※この作品はR-18です。

とある転生覚者の物語~覚者は白竜を継ぐ気がない&戦徒は主を連れ還りたい   作:狗狼

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 ハイデル平原に出没するオークの情報を得た〈覚者〉は偵察のため、単騎で街道沿いの涸れ井戸へと向かう。
 古井戸の底で〈覚者〉は、とある目的のためにオークを利用しようとする。

※思いの外長くなったので、前後篇に分けることになりました。
 モブ姦逆レ回です。積極的な受けが苦手な方は自衛お願います。

 オークの生態に関しては完全に捏造です。


悪辣(前篇)[※]

 庭に向けて開かれたテラスのフェンスに留まっていたのは一羽の鳩。足には通信筒が取り付けられている。

 部屋の主たる銀髪の青年は通信筒に収められた書簡を取り出すと、鳩を空に向かって放り投げた。よく訓練された鳩は、帰巣本能に従って大空へと飛び立ってゆく。

 青年は小さく折りたたまれた紙片を広げると、特殊な符丁で書かれた文を目にしながら、台所へと足を運んだ。

 台所では美丈夫がいつものように食事の支度をしている。その傍らに立ち、内容を記憶した紙切れを火に焚べると、それに気付いた美丈夫が声を掛けてきた。

「どうかしたンですかい、〈覚者〉サマ?」

「ちょっとした昔馴染みからの恋文だ」

 悪戯心の湧いた青年が、愉しげに口角を吊り上げながら冗談めかして云う。

「恋文ィ?」

 美丈夫が手を止め、訝しげに訊き返す。その表情を目の当たりにして、青年は小さく吹き出した。

「なにを心配してるんだ?」

「そりゃあ、オレは〈覚者〉サマに惚れとりますンでね。恋文と訊いちゃあ、心穏やかではいられンのですよ」

 口端に緩く弧を描いて皮肉げな笑みを浮かべる美丈夫。青年は肩を竦めながら、美丈夫の緩く揺蕩う豪奢な金糸を一房握り、くいっと軽く引っ張る。

「冗談だ。ただの賞金首情報だよ。今夜、独りで様子見に行ってくる」

「おひとりで、ですかい?」

 促されて屈み込む美丈夫の顎を捉え、自分のほうを向かせた青年は、顔を傾け美丈夫の精悍な唇へと己の薄い唇を押し当てた。

「早いに越したことはない。それに今日は満月だ。お前を連れては行けない……だろ? 以前なら大抵の仕事は独りでこなしてた」

「ですが、〈覚者〉サマ……」

 なにやら複雑な表情を浮かべた美丈夫に微笑み返し、安心させようと頬を撫ぜる。まるで、大型犬を宥めすかしているようだ。

「心配するな。大人しく留守番してろ」

 最近ではハイデル平原でも時折オークの姿が見掛けられるようになり、〈覚者〉と白衛騎士団による警備巡回が強化されるようになった。

 街道沿いにある、涸れた古井戸の近くでオークの姿を見た。

 そんな噂が立ったのはいつ頃からだろうか。しかしそのオークたちは、人の口には登っても巡回の網にはなかなか引っ掛からない。近隣には潜伏出来そうな場所などないというのに。

 随分と昔のことになるが、街道沿いの涸れ井戸に落ちたテル村の人間がいたそうだ。その村人は涸れ井戸の底に横穴が空いており、井戸の底が自然の洞窟へと繋がっているのを発見した。奥を覗く勇気のなかった村人はすぐに井戸から上がって村へ帰った。幸いにも村人には怪我もなく、忙しい日々の生活に追われて井戸の底のことなどすっかり忘れ去っていた。

