サイバネティクス人の男・タルゴが、相棒であるはずの狼女・カユから淫魔の発情攻撃をダシに迫られて陥落する話。

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サイバネティクス人の男が、相棒であるはずの狼女から淫魔の発情攻撃をダシに迫られて陥落する話

◇

 

 

 概念が氾濫を起こし現実へとなだれ込んできた世界。

 空想から実態へ、形而上から形而下へ、灰は殻に、砕けた皿は壺になった。

 

 ――それから百年。

 

 動乱の日々に倦(う)んだ人々は、思いつきで増築を繰り返す怪城の如きこの世界に適応することを選び、だらっとした混沌をそれなりに謳歌して生きている。

 

 かつて、日本と呼称された国家が存在していた島。

 その東西と南北をちょうど半分ずつ区切ったあたりに、“魔窟谷”と呼ばれる怪山がある。

 山である。

 名前に“谷”と付いているとおり、もとは山々に囲まれる“谷”だったのだが、概念が氾濫を起こして以降、谷底へモニュメントやら建造物やらが無秩序に積み上げられていってしまい、ついには周囲の

山を凌駕する標高を手に入れてしまった、珍峰である。

 

 人口は数万から数百万、および数千万人――つまり不明。

 

 全容を知る者など居らず、ただ混沌だけがむやみに蓄積されている。

 今となっては、なぜ名前に“谷”と付くのかなど誰も気にすることはない。

 

 魔窟谷の住人たちは、魔窟谷内の猥雑な日々を、いい加減にえっちらおっちら過ごすのみである。

 

 

◇

 

 

 そして――。

 

 そんな魔窟谷の、中層付近。

 積度(せきど)にして約120層の中心街に、男女二人の“荒事屋”コンビが暮らしていた。

 

 名前を「タルゴ」と「カユ」という。

 

 現在の相棒であり、物心(ものごころ)つく前からの幼馴染でもある二人は、互いの不得手を補いつつ、得意とする戦闘技術で依頼(クエスト)を解決して日銭を稼いでいるのだが……。

 

 いつからか、タルゴとカユは喧嘩ばかりの日々を送るようになってしまっていた。

 ひとたび言葉を交わせば、最後には怒鳴りあって会話を終えるのが常の有様。

 

 無二の相棒ではあるものの、口論ばかりで、お世辞にも仲が良いとは言えないのが現状だ。

 

 

 そして今日も――。

 

 

「秘匿依頼ィ?」

 

「な、なにタルゴ、そんな顔して。文句でもある?」

 

 

 眉を吊り上げて問い返したのがタルゴ。生まれつき人間と機械が混ざり合った体を持つ、天然モノのサイバネティクス人だ。

 対して、若干バツが悪そうな顔で強がって見せているのが、その相棒にして“狼”の獣人である「カユ」。

 

 

「このアホ狼……! 文句だと? ……いいだろう、秘匿依頼の危険性すらわからんようなおバカな狼に、何が問題か教えてやる」

 

 

 タルゴが、機(・)械《・》で出来た左手をカチカチと鳴らしながら立ち上がった。

 “原形の人間(プレーン)”と違って、サイバネティクス人の体は、一部または全部が肉体とともに成長する機械で構成されている。代替される部位は個人によって異なるが、タルゴの場合は左腕、右

目、内蔵のいくつか、右大腿部、左踵などが、血の通わない機械になっている。

 

 

「バカとかアホとか、わたしは――」

 

 ふさふさの尻尾をいじりながら、カユが反駁(はんばく)しようとする。

 そんなカユには、頭頂部の髪からぴょこんと飛び出た狼の耳と、尻の少し上から生えた尻尾がある。“原形の人間(プレーン)”にはないこれらの部位は、獣人としての特徴だ。

 カユ――この愛すべき腐れ縁のアホ狼は、獣人由来の高い身体能力を持ち、どこかで習得してきた謎の黒魔術も操るため戦闘において極めて強力だが、一方これは獣人とは関係なくバカである――とタル

ゴは彼女を評している。

 

「黙って聞け。秘匿依頼の危険性、一つ目。依頼主の情報に加えて、依頼(クエスト)の内容すら秘(・)匿《・》されているせいで、実際に受けるまではどんな依頼(クエスト)なのか判断できない

こと。

 報酬、すなわちリターンも大きいが、それにしてもリスクが大きすぎる」

 

「知ってるってそんなこ――」

 

「知ってるなら受けるな。

 二つ目。事前に依頼(クエスト)内容が分からないのに、完遂できなければ“酒場の骸骨”からの信頼を失い、仕事を回される優先度が下がる。ハイリスクなくせに通常の依頼(クエスト)と同じ罰則

があるってことだ」

 

「だって、最近は依頼(クエスト)がなくて困ってるってタルゴ言ってたし、それに――ええと、“骸骨”さんにもオススメって言われたし……」

 

「――三つ目。依頼(クエスト)不足に悩んでいようが、決して秘匿依頼に手を出してはいけない理由がこれだ。通常の依頼(クエスト)と違って、受けた以上はキャンセルできない。分かるか?

