※この作品はR-18です。

とある転生覚者の物語~覚者は白竜を継ぐ気がない&戦徒は主を連れ還りたい   作:狗狼

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 3人での初めての夜営回です。


狂侵(第三話)[※]

 青年が抱いたものはあくまで印象であって、決してリシャールが頼りないという訳ではない。

 宿敵である〈竜〉についてリシャールは入念な下調べをしており、その案内で捜索を始めた。それでも初日は比較的近隣の二箇所を調べるだけに終わる。

 どちらにも最近〈狂竜〉が現れた痕跡は見受けられず、陽も落ち掛けた処で縄張りから少し離れた川縁にて野営をすることとなった。三人で手分けをし、火種の調達、食料の確保、宿営地の整備に勤しむ。

 それなりに食料の備蓄はあるが、仇討ちがどれだけ長引くかいまの処見通しは立っていない。野営が続くのであれば、栄養価が高く長期保存が利く糧食は節約し、日々の食事は狩りをして賄うのが望ましい。

 青年が火種にする杉の葉や乾いた枝を拾い集めて戻ってくると、リシャールは比較的大きめの石を組み上げて、簡素なかまどを作っていた。美丈夫は食材を探しに行ったきり、まだ戻っていないようだ。

 杉の葉をかまどに置いた青年は、リシャールの近くに腰を下ろすと片刃の短剣を取り出し、小枝の皮を剥いて削り始めた。火口となる葉が充分ではなかったため、フェザースティックを作り、着火剤の足しにする積もりだ。

「〈覚者〉殿はご自分のポーンと仲がおよろしいのですね」

 風下に向けてコの字型に口を開けたかまどを作り終えたリシャールが、青年に話し掛けてくる。

 宿の壁はそれほど厚くない。昨夜の声は訊こえていたことだろう。わざと訊かせて反応を見る積もりだったこともあり、青年は特に恥じいることなく手許を凝視(みつ)めたまま答えた。

「俺は……〈覚者〉と〈戦徒〉が不仲なのを見たことはないな」

 貴方と主はどうだったのか。

 そう訊いてみたい気持ちを抑えつつ、青年は小枝を削り続ける。この〈戦徒〉は新たな主を見出すことなく、一途に主の仇を追い求めている。ある意味、美丈夫と同じく、一般的な〈戦徒〉というものの範疇からは逸脱した存在といえる。

「それとも……俺の目のない処で、ルキウスが貴方に失礼を働いただろうか?」

「いいえ。総てはあなたを想ってのことでしょう」

 驚く素振りも見せないのは、リシャールも己が仕える〈覚者〉とそういう関係だったからだろうか。〈覚者〉を愛する〈戦徒〉が、主を失ったあとにどう生きるのか。そこに興味を持った青年ではあるが、リシャールの過去を訊き出すには自分たちのことにも触れねばならないと思うと、なかなか踏み込めなかった。

 結局、深い話には至らぬまま時間がすぎ、顔を上げれば自然にリシャールと目が合う。

 初めて目を逸らさずに青年を見て、感慨深げに目を眇めるリシャール。そこで青年はリシャールの薄茶色の瞳に違和感を憶えた。

「どうか、されましたか?」

 リシャールは特になにを隠そうとするでもなく、青年に問い返す。

 昨日出逢い、今日一日を共に過ごしただけの相手だ。一日で著しい変化があるはずもないだろう。

 どこがおかしいのかと訊かれても、答えようのない違和感だった。

「……いや、なんでもない。気にしないでくれ」

 もう一度リシャールの包帯に覆われた顔を見て、青年は話題を変えようとするが、元来青年も口数の多い性質(たち)ではない。違和感はあるものの、青年からはそれ以上話を続けることが出来なかった。

 いささか微妙な空気になった処で、美丈夫が食料を手に戻ってきたのを区切りとして、一向は野営の準備を再開した。

 