 処が最近、近隣を彷徨(うろつ)くオークの噂が広まり、ようやく涸れ井戸の底の洞窟について思い出したらしい。近日中にその井戸のことはエリアマスターにも伝わるだろう。

 青年が受け取った書簡に書かれていたのは、そんな内容だった。〈覚者〉となってから顔馴染みになった情報屋が寄越したものだ。

 涸れ井戸の底にある自然の洞窟。まだ調査の手が入っていないのであれば、オークたちが潜伏するにはもってこいの場所だ。テル村にいるハイデル平原のエリアマスターにこの情報が伝われば、賞金首を狙う他の〈覚者〉たちが涸れ井戸を頻繁に訪れることになるだろう。そうなる前に現地の状態を確認しておきたい。

 手紙を読んで青年が考えたのはそんな処だ。

 

 

 

 日が沈み食事を済ませたあと、青年は斥候に出る準備をする。

 手甲と脚絆、肩鎧と胸当てはいつもと変わりない。しかし衣には普段着ている暗緑色ではなく、より闇に溶け込みやすい藍色を選んで身に付けた。

「だいぶ、御髪(おぐし)が伸びましたね、〈覚者〉サマ。オレが結って差し上げましょうか?」

 出逢った頃は襟足の見えるウルフショートだった髪の毛が、項を覆い隠すほど伸びているのを見た美丈夫が、銀糸をひと纏めにしながら云う。

「そうだな、あとで少し切ってもらうか」

「オレはそのままでもイイと思いますがね? 伸ばせば闇夜に映えるでしょうや」

 青年の右目を覆い隠す髪は、まだ襟足には届かないが、直にそれも一緒に出来そうだ。

「流石に斥候や隠密として、闇夜で目立つのは不味いだろう……。本来なら、顔も確り隠すべきだ」

「月色の真っ直ぐで綺麗な御髪なんで、隠しちまうのは勿体ねェってモンでさァ」

「おだてた処で、連れていきはしないぞ」

 身支度を手伝う間ずっと美丈夫は軽口を叩いてはいたが、いまだ本心では納得していない。今日これから行うことへ話題を変えると、些か不機嫌そうに唇をへの字に曲げた。

「そんな顔するな」

 子供のように臍を曲げている美丈夫の姿に呆れた青年は、半ば顔を隠したマフラーを引き下げ、美丈夫の肩に手を置く。

「明日にすりゃあイイじゃねェですか……」

 不貞腐れた美丈夫は顔を背けたままだ。

「ルキウス? しようのないやつだな」

 美丈夫を引き寄せるのを諦め、青年がつま先立ちになる。それでもこちらを向く気がないのであれば唇へは届かない。結局、精悍な顎先に口付けを落とすに留まった。無精髭がちくりと唇に刺さり、青年は困ったように柔らかく微笑んだ。

「昼も云ったろう、他のやつに先を越されたくない。留守は頼む」

 降ろしたマフラーを引き上げつつ美丈夫の頬を撫で、青年はテラスから庭に降りる。美丈夫はあとを追うが、窓から差し込む満月の光を避けるように部屋の中で踏み留まり、庭から出ていく青年を見送った。

 〈戦徒〉を連れての任務ならともかく、ひとりであれば出来る限り人目に付かない道を選んでしまう。それはもう長年の習慣であり、癖だといっても差し支えない。青年は自室の庭から屋根を伝い、海沿いの岩壁を器用に登って、自分しか知らない山道を器用に進んでゆく。

 元々身の軽さを活かして斥候や間諜、暗殺などの隠密家業を生業としていた青年である。そもそも〈覚者〉となったきっかけも、白竜神殿レーゼに忍び込み、白竜の命を狙おうとしたことにある。恐れ多くも世界の守護者たる白竜の命を狙うなどというのは絵空事のようにも思えるが、青年は単身白竜の元へ辿り着いた。しかし神にも等しき白竜の殺害に失敗した青年は自害を図る。その〈シーカー〉としての高い能力が無下に失われるのを惜しんだ白竜は、青年の心臓を奪い〈覚者〉とした。

 正義心に満ちた若者が自らの意思で〈覚者〉を目指すなか、青年は望まずに〈覚者〉となったのだ。いままでにないイレギュラーな〈覚者〉が誕生したといえるだろう。しかし本人は憶えていないが、〈覚者〉となることは青年がこの世界に生まれ落ちる前から、決定付けられていた。それは前世の青年と白竜との密約によるものだった。