 ……つまり、やるしかない」

 

「あれ? なんだ、やってくれるの!? まったく、なら素直に最初からそう言えばいいのに」

 

「っコイツは……」

 

 

 タルゴは眉間に皺を寄せて、深いため息をついた。

 

 

「――おいアホ狼、いいか、今回は大目に見るとして、また次に相談もなく同じことしてみろ。その無駄に綺麗な髪ぜんぶ引っこ抜いてやるからな」

 

 

 ◇

 

 

「で、依頼の内容は? どこまで開示された?」

 

 

 タルゴは長いため息を引きずりながらも、カユに促されるまま棲み処を後にした。

 猥雑な道をカユの先導に従って進みつつ、判明した依頼内容を確認する。

 

 

「うーん、ちょっと待って、がんばって思い出すから。……あれ、なんだっけ?」

 

「おい」

 

「……あ、そうだ。どっかの貴婦人からの依頼で、ええと、たしか、そう、屋敷に住み着いた魔物を退治して欲しい――だったかな」

 

「まるで普通の依頼だが……なぜ秘匿依頼にした? 依頼人の立場か、あるいは魔物の種類に問題が? ……淫魔でも出てきたらマズいが、さすがにないか……」

 

 

 淫魔は存在こそ確かになっているし、被害報告もあるものの、ほぼ幻といっていいくらい遭遇率の低い魔物だ。まあ行き会ったらそのときはそのときだ――と、タルゴは深く考えないことにした。

 

 棲み処を背に鉄の十字坑(じゅうじこう)を抜け、芥子崖(けしがい)を降りれば大堤洞(だいていどう)。

 “酒場の骸骨”に挨拶をしてから裏隧道(うらすいどう)をさらに下り、破魔宮(はまきゅう)を通り抜けて典泥路(てんでいろ)から廃黴溝(はいびこう)に進む。

 滑落に気をつけながら伍塔(ごとう)を順に巡り、手擦(てずれ)階段へ。

 

  道中にはいつもながら魔獣、妖怪、変態の類いなどが跋扈(ばっこ)していたが、それらを蹴散らしながら歩くのにも慣れたもので、半日もせずに目的の大屋敷に到着することができた。

 

 

「ここか?」

 

「たぶん?」

 

「コイツ……違ったらどうしてやろうか……」

 

 

 2人の目の前にあるのは、巨大な洋風の館(やかた)だ。一見するとゴシック様式的のようでもあり、かと思えばあちこちに鳥居の意匠やアナコンダ、冷蔵庫などが埋め込まれいる様(さま)は、いか

にも魔窟谷風味な怪屋敷。

 なかなか興味深い建物ではあるが、用があるのは屋敷そのものではなく、中身の方だ。

 タルゴとカユの二人は、外観を眺めるのもそこそこに、ぽっかりと口を開けた正門から屋敷の中へと入っていった。

 

 

 ◇

 

 

 カユは狼の獣人だけあって、鼻が利く。

 以前、魔物はどんな臭いがするのかとタルゴが尋ねたところ、「相手によって違うけど、いろんな香辛料の束をまとめて燻(いぶ)したみたいな異臭がするかなぁ」とのこと。

 

 本当にそんな臭いがするのかタルゴに確かめる術(すべ)はないが、魔物の在所に向かって進んでいくカユの足取りは確かなものだ。

 よほどハッキリと魔物が臭うらしい。

 道中の、客間やら厨房やらベッドルームやらには見向きもせず、ずんずんと進んでいく。

 

「この下だよ」

 

 そう言ってカユが立ち止まったのは、廊下の行き止まり。

 一見なんの変哲もない――わけでもないが、魔窟谷においては平常の範囲内に見える。

 だが、カユには違っていたらしい。

 彼女が無造作に足を振り下ろすと、凄まじい轟音がしたかと思えば、床にカモフラージュされていた扉が蝶番(ちょうつがい)ごとはじけ飛び、地下へと続く階段が現れた。階段の下の方には二の腕ほ

どもある太い鎖が千切れて転がっている。家主が物理的な封印を施していたのだろうか、とタルゴは推測した。

 

 空中に広がった埃が落ち着いてきた頃に、タルゴの鼻が、なんとなく、カユの言っていたような異臭を感じた。

 いる。

 二人は顔を見合わせて、暗くジメッとした階段へと足を踏み出した。

 

 

 地下室に降り立つ。

 はたして、魔物はそこにいた。

 

 見上げるほどに大きい巨躯でもって、地下室とは思えないほど巨大な部屋の内部を、我が物顔で専有している。

 象の胴体から頭と足を取り去り、触手をたっぷり植え付けたような姿。

 ベタついた触手をざわりざわりと動かしている様は、二人を警戒しているように見える。

 

 

 ――淫魔じゃねえか!!

 

 

 内心で、タルゴが悲鳴を上げた。

 

 淫魔――荒事屋界隈に、その悪名は轟いている。

 淫魔は、魔物の中においては遭遇率が極めて低く、交戦した者たちの死者や負傷者が多いわけでもない。むしろ、死傷の類いは非常に少ないとさえいえる。

 にも関わらず淫魔が悪名高いのは、その攻撃の間接的な被害があまりにも――気まずかったからだ。

 

 曰く、10年以上も組んで活躍してきたベテランパーティーが淫魔の攻撃を受けたせいで発情、男も女も淫らに乱れて乱交し、そのあと痴情のもつれで解散、あるいは三角関係だった男女三人組のパーティ

ーが発情状態の大乱交ののち刃傷沙汰……などなど。

 

 淫魔が与えてくるという“発情”の状態異常(バッドステータス)は、グループ内の人間関係に多大なる影響を及ぼしてしまう。

 

 精神魔術などで“発情”対策をしているか、もしくは乱交上等で挑めるパーティーならいざ知らず、真面目にやっているパーティーが不意打ちで遭遇したときの混沌模様は、嫌われるのに十分すぎる理由

だった。

 

 

 カユとタルゴの二人は、といえば。

 

 もちろん遭遇率が低いくせにやたらコストが嵩(かさ)む淫魔対策などしておらず、乱交上等というわけでも――ない。

 普段からなにかと喧嘩や口論の絶えないカユと、幼馴染みのカユとそ(・)う(・)い(・)う(・)ことをするなんて、タルゴはまともに想像すらできなかった。

 

