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深い眠りから覚めて目を開ける。
その瞬間窓から強い日差しが顔にかかり、思わず目を瞑る。う、眩しっ。
「う~…、…ん?」
本当に眩しいので光を遮る為に毛布で頭を隠そうともぞもぞとした時、ふと俺の隣に子供が寝ている事に気づく。添い寝かな?
…ていうか子供? え、誰?
顔を確認すると男か女とも判別がつかない可愛らしい容姿。年齢は見たところ3、4歳ぐらいだろうか。いや、本当に誰の子だ?
父さんが死んでから一人になったが別に天涯孤独になった訳ではない。身内はいるにはいるし会った事もあるが親しい訳ではない。身内の中に小さな子供がいるのは知ってるがこの子ではない。つまり完全な赤の他人なのだ。多分だけど。
俺が訳も分からず呆けているとその子供が突然俺に抱き付いてきた。ほあ!?
一体何事かと慌てていたけどよく見るとその子供は少し震えていた。どうやら俺が毛布を剥がしたことで寒くて仕方ないようだ。つまり温もりを求めて抱き付いたという事だろうか。俺は湯たんぽか。でも確かに寒いな…、とりあえずエアコンのリモコンを探したが見当たらない。仕方なく立ち上がろうとすると子供が更に引っ付いてくる。
俺の胴体に引っ付いた子供の顔を(不可抗力ながらも)思わず覗き込む。可愛らしい寝顔。サラサラなダークブラウンの色をした髪。桃の様なぷっくりとした頬。あれ、この子超かわいい。
「………」
…これはあかん。これはあかんで。性別は分からんが仮に男の子でもこれはあかんで。まぁ、俺はショタでもロリでもどっちの気が無いからいいけど絵面的には完全にアウトだ。
寒いのか子供は更に俺に密着をする。近すぎてその子の体温すら嫌でも感じる。というかこの子本気で寒そう。
抱きしめて俺の体温で温めてやりたいが今のご時世(別に昔からもだが)に子供相手はあかん。常識的に。身内でもアウトな場合があるのに他人(多分)の俺が一線を越えたらアウトどころかゲームセットだよ。
(…ッ、っておい!)
寝ぼけているのか子供が急に足を絡みに来た。腕に力を入れつつ、頬を染めながら俺の胸元に顔を埋めてる。
お、おうふっ。あ゛、ち、ちょっとまって! いきなり足を絡めるのやめて! 死んじゃうっ、俺が死んじゃう!!!
俺が抗うことも出来ず布団の上であたふたしていると部屋の扉が静かに開く。目線をそちらに向けると綺麗な大人の女性がそこにいた。思わず目を見開いて文字通り見惚れていた。
誰だろうっと一瞬思ったがよく見るとどことなく結城さんに似ている気がする。
栗色のロングヘアがポニーにして束ねてあり、色気を感じさせない普段着を着ているが前にかけてあるエプロンから豊満な胸が強く主張している為全体的に地味さが全く無かった。
ただ背が少し高い気がするから本人じゃないのは直ぐに気づいたが…、いや、この人もしかして結城さん? え、本当に?
他人の空似にしては似すぎな気もするが…、いや、本当にどっちだ???
「―――…、――――」
困った顔をしながら何かを喋っているが不思議と何も聞こえない。…そういえば静かすぎる。自分の周りの音が一つも聞こえない。なんだこれ。まだ若いつもりでいけどついに俺の耳も馬鹿になったか?
結城さんに似た大人の女性がゆったりとした感じで近づいて寝ている子供を抱っこする。見上げると子供を抱え上げる時、その左手の薬指にはめてある光り輝くリングを俺は見た。俺でなきゃ見逃しちゃうね。ていうかこの綺麗なお方人妻だったんだ。
女性が子供を抱っこしながら俺を見下ろす感じで微笑みかける。何かを語りかけて来るが相変わらず何も聞こえない。もう病院行った方がいいのかな…、耳って何課なんだろう。
ふと思ったけどこの結城さんに似ている女性って本当は結城さんで腕の中にいる子供は彼女の子供で…、オマケにここにいる。指輪があって俺の家にいて俺の目の前にいるってことは…。
そこまで考えると俺も何かを喋ろうと口を開きかけたその時。
「起きて、もう朝だよ」
声が聞こえた。俺がいつも知ってる結城さんの声だ。
無音が消え、周辺に音が帰ってくる。
目の前の結城さんと子供と俺の部屋が消えて辺りが全て真っ黒になる。
そして気づく。
さっきまで俺が見てたものは全て幻だと。
ーーー
ーー
ー
深い眠りから覚めて目を開ける。
その瞬間窓から強い日差しが顔にかかり、思わず目を瞑る。あれ、これデジャヴ?
