『でも、この子はわたしじゃない!誰なの?』
『あなたが迷える魂にならなかったら、その子に生まれ変わるはずだったのよ』
『え…』
『その体にもう魂はない。だからあなたが使っていいのよ』
『使うって…そんな…』
『前に進んで、その子に重なるように座ればいいの。簡単でしょ?』
『でも…』
『チャンスは今だけよ。時間が経つと体が冷えて、もう使えなくなる』
『ホントに…これでお兄ちゃんに会えるの?』
桃香ちゃんは動揺した。
たぶんこれは、してはいけない事だ。しかし、愛しい人に会うためなら何だってする。もうどうなってもいい。
彼女は言われるままにした。
自分が少女の体に浸透していく…
ゆっくり立ち上がった。手を見た。温かい、血の通った、生身の体。
全く違和感はない。思い通りに動く。わたしの体だ!
いつの間にか、黒い女性はいなくなっていた。
代わりにいたのは…
「わたしと同じ子がいたの。すぐわかったよ。この体の中にいた魂だって」
どうすればいいのか分からず、桃香ちゃんが迷っていると、その少女は話しかけてきた。
『あの人の言った通りだね。あたしにそっくり!双子みたい!』
『あの…ごめんなさい…わたし…』
『いいよ。あたしね、自殺したの。もう死んでるから。その体、あなたにあげる』
『自殺…』
『あなたの事は聞いたよ。かわいそう。好きな人がいるんだよね?早く会いに行くといいよ』
『でも…』
『そっか。いきなり会ったら、その人びっくりするよね。どうしようかな…』
ふたりの少女は一緒に作戦を立てた。
僕の親戚に消息不明の従兄弟がいる事は、知っていた。それを利用する事にした。大橋亮からの手紙を偽造した。
そして、アパートに先回りして僕を待った。
これが、僕の知らないももちゃんの過去だった。
ももちゃんは、その少女について話した。
「その子、斉藤彩ちゃんっていうの。わたしと同じ12歳。北海道から家出してきて、そこで自殺したって」
「どうして自殺を?」
「それは話してくれなかったけど…」
「じゃあ、ももちゃんが時々誰かと話してたのは…」
「お兄ちゃん、それ聞いてたの?彩ちゃんだよ。わたしが話しかけると来てくれて、お話しできるの」
彩ちゃんは、桃香ちゃんとは対照的に積極的で、マセていた。
『ももちゃん、いい?彼の心を掴むには、とにかく攻めないとだめだよ』
『攻める?』
『ももちゃんを好きになるように誘うの。エッチな事して、ユーワクするの!』
『できないよ!そんなの…』
『男はみんなエッチが大好きなんだよ。あたし…てゆうか、ももちゃんの体、おっぱい小さいし、せくしぃじゃないけど…まあ何とかなるよ!』
『でも…』
『しっかりしてよ!彼と結ばれたいんでしょ?あたし手伝うから!』
初日から積極的だった、ももちゃんの行動は、彩ちゃんのアドバイスによるものだった。
正直、とても信じがたい話だ。
でもこれで、ももちゃんに関する疑問は解消される。
しかし…
つまり僕は、斉藤彩ちゃんという子の死んだ体と会話して、セックスしてたわけだ。
それを動かしていたのが、早川桃香ちゃんで…
僕が愛してる、ももちゃんは…
僕は、隣にいるウェディングドレス姿の少女を見た。小さな体が、さらに小さく見えた。
ももちゃんは、消え入りそうな声で言った。
「わたしの事、もう嫌いになった?」
「いや…そんなこと…」
ももちゃんは顔を上げて、僕を見据えた。
「ホント!?ホントに今までみたいに愛してくれるの!?今までみたいにセックスできるの!?わたし…死んでるんだよ!!」
その目から、涙が溢れていた。
僕は…何も言えなかった。どんな言葉も陳腐になりそうで…
その時、いきなり部屋のドアが開いた。
おかしい。確かに鍵をかけたはずだ。
人が入ってきた。あの黒い女性だ。
僕達を見下ろすと、冷たい声で言った。
「桃香さん、来てください」
ももちゃんは、チラリと僕を見て、ゆっくり立ち上がった。
「着替えます」
黒い女性はじっと僕を見ていた。
サングラスの奥の目は確認できないが、僕を軽蔑しているのを感じた。
「準備できましたか?では行きましょう」
女性は歩きだした。ももちゃんは、ついて行った。
僕は直感で、ももちゃんがこのまま帰って来ない気がした。
バカ!何してる!ももちゃんが行っちゃうぞ!いいのか?どうして止めないんだ!愛しているんだろう!?
でも、いくら心で叫んでも、僕は声も出さず、動くこともしなかった。
少女は一度も振り返る事なく、出ていった。
静かにドアが閉まった。