 ただ、専用の淫魔対策をしていなかった場合でも、発情地獄を避けるための次善の策は無いわけではない。

 要は『発情させられる』ことが厄介なのだ。

 弱い淫魔が相手なら、“発情”の黒魔術を使われる前に速攻で片を付けてしまえば危惧される問(・)題(・)は起きない、というわけだ。

 

 が、この威容。

 触手の1本1本に、カユ5人分を束にしたような太さがあるうえ、本体とおぼしき丸っこい体躯はカユ10人が手をつないで輪になっても囲めないだろう大きさ。見るからに硬そうな皮膚。

 速攻をかけて一気に畳むどころか、そもそも現状の装備では倒しきれない可能性もある。

 

 

 そこまでの算段をつけたタルゴが選んだのは、撤退だった。

 焦りを顔に浮かべながらも、カユに向かって指示を出す。

 

「カユ! 想定外だ、ここは一端退(ひ)いてから……」

 

「大丈夫、まかせてタルゴ!」

 

「まっ、おい、このバカ!」

 

 

 止める暇もなかった。

 カユが自慢の脚力を活かして矢のように跳び出すと、そのまま淫魔がうねり暴れる触手の渦へと潜り込んでいった。

 

 触手の向こうへ姿が見えなくなったカユを呆気にとられて見送りながら、タルゴは深いため息をついた。

 ――カユなら間違いなく生還はできるだろう。だがあのバカ……。

 

 

 結果はというと。

 カユは、まあ、頑張ったのだろう。

 獣人らしい身体能力を活かした戦い方で触手の渦をくぐり抜け、バカでかい胴体にカユが得意とする黒魔術を渾身のタイミングでぶちかました。

 

 

「だから退けって言ったんだ、あほ狼、間抜け狼、単細胞犬」

 

「うぅ……いけると思ったんだけど……」

 

「あんなデカい淫魔に、黒魔術が効くわけないだろうに……まったく」

 

 

 そもそも淫魔は、黒魔術で召喚され、黒魔術を操る魔物。

 黒魔術の専門家のようなものだ。

 カユの黒魔術は強力だが、それでも淫魔相手に真正面からぶつけて通じるほど、魔物は甘くない。

 

 

 そんなわけで、ものの見事に淫魔の攻撃を浴びてしまい、媚薬まみれの触手でべちんとほっぽり出されたカユだった。

 息も絶《た》え絶《だ》え、もはや戦える力は残っていないだろう。

 座り込んでしまっているところを見るに、足に力が入っていないようなので、逃走も難しいか。

 

 

「だってタルゴ……」

 

「世話の焼ける犬ころが……仕方ない、奥の手を使うぞ。そこでジッとしてろ」

 

 

 今のカユ単独突撃ではその暇もなかったが、本来のタルゴが得意としているのは、カユの背後から行う援護射撃。

 こういった手数が厄介な相手に対しては、タルゴが得意とする露払いに合わせて、怪物じみた身体能力を持つカユが突撃していくのが、このコンビお決まりのパターンだった。

 その戦法を使えたなら、“発情”さえ無視して考えれば――敵との相性は悪くなかったのだが。

 いつも前衛をつとめているカユが戦えなくなった以上、敵の攻撃を独力で凌ぎ、かつ致命打も自身で与えなければならない。

 

 ――今日のカユは、どうもバカさ加減に拍車がかかっているような。

 

 後ろで倒れ込んでいるカユのことを考えると、なぜか集中が乱れてしまう。

 “奥の手”は消耗が激しいうえ、継続戦闘能力にも欠ける。瞬間的な火力は出るが、タイミングを外して致命打にならなければそれまでだ。

 脳裏をよぎった雑念は振り払い、タルゴは戦闘へ思考を切り替えた。 

 

 

 左腕のロックを解除する。

 サイバネティクス人として生まれついたタルゴは、身体の一部が先天的に機械化されている。

 左腕もそんな部位の一つで、ロック解除時には分離駆動が可能になる。仕込まれたセンサーで左腕が独自に情報を集め、設定された動きに従って必要なアクションを起こすように改造してあるのだ。ま

た、いざというときには生身の肉体には耐えられない強力な火砲機構を使用することもできる。

 

 とくに火砲機構は体力の消耗が著しく、長時間の戦闘には不向きなのが欠点だが――。

 

 

「Ignition(イグニッション)――!」

 

 

 四の五の言ってる暇は、ない。

 

 左腕の迎撃機能が起動したと同時に、右手に持った短銃の撃鉄を起こす。

 獲物を捕らえようとして豪雨のごとく襲い来る触手の束を、右手に持った短銃の銃床で殴り、弾き、躱し、

 残りを左腕が自動的(オートマティック)に吹き飛ばす。

 

 一歩、二歩、三歩。

 

 近づくほど触手は暴れ回る。

 

 タルゴの周囲を触手の暴風が埋め尽くすが、燃え上がるほどに左腕を酷使しながらも、それをくぐり抜け――。

 

 

 たどり着いた、敵の胴体。

 この機械の拳が届く距離。

 

 

 限界寸前の左腕に最後のエネルギーを送り込み、火砲機構を叩き起こす。

 

 最大の火力を籠めて――打ち抜いた。

 

 

 ◇

 

 

「タルゴ、終わった……?」

 

「ああ、奴は魔界に帰った……クソ、左腕を使いすぎたな、休まないと……」

 

「……タルゴ。上の階にベッドルームあったよね。ここの床固いし、休むならそこにしようよ」

 

 