 野宿の間、夜は持ち回りで不寝番(ねすばん)をすることに決め、その夜青年がひとりで夜警に当たっていると、先に睡眠を取った美丈夫がもそりと起き出してきた。

 不審に思った青年は、リシャールの睡眠を妨げぬよう声を抑えて声を掛ける。

「どうした、ルキウス? 確り休め。長丁場になれば身が保たないぞ」

 どこか不貞腐れた様子の美丈夫は青年の背後へと腰を落ろし、抱きかかえるように腕を伸ばしてきた。焚き火を挟んだ先にはリシャールが眠っており、青年の身体に腕を回した美丈夫の視線は、そちらに向けられている。

「〈覚者〉サマ……オレがいない間、アイツとナニを話しなさったンです?」

 その言葉には嫉妬が滲み出ており、美丈夫の瞳に独占欲を宿した剣呑な光が宿っているのを目にした青年は嘆息を呑み込んだ。

「特に? 深い話はしていない」

 この〈戦徒〉が粘着質といえるほどに、自分に固執しているのは端(はな)っから解っている。昨夜、美丈夫の心ゆくまで好きにさせたことで、不安を取り除いてやった積もりでいた。

 処がリシャールとふたりっきりだったということが、またぞろ美丈夫の嫉妬心に火をつけてしまった、らしい。

「ルキウス……?」

 美丈夫は青年の顎に手を掛けると半ば強引に唇を奪い、情慾に濡れた熱い舌で唇を割りさいてきた。

 隔てるものもないすぐ側にはリシャールがいる。人目に晒されるような状況で触れ合うことは、青年がなによりも忌避していると美丈夫も知っているはずだ。それでも、嫉妬心に支配されたいまの美丈夫は、己を制御出来ないのだろう。

「ッ…………ぅ……」

 青年が声を抑えようとすればしただけ、美丈夫は躍起になる。息も吐けないほどに激しく舌を吸い立てられ、貪るように口腔を掻き回され、捏ねくり回される。

 拒絶するのは簡単だが、逆に煽ることになるだけなのも解っている。

 身体に押し付けられた下肢は熱を持っており、美丈夫の昂りを伝えていた。深い口付けに、体内には存在しないはずの心臓が跳ね、青年の息も上がってゆく。

「ッ…………ふ、ゥ…………ッ、ぁ」

 こんなことではこの先思いやられる。

 そうは思いつつも、いまの青年は美丈夫に誰よりも信頼を寄せている。美丈夫は他の誰にも見せることの出来ない自分のことも知っているのだ。にも拘わらず、何故この〈戦徒〉はなにかあるたび、こうも自分に対する嫉妬を滲ませてくるのかと、うんざりすることもある。

 激しい口付けからようやく解放されると、そのままきつく抱擁される。呆れながら傍らに目線を遣れば、美丈夫が自分を抱き締めながら精悍な唇を噛み締めている姿が目に入る。

 眉間には深い皺が刻み己の心と葛藤する美丈夫の姿を目にして、青年は首許に唇を寄せると耳たぶを喰(は)んだ。

「……一回、だけだぞ。それと、中には出すな」

 深く息を吐きながら、下穿きを引き下げつつ膝立ちになり、白い下肢を露わにする青年。幸いにもというべきか〈エレメントアーチャー〉用の魔道着は、短衣に腿まであるロングブーツで、着衣のまま美丈夫を受け入れることが可能だ。

 下穿きを脱ぎ去るとリシャールに背を向ける形で美丈夫の膝上に跨った青年は、その右手を取る。

「ン…………ッ、ふァ…………ん、ぁ……」

 青年は美丈夫の右手を自らの口へと運び、その太くゴツい指先に舌を絡めていった。美丈夫に見せ付けるように、悩ましげな仕草で人差し指と中指にねっとりたっぷり唾液を塗り付けてゆく。

