居候の身に不満はないけど、でも。
思うところは、あるわけで。
人間我慢は効かないから。
だって、若いんだもの。
猪股家の面々には、大喜くん含めて感謝している。ワガママな理由で転がり込んだ知らない女子高生をまるで本当の家族みたいに迎え、雑把でガラッパチな私を許してくれる。家事もろくに手伝わないし部活で帰りが21時22時になることだってあるのに、由紀子さんたちは優しく接してくれて有り難いったら。実の親より親らしいです、実際。「居候三杯目にはそっと出し」なんて昔は言ったそうだけど、お陰さまで元気に食客やっております。毎日元気に健康に、「三杯目にはもっと出せ」くらいに朗らかに。
ただ一つだけ問題があるとしたら、それは。
――オナニーがとてもしづらい、という事だろうか。
壁一枚向こうには大喜くんがいるし、汚れ物の処理も大変だ。と言うか借り物の部屋を汚すのは忍びない、マーキングしてる場合じゃないんだから。
そんなわけで出来ても週一、濡らす暇も無いくらいの即イキ。まさしく「処理」という感じで味気無い、でもしなけりゃしないで疼いて疼いて仕方ないし。
贅沢な悩みだとは思うけどね、確かに。衣食住をすっかり頼っておきながら、オナニーする余裕を求めているんだから。
とは言え我慢している事自体が性欲を駆り立ててしまう、なんてのも多少はある。自由に出来たら、ここまで疼いたりはしないかも知れない。元の家でも回数自体はそこまで多く無かったし。
あー……でも、そう言えば。こっちに移る直前、どうせこの部屋で過ごすのも最後だと思って――盛大にやらかしたっけ。
三月ももう終わろうとしている、春休みのある日。年度が変わる移行期間で部活もない、することは何もなく私はたった一人で自室に転がっている。荷物の大部分は既に搬出され、家族はもうこの家には戻ってこない。電気や水道は今月一杯で止まり、私は来月の1日から大喜くんの家に住まわせてもらう。その後残った家具やら何やらはすべて処分され、この家は空き家になる。寂しいけれど、仕方がないんだ。
もう誰も、ここに住むことは無いのだから。
私が栄明を卒業する頃には、ここはもう買い手が付いているだろうな。駅近くの一等地だ、売れるのも早いだろう。
最後の数日、こうして一人静かに過ごしてみよう。思い出の為に。
なんて感慨深げに思っては見たけれど、見たけれど。私はそういうおセンチな感情が得意な方ではない、どちらかと言えば即物的だ。
誰もいない家でベッドに転がっていると、なんというか――ムズムズする。
というか、ムラムラしてきたかも。
もぞり、と身を捩りながら手を服の下へと滑り込ませる。感じる熱は、明らかに高まっていた。胸の先はチクチクし、下着の中に湿気を感じてしまう。
――しちゃおうかな、オナニー。どうせ誰もいない、誰にも怒られない。今なら私は、自由なんだ。
快感を意識した初めてのオナニーは、確か小4くらい。ただもっと小さい頃にも、下着の中を弄くってはお母さんに叱られてた。ぼんやりとしか覚えていないけど、「ぱんつの中はそうやってイタズラしちゃいけません」みたいに言われたような。
部活を頑張ってヘトヘトになった後とか、後は生理の前とかになんとなく弄りたくなって、でも怒られたくないからコッソリ。丁度その頃から下着は自分で洗うようになっていたから、汚れ物でバレるという事は無かったけど、お母さんは多分気付いていただろう。一応面と向かって怒られはしなかったものの、小さい頃を思い出してビクビクしてきたものだ。
私は不器用で、隠し事は上手くないから。こういう隠す必要がない状況は、有り難い。
……風情が無いとも言えるけど、ね。
「――……、ぁ……。ぅー……」
ショーツの上で直に暴れまわるローターの震動と、イヤホンから爆音で入ってくる淫声の嵐。私は普段しない、出来ない全開オナニーの真っ最中。
いつもなら気持ちよくなりすぎると抑えが効かなくなるから、防音を兼ねてローター自体をタオルで硬く巻いている。それにえっちな音源も、周囲を警戒して控えめにしていた。こんなに開放的なのは、生まれて初めてかもしれない。そう思いながら身動ぎもせずベッドの上で、目を閉じたままローターを押し当てて快感を貪る。