 そんな部屋の前も通ったなと、ぼんやりと霞む頭で、タルゴは思い出した。

 勝手に使ったら家主が怒るかもしれないが、地下室の扉も破壊した挙げ句、戦闘の余波であちこち穴を開けた後になって、いまさらというものか。それに、ふかふかのベッドは魅力的だ。

 

 

「……そうだな、そうしようか。カユ、立てるか」

 

「ごめん、ちょっと足に力が……支えてくれる?」

 

「ああ……ほら、掴まれ」

 

 

 カユの腕を自分の首に回し、無事な右手で彼女の脇を支えて立ち上がる。

 想像以上にしなやかで柔らかいカユの体を感じて、心臓がドクンと跳ねた。

 ぴったりと寄り添ったカユの体温が熱い。

 服越しに伝わってくる熱に、神経を介して脳髄も火照っていく。

 “発情”の黒魔術も、媚薬体液も浴びていないはずだが。

 

 ――自分も、気づかない間に淫魔の攻撃を受けていたのだろうか。

 

 

「……ありがと、タルゴ」

 

 

 耳元で囁くように呟かれたカユの声が、言葉よりも強く耳朶に響いた。

 

 

 ◆

 

 

 …………。

 

 

 ……?

 

 

 ……なにか、体が重いような。

 

 

 首筋に感じる、湿った熱い空気。

 

 

 胸にはずっしりと柔らかな重み。

 

 

 ナニカが、身体の奥底から湧き上がってくる。

 

 背筋をゾクゾクと走る快感、これは――。

 これは、まるで。

 

 ――まるで自慰のような、でも、少し違うような。

 

 

 

「あ、起きた? タルゴ♡」

 

「――ぁ?」

 

 

 タルゴが目を開く。

 その視界に飛び込んできたのは、睫毛(まつげ)まで見えそうなほど接近した、カユの顔。

 

 

「近っ――お、おい、カユ……! いったい、なにを……ひぐっ!?」

 

 

 ゾクゾクと走った快感が、タルゴの口から疑問の代わりに無意味な悲鳴を出させた。

 

 と同時に、さきほどから続いている快感の正体に、察しが付いた。

 目が覚めたことで、刺激が生々しい実感を得たせいだ。

 何をされているのか、意識が覚醒した今なら分かる。分かるが、しかし脳がそのような事実を受け入れない。

 

 当のカユは、タルゴの戸惑いも意に介さず、ニマニマ笑いを深めるばかり。

 

 

「気持ち良さそーだね♪ じゃあ問題! 今、わたしの手が握ってるモノはなーんだ?」

 

「カユ、こんなことは今すぐやめ――」

 

「はい不正解ー、正解は、こ・れ♪」

 

 

 言いながら、カユがゆっくりと上体を起こした。

 近くにあったカユの顔が遠ざかり、胸板に乗せられていた丸出しの大きな乳もたぷんっ♡と揺れながら離れていく。

 タルゴの腹の上は涼しくなったが、そのさらに下の辺りから伝わってくる刺激は消えていない。

 

 

「タルゴさーん、下向いてー♪」

 

 

 カユのふざけた言い方にも逆らえず、タルゴはおそるおそる視線を下腹へ向ける。

 

 一糸まとわぬそこには、剥(む)き出しになった己の陰茎。

 そして、固く勃起したそれを美しい指でねっとりと撫でまわす、カユの手。

 

 タルゴの視線の先で、その手が鈴口から溢れ出していたカウパーを掬い取り、指の1本1本に絡めると、きゅっとカリを包み込んだ。

 

 

「ぅっ!?」

 

 

 弾けるような快感が伝わり、腰が思わず跳ねてしまう。

 

 

「あれ、痛かった? ……うーん、でもタルゴの顔は気持ちよさそうに緩んでるし……続けるね♪」

 

「か、カユ、なにをして――くっ!?」

 

 

 健康的に筋肉が詰まったカユの身体(からだ)が、再びタルゴに覆いかぶさってくる。

 手で掴みきれないような大きさの巨乳が、ピンク色に盛り上がった乳首までさらけ出した状態で、タルゴの胸板にたぷっ♡ と小さな音を立てて乗せられる。

 顔も、また目と鼻の先に近づいてきて、気の強そうな目の瞳や睫毛までハッキリと見え、熱く湿った吐息が首筋にかかる。

 

 タルゴはろくな抵抗もできずに押さえ込まれてしまい、2人の体勢は振り出しに戻った。

 

 

「こらこら、暴れるなって♪ 切り札使ったあとのタルゴは弱いんだから、無理しない♪」

 

 

 調子に乗った口ぶりが癪(しゃく)に触るが、カユの言ったことは事実だった。

 タルゴは全身を、カユのむちむちした身体に、がっちりと包み込まれてしまっている。

 退(ど)かそうにも、上に乗った彼女の体はびくともせず、抜け出そうにも身動きがとれない。

 

 カユに抱きしめられ、陰茎を弄ばれながら、彼女の目を見ていることしか――できない。

 

 

「かちかちだねー♡ あれぇ、タルゴってもしかしてココも機械だったっけー? ふふっ、冗談だからそんな顔しないで♡ ……ねぇタルゴ、わたしの手、気持ちいい?」

 

「そんなわけ、な、ないだろ……!」

 

 

 ――嘘だ。

 

 彼女が竿を上下にしごくたび、カリを親指でなぞるたびに、跳ねそうになる腰を堪《こら》えるので精一杯。

 

 カユに。

 幼馴染で、相棒で、そんな女性に……自分のいきり立った陰茎をしごかれている。

 そんな風に意識してしまった途端、なぜか一際(ひときわ)大きな快感の波が襲ってくる。

 

 

「――ぁっ、うっ、は、」

 

「あは、弱々しいタルゴ、かわいいね♡」

 