「ふ……ぅ、ッ…………ぁ、は……。これ、で……」

 手指を解放した青年は、美丈夫の肩へ両腕を投げ掛けて頭を抱える。

 美丈夫の指先は己を跨ぐ青年の股間を割って、ひっそりと秘部へと潜り込んだ。菊座に触れた指先はゆっくりと丁寧に皺を伸ばし、固く凝った蕾を解してゆく。

 半ばまで埋まった指先が窄まりを押し拡げる動きに合わせ、青年は細く長い呼吸を繰り返す。奥まで確りと導くように、腹に力を込めては抜き、抜いては込めを繰り返し、美丈夫の指を体内に受け入れてゆく。

 それだけならいつものことではあるが、いまはリシャールの存在が意識の片隅にある。青年は美丈夫の頭を抱えて豪奢な禁止に顔を埋め、漏れる声を押し殺している。

 性的不能という肉体的なコンプレックスを持つ青年は、いままでずっと他者に対して特別な感情を抱くことを諦めていた。誰しも心を開いた相手に蔑まされ、嘲笑われるような目にはそう何度も遭いたいものではないだろう。青年は満たされない心を押し殺し、魔物を相手に慾を満たすことで、長らく自身を誤魔化してきたのだ。

 それでいて、青年は美丈夫を求める自身を嫌悪している。〈覚者〉となった青年が相手にしているのは〈戦徒〉だ。〈戦徒〉が〈覚者〉を慕うことは当たり前なれど、愛を囁き身体を求めるのは有り難しことである。

 初めはこの関係を否定しようとしていたが、拒絶しきれぬまま続いてしまったおかげで、もはや青年に逃げ道はなくなっていた。無駄な足掻きと知りながらも、この不自然な主従関係を他者に知られることを恐れ、兄貴分であるファビオ以外にはいまだに隠し続けている。

 しかし美丈夫は、そんなことなどお構いなしだ。

 美丈夫からしてみれば、青年のことなどレスタニアに生まれ落ちる前から知っているのだ。どこにどのように触れれば、この身体が自然に綻んでゆくかなど、とうに知り尽くしている。

 奥に潜り込ませた指先を無遠慮にくいっと折り曲げれば、腸壁越しに前立腺を刺激された青年は歓喜に満ちた喘ぎを漏らす。

「…………ひァ、っ……」

 押し殺し切れなかった自身の甘い声に、青年は美丈夫の髪に深く顔を埋めた。その反応に気を良くした美丈夫は、青年の胸許に顔を寄せる。

「っ…………ぁ、ッ……。ぃ、ャ……」

 美丈夫の頭が軽く揺れ、よく見なければ解らない淡い金色の無精髭がぞりっと青年の膚を撫ぜ上げた。細い肢体がびくんと仰け反り、喉仏の目立たぬ白い喉許が夜気に晒される。

「イヤ、ではないでしょう? ねェ、〈覚者〉サマ?」

 胸に舌を這わせながら、同時に髭でざらりと膚を撫ぜ回す美丈夫の口端には、至極愉しげな笑みが浮かんでいる。

「むしろ……コレ、お好きです……よね? 違いますか、〈覚者〉サマ?」

 胸の中心に落ちた唇がそろりと膚をなぞり上げ、にゅるりと這いずる肉厚の舌が追い打ちを掛ける。中心から右胸、心臓へと向けて胸を這い回り、ぷくりと屹立し薄紅に色付く乳頭へと辿り着く。熱い吐息が乳首をねぶり、ぞり、ぞりと膚を撫ぜる髭の触感に、青年が嬌声を漏らさぬよう耐えている。