 それを知らない青年は〈覚者〉となり生き存えた。いままでにいくつかの試練と葛藤を乗り越え、徐々に白竜の代理人たる〈覚者〉らしくなりつつはあった。

 青年は獣しか通らぬような山道を使い、山側から人目を避けて街道沿いの涸れ井戸へと辿り着く。井戸は木板で塞がれているが、その木板も半分ほど壊れていた。ただ載せられているだけになっているのは、村人が落ちた名残だろう。

 街道を見遣り人気がないのを確認してから、一方のみ窓を開けたランタンを取り出す。遠くから灯りを見咎められないよう、窓の閉まった側を街道、開いた側を井戸に向けている。ランタンを片手に木板を確認すれば、最近動かした形跡がある。

 そして木板を外せばそこには、かなり太めの木材を使って作られた、粗末な梯子が掛けられていた。その梯子は人間が使うには踏み桟(ざん)の間隔が広すぎる。人間よりも大きなサイズの生き物が利用しているのは明らかだ。

(ドンピシャだな……)

 井戸そのものは街道よりも高台にあり、井戸櫓も釣瓶もない石井戸だ。街道から見上げただけではそこに井戸があることは解り難い。高台は身体能力に長けた者なら、跳び付いて登ることも可能ではあるが、そうでない者は街道沿いに結構な距離を回り込んで来ねばならない。井戸からは街道の様子が窺えるにも拘らず、井戸の存在自体を知る者が少ないことにも頷けた。

 青年はランタンの灯りを消すと、音を立てぬよう慎重に梯子を降りる。洞窟の壁はヒカリゴケの取り込んだわずかな光で辺りを照らされており、灯りを点けなくとも行動に支障はなさそうだ。

 井戸の底は書簡に書かれていた通り、自然の洞窟が伸びていた。井戸として涸れているとはいえ、足許は湿っており空気には水の匂いが混じっている。

 そして、漂うオークの体臭。それは洞窟の奥から強く臭ってくるものだ。いま現在この場にいると断言出来る。青年が奥の気配を窺いながら、暗闇に身を潜めて奥へと進んでゆくと、人間よりも遥かに巨大な人影が見えた。足に目をやれば、つま先は偶蹄目の蹄になっており、人間の足とは違って踵がない。間違いなくオークだ。

(いる。ひとつ、ふたつ、みっつ……。手前に三、奥……気配はあるが、数までは解らないな)

 近くに見える三体はシルエットにすぎないが、得物の形からしてオークソルジャーだろう。扱う武器が片手剣とはいえ、巨躯のオークともなれば、人間が持つ大剣並みの大きさだ。リーチの長さを考えれば、一度に三体の相手をするのは少々厄介だ。

(様子見、だな……)

 単体であれば、さして時間を掛けずに仕留める自信はある。いくら鍛えた処で美丈夫のような逞しい肉体にはなれないが、青年のしなやかな筋肉で覆われた細身の身体は隠密行動に向いている。この形で一番目立つのは髪だ。首に巻いたマフラーの後部を引き上げて光を反射しやすい銀髪を確りと隠し、青年は息を殺してオークの動きと洞窟の様子を窺った。

 ここは自然の洞窟。壁面には自然な凹凸があり、身を潜めることの出来る岩影もある。光が映し出す影の形を見るに、オークたちのいる奥の広間には身を隠すことの可能な石柱がいくつか立っているだろう。

 しばらくして、三体がバラバラに動き始めた。一体は広間のさらに奥、一体はその場を動かず、そして最後の一体は入り口へと移動してゆく。

 落ち着き払って暗がりに潜む青年は、息を殺して近付いてくるオークをやり過ごす。

 青年の潜む岩影を通り過ぎたオークは井戸底まで歩き、頭上を見上げていた。木板は降りる前に元通りにしてある。今宵は満月、とはいえ時間的にわずかな隙間からでは月が見えることもないだろう。

