緩めることにする。

 

「これから敏感なところをたくさん触ってあげるからね」

 

 口にするだけで実行はしない。普段以上に感度がいいことは零奈自身が誰よりもわかっている。こう声をかければ、彼女は身構えてしまって、思うままに快楽を貪らないだろう。

 

 だからそこを、徹底的に焦らす。零奈が強い刺激をおねだりするまで、焦らして焦らして焦らし尽くす。

 

 乳輪の縁を指でなぞる。決して乳首には触れないように気をつけて、くるくると指で円を描く。

 

「すり、すり。すり、すり」

 

 零奈の耳元で囁きながら、乳首に快感を溜めるようにギリギリのところを嬲り続ける。

 

「ふっ、ふっ♡ くっ、んくっ、ふぅぅぅ……♡」

 

 やがて零奈の呼吸が乱れて、呼気に愛欲が混じり始める。それでも決して零奈が望むような法悦は与えてあげない。

 

 零奈の目が私の指を追っているのがわかる。一度手を止めて、今から乳首を触り始めますと言わんばかりに、指先を紙数枚分の距離しかないギリギリのところまで近づける。

 

 けれどやはり乳首には触れず、乳輪に沿って円を描く。

 

「お姉ちゃん……もっと、ちゃんと触ってくれないの?」

 

 零奈は縋り付くような声を出した。ここまで追い詰めれば、もう零奈は絶頂に飢えた獣同然だ。

 

 零奈の懇願に応えて、私は掌全体で包み込むように零奈のおっぱいを掴んだ。両脇から中央に寄せるように乳肉を圧迫する。そして牛に行う乳搾りのように、充血しきった乳首に向かって指を揉み込む。

 

「零奈は胸が押される度に気持ちよくなる。胸と胸がぶつかる度に気持ちよくなる。ちゃんと気持ちいいことを、私に伝えて」

 

「きもちいい♡ きもちいいよお姉ちゃん♡ もっと♡ もっときもちよくして♡」

 

 焦らされた欲求が爆発したのか、零奈は私の言うことと快楽に特に素直になったようだ。

 

「ふふっ、いいわよ。でも、もっと気持ちよくなれるよう、零奈にも協力してほしいの」

 

「うんっ♡ する♡ なんでもするよっ♡」

 

「イメージして。今のあなたは私に弾かれるひとつの楽器。指のリズムに合わせて声を出して。気持ちよさに合わせて声を大きくして。はい、せーの。いち、に、さん、し」

 

 単調な四拍子を淡々と口ずさみながら一定のリズムで乳房に指を押し込む。小指、薬指、中指、人差し指。外側から胸の中心にある突起に向かって乳肉を搾る。すると、私の拍子と指の動きに合わせて、零奈が嬌声を上げ始めた。

 

「あっ♡ あっ♡ あっ♡ あっ♡」

 

「いち、に、さん、し。ふふっ。いい子よ零奈。声を抑えないで。もっと快楽に素直になって」

 

 口にする四拍子はそのままに、私は指の動きを変えた。鞠を弾ませるように、左右から中央に向けて零奈の乳肉を指で弾く。少し強めに力を込めて、脂肪の奥にあるスペンス乳腺を刺激することを意識する。

 

 ふたつのたわわに実った大きな果実は、ぶつかり合う度にたぷん♡ たぷん♡ と卑猥な音を響かせた。

 

「あっあっあっあっ♡ イキそう、お姉ちゃん……私イッちゃう……♡」

 

 零奈の嬌声が拍子のリズムからズレ始める。私は機械的に、同じ動作を繰り返した。零奈が絶頂に達するタイミングを測りやすいよう、メトロノームのように同じリズムで同じ快楽を与え続ける。

 

「イクッ♡ イッちゃう♡ イクッ♡ イクイクイク♡ い、くぅぅぅぅっっっ!!!!」

 

 一際大きく零奈が痙攣した。全身の筋肉が収縮し、一呼吸置いて、零奈の身体から力が抜けていく。そこを、畳み掛けた。

 

「いち、に、さん、し。いち、に、さん、し」

 