「ほら、見てくだせえよ。アンタの可愛らしいちんぽが、半分おっ勃ってますぜ」

「ん……ァ…………は、可愛らしぃ……とか、ぅな……ぁ、ン」

「ダラダラとがまん汁を零してますな」

 情慾に潤んだ瞳で睨め付ける青年の吐く息は甘く、否定の言葉はただの強がりでしかない。

「だが、こンなだから……アンタは決して、他のヤツにゃあ触れることが出来ない」

 美丈夫は青年自身をそっと握り込んだ。先端からとろりと蜜をあふれさせてはいるものの、青年の肉茎は緩く勃ち上がっているだけだった。中途半端な反応しか示さない陰茎は包皮も剥け切らず、先端が顔を覗かせる程度の勃起しかしていない。美丈夫の手に支えられていなければ、青年の男性自身はだらりと下を向いてしまう。

 陰茎がこんな状態では、女性を相手に性欲を解消することは難しい。男娼を買おうにも売り手は抱かれる側が多い。よしんば攻め手の男娼に出逢えたとしても、不能を隠し通すことは不可能だ。だからこそ青年は、後腐れのない亜人を相手にしていたのである。

 美丈夫はその総てを知っているはずなのだ。中を弄る指の動きに変化はなく、ただひたす入り口を寛げながら官能を煽り立ててはいるが、青年はいまにも泣き出しそうな表情で唇を震わせる。

「お、前は、ッ……それを、知っ……てる、くせに………………ッ!」

「……オレはね? 〈覚者〉サマが、どれだけ愛らしい存在なのか、世の中の総ての人間に知らしめてえンですよ……」

 初めて美丈夫に抱かれたあと、どう振る舞えば良いのか解らず、ファビオの元へ身を寄せたときのことが脳裏を過ぎる。

 以前、美丈夫はファビオの前で青年を抱こうとした。

 美丈夫には青年の周りの人間に要らぬ嫉妬を抱き、青年は己のモノなのだと知らしめようとする傾向がある。

「……それで? 俺に興味を持つやつがいたら、また……こうやって牽制するのか?」

 後ろで眠るリシャールへと一瞬だけ目線を遣り、目の前の美丈夫へと戻す。

「俺は、もう……お前以外の誰とも……こうして、触れ合ったりはしないというのに?」

 青年は悩ましげな息を吐きながら、解れ切った肉輪を美丈夫の男根の先端に押し当てるる美丈夫の瞳を覗き込む。そのままゆっくりと腰を下ろし、エラの張った亀頭を押し潰すようにして美丈夫自身を呑み込んでゆく。

「……ぁ、ふ……う、ンっ。お前は……俺を、信用しない……?」

「ンぅ……そういう、ワケじゃあ……ねェ、ですが……ッ、は。あァ……」

 青年が腰を下げるにつれ、美丈夫の眉間に深い皺が刻まれ、熱のこもった吐息が零れる。

 両手で美丈夫の顔を挟んだ青年は、潤んで艶を帯びた瞳で覗き込んだまま小さく喘ぎながら口付けた。肉厚の唇を促すようにちろりと舌を這わせれば、美丈夫も唇を開いて青年の舌を迎え入れる。

 一年以上を共に過ごして、青年は美丈夫のどうにもならない衝動を理解しつつあったが、なぜ美丈夫が自分にここまで固執するのかは解らない。出来損ないとして見限られるのは自分のほうなのだ。

「いち、いち……妬く、な……」

 咎めるように云って、腹の中を美丈夫の雄で満たした青年は膝のバネを使って緩やかに腰を上下させる。そのたび、太く硬い肉棒が内壁を擦り、愉悦を湧き上がらせる。

「ふ、ゥ…………ン゛……ッぅ……」

 美丈夫が吐く息も青年のそれと同じく、甘く、熱がこもり情慾に濡れていた。中に収まったイチモツが脈動するたび、青年の下腹部が疼いて美丈夫をきゅうっと甘やかに締め上げる。

 最初に中出しは禁止だと云い含められている美丈夫は、青年を穿ちながら律儀に耐えていた。

「〈か、く者〉サマ……ソロソロ、イキそうなんですが、ね……ッ?」

 眉間に深い皺を刻み、荒ぶる息を吐き出す美丈夫を見下ろした青年は、艶やかな笑みを浮かべる。

 体内を抉る灼熱の楔に快楽を呼び起こされて意識を手放しそうな青年と、己に絡み付く甘やかな肉の締め上げに熱い体内へ精を吐き出しそうな美丈夫。共に相手からの悦を受け止めて、高みに辿り着かんとしている。