「ほら、いつまで寝てないで起きて。遅刻するよ?」
身体を優しく摩られて起こされる。
声の主に目線を移るとそこに結城さんがいた。いつもの見慣れた制服姿でその手には鞄を持っていた。…ん? 結城さん?
「…あれ、何でここに?」
珍しいと思った。こんな時間に会えるなんて思ってもいなかったから。
この人と会えるタイミングは大体放課後か休日しかいない。当たり前だが昨日はここにいたけど門限前に帰った。寝泊まりすることもあるがそれは彼女の都合次第だし生憎昨夜はその都合が悪かった。まぁ、それはともかく家が近いとはいえ平日の朝から起こしに来るとか幼馴染みたいな事をするなんて夢にも思わなかったよマジで。何せ今までこんな事が一度も無かったから。
「朝の様子が気になって見に来ただけ。いつも遅いの?」
「…まぁ遅刻しない範囲でギリギリまで寝るタイプなもんで」
時計を見ると朝6:15分。無茶苦茶余裕である。
「ふーん。それだとごはんとかどうしてるの?」
「あー…、普通にコンビニとかでおにぎり一個で済ませてるな」
俺が怠そうな表情で言うと結城さんはダメ人間を見るような怪訝な顔をして俺を見下ろしながら溜息をつく。
「はぁ駄目よ、ダイエット中の女子じゃあるまいし朝はちゃんと力が出る物を食べなきゃ」
でないと将来病気になりやすくなるわよと台詞を足しつつ手に持っていた鞄をその辺に置く。そして適当な場所にかけてあったエプロンに手を伸ばして台所へ向かおうとしている。あ、これは作る流れだ。
「あー…、結城さん。ご厚意は嬉しいが…その、冷蔵庫、何も入ってないと思うよ」
「賞味期限ギリギリだけど卵はあるし、あとブロッコリーとかもあるから…、あ、お肉あるじゃない…、ってこれもギリギリ…」
そういえばスーパーとかたまーに材料とか買うけど何故かそのまま手つかずで冷蔵庫に放置する事が多いんだよね。あははは。…いや本当申し訳ございませんでした。
ーーー
ーー
ー
顔を洗い、歯を磨いて支度を済ませる。制服を着る為に部屋に戻ろうとすると結城さんに呼び止められる。
「ごはん、居間に運んどいたから」
「あ、うん…、ありがとう、ございます」
それだけ言うと結城さんは居間の方に向かった。俺は部屋に戻ってさっさと制服に着替えることにする。着替えを済ませ、居間に向かうとコタツの上には二人分の料理が並べられていた。ていうか二人分?
「えっと…、結城さんってごはんまだだったの?」
「ううん。ただ、○○君だけに食べさせるのは可哀そうかなって」
まぁ、未開封とはいえ賞味期限が切れたものばかりだからねこれ。悪いのは俺なんだけど。
余程手遅れな状態でもなければ火を通すだけでも大丈夫なものばかりとはいえ不安はあるがせっかく作ってくれたんだしちゃんと食べよう。
「ちなみに材料の9割は期限が切れてたよ」
「………」
今度から買ったらさっさと食べよう。
「…いただきます」
まずは何かいいにおいがするスクランブルエッグからだ。フォークで切って恐る恐るそれを口に運ぶと真っ先に思ったのはちゃんと味がするところだった。しかも美味い。本当に賞味期限が卵かと疑うぐらいに。何か甘いけど甘くない感じがしててしかも甘さの中に苦みがアクセントとして加わっててぶっちゃけケチャップが無性に欲しくなる。自分で作ると味とかほぼ全然しないのに何が違うんだろう。作った本人に試しに聞くと。
「バター」
と答えだけが返ってきた。実に無駄のない返答ありがとうございます。
結城さん曰く出汁とかも入れての下ごしらえも必要だが焼く時に油だと卵の風味を壊すので使うなら油よりもバターがいいらしい。あと苦みを足す為にハーブも加えたらしい。なんのハーブかは知らんがなるほど色々勉強になるなぁ。
ハンバーグでも作ろうと思って買ったミンチのお肉が入っていてスクランブルというよりもオムレットに近い料理ではあるがそれにしても美味い。
卵を口に運ぶがふと炊き立ての白飯が食べたいと今思った。が、残念ながら勉強に夢中で買い物し忘れたので我が家に米は無いのだ。ので米の代わりのゆでパスターをズルズル食べる。これも美味い。
熱々のゆでパスターの上に柚子ポン酢がしみ込んだ大根おろしが乗っかっていて賞味期限が切れた安物の材料とは思えない絶品さがあった。おかげさまで残っていた眠気が全部吹っ飛ばされて気分が爽快になっていた。食べ合わせ? いいんだよ細かい事は。