 相も変わらず拍子を刻み、零奈のスペンス乳腺を弄ぶ。

 

 撫でて、圧して、搾って、弾く。撫でて、圧して、搾って、弾く。

 

 零奈がイッたことはわかりきっている。けれど、私は責めの手を休めず、なおも零奈を快楽に漬け込む。先程まで蕩けてしまいそうだった嬌声は、すぐに切羽詰まった悲鳴へと変わり果てた。

 

「やっ、いやっ……待ってお姉ちゃぁあああああっっっっ!!!! やめっ、きもちぃいいいいっ、か、らっ、やめてっっ!!!!」

 

「あ」

 

 本当に限界だったのだろう。今日初めて零奈は私に抵抗を見せた。好き勝手に胸を愛撫する私の手を止めるために、零奈は私の手ごと両腕で自身の胸を掻き抱いたのだ。

 

 これは本当に事故なのだけれど、零奈のお乳を搾っていた私の指と零奈の腕が、乳首を挟み込むようにぶつかってしまった。

 

 ごりっ♡ と、乳豆の潰れる感触が指から伝わる。

 

「―――♡ っっっ♡ 〜〜〜〜っ♡」

 

「れ、零奈……?」

 

 零奈から声になっていない声が上がる。さすがに私も手を止めて、零奈の身を案じた。散々焦らされた乳首に、痛みすら伴うだろう強烈な刺激を不意打ちで与えられたのだ。私のコントロールを離れていたこともあり、零奈の頭の中でどんな化学反応が起こっているのか予測がつかない。

 

 不意に、静まり返った部屋にちょろちょろと水音が響く。太もも周りのシーツが湿り気を帯びて、視線を下げると、零奈のおまんこから湧き水のように透明な液体が溢れ出ていた。勢いなく潮を吹いているのか、放心のあまり失禁しているのかは判別できない。

 

 こんなこともあろうかと、衛生シーツを敷いておいてよかった。

 

 マットレスへの被害の無さに安堵しながら、けれど、ひとつだけわかりきったことがある。零奈は声もなく、静かにぶるぶると震えて深イキしていた。その事実に、私はどうしようもなく嬉しくなってしまった。性器には一切触っていないにも関わらず、零奈は快楽地獄という奈落の上で綱渡りをしているのだ。

 

 こんなにも押したい背中が他にあるだろうか。これほどまでに堕ちていく様を見たい人が他にいるだろうか。

 

「ふーっ♡ ふーっ♡ ふーっ♡」

 

 零奈は肩で息をしている。後ろから覗き見える横顔は真っ赤に染まり、羞恥心を噛み殺すように歯を食いしばっている。あるいは、気を抜くと絶頂の余韻だけで、またイキそうになっているのかもしれない。

 

 クッションと零奈に挟まれていた私は、その場からするりと抜け出した。零奈の股の間にできた小さな水溜り。その正面に座り込んで、彼女の顔を注視する。

 

 目の端に涙が溜まって、額からは玉の汗が吹き出して、汗で濡れた髪が幾筋も頬に張り付いている。眉根を寄せて私を見る双眸は、いつもの零奈の瞳よりも格段に鋭く、睨まれているように感じられる。実際睨まれても仕方ないのだけれど、実情は快楽に潰されないよう抵抗する意志の強さが前面に出た結果だろう。

 

 どうにかなってしまわないよう、気を強く持っているだけだ。

 

 その証拠に、幾分か呼吸が整ってはじめて、零奈の瞳は私に焦点を合わせたようだった。普段から嘘がつけないというか、心情が表情によく表れる子ではあるけど、頭の上ではてなマークが飛び交う姿に、思わず笑みをこぼしてしまう。

 

 ―――あれ? 私、お姉ちゃんに後ろから抱きしめられてたはずなのに、なんでお姉ちゃんが目の前に座ってるんだろう?

