※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

11 / 39
『なんか、結婚したみたいだね』

車は市街地を抜けて、山道に入っていった。

ももちゃんは意外そうだ。

「あれ?海じゃないの?」

「それは明日だよ。ちょっと寄り道しよう」

 

山中の一本道を走り続け、やがて広い駐車場に出た。

そこから二人乗りリフトで山頂に向かう事になる。

僕は指差した。

「あれに乗るんだよ」

「なんか怖いよ。落ちちゃうよ…」

ももちゃんは、ちょっと怯えてる。リフト乗った事ないんだね。

「大丈夫だよ。僕がいるから」

 

ももちゃんは勇気を出して乗ったが、僕の腕にずっと、しがみついていた。

 

山頂の展望台に着いた。

下界の暑さと違って風が爽やかで、素晴らしい眺めだ。

緑の山々の間に、美しい湖。その向こうに、広い海が広がっていた。

夏の強い日差しで、キラキラと輝いていた。

 

ももちゃんは、うっとりして眺めていた。

「きれい…」

「ね、来て良かっただろ?」

「うん!こんなきれいな景色、初めて見たよ!」

 

ここは、『恋人の聖地』としても知られた場所だった。

 

高台の上に、『願いの鐘』というのがあった。外国の教会にあるような形で、2メートル位の高さで吊り下げられてる。

紐が付いていて、ふたりがずっと一緒にいられる事を願いながら鳴らすのだ。

「お兄ちゃんのそばに、ずっとずっと、いられますように…」

ももちゃんが祈りながら、一緒に鳴らした。

 

『誓いの絵馬』というのもあった。

神社を模した建物に、沢山の絵馬が置いてある。『ふたりの愛が永遠に変わらぬ事を誓います』と書かれてあり、余白に署名するようになっていた。

ももちゃんは『耕平と桃香』と名前を書いた。

「なんか、結婚したみたいだね」

彼女は、ちょっと恥ずかしそうに微笑んでいた。

 

絵馬を掛ける場所があり、そこにはすでに無数の絵馬が、ひしめきあっていた。

これだけのカップルが訪れたということだ。

ももちゃんは驚いていた。

「すごいね…!」

「この先ずっと、この場所に残されるんだよ。僕達の名前が」

「この人達みんな、幸せになれたのかな…」

「わからないけど、そうだといいね。ももちゃんは?今、幸せ?」

彼女は、最高の笑顔を見せてくれた。

「幸せだよ!だってお兄ちゃんと一緒だもん!」

 

ふと、思った。

亮がももちゃんを迎えに来ないと思ったのは、僕の勝手な思い込みだ。携帯を持っていない事から想像しただけで、他に根拠はない。

もしかして今日にでも、アパートに迎えに来るかもしれない。

その時、誰もいなかったら…どうなるか…

 

いや、もう覚悟は決めたんだ。

僕はもう、ももちゃんと離れるつもりはない。

 

少し離れた、見晴らしの良い場所に、ベンチが置かれてあった。丁度いい感じに木陰になっている。

「ちょっと座ろうか」

と、ベンチに腰かけた。

するとももちゃんは、僕の膝の上に、向かい合わせに乗ってきた。僕の体に腕を回した。

 

「ももちゃん…だめだよ。誰かに見られたら…」

「大丈夫。誰もいないよ」

たしかに、さっきまでは何人かいた観光客が、いなくなっていた。

「お兄ちゃん…ありがとう。こんな綺麗なところに連れてきてくれて」

「ももちゃんのためなら、どこでも行くよ」

「わたしね、お兄ちゃんを好きになって本当によかった…」

「ももちゃん…」

 

ふたりの唇が近づいて…重なった。

ももちゃんを抱きしめた。

強く抱いたら折れてしまいそうな、華奢な体を。

 

風が、頭上の木の葉をざわめかせていた。

 

温泉旅館に着いたのは、5時頃だった。

 

チェックインを済ませて、部屋に案内された。

この旅館は、一部屋ずつ独立した離れのようになっている。つまり、他の人に声を聞かれない。

 

「すごい!広いお部屋!お兄ちゃん、ほら!海が見えるよ!」

ももちゃんは、感激していた。

 

部屋は和室で12畳、ふたりで使うには確かに広い。『全室オーシャンビュー』が売りの旅館だから、海が見えるのは、まあ当たり前だ。

 

僕は34年も生きてきて、色々な物を見て、今では何かに感動する事は、ほとんどない。

でも、ももちゃんは違う。彼女にとって世界はまだまだ新鮮で、驚きに満ちているのだ。

それを羨ましく思う。

 

「ねえ、ここって一緒に入れるお風呂、あるんだよね?」

ももちゃんは、期待に顔を輝かせていた。

 

「あるけど、予約したのは明日の朝だよ。だって最初に、ももちゃんの裸見るのは…」

「あ、そっか…セックスの時だよね…そうだよね…」

ももちゃんは、なぜか、そわそわしていた。

「ひとりでお風呂は寂しいけど…それがいいんだよね」

なんだか、彼女は自分に納得させてるみたいだった。

 

とりあえず、夕食の前に一度、温泉に入っておくことにした。

 

温泉に浸かりながら僕は、さっきの、ももちゃんの様子が気になっていた。

やっぱり…初めてのセックスが不安なのかな。

僕は変なプレッシャーを与えてしまったかもしれない。

ももちゃんは本心で、セックスする事を望んでるだろうか。

 

風呂から上がった。ももちゃんは、たぶんまだ入っている。いつも女の子の方が風呂が長いから。

僕は女湯の前で待っていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。