 初めはリシャールに気取られることを恐れ自制していた青年だが、いまや完全にスイッチが入っていた。

 こうなれば、もう止まらない。

「る、きぅす……」

 まだどうにか声は抑えてはいるものの、青年はどこか愉しげに美丈夫の頬を両手で挟み込み、額を擦り付けながら情慾に濡れた氷碧の瞳を覗き込む。

「ナン、ですか……? 〈覚者〉サマ」

「俺がイくまで……あ、はッ。……お前は、イくな……よ?」

 艶を含んだ笑みを浮かべて愉しげに告げる青年は、赤い舌を覗かせて舌舐めずりをした。そして相手には達することを禁じ、いままでになく激しく腰を上下にグラインドさせる。ただ、自身の悦楽を貪るためだけに。

「あ、はッ……! お、前も……好きに動いて、いい……ンだぞ? …………ン、ぁ。はっ……あァ」

 咥え込んだ太く熱い剛直が、抜けてしまうのではないかと思うほど勢い良く腰を上げ、そこからすとんと落として体内の奥深くへと迎え入れる。エラの張ったカリ高の先端が内壁の螺旋をごりっと抉り、大きく膨れた陽物に最奥を突かれる感触に、青年は掠れ声で歓喜の声を上げた。

「ひァ…………ッ。……あッ、あァ…………ン。ん、ァ……」

 これまで何度も身体を重ねた相手だ。いまさら探るようなことをしなくとも、互いに勝手は解っている。自身の快楽のツボを相手に押し付けるように擦り付ければ、美丈夫からは耐え忍ぶように熱い吐息が漏れ、青年の眼前にある眉間にはさらに深い皺が刻まれてゆく。

 芸術家が生涯を賭けて創り上げた彫刻のように端正な顔が、甘やかな責苦に耐える妙なる表情を浮かべている。

「ん゛……ッ゛、ゔァ…………〈覚者〉サマッ」

 美丈夫は青年の云いつけ通り、ただひたすら与えられる甘い快楽の波を遣り過ごそうとしていた。

 普段は逆だ。美丈夫に良いように扱われ、青年はその太い腕の中で前後不覚になるまで何度も何度も、イかされる。美丈夫も気の済むまで青年の体内へ精を放ち、ぐずぐずに溶けるまでお互いに溺れ合う。

 処がいまは美丈夫が達することを禁じ、青年だけが好き勝手に悦を貪っている。

 この自由気ままで奔放な〈戦徒〉に命を下し、従えられるのは自分だけなのだという優越感に浸り、青年の心は平素よりも昂っていた。

 青年は自身を貫く剛直に、ごりっごりっと音が出そうなほど強く前立腺を擦り付ける。そのたびに視界に星が煌めき、まるでハレーションを起こすような感覚に陥る。

「あ、ッは…………ン゛ァ…………あ゛ッ、ぅ…………あァ」

 もう少し、あと少し。高みを目指し、青年の律動が早まる。初めは押し殺していた声を抑えることも忘れ、無我夢中になって腰を振る。ふたりの腹の間で揺れる半勃ちの陰茎がぴたぴたと頼りない音を立てているのも忘れるくらい、悦に溺れる。

 美丈夫はそんな青年の揺れる肢体を支え、耐えていた。先に達くことを禁じられている以上、自ら動くのは難しい。

 大きく膨れあがった剛直は、美丈夫が欲情していることを示している。だからといってその唇から紡がれる愛の言葉が真実とは限らない。

 そうに考える程度に青年は擦れている。

 ただ、いくら身体を重ね合わせようとも、美丈夫はいつまでも変化のない自分のような出来損ないを前にしても、決して萎えたり見限ったりすることがない。

 そして〈覚者〉を慕うのが〈戦徒〉だ。〈戦徒〉である美丈夫が示す情愛は、自身の醜い欲望の裏返しなのではないかと思えば、まかり間違っても青年が愛を請うことなど出来ない。