 

 手だけでいいように翻弄されるタルゴの様子を見て、カユは得意げに笑みを浮かべた。

 

 カユが知ってか知らずか選んだ前戯は、男殺しとして名高い獣人による手コキだ。

 その理由は、一部の獣人に備わった特徴である、肉球にあった。

 イヌ科やネコ科などの獣人は、ぷにぷにと盛り上がった柔らかい肉球を持つ。獣のそれと同じく、衝撃を吸収するためなど合理的な理由があって備わっているものだが、副次的な効用もあった。

 

 肉球のある手で手コキをすると、柔らかく弾力のある肉球が陰茎をぷにぷにと揉みあげるため、腰が抜けるほど気持ちいいのだという。

 

 獣人の娼婦による手コキが性産業において大変な人気を博しているのは、まさにそれが理由。一流にもなると、凡百の膣など遥かに超えた極上の快感を、手のひらの一撫(ひとなで)で生み出す獣人の

娼婦もいるほどだ。

 

 カユの手腕はといえば、もちろん熟練とは程(ほど)遠く、たどたどしいが、それでも不慣れなのは快感を受けるタルゴの方も同じ。

 

 ――腰がまるごと蕩けそうなほど、気持ちいい。

 

 カユと目が合う。

 

 上気した頬、潤んだ目、緩む口元。

 長い付き合いなのに、一度も見たことのない表情をしたカユ。

 

 ジッと見ていると、なぜか胸が苦しくなって、タルゴは目を反らした。

 だが、困ったことに、目を反らした先にはあまりにも淫靡なカユの肉体があった。

 胸板に乗せられてむにゅっ♡ と形を歪めた乳、鮮やかなピンクに色づいた乳輪、先端の固く盛り上がった乳首の形。

 よく鍛えられた太股はタルゴの足に搦(から)め、うっすらとだけ肉づいた美しいお腹はタルゴの腹の上で脈動している。

 

 全身でカユを味わっているような感覚。

 

 カユがすべてを曝(さら)け出しているから、触れあう熱を肌で感じる。

 持ち主の振動に合わせてふるふると揺れる乳。

 熱く湿った吐息。

 陰茎を扱く手の艶めかしい動き……。

 普段のカユからは、あまりにもかけ離れた姿。

 

 一体なにが――。

 

 ――そうか、淫魔の攻撃を受けたのだ。

 

 戦闘後の消耗と、ベッドの上での安らかな眠りで、タルゴの記憶はすっかり混乱していた。

 ようやく思い出した。

 カユは淫魔の攻撃で発情してしまっているのだ。

 そう、あるいはタルゴ自身も。

 

 

「、ぐっ」

 

「あは、気持ちよさそうだねー♪ 腰がピク♡ピク♡って動いちゃってるよ? それにカウパー……だっけ、溢れてこんなにぐちゃぐちゃ♡」

 

 

 ――淫魔の攻撃を受けたせいで発情、男も女も淫らに乱れて乱交し、その後痴情のもつれで解散――。

 タルゴの脳裏に、淫魔の攻撃を浴びて解散してしまった他パーティーの末路が思い起こされる。

 

 ――ダメだ。カユを止めなくては。

 

 今のカユは、“発情”の黒魔術と媚薬体液で一時的におかしくなっているだけだ。

 ここで流されてしまったら、あとで正気に戻ったときに彼女が苦しむことになる。

 

 タルゴの焦りをよそに、笑みを浮かべながら陰茎を扱いているカユに向かって、タルゴは快感を堪えながら必死に声をかけた。

 

 

「カユ、お前は淫魔の魔術で――」

 

「あ、うん、わかってるわかってる♡」

 

 

 なにが分かっているというのか、言葉とは裏腹に、カユは手コキを止めようとはしない。

 タルゴはなおも抗議の声を上げようとするが、それは肉球がついた手のひらの、亀頭を舐めるような動きに封じられた。

 

 

「うーんと、だからねー♪」

 

 

 カユの目が、にまっと細められた。

 

 

「――発散しないと、でしょ♡」

 

 

 これで発散できるのは俺の方だけじゃないか――と問う暇もなく、カユの手の動きが激しくなった。

 タルゴの抵抗を抑えるために使っていた右手まで陰茎に向かわせて、片手はカリ首を撫でまわし、片手で竿を上下にしごく。

 

 拘束から脱(ぬ)けだすチャンスだ――とは頭では分かっているが、射精に向けて高まり続ける快感が、それを許さない。 

 しごかれている陰茎から、ぐちゅっ、ぐちゅっという音が淫らに響く。

 

 

「ん♡ ふっ、淫魔の魔術を受けたら、こう、やって、発散させないと、ね、ふふ♡ 大変なことに、なるん、だよっ?」

 

 

 盛んに手を動かしているからか、カユの声が途切れ途切れに聞こえる。

 好き放題にシゴき回される陰茎の感覚に意識を持っていかれるせいで、どのみち言葉の意味などろくに理解できていない。

 相棒であるカユの手のひらで弄ばれているという背徳感が、脳を眩ませて快楽の虜にする。 

 

 快感でバチバチと明滅する視界に、カユが頭をかがめる様子が映った。

 髪からひょこんと出ている、毛に包まれたカユの耳が、くりくりと顎をくすぐって、こそばゆい。

 

 なにを――と思ったところ、乳首にぞわりとした快感が走った。

 

 

「れろ♡ んぢゅ、る♡ ちゅ、れろぉ♡ あむ♡」

 

 

 じんわりとした快感が乳首から伝わって、体の芯を痺れさせた。 

 乳首を、舐められている。

 信じられなかった。あのカユが、こんなことまで――。

 