 青年は影から這い出るようにして、オークの背後へと近付く。その右手は腰に付けられたシーカーロープに触れていた。

 足音を立てずに一定の距離まで近付くと、右手を伸ばしロープの先をオークに向かって投げ付ける。先端のフックがオークの身体に引っ掛かると、青年はロープを引いた。相手を引き寄せるのではなく、自らの身体を地面に滑らせ、踵からオークへと急接近してゆく。スピードに乗った身体が全体重を乗せ、勢い良くオークの足を刈る。

 不意を突かれて足を蹴られたオークは、よろめき尻餅を突いた。

 オークの足許を擦り抜け、反対側へと廻り込んだ青年はすぐに体勢を立て直すと、今度はオークの頭上へジャンプする。空中で一回転し、さらに高高度を維持すると地に向けてロープを放ち、身体を地面に引き寄せる。全体重を乗せて両脚でオークの顔面を踏み付けにした。

 一度ならず、二度、三度。三度目は空中で一度構え直し、更に高度を上げて最高高度からの〈隼落とし〉だ。いかに最軽量級な青年に超重量級のオークという三倍近い重量差があれども、不意打ちで全体重を乗せた攻撃を頭蓋へ何度も喰らえば、そう耐えきれるものではない。

(まずは一匹……)

 三度目の踏み付けで、オークは目、鼻、口、耳と顔中の穴から血を噴き出していた。それを確認し、青年はそのまま洞窟奥の広間まで駆け抜ける。

 次の標的は広間手前のオークだ。奥へ行った三体目が戻ってこないうちに片を付けてしまいたい。

 二体目のオークはあくびをしながら広間入口近くに立つ石柱に背を預けていた。これでは背後を取るのは難しい。オークとの体格差を考えれば、青年の〈アギト裂き〉が届くのはせいぜい腹だろう。追撃を入れて爆破音で他のオークに気付かれるよりは、初撃連打で仕止めるのが良さそうだと判断する。

 青年は暗がりから飛び出し、オークの肩へ向けてシーカーロープを投げ付ける。先端のフックは狙い通りにオークの肩当てに引っ掛かり、ロープを引いて自身がオークへと飛び付く。オークの醜い豚鼻を踵で蹴り付けて踏み台とし、さらに上へと蹴り上がる。空中でくるりと一回転し、確りと高度を確保。痛みに鼻を押さえて前屈みになるオークの項へと、高所から全体重を乗せたダガーふた振りを同時に叩き付ける。

 スピードと武器の切れ味に頼った〈断頭台〉だ。しかし、青年の体重では軽すぎた。オークの太い首を、一撃で斬り落とすには至らない。

「ちっ!」

 結局、小さな舌打ちとともにするりと〈転身〉し、前屈みになったオークの腹の下へと潜り込む。そのまま腸(はらわた)の詰まった腹部へと〈アギト裂き〉の初撃のみを繰り返し叩き込んだ。オークの息が絶えるまで、何度も何度も。刃が肉を抉るたび、オークの腹からは鮮血が吹き出す。返り血を浴び、青年の全身が朱に染まる。しかしその血は藍色の衣を濡らすだけだ。血を吸った衣は、より昏さを増す。

 息絶えたオークの身体が、前のめりに頽(くずお)れる。それを交差させた両腕で受け止め、派手な転倒音を防ぐ。

「ぐっ……」

 細身の青年にとって、体格差のある相手を支え続けるのは難儀だ。倒れる勢いを殺しただけですぐに〈転身〉し、身体の下から転がり出ながら、音を立てぬようオークの身体を地面に置いた。

 そして近付いてくるオークの気配。奥に行った一体が戻ってきたのだろう。

「%¥#@£!」

 なにやら言葉を発しているが、青年はオークの言葉を解さない。先ほど横たえたオークの死体が見付かる前提で、奥から戻ってくるオークの背後を取れる位置へと移動する。石柱の影に潜み、技を繰り出すための呼吸を整える。