 

 たぶん今の零奈の頭の中はこんな感じ。イッた衝撃が強すぎて、彼女の中で時間が少し飛んだみたいだ。そんな零奈の浮かべる表情が面白くて、私はますますじっくりと彼女の顔を穴が開くほど見つめてしまう。

 

 やがて私がイッた直後の顔を眺めているのだと悟ると、零奈は「ひゅっ」と息を短く吸って、紅潮した顔を手で覆った。

 

「やぁっ! 見るのダメっ! 禁止っ! 見ちゃいやっ!」

 

「ごめんなさい。でも零奈、最後のはきっと痛かったわよね? お姉ちゃんがやさァしく、さすってあげるからね」

 

 零奈が顔を背けているのをいいことに、私はゆっくりと彼女の胸に手を伸ばした。

 

「すり、すり」

 

 零奈に囁きかけながら、優しく彼女の乳首に指を当てる。未だぷっくりと腫れ上がった乳首の先端に、指紋の溝を引っかけるような、ほとんど触れていないに等しい愛撫を行う。

 

「んひぃ!」

 

 それだけで零奈は飛び上がる。胸をガードするように両手で掻き抱いて、体育座りをするように膝を立てて縮こまった。

 

「―――っ♡」

 

 自分で胸を押し潰した拍子に、零奈は再びびくんと震えた。また軽くイッたらしい。

 

「だ、ダメ。ダメダメダメ。いま私に触っちゃダメ。おっぱい禁止! おっぱい以外も禁止!」

 

「今日の零奈ホントに敏感ね。風が吹くだけでイッちゃいそう」

 

 軽口を叩くと、恨みがましそうに零奈がこちらを見つめてくる。

 

 その視線が心地よい。零奈も零奈で私が気絶するまで奉仕をやめないし、むしろ気絶してもなお私の身体に何かしている。「意識の無い人を気持ちよくしても、体温が上がって呼吸が速くなるだけなんだね」なんて、にこにこと言われたときは戦慄したものだ。

 

 そんな零奈が震えて縮こまっている様を見るのは存外気分がいい。

 

「……はぁ、わかったわよ。落ち着いたら言って。それまでは触らないから。……とはいえさすがにそれは脱ぎなさい」

 

 びしょびしょに濡れそぼったショーツを脱がす。そして零奈を安心させるため、私はわかりやすく零奈と距離を置く。ベッドの端で小さくなっている零奈と対角線を書くように、私はベッドの反対側へ移動して、その縁に座り込んだ。

 

 それで零奈は安堵したようである。彼女の身体から力が抜けるのが、目に見えてわかったからだ。

 

 たしかにここからでは零奈に触れない。手でも足でも、いくら伸ばしたところで物理的に届かない。けれど、零奈に快楽を与える手段は触覚に頼る必要はない。私は内心でほくそ笑みながら、リストバンド型のスマートリモコンを操作する。

 

 室内にあるスピーカーが起動した。私たちの耳には何も聞こえないが―――

 

「―――ぃ゙っ♡」

 

 呻くように、零奈の喉から艶やかな悲鳴がこぼれた。

 

 零奈は「はぁ♡ はぁ♡」と乱れた息を繰り返しながら、立てた膝に額を乗せて、足を抱くように両腕を回す。

 

 零奈の表情が見えなくなるのは面白味に欠けるが、それでも時折身体がびくりと震え上がるし、足の間から丸見えの女性器は止めどなく愛液を垂れ流している。

 

 気分を落ち着けたい零奈の意思とは対照的に、彼女の肉体はどんどん興奮状態に陥っていることが見て取れる。

 

 種を明かせば簡単なもので、零奈の脳はある周波数の音を聞くだけで快感を得るように、私によって開発されている。

 

 性感帯を触られて気持ちいいという感覚は、あくまでも脳がこの刺激は快感だと判断しているだけに過ぎない。逆説的に、別の刺激を快感だと脳を騙せれば、今の零奈のように身体に触れられなくても性的快楽を得続けることができる。

 

 スピーカーから流れているのは二万ヘルツを超す音―――即ち、超音波。

 

 人間の耳には聞こえない音。これも勘違いされがちだが、超音波はまったく聞こえていないわけではない。所詮は音だし、耳に入れば鼓膜も震える。あくまでも脳が不要な情報としてシャットアウトしているだけで、超音波がもたらす刺激自体は頭の中に入っているのだ。