 熱い唾液をまぶしながら、ざらついた舌が乳首に這い回る。

 唇をすぼめて吸い付き、歯で挟み込んで甘噛みしたら、今度は労(いたわ)るように舌で愛撫。 

 

 陰茎を激しく扱く肉球の感覚が、勝手に腰をガクガクと震わせて、

 ねっとりと舐め上げられる乳首からは、体の芯を溶かすような快感。

 頭が真っ白になって、何も考えられない。

 

 

「カ、カユ、これ以、上、はっ、!」

 

「あ♡ タルゴ、イきそうなの? いいよ、じゃあ……キスしよ♡」

 

「――は、え?」

 

「キス、分からない? ちゅーだよ、ちゅー。 ほら、こっち向いて♡」

 

「あ――」

 

 

 言われるままにカユの目を見た瞬間、タルゴは射すくめられたように固まってしまった。

 見とれてしまって、動けない。

 

 ――こいつ、こんな顔してたんだな。

 

 いつも見ているはずなのに、状況が違うだけでこんなにも――。

 

 綺麗な顔が近づいてくる。

 頬が上気して、目も蕩けた、まさに発情しているような顔つきのカユ。

 

 カユの手は止まらない――射精感がこみ上げる。

 

 互いの吐息が混ざり合うほど近づいて。

 その唇が――。

 

 

「んむっ♡ ちゅ♡」

 

 

 普段は荒っぽいくせに、柔らかい唇がそっと触れる。

 

 

 ――きもちいい。

 

 

 そして、射精感が弾けた。

 

 

「は、む、んぅっ! んーーー!!!」

 

「――ん、む、ちゅ♡ あ♡ えへへ、イってる、イってる♡ いっぱい出してね♡」

 

 

 なにも、なにもかんがえられない。

 

 ガクガクと全身を震わせながら、びゅくびゅくと精液を吐き出していく。

 

 

「ん♡ ちゅ、はむ、あむ♡」

 

 

 再びキス。

 唇を合わせるだけの穏やかな、しかしとびきり甘美な――。

 

 またイった。

 

 射精しながら、また射精するという未体験の快感。

 身体の中で暴れ回る快楽に、ただ翻弄される。

 

 …………。

 

 ……そして、永遠にも感じられるような、絶頂の後。

 

 長い射精もようやくおさまった。

 はあ、はあ、と荒い呼吸音だけが部屋に響いている。

 

 

「ふふ……♡ たくさん気持ち良くなってたみたいだけど……そろそろ落ち着いてきた?」

 

 

 カユは精液で汚れた自身の手をぺろりと舐めて、満足げな笑みを浮かべている。

 

 

「はあ、はあ……ぁ、ああ、発散――できたのか……?」

 

「じゃあ、次いこっか♡」

 

「……ま、まて」

 

「タルゴのかわいいイきっぷり見てたらね、ほら、こんなに濡れちゃった♡ 淫魔の攻撃浴びてから、おなかの奥がぶわーって熱くて、肌が全身びりびり疼いちゃって、もう我慢するの無理♡」

 

 

 

 カユは舐めたばかりのまだ涎(よだれ)が付いた手で、タルゴの手をぐい、と握った。

 そして、カユの熱く濡れそぼった秘裂に、タルゴの手をむりやり誘導する。

 熱くて、柔らかくて、じっとり濡れてて、カユの愛液が手に垂れてきて――。

 

 

「ちょ、っと、ま――」

 

「淫魔のがまだ効いてるみたいだから、ちゃんと満足しないと、ね?」

 

「い、いや、だからといって――」

 

「自分だけアヘアヘ気持ちよくなっておいて、わたしをこんな風にしたまま放っておくつもり? そんな酷いこと言うなら、またさっきみたいにイかせまくっちゃおうかなー♡」

 

「わ、わかった! わかったから」

 

 

 いつもと立場があべこべだ。

 ただ、カユの――発情、が治まらないことには、状況が改善しないのも事実。

 

 長い付き合いの相棒で、幼馴染で、

 カユとのそれ以上なんて、考えたこともなかったけど。

 

 仕方ない。

 淫魔のせいだから、仕方ない――。

 

 

「えへへ♡ まだ元気いっぱいだね、タルゴのここ♡」

 

 

 うれしそうに笑いながら、カユはタルゴの上に跨がった。

 膣からあふれ出した愛液が、つーっと糸を引いてタルゴの陰茎に垂れ落ちた。

 外気に触れたせいかヒヤリと冷たいが、まるで特濃の媚薬にでも触れたかのように陰茎が反応してしまう。

 

 

「あは♡ ごめんねタルゴ、冷たかった? おまんこ勝手にヒクヒクしちゃって♡ もう……いいよね♡」

 

 

 カユは、これは問題解決のための処置だと言った。

 他に手段はないのだと。 

 

 ――あくまで、淫魔の呪いを発散して、解呪するため。 

 

 頭のなかで何度も唱えながら、タルゴはようやく頷いた。

 

 

「じゃ、いくよ♡ わたしの処女(はじめて)、しっかり味わって、ね♡」

 

 

 カユ自身の手によって、その女陰がくぱぁ♡ と割り開かれた。

 下から肉球の手で支えられ屹立するタルゴの陰茎に、ドロドロに煮詰まった愛液が注がれる。

 カユが腰を落とすにつれて、膣口と鈴口の距離が縮まっていき――、

 

 

 ちゅ♡

 

 

 と、熱く火照った性器同士が触れあう。

 

 ――それだけでもう、興奮で頭がおかしくなりそうだった。

 

 

「タルゴ♡」

 

「――か、カユ」

 

 

 

 呼びかけられて、何も考えずに相棒の名を呼び返す。

 