 最奥に何体のオークが潜んでいるか解らぬ以上、三体目に時間は掛けられない。感覚を研ぎ澄ませて全神経を集中し、一撃で仕留めなければならないだろう。青年の力では全体重を乗せた〈断頭台〉では一撃でオークの首を斬り落とせないのは確認済みだ。残る手立てはオークの攻撃を受け流したうえで、自身の刃に上乗せするしかない。

 戻ってきたオークは倒れ伏している仲間の様子を見ようと、死体に近付いた。青年は手にしたシーカーロープを投げ付けるが、それだけだ。ロープの先が後頭部にぶつかり、オークは訝しげに振り返る。

 青年の姿を目にしたオークは腰に下げた剣を抜くと大きく振りかぶりながら突進して来た。青年は両のダガーを頭の位置にかざし、大きく息を吸いながら腰を落として迎え撃つ。

 オークの重たい斬り込みが刃に触れた瞬間、身体を深く沈み込ませて重激を受け流し、膝のバネを使って飛翔する。その巨躯に纏わり付くようにして背後を取り、止まり木に留まるようにして一瞬だけ肩に乗った青年だが、オーク自身は重みなど感じる暇はなかっただろう。そのまま鋭い刃をオークの首筋に当てがい、喉笛を掻き斬る。〈流し暗殺〉と呼ばれるカウンター技である。

 オークの喉笛からはぶしゃあと鮮血が噴き出し、洞窟に歪な影法師が躍り狂う。そして糸の切れた操り人形のように、突然動きを止めた。どぉんと派手な音をたてて、オークは前のめりに倒れる。同時に青年は、ふうわりと綿毛のように軽やかに、音もなく着地した。

(三匹め……奥に複数いなければいいが)

 音を聞いたオークが一体、声を上げながら走ってくる。声の調子からして、他の者より若そうだ。血気盛んではあるのだろう、武器はすでに抜き身だった。

「@#¥%¥$&〜?!」

 オークは倒れたオークの死体ふたつを前に慌てふためいている。しかし、辺りを見回すだけで奥に仲間を呼びに行こうとはしない。奥からも動くものの気配はない。もう、仲間はいないということか。

 となれば、この若いオークを無力化してしまえば、今日の目的には事足りるだろう。青年の見立てでは一番若い下っ端といった処だ。青年は愛用の無骨な双短剣の血を払ってをしまい込むと、安眠クレストを四枚挿した睡眠特化ダガーを取り出した。

 

 

 

「お目醒めか」

 目が醒めたとき若いオークの耳に届いたのは、人間の言葉だった。

「ウ……ッ?」

 何故眠っていたのだろう。オークは頭を振って覚束(おぼつか)ない意識を覚醒させようとするが、頭は以前靄が掛かったようにぼんやりとしている。己の状態を見てみれば、腕は後ろ手に縛られており動かせない。腕が使えないのであれば足だ。そう思って立ち上がろうとするが、足は膝を曲げた状態で腿とふくらはぎを縛られている。これではまともに動けない。

 そして目の前に立っているのは脆弱そうな人間のオス。幸いにも人間の言葉が解る。だから今回の遠征に連れてこられたのだ。オークは人間の言葉を使って尋ねる。

「ナンダコレハ、他ノ仲間ハドコダ」

「みんな、死んだよ」

 男が身に纏っている衣は宵闇の色だが、さらに血を吸って昏さを増していた。腰には黒塗りの肉斬り包丁のような形の双短剣を佩き、丸めたロープを留めている。人間どもの間で〈シーカー〉と呼ばれる、小賢しい技を使う戦士だというのは見て解った。腰のロープを使って飛び付いてきたかと思えば、双短剣でちまちまと切り付けてくる。かと思えば足蹴にされる。短剣で斬り付けてきたかと思えば、火薬を使って爆炎攻撃を仕掛けてくるといったような、トリッキーな技を多用する面倒臭い相手だ。