 

 私は零奈の頭の中で、意図的にこのふたつを繋げ合わせた。零奈がイクときは必ず超音波が鳴っている。その状況を作り出し続け、超音波を聞けば性的に気持ちよくなる、といった風に因果を逆転させるまでに零奈の脳にすり込んだ。

 

 超音波にした理由は特にない。強いて言うなら事故防止だ。原理的には可聴域の音でも同じことはやれる。例を挙げればSNSの通知音だったり、特定の楽器や楽曲だったりだ。SNSでメッセージのやりとりをする度に絶頂するよう仕向けるのも面白いが、それだと私の意図しないタイミングで、私以外が見ているときに、零奈が達する姿を人前に晒す可能性がある。それは面白くない。

 

 だから私だけが知る秘密として、滅多に耳にすることがない超音波を採用した。

 

「どうしたの零奈? まるで子宮が震えて、お腹の奥から湧き上がった気持ちよさが全身に響いてるみたいよ」

 

「な、なんでぇ……なんでわかるの? じんじんするの。お腹の奥が熱くて、かゆくて、おまんこがきゅうきゅう鳴って、何もしてないのに、軽イキし続けて、ずっと気持ちよくて、なのに全然満足できなくて、苦しいよぅ」

 

 たすけてよぅお姉ちゃん、と零奈は顔を上げた。とろん、と蕩けた眼差しが私の身体を絡め取る。

 

 いいわよ、と一も二もなく私は応えた。

 

 ごちそうを前にした獣のように、私は内心で舌舐めずりをしながら零奈に近づく。

 

 やっぱり、この子には才能がある。とても素直で、簡単に人を信じて、受け入れて、高い集中力と豊かな想像力併せ持つ。どれもそのままDJとしての素質に置換できる立派な才能。

 

 そしてその才能は、脳イキの適正としても言い換えれた。

 

「零奈が苦しいのは中途半端に気持ちいい状態が続いてるからね。一回心臓が止まるくらいに激しくイッてみましょうか」

 

「ぇ、や、やだ。ほ、ほんとに身体おかしいの。いつもより敏感で、今なら何されてもイッちゃうの。じ、自分でさせて。一回すっきりすればいいんでしょ?」

 

「いいけど、大丈夫? 自分でやって手加減しちゃったら、きっと今よりもどかしい状態が長引いちゃうわよ。まあその分苦しむのは零奈だから、あなたの意思を尊重するけど」

 

 したり顔で大嘘を並べ立てる。私のでまかせを信じ込んでいる零奈は「うううぅぅぅ……」と呻きながら懊悩している。やがて―――

 

「お、お姉ちゃんがイかせて」

 

 恥ずかしそうに睫毛を伏せて、零奈は両足を広げた。ひくひくと涎を垂らす膣口が、私の指をしゃぶりつきたそうに待っている。

 

「零奈、もう少しこっちへ来て」

 

 ベッドの隅で壁にもたれていた零奈をベッド中央に横たわらせる。さっきまで私が背もたれにしていたクッションを彼女の胸の上に置いてやる。

 

「抱きしめれるものがあったら安心するでしょ」

 

 うん、と頷きながら、零奈はクッションを抱きかかえた。

 

 そして、私は零奈の陰部に手を添えた。彼女のデリケートゾーンは滴り落ちる愛液でびちゃびちゃだ。もう半端な前戯など必要ない。当然、慈愛に溢れた手ぬるい愛撫からはじめる良心など、今の私には存在しない。

 

「クリトリスってね、実は根元が二股に分かれてて、そっちの方に神経が集中してるらしいのよ」

 

 膣の入り口に中指を第一関節まで入れ、そしてクリトリスを裏側からぐにっと押し上げる。

 

「いひゅっ♡」

 

 きゅっと膣肉がすぼまる。零奈の陰核はこれまで見たことがないほど硬く、力強く勃起していた。ビキビキに膨張したクリトリスの皮を剥いて、クリトリスの両脇を中指と親指で押さえ込む。そして顔を出している小突起を人差し指でくにくにとこねくり回した。