 ――ありがと、とカユが小さく呟いたような気がした。

 

 

 ぐちゅっ♡ ずぶぶぶぶぶ――――――ッ♡♡♡

 

 

「あ゛っ♡♡♡」

 

 

 陰茎が、一気に膣の奥深くまで沈み込んだ。

 

 カユは背中を丸めて淫靡な声を漏らしながら、小さく震えている。

 タルゴも声を出す余裕はなく、奥歯を噛みしめて、必死に快楽を堪えることしか出来ない。

 

 陰茎が、熱い。

 愛液がたっぷりと詰まったカユの膣は、鈴口からカリ首、裏筋、竿に至るまで、ねっとりと陰茎に寄り添っている。

 カユが震えて小さく腰を跳ねさせるたびに密着した膣ヒダが蠢いて、丹念に陰茎を舐り尽くす。 

 

 入れただけなのに、こんなにも。

 比較対象はいないが、タルゴにとって疑いようもないほどに最上の名器。

 

 ようやく快楽の波が収まってきたのか、のけぞっていたカユが顔を下へ向けた。

 膣で咥えこんでいる陰茎の持ち主であるタルゴと、目を合わせる。

 

 

「はっ♡ はっ♡ ん゛、んん♡ はぁ――んっ♡、ねえタルゴ、セックスって、すごいね♡」

 

「ぐ、ぅ、――は、」

 

 

 答える余裕など、ない。

 

 

 きつく陰茎を締めつける膣が、腰を動かしてもいないのに小刻みに震えて求愛してくる。

 ちょっとでも気を抜けば、今にも果ててしまいそうだ。

 

 ――果てる?

 

 つう、と背筋に冷たいものが流れた。

 燃え上がった情欲に呑まれていたせいで、すっかり頭の隅《すみ》に追いやっていた事実。

 

 避妊もせずに行うセックスが、なにをもたらすのか。

 カユの膣内で精液を放つ、その意味は。

 

 ――だめだ。

 

 一時(いっとき)の興奮に流されて、番(つがい)でもない相手に種付けなど。

 しかも相手は、妊娠の心配がない種族の娼婦や、行きずりに襲ってきた変態などではない、大事な――。

 

 ――そう、大事な相棒に向かって。

 

 

「はっ、ん♡ そろそろ、慣れてきたし、動くよ♡」

 

「な――」

 

 

 ――まずい。

 今、動かれたら――。

 

 

「また、たくさん気持ちよくなってね♡ いくよ――」

 

「――待て、カユ!」

 

 

 咄嗟だった。

 反射的に伸びた手でカユの腰を掴み、動きを止める。

 膣を突き上げるかたちになってしまったせいで危うく射精(イ)きかけたが、すんでのところで我慢した。

 

 

「んっ♡ ちょ、ちょっとタルゴ、急にどうしたの?」

 

「だめだ、これ以上は……。情けない話だが、っぐ、も、もう限界だ。これ以上したら、膣内(なか)に、出してしまいそうなんだ」

 

「――そんなこと? いいじゃん、ほら、淫魔のアレが収まんないんだし、しょうがないよ、ね?」

 

「だめだ! 番(つがい)でもない相手とそんなことしたら、正気に戻ったときお前はきっと、後悔する……。俺はともかく、大変になるのはカユの方だ。ちょっとの火遊びじゃ済まないんだぞ!」

 

 

「――」

 

「……」

 

 

「――後悔なんてしないよ」

 

「おい、話を聞いてなかったのか!? だから、あとになって――」

 

 

「大好きなタルゴとの子供ができたって、後悔なんかするわけないよ」

 

 

 思考が硬直する。

 

 

「――え?」

 

「心配事も無くなったみたいだし、動くよ? いいよね♡ っん♡」

 

「ま゛――、っぐ、ぅ、あ゛っ――」

 

 

 駄目なのに。

 わけが分からない。

 

 どうやら本気で腰を振り始めたらしいカユが、タルゴの上で淫らに跳ねる。

 ばちゅん、ばちゅん、と音を立てて互いの肉がぶつかり合う。

 

 

「んぅっ♡ ん゛っ♡ あはは、へ、変な声、でちゃうね♡ ぅぅう゛っ♡」

 

 

 陰茎は膣内で強烈に締めつけられ、愛撫されて。

 頭のなかは、カユの言葉が散り散りになってグルグル回る。 

 

 カユの膣はまるで魔性だった。

 引き抜くときは名残惜しげに吸い付き、挿入するときは柔らかく拡(ひろ)がって陰茎を受け入れる。

 その膣による献身的な奉仕は、持ち主にも耐えがたい悦楽を与えているようだった。

 

 

「すごいっ♡ 動き、かた、なんてっ♡ ぜんぜんわかんない、ぃ♡ わかんない、のにっ♡ 腰、こすりつけて、ぐちゅ♡ ぐちゅ♡ ってするだけで、ふっ♡、ん゛ぁっ♡ すごいぃ♡♡♡」

 

 

 カユが夢中で腰を振りたくると、汗に濡れた尻尾が太股をぺしぺしと叩いて性愛アピールをし、

 胸板に押しつけた乳がむにゅ♡ むにゅ♡ と形を歪めると、勃起したカユの乳首が想い人の胸板で自慰に耽る。 

 

 タルゴにとって、嗅ぎなれているはずのカユの匂い。

 毛が多めな獣人らしい少しむわっとした匂いに、汗の匂い、淫液の匂い、濃密なフェロモンが混じり合っている。

 淫靡な空気から逃れられず、息を吸うだけでも興奮が増していく。

 