「少し俺と遊んでくれよ」

 男が顔まで覆う長いマフラーを外すと、その下から銀の毛髪が覗く。続けて男は胸ベルトの留金を外し、肩鎧と胸当てを脱いでその場でどさりと落とす。さらには腰ベルトも外し、その物騒な武器すらも地面に落とした。

 敵の前で武装を解除するなど、あり得ない。

「ナンノ真似ダ!」

「お前が俺を満足させてくれたら、逃してやってもいい」

 どうだ、と云わんばかりに両手を広げ、敵意がないことを示しながら近付いてくる男。しかし態度とは裏腹に男からは危険な臭いしかしない。

「……オスノクセニ、メ(・)ス(・)ノ(・)臭(・)イ(・)ガスル」

 男はひくりと眉をそびやかすが、その微妙な表情は若いオークには読めなかった。バンテージの上に付けた指抜きの革手袋を外し、上衣と下衣の双方を脱ぎ捨て、下穿きすらも脱ぎながら男が目の前に立つ。

 そこでようやく男の胸には大きな傷痕があることに気が付いた。その傷を胸に持つ者はオークにとって明確な敵だ。

「オマエ、〈覚者〉カ……?」

「俺はただ、お前のこいつで、愉しませて欲しいのさ」

 両手足にバンテージを身に付けただけの裸身の男は、にやりと悪辣な笑みを浮かべる。右足を上げ、股間へと踵を乗せてぐりぐりと押し潰すような動きをする。オークが屈辱に顔を歪めれば、その表情に満足して愉しげに口端を吊り上げる。与えられる刺激に、足の下で形を変えるモノを感じ取った男は、今度はつま先で股間の形をなぞり、肉竿に緩やかな刺激を加えてゆく。

「ナニヲ……?」

 相手はオスだ。孕みもしないオスを犯す理由などない。捕虜にしたオスの尻に木杭を刺して面白半分に殺したことはあれど、オークにはオスを犯すなどということは考えにも及ばない。

 しかし男の足捌きは巧みだった。指先を器用に動かして、肉棒を擦り上げてゆく。柔らかな海綿体に血が流れ込み、股間が膨れ上がる。

「ヤメロ! オカシナコトヲ、スルナ……ッ」

「欲望には忠実、だろ? 喩え相手がなんだろうと、一度火が点けば本能は止められない。お前らは、そういうイ(・)キ(・)モ(・)ノ(・)だ」

 形の変わりゆく肉棒は人のそれより太く、大きく、凶悪なサイズに成長してゆく。こうなればもう、オークは欲望を放つことしか考えられない。

「フッ、フ……フウッ……メス、メスヲヨコセ!」

 オークにメスは生まれない。繁殖には他種族のメスが必要だ。集落に子供が必要となれば、オークは集団で人間の村を襲う。昔はエルフの村も同じようにして襲うことがあったというが、エルフはもう存在しない。いまオークが繁殖に使える他種族は人間だけだ。メスを犯し孕ませるのは強者の特権であり、オークの社会では力がなければ己の望みなど叶えられない。略奪したメスを犯すのはリーダーが最初だ。リーダーが満足してようやく、他の者へメスを犯すチャンスがやってくる。

 下っ端である若いオークに順番が回ってくる頃には、使いまわされたメスはすでに壊れ、精液塗れの肉袋になっている。ただ肉穴に猛る己を突き込んで、溜まった欲望を放つのみだ。

「残念だが、ここには俺しかいないんでな」

 男が舌舐めずりをしながら、凶悪な肉の楔に愛撫を続ける。足の間に屈み込み、手指を絡めてきた。男の細く白い指先が、リズミカルに先端の膨らみを撫で回す。

 壊れたメスに能動的な奉仕を求めた処で期待は出来ない。処が達かせる意志を持って、快楽のツボを的確に責めてくる男の指遣いは巧みだ。初めて与えられる快感の波に、絶頂はすぐさまやってきた。