 

「ひゔぅゔう♡」

 

 腰が跳ねる。ガクガクと零奈の身体が痙攣を繰り返す。私は構わず、なおも膣からクリトリスを突き上げて、反対の手の中指と親指で最も神経が集中している部分をゴリゴリと揉み潰した。空いている人差し指でクリトリス自体に刺激を与え続けながら。

 

「ふぅ゙ううううう♡ い゙……っぐぅ♡ イ゙ッで、る゙ぅう♡」

 

 ぴんと上を向いたクリトリスの弾力はこりこりとしていて素晴らしく、いくら爪先で弾こうとも決して折れることはない。いじめればいじめた分だけ頑強になり、まるで屈しない心の象徴みたいだ。

 

「ひぬ゙ぅ♡ ひぬ゙から゙ぁっ♡ も゙うイカせな゙いれ゙ぇッ!! グリいぢめないでぇッ!!」

 

 余裕のない、喉にかかる負担が尋常ではなさそうな、濁りきった喘ぎ声が部屋中に響く。

 

 寒くて震えているときのように、ガチガチと零奈の歯が噛み合わさる。零奈は涙を流して、抱き潰さんばかりにクッションを抱える両腕に力を込めている。

 

 しょうがないから零奈の必死の懇願を聞き入れて、少しだけ責め手を変えることにした。クリトリスの周りのお肉を圧迫するのはやめてあげる。

 

「はっ♡ はっ♡ はっ♡ はっ♡ もういいよ、もうイッた。これ以上はダメ。指抜いて。手を離して」

 

 お願いやめて、と零奈は震えながら首を横に振る。いくら零奈の頼みであっても、さすがにそこまでは聞けなかった。

 

 私はにっこりと笑みを浮かべる。

 

 左手の人差し指と親指でクリトリスを摘まみ、指の間で転がすように彼女のクリトリスと抓った。ティッシュでこよりを作るような動きだろうか。人差し指を指の根元の方へ引く。クリトリスは左回りに抓られた。すぐに皮膚が突っ張って、これ以上は回らないと主張する。そうすると今度は人差し指を伸ばして親指を手元に引く。クリトリスは右回りに抓られる。またももう回らないと訴えられる。

 

 一連の動きを、素早く何度も繰り返した。人差し指を引いて、親指を引いて。右へ、左へ。クリトリスをこねくり回す。

 

「―――ん゙や゙ぁあ゙っ!?」

 

 また、クリトリスだけをいじめるのはダメらしいので、膣に挿入していた中指で零奈のGスポットを探り当てる。もうここまで零奈が乱れてしまうと、特別感じる部分はどこなのか正直言ってわからないのだけれど、これまでの経験からこの辺りと思うところで集中的に指を動かす。

 

 ぞりぞり、と襞の一本一本と絡み合うように指を押しつけながら往復させる。指が前後に動く度、零奈の膣からはごちゅごちゅと湿った水音が響き渡った。

 

「ね゙ぇえ゙えっ! ダメだ、て……とめ゙でよぉおお゙……っ! い゙っ、い゙っ、イグっ、イグイグイグっ♡ イ゙ッグぅうゔゔゔ♡」

 

 膣内の異物を吐き出さんばかりに、膣圧が急激に高まった。たまらず、指を引き抜く。同時に、ぷしゃぁあっ! と零奈の秘裂が潮を吹いた。

 

 なるほど。責めるポイントは間違っていないらしい。にちゅ、と音を立ててもう一度中指を挿入する。

 

「もういいッ!! 終わりッ!! やめてよッ!! 離してって、言っ……っっっ♡」

 

 先ほどよりもよりピンポイントに、とんとんとんとん、と零奈のウィークポイントをノックする。気持ちいいですか? と指先で確認する度に、とろとろの膣肉はぐちゅぐちゅぐちゅ、と応えてくれた。

 

「イクのやだぁ゙っ! あっ、あ゙っ、あ゙♡ ……んお゙ッぉおお♡ またイ゙ッ……♡」

 

 零奈は腰や足をぶるぶると震わせながら、再び潮を撒き散らす。

 