 しかし美丈夫が失い難い存在であることも事実だ。

「ンっ……あ゛……ッ。は、ァ゛……あ゛ァ……は、ッ……」

 唐突に青年の動きが止まり、ふるりと大きく身を震わせる。そのまますとんと腰を落として美丈夫の膝上に力無く座り込んだ。最奥で感じとる絶頂の余韻は長い。

「は────ッ! ッ、は────……ん、ふ……」

 両腕を脇下から背中に回し、美丈夫にしがみつくようにがっちりとホールドしたまま、青年は荒ぶる呼気を整えようと長く大きく息を吐く。

「あ゛ァ……ふ、っ。ン゛ぅ……」

 イチモツを奥深くまで咥え込まれ、強い抱擁と同時に急激な締め上げを喰らった美丈夫は、青年の腹の中に己の慾を吐き出さぬよう下腹部に力を込め耐えていた。

 青年の云いつけを守るため、中で達しないよう堪えているのが密着した身体の総てから伝わる。

 口角を釣り上げ愉しそうに笑む青年。神話の叙事詩から抜け出てきたような、この麗しく逞しい男にこんな顔をさせることが出来るのは、他の誰でもなく自分だけなのだという優越感に満たされる。

「〈か、く……しゃ〉サマ……ッ、アンタの中に、たっぷりとブチ撒けさせてッ、くだせえよ……」

 熱のこもった懇願に、ぞくりと背筋が粟立つ。自分の中にいる麗しき〈戦徒〉の望みを叶えてやりたいとも思う。

 だが野外での情事の後始末など、簡単なほうが良い。故に、中で果てることを禁じた。

 青年自身は悦を貪り、美丈夫が甘やかな苦行に耐えるさまを存分に見届けたのだ。従順な従者へは褒美が必要だ。

「それ、は……赦さないと云ったろ? 代わりの、褒美をくれてやるッ、よ……」

 眉間に刻まれる皺に口付けを落とし、青年は自身の内を満たしている肉棒から名残惜しげにゆっくりと腰を上げた。引き抜くときの刺激で達し、体外に精をぶち撒けられて服を汚したのでは元も子もない。

 褒美なのだから、丁寧に愛撫してやろうと薄い唇に酷薄な笑みを浮かべた青年が、美丈夫の股間に顔を寄せて屈み込む。

「ん゛ゥッ!」

 その髪に指先が優しく触れたかと思うと、青年の頭が無遠慮に美丈夫のイチモツへと押し付けられた。口の中に暴発直前の肉棒を捩じ込まれ、キツい雄の匂いが青年の鼻を突く。舌先に触れた先端からは青臭い香りを放つ白濁が滲み出しており、味蕾を刺激する。

「あ゛ぅ……。ふ……ン、ぅ……ァ、あ……ふっ、は……」

 咽せ返るような雄の匂いに、青年の目尻に透明な雫が滲んだ。目線を上げれば、シニカルな笑みを口端に刻んだ美丈夫と目が合う。

「褒美、なンでしょう? アンタの中に出しちゃならねえってンなら、その可愛らしいおクチでたっぷりと受け止めてくだせえよ」

 元よりその積もりだった。青年ははち切れんばかりに大きく膨れ上がった亀頭を喉奥の窪みに当てがい、血管の浮いた太い竿に舌を絡めて強く強く吸い立てる。

「……ッ、ああ」

 それだけで、美丈夫は恍惚とした声を上げた。待ち望んだ解放だ。ふるりと身を震わせた美丈夫は、青年の口の中へと熱い飛沫をぶち撒けた。

「ん、グ……ッ!」

 口いっぱいに広がるどろりとした白濁は、美丈夫が自分に対して欲情した証だ。口腔に受け止めた精液の青臭さに嘔吐(えづ)きかけながらも、青年は目を伏せそれをごくりと音させて嚥下(えんげ)する。