「フッ、グ……アァ、ハッ……ハッ、ハァ、アア!」

 手と足を縛り上げられ、窮屈な姿勢を強いられていても、解放を求めて腰が自然に揺れる。大きく仰け反ったオークは男の手の中に熱い飛沫をぶち撒けた。

「あっは、早いな。でも、まだイケるだろう?」

 愉しげに笑いながら男は足の間へと唇を寄せる。子胤を放ったばかりの肉棒は、ほんの少し硬さを失い、元の大きさに戻りつつある。

 オークにとって複数で一匹のメスを犯すのは当たり前のことだ。メス一匹につき穴は三箇所。孕み穴、口、そしてケツ穴。クソをひり出す部分だろうが穴は穴。二匹で前と後ろを同時に犯すのも面白い。いちばん詰まらないのは口だ。意識があって抵抗してくるメスは、大事な部分に噛み付いてくることもある。そんなときは歯を折ってやればいいが、噛まれた者が怒りに任せてせっかくのメスを殺しかねない。略奪者の扱いはそんなもので、口で積極的に愉しませてくれるメスなどまずいない。

「ヤメ……ウ、ァ……ハ、ア……」

 処がその男は、身動き出来ないオークの精を放ったばかりの肉竿に口付けたのだ。薄い唇の間から赤い舌を伸ばし、根本から先端までの裏筋をぞろりと舐め上げる。先端の膨らみを口に含むと、柔らかな唇で食みちゅくちゅくと吸いたてる。同じオスだからこそ、どこが良いのか解っていると感じさせる動きだった。

「デカいな……」

 男はオークのイチモツを口に含みながら、白濁に塗れた指先を自身のケツ穴に這わせていた。ケツ穴が硬い筋肉に閉ざされていることはオークも知っている。無理やり犯したケツはそれ以上クソを身体の中に留めておけなくなる。複数で犯し終わったあとのメスは、クソを垂れ流し続けるクソ袋と変わりなかった。

 男はそうはならないよう、自らケツを解しているという訳だ。

 オスを相手に欲情などする訳ない。そう思いながらも、欲情したメスの顔をして追い立ててくる男の前で、オークの肉竿は硬さを取り戻していた。

 変わらず男はぴちゃぴちゃと卑猥な音を立てて竿を舐め廻す。喉奥の狭い暖かな部分で先端を包み込み、亀頭冠を押し潰すようにきゅうっと強く吸い立てる。そのどれもがいままでに経験したことのないほどの快楽を味わわせてくれるものだった。

「ウ……オォ、ア……フハ、ッ……オ、フアア!」

 ガクガクとだらしなく揺れる腰はすぐに精を吐き出す。男の予想よりも射精のタイミングが早かったのだろう、どっぷりと喉奥に精を吐き出された男は咽せていた。

「……ッ!! は……ッ、げ、ふぅ。……マズい」

 口の中だけでなく顔や髪にまで白濁が散っている。ぶち撒けられた精を呑み込みきれず、口端から零しながら男が顰めっ面を見せる。口の中に残ったモノを、オークの目の前で地に吐き捨てる男。

「これで二回。さて、お前はあと何回イケる?」

 試すように愉しげに笑みながら、男が竿を握り直した。手をべたべたにしている白濁の滑りを借りてしゅこしゅこと数度擦り上げるだけで硬さを増す肉棒に跨り、自分のケツ穴に充てがう。片手で竿を支え、大きく息を吐きながら男は腰を沈めていった。

「んんッ……ふ、うぅ。……やっぱデカい、な。……ッ、あァ、ンあぅ……」

 ぷくりと膨れ上がった先端が、キツい肉輪に呑み込まれてゆく。太い先端を自分のケツに押し込み、仰け反りながら男は苦しげに喘ぐ。その声には喜悦の色が混じっている。

「ヌォオ、ゥ……オォ。フ、グッ!」

 男の体内に入り込んだのはまだ先端だけだが、後孔の締め上げにオークは唸りを上げて身を捩る。ぎゅうっと締まる秘肉が、女陰の締め付けとは違う得も云われぬ快楽を引き出す。