 零奈は乱れた呼吸を繰り返すばかりで、私を咎めるような言動はしなかった。できなかっただけかもしれない。

 

 もう一度、私は零奈のGスポットに指をあてがう。私の理解が深まったのか、零奈に変な癖がつきつつあるのか、指で零奈の弱い部分を小突く度に、ぷしっ、ぷしっ、と潮があふれる。

 

「もうやだぁあ゙っ! 潮吹かせてあそばないでぇっ! づらいの゙っ! むりやり潮吹かせられるの女の子はつらいだけなの! お姉ちゃんだっておんなじぐぜに゙ぃッ!」

 

 小刻みに指を振動させる。指に絡みつく水音が一段と粘度を増し、零奈は一際激しく潮を吹いた。

 

「ん゙ぅゔゔゔゔ♡ あ゙ゔ! ほんとにやだ! 本気でキツいの! ん゙や゙ぁあ゙あ゙あ゙あ゙♡ イッでる゙の゙! さっぎがらずっど、イ゙ッてる゙の゙! イッた後にイかせないで!! 頭真っ白になって、ほんとにおかしくなるから゙ぁ!!」

 

 どんなに喚こうとも叫ぼうとも、それでも零奈はイッてしまう。切羽詰まった零奈は手に持ったクッションを武器のように振り回すが、当たったところで痛みは無いし、クッションはすぐ零奈の手からすっぽ抜けてあらぬ方向へと飛んでいった。

 

 獣の如き呻き声を上げながら、零奈は手足をじたばたさせて抵抗する。正直かなり邪魔だし、膝近くの太ももが脇腹に当たって割と痛い。けれどまたしても零奈をイカせてやれば、不随意による筋肉の痙攣が零奈の抵抗を止めてくれる。

 

 やがて、ひっくひっく、と懇願は嗚咽に変わり、零奈のまなじりからは大粒の涙がこぼれ落ちる。ガチ泣きだったし、ギャン泣きだった。涙どころか涎や鼻水も一緒に垂れ流し、見るに堪えない顔をしている。

 

 零奈の情緒はもうぐちゃぐちゃになっているのに、身体の方は達した余韻でまだ快楽に疼いている。そのアンバランスさを見ているだけで、ぞくぞくと背筋が震えた。

 

「うううぅぅぅぅ……キライっ! きらいきらいきらいっ! お姉ちゃんなんて知らないッ! もう触んないでッ! どっか行ってよぉおおお!」

 

「―――そう。わかったわ。最後に優しくイカせてあげる。それでもう終わりにしましょう」

 

 ぐっ、とおへその少し下辺りを軽く押す。そして今までGスポットを愛撫していた指を、膣の最奥まで挿入した。指先からはぷりぷりとした弾力が伝わってくる。ここが零奈の子宮口。俗にポルチオと呼ばれている部位である。

 

 数度撫でただけで、零奈は壊れんばかりに目を見開く。

 

「あっ、あっ、あっ、あっ」

 

 地獄に落ちることが決定した敬虔な信徒のように、瞳に絶望を宿して、零奈は震えるように首を横に振った。

 

「ち、違う。これ違う。これダメなやつ。本当にダメなやつ。重いの。今までよりもずっと重いの。気持ちいいのが重いの。背筋にずんずんって気持ちいいのが溜まって、こんなの―――こわれちゃう」

 

 もう指を激しく動かすなんて真似はしない。女の子を象徴する大切な臓器に乱暴な愛撫はすべきではない。

 

 だから、優しく指を動かす。

 

 ぐりぐり、と円を描くように刺激を与える。ゆっくり、ゆっくり、ポルチオの感触を確かめるように。優しく撫でて、繊細に触れて、何よりも、いたぶる心を忘れずに。

 

「あ゙ッ♡ あ゙ッ♡ あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁっっっ!!!?」

 

 下腹部を圧迫している指から、零奈が腹筋に力を込めたのがわかった。シーツに手をついて上体を起こそうとしているのも伝わった。このままだと自分が壊れてしまうことを悟って、本気で抵抗しようとしたのだろう。

 

