※この作品はR-18です。

8月のヒメゴト 〜僕と桃香の7日間〜   作:水無月零

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『わたしの事、もう嫌いになった?』

『でも、この子はわたしじゃない!誰なの?』

『あなたが迷える魂にならなかったら、その子に生まれ変わるはずだったのよ』

『え…』

『その体にもう魂はない。だからあなたが使っていいのよ』

『使うって…そんな…』

『前に進んで、その子に重なるように座ればいいの。簡単でしょ?』

『でも…』

『チャンスは今だけよ。時間が経つと体が冷えて、もう使えなくなる』

『ホントに…これでお兄ちゃんに会えるの?』

桃香ちゃんは動揺した。

たぶんこれは、してはいけない事だ。しかし、愛しい人に会うためなら何だってする。もうどうなってもいい。

 

彼女は言われるままにした。

自分が少女の体に浸透していく…

 

ゆっくり立ち上がった。手を見た。温かい、血の通った、生身の体。

全く違和感はない。思い通りに動く。わたしの体だ!

 

いつの間にか、黒い女性はいなくなっていた。

代わりにいたのは…

 

「わたしと同じ子がいたの。すぐわかったよ。この体の中にいた魂だって」

 

どうすればいいのか分からず、桃香ちゃんが迷っていると、その少女は話しかけてきた。

『あの人の言った通りだね。あたしにそっくり!双子みたい!』

『あの…ごめんなさい…わたし…』

『いいよ。あたしね、自殺したの。もう死んでるから。その体、あなたにあげる』

『自殺…』

『あなたの事は聞いたよ。かわいそう。好きな人がいるんだよね?早く会いに行くといいよ』

『でも…』

『そっか。いきなり会ったら、その人びっくりするよね。どうしようかな…』

 

ふたりの少女は一緒に作戦を立てた。

僕の親戚に消息不明の従兄弟がいる事は、知っていた。それを利用する事にした。大橋亮からの手紙を偽造した。

そして、アパートに先回りして僕を待った。

 

これが、僕の知らないももちゃんの過去だった。

 

ももちゃんは、その少女について話した。

「その子、斉藤彩ちゃんっていうの。わたしと同じ12歳。北海道から家出してきて、そこで自殺したって」

「どうして自殺を?」

「それは話してくれなかったけど…」

「じゃあ、ももちゃんが時々誰かと話してたのは…」

「お兄ちゃん、それ聞いてたの?彩ちゃんだよ。わたしが話しかけると来てくれて、お話しできるの」

 

彩ちゃんは、桃香ちゃんとは対照的に積極的で、マセていた。

『ももちゃん、いい?彼の心を掴むには、とにかく攻めないとだめだよ』

『攻める?』

『ももちゃんを好きになるように誘うの。エッチな事して、ユーワクするの!』

『できないよ!そんなの…』

『男はみんなエッチが大好きなんだよ。あたし…てゆうか、ももちゃんの体、おっぱい小さいし、せくしぃじゃないけど…まあ何とかなるよ!』

『でも…』

『しっかりしてよ!彼と結ばれたいんでしょ?あたし手伝うから!』

 

初日から積極的だった、ももちゃんの行動は、彩ちゃんのアドバイスによるものだった。

 

正直、とても信じがたい話だ。

でもこれで、ももちゃんに関する疑問は解消される。

しかし…

つまり僕は、斉藤彩ちゃんという子の死んだ体と会話して、セックスしてたわけだ。

それを動かしていたのが、早川桃香ちゃんで…

僕が愛してる、ももちゃんは…

 

僕は、隣にいるウェディングドレス姿の少女を見た。小さな体が、さらに小さく見えた。

ももちゃんは、消え入りそうな声で言った。

「わたしの事、もう嫌いになった?」

「いや…そんなこと…」

ももちゃんは顔を上げて、僕を見据えた。

「ホント!?ホントに今までみたいに愛してくれるの!?今までみたいにセックスできるの!?わたし…死んでるんだよ!!」

その目から、涙が溢れていた。

僕は…何も言えなかった。どんな言葉も陳腐になりそうで…

 

その時、いきなり部屋のドアが開いた。

おかしい。確かに鍵をかけたはずだ。

 

人が入ってきた。あの黒い女性だ。

僕達を見下ろすと、冷たい声で言った。

「桃香さん、来てください」

ももちゃんは、チラリと僕を見て、ゆっくり立ち上がった。

「着替えます」

 

黒い女性はじっと僕を見ていた。

サングラスの奥の目は確認できないが、僕を軽蔑しているのを感じた。

 

「準備できましたか?では行きましょう」

女性は歩きだした。ももちゃんは、ついて行った。

 

僕は直感で、ももちゃんがこのまま帰って来ない気がした。

バカ!何してる!ももちゃんが行っちゃうぞ!いいのか?どうして止めないんだ!愛しているんだろう!?

でも、いくら心で叫んでも、僕は声も出さず、動くこともしなかった。

 

少女は一度も振り返る事なく、出ていった。

静かにドアが閉まった。

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