ベーコンとブロッコリーのスープもしっかり味わい、満腹になると手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
ごはんを作ってくれた結城さんと朝の糧になってくれた賞味期限が切れた食材に感謝を込めて。…今更だけど賞味期限が切れた食べ物って大丈夫だろうか。火を通せば大丈夫って自分で言ってたけどやはり少し不安だ。ていうか結城さんってよく賞味期限が切れた食材を使う気になったよな。豪胆すぎる。
「ところで改めて結城さんって料理上手いんだな」
「改めてって…、まぁ確かに○○君の前で料理したのは初めてだけど…」
まぁ、普通に考えたら愚問だったか。お嫁さんを目指してるらしいしこういうのは必須スキルだろうし出来て当たり前ってやつなんだろうか。そんな彼女にも料理が下手だった時代ってあったのだろうか。凄く気になります。
「…今日初めて冷蔵庫をちゃんと確認したけどいつもああなの?」
「いや、いつもではないが…」
一人暮らしだからか少しでも忙しくなると飯関連が急に面倒になってくるんだよなぁ…。なんでだろう。
食器を片付けようとすると結城さんが立ち上がる。
「ふーん…、ちゃんと身体を大切にしないと駄目だからね」
結城さんが俺が食器を持ったままの状態で近づいて…、皿に手を伸ばそうとした瞬間頬に柔らかい感触を感じた。
「ッ!?」
反射的だったが思わず俺は頭を動かして距離を取ってしまった。だってキスされたもん。びっくりしたもん。
「えっ、え? えと…、え、結城さん?」
そんな俺の行動が意外だったのか結城さんは目を丸くしたまま固まっていた。
「え、急にどうしたの?」
「い、いや何というかちょっとびっくりして…」
「…今更?」
「いやまぁ…、流石に不意打ちは驚くと言いますか…」
「…ふふ、相変わらずというか…、○○君の反応っていつも新鮮だね」
何だか遠回しに童貞臭いと言われた気がしたけどこれっていい意味でと受け取ってもいいだろうか。
楽しそうに笑っている彼女を見てまぁいいかと思いながら片づけを再開する。
「ところで何でいきなりキス?」
「理由がなきゃ駄目? まぁ、ほっぺに食べかすがついてたけど」
「あー…、なるほど」
ベタだけど…、なんかいいなこういうの。
ーーー
ーー
ー
時計を確認ずる。時間は朝の7:10分になっていた。東京の駅とかは丁度混雑し始める時間帯だ。支度を済ませる為テキパキと動くが手が止まってしまう。
「…あれ、何なんだろうな…」
考えてしまうのは今朝見た夢の事。内容はおぼろげながらも覚えてる。俺は何故あんな夢を見てしまったのだろうか。
将来的には彼女と別れるだろうと思いつつ彼女(多分)と結ばれる夢を見るなんて…、期待してるのか?
結城さんの事が好きなのは間違いないし本能的に求めてるのは事実何だが本命がいる相手だぞ?
心が苦しくなる。彼女が好きなのは俺じゃないってわかり切っているのに何故あんな夢を見てしまうのか。
「…はぁ」
憂鬱だ。
出かける準備を済ませたがあの地獄めいた混雑ラッシュに今から向かうと思うと更に憂鬱だ。
俺は人込みとかは苦手だ。あの密着具合がどうも息苦しく感じる時があって場合によって酔って吐く事もあったりする…、というのが子供の頃の苦い思い出。成長して吐くことは無くなったが未だに口を抑える仕草をしてしまうのはトラウマになっているからだろうか。まぁ、仕方ない。
鞄を肩にぶら下げながら玄関の方に向かうと…、何故かそこには結城さんがいた。
「えっと…、どうしたの?」
洗い物を済ませるから先に行っていいと言った筈なのに彼女はずっとそこにいた。何故か。自惚れでもなければもしかしなくても俺の事を待っててくれたのだろうか?
「ん、一緒に行かない?」
「……え?」
…あれ? これってやっぱり一緒に登校する奴? マジで?
家は確かに元々近かったしこういうイベントが起こりそうな可能性は十分あり得たが…、え、マジで?
「どうしたの? 行こうよ」
ちなみに家は近いが誰にも言えない複雑な関係を持ってからも俺は結城さんと一緒に登校した事は一度もなかったりする…。マジです。
十年以上も使い続けたパソコンがついにぶっ壊れたのだ。合掌。