「ひッ、ぅ……あ、ァ……ッ、はぁ!」

 オークが快楽に身を震わせるたび、太い肉竿が男の体内に潜り込む。その衝撃に耐え兼ねた男はまるでメスのように甲高い嬌声を上げる。処が男のイチモツはそれほど形を変えておらず、緩く勃ち上がっているだけだった。あれだけ顔を上気させ、自ら腰を振りまくっているのだ。悦を感じていない訳でも、痛みに萎えている訳でもない。

「オマエ、勃タナイノカ……」

 オークはそれに気付き、目の前の男の顔を見上げた。男の顔はさらに赤みが増したように見えた。

「黙って、ろよ……オーク。お前ッは……見境なくッ、チンポおっ……勃てて……」

 男は腹の上にぺたりと座り込み、憎々しげにオークを睨(ね)め付ける。

「ッ、は……汚ねぇザーメンぶち撒けてりゃ、いい……んだよッ。ふァ……ッ、はァ!」

 云い捨てた男は腰を浮かして抽送を再開する。髪を振り乱して玉のような汗を飛ばし、ただひたすら己の欲に忠実に快楽を貪っている。その股間にあるイチモツは中途半端に勃ち上がったまま、先端から透明な汁を滴らせつつ男の律動に合わせて揺れ動き、オークの腹をぴたぴたと叩いていた。

 なるほど、イチモツがあの有様ではメスを犯せない。それでオスを相手に性欲を満たしている憐れなオスというワケだ。

 それにしても、窮屈な美肉は喰いちぎられそうなほどキツく締め上げてくる。そのうえ、螺旋を描く肉襞がねっとりと絡み付いて離さない。オークが下腹部に力を込め、肉棒の角度を変えてやれば、それに合わせて男の反応も変わる。

「ひぅッ! あァっ……あっ、は……あぁ!」

 オスのくせにメスのような善がり声を上げながら、男は貪欲に快楽を貪っている。いつしかオークもその動きに合わせて腰を揺り動かすようになっていた。

「ハァ、アァ……オオ……オァ、アッ! ムグッ!!」

 くいっと突き上げた瞬間、精を搾り取るように内壁が収縮し、オークはこの日三度目の精を放つ。狭い腸内に熱い精を解き放てば、男は中に浴びせかけられる精の熱さに酔いしれるようにびくびくと身震いした。

「ンぁ……あぁ。あ……ふ」

 内壁は収縮を繰り返し、オークの尿道に残る精を意地汚く搾り出そうと蠢いていた。精を搾り切った男は腹の上に座り込む。

 オークは三度目の吐精感に完全に仰向けになり、天井を見上げていた。三度連続で精を放ったのだ、少し休息が欲しい。複数でひとりを犯す場合には順番待ちが発生し、連続で精を放つ機会などそう多くはない。

「ウッ!」

 処が男は休息を赦さない。

「まだ、たったの三回だろ? それに……俺はまだ、満足してない」

 男はオークの肉棒を咥え込んだまま、愉しげに口角を吊り上げる。その悪辣な笑みに、若いオークは畏怖を感じていた。あとどれだけ付き合わされるのか、それは総て男の気分次第だということだ。

 夜はまだ、始まったばかりなのだから。




 最後までエロを書くのはこのシリーズではお初となりますが、いきなりモブ姦の逆レで読み手の方は付いてきていただけるものでしょうか。不安ながらも、まあ書きたかったからしょうがないよね、と通常運転です。
 更新予定の一週間後まで、いたぶられっぱなしのオークくんはご愁傷様ということで。

 今回の所持スキル〈足刈り網〉〈隼落とし〉〈アギト裂き〉〈構え直し〉。裏パレには〈足刈り網〉〈隼落とし〉の代わりに〈爆炎線〉〈流し暗殺〉。
 アビリティ〈闘勢〉〈壮腕〉〈月攻〉〈烈墜〉〈空撃〉〈延縄〉〈跳避〉辺り(厳密なレベルやオーブツリー解放、コスト計算まではしてません)
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