 密着した互いの肌から、どちらのものかも分からない汗がにじみ出して混じり合う。

 ぴったりと触れあわせた肌を押しつけ合う、肌の交合。

 汗が互いを吸着して、溶け合い、境目も分からなくなっていく。 

 

 腰と腰、肉と肉がぶつかり合う音、互いの性器を重ね合う粘着質な音。

 カユの下品で、淫らで、それでいて可愛らしい喘ぎ声。

 荒く湿った吐息。

 

 ぐちゃぐちゃになって、 

 

 ――愛おしい。

 

 カユのすべてが、愛おしい。

 

 ずっと、前から――。

 

 

「カイ、ネ――」

 

「う゛♡ ん゛ぁっ、ふッ♡ っ、な、なに、ぃ♡ ?」

 

「お、俺も、お前の――カユのこと、好きだ。

 

 ――ずっと、好きだった」

 

 

「――っあ♡ え、えへへ♡ そっかー♡ ふーん、あは♡ えへへ、やったっ♡ タルゴが、わたしのこと――♡ んっ♡ ぁ♡」

 

 

 カユの顔が、見てはっきりと分かるほど、だらしなく緩んでいる。

 それを見たタルゴもまた、面映ゆい気分に包まれて、心がふわふわと落ち着かない。

 

 

「ね、タルゴ♡ さいごは一緒に、イこ♡」

 

「――ああ」

 

 

 カユの提案に、タルゴが頷く。

 お互い、快楽に腰を震わせながらの情けない姿ではあったが、想いは通じ合った。

 

 タルゴの心を縛っていた枷が無くなった途端、これまで堪えていたのが不思議なほど快楽が膨れ上がって押し寄せてきた。

 すでに射精寸前を超えた快楽を味わっていたのに、より鋭敏になった陰茎は膣ひだのひとつひとつすら感じ取れるほど敏感になっている。

 

 

「タルゴ、手、っ♡ 手、つなごっ♡ ねっ♡」

 

 

 指と指を絡め合い、

 

 

「んっ!? んむ、ぅ♡ れるる、ちゅ♡ れろ、じゅるるっ♡ あむ、ん♡ ん゛っ♡」

 

 

 唇を重ね、熱く濡れた舌と舌で貪り合い、

 

 

「あ゛♡♡ っう゛♡ う~~ッ♡♡♡♡ んむ、んぉ♡ じゅ、れろれろ♡ じゅる、じゅるるっ♡ はッ♡ はッ♡ はッ♡」

 

 

 蕩けて溶けてしまいそうなほど、ほとんど絶頂しているような快感。

 全身をガク♡ ガク♡ びく♡ びく♡ と絶えず震わせながらも、それでも互いを求めて性器を突き出す。

 気持ちを、性感を、与え合い、貪り合う。

 

 そして、上限を超えて高め続けた快楽が、ついに果てへとたどり着く。

 

 

「ふ~ッ♡ んっ♡ タル、ゴぉっ♡ ん゛ッ♡ わた、私を、ッ♡ もっと、ぅぅん゛♡ もっとぉ、好きに、なってっ♡ ね♡ タルぅっ♡ ごぉっ♡ んっ♡ あの、ね、名前――なまえ、よんでっ♡ よんで、

ほしいっ♡」

 

「カユ、カユ――カユっ」

 

「う゛う゛~~♡ う゛んっ♡ うんっ♡ タルゴっ、ねえタルゴぉっ♡、わた、っん゛♡ はあっ♡、ふっ♡ わた、しを、ずっと、愛して♡ ねっ♡♡」

 

「もち――ろん、だっ」

 

 

 その言葉が引き金になったのか、

 カユよりわずかに先んじて、タルゴの――

 絶頂が、弾けた。

 

 

「う゛、く――――ッ」

 

 

 相棒(つがい)へと溢れ出す気持ちのままに、

 どびゅるっ、どぷっ、と壊れた蛇口のように、カユの子宮めがけて精液を注ぎ込む。

 

 

「あ゛♡ きた、射精きたあ゛あ゛っ♡ ん゛ん゛ぅうっ♡♡♡ あ゛っ♡ あ゛っ♡ ん゛ぁ~~~~ぅ♡♡♡ ぅん゛、ん゛っ♡♡♡」

 

 

「……んっ、ん゛♡ ん、む♡ はむ♡ ん、ちゅ♡ あむ♡ ……」

 

 

 意識が、溶けて……。

 

 

「……あれ、タルゴ、寝ちゃった? えへへ、おやすみ、タルゴ……」

 

 

 

「……タルゴ……だいすきだよ……」

 

 

 

 

◇

 

 

 ――ふたりが目覚めた後。

 

 

「で、どこまで計画の内だったんだ?」

 

「あ、やっぱりバレちゃった? 依頼(クエスト)は“酒場の骸骨”に相談して作ってもらってー、発情の呪いはタルゴだけ受けるはずだったんだけど、珍しく焦ってるタルゴの顔見たら、つい張り切り過ぎてちょっとミスしちゃった♡

 吸(・)精(・)の呪いかけられたときはヤバって思ったけど、ちゃんと射精してくれて助かったよ♡ あのときのタルゴ、かわいかったなぁ……。

 あ、受精防止魔術は使っておいたから安心して♡ また余裕ができたら子供のことは考えようね、あとは――」

 

「おい、カユ……!」

 

「あ、あれ? なんで怖い顔してるの? い、今ごろわたしの魅力で骨抜きになってメロメロのタルゴになってる筈だったのに、あれ? た、タルゴ~、あ、そうだ! ほら、また気持ちよくしてあげるか

らぁ、ね♡ 機嫌なおして♡」

 

 

「こっ、んの、っアホ狼があああああっっ!!!!!!」

 

 

 


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