※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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4日目
『わたしが、かわいいからだよ』


何かが…触ってる…

顔に…唇に…

柔らかい…

えっ?

 

「あ、やっと起きた」

ももちゃんが、僕の顔を覗きこんでいた。

「もう…お兄ちゃん、何回キスしても起きないんだから」

キスで起きるって…僕は白雪姫か?

ももちゃんのキスは、うれしいけど。

 

「ほら、シャワー浴びてきて。シーツ洗濯するから」

ももちゃんは、僕を追いたてた。

 

自分を見ると、裸のままだ。シーツには、ゆうべの染みがついている。

昨夜は夢中だったが、朝になって見ると、けっこう恥ずかしい状態だ。

 

部屋にはすでに、いくつもの洗濯物が、ぶら下がっていた。

 

「ももちゃん、今日、何時に起きたの?」

「4時だよ」

「えっ?早すぎない?」

「だって、今日から旅行だよ!楽しみで寝てられないよ!」

そういえば、僕も子供の頃は、遠足の前などワクワクして寝付けなかったが。

 

でもこれは、ただの遠足じゃない。

今夜ももちゃんは、女の子の大切なものを失うのだ。

彼女は、どこまでわかっているのか…

 

僕がシャワーを浴びた後。

「お兄ちゃん、これどう?」

着替えを済ませたももちゃんは、僕に披露した。

ボーダー柄のタンクトップと、デニムのショートパンツ。

ピンクのキャップを被り、髪はポニーテールにして、キャップの後ろからピョコンと出ていた。

 

夏らしい、軽やかなファッションだ。小さくてもスラリと伸びた、健康的な手足が眩しい。

「いいね!すごく可愛いよ!」

「ありがと!お兄ちゃんも早く着替えて」

 

 

ふたりを乗せた車は、県外にある海辺の町に向かっていた。

 

「だけど不思議だね。3日前の夕方まで、僕はももちゃんの存在も知らなかったんだよ。それが今、世界で一番大切な子になってるなんて」

ももちゃんは、うれしそうだった。

「わたしが、かわいいからだよ」

僕も笑った。

「それ自分で言うかなぁ」

 

「わたしはもっと前から、お兄ちゃんのこと知ってたけどね」

「そういえば、いつ知ったの?」

「ナイショ。あのね、女はミステリアスな方がミリョクあるんだよ」

「そんなのどこで聞いたんだよ…まあいいか」

 

そう、過去の事なんてどうでもいい。

僕の疑問は何一つ解明されないままだが、今が全てだ。

こんな素晴らしい少女と愛し合える幸せ。他には何も要らない。

 

目的地までは結構遠いが、僕はあえて一般道で行くことにしていた。

単調な高速道路は面白くない。道中を楽しむには、この方がいい。

 

ももちゃんは助手席で楽しそうに

「あっ、あのお店、行ったことあるよ!」

などと話していたが…いつの間にか、眠ってしまった。

無理もないよ。あんなに早起きしたから。

まるで世話女房みたいに、洗濯して掃除して、旅行の準備して…本当に、しっかりした子だ。

 

しばらくすると、目を覚まして

「あれ?わたし寝てた?」

「うん」

「えーっ!?なんで起こしてくれないの?」

「早起きしたから眠いだろう?無理しなくていいよ」

「せっかくの旅行なのに、寝たらもったいないよ!」

「朝から色々してくれたから、疲れてるんだよ。本当は僕がしないといけないのに、ごめんね」

「それはいいの。わたしがしたいから。よしっ!もう絶対寝ないよ!」

そう言ってから10分後には、また眠ってしまっていた。

 

一時間以上走った頃。

ももちゃんが目を覚まして言った。

「トイレ行きたい…」

「じゃあ、そこのコンビニに行こう」

車を停めた。

 

彼女がトイレから出るのを待って、お菓子と飲み物を買った。

ところが車に戻って走り出すと、ももちゃんは、妙に不機嫌だった。

 

「どうしたの?」

「やっぱり…お兄ちゃんは、大人の女の人の方がいいんだ…」

 

ももちゃんが言ってるのは、さっきのコンビニでの事だ。

会計する時、レジにいた店員の女の子が話しかけてきた。たぶん女子大生だ。

『可愛いお嬢さんですね』と言われて、僕は『ありがとう』と言った。

それだけだ。

 

「お兄ちゃん、すごくニコニコして話してたよ。わたしより、あのお姉さんの方が好きなんでしょ?」

「なんでそうなるんだよ。ももちゃんの事、誉められたから、うれしかっただけだよ」

「あのお姉さん、わたしの事、お兄ちゃんの娘だと思ってたよ。カノジョなのに。どうせわたし、子供だもん。お兄ちゃんには似合わないもん」

 

僕は車を停めた。

ももちゃんの目を真っ直ぐ見た。

「たしかに、他の人から見ると、僕達は親子に見えるかもね。でも本当は違うだろ?僕達は恋人だ。僕が好きなのは、ももちゃんだけだ。ももちゃんも、僕が好きだよね?僕を信じて。他の人がどう思っても関係ないよ。愛してるんだ」

 

ももちゃんは涙目で僕を見つめた。

「ホント?…ホントに、わたしだけ?」

「桃香、愛してるよ。僕だけの桃香…」

そっと抱き寄せて、キスをした。

 

今さらながら思った。

こんなに子供でも、やっぱり女性なんだな。こんな些細な事で嫉妬するなんて。

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