世の中にはいろんな「やり方」があるらしいけど、私はこのスタイルが好きだ。激しく動くのは大袈裟すぎて苦手だし、なにより直接弄るのは怖い。あと私は視覚よりも聴覚派なんだろう、そういう動画自体は生々しくてなんだか好きではないのに、そこから音声だけ切り取ったのはそこそこ好き。最近はASMRだっけ、そんなのを流したりもするけど――何故か一番興奮するのは、録音しておいた自分の喘ぎ声。勿論普段は大きな声なんか出せないから、録音出来るのはくぐもった呻き声でしかないんだけど。必死に堪えても漏れてくる、快感に負け堕ちていく私の弱さがそこにある。誰にも負けたくない、負けられないと走り続けている筈の私は、ベッドの上でだけこうなってしまう。
きっと私は、その事実自体に興奮している。
全く因果なモノだと思いはするけれど、それ以上に腰から広がり続ける焼けるような快感の方が遥かに激しい。
きっともうとっくにショーツは使い物にならなくなっている、寝巻き代わりのスウェットも汗でダメになるだろう。選択しても無駄だ、こんなにも汚れきったものがどうやってきれいになるものか。
それでもまだ、満足はしていない。滅多にない機会、とことんまで身体を使い尽くしたい。
一体どれくらい経っただろうか、何時間もこうしているようなそうでないような。いや、実際にはかなりの時間が過ぎているだろう。なにしろ腕はガチガチに固まり、ローターを押さえつけたまま動かせなくなっている。当て続けると慣れてしまうとは言うけれど、そんなのは嘘だと思う。だって、未だに狂いそうなほど気持ちが良いままなのだから。
一秒毎に身体が絶頂し、痙攣が治まらない。目を開けているのか閉じているのか、それさえ曖昧だ。
汗があまりにも流れすぎたせいかスウェットは異常に重く、身体が潰されそう。そのせいであちこち寒気がするのに、ショーツのなかだけは火傷しそうな程熱い。明らかに身体に悪いどころか命にも関わりそうな、でも絶対的な快感に押し流されていく。
もう少ししたら止めよう、何度そう思っただろうか。結局身体は動かない、動かせない。ローターの電池はどれくらい持つのだろうか、それが止まってしまうまでこうしていようか。
「あ"、うぁ。お"っ、ぶぁ……っ」
意に反して流れ出る汚ならしい呻き、そしてイヤホンから入り耳を劈いていく自分の喘ぎに頭を掻き回され、思うように思考が巡らせられない。
考えるのも億劫になったまま、私はベッドの上で震動に身を任せ続ける。
きっとこんなにも激しいオナニーは、生涯出来ないだろうから。
……あの時は、正直どうかしてたな私は。
ローターが力尽きた時には既に陽が登っていて、ベッドはドロドロになっていた。と言うか、私がドロドロだった。どこからこんなに汁気が出たんだと思うほどに全身汚れ果て、更に関節がおかしくなったのか手足は動かない。どうにか動く指もふやけきって感覚がなく、私はそのまま何時間か倒れたまま。
なんとかベッドから起き上がろうとしたときにはもう昼過ぎ、空腹と脱水で死にそうになりながらなんとか立ち上がったものの――すぐにへたれこんでしまった。
「あー……気持ち悪い……。お風呂入んなきゃ……ご飯も食べなきゃ……、めんどくさいよぉ……」
精も根も尽き果てて、それでも後始末はしなければいけない。それが絶望的に、面倒だった。
まあ、面倒ってだけじゃすまなかったんだけどね。日頃どんなに練習で疲れてもご飯だけは人一倍食べられる私も、こういう馬鹿げた体力の使い方が祟ったらしく、食事のあと地獄のような胃もたれに襲われてしまった。そしてその最悪の体調を押しての片付けは、想像以上に辛かったっけ。
いくら廃棄する予定とは言え、こんな恥知らずな状態にしておくわけにはいかなかったから。とりあえず形だけでもどうにか始末したけれど、業者さん大変だっただろうな……。
若気の至りと言うにはまだ最近の事だし恥さらしも良いところだけど、まあ――。
「楽しかった、なぁ……」
そう思えてしまうのは、不思議なものだ。
――と。
何の気なしに擦り合わせた脚、その付け根からくちゅりと粘っこい音が立ったのに気付く。
やれやれ、だ。思い出して疼くほど、色気のある思い出じゃないだろうに。苦笑しながらショーツのクロッチに当てた指に感じる、熱い湿り気。私の気も知らないで
まあ、良いか。これもまた、私なんだから。
ベッドを下りてバスタオルを何枚も敷き、その上へ腰を下ろして脚を拡げる。その向いている方向は、ドアの向き。もしも
人差し指と中指を揃えて擦りながら、ふと思う。こんな姿を大喜くんに見られてしまったらどうなるか、と。
幻滅し嫌気が指すか、それとも、……それとも。むしろ、受け入れるかもしれないな。
大喜くんは男の子だから、こういう事への欲求は私より強くて。降って湧いた
「ん、……っ、――!?」
こんな薄布、なんの抵抗にもならない。大喜くんを拒める程私は腕力があるわけでもない。きっとそのまま大喜くんは私にのし掛かり、男の子の――オトコノコを振りかざし、そして……。
ドクン、と心臓が早鐘を打つ。
今布越しに触れている場所に、直接大喜くんの手が向けられるイメージ。その指先が私の「入り口」をこじ開け、外気に触れる事など無い筈の場所を晒される。私の一番奥、子宮へと続く道を。
指だけで済むわけがない。大喜くんのオトコノコに、私は犯される。指よりずっと太く硬い、暴力的な圧力に屈してしまう。
抵抗など出来ない、出来るわけがない。そのまま私の内側は蹂躙され、ただの
その未来予想図が脳内でフラッシュバックした瞬間、私の身体は激しく仰け反って絶頂していた。
「いやー……良くないなあ、これは」
汚れたバスタオルをビニール袋に放り込みつつ、私は溜め息を一つ。さすがにこれを汚れ物として由紀子さんに洗わせる訳にいかないし、コッソリ学校のごみ捨て場にでも不法投棄しよう。どうせ私が纏め買いしてる安物だし、何枚か入れ替わったところで気付きはしない。ショーツはいつもどおり裁断して、資源ごみ行きだな。……メルカリとかで売ったら幾らかにならないだろうか、とちょいちょい思うけど、こんなもん誰も買わないか。いくら使用済み下着ったって、これじゃさすがに買い手が付かなそう。
それより、大喜くんで良からぬ妄想をしてしまった事が問題だ。あんな純粋で可愛い後輩が、そんな乱暴なわけがないのに。……ないと思うけど、うん。無いんじゃないかなぁ、多分。この間菖蒲ちゃんがコッソリ見ていた動画を盗み見たせいかな、ああいうの好きじゃない筈だけど。
でも渚は「男なんてみんなケモノなんだから」とか言ってたし、油断したらガブガブしてくるのかな。愛玩動物みたいな子だけど、一応は気を付けるべきなんだろうか。でも、線引きして距離を置いたのは辛かったしなぁ……。
そういえば、だ。大喜くんも大喜くんで、してる筈なんだよねオナニー。気配を悟られないように隠しているんだろう、いつどんな風にしているのかは分からないけど。もしかしたら私をオカズにしていたりするのかな、なんて。こんなワンパクでたくましいガラッパチ相手じゃ無理かな、蝶野さん辺りなんだろう。
私たちを隔てる壁の向こう、大喜くんの様子は伺えない。どういう手順で何を思ってしているのか、そもそも今起きているのかいないのか。それさえ分からない。
いつか、知る事もあるのだろうか。大喜くんの、そういう面を。
いつか、知られる事もあるのだろうか。私の中の、こんな面を。
もしかしたら、もしかしたら。私たちの関係は、そんな事を繰り返して変わっていくのかもしれないな。先輩後輩から同居人になったように、同居人からもっと進んだ関係へと。
まあ――それはまだまだ、先の事だ。
とりあえずオナニーも済んだし、寝てしまおう。明日も朝練、頑張らないと。
私はバスケの為に置いて貰っている身だし、大喜くんは私を「同士」として好いてくれている。皆を裏切らないように、精一杯努力しなければ。
いつか背負った荷物を下ろして、素の私でいられる日が来たら。その時に改めて、色々考えてみよう。
ウェットティッシュで汚れを拭い、服を着直して。壁の向こうへ小さく「お休みなさい」と呟いて、私はベッドに横たわる。
明日、明日だ。明日の事だけ考えて、一歩一歩進んでいこう。
きっと明日は、良い日だから。
千夏先輩の体力と若さなら、そこまで胃もたれもしないかもしれませんが。
実際胃が止まるんですよ、体力使いすぎたあとに食べると。