 けれどシーツについた手がつるんと滑って、零奈はくてんと寝転がったまま再び起き上がろうとはしなかった。

 

「う、うそ……こ、腰、抜けて、お、起き上がれない……?」

 

 ポルチオを刺激する手は止めていない。しかしそれとは別に、零奈は今も超音波を浴びせられている。ポルチオとは関係ないところで、彼女の神経は常に快楽に炙られている。

 

 さすがにポルチオの刺激の方が強くて、脳の錯覚によって起こる刺激は掻き消されているかもしれない。けれど全身の感度を底上げする助けにはなっているはずだ。

 

 つまり零奈も感覚的にわかってる。次に迎える絶頂は、とんでもなく―――ヤバいのだと。

 

「ご、ごめんなさいお姉ちゃん、嫌いなんて言ってごめんなさい、どっか行けなんて言ってごめんなさい、嘘です、勢いで言っただけなんです、本心じゃないんです、お姉ちゃんのこと好きです、大好きです、愛してます、お姉ちゃんと結婚します、病めるときも健やかなるときもお姉ちゃんを愛します、生涯をお姉ちゃんと添い遂げます、だから、だからぁ! 指ぃ! 指止めてぇえッ!! こわいの来る! 重いのがくる! おがじぐな゙る゙がら゙ぁッ!」

 

「あの、ね、零奈。今まであえて言わなかった私も悪いんだけど、普段自分が言われる側だからってセーフワードのこと忘れたわけじゃないわよね? あまりにも必死だから一応確認するけど、まだ許容範囲なのよね?」

 

「…………ろ、ロース―――」

 

 紡げた言葉はそこまでだった。

 

 零奈が決壊した。

 

 お腹の上から圧迫していた手を震わせて、子宮に新しい刺激を与えたことがトドメになったのかもしれない。

 

 今日最も深く、最も高く絶頂を迎えた零奈は、今日最も静かな姿を晒している。頭の中では絶叫が響いているのかもしれない。けれど、大口を開けて、甲高い声を出すよう喉を締めたところで、呼吸自体が止まっている。

 

 エクスタシーが止まらないのか、はたまた絶頂から降りられないのか、零奈の全身が小刻みに震え出したところで、ようやく呼吸が再開された。

 

 零奈は茫洋と、瞳に何も映さないまま、譫言のように「ろぉすとびぃふ♡ ろぉすとびぃふ♡」と繰り返している。

 

 セーフワードが口にされた以上、ふたりで決めたルールは守る。私は零奈の膣から指を引き抜いて、スピーカーの再生を止めた。

 

 徐々に零奈の呼吸が浅いものから深いものへと変わっていく。それに合わせて筋肉の痙攣も次第に落ち着き、彼女の全身から過剰な力みが抜けていった。その際、じょろろろろろ、と部屋にアンモニア臭が広がる。潮吹きではない。本当の失禁だった。

 

 けれど零奈に目立った反応はない。なおも壊れたレコーダーのように「ろぉすとびぃふ♡」と繰り返している。

 

 ひどい有り様だった。涙に鼻水に涎に汗に尿に愛液に。全身の穴という穴から様々な体液を排出し、物事を考えられないまま無防備に横たわっている。

 

 そんな零奈を私は愛しく抱きしめた。汚いなんて思わない。零奈のにおいが身体に染みつくのなら、それならそれで本望だ。

 

「あっ♡ あはっ♡」

 

 零奈の口から嬌声がこぼれた。抱きしめる程度の接触ですら、今の彼女には劇物だったかもしれない。これは普通に反省だ。けれど今日の行い自体に後悔も反省もない。

 

 だって。

 

 ―――もう、普通には戻れないでしょう。こんな風に徹底的に壊すつもりで愛してくれる人、私以外に居るはずないわ。私以外で零奈が満足できる相手なんて居ないのよ。

 

 だから。

 

 だからもう二度と、私の前から消えないで。私の傍を離れないで。―――独りに、しないで。

 

 零奈の意識が戻るまで、私は彼女を抱きしめ続けた。あるいは、私こそが、零奈に縋り付いていたのかもしれない。

 


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