 美丈夫は頭を掴んでいた手の力を抜くと、指先を青年の顎下に差し入れ親指で優しく頬を撫ぜた。

 青年は指先の感触に心地好さげに目を閉じ、精を放ち硬さを失いつつある美丈夫の肉棒を、愛おしげに舐め清める。

「……ん、は」

 口許を拭いながら美丈夫の下肢を整えてやった青年は、顔を上げると上衣を脱ぎ、美丈夫へと押し付けた。美丈夫が受け取るのを横目にリシャールの様子を窺えば、喩え寝入ったふりをしているのだとしても身動きする様子はない。ブーツも脱ぎ捨て、タオル一枚を片手にその場を離れようとする。

「〈覚者〉サマ……?」

 そこへ美丈夫が手を伸ばし、青年の手を取った。その姿はまるで主人に捨てられ掛けた犬のようだ。

 青年はほんの少し屈み込み、美丈夫の指先に口付けてから手を離して微笑んだ。

「……頭を冷やしてくる。お前は辺りを警戒してろ」

 少し歩けば川だ。熱った身体と頭を諫めるにはちょうど良い。

 そう考えた青年は野営地を離れる。

 川縁にて少し考え、足先を水に浸す。思いの外、冷たい。これでは全身浸かるのはよろしくない。

 結局、タオルを濡らすだけに留め、物想いに耽りながら身体を拭う。

 何故美丈夫があのような顔をするのか、青年には解らない。未熟な自分がいつ捨て置かれるのか、心配しているくらいだというのに。

 〈覚者〉となり突然与えられた従順な従者〈戦徒〉。しかもそこには主の意思が反映されているという、〈覚者〉自身の写し鏡にも取れる存在。

 〈覚者〉の意思が〈戦徒〉という存在のどこまで反映されているのか。

 自らの意思を持たず自分に付き従う〈戦徒〉という従者に愛を囁かれる日々は、〈覚者〉として正しい在り方なのか。

 美丈夫自身の在り方はそれほど歪められてはいないと云っていたが、それも本人の言だ。どこまで信じて良いものか。

 〈覚者〉と〈戦徒〉の在り方について、考えれば考えるほど解らなくなる。

 堂々巡りで思考が纏まり切らないうちにも禊は終わる。

 身体を拭ったタオルを濯いだあと、青年は野営地を目指して歩き出す。

 答えは出なくとも、平静を装って今後に臨まねばならない。

「おかえりなせえ、〈覚者〉サマ」

 笑みを浮かべた美丈夫に迎えられて、青年は安堵している。リシャールはといえば青年がこの場を離れる前と変わらず、外套にくるまったままだった。

「お風邪を引きますンで、お召し物をどうぞ」

 先ほど脱ぎ捨てたエンハンスドジャケットを恭しく差し出される。

 手早く身に付けると自分の荷物から取り出した外套を肩に掛け、美丈夫の背に背を合わせて座り、ブーツを履いた。身支度を整えると、体温を奪われないよう確りと外套を巻き付ける。そのまま腰を下に摺り下げ、頭を美丈夫の腰に凭れ掛けさせた。

「俺は寝る。お前は不寝番(ねずばん)だ。そろそろ交代の時間だしな」

 予定の時間よりも早くに目を醒まし、余計な体力を使わせたのは美丈夫だ。連日では困るが、今日くらいは多少の罰を与えても良いだろうと少し早めの夜警を申し付け、青年は目を閉じた。




 最初の予定ではなかったエロシーンなのですが、ルキウスさんがどうしてもというので長くなりました。

 次は戦闘シーンなのですが、少し間が空